らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
サヤさまがフウカちゃんのところを訪ねると言って出て行ってから、わたしは緑の部屋の植物さんとお話をしていながらあのことを考えていた。
チトセくん。
…そして、大親友のフウカちゃんのことを。
(フウカちゃんはチトセくんが帰って来ているって知っていたのよねぇ……)
予測でしかないが、きっとそのはずだ。
きっとそれは、銀の城でアリサちゃんとわたしとフウカちゃんで一緒に色んなおしゃべりをしていたあの日。アリサちゃんが帰って、わたしが席をしばらく外していたあのとき。
わたしが部屋に戻るとフウカちゃんは泣いていた。
(なんで、教えてくれなかったのかしらぁ)
普段ならすこし怒ってしまうかもしれない。
なのに今は、「よかった」とか「うれしい」というチトセくんへと感情が上回ってそんな考えは一切浮かばなかった。
チトセくんとフウカちゃんだって色々考えて誰にも教えなかったんだとは思うし、仕方のないことだったのかもしれない。
二人にはわたしの知らない色んな事情があったんだと思うから。
わたしはチトセくんが帰って来てくれたことに関してうれしい気持ちでいっぱいだ。あの日を境にフウカちゃんの本当の笑顔が増えた気がする。大親友が心から笑っていてくれると、こちらまで嬉しくなるものだ。
大好きなフウカちゃんの大好きな人が帰ってきてくれたらわたしまで嬉しくなっちってしまう。
『カリンちゃん、どうしたの?』
黙ってしまったわたしを心配したのか、ツタがさわさわ揺れた。
「ちょっと考えごとよぉ〜」
『考え事?』
「ええ」
ツタは、なるほどというようにまたまた揺れた。
……わたしの初恋はチトセくんだった。
それでも、悲しかったのはチトセくんがいなくなったあの日とそれからしばらくだけで。
フウカちゃんより哀しまない自分が居て、もうすでに諦めていた恋ではあったけど、過去形としてしっかりとおさめられるようになった。
そんなわたしとは正反対にフウカちゃんはずっと落ち込んだままだった。明るさを徐々に取り戻したクラスでも、フウカちゃんだけはどこか暗いままで。
ふとした瞬間に涙がとまらなカナルフウカちゃんを見て、わたしもつられて涙がポロポロ溢れた。
あの時のあの涙の意味は今でもわからない。
しばらくして小学校を卒業し、中学生になったフウカちゃんはものすごく元気だった。周りとの関係が変化し、辛いこともたくさんあったけど、フウカちゃんは持ち前の明るさでそれを乗り越えていた。
『フウカちゃんっ』
『どしたの、カリン』
『ねぇ、フウカちゃん、大丈夫ぅ?』
『何言ってんのカリンっ、あたしは元気だよ』
空っぽの元気を振りまき、わたしは不安で不安で仕方なかった。
どれだけフウカちゃんが頑張っても、頑張りすぎるフウカちゃんを止めるチトセくんはいなくて。『だれか、とめてよ』ってそう言っているような気がした。
毎日、その元気を振る舞うフウカちゃんは帰り道のふたりきりの道では元気いっぱいだった。
何も出来ないわたしが嫌だった。哀しむフウカちゃんを見てられなかった。
『フウカちゃん、無理しないで』
『カリン、何言って……』
『わたしは、元気なフウカちゃんじゃなくて、自然体のフウカちゃんが大好きなのよぉ〜。きっとそれは、チトセくんだっておんなじのはずよぉ』
『……うん』
どうしても、チトセくんはどこかで生きてるって信じていたからなのか、『天国』という言葉は使えなかった。
もし、あれが本当にチトセくんで戻って来たのだというのなら。
(フウカちゃんはもう、泣かないよね?チトセくんも、もう居なくならないよね?)
わたしは今までもこれからもフウカちゃんが大好きで、チトセくんだって大好きなんだから。