らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

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元はフウカとカリンとチトセのsideが目まぐるしく変わっていたのですが、書き換えにあたって読みにくかったので少しだけ並びが異なります。・7・はフウカちゃんのターンです。


・7・

あたしはもっと外を見ていたい気がした。

なにか……大切なものに出会える気がしたから。

チラチラとそちらを気にしていると、ノック音とともに聞き覚えのある強かな声がドアの向こう側から聞こえた。

 

「フウカ姫、サヤです」

「サヤ王女?」

 

それは、あの婚約パーティー以来のサヤ王女だった。当時まだ婚約者だったユリシスさまからいただいた婚約指輪を失くし、あわや婚約破棄になってしまうところだったサヤ王女の指輪を、あたしとチトセとカリン、それからカイとで探し出した、という思い出がある。

 

「ご機嫌よう、フウカ姫」

 

サヤ王女はあたしと年が少ししか違わないはずなのに、あのころのあたしには随分と大人に見えた。

 

「随分お会いしてませんでしたね」

「ええ」

 

王女としての、姫としての振る舞いを忘れてはいけないと柔らかく微笑んで答えた。

サヤ王女はいつだって赤の女王さまゆずりのあの優しい眼差しであたしたちをみてくれていた。スイッチのオンオフの切り替えが上手で、あたしたちや国の人たちの前のサヤ王女は礼儀正しくいつだってあたしたちのお手本で。だというのに、見知った顔の中ではどこかおっちょこちょいで。

赤の国を作ったとされる初代と女王さまとそっくりだと言われるサヤ王女は、人々に親しみ、そして適度な距離感を持っている。

そして、サヤ王女はとても幸せそうなのである。お相手のユリシスさまと不仲だという話は一度も聞いたことがない。

サヤ王女にはレグルスという幼馴染がいて、二度と会えない運命だと言うことは知ってる。

それでも、心から信頼できてサヤ王女のことを誰よりも心配してくれる人がいるのだ。

 

「どうしたのですか、フウカ姫」

「あっ……いえ。……あの、ユリシスさまはお元気かな、って」

「ああ、元気ですよ。フウカ姫も元気そうで安心しました」

 

それから、とサヤさまはあたしの耳元でぼそりと

 

「あのときは、本当にありがとうございました。あなたたちのおかげで今の私はいるのです」

「い、いえっ!届けたのは私たちではありませんし……」

「ふふっ、カリン姫も同じことを言っていました」

 

赤の国では、プロポーズに指輪を使う。その指輪を失くしてしまえばその時点で婚約破棄、指輪がないということは、=でプロポーズを断るということに繋がるのがこの国のルールなのである。

 

「ああ、もうこんな時間」

「何かあるんですか?」

「お母さまのお手伝いがありまして。失礼いたします」

 

サヤ王女は微笑んで銀の部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、またノック音が部屋に響いた。

今度はだれだか足音でしっかりとわかった。あのコツコツとしたリズムを刻む足音の持ち主は、ママだ。

 

「フウカ姫。赤の王女がお呼びだ。出て来なさい」

「はい、お母様」

 

ふかふかの椅子から立ち上がり、窓も閉めることなく部屋を出た。

なにも考えずに扉を開けると、たくさんの侍女が道をズラーッと花道を作っている。

 

「!?」

 

驚いたあたしに、ママは少しだけ笑って、

 

「付いて来い」

 

と、ママがクルッと背中を向けてその道を歩き始めた。

その、歩き方がなんだか上機嫌で、今でもスキップを始めそうな(ママがスキップなんて考えられないけど)足取りに、花道を前にして強張っていたあたしの顔は一気にほころんだ。

だって、ママのあんなに上機嫌な足取り、滅多に見られないし。

 

 

ついた先には大きなドアがあって、そこには魔獣が描かれていた。

 

「どうぞお入りくださいませ。女王さまがお待ちでございます」

 

丸いメガネに灰色のヒゲ。黒のタキシードを着た、いかにも執事らしいその人はゆっくりとその大きなドアをノックした。

 

「女王さま。レイア女王さまとフウカ姫さまでございます」

「入れて良い」

 

キィィ……と重厚なドアが開き、ママはしっかりとした足取りで女王さまのいる間へと入っていった。

あたしも執事さんに少しだけ会釈をして、ママの後を追った。

 

「久しぶりね、レイア。そちらはよく噂に聞いていたフウカかしら」

「ああ」

「大きくなったわねぇ」

 

そう言って微笑む女王さまにあたしは頭をさげた。

 

「女王さま、お久しぶりです」

 

そしてゆっくり頭を上げると、ニコリと微笑み返してみせた。

女王さまはミディアムの赤の髪をゆったりと肩におろし、少し垂れた目からは優しさが感じられる、サヤさまとはまた違った美しい人である。

これが、国を治める赤の城の女王。

そして、サヤさまのお母さんなんだ。

女王さまはあたしをじい、っと見つめてクスリと笑った。

 

「レイアがいつも、あなたのことを案じていたのよ。あの頃から随分と女性らしくなったのね」

「ありがとうございます」

 

そう真っ向から言われると、少し照れる。

高校生になって、あの婚約パーティーのときのサヤさまの年齢を越えた。

世間一般的には「大人」の領域に入りつつあるあたしは、王族であると同時にこの金髪のせいで、割と色々言われていたりする。「金髪だから相手がいない」だとか、「次の代が心配だ」とか。

チトセがいつも支えてくれたあのときとは違い、今はカリンがあたしを慰めてくれる。

「チトセくんの代わりにはなれないけど」とカリンはいうけど、カリンがチトセの代わりには絶対になれないんだから、そのままでいてほしい。

チトセは異性の幼馴染で、カリンは同性の大親友なのだから。

 

「最近は勉強を真面目にするようになったとは思うが……そんなに変わったか?」

「ええ、とても。サヤの婚約パーティーの時から比べたらとてもね。落ち着いた瞳をしてるじゃないの」

 

あたしはどんな反応をしていいのかわからず、適当にわらっておいた。

 

「そうか……ああ、そうだ。今日の会議にフウカは……」

「出席してもらうわ。サヤや青の城のレイくんがはじめて会議に出席した時期を考えると、遅すぎるくらいだもの」

「わかった。では、失礼する。……フウカ、行くぞ」

「はい」

 

あたしはドキドキする胸を押さえながらママと一緒に広間を後にした。

(あたしも会議に出るのかぁ……)

『魔法界で一番偉い人になったらみんなが気持ちよく寝坊できる世界にしたい』なんて昔は思ったこともあったけど、今思うとバカバカしいとさえ思えた。そんなことをしたら、世界はきっと一瞬にして大変なことになる。

ママが危ない場所に行っているときや、ふといつもいるママが見えない時には『ママが女王をやめてあたしだけのママになってくれればいいのに』と思ったこともあったっけ。

 

 

もう直ぐ銀の部屋というとき、青の部屋の方で黒いシートが見えた。

 

(ん?なんだろ、これ)

 

その方向を見ていると、チトセの一番上のお兄さんのレイ王子がチラッと見えて一瞬ドキッとしてしまう。

 

(ままま……まさかねぇ〜……)

 

一瞬、期待が胸をよぎり、シートを目の前に捉えながら部屋までむかった。

ふとその足元を見たときだった。

 

(あの、青の靴って)

 

チトセの?

それはチトセが前に銀の城に来てくれたとき、チトセはこの靴を履いていた。

 

(チトセも来ているの______________?)




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