らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

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お久しぶりです。


・6・

会場は赤の城だった。

色あせた赤い屋根。それに映える、王道色の壁。城壁には勇ましい竜が描かれている。

サヤさまの婚約祝いパーティ以来の赤の城は、あの時よりすこし違って見えた。

 

「フウカ姫、行くぞ」

「はい。お母様」

 

いつもとちょっと違う会話。

ママの威厳はそのままだけど、あたしは変えなきゃいけない。といっても、学校とほとんど変わらないけど。

門兵があたしたちの顔を確認すると門を静かに開けた。

 

「銀の城のレイア女王さま。フウカ姫さま。どうぞお入りください」

 

なにも言うことなく、入るママはいつもと違う。

あたしも歩みを進めるが、王族を一目見ようと集まった人々の視線が痛くて冷や汗をかいてしまう。

パシャパシャと切れるシャッター音の中、あたしは一歩一歩城のに近づいて行った。

 

「ようこそいらっしゃいました。銀の城のレイア女王さま。フウカ姫さま。」

 

道を作るように並んだ侍女たちはみな赤の城の正装に身を包んでいた。

 

「お母様、私は別室にいればよろしいのでしょうか?」

「……赤の女王の判断に委ねるが……銀の城の部屋があるだろう。とりあえずそこに居ろ」

 

そう。各城には、部屋がある。

銀の城にももちろんあるのだが、青の城の部屋、緑の城の部屋、黄の城の部屋、赤の城の部屋、水の城の部屋、白の城の部屋。

そして開かずの扉となった、古代都市、カンドラの部屋と……

……黒の城の部屋がある。

 

黒の城の王は、王族会議に参加しない。

古代都市、カンドラは数多の昔、消えたという。

それぞれの部屋はそれぞれの城をモチーフにしているので、それぞれ違ってちょっと面白いのだ。

例えば、銀の部屋は窓が大きくて部屋も銀が多いし、緑の部屋は植物だらけだし、青の部屋は怖いくらいに時計がいっぱいで常に秒針がせわしなく動いている。

他の部屋も似たような感じなのだが、実はあたしも中々入ったことがないのだった。

 

「かしこまりました、お母様。」

 

あたしが返事をすると同時に赤の城の侍女が頭を下げた。

 

「わたくしが部屋へご案内いたします。」

 

初めて入る、赤の城の銀の部屋はなんだか違和感があった。

銀の部屋にはもちろん大きな窓があり、そこから風を感じられるようになっている。

そこから下を見ると、不安そうにあたりを見渡す、カリンの姿があった。

 

 

 

 

 

 

わたしはついた赤の城の前でたち尽くしていた。

外壁に魔獣は描かれているし、門のそばにはたくさんの人たちがわたしたちにフラッシュを焚いてる。先にいくママを、わたしは慌てて追いかけた。

 

「お、お母様〜。えっ……とわたしは……」

「あぁ、カリン姫は緑の部屋に居てね」

 

緑の部屋……かぁ。赤の城のはどんなのなんだろう。

フラッシュの中、わたしとママは城の中に歩んで行った。

その時だった。

本当は、馬車は門の外に停められるはずだというのに、中まで入ってくる濃い、青色の馬車。

わたしはなんだか気になってその馬車を目で追った。

ガチャ。とドアが開いて、召使いに隠されながら裏口から入っていくだれか。

その子を見ようとして、思い切りつま先立ちをしたとき、言葉を失った。

 

(チ……チトセ…くん………?)

 

あの、深い、深い、群青色の髪と瞳。

 

(う……そ

 

フウカちゃんに知らせなきゃと真っ先に思ったが、あのときの記憶が頭の中を駆け巡った。

 

(もしかして、あの時の……)

 

わたしはこの前のフウカちゃんを思い浮かべた。

あの、銀の城でのフウカちゃんを。

どうもそわそわしていた、フウカちゃんを。

 

(きっと、フウカちゃんは、知っているんだわ……)

 

その後すぐ、わたしはメイドさんに呼ばれてついていった。

 

 

 

 

 

赤の城の付く間際、緑色のツルが巻き付いた馬車を見た。

もちろん、それがなんなのかわからないはずがない。

 

(あれが、確か緑の城の馬車)

 

前に何度かみたことがあった。

その、緑の馬車が門の前に馬車を停めていたのに対して、オレたちの乗った、青い馬車は門の中まで入っていく。

すると直ぐ、城でよく見る服を着た召使いたちがオレを隠すようにやってきて、そのまま裏口からはいることになった。

 

(は……?)

 

最初はイマイチよくわからなかったが、だんだん状況が掴めてくる。

きっとまだオレのことを世界に発表してないからバレぬようにオレを隠しているのだと。

 

「チトセさま。チトセさまは青の部屋にいらしてくださいませ。決して部屋を出てはなりません」

 

オレもゆっくり頷いた。

……もう直ぐ隠れる生活も終わるだろう。王族会議が終われば、きっと、自由に生活できるはず。

赤の城に入った時、シートの外で声がした。

 

「サ……サヤさまっ。お、お久しぶりです」

 

そんなカリンの声と、

 

「いいんですよ。ようこそいらっしゃいました、カリン姫」

 

あの、ハキハキとした凛とした声。

……そう、サヤ王女________……

 

「そちらは?召使いの服からして青の城の者でしょう?」

「きっとそうだと思います、サヤさま。靴が青ですし……」

「カリン姫、サヤ王女。この事は決して口外なさらぬよう、よろしくお願いいたします」

 

メイドが隣で小さく頭を下げているのを感じた。

 

「貴女たちがそうおっしゃるのならおっしゃられた通りにいたしますが……」

「ええ。そうだわ、サヤさま、お話したいことがあるんです」

「そうですか。でしたら、緑の部屋にお邪魔しても?」

「もちろんです」

 

そんな会話をしながらふたりは去っていった。

なくとなく、カリンは気づいていたのかもしれないと思った。彼女は昔から察しがいいから、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

青の部屋は時計だらけだ。

何処の城の部屋でもこんなだと、過去にフウカと一緒にレイア様に聞いたことがある。

静かな部屋の中にチクタクと時計が時を進める音がする。

……さすがの青の城でもここまで時計はない。一部屋に三つから五つが基本である。

 

「チトセさま。お茶でございます」

 

オレはなにも言わず、受け取った。

 


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