らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
毎度毎度のことだけど、カリンは短い。
4章の活躍まで待っててね!カリン!
「チトセさま、こちらを着てくださいな」
メイドが差し出したのは、群青色のタキシード。ボタンは金色に輝いている。オレみたいな十三王子のものなのに、新品のようだった。
それを着ると同時にレイ兄さんが顔を出す。
ほお、とレイ兄さんがすこし笑って、
「似合っているな」
と言ってくれた。
「ありがとうございます」
もちろん、オレも笑みを返した。
長い廊下を進んで大広間にたどり着くと、父さんと本当にそろそろ隠居した方がよくなってきたじいちゃんがいた。
「チトセ、これを付けなさい」
じいちゃんに渡されたのは懐中時計だった。
「なんだ?これ」
「まぁ……いずれお前にもわかるはずじゃ」
親父が複雑そうにオレを見て、オレはさらに疑問に思った。
「国王さま。馬車の準備ができました」
従者が頭を低くしたままそう伝えにきて、オレと親父とレイ兄さんは正面玄関に向かう。しかし、門の前まできて愕然とした。
そこには、大量の人が押し寄せている。
今まで何度か親父が城から馬車にのってでて行くところを見たことがあるが、ここまでだったことは一度もない。親父を見たがる物好きなんて、そうそういないのだ。……と、考えると。結論は一つ、レイ兄さんの人望である。
オレは顔がバレないように特殊な窓の隣に座らされていた。
歓声を浴びる親父とレイ兄さんはなんだら誇らしげで。
オレはそれを横目で見ながら、窓の外を眺めた。
「そうだ、チトセ。オレの事はレイお兄様。父さんのことはお父様と呼ぶんだぞ。お前はチトセ王子だ」
「はい」
そんくらい、わかってる。
前にいった赤の城のサヤ王女の婚約パーティーのときの態度じゃいけないのだ。そういうものなのである。
それよりも。
オレみたいな王子も王子になんのか?
……なるんだろうな。
「姫さま!ちゃんとじっとしてくださいっ」
「そ、そんなこと言ったってぇっ。なんでこんな……」
あたしはセシルに無理やり着されてるドレスは銀の城に相応しい、銀色のベールをまとったドレスだった。
(こんなの着たって……この金色の髪じゃ、似合わないよっ)
「姫さまは銀の城の姫なのですよっ。ちゃんと立ってください!」
いくら髪が金で、瞳だって金で、ママとはほとんど似てなくても銀の城の姫だということには変わらなくて。
あたしだってそこまで細くないのに、ぴっちりしたドレスを無理やりセシルに着せられた。こういうとき、男子って羨ましい。
「次はドレッサーの前に座ってくださいなっ」
今度は髪をお団子にし始める。
あたしはなにも言わず、その様子を鏡越しに見ていた。
「姫さま、あと30分後には出発です。この後すぐに馬車にのってくださいね。今回、セシルはついていけませんから……しっかりやるんですよ?」
あたしが小さく、「うん……」と言ったときお団子が出来上がった。
セシルはあたしのお世話係だけど、実際は家族のようなもので。あたしはセシルがいないと、ほとんどなにもできないのだ。
馬車は銀色に輝き、白馬が前についている。
門の外にはたくさんの人、人、人。
(すごい……いつもこんななの?)
「姫さま。どうぞ」
ママの侍女のナツキがドアをサッと開ける。
「あ、ありがとう」
「……いえ」
ナツキが頭を下げ、あたしは馬車に乗り込んだ。
しばらくしてママが馬車に乗り込み、ゆっくりと馬車が進み始めた。
「フウカ。姫としてのマナーとして、今からお母様と呼びなさい。もちろん敬語だ。今日のこれからだけだがな。私もフウカ姫と呼ばねばならん」
「…かしこまりました、お母様」
ママが複雑そうにあたしを見るので、あたしは笑ってママをみた。
我慢しなければならない、ママのためにも頑張らないといけないと思う。学校の自分と同じなのだ。悩むことはなにもないと、そう自分に言い聞かせた。
草木のお友達がわたしにワンピースを着せてくれる。
わさわさと揺れるツルたちは、わたしのことをかわいいと褒めてくれた。
「カリンちゃ〜ん、そろそろ出れるかしら〜?」
のんびりしたママの声を聞くと、なんだか緊張した心がとろけていく。
「もう、行けるわぁ〜」
わたしが着ているのは、薄緑のワンピース。お花の刺繍が所々に入っていて、全く自然体なのだけど何処か威厳を感じさせるもの。
「ママ……」
もう、出れるのかそう続けようとしたが、ママの声に遮られた。
「もう、ママではありませーん。今日はこれからお母様って呼びなさい。わたしもカリン姫って呼ぶわ。」
……そうよね。ちゃんとした空間でママなんて呼べないもの。
これからの為にも、それぐらい……
あんな元気なフウカちゃんができるのだから。私が出来ないわけはないのだ。