らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
「カリン、今日のクッキーも美味しいっ」
あたしがクッキーを頬張りながら言うと、カリンは嬉しそうに微笑んだ。
「そぉ?ありがとぉ〜」
昔からいつだってカリンのクッキーは美味しい。
チトセがいなくなってからだって、カリンの味は変わらなくて。中学生になって、環境の変化に馴染めず悩んでいたときだって、あたしを慰めてくれたのはカリンのクッキーだった。
その話をすると、カリンは「わたしだってクッキーを食べたときのフウカちゃんの笑顔に元気をもらってたんだからお互い様よぉ〜」と笑ってくれる。
(食べるだけのあたしと、時間を割いて焼いてくれるカリンの大変さなんて比じゃないはずなのになぁ……)
「フウカは本当にカリンのクッキーが好きだねぇ。確かに美味しいけどさ」
アリサちゃんが呆れたように言う。
「だって、カリンのクッキーは世界一だもん!」
「フウカちゃんったらぁ。言い過ぎよぉ〜」
カリンは顔を赤らめて、首を激しく横にふった。
「あ、私そろそろ帰るよ。お母さんに今日は外食だから早く帰ってきてって言われてるの」
城にある銀色の時計を見て、アリサちゃんが立ち上がった。窓の外を見ると、少しだけ空が赤く染まり始めていた。
「そっか。また明日」
「うん」
アリサちゃんは窓を開け放つとホウキにのって去っていった。普通にクラスメイトを呼んだらきちんと正面玄関から来て正面玄関からさっていくのだろうから、こういうときに見知ったアリサちゃんは楽だと思う。
「じゃあ、わたし、紅茶のお代わり淹れてくるわねぇ」
「え?あ、うん。」
カリンがポットを持って出て行き、あたしは部屋にひとりきりになってしまった。
さっきまで騒がしかったあたしの部屋は一気に静かになった。
「ふぅ。カリン早く帰ってこないかなー」
なーんて、カリンの紅茶にはこだわりがあることをきちんと知っているのに呟いてみた。
おかげでクッキーも紅茶も上達したカリンは、今でも普通にプリンセスの差を感じてしまう。
その時だった。
ヒューーー…
と言う風と共に、カギをかけていなかった窓がキィィ…と静かに開く。
窓をもう一度閉めようと、窓に寄った。
気付いたのは、その時。
「フウカ。久しぶりだな」
その声は少しだけ変わっていた。
あの頃より、声が低くて、あの頃とは少し違うはずなのに、きちんとあの頃のチトセと重なって見えた。
喋り方があのままだった。
時々見せる、素直な昔のチトセと同じ喋り方。
「______________……」
チトセだ。絶対にそうだ。そう考えているはずなのに、心のどこかで、いやそうかな、本当かな、なんて疑う自分もいて。
あたしはずっと下を向いていた。
「フウカ、こっちみろよ」
一瞬ビクッとしたが心を落ち着かせて、ゆっくりを上を向いた。
「やっぱり、チトセ、なの……?」
チトセの顔はあの頃のままだった。
ちょっとは変わっていたのかもしれないけど、あたしには同じに見えた。
あの、嫌味ったらしい顔なんてせずに笑っていた。
気味が悪い程ではなく、あのままの笑顔だった。
あたしは、涙が溢れて止まらない。
ポロポロと溢れ出てくる涙を止めることなど出来なかった。
「フウカ、泣くなよ」
チトセのその声に何故かさらにポロポロと涙が溢れる。
「まさかっ……、あの手紙の通りだとは思わな……くて」
「悪い」
頭を撫でられて……なんだか安心して……クゥゥゥ……と唸るようにして涙を止めようとした。
でも、それも出来ない。
歯を噛み締めるほど、涙が出てくるのは、いわゆる生理現象なのだろうか。
つぶったはずの目からじわじわと涙が外に出てくる。
しばらくそうしてるうちに、ドアの向こうからカリンとセシルの話声が聞こえてきた。
「……フウカ、オレ、そろそろいく。カリンとセシルさんが来るみたいだし……
「……もう、行くの?」
「あぁ、でも、もう帰ってきた。また、いつでも会える。今度……いや近いうちに会おうぜ」
チトセはニッと笑うと、ホウキに乗って銀の城を去っていった。
ガチャ。
入って来たのはカリンだけだった。「セシルさーん」と廊下の向こうから声がするから、どうやらセシルは他の侍女に呼ばれたらしい。
「フウカちゃん、お待たせぇ〜……って、えっ?泣いているのぉ?」
「……えへへっ、内緒」
心配するカリン。あたしは目に少しだけ溜まった最後の涙を拭き取った。
「大丈夫だよ。なんでもないから」
そして、笑いかけた。
原文のままが多いですね!
この辺はわりと真面目に書いてたのか当時の自分……