らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
二章はわりと目線がかわります。
・1・
白い雪の道を歩き、
暗い森の中をライト片手に進み、
目に入る、砂をこすって落としながら旅を続けた。
「……ねぇ、ちーくん。あの手紙をもしフウカちゃんが見てても、あのままだとは限らないんだよ?ちーくんのことも信じてくれているかどうかの確信なんてどこにも________」
「________そんときはそんときだ」
「それはそうだけど……」
「だから、いく。匿っててくれて、ありがとな」
「うん________」
「じゃあ、また」
オレはホウキに乗って、水の国を飛び出した。
しばらくホウキを走らせていると、だんだんあの懐かしい国のある大陸が見えてくる。
何度「ごめん」と口にしたか、わからない。
ようやくついた水の国で、びっくりした顔のビアンカにすごく怒られたし、オレも何も言えなかった。
言えるものなら、直にアイツに伝えたかった。
あの日。
フウカとカリンが水の国へ出かけていって、すぐに告げられたあの日から一度だってあの楽しい空間を忘れたことはない。
あの、優しいプリンセスと、そして不思議なあいつと、なんだか気にくわない王子と、その妹と、クラスメイトと、兄さんたちと、それから________
『……フウカ……』
これから始まるのは、ある王子が姫の元に帰るお話________
スタッ……
降り立ったのは、城の前だった。
針のように尖った屋根のある、青の城の前。
見知った警備のおじさんはいなくなり、新しいもう少し若めの人に変わっている。
一度も見たことないから……おそらく新入りなのだろう。
はなから、警備の人全員の顔と名前を覚えているわけでもないが、顔はある程度認識している。
正面から城に入ろうとすると、止められた。
「君。無断立ち入りは禁止されてるんだ。許可書は?」
ああ、やっぱり、止められてしまった。このただの門番が死んだことにされてる、それも十三番目の王子を知っているわけがない。
許可書なんて、あるわけがなかった。騒ぎが収まって、しばらく経って。これだけの年月が経てばいいだろうと定めた父さんの時期を少し過ぎたのだ。この地へ帰ることが出来ないなんて、そんなことはあるはずがないだろう。
「ないです」
「じゃあ、さっさと帰ってくれ」
冷たく追っ払われた。
(どうするかなぁ……だれかのいるところで兄さんとか、親父に会うわけいかないしなぁ……ましてやあいつに会いに行くなんて……)
門の前をウロついているからか、さっきの門番から怪しい人物を見るような眼差しを向けられる。仕方ない、とため息をついた。
悩んだ挙句、母さんのいる離れに行くことにした。
ホウキに乗って、ちょっとその場を離れてから離れへ向かう。
案の定、離れの母さんのいる部屋は窓が開け放たれていた。
入ると、部屋には母さんしかいなかった。
母さんはベッドに横になって、熟睡している。
オレは母さんが起きるまで、ベッド脇のイスに腰掛けていることにした。母さんの部屋には、ほとんど使いの者は入ってこないのだから。
しばらくすると、母さんがゆっくり目を開けた。
そして、オレを虚ろな目で見つめる。
「あら……?チトセ……?」
オレはゆっくり頷く。
母さんはベッドからガバッと起き上がったが「ゲホッゲホッ」と咳き込んでしまった。
「か、母さん!」
「大丈夫よ。チトセ、どうして正門から入ってこなかったの?門番長はあの頃と変わってないわよ?」
「その門番に追っ払われた。知らない人だったけど」
「そういえば、この前新入りが入っていたわね」
挨拶に来てくれたわ、と母さんがゆっくり微笑む。
「ロイドやレイたちを呼ぼうかしら。そうだ、今日はセイラちゃんも来てるのよ」
「いいよ、母さん。街を散策してくるから」
母さんはビックリした表情をしたが、見送ってくれた。
街を散策とは言ったが、本当は銀の城に行こうとしていることぐらいきっと母さんにはお見通しなのだから。
(久しぶりに会ったら……あいつはどんな顔するんだろうか)
いろんな気持ちのまま、もう一度ホウキに乗って銀の城に向かって走らせた。
あの頃のフウカの部屋には、変わらず電気が灯っていた。
二個目のエピローグです。チトセ目線だけにしたら短かったです。