らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

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又の名を、一章最終話ともいう。


〜5〜

その日は、とても暑かったと思う。

いわゆる猛暑というやつで、赤の国の夏には負けるのだろうけど、それでも、この大陸の夏はものすごく蒸し暑い。

アイツと。チトセと初めて会ったのは、そんな暑い夏の日だった。

 

 

『きみ、だあれ?』

『あたし?あたしはふうかっ』

『そっか。ぼく、ちとせ。よろしくね!』

 

 

忘れたはずのあの日のことが、ぽんぽんと泉のように溢れ出てくる。

ママも、おじいちゃんも、チトセもパパもみんないた幸せな記憶。あたしのたいせつな人が、いつだって手の届く場所にいた頃の記憶。

思わず目を伏せたとき、カリンがあたしに呼びかけた。

 

「フウカちゃんっ」

「へ?」

 

振り向くとカリンが不思議そうな顔であたしをジッと見つめている。

 

「へ?じゃないわよぉ〜……今日、わたしとアリサちゃんで銀の城に遊びに行くけど、クッキー持って行って欲しいかきいてるんじゃないのぉ〜。昔からクッキーに目がないフウカちゃんが上の空だなんてぇ……またなにか思い出してたのぉ?」

「えへへ……まあ……」

 

カリンのクッキーは昔からあたしの大好物だ。

あたしが答えると、カリンはすこしだけ怒ってしまった。

 

「そんなに心配しなくても、チトセくんはきっともどってくるわよぅ」

 

すこしふてくされたようなカリンの顔。

『わたしのことを信じてくれないの?』とか言わないあたり、カリンも確信を持ってそう言っているわけじゃないみたいだけど。

 

「そうかなぁ……アイツ、なんだかんだ言って嘘つきだし。クッキー、よろしく。チョコがいいかな〜」

「わたしはそんなことないと思うけどぉ〜」

 

ちょっと不機嫌なカリンをなだめていると、先生に呼ばれて教室を出て行った。

 

(ねぇ、チトセ)

 

 

どこにいるの?

 

カリンのいう通り、本当に会えるの?

 

あの墓には、本当に眠ってないの?

 

会えたらいいなぁ。

 

もしこの広い世界のどこかで生きているなら、貴方を捜して、あたしも世界中を回ってみせるよ。

 

魔界とつながる黒の国でも、妖精のくらす城の国でも、カレストリアのある黄の国でも、どこへだってあたしは探しにいくよ。

 

それがもし、人間界や魔界だったとしても、コトリやキースを絶対に探し出して、黒の城にだって乗り込んで、元老院まで行ってやる。

 

滅んだはずのカンドラにだってプシーを連れてなんとしてでも乗り込んでやる。

 

だから________

 

(……だから)

 

心の問いかけなんかに、チトセが答えてくれるわけがないなんて、そんなの……そんなの、わかってるから。

 

だけど、止められないの。あたしを止められないの。

 

……ねぇ、帰ってきてよ。

 

あたしはずっと、この銀の城で待ってるから。

 

 




キース様の登場予定はありません。
っていうか、準レギュよりゲストがすごく多いです。

前回に比べて短い。

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