らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

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原作です。


旧作
一章


エピソードローグ

 

なにを振り返っても、後悔ばかり…

なんで?どうして?

そう思うだけで、なにも変わらない。

もう、あの頃には戻れないとわかっているはずなのに…

 

 

 

 

 

〜1〜

 

 

「フウカちゃぁ〜ん、学校へ行きましょぉ〜」

 

あの頃からいろんなものが変わっていた。けれど、青い空は何一つ変わらない。

 

「まって、今いく!」

 

そういって、ホウキを出すあたし。

今日から、あたしたちは高校へ行くのだ。

王族や貴族、お嬢様やおぼっちゃまが通うような学校、ハリーシエル学園は、あたしたちが一応必死に勉強して入った高校である。

制服は紺色のブレザーに、白いシャツ。そして白地に黒のチェックのスカートで、結構かわいいのでお気に入りだったりもする。

 

風に乗ってホウキを走らせていると、やがてあるものが見えてくる。

それは、白を基調としていて、窓枠は金で塗られている宮殿のような建物だった。

ここが、ハリーシエル学園である。

校庭に降り立つと周りがザワザワし始めた。

 

「ねぇ、蝶のワッペンをつけた子がふたりも来たよ!」

「銀と緑だから銀の城の姫と緑の城の姫なのね!あの子たちは。」

 

……もちろん、あたしたちの噂だ。

そんなにもう、驚かなくなってしまった。

中学の頃から王族が特別扱いになっちゃって、その頃から色々言われてるのだ、慣れないわけがない。

小学校の頃はみんなと同じように入れたのに、なんて今じゃ時々考えるようになってしまった。

 

あの頃はチトセもいたし…戻りたい……よ…

カリンはあたしの顔を覗き込んで、

何かを思ったのか微笑んだ。

 

「フウカちゃん、教室に行きましょうよ〜」

 

そんなたわいもない発言だったけど、なんだか嬉しかった。

 

「うん…」

 

 

 

〜2〜

 

 

ふたりでみた、クラス発表にはカリンとあたしの名前が一番最初に書いてあった。

 

「カリンっ。同じクラスだっ。」

 

あたしが笑うとカリンもにっこりして、

 

「やったわねっ」

 

と言う意味らしく、ピースサインをこっちに向けてくる。

クラス名簿をもう一度みると、たくさんの名前が書いてあって、

「この子たちと…これから一緒に生活するんだなぁ」

なぁんて考えた。

 

教室に入ると、初めて会ったはずなのに息ぴったりに他の生徒たちがガタッと立って、こっちに向かってお辞儀。

 

「初めまして。王族の方々。」

 

流石に一瞬驚いてしまった。

けど、いつものあたしを封印して、お姫様っぽく、背筋を伸ばして、

「ごきげんよう。」

と、微笑んだ。

 

するとカリンも同じようにして…

「これからよろしくですわ。」

と言って同じように微笑んだ。

 

挨拶を終えてもだれも席につく気配がみられない。

あたしは「席についてよろしくってよ。」といいながら席につくと、やっとみんな座り始めた。

 

(はぁ…これからずっとこう?そんなことしたら…疲れるよぉ〜…)

 

あと五分で初めてのホームルームだけど、ひとりだけまだ来ていない子がいた。

そこは道を挟んで隣の席だったので机の上に乗った名札を覗いてみる。

そこにはアリサと書かれていた。

 

「カ、カリンっ。」

 

と言ってから姫ってつけなきゃって気がついて、

 

「じゃなくて…カリン姫。」

 

慌てて言い直す。

 

「どうしたの…ですか?フウカ姫。」

 

あたしがアリサちゃんの席を指差すとカリンは驚いて、その後、ふふっと笑って、

「そうだといいわねぇ。これから、楽しくなるわよぉ。」

と、いたずらっぽく微笑んだ。

その途端、ガラッとドアが開き、見覚えのある人物が顔を出す。

そして私たちの顔を見ると、驚いたように固まってしまった。

 

「フ、フウカ…?カ、カリン…?」

 

その声を聞いた確信した。

本当にアリサちゃんなんだと。

 

「アリサちゃん…?アリサちゃぁ〜んっ!」

 

 

 

〜3〜

 

 

あたしが飛びつくとアリサちゃんは嬉しそうなものの、少し顔を顰めていった。

 

「ちょっ…フウカ!一国の姫が飛びつかなのっ。私が変人に思われるっ」

「よかったぁ…このまま生活するなて…無理だよう…」

 

あたしがそういうと、アリサちゃんはあの頃のように笑う。

 

「えー?なんでよ。私はすのままのフウカとカリンでいいと思うけどー?」

 

あたしたちは「えへへ…」と笑う。

…もう、あの頃には…『モドレナイ』。アリサちゃんはそれを分かって言っているのだろうか。

席にアリサちゃんがつく間際、あたしに耳打ちした。

《…ちゃんと、やれてる?チトセくんがいなくても…》

やっぱ、わかってる。

アリサちゃんはわかってるんだ。

…ちゃんとなんて、やれてないよ…過去に縋り付いたままで、全く前に進めてないよ…

あたしは暗い顔で俯いてしまった。

そんなあたしにアリサちゃんは《…変われないと、始まらないよ。もう、過去には戻れないんだから。》

そう言って、背中を撫ぜてくれた。

 

〜3〜

 

青の城の庭にはチトセの墓があり、そこでチトセは眠っている。

チトセが時の壁が使えると城中…いや、国や大陸を超えて世界中に広まった2日後…チトセは原因不明の病に倒れ、死んだと…

…そう聞いた。

その日あたしはカリンと共にビアンカちゃんのいる水の国に遊びに行っていたんだ。

帰ってくると葬儀は終わり、墓だけが残っていた。

そりゃもう、泣いたよ。

カリンとふたりで。

どうして消えてしまったのか、全くわからなかった。

病ってなに?なんで?なんで、死んじゃったの?

もう、悲しすぎたよ。

つい、この前までいた人がいきなり消えるんだもの。

どうしてなのか、さっぱりわからなかった。

でも…どこかで生きていると信じている自分がいたんだ。

「ねぇ…チトセ。帰って来てよ…」

もう、涙は乾いた。

もう、チトセはいないという自覚は出来た。

でも…過去から逃れられないでいる。

そんな自分を変えたいのに…

 

 

〜4〜

 

銀の城に帰ると、セシルが手紙を持ってきた。

差出人は…不明。

随分前に届いていたのをあたしに出すのを忘れていたんだって。

手紙を開くと…

チトセからだとわかった。

セシルはパタパタと部屋を出ていき、あたしはベッドにドスン…と座ると読み始めた。

【フウカへ。

この手紙を読んでるってことはお前もカリンも高校生になったんだな。

手紙の中のオレはまだ小学生だよ。

オレはあの夜、旅に出たんだ。

遠い、遠い、旅にな。

親父はオレが死んだことにするって言ってたから、もう、お前の中ではオレは死んでんのか?

そうなんだったら、悪い。

もし、オレがお前と同い年になっていたら、高校一年の入学式に会いに行く。

いや、絶対、生きて帰るから。

チトセ。】

(…チトセ…)

あたしは頭の中がこんがらがる。

(…え?…チトセは…チトセは、生きてるの?なんで…死んだってことになったの?どうして…)

でも、そこで思考回路は止まった。

…チトセは、もう死んだ。

だってもう、入学式は終わったもの。

チトセは会いに来なかった。

ってことは死んだんだ。

今度は、本当に。

あの時以上に辛くて、苦しくて、涙がポロポロこぼれてくる。

…あん時は死んだって言い聞かせてて、それで涙が出てた。

けど今は…死んだって…本当なんだって…

自覚が更新された気がして…胸がギューーっと苦しくなる。

喉に小石が詰まったように、痛くて…苦しくて…

声が出ない。

その日は泣きはらした目で寝た。

 

 

〜5〜

 

…いつもと変わらない朝。

ただひとつ違ったのは机の上だった。

机の上にのる、一通の手紙。

チトセからの、最初で最後の手紙。

これを…ラブレターと言うのだろうか。

鏡に向かうと目は真っ赤に充血していた。

手紙を引き出しにしまって、支度を始める。

髪ゴムを持ってきて金色の髪をポニーテールにして、ご飯を食べ、部屋でポケーっとしていた。

するとカリンがやってきて学校に行く。

…変わらない。なにも変わらない。

あの手紙を読んだって、なにも変わらない。

でも、あたしの変化にカリンは気づいてくれた。

「フウカちゃん、なんかあったの?」

「…え?」

「なんか複雑な顔をしてるんだもの。ショックを受けたというか…なんというか…」

…迷った末、カリンに話すことにした。

「実はね、手紙…来たんだ。小学生のチトセから。」

「えぇ!?」

「そこにはオレは本当は死んでない。高校の入学式に会いに行く。って書いてあったの。」

カリンは頭の上にハテナマークを浮かべる。

「でも…入学式にチトセくんはいなかったわよねぇ。」

「うん。手紙には、生きていたら会いに行く。って書いてあったんだもの。だから…本当に死んだんだよ、チトセは。」

でも、カリンはふふっと笑って、

「生きてるわよ。きっと。」

そのままあたしたちは言葉もかわさないまま、学園へ入っていった。

 

 

 

〜6〜

 

 

あたしは、小学生の頃とは違うところがいくつかあった。

まず、遅刻しなくなった。

あの頃は遅刻常習犯で、チトセに呆れられてたっけ…

頭も良くなったと思う。

授業は聞くだけで覚えられて、ノートなんて取らなくても平気。

一応とってるけどね。

宿題も簡単だからやってるんだ。

 

…こんなあたしを見たら、チトセはなんて言うかな。

 

あの、憎たらしい顔で、「ほう。フウカも少しは真面目になったか。」って言ってあの笑顔で笑うんだろうな。

…あたし、なに考えてるんだろ。

二度と、チトセには会えないのに。

どうして、チトセは生きてるって信じてる自分がいるんだろ。

「はぁ…」

そうため息をついて、机にうつぶせになった。

その瞬間、

「では、ここをフウカさん。」

と、リリー先生に指名されて、ハッとする。

(そういや、今日、この列当たるんだった!あたしったら、別のこと考えちゃったよ〜…)

そう思って、問題にサッと目を通す。

「その場合、この部分が……(亜実のコメント。高校の問題なんて知らねーよ!あ、一応、数学ですw)

「性格です。流石フウカさん。」

拍手が沸き起こる。

……こんなんで拍手されるの?

まぁ、いいんだけど。勝手にしてればいいんだもの。

「フウカさんの言う通り、ここの部分はこうすることによって……(以下略)」

リリー先生の説明が長々としている中、あたしは窓の外のひつじ雲を眺めていた。

点々と広がる、雲。

みんな一緒。一緒に群れをなして、空を泳ぐ、雲。

『あの頃に戻りたい………』

あたしの小さすぎるつぶやきは誰の耳にも届くことなく、虚しく消えていった。

 

 

 

〜7〜

 

 

「フウカ姫、カリン姫、お昼をご一緒してもよろしいでしょうか。」

そういって声をかけて来たのは、貴族のスズだった。

青の国の貴族で、髪色は青に寄った紫。

スズのデイリー家は、青の城と交流が深く、いろんなイベントに参加していた。

だから…あたしとも知り合いなんだ。

「いいですよ。」

あたしは微笑んだ。カリンもコクリと頷いた。

すると、イスを持ってきて座るとお弁当を開けて食べ始める。

おもむろにスズが口を開いた。

「フウカ姫、カリン姫に質問があるのですが…」

「なんでしょうか?」

「アリサさんとはどのような繋がりでいらっしゃるのですか?」

やっぱり不思議だよねぇ。

王族と一般人だもの。

でも、あたしは笑って、

「アリサちゃんは小学生の頃のクラスメイトですわ。久しぶりにお会いしましたの。」

「では、3人がたは幼なじみでらっしゃいますのね?」

「えぇ…まぁ…」

(幼なじみ…かぁ…チトセ…。……あっ、またチトセのこと…)

顔は笑っていたけど、心にはチトセがいて…モヤモヤする。

(はぁ…)

チトセが消えてから、嘘の笑顔がたくさん出来た。

本当の笑顔がひとつもないわけではないの。

ただ単に、嘘の笑顔をたくさんつくるようになったというだけ。

でも、カリンには見抜かれるんだ。

ほら、今だって不安そうな顔してる。顔に、『フウカちゃん、大丈夫?』って書いてあるもん。

そんなカリンにあたしはいつもどうり、『大丈夫だよ』という意味を込めて微笑む。

カリンは一度目を伏せて、またあたしの方を見て『無理しないでね…』って…

いつものことなんだけども、カリンには助けてもらってる。

アリサちゃんもいるし、この高校生活は…

少し、楽しめるかな…

そのあと、ちょっとした雑談をしながら昼食休みが穏やかに過ぎていった。

 

 

 

〜8〜

 

 

その日は、とても涼しかった。

アイツと、初めて会った日のように。

 

 

『きみ、だあれ?』

『あたし?あたしはふうかっ』

『そっか。ぼく、ちとせ。よろしくね!』

 

 

忘れたはずのあの日のことが、湧き水のように溢れ出てくる。

思わず目を伏せたとき、カリンがあたしに呼びかけた。

「フウカちゃんっ」

「…へ?」

振り向くとカリンが不思議そうな顔であたしをジッと見つめている。

「へ?じゃないわよぉ〜。今日、わたしとアリサちゃんで銀の城に遊びに行くけど、クッキー持って行って欲しいかきいてるんじゃないのぉ〜。クッキーに目がないフウカちゃんが上の空だなんて……また思い出していたの?」

「えへへ…まぁ…」

あたしが答えると、カリンはハッとして申し訳無さそうな顔をする。

「じゃあ、邪魔しちゃったかしらぁ?」

「そんなことないよっ。クッキー、よろしく。チョコがいいかな〜」

カリンは、「ふふっ。わかったわ。じゃあね」と言って、教室を出て行った。

『……元気にしてる?…もう、生きてないの?そんなの…嫌だよ。生きてるんでしょう?生きてると信じたい。……答えてよ。知りたいよ。生きているなら、貴方を捜して、あたしも世界中を回りたい…』

(………)

心の問いかけなんかに、チトセが答えてくれるわけ、ない。

そんなの…そんなの、わかってるわよ。

だけど、止められないの。あたしを止められないの。

ねぇ、あたしを止めて?

…帰ってきてよ。

帰ってこれないなら死ぬなんて、くだらないことは考えないけど…

 


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