砂上の楼閣   作:やすけん

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第3話

 

 

自衛官の生活は規則正しい。

 

毎朝6時に起床し、23時には消灯。睡眠を取る。

 

営内では定められた規則に基づいて厳正に秩序が保たれている。

 

警衛上番者は駐屯地の警戒、営門出入者の監視の他に、規律の維持という任務も任されている。

 

その日、神田は警衛に上番していた。

 

消灯ラッパが鳴ったのにもかかわらず、煌々と明かりを漏らし続ける不届き者がいたため、神田はその部屋に乗り込んだ。警戒レベルは限界まで引き上げられているので、防弾ベストを装着し、89式小銃を携行したまま突入する。

 

「おら消灯だ。さっさと電気を消せ! ぶっ殺すぞ」

 

「ぉあ! ビックリしたぁッ」

 

その部屋は、普段神田も寝泊まりする部屋だった。同居人は1年後輩の神崎良太(かんざきりょうた)という男だ。元刑事の自衛官で、26歳入隊という遅咲きの者だ。

 

「良太、またモシモシタイムか? 楽しいのは分かるが電気は消せ」

 

「あぁ、ごめんごめん」

 

人懐っこい笑顔で良太は謝った。後輩にタメ口をつかれて神田が怒らないのは、良太が同級生だからだ。

 

「今さ、神田さんに怒られちゃったよ。電気消せって。そうそう。こないだ一緒に飯に行った人」

 

神田は良太とその彼女、靖子(やすこ)と共に1度食事をした事があるが、靖子には母親のような包容力があって話が上手かった。妻に迎えるならこんな人がいいなと神田も思ったものだ。

 

「とりあえず消すからな」

 

神田は部屋の電気を消す。携帯電話の明かりで良太の顔が暗黒に浮き上がる。本当に靖子の事が好きなんだろう。頬が弛みっぱなしだ。

 

「ま、ほどほどにな」

 

良太は気さくに手を振り、神田を見送った。

 

一仕事終えた神田は携行した無線機で警衛所へ一報を入れ、持ち場の分哨(ぶんしょう)に戻る。

 

分哨長を任されている神田は通常分哨から動けないが、今は仮眠時間として割り当てられている。23時から3時までが神田の仮眠時間だ。良太を少しからかってやろうという稚気(ちき)からわざわざ睡眠時間を削っている。

 

神田は分哨に着くや防弾ベストと89式小銃を格納し、仮眠を取った。

 

 

✴︎ ✴︎ ✴︎

 

 

神田が次に目を覚ましたのは2時40分だ。まだ15分は寝られる。

 

しかし何故か無性に煙草が吸いたくなった。分哨脇の喫煙所へ行き、ウィンストンに火を点ける事にする。

 

唇をすぼめ、紫煙を吸い込む。夜はよく音が通る。昼間には聞こえない葉っぱが燃える音が日没のしじまに浸透する。

 

「今日はお月さんも休みか」

 

夜風に吹かれながら、神田は辺りを見渡す。

 

月が出ていないため天然の明かりは皆無だ。街灯により等間隔で闇が切り取られているだけだった。

 

「襲撃するなら、今日とかがベスト……かもな」

 

神田は独りごちる。

 

今世間ではある事件が大注目を集めている。謎の革命戦士による国家への攻撃だ。未だ犯人達の目的は判明せず、世論は割れに割れている。

 

神田はスマートフォンからニュースアプリを起動させた。

 

見出しのトップは大物歌手が麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたというものだ。

 

下らん。

 

即座に画面をフリックし、他の記事を探す。

 

『自衛隊攻撃の犯人は、北朝鮮の特殊部隊⁈』

 

そういう見出しもあれば、

 

『弱すぎる自衛隊。彼らは本当に必要なのか⁈』

 

という民意を煽るような記事もあった。いずれも妄言の域を出ない素人の意見ばかりだ。

 

アプリを閉じ、神田は煙草を咥える。

 

犯人は、確かに阿形豪(あがたごう)だった。見間違える筈がない。神田は初めて阿形を見たときに、自販機が歩いているのかと思ったのだ。阿形は、空挺団迫撃砲小隊に所属していたレンジャー隊員で、コガ・タクティカルトレーニングセンターにてエクストリームキルハウスをクリアした最初の男として、その筋では有名だ。

 

自衛隊除隊後1年はトレーニングセンターに顔を出していなかった。

 

それがまさか、こんな形でお目にかかる事になるとは。

 

阿形豪と同期の真柄(まがら)三曹はどう思っているのだろう。神田の脳裏に疑問が浮かぶ。

 

しかし、神田から見て阿形は危ない人間に映ったならば、それをそばで見てきた真柄三曹は身をもって痛感していた筈だ。

 

真柄三曹は除隊後、腕を見込まれてアメリカのタクティカルトレーニングスクールに教官として渡米している。今回のこの騒動をどう思っているだろう。

 

神田は短くなったウィンストンを揉み消して、分哨に戻る。

 

「異常?」

 

「なし」

 

「よし。寝ろ」

 

入れ替わりに仮眠となる隊員から現状を引き継ぎ神田は警衛任務に戻る。

 

防弾ベストと89式小銃を取り出し、細部を点検。弾倉も残弾が寝る前と変わっていないかチェックする。

 

神田は時刻を確認する。午前3時8分。

 

「おい。定時連絡の時間過ぎてんぞ。警衛所に報告したか?」

 

「あ! すいませんまだです」

 

「バカタレ。眠いのは分かるがな–––」

 

しかし神田はそこではてと思い至る。

 

「なんで向こうからの催促がねぇんだ」

 

定時連絡がなかった場合、大抵は警衛所が異常発生と見積もりコンタクトを図るものだ。

 

「そう言われてみればそうですね。今回の司令はミリミリやる海堂(かいどう)一曹ですもんね」

 

神田の脳裏に襲撃の2文字が浮かぶ。

 

「襲撃かもしれない。心積もりしておけ」

 

一緒に分哨に詰めている若手陸士は明らかに怯む。

 

「インターホンで呼び出してみろ」

 

「は、はい」

 

陸士–––確か名前は池上だったか–––は恐る恐る警衛所を呼び出す。

 

2度、3度と分哨内に呼び出しの機械音が鳴る。だが、警衛所が応答することはなかった。

 

神田は内線でも警衛所へ連絡を入れてみた。しかし、内線番号を入力しても送受器はツーツーとなるばかりで一向に警衛所を呼ぼうとしない。

 

「非常事態だ。弾薬を全装填。さっき仮眠に入った奴を起こして来い」

 

池上の顔に緊張が走る。返事をするのも忘れて神田の命令を実行すべく席を発った。

 

神田は当直の長となる当直司令に警衛所との連絡が途絶え、これより確認に向かうという一報を入れる。

 

正直、ただの機械の破損であってほしいところだ。

 

配置中は使用を禁止されているスマートフォンを取り出し、海堂一曹の携帯電話を呼び出してみる。コール音が鳴るが、やがて留守番電話サービスに繋がってしまう。

 

くそ! 一体どうなってるんだ。

 

自衛官は携帯の着信を逃す事はまず無い。勤務中となれば尚更だ。使用禁止といえど何か緊急の連絡があるかもしれない。いつ有事が発生し呼集を掛けられるかわからないため、自衛官は休暇中といえど肌身離さずに携行するものだ。

 

人にも自分にも厳しい海堂一曹が1番激昂するのが連絡手段を確保できないという失態だ。

 

ますます襲撃を掛けられた線が濃厚になる。

 

音が通りやすくなる夜間。外は銃声どころか物音1つ発生していない。

 

一体、何が起こっているんだ。

 

神田は生唾を飲み込んだ。冷や汗が背筋を不快に伝った。

 

✴︎ ✴︎ ✴︎

 

–––神田が異常に気付く20分前–––

 

2人の男が練馬駐屯地の正門に近いていく。

 

1人は胸板が自販機ほどの厚みを持つ巨漢で、もう1人は対象的にスタイリッシュに服を着こなす2枚目の男だ。

 

どちらも酒に酔ったような足取りで大きなコンビニの袋を2つずつ携行している。

 

警衛所に詰めている者は正門に向かって歩いてくるその2人組を認め、1人が対応に出て行く。

 

「おつかれさん」

 

勤務者に対して、巨漢は愛想よく労をねぎらう。

 

そうして、2人組は身分証を提示する。勤務者がそれを確認した。

 

「はい。お疲れ様です」

 

勤務者は正門を開き2人を入門させる。

 

「あぁこれ、差し入れ。みんなで食べな」

 

そう言うと巨漢は勤務者にコンビニ袋を2つ差し出した。

 

「はい。ありがとうございます」

 

更に巨漢はスタイリッシュな男の方へ顎をしゃくり、

 

「こいつの持ってる物もだよ。でも大変だよな。警衛所まで持ってってやるよ」

 

と大仰に言った。

 

「ありがとうございます。助かります」

 

勤務者は自衛官2名を伴い警衛所まで歩いていく。スタイリッシュな男は周囲を気にしているようで、先ほどから頭を巡らせ続けている。

 

警衛所には今日上番している部隊名と警衛司令の名前が書いてある。巨漢はそれを確認して中へ入った。

 

「海堂一曹。お疲れ様ですね」

 

「おう。そんなにたくさん悪いんだが、お前さん見かけねぇ奴だな」

 

「今度1中隊に異動する事になりました、阿形豪(あがたごう)っていいます」

 

「ん? この時期にか。聞いてねぇな。でもお前さん、こんな時間に普通来るか」

 

「そりゃ来ないでしょうね。常識的に考えて」

 

「は? 分かっててやってんかお前。舐めてんのか」

 

海堂一曹の顔が阿形の慇懃(いんぎん)な態度に般若(はんにゃ)のように歪む。

 

「わたし、最近世間を騒がしている者でして–––」

 

阿形はコンビニの袋の中からKA-BAR(ケイバー)ナイフを取り出し、海堂一曹の喉を一閃。

 

「常識の埒外にいるんですよ。クソジジイ」

 

他の勤務者が色めき立つ前にスタイリッシュな男は既に1人の喉を掻っ切っている。

 

残る1人が緊急発令のボタンを押そうと駈け出すが、阿形はその勤務者に向かって大きく振りかぶる。KA-BARナイフが豪速で飛んでいき、太腿(ふともも)に突き刺さった。前のめりに若者は倒れ込む。阿形は若者が喚く前に脇腹を蹴り上げた。痛みに呻くしか出来ない声帯を岩のような手で鷲掴みにし、怪力で締め上げる。あっという間に若者は失神した。

 

阿形はナイフを引き抜く。

 

「チーフ。上は頼んだ」

 

「ああ」

 

チーフは詰所の奥へ。階段を登り2階の仮眠室へ押し入る。

 

4つのベットにはいずれも膨らみがある。

 

チーフはそれら1つ1つに刃を突き入れていく。仰向きに寝ている者には眼窩(がんか)へ。うつ伏せの者は脳髄へ。横臥の姿勢の者にはこめかみへ。

 

まるで書類に判を押すような動作でもKA-BARナイフは人体を貫く。流石はアメリカが制式採用したナイフといったところか。

 

チーフは仮眠室を制圧すると他の部屋を点検する。ここにいる人間には全員死んでもらう。

 

更に殺し、殺した。KA-BARナイフが血に染まるほどチーフの心にも(くら)いベールが掛けられる。

 

チーフが下に戻る頃には阿形がインターホンや内線を使用出来ないように有線を切断していた。死体は1カ所に集積されている。

 

「さてさて、神田君はどこにいるかね」

 

阿形は失神させておいた先ほどの若者の頬を叩いた。

 

若者はぼんやりと焦点の合わぬ目で対面の阿形を見上げる。

 

「おい。1中隊の隊舎はどこだ」

 

若者は痛みに呻き、状況を思い出したようだ。敵意を剥き出しの目で阿形を睨めあげる。

 

「なかなか根性のある奴だな」

 

阿形は無造作に髪を引き掴み、若者の鼻に拳をめり込ました。

 

骨の折れる鈍い音が詰所に鳴る。

 

「1中隊の隊舎はどこだ」

 

阿形の詰問だが、若者は痛みに喘ぐのに必死だ。舌打ちをして、阿形は若者の手を机の上に置きナイフで串刺しにした。喉元へ手刀をめり込ませ、叫べないようにする。

 

「1中隊の隊舎はどこだ」

 

若者は残る片手で警衛所から見える隊舎を指差す。

 

「助かりたいか?」

 

阿形は涙に、苦痛に顔を歪める若者に問う。この問いに若者は懇願するように首を縦に振った。

 

「そうか」

 

阿形はそう言って手の甲に刺したナイフを引き抜いてやる。

 

「これが救いだ」

 

チーフが即座に若者の後頭部にナイフを突き入れる。若者の目が見開かれ、瞳から光が消えた。

 

「くわばら、くわばら。Amazonで買えるナイフで、これぐらいは出来るんだから、誰にだってこれくらいやろうと思えば出来る世の中なんだもんな」

 

「行くぞ」

 

チーフは素早く目的を達成させたいようだった。阿形の狂言には耳を貸さない。

 

「さて、神田君はどう出るかね」

 

下卑た笑みを浮かべる阿形。チーフは警衛所から出ようとする。しかし、開け放たれた扉の前にはこちらを見つめて固まっている1人の陸士がいた。

 

いつから居たのか。

 

この陸士は89式小銃を提げていて、無線機を肩から吊っている。

 

「分哨から来た者か。こういう時、どうするか訓練されてないのか?」

 

チーフはその陸士に詰め寄る。

 

「動くな!」

 

その陸士は慣れない動きで小銃を構える。可愛い声で、一生懸命に威圧しようとしている。だが、構えると同時にしっかりとセレクターを操作しいつでも撃てるようにする練度は持っているようだ。

 

それを見咎め、1度は止まったチーフだが、もう1歩踏み出す。

 

「動くな! 撃つぞッ」

チーフは立ち止まり、

 

「いいぞ撃て。お前にその覚悟があるのならな」

 

「……」

 

途端に陸士は押し黙る。

 

「どうした。腰が引けてるぞ。さぁ、戦闘照準だ。この距離だから、中距離射撃の時より照準を上向きに修正して撃つんだ。簡単だろう。引き金を絞るだけだ。鼻筋と眉毛の交点を撃てば、人間は簡単に死ぬぞ。お前に人が殺せるか? 毎夜夢にうなされる覚悟があるかッ!」

 

チーフの恫喝に、萎縮してしまった陸士はわなわなと震え出し、1歩1歩と後退する。それを追従するようにチーフは1歩踏み出す。

 

「動くな。う、撃つぞ」

 

「何を言ってるんだ。お前、普通科隊員だろう。89式は『ア』じゃ撃てない事くらい知ってるだろう」

 

「…………?」

 

陸士はしっかり「タ」になっている89式を構えているのにも関わらず、敵の宣伝に乗せられて目線を下げる愚行を犯してしまった。

 

「間抜けが」

 

チーフは目にも止まらぬ早さで間合いを詰めた。陸士の持つ89式を両手で捕まえ引き込む。

 

バランスを崩し前のめりになる陸士。チーフは相手の小銃を今度は押し込み、照準具の凸部分で相手の眼球を潰した。

 

痛みに硬く89式を握った陸士はチーフの巧みな崩しと投げにより1回転。背中からコンクリートに叩きつけられる。

 

「おお。どっかのビッグボスみたいだな」

 

チーフはトドメの1撃を陸士の潰れた眼球に叩き込む。銃口をねじ込み脳を破損させたのだ。

 

ヌチャっと生々しい音を立て銃口は抜かれる。

 

阿形は陸士が持っている無線機を奪いプレストークボタンを押した状態でビニールテープを持ってグルグル巻きにする。同時相互通信の出来ない他の無線機は、これだけで使用不能になる。

 

2人は目出し帽を被り堂々と1中隊の隊舎へと歩いていった。

 

✴︎ ✴︎ ✴︎

 

分哨の神田は1人残り若手の陸士を警衛所まで遣わせた。

 

しかし、そろそろ連絡があってもいい頃だ。

 

神田は無線機で陸士を呼び出す。しかし、応答はない。いや、それどころか、プレストークボタンを押した際の機械音が鳴らない。今度は無線機も不調なのか。

 

焦れったい。一体何が起こっているんだ。

 

神田は深呼吸をする。これは明らかに異常事態だ。

 

迷っている暇はない。弾かれるように分哨から飛び出す。

 

鉄帽に防弾ベストも着用し、手には小銃。ベストのMOLLYシステムには弾倉を入れる弾のうが4つくっついていて、いづれにも実包が込められている。

 

総重量20kgにも達しようかという重装備で神田は走る。

 

だが、胸にダイヤモンドの徽章を持つ神田はこの程度ではへばらない。

 

概ね駐屯地の反対側の警衛所までを走破したが、神田は休む事なく状況を把握しようと行動を起こす。

 

だが、立ち竦んだ。

 

まず目に付いたのは死体だ。コンクリートの上で仰向けに倒れるそれは眼窩を何かに貫かれ脳を破損されている。

 

明らかに死んでいた。

 

本物の死体は想像とは全く違った。神田は災害派遣などで遺体を見た事はある。だが、”殺された”死体はそれらとは全く異質で禍々しさを感じさせる。見たくもないのに、神田は死体からなかなか目が離せずにいた。こいつは分哨から送った2人の内の1人だった。

 

「か、神田三曹……」

 

その時、神田を呼ぶ声がした。細く、今にも消え入りそうな声だった。

 

神田は辺りを見回し声の主を探す。

 

「池上か」

 

急いで駆け寄る。池上は物陰に身を潜ませていた。怪我はないようだ。

 

「一体何があったッ?」

 

「ふ、2人組の……男が…………」

 

池上はそれきり押し黙る。精神的ショックを受け、顔面蒼白だ。こいつはもう使えない。

 

「そいつらは、何処に行った?」

 

池上が緩慢な動作で指を差す。1中隊の隊員が寝泊まりしている隊舎の方向だ

 

「分かった。お前は隠れていろ」

 

神田は89式小銃を握りしめ隊舎へ入って行こうとした。

 

だが1つ、電気の光が漏れている部屋を見つける。23時過ぎに神田が消したはずの部屋に電気が点いている。

 

胸中は決して穏やかではない。犯人は、阿形は恐らく自分を殺しに来ている。神田も阿形に続くようにエクストリームキルハウスをクリアした1人だからだ。計画実行の妨げになると踏んで排除しに来たのだろう。

 

だとしたら今あの部屋には良太しかいない。

 

神田は全速力でその部屋に向かい走った。

 

✴︎ ✴︎ ✴︎

 

チーフを先頭に2人は隊舎の階段を登っていく。

 

大抵、陸曹の部屋は上層にある。迷う事なく4階へと足を運ぶ。

 

廊下を進むと、ほどなくして「神田悠紀」の表札を見つける。2人は無遠慮に中に入り電気を点けた。2つあるうちの1つのベットはよく整頓された状態で空となっている。もう1つの方には誰かが寝ているようだ。

 

寝ているそいつは電気が点いたというのに起きもせずにいまだ床に伏せたままだ。こいつは神田じゃない。

 

チーフは迷う事なく寝ている男をベットから蹴り飛ばした。

 

「神田はどこだ」

 

冷徹に、感情の一切を排斥しチーフは問う。

 

転げ落ちた男は目を覚ます。だが、まるで約束事のように現状を理解出来ずに唖然とする。

 

どいつもこいつも間抜けな顔を……。

 

「もう1度だけ聞く。神田はどこだ」

 

「か、神田っちは今日は警衛です」

 

「今の時間ならどこにいる」

 

「そ、それは分からないです」

 

「そうか……」

 

チーフは男に近づく。

 

「なぁお前。どうして蹴られた俺に敬語なんか使ってんだ。なんで簡単に口割ってんだ。てめぇそれでも自衛官か」

 

「え……あの、え……?」

 

「お前に自衛官は務まらねぇよ」

 

チーフは男の髪を鷲掴みにしてKA-BARナイフを顎下から頭頂に向けて突き立てる。

 

「自衛官は危険を顧みずに困難に立ち向かうんだ。お前は俺たちという脅威にへいこら頭を下げやがって。どういうつもりで国防をやってんだ」

 

「チーフ。死人に口なしだぜ」

 

「まぁいい。こんな穀潰しは死んだ方がマシだ」

 

チーフはナイフを引き抜き、部屋を出ようとする。だがその時、乱暴に部屋の扉が開け放たれた。

 

「良太ッ!」

 

入ってきたのは、チーフと阿形が探し求めた男、神田だった。

 

✴︎ ✴︎ ✴︎

 

神田は階段を2段飛ばしに駆け上がる。

 

自室への行き方は体が覚えている。神田はフルスロットルで体を動かす事に専念する。

 

4階にたどり着くと、1部屋だけ明かりが漏れている。間違いなく、自分の部屋だ。

 

「良太ッ!」

 

扉を開けるや神田は叫んだ。

 

だが、中に良太はいなかった。代わりに彼のベットの近くには目出し帽を被った長身の男が1人いる。手にはナイフが確認出来た。

 

目出し帽の男が1歩動く。すると、壁にもたれている良太が見えた。

 

「てめぇッ!」

 

良太が既に死亡しているのは一目見てわかった。神田の頭に血が登る。

 

一気に89式小銃を構える。構えるコンマ数秒の内にセレクターは「ア」から「レ」へ。

 

神田ほどの熟練者ならば、至近距離では照準器を使わなくとも100発100中命中させる事が出来る。感覚で銃口がどこを向いているか分かるからだ。

 

迷う事なく引き金を絞る。銃機関部内の撃鉄が打ち下ろされ、撃針が5.56mmNATO弾の薬莢底部を打撃。衝撃に薬莢内のガンパウダーが炸裂。弾頭が射出され、銃身内の施条により旋回運動を得る。回転する弾頭はジャイロ効果により直進性を高められ、真っ直ぐに目標を破壊すべく大気を切り裂く。

 

銃声と窓ガラスが破砕する音が重なる。

 

長身の男は微動だにせず笑みを口に浮かべている。

 

「阿形ァッ!」

 

「神田ぁ。思っ切りいいじゃねぇか」

 

阿形は横から神田が構えた89式を握り、僅かに狙いをズラさせていた。

 

「てめぇらはぶっ殺す!」

 

「いいぞ神田ぁ。出来るのならな」

 

阿形は神田の腹に蹴りを入れ力ずくで89式を引っ手繰る。

 

神田も粗悪品のスリングは取り外している。それが仇となり、今回は銃を奪われた。

 

阿形は銃口を握り、小銃を棍棒(こんぼう)のように振るった。空気を殴る無骨な音が神田の頭上を通り過ぎ、銃床はロッカーにぶち当たった。まるで2階から落とされたかのようにロッカーは変形している。それを首に食らえば頭がもげていただろう。これは訓練では無い。些細な判断が生死に直結する最悪のデスゲームだ。

 

神田は鍛える事の出来ない人体の急所を狙い脚を蹴りだす。脛や鎖骨、前腕部は骨が表皮に近いため筋肉の鎧をつけようにも限度がある。1撃で活動を継続不能にする箇所を攻撃する。相手を制圧するためならば、親でも何でも使う。

 

だが阿形もそれを熟知している。故に相手の狙いが読めた。神田の蹴りに自らの蹴りを合わせ姿勢を崩しにかかる。

 

思わずたたらを踏む神田を容赦なく追従。阿形は剛拳を防弾ベストに叩き込む。姿勢を崩した直後を狙う抜群のタイミングで繰り出される正拳を避ける事は、神田には出来ない。

 

神田は冷静にこれを手でガードする事をせずに腹で受け止める。ここで下手に腹部を庇い腕を負傷すれば、今後の展開に悪影響だ。何より、腹部には防弾プレートが–––。

 

神田の思考をバキッという何かが折れる音が遮る。弾丸を防ぐプレートが拳打で割れたのだ。神田は思わず吹き飛ばされる。

 

壁に背中を強打。空気が肺から捻り出され一瞬息が詰まる。

 

「神田ぁ、そんな格好で俺に勝てんのか?」

 

「上等だデブが」

 

神田は下から阿形を睨め上げながら防弾ベスト、鉄帽を放り投げる。

 

ステップを踏んでからファイティングポーズを取る。

 

体は軽い。これなら行ける。

 

ゴングもレフェリーもいない。まずは神田から打って出た。

 

牽制で左ジャブ。阿形はミット打ちを行うコーチのようにこのジャブに掌打を合わせてきた。

 

「またこうやってお前に格闘を教える事になるとはな」

 

コガ・タクティカルトレーニングセンターでは常に神田の前には阿形がいた。神田が初級者の時阿形は中級者だったし、神田が中級者になれば阿形は上級者だった。

 

いつも、越えられない壁だった。だがそんな事は関係無い。今神田は自衛官で、阿形はテロリストだ。負けるわけにはいかない。状況が、それを良しとしない。

 

阿形が喋っている間に、神田は右のローキックを放つ。自衛隊式の、ブーツのつま先の硬い部分をぶち当てる残酷な蹴りだ。

 

これには阿形も警戒した。脚を上げローキックをカットしようする。だがこれはブラフだ。本命はこめかみにねじ込むハイキック。

 

下へ打ち下ろすようなローの軌道から、膝が鞭のようにしなり突如として天を()くようなハイの軌道へ変化した。阿形が目を見開きハイキックに気付いた瞬間には鉄板入りのブーツのつま先がこめかみに突き刺さっている。

 

聞くに堪えない鈍い音が鳴る。阿形の巨体から嘘のように力が抜け、前のめりに倒れる。

 

「1年間何やってたんだデブが。自衛官を舐めんじゃねぇ」

 

神田はエクストリームキルハウスをクリアしてから、コガ・タクティカルトレーニングセンターで学ぶ事が無くなってしまった。故に、彼は研究をしていた。元SEAL隊員の教官と共に様々な状況を仮定し、何がベストで、何がワーストかを探求していた。

 

このローからのハイへの軌道変化はカポエラからの着想を得て作り出した技だ。技のキレを増すためには膝の柔軟性が必要だった。神田は毎晩ストレッチをするが、この技を編み騙してからは膝折りという苦行をするようになった。反りもしない方向へ力を加え続け、膝の可動域を増やしていた。

 

神田は長身の男へ向き直る。

 

「次はお前だなモヤシ野郎」

 

長身の男は鼻で笑った。だが、どうやら逆鱗に触れる一言だったようで男の目つきが明らかに変わった。底冷えするような酷薄な眼光に、神田の脳内に警報のアラームが鳴る。

 

目を見ただけで、死を覚悟した。まるで斬り付けるような鋭い眼光に口の中がカラカラに干上がる。

 

対し長身の男はリラックスしているようだ。何の気負いも感じさせない足取りで神田との間合いを詰める。

 

得体の知れない恐怖に、汗が止まらない。これが戦場の空気だ。早く慣れろ神田悠紀。神田は自分に言い聞かせる。

 

対面のテロリストを睨みつけ、ファイティングポーズを取る。テロリストも半身になる構えを見せる。

 

両者共に動かない。張り詰めた静謐(せいひつ)とも取れる空気が部屋に蔓延(まんえん)する。

 

これは、先に動いた方が負けるというやつか。

 

神田はフィクションの世界でよく聞く状況に追い込まれた。だが、神田にすれば時間はいくらでもある。対しテロリストはどうか。何らかの形で警衛所の惨事が通報されれば、あっという間に包囲されるだろう。風の噂では犯人は200人の警察の包囲網を潜り抜けたと聞くが、今こいつはナイフ1本しか持っていない。協力者の阿形はしばらく真っ直ぐに立つことも出来ないに違いない。今度は1人で自衛隊と警察の包囲網を突破する事になる。

 

そう考えると神田にも精神的な余裕が出てきた。

 

口内に唾が出てきた。生唾をゴクリと飲むが、直後にテロリストの掌打が額を擦過する。

 

あまりに唐突な攻撃。瞬間移動かと見紛うほどの速さ。ノーモーションで繰り出されたとは思えない力強さに戦慄が走った。

 

神田はただ反射で体を後傾させていた。攻撃だけは避けているが不完全な体勢に追い込まれ、これ以上の回避行動は出来ない。長身のテロリストはそれを見込み、更に踏み込む。脚を神田の股間に差し込んで、上から鉄槌を打ちおろす。

 

煌めく刃が目に入った。ただの鉄槌では無い。逆手に持ったナイフが神田の喉を貫こうと落ちてくる。

 

辛うじて両手を出す。クロスさせた両手で、相手の手首を捉える。

 

神田は反撃に転じようとする。だがどうした事か。相手の脚が自分の急所に当たっているだけで余計な心配をしなくてはならない。

 

その迷いを見出したテロリストは拳を神田の脇腹にねじりこんでくる。臓器を狙ったものではなく肋骨を折る為の1撃だ。盛大に枯れ木が折れるような音がして、神田の下肢に力が入らなくなる。

 

ナイフが神田の喉に迫る。

 

テロリストは更に2発、立て続けに拳を同じ箇所に打ち込む。

 

耐え難い激痛が脇腹だけでなく体内でも発生する。折れた骨が内臓を傷付けているのだ。

 

ナイフの切っ先がとうとう喉に触れる。

 

このままではいずれ殺られる。

 

どうせジリ貧だ。神田はデスゲームで起死回生を狙いギャンブルに出る。

 

思い切ってグラウンドに相手を引きずり込んだ。相手の手首と襟元を掴み、全体重をかけるように後ろに倒れる。股間に差し込まれていた脚は両足で絡め取った。

 

だがテロリストはグランドになると、即座に力で神田の手を振りほどき、上体を起こしてホールドを逃れる。マウントを取られた。

 

思惑は早くも外れる。テロリストは上から容赦なくナイフと拳を振り下ろしてくる。

 

神田はどうしてもナイフが気になってしまった。コガ・タクティカルトレーニングセンターでの訓練ではゴム製のナイフを使用し、徒手でも対処できるよう鍛えたはずだった。10人が次々と襲い来るリボルバーローテーションという徒手訓練において、教官さえも抑えられた神田だが、実戦で本物の刃と純粋な殺意を向けられれば、心に余裕がなくなった。神田自身、そんな自分に落胆するが、今はそんな事を考えている時ではない。

 

テロリストの拳が狡猾に脇腹を襲う。

 

ナイフをブラフに拳が幾度も脇腹を攻撃してくる。神田はそのうち咳をするようになった。口からは血が吐き出される。喀血(かっけつ)だ。肋骨は気道系を傷付けて出血させている。喀血は放っておくと窒息死の危険性がある。フィクションではよく見る喀血だが、実際に起こればかなり危険な状態だ。

 

神田は焦燥に駆られた。逆にテロリストには余裕が生まれる。形勢は逆転した。

 

神田には必殺の1撃が必要になった。この逆境を1発で覆せる強力な1撃が。

 

脳内に、今までの思い出が走馬灯のように現れては消えていく。いや、実際に走馬灯を見ていた。

 

走馬灯は命の危機に際し本能が脱出の手段を見つけるために起こる現象だとされている。

 

だが、自衛隊入隊をしてから、現在に至るまでの記憶を見ても、逆転の1撃の天啓は降りなかった。

 

クソ。何をしようにも、糞を挟んだサンドイッチを食べるような物だと、訳の分からない事を神田は考えた。どっちから食べようとも、どうせ糞を食う羽目になる。

 

上半身は脇腹の痛みに全てが麻痺したかのようだ。指先に力が入らない。

 

くそったれ。

 

最後の悪足搔きに異常なく動く脚を動かした。するとスポッと右膝がハマった。

 

神田は先ほどやられたテロリストの攻めを思い出した。走馬灯が見せなかったその部分を。

 

相手の動きも鈍ったようだ。

 

それは男が共通する弱点だ。本物の急所だ。

 

神田は生を掴むため、容赦なくその手を使った。

 

テロリストは手足が長いモデル体型だった。膝立ちの姿勢で攻勢に出ていたのが災いした。膝を立てれば、丁度急所に入ってしまう。

 

神田は親の仇とばかりに膝を立てた。悶絶するテロリスト。

 

体をくの字に折るテロリストのこめかみにショートフックをねじ込む。下から、更に打撃を加える。相手の体から力が抜けた所で、神田は体を滑らせ、靴底で相手の腹を蹴り飛ばした。

 

動くたび、ズキズキと脇腹は痛む。脂汗がTシャツを不快に肌に張り付ける。

 

思わず片手を脇腹に添える。

 

呼吸をするのにも、相当な労力を要した。片肺が潰れているようで、全く酸素が足りない感じだ。だが息を吸えば激痛に襲われる。そんなジレンマの中で、神田はまだ立ち上がるテロリストと対峙する。手先に力が入らないのか、敵はナイフを床に置いている。しかし、最悪の状態である事は変わらない。

 

自衛官は事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務める。

 

たとえこの命尽きようとも。

 

自衛官の後ろに壁は無い。なぜなら、国外からの武力に対抗しうる唯一の存在だからだ。自衛官こそ国を守る最後の砦だ。突破されれば、家族や友人、国民が忌むべき存在に蹂躙(じゅうりん)されてしまう。平和な日本を(おびや)かすクズ野郎は、この手で排除する。

 

神田は自衛官とはかくあるべきと不退転の決意で1歩踏み出す。

 

テロリストは先程までのキレがないにしても、それでも冴えのある強力な打撃を打ってくる。

 

だが、現状の神田でも反応の出来る速度だ。相手は同等に弱っている。

 

あとは気持ちの勝負、胸のダイヤモンドが輝く時だ。

 

神田の左を掻い潜り、テロリストは胸板に掌打を打ち込んできた。脇腹の激痛とは別に、心臓を打たれた事で神田の動きが鈍る。

 

テロリストはトドメとばかりに右ストレートを打つ。神田は玉砕覚悟でその拳に頭突き。星が散る。

 

打撃点をずらされた事により、威力は概ね半減しているはずなのにこの衝撃。

 

額から血が伝うが、お構いなしに神田は踏み込む。アドレナリンの効果か、脇腹の痛みは和らいできている。

 

しかしそれはテロリストも同様のようだ。コンバットハイに陥った2人の戦士が素手で殴り合う。

 

神田はノーガードで捨て身とも言える無謀さで攻勢に出た。

 

脇腹に打撃を許すが、痛みは自然と感じなかった。

 

神田は相手を全力で殴り付けた。ガードされようが構わずに殴る。敵の腕を壊すつもりで、振りかぶる。

 

3発も打ち込めば、敵は腕を上げられなくなった。

 

目には目を。神田は強烈なボディブローを打つ。拳がテロリストの体にめり込み、骨を折った感触。

 

神田は最後の仕上げに、得意のコンビネーションを食らわせようとする。左手で相手の襟首を、右手で相手の手首を掴み、投げを繰り出そうとした。

 

しかし敵は体を反らし、それに耐える。テロリストは神田の頭突きにやられた拳が空いているが、使うのを渋った。

 

テロリストは投げに対し踏ん張って反らした上体を振り子のように戻し頭突きを繰り出すが、それを読んだ神田も頭突き。

 

鈍い音が響き、両者の額が裂ける。元から裂けていた神田の額はパックリと開いて、出血が止まらなくなる。

 

顔を朱に染めた神田は、さながら赤鬼だ。

 

テロリストは気圧されたのか、一瞬動きを止めた。それを見逃す神田ではない。

 

柔道の「崩し」で敵のバランスを乱そうと振り回す。だがテロリストはそれを逆手に取り神田の膝裏に自らの膝裏を密着させ、大内刈りを掛ける。相手の攻めを諸刃の刃に転ずる見事な技巧だった。

 

倒れた神田に、テロリストは蹴りを入れる。無論、何度も殴った脇腹にだ。

 

神田は痛みに呻いた。

 

テロリストは好機と見て、(かかと)を相手の喉に振り下ろそうと打ちおろすが、神田は突如として上体を起こしタックルを仕掛ける。

 

テロリストは勝負を焦った。

 

死んだふりならぬ、痛いふりだった。実戦での駆け引き。このギャンブルは神田の勝ちだった。

 

神田はまんまとマウントを奪い、即座に拳を振り下ろした。

 

1発、2発と顎を抉るように打って脳を揺らす。

 

今度こそ、テロリストの体はグッタリとする。

 

だが、意識はまだ保っているようだ。目にはまだ光が宿っている。

 

タフな奴だ。認めざるを得ない。

 

神田は、テロリストの目出し帽を剥ぎ取った。

 

空前絶後のテロ事件を起こした犯人の顔を拝んでやろうと思ったからだ。

 

テロリストは目出し帽を取られて、真正面から神田を見上げた。

 

「な…………」

 

神田の心臓が高鳴る。脳内がパニックに陥る。電撃に打たれたような衝撃だった。

 

「よお……神田。強くなったじゃねぇか」

 

「ど、どうして。真柄(まがら)、三曹…………」

 

思った事を素直に口にする。

 

神田は後悔した。覆面は取らなければ良かったと、数瞬してから思った。

 

自衛官を、警察官を殺して日本に甚大な被害をもたらしていたのは、神田の恩師、真柄だったのだ。

 

神田に自衛官とは何たるかを叩き込んだ、真柄三曹その人だ。

 

真柄三曹の教えがあったからこそ、神田はこの国を守る為に自らの命を危険に晒しても構わないと思ったのだ。

 

肋骨を折られようと、命に代えてもテロリストを止めると不倶戴天(ふぐたいてん)の決意が出来たのだ。

 

その真柄三曹が、日本を攻撃していた……だと。

 

「神田、退いてくれねぇか。重い」

 

神田は訳も分からず体を退かした。

 

「どうして……なんですか? 真柄三曹」

 

神田は化かされたかのように放心状態となっている。ずっと信じていた尊敬する人に裏切られた気分だった。

 

「時間はあるだろう。ま、話を聞いてくれるか?」

 

神田は停止した思考で、真柄三曹の話に耳を傾けようとする。

 

何が何だが全く分からない。

 

神田は食い入るように話を聞いた。


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