鏡花少年が鏡花ちゃんになったお話。   作:星里有乃

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鏡花少年が鏡花ちゃんになったお話。

 泉鏡花は男性である。

 

 

 男性と云っても年頃はまだ13、4といったところで少年という表現の方がしっくりくる。

 

 ポートマフィアに加入してきた鏡花少年は、いわゆる『美少年』と呼ばれる部類の顔立ちで、華奢な体格であるせいかまるで『美少女』のようだった。

 

 

 鏡花少年の異能はかなり強力な攻撃能力を持っているが、小柄な美少年は何かと目立つのか、ターゲットにすぐに存在を察知されてしまい、鏡花少年は未だにポートマフィアの任務をうまくこなせていなかった。

 

 

 芥川はなかなか進まない、鏡花少年の任務に業を煮やしていた。折角の強力な異能もこのままでは宝の持ち腐れである。

 

 

 穏やかな午後の昼下がり……芥川が、イライラしながらポートマフィアのアジト内にあるテレビのリモコンをつけると、バラエティ番組が放送されており、横浜市内にあるリストランテの人気スウィーツが紹介されていた。

 

 

『何でもこのリストランテは、女性限定メニューのチョコレートケーキが人気で女性客しか食べれないんですよー』

 

 画面には、白い花が添えられたチョコレートケーキが映っている。どんなに美味しくて人気があっても、女性にしか販売しないのでは男である自分は食べることが出来ないじゃないか……!

 

 

『えーでもそんなに人気なんじゃ、男性のスウィーツ好きもチョコレートケーキ食べたいですよねぇ……』

 

 

 テレビの中で男性タレントが芥川の……いや、視聴者の心情を代弁した。

 

 

『そんな方に朗報です! 当店では、期間限定で女性同伴で来店された男性には、限定チョコレートケーキを無料でご提供しております。ぜひいらして下さい!』

 

 

 アナウンスとともに、リストランテ内の客の様子が映し出される。

 

 芥川の幻視でなければ、画面内にはヘラヘラした表情の自殺マニア太宰が、大きな花かざりを頭につけた白い髪の美少女とともに限定ケーキを頬張って、横浜ライフをエンジョイする姿が映っている。

 

 おそらく、女性の同伴者ということで限定ケーキをゲットしたのだろう……。

 

(……! 太宰……さん……!)

 

 

 芥川は自分よりも先に限定ケーキを美味しそうに食べる太宰の姿を画面越しに確認し……そしてある策を思いついた。

 

アジト内のキッチンで、湯豆腐を食べていた鏡花少年を捕まえて、女性用の着物と花の髪飾り、萌えオプションのウサギのぬいぐるみを突きつけ鏡花少年に言い放った。

 

 

「女装しろ……!」

 

 

 

 

 

 そんなわけで、芥川の思いつきで女装する羽目になった鏡花少年だが、スタンドミラーに映る女装した姿は従来の女顔とロングヘアが幸いし、和装のよく似合う美少女鏡花ちゃんである。

 

 芥川も、自身が手がけた鏡花少年の女装のクオリティの高さに、満足しているようだ。

 

「ところで……一体何の任務で女装を……?」

 

 鏡花少年が鋭いツッコミを芥川に入れる。まさかスウィーツを食べたいがために、鏡花に女装させたなどと言えるはずもなく……

 

 

「お前はすでに、いくつかの任務の失敗によりターゲット達に警戒されている……これからは、ターゲットに認識されていない女装した姿で任務を遂行しろ……試しに、これからお前が女に見えるかどうか、外であるミッションに挑戦する……ついて来い……」

 

 何やかんやと口実を作り、女装した鏡花少年を連れて先ほどテレビで放送されていた女性限定スウィーツを、同伴者ということでゲットした芥川は実に満足そうだった。

 

 しかし、純粋な鏡花少年は自分の女装は任務遂行に不可欠なものであると認識し、この日を境に女装で四六時中過ごすことになる。

 

 和装萌え系美少女鏡花ちゃんの誕生だ。

 

 

 

 

 

(そういえば、太宰さんが連れていた白い髪の美少女……何処かで見た顔だが誰だったのだろう……?)

 

 大きな花かざりを髪に付けただけ……の某虎少年の女装姿の正体に、気づかなかった芥川はポートマフィアとしてまだまだ甘いのかもしれない。

 


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