チートベル君が行く‼︎   作:ジャガ丸くん

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こんにちは、魔王ぼっちで感想ではなくてメールで直に批判の声が複数寄せられてきたため、やる気低迷中のジャガ丸くんです。

以前投稿したダンまちはなんかしっくりこなかったので、ちょっと話を変えて今回この作品を投稿しました。


反響があればこちらの連載も視野に入れます。

では未熟な作品ですがどうぞよろしくお願いします。






ベル「1話目です‼︎」

【プロローグ】

 

 

拝啓

 

ベル・クラネルです。

 

天国のお爺ちゃんいかがお過ごしでしょうか?神様という存在がこの世にあるならば天国という存在は有ると思いますが、そこは楽しいでしょうか?よく物語には天国は夢のような世界として描かれていますが、やはりそちらはまさにエデンなのでしょうか?そうだとすれば羨ましい限りです。

生前お爺ちゃんは僕に英雄というのがどういうものか教えてくれましたね。最高に格好いい漢の姿というのを僕に。お爺ちゃんの話、そして読ませてくれた数多の英雄譚が今の僕というのを作ってくれました。

お爺ちゃんの修業は厳しく何度も挫けそうになりました。お爺ちゃんが連れてきた古い友人という白髪リーゼントのファンキーなおじさんの修業では何度も死にかけました。

あのファンキーなおじさん……次狼さんの教えてくれた技術とお爺ちゃんが鍛えてくれたこの身体に僕は今この上ない感謝の念を今抱いています。

 

彼方で次狼さんには会えましたか?

僕はまだそちらには行きたくありませんが、いつの日か僕がそちらへ行った時は暖かく受け入れてくれると幸いです。

 

 

敬具

 

 

 

追伸

 

このようなことを今、心の中で述べている僕ですがこのダンジョンではミノタウロスの群れがこんな上層で出てくるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな愚痴のような事を心の中で天国にいるお爺ちゃんへと送りながら僕は全力でダンジョンを駆け抜けていく。

 

 

 

「「「ヴゥモォォォォォオオオ」」」

 

 

後ろからは3()()のミノタウロスが武器を携えながら獲物である僕を追いかけてくる。剣や斧など各々が違う武器を持ったそれは本来中層と呼ばれる地帯で出現する筈のモンスターなのだが何故か上層に居た。

 

そんなモンスターに追われているワケだが逃げているワケではない。ただこんな狭い道ではやりづらいので広い場所に向けて走っているのだ。オラリオに来て2日。初日は宿に泊まり、今日初めてダンジョンに入ったのだが一応は通ったエリアの地形は把握している。これもお爺ちゃんや次狼さんが千尋の谷に突き落としたり、夜の森に放り込んだりしたお陰だ。そのお陰で周囲の地形を覚える癖や優れた直感を身につけられた。

 

うん。思い出すだけで身が震えてくる。いつかあっちに行った時は張っ倒す‼︎あの2人の爺さん。逆に吹き飛ばされそうだけど……

 

 

そうして半刻程走った頃だろうか?漸く目的地に着いた。そこは今までの細い道とは違い円形に広く開けた場所。その場の中心の位置まで走ると背後に振り向きながら急ブレーキをかける。相応のスピードで走っていたせいかブレーキの拍子に僅かに地面が抉れた。

 

 

僅かに乱れていた息を急いで整えるとほぼ同時にミノタウロス達が襲いかかってくる。それを冷静にかわし1体ずつ仕留めていく。まず斧持ちの攻撃を避けると、その避けた勢いのまま剣持ちの攻撃もかわしその背を強く蹴り飛ばす。

 

鈍い音をあげると剣持ちは斧持ちに向かって飛んでいく。そうして巻き添えになりながら転がっていった2体を無視してもう1体の懐に素早く入り込む。急接近された槍持ちは武器ではなく自身の脚で此方を蹴り抜こうとしてくるがそれよりも早く此方がその太い腕に向かい打撃を繰り出す。

 

「ガァヴ⁉︎」

 

大した威力ではない打撃だがそれを受けた槍持ちのミノタウロスはその手に握り締めた槍を地面に落とし、口からはダラダラとヨダレを垂らしながらその場でピクピクと痙攣してしまう。そこから倒れるでもなく、そのまま……

 

「まずは1体」

そう言って即座に振り向き立ち上がろうとする2体のミノタウロスに肉迫する。

 

ミノタウロス達も迫り来る僕に対しやり返そうとするがそんな暇を与えたりしない。

 

斧持ちの顎を全力で蹴り再び1対1の状態へとすると同時に、突如感じた危機感に従い身体を横回転させながら飛ぶ。するとその飛んだ身体の下を、立ち上がったミノタウロスの横薙ぎの一閃が通過した。

 

危うく両断されかねない一閃を避け、地面へと着地すると同時にミノタウロスの身体に鍛え上げた拳をしこたま打ち込んでいく。

 

「ミディアム」

 

その一言と共に放たれた打撃を受けると先ほどのミノタウロス同様に剣を落としそのまま痙攣する。

 

「ウェルダン‼︎」

 

そして蹴り飛ばした最後のミノタウロスに一足飛びで向かうとまだ倒れている状態の斧持ちに対して先程よりも深い打撃を打ち込む。

 

 

「んでもってっと‼︎」

 

そうして3体のミノタウロス動きを止め終えると、腰に下げている木製で出来た柄の小太刀を勢いよく抜き、魔石があるであろうと直感した部分を素早く切り裂いた。すると断末魔すらあげることなくミノタウロス達は黒い塵へと消えていく。残ったのは魔石のみで他にドロップアイテムなどはなかった。

 

 

「おーわりっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って」

 

ふぅ、と仕事を終えたように一息つきながら小太刀を納刀し、僕はそのまま帰路へとつこうとする。しかし突如かけられた声によって僕の足は止まった。ん?と疑問符を頭に浮かべながら振り向くとそこには1人の剣士がいた。

 

金色に澄んだ瞳と瞳と同じ金色の腰まで伸びた髪。剣士の格好をしていなければ、英雄譚で出てくる姫役を務められると言ってもいいように整った容姿。そんな美少女が僕の前に現れたのだ。

 

 

 

「あえ……えっと、なんでしょう?」

 

危うく噛みそうになりながらなんとか聞き返す。村にいたおばちゃんやおじちゃんとはよく話をしていたが、所謂しっかりとした女性と、こうして面と向かい合って話すのは今日が初めてである。お爺ちゃんから色々話を聞かされたし、次狼さんから体験談も聞いたことがあるが僕自身、何も体験してきてないチェリーボーイだ。そんな僕が初めて話した女性、それもこんな美少女を相手に噛まなかったのは正直褒めてもらいたい。

 

 

「さっきのは何?」

 

そんなCボーイベルこと、僕に目の前の女性は首を傾げながら聞いてくる。

 

「さ、さっきのですか?」

 

「うん。ミノタウロスが動かなくなった」

 

 

興味津々ですと言わんばかりに目を輝かせながら此方にジリジリとにじり寄ってくる。

 

 

「え、えっと……」

 

「………」

 

どんどんにじりとってくる彼女はあと少しで捕まりそうな距離まで迫ってきた。

 

 

「おーいアイズーー、終わったのかぁ?」

 

そんな時である。ダンジョンに男性の声がこだまする。おそらく彼女の名前だったのか、彼女がピクリと反応した。

 

 

「……あ…」

 

その一瞬をついて自身の力の全てを足に集中させ全力で駆け抜けていく。

 

 

「ごめん、お爺ちゃん。僕にはまだやっぱりそういうのは無理かもぉぉぉおお‼︎」

 

(良いのじゃベル。お前もいずれ……な♭)

 

そんな事を言いながらダンジョン内を走る僕の頭にお爺ちゃんが気持ち悪い顔をしながらそんな事を囁いてきてくれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そのファミリアの名は……】

 

 

 

 

 

 

朝日が都市を照らし始めチュンチュンと雀がなく時間帯、街の中心部からやや離れた旅館"少彦名の郷"の温泉に朝から僕は浸かっていた。まだ日が昇り始める前に軽く運動をするのは幼い頃からの習慣だったが、この温泉に入ることも今後は日課になるかもしれない。それほどこの朝風呂というものは気持ちのいいものだった。なんでも東方の地の文化らしい。この温泉の質の良さから、この旅館を経営しているスクナビコナ・ファミリアの主神、少彦名が湯の神と言われているのも納得出来てしまう。

 

 

「とは言っても……ずっとここに泊まってる訳にもいかないよな」

 

そう、何を隠そう自分はまだどこのファミリアにも所属していない。正確には昔のツテがあるので、それを頼りにこの地に来たのだが肝心のファミリアが見つからないのだ。

 

 

「約束も10年近く前になるから忘れられてないかな……」

 

見つからないことへの不安に駆られそうになるが頭をブンブンと振りその不安を取り払う。

 

 

忘れられているはずがない。

少なくともあの小太刀がある限り。

 

そう考えながら昨日ミノタウロスの急所を抉った小太刀を思い浮かべる。

 

鞘も柄も木製で出来ている小太刀を抜けば、そこには見るもの誰しもが名刀と言わざるを得ない程の見事な刃が露わになる。

 

このオラリオの地が世界最大の都市とはいえあの小太刀に並ぶ得物は片手の数で足りるほどだろう。少なくとも僕自身はそう考えている。

 

そんな名刀をあの女神が自分に渡してきたのだ。そしていつか私のファミリアに来いと。その小太刀を使いこなし私のファミリアに貢献してくれと。そう彼女は言った。

 

 

だからこそ自分はこの地に来たのだ。

 

 

初日はこの町の探索をした。

2日目は午前中にダンジョンに潜り、午後に今後の作戦を練りながらオラリオの有名人たちのことを頭の中に入れた。その結果、僕のことを引き止めた女性が剣姫と呼ばれるオラリオの第1級冒険者であるということがわかった。まだ慣れないうちは関わらないでいたい。凄く可愛かったけど……

 

そして3日目の今日、自分は探しに行く。

自分だけで見つけられないなら聞けばいいのだが聞くほどの勇気もない。なんだこいついきなり話しかけてきて、とか言われそうで無理。

 

だからまずは他の人の話の中で聞き耳を立てればいい。ではどこに行けばいいか?

 

古今東西、現実だろうが英雄譚だろうが情報を手に入れる場なんて決まっている。

 

 

それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、坊や。細い割に食うじゃないか‼︎じゃんじゃん作ってやるからどんどん食べな‼︎」

 

 

そうして僕は夕暮れ時酒場にやってきた。

店名は豊穣の女主人。

この町では割と人気の高い酒場…のはず。

 

まぁ、人気があろうとなかろうと、現在店内は人で溢れているため僕にとっては好都合だった。飯を食べながら耳を澄ませればあちらこちらの話が片っ端から耳へと入り脳内で処理されていく。

 

「まぁ……すぐに手に入るわけないか」

 

そのほとんどの話がしょーもない話だが、こういった地味な行為がいつか身を結ぶはずだ……

 

 

「わぁ、よく食べますねぇお客さん。これは今日の私達の給料が期待できそうです」

 

「んぐ⁉︎」

 

しかし、そんな聞き耳を立てている僕に対し突如声をかけてくるものがいた。

 

「ッゲホッゲホ……えっ、えっとなんでしょう?」

 

「あ⁉︎別にお食事を邪魔しようとしたんじゃないです‼︎私はシルって言います。この店でウエイトレスをやってました。さっきからいい食べっぷりだなぁって思いました。いやぁ凄いですね。お名前はなんていうんですか?」

 

 

シルという女性のウエイトレスが此方に一方的に話しかけてくる。急に話しかけないでほしい。緊張はするから。あと、このものすごい早口はいったいなんなんだろう…

 

「あ、え……ベル・クラネルです……」

 

 

「ベルさんですね‼︎今後もこの店をご贔屓に‼︎」

 

げ、元気すぎるよこのウエイトレス……

まだ女性と話すのに慣れてないのに……

よく見れば美人だし。

 

「シルいい加減にしないとミア母に怒られますよ」

 

そんなシルさんに対しエルフのウエイトレスが側により声をかける。

 

「それもそうねリュー」

 

「まったく……それにそろそろ予約のお客が来ます。準備をしてください」

 

そう言ってシルさんを引きずりながらリューと呼ばれるエルフは厨房の方へと向かっていった。

 

 

「ふぅ」

 

シルさんから解放された事にやや安堵の息を漏らし、ジョッキに入ったドリンクを飲むが、それとほぼ同時にそのドリンクを噴き出すような場面に遭遇してしまう。

 

 

「予約のお客が来店だにゃー」

 

そう言って猫耳娘のウエイトレスが声を上げた方向に目をやると、そこにいたのはつい先日出会い、そして逃げ出したアイズさんとそのファミリア……ロキファミリア幹部達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は宴や‼︎無礼講やで‼︎飲め飲めぇ‼︎」

 

『乾杯‼︎』

 

そう言って入ってきたロキファミリアの面々はその手に持った飲み物を片手に騒ぎ始める。

 

 

(き、気まずいなんてレベルじゃない⁉︎)

 

そんな馬鹿騒ぎを始めるロキファミリアを背に僕は出来るだけ見えないような端の席に素早く移動し、残る食事を平らげている。

 

 

ここで万が一でもアイズさんに見つかれば面倒なことが起きる。僕の直感がそう言っていた。百歩譲って相手が友好的で僕の知りたい情報を教えてくれたとしても、対価として何を要求させられるかわからない。

 

 

そしてなによりも、こんな風にこそこそと飯を食べたくないので早急に店を出ようとする。

 

 

「ちっ、しっかし面倒だったな昨日のミノタウロスは。雑魚のくせに余計な手間を取らせやがって」

 

僕が8割程食べ終えた頃だろうか。

男性の狼人が大声で喋りだした。

その様子は明らかに酔っている。

 

 

「ベートあまり騒ぐでない。ミノタウロスの件は私達の不手際だ。それを大声で言うということは私達の失態を言いふらすようなものだぞ」

 

 

「あぁ⁉︎相変わらずかてぇババアだな。俺は事実を言っただけだろ?」

 

騒ぐ狼人を緑髪のエルフの女性が注意するが狼人はそれに構わず声を撒き散らす。ババアという言葉が発された瞬間、エルフの眉間にビキリとシワが寄ったのは気のせいだと思いたい。一瞬背後に阿修羅が見えたし。

 

 

「ベート、リヴェリアの言う通りだよ。今回被害がなかったのは奇跡と言ってもいいんだ」

 

そんな狼人に対し黙れというように声色で出したのは金髪の小人族。おそらく彼がオラリオで勇者(ブレイバー)と呼ばれているロキファミリアの団長だろう。

 

「そのことなんじゃが…アイズ、お前さんの報告であった少年とは何者なんじゃ?お前さんから聞いた話では見たこともないような技を使っていたらしいが?」

 

そして話題を変えるようにアイズさんに対してドワーフの中年が酒をがぶ飲みしながら問いかけた。

 

 

「わからない」

 

「んあ?どういうことや?アイズたん」

 

「ミノタウロスを殴っただけ。でもそれだけでミノタウロスの動きが止まった。ただ本当に殴ったようにしか見えなかった」

 

「うん……僕もそんなのは聞いたことないね」

 

「新しいスキルか何かかの?」

 

「可能性はある。となればその少年がどのファミリア所属か気になるな」

 

 

アイズさんの言葉に主神であるロキや幹部達が反応を示す中、先ほどの狼人だけは何かが気に食わなかったのか先ほど同様に声を荒げた。

 

 

「っけ、んなやつどうでもいいだろうが。ミノタウロスを倒すなんて、別に大したことないだろ」

 

「ベート、あんたいやにその子に否定的ね」

 

「さっきから俺は事実を言ってるだけだよ‼︎」

 

「あーあ、だいぶ酔ってるねぇ」

 

 

声を荒げる狼人に冷ややかな目を向けながらため息を吐いたのはアマゾネスの女性達。顔は似てるし、おそらく姉妹だろう……

 

 

 

「とにかくだ‼︎その白兎野郎はどうでもいいだろ‼︎」

 

ピキリ。

白兎?

 

狼人が叫んだその言葉に僕のこめかみが反応した。

 

 

「なんじゃ?白兎とは?」

 

「そのまんまの意味さ。あの野郎なんでかはしらねぇがアイズから逃げてったんだ。その姿はまさしく雑魚兎そのものだったぜ」

 

 

パキパキ

手に握るジョッキにビビが入っていく。

後で弁償しなきゃな……

正直先程までは極力関わらないようにしようとしてたがあの様に言われては別だ。

とりあえず、あそこの狼人くんと乱闘だ。

乱闘パーティだ。

お爺ちゃんと次狼さんにも言われてた。

ムカつく男は打っ飛ばせ。

その後にどうするか考えろって。

言われてないか?言われてないな。自分で考えた理論だし。

 

「ちがう……」

 

そうしていざレッツパーティと立ち上がろうとした時、否定の声があがる。その声は決して大きなものではなかったがそれでもこの酒場全体に浸透していった。

 

 

「あ?何が違うってんだよアイズ?」

 

 

「彼は兎というよりはむしろ……」

 

声の発生源であるアイズさんに視線が集まる中彼女は口にした。

 

 

「彼はむしろ……狼。1人、とてつもない領域にまで足を踏み入れる孤高の獣。そんな感じだった」

 

 

「あ、アイズたん?」

 

そういうアイズの表情が何故か薄っすらと赤く染まっていたのはお酒のせいかは定かではないがロキが戸惑いながら彼女に声をかける。

 

「なになに?アイズはその少年に惚れちゃったの?」

 

そんな主神に続き茶化しながら短髪のアマゾネスが彼女に問うと誰もが予想していなかった回答が返ってきた。

 

 

「わからない……でも、彼と一緒にダンジョンに潜ってみたい。彼の強さを…間近で見ていたい」

 

 

『っえ⁉︎』

 

瞬間酒場内の時が止まった。

 

それこそ次狼さんがノッキングタイムを使ったんじゃないかと錯覚するくらい、見事に止まった。僕もいつかあの奥義使えるようになりたいなー、……じゃなくてえ?

 

 

 

『えええええええええええええ⁉︎』

 

 

数十秒と割り長めの停止を終え酒場に最大級の声が轟く。そこからは先程とは比べ物にならない程の大騒ぎだ。主神ロキを筆頭にロキファミリアでは嘘だろ⁉︎と驚愕の声が上がり、周囲の冒険者達ではあの剣姫が恋をした⁉︎相手は誰だ⁉︎と妬みを含んだ疑問が飛び交った。

 

 

かという僕もテンパっている。

ただダンジョンに潜りたいと言ってもあんな美人に言われるのではテンパらない方が難しい。

 

というかさっきからあの狼人とロキが怖すぎる。なんかめっちゃ嫌なオーラを纏ってる気がする。

 

 

やはり直感は間違っていないと瞬時に判断した僕は狼人に対する怒りを捨て、残りの飯を一気に食べ干すとテーブルに代金を置きそそくさと逃げようとする。

 

ここは戦略的撤退だ。

 

 

「あ」

 

「………」

 

そうして入り口の側に来た時不幸は起きた。

ファミリアの仲間に問い詰められ、囲まれているはずのアイズさんと目が合ってしまった。

ダラダラと嫌な汗が噴き出してくる。ヤバい、すごい逃げたいが周囲の視線が逃がしてくれない。アイズさんが声を出したせいでみんながアイズさんの視線を追ってるから。

 

そんな僕の心情を知ってか知らずか、アイズさんは周りの人をかきわけこちらに近づいてくると身長の低い僕と頭の高さを合わせる様に膝に手を当て身を屈めながら話しかけてきた。

 

「また会ったね」

 

「……せ、先日ぶりです」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、どうして昨日は走って行っちゃったの?」

 

「え、ええっと、そ、それは……」

 

ち、近い。正直言って近すぎる。

先日同様に問いかけながらジリジリと近寄ってくるアイズさんに僕もまた先日と同じくジリジリと後退していく。

 

 

 

「えー、アイズもしかしてこの子が言ってた子?」

 

そんな僕にとって気まずい状況を打破してくれたのはアマゾネスの女性だった。

 

「うん。そう。この子が言ってた子だよティオナ」

 

「へぇ、そうなんだ。でも一匹狼君には見えないよ?失礼だけどベートの言う通り兎って感じがするし」

 

 

アイズさんはティオナと呼ばれるエルフの問い掛けに応えるため取り敢えず少しだけ離れてくれた。

 

「うん。私も今はそう思う」

 

そう思うなら逃がしてほしい。兎は狼の前では無力な生き物ですから、はい。

 

 

「でも、違う。あの時の彼は凄かった。だから教えて。あれってなんだったの?」

 

「へぇ……ねぇ、アイズもこう言ってるし私にも教えてくれない?」

 

 

まさかのそっち側⁉︎

助け舟どころか敵船だったよ⁉︎

 

今度は2人からジリジリとにじみ寄られる羽目になってしまった僕は滝の様な汗が背中に流れるのを感じながらどうしようか迷った。

別に教えてもいいのだが、そのあと勧誘とかになれば大変面倒な話だ。何よりも女神様に会う前に面倒ごとは起こしたくない。

 

どうしようかと困り果て逃げるかと思った時、突如として横槍は入れられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、てめぇが()()()か?っけ、こんな弱ったそうな()()()がいいのかよアイズ?こんな()()()()のに比べたら俺の方が何十倍もマシだろうが」

 

 

 

 

 

ーープチんーー

 

 

その瞬間、僕の中で我慢していた糸が切れた。

 

なぜ初対面の相手にそこまで言われなければならないのか。先程まではふざけた心の声があったが今はもう違う。周りで勇者(ブレイバー)を筆頭としたロキファミリアの面々が酔いすぎだとか落ち着けとか言ってるが、もう遅い。

 

ガチだ。久々に本気で頭に来た。

そんなガチギレの僕の脳内で次狼さんからかつて言われた言葉がこだまする。

 

相手の言葉を多くは許してやれ。

だが、笑えないジョークとしつこい侮辱に対しては力を持ってねじ伏せろと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそこの()()に教えてやらなければ。【狼】に育てられた怖い兎の力を。

 

 

 

「ちょっとベートあんたうるさいよ、そろそ……ろ?」

 

ティオナがベートのうるさい発言に対して苦言を呈そうとするが、その言葉は最後まで続かない。

 

なぜなら彼女の横を先程とは打って変わった様子の僕がゆらりと体を揺らしながら通り過ぎたからだ。その急激な様子の変化が彼女の口を閉ざさせた。一方そんな彼女とは違い酔いで判断力が鈍っているベートはこちらの変化に気がつくことなくそのまま言葉を発した。

 

 

「あぁ⁉︎なんだよ()()

 

ゆらりと寄ってくる僕に対し彼が最後に発した言葉はそれだった。そしてそれが最後のトリガーとなる。

 

 

 

 

 

ーー無音の捕獲(サイレントノッキング)ーー

 

 

それは一瞬の出来事だ。神の恩恵を授かり強化された動体視力を持ってしても僕のことを捉えられた者は少ない。ましてや酒に飲まれているベートなど何が起きたかわからなかっただろう。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

ベートの声が止み静かになった店内で誰かが声を漏らした。僕はというと先程までいた場所とは打って変わりカウンター席の近くにいた。

 

だがこの漏れた声の正体は僕が瞬時に移動したことに対するものではないだろう。なぜなら僕を見ている者も僅かにいるが、多くの者が凝視しているのはまるで石の様に動かなくなってしまったベートという狼人だ。

 

 

 

あーあ、問題起こしちゃったか。

会ったら謝らないとな。

そう心でつぶやきながら出口へと足を向ける。

 

 

 

僕の通る道を他の客は開けていく。多くの者の本能が僕に関わるなと悟っているのだろう。

そうして開けられていく道を悠々と歩き、固まってしまったベートの横を通ろうとした時、ようやく声を上げる人がいた。

 

 

「ま、まちぃや‼︎ベートに何をやったんや⁉︎」

 

正確には人ではなく神だが、自身の子の異常にその神は酷く慌てていた。

 

 

「さっきアイズさんとティオナさんが言ってた技をやっただけですよ?」

 

ひとまずはベートをノッキングしたことにより少しだけ気分が晴れた僕だが、戦闘モードから未だ抜け出していないため普段とは違い、堂々と応える。

 

「技?何かのスキルとかじゃなくてかい?」

 

ロキに続き問いかけてきたのは勇者(ブレイバー)だ。団長を務めているだけあって我に帰るのが早い。たしか名前はフィンだったかな?

 

 

「はい、ただの技術です。そもそも神の恩恵を貰ってないからスキルなんて使えませんよ」

 

「神の恩恵を貰ってないだと⁉︎」

 

僕のその言葉に今度はリヴェリアが声を上げる。声こそあげてないが周囲の者達も驚愕の色が浮かび上がっている。オラリオの常識から考えれば当然である。

 

 

 

「なら坊主は恩恵を授かっていない状態でミノタウロスをそこで固まっとるベートの様にしたと」

 

「まぁ、そうなりますね」

 

 

ドワーフの中年の言葉を肯定していく。

 

 

ありえない。

皆の目が驚愕から異質な者を見る目に変わっていく。

 

 

ただ、僕から言わせればここにいる者達の視野が狭いだけだ。確かに恩恵を授かれば強くなる。だが、かつての英雄達は、物語に描かれている彼らはそんなモノがなくとも数々の偉業を成し遂げてきた。ならば、今生きている僕らだって恩恵が無くとも偉業を成し遂げ得る可能性を持っているのだ。

 

 

 

「結局…これはなんなんや」

 

そんな誰しもが知りたい疑問をロキは聞いてくる。そこには自身の子への不安が滲み出ていた。眷属がわけのわからないことになっているのだから仕方ないが。

 

 

「ノッキングっていう技術ですよ。衝撃を利用して生物の運動神経を刺激し、動きを封じる技術です。本来は食材の鮮度を落とさない様にするために用いるものですが、それを人間にも使っているだけです」

 

 

「ノッキングやと……」

 

「それって私でもできる?」

 

僕が説明するとその名前に聞き覚えがあるのかロキは何かを思い出そうと顎に手を当てた。対して先程から黙っていたアイズさんは漸く口を開いたと思えばベートの心配をするでもなく、ノッキングについて聞いてきた。

 

「わかりません。何年も訓練しなきゃいけないですし、才能が大きく関わってくるので出来ない人は出来ないので」

 

 

「そう……ベートさんは元に戻るの?」

 

普通は聞く順番が逆だと思うのだが、つまりは優先度的にベートよりもノッキングについてのことが彼女の中では重要だったということか。まぁそれを言えば警戒こそしているものの、普通に会話してきたフィンやロキ達にも言えることだが。

 

 

「戻りませんよ」

 

『っ⁉︎』

 

「僕が解かない限り」

 

僕のその一言に周囲が凍った。

取り返しがつかなくなる前に補足するとその凍った空間がすぐに溶けた。

 

 

 

「そ、そうか……なら戻してもらえないかな?ベートが君のことを侮辱する様な発言したことについてはこちらから謝罪しよう。それと感謝の言葉もだ。僕らの不手際でミノタウロスを逃してしまった件についてもだ。君のおかげで他の冒険者に被害が出ることがなかったからね。ありがとう、そしてベートの件は本当にすまない。今回の件も先日の件もある。こちらとしてもそれなりのお詫びしよう」

 

僕の一言を聞き、代表して団長であるフィンがこちらに対して頭を下げてきた。別に彼に謝ってほしいわけではない。しかし、お詫びをしてくれるというのなら少しだけ話は変わってくる。身体がまだ戦闘モードである内に聞いておこう。

 

 

 

「あなたに謝ってほしいわけじゃないんですが……そうですね。それなら1つ聞きたいことがあるのでそれに答えてください。そうしたら今回の件も昨日の件も流します」

 

 

「ああ、なんでも聞いてくれ」

 

僕がそう言うと彼は頭を上げこちらの目を見据えてくる。周囲の者達も一体何を聞くのだと息を飲んでいた。

 

 

でも僕はこの時知らなかった。

この一言が今日最もこの場を凍らせてしまうことに。少なくともこの酒場でその話はしてはいけなかったことを僕はこのとき、知らなかった。

 

 

 

「僕は10年近く前にある女神と約束したんです」

 

僕の一言一言を酒場にいる全員が静かに聞いている。

 

「いつかオラリオに来いとその女神様に言われたんです」

 

そう言って腰に携える小太刀に手を添えた。

 

「だから今の内に唾をつけておく、そう言って女神様は僕にこの小太刀をくれた」

 

そして小太刀を撫でる。

 

「だから僕は女神様とそのファミリアを探しているんですが何処を探しても見つからないんです」

 

「ギルドに聞かなかったのかい?」

 

「えっと、今はこうして普通に話せてますが普段はあまり会話とかできなくて。特に女性と話そうとするとその……緊張してその場から逃げ出してしまうので」

 

かけられたフィンの疑問に開いた片手で頭をかきながら恥ずかしげに言う。

 

「なのでそのファミリアについて知ってたら教えてほしいんです」

 

そこまで言うと小太刀から、頭から手を離し直立でフィンを見る。

 

 

「構わないがその女神様は誰なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正義の女神アストレア様率いるアストレアファミリアです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

感想お待ちしております。
またヒロインは〜がいいとかあれば活動報告の方でお願しいます。

誤字脱字の報告は感想にてお願いします。


ではε=ε=ε=ε=ε=ε=┌( ̄◇ ̄)┘




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