ストライクウィッチーズ対ミステリアン   作:サイレント・レイ

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第5話 前途多難

――― 二式大艇 ―――

 

 

「おいおい、此れはどう言う事なんだよ…」

 

 横須賀を飛び立った501の面々が乗り込む二式大艇は、九州のほぼ南方の海上を西に飛んでいた時に古賀大将直々の坂本美緒の逮捕令を傍受して、シャーリーが呆れていた。

 

「…坂本さん、一体何があったんですか?」

 

 皆の意を代表した芳佳の質問に、美緒は罪悪感らしきモノは感じ取れたが、当の質問には答えようとしなかった。

 

「しかしどうすんだよ?

此れじゃ、ロマーニャに行く処か、太平洋から出れないぞ」

 

「…更に厄介な事に、古賀長官の命令下で各地の艦隊や基地航空隊に出撃しているそうですよ。

しかもリベリオンにも協力要請を出したみたいですよ」

 

「当然だろな。

リベリオン艦隊の目の前で恥を晒したんだ。

GFは意地と誇りに懸けて私達を捕まえようとする筈だ。

まして、海軍内でも一目置かれる戦略家の古賀長官はヤワな事を絶対しない」

 

「……すんばらし…」

 

 シャーリーが思わず不安を口にし、更に圭助が無線傍受で得た状態を伝え、美緒が冷製に分析してシャーリー達三人が呆れていた。

 

「ですが、尚更早く進路を指示して下さい。

いくら二式大艇でも燃料に限りがあります」

 

「…で、どうするの?」

 

 圭助の質問にルッキーニが乗っかり、美緒達が地図を広げて睨んたが、現在のロマーニャに向かう進路は大まかに3つあり、1つ目は今すぐ反転して西に向かってハワイとパナマを経由して大西洋に入るルートだが、此のルートは最も遠回りになり、経由地点が限られる上に、その経由地点が全てリベリオンの領域なので、リベリオンが扶桑に協力したら到着と同時に拘束される公算が大であった。

 此の為、扶桑本土の何所かを横断してオラーシャのウラジオストクに向かってシベリア鉄道を使うか、東南アジアを横断してインド洋のコロンボ島経由する、此の2つのルートが候補であった。

 

「だったらウラジオストクに行こうよ!

上手くすれば、サーニャの協力が得られるよ!」

 

「そうだな。

それに扶桑とオラーシャはあんまり良好な関係が出来ていないんだから、ウラジオに着くと同時に拘束される事は無いだろうしな」

 

 最短であるウラジオストクルートをルッキーニが進めてシャーリーも同感としたが、美緒は首を左右に振った。

 

「残念だが、ウラジオには向かえん。

間違いなく、どの方面に行っても鹿屋、鈴鹿、千歳………横須賀のはどうかは知らんが、本土主要の基地航空隊が網を張ってる筈だ。

しかも今頃は佐世保、呉、舞鶴の3個艦隊が扶桑海に出てきてると思われる。

しかも佐世保には翔鶴級空母を有する第三艦隊がいる。

とてもウラジオに辿り着けるとは思えん」

 

 まぁ、最短ルートだと言う裏を返せば、扶桑側も本土戦力の大動員が可能であると言う事であった。

 現に遥かに沖合いとは言え、鹿屋の南方を飛行しているのに、その鹿屋の飛行隊に接触する気配が全く無いのだから、扶桑海に重点が置かれていると言うのが否応なく分かった……まぁ、それが逆に不気味さを美緒に感じさせていたが…

 ウラジオルートが使えない事への無念が表情に出ている美緒の予想と指摘にルッキーニが「う~…」と唸り声を上げてはいたが、シャーリー共々美緒に賛成はしていた。

 

「…と言う事は東南アジアを通らないといけないのですね」

 

 芳佳に美緒が「そうだ」と言って頷いた。

 尤も圭助達は美緒が東南アジアルートを選ぶだろうと予想していて、二式大艇は既に南西に向かっていた。

 

「だけど、東南アジアルートでも結構面倒だぞ」

 

「ああ、少なくともこのまま太平洋を南下していたら、トラック諸島に近付く事になる。

そうなったら第四艦隊と第八艦隊が出てくる。

しかも両艦隊には金剛級か紀伊級戦艦が含まれているから展開は早いぞ」

 

「『金剛』と『紀伊』ですか…」

 

 金剛級と紀伊級の存在に芳佳が思わず反応したが、元々早期戦力化を狙って天城級巡洋戦艦の装甲強化型として設計されていた紀伊級は、その天城級が空母化して三番艦『高雄』(『ペーター・シュトラーサー』に改名、ネウロイ化して戦没)と四番艦『愛宕』(『ドクトル・エッケナー』に改名、ネウロイ化して戦没)の売却で得られたカールスラントの技術協力もあってより強大化して『大和』が竣工する十数年間、扶桑の“最大”“最強”の2冠の地位に居続けた傑作戦艦として扶桑国民に親しまれた戦艦であった。

 更に金剛級も二番艦『比叡』が御召艦を多々務めた事で、紀伊級程ではないが此れ等も親しまれていた。

 で何が言いたいのかと言うと、紀伊級と金剛級はそれ故に動向がよく広報に載せられていて、30ノットの足の速さを見込まれて航空艦隊の護衛役(且つ紀伊級のみ艦隊旗艦も)を務め、当然ウィッチ隊との共同戦線を張った事は勿論、対空戦闘の経験が豊富であり、対空能力の強化改装を受けているから、ある意味では大和級よりも強敵になりうる存在である事は芳佳の様な軍事知識に乏しい者でも知られていた。

 因みに、扶桑海軍は大和級だけでなく加賀級&長門級の戦艦4隻が扶桑本土に居続ける通り、主力戦艦を出し惜しみする傾向があるのに、加賀級と長門級より強力な紀伊級を何故か冷遇していて、その最もな例として連合艦隊旗艦を『加賀』と『土佐』が交代しながら長期間務めていたのに反し、紀伊級戦艦の『紀伊』『尾張』『駿河』『近江』の4姉妹全艦は務めた事が無かった。。

 更に言うと、紀伊級の存在に恐れおののいている芳佳き反して、美緒は扶桑海事変を思い出して懐かしそうにしていた。

 で話を戻して…

 

「心配するな。

金剛級にしろ、紀伊級にしろ、奴等は船である事には変わらん。

だからさっさと南シナ海に入ってしまえば、奴等に接触する事はまず無いよ。

それに、古賀長官も横須賀の『信濃』にいては、即応出来ないだろうしな」

 

「でもさぁ~…それって結構、面倒な事だぞ」

 

 芳佳の不安を美緒が笑いながら払拭しようとしていたが、その回避方法が困難であり、現にその事があまり分かっていなさそうな芳佳とルッキーニに反して、シャーリーが渋い表情をしていた。

 

「今ん処、ルートは5つ……沖縄、台湾、フィリピンの何れか上空を通過する3つか……沖縄・台湾か、台湾・フィリピンの間の海域を通る2つだ。

フィリピン上空は止めた方がいいぞ。あそこには対空レーダー施設が一杯あるぞ」

 

「沖縄上空も駄目だ。

あそこもリベリオンへの基地提供に伴って、リベリオン製の電探が各地に設置されつつある。

しかも陸軍航空隊が四式戦疾風を大量配備している」

 

フランク(疾風)がいるのか…」

 

 四式戦疾風……扶桑陸軍が昨年から制式及び量産を始めた戦闘機で、海軍の紫電を超える高性能で“大東亜決戦機”と宣伝される扶桑最強にして最高(此の点は発動機(エンジン)の不調が相次いでいるから微妙だが…)の主力戦闘機であった。

 当然、欧州にも実践配備されていて、世界的評価はシャーリーの渋い表情から見て取れた。

 

「じゃあ、台湾に行くの?」

 

「消去法じゃ、そうなるよな」

 

 ルッキーニにシャーリーが渋々同意した通り、残されたのは台湾の南北どちらかの海、或いは台湾を直接通過する3つしかなかった。

 

「…坂本さんはどうしようと言うのですか?」

 

 全員を代表する芳佳の質問に、美緒は台湾の北東から南西の対角線を素早く指で擦ると言う行為で答えた。

 

「…台湾の北西部から進入、中部の山間部を低空で通過して南西部から南シナ海に入る。

幸い台湾には電探施設は無いし、台北の基地には哨戒用の九六陸攻しか配備されていないからな」

 

 現在の台湾には北部の台北、西側中央の台中と高雄、そして南部の台南の四つが主な航空基地で、台北は兎も角として、美緒のルートだと台中と高雄を高い確率で回避出来そうだったが、

 だが此のルートには1つ問題があった。

 

「でも此れだと、台南空と接触しますよね?」

 

 芳佳が言う通り、最後の最後で台南の航空隊と確実に捕まってしまう。

 そして厄介なのは、台南の航空隊こと台南空は扶桑海軍基地航空隊の中でも上位に入る熟練戦闘機乗り(エースパイロット)を数多抱え、実際進出先の南太平洋ラバウルで多くの武勇を上げて、扶桑本土でそれが宣伝されていた。

 だが当の美緒は頭を掻いた後、ニッと笑った。

 

「まぁ、そんなに不安にならなくてもいいぞ。

今の台南空は南太平洋での大量消耗での部隊再編中だから全盛期よりかなり錬度が落ちている筈だ。

しかも紫電が配備されたとは聞いてないしな」

 

 ばか正直に安心しているルッキーニは兎も角、芳佳が妙に楽観視している美緒に疑いの視線を向けていた。

 

「そんなんで大丈夫なのか?

何か確証でもあんの?」

 

 更にシャーリーも疑っていた。

 

「確証? あるぞ」

 

「…何なの?」

 

「私がその全盛期の台南空に所属していたからだ!

だからアソコの気質はよく知っている」

 

 何故か高笑いをしている美緒に合わせて銅鑼の幻聴があった気がするが、少しの沈黙後に芳佳とシャーリーが何とも言えない「え~…」と同時に上げた。

 だが美緒が台南空を知っている事の裏を返せば、台南空も美緒を知っているとも言えた。

 尤も美緒を知る飛行兵や士官の殆どは戦死するか転属していたが、厄介な事に美緒在籍時に飛行長であり、美緒を可愛がった小園安名中佐が大佐に昇進して台南空司令官である事に、美緒は内心不安であった。

 

「少佐がそう言うんだから安心だね!」

 

「…まぁ南シナ海に入っちまえば、後は楽だよな。

扶桑も録な艦隊は配備していないんだよな?」

 

「ああ、南遣艦隊の第二から第四は駆逐艦や軽巡ばかりだからな」

 

 まぁ、小園の事を隠していると言え、台湾突破への光が見えてきていたのは事実であった。

 現にルッキーニが笑い、シャーリーと美緒が台湾突破後の事もあり早くも考えていたが、芳佳は内心つっかえている不安があった。

 

「……坂本さん!!」

 

「なんだ?」

 

 美緒を呼んだ芳佳だったが、“口は災いの元”の言葉が頭に浮かんで硬直したが、なんとか息を吸ってそれを口から出した。

 

「…508が……マイティウィッチーズが出てくる事は考えられませんか!?」

 

「なに言ってんのさ、芳佳。

同じウィッチの私達を508が襲う事なんか………あれ、シャーリー?」

 

 ルッキーニは例外とし、此の芳佳の質問に美緒とシャーリーだけでなく、二式大艇の全員が凍り付いた。

 間違いなく、ルッキーニ以外が508襲来の不安がある事を示していた。

 そして“餅は餅屋”“目には目を、歯には歯を”の言葉がある通り、美緒達ウィッチの捕縛に508へ古賀の名で……否、古賀でなくても出撃要請が出される筈である。

 もしかしたら連合軍司令部で今回の1件をウィッチのクーデターに対応策の試験性も兼ねて動きもあるのが考えられる。

 

「…508か『レキシントン』の所在が分かるか?」

 

 少し間を置いて、美緒がシャーリーと圭助に508か、その508の拠点となってる空母『レキシントン』の居場所を訊ねた。

 

「508はパラオにいる筈だ。

そこでハワイのドッグに入った『レキシントン』と交代する為に真珠湾から出た『サラトガ』を待っているって聞いている」

 

「……パラオか……微妙な距離だな…」

 

 時計を確認しながら、全速で飛べばギリギリの処で接触する可能性があると判断して、地図上のパラオ島を渋い顔で見ていた。

 

「…ですが、リベリオンの空母群……ヨークタウン級やエセックス級、その他諸々はハワイかフィジー諸島にいます。

我が扶桑やブリタニアは東南アジアに空母を配備させていませんし、少なくともマレー半島の殆どの飛行場は508を受け入れられる余裕はありません」

 

「そんなのインドネシアかボルネオ島のを使えばどうにでもなる」

 

 圭助がなんとか否定しようとしていたが、美緒に一刀両断された。

 

「私嫌だよ!!!

508と戦いたくなぁーい!!」

 

 ウィッチ同士の戦いをやるかもしれない事(しかも世間的には508の方が官軍)にルッキーニが嫌がっていたが、芳佳やシャーリーだけでなく、美緒もなんとか隠そうとしているも、表情にそれが出ていた。

 

「…兎に角、今は台湾の突破だ。

台南空の事に集中するんだ」

 

 美緒によって508の事は打ち切りとなったが、二式大艇内に嫌な空気が蔓延っていた。

 尤も美緒自身、不安を拭えず解決策も思い浮かべれない自分自身に、嫌気を指しながら早く台湾に近付く事を願っていた…




 感想・御意見お待ちしています。

 さぁ、次回は台湾突破を目指す501JFWの前に台南空が立ち塞がります。

 少しネタ晴らしで台南空はとある戦闘機が配備したて、此処でサーニャとエイラが合流の予定です。

美緒
「…小園さんが出たから……やはり私のオリジナルである坂井三郎氏みたいに冷蔵庫射撃事件を私もやってるよな?」

(注:冷蔵庫射撃事件…台南空がニューギニアのラビ進出時、炎天下に加えて食糧難(士官は例外)の為に銀蝿を黙認した部下達がするも、着任したてで事情を全く知らない新任士官に見つかって注意されるだけでなく、黒幕である事を見抜いた主計長に怒鳴られた坂井三郎氏が、二人の背後の冷蔵庫を拳銃で撃ち抜いた不祥事。普通なら良くて栄倉入りか最悪銃殺なのだが、小園の一任でオトガメ無しに加えて食糧難がある程度改善)

 やってます。
 原作ではどうかは知りませんが、此の作品ではやってます。

 因みに、史実での此の時期の小園氏は横須賀航空隊にいた筈です。

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