ストライクウィッチーズ対ミステリアン   作:サイレント・レイ

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第3話 新造戦艦『アリゾナ』(後編)

――― アリゾナ・CIC ―――

 

 

 第二主砲塔を案内された芳佳達はその後、『アリゾナ』の中枢部と言えるCIC(戦闘指揮所)に案内されていた。

 

「此所がCIC、此の部屋には『アリゾナ』が搭載している全てのレーダー(電波探知機)から得られた情報を正確に統括して、対艦、対空、更に装備次第で対潜戦闘等が可能なのです。

此の為、艦長以下の此の船の首脳陣は、基本的に此所で艦の指揮を取るのです」

 

「こんな所で戦えるのですか?」

 

「ええ、カールスラントでは此れより大規模の対空施設“オペラハウス”を運用して、ネウロイ戦でかなりの戦果を上げています。

地上基地程でないにせよ、現在は巡洋艦以上の大型艦にしか出来ませんけど、いずれは世界中の艦艇も此の様な施設で指揮を取る事になるそうですよ」

 

 501JFWのブリタニア基地を超え、戦況掲示板等の電子機器がズラリと配備された未来型の設備を疑っていたが、彼女だけでなく機械系に強いシャーリーでさえ怪訝な顔をしていた。

 しかも現在CICの全ての機器の電源が落とされ、部屋自体も薄暗い状況が何処か不気味な感じにしていた。

 

「…最も古い人間だからと思いますが、私も疑っていますがね」

 

 だが杉田も苦笑していたが、レーダー後進国(しかもレーダー嫌いが未だに上層部の大半を統べている)の扶桑なら仕方がないのかもしれない…

 

「…ですが此の設備によって、『アリゾナ』は最大で12の目標を同時に精密射撃を可能としているのです」

 

「…確か此れを有効活用して北海で大型ネウロイを2体立て続けに、単艦(当時護衛に駆逐艦が五隻いたが戦闘に関与せず)で撃破したのですよね?」

 

「しかも合同訓練を行った508JFW(マイティウィッチーズ)に、1時間で9人全員に撃墜判定を下したとの噂もあるぞ」

 

 芳佳が思わずギョッとしていたが、冗談じみた圭助とシャーリーの言葉に杉田は頷いた。

 

「それ等を可能にしたのは、此のCICの屋台骨としてレーダーの情報を的確かつ迅速に処理する…『ノースカロライナ』から搭載されたコンピューター(自動計算機)の進化系統の……チェスの世界王者を撃破する程の高性能を誇るデジタル式の最新型からなのです。

此の為、『アリゾナ』の発電量はアイオワ級の10000kw、モンタナ級の13500kwを超える20000kwと言うとんでもない数値なのですよ。

大和級の発電量が4800kwと比べれば凄さが分かりますよね?」

 

 因みに、扶桑国内では適量処か過大とされていた大和級の……と言うより扶桑艦艇全般の発電量は、此のあまりの少なさが原因で世界標準装備になりかけているリベリオン製レーダー(扶桑製レーダーの10倍近くも電力を消費)と、そのレーダーと連動する射撃管制装備が装備出来ないと言う大問題を起こしていた。

 此の為、扶桑海軍は島風級と改秋月級を取り止めにして比較的改善の余地がある白露級をベースモデルとした次期駆逐艦(後の春風級)を計画し、『信濃』及び間も無く竣工する大和級四番艦『相良』は建造途中でリベリオン製の発電機に変更かつ増設する事で上記2を装備可能とし、改装中の『武蔵』にも同様の処置が行われようとしていた。

 更に『武蔵』は高角砲の更新かつ増設(12.7cm高角砲6基から10cm高角砲6基及び『アリゾナ』の搭載砲のライセンス品の7.6cm高角砲8基へ)、25mm三連装機銃を40mm四連装機銃に更新かつ縮小が行われるだけでなく、新型戦艦への試験運用として主砲を46cm三連装砲から50cm連装砲への改装、主砲改装での悪化するバランスの調整の為に副砲の全廃が検討中であった。

 そして『武蔵』が再訓練を兼ねた試験運用が終わり次第、規格統一による運用費の削減(史実でも『大和』が『武蔵』との規格統一の改装が行われた)も兼ねて『信濃』と『相良』も同様の改装が接舷で行う事(『武蔵』の主砲再改装の可能があって、主砲改装が行われないかもしれないが…)が内定していたが、『大和』だけは時期を逃し……扶桑国内には大和級が入居出来るドックが呉と佐世保と横須賀の3つしかなく、『武蔵』が入居中の呉は上記の通り、佐世保は機関故障の空母『隼鷹』が入居中、横須賀は『信濃』や他の大型艦の緊急時の修理に備えて取っておく必要がある為に使用出来ず、更に新ドックが九州大分の大神に建設中だがそれも間に合っていないので無理であった。

 此の事に加えて『アリゾナ』の就役に伴っての大和級戦艦の価値下落によって、ブリタニアの派遣要請を断り続けていたにも関わらずの『大和』の今更ながらの欧州への派遣に選ばれたのだった。

 因みに、つい先月に『赤城』を沈めた為に閉職に追いやられるだろうと覚悟をしていた杉田は、その『大和』の次期艦長へのまさかの内定に、驚き戸惑うだけでなく扶桑海軍の『大和』への見切りを感じていた。

 

「…防御力はどうなんだ?

幾ら攻撃力に優れていても、打たれ弱い奴がネウロイや508JFWを撃破出来るなんて思わないぞ」

 

「シャーリーさん、期待を裏切る様で悪いですが、『アリゾナ』は大和級やモンタナ級の最大の装甲厚410mmを超える560mmの最新装甲を船体の半分以上(66%、因みに大和級は54%)で覆っているのです。

当然、重量が増しますので速度低下を招きますが、アイオワ級の高出力機関の改良型を多数搭載する事で28ノットの速度を確保しています」

 

 世界的定石の搭載砲に善処するだけで十分としているのだが、リベリオン戦艦(『ノースカロライナ』や『アイオワ』等、多少の例外があるが…)は2回り上の防御力を持たせる傾向があり……論より証拠、36cm砲搭載艦として計画されていたコロラド級戦艦が40cm砲に設計変更となるも、純粋な40cm砲搭載艦の長門級やネルソン級となんら遜色無い防御力を持っていた。

 当然、久々の重装甲艦であるモンタナ級の改良型である『アリゾナ』も持っており、46cm砲処か50cm砲すらも跳ね返す世界最強の防御力であった。

 

「更に『アリゾナ』は……リベリオンが最高機密事項としているので私もあまり詳しく説明されていませんが、ネウロイのビーム攻撃を半分以下にするダイヤモンドコーティングなる特殊加工が艦全体に施されているそうなのです。

此のコーティングが原因で木甲板が廃止されたそうなのです」

 

 不気味さをも感じさせる『アリゾナ』の超性能に芳佳達は言葉を失っていたが、美千子だけは静かに手を上げた。

 

「あの、気になったのですけど、此の船はかなり自動化している様ですけど、乗組員は基本的に何をするのです?」

 

「…殆どの事を自動でやってくれる様になり、その証拠に『アイオワ』や『モンタナ』が3千人を超える乗組員を抱えているのに、此の船は巨体の割りに2千5百人で運用出来ているのですよ。

お陰で、乗組員は目の前に出された料理を、ただ黙々と食べているのですよ」

 

 杉田の冗談に芳佳達がキョトンとしていた。

 因みに、此の『アリゾナ』の乗組員の少なさは、流石にリベリオン海軍内でも間接防御……即ち乗組員による応急処置(ダメージコントロール)能力に支障が出るのではと、指摘されていた。

 

「……芳佳さん、私は多くの艦艇を渡り歩いたから分かるのですが、此の船は何かが切っ掛けで泥舟に化す危険性を秘めているのです。

人が兵器を操るモノである筈なのに、部品の様に兵器が人間を操っているかの様にですから…」

 

「じゃあ、何故リベリオンは此の船を作ったのです?」

 

 芳佳の疑問は全員が感じているモノであった。

 

「…リベリオンの軍上層部の意向からです。

彼等はウォーロックを誤解したのか、魔法力は機械力で補えるとの思想に陥っているみたいなのです」

 

 ウォーロックの影響下で『アリゾナ』が建造されたと聞いて、芳佳達はギョッとした。

 

「それとリベリオンの政府の意向もあるのです」

 

「リベリオンに何があったのです?」

 

「全ては3年後に行われる大統領選挙からです」

 

「…20年前に共和党のフーバー大統領が2期当選に失敗後、次のルーズベルト大統領が続いて、そのルーズベルトが今年の頭に亡くなってトルーマン副大統領が大統領に昇格して民主党の大統領が4期連続で続いているんですよね?」

 

 杉田に質問した芳佳が分からずそうだったので、美千子が助け船を出して、シャーリーが頷いていた。

 

「ええ、その為に共和党は政権奪取を狙っているのですが、そこから問題が出てきているのです」

 

「確か、共和党はダグラス・マッカーサー大将を擁立しようとしているって聞いてるが?」

 

 大統領選の事で最もシャーリーが疑問を感じていた。

 

「実はその共和党は死に物狂いになっていて、マッカーサー大将ではなく……噂ですので名前は公表出来ませんが、退役したウィッチを擁立しようとしているのです」

 

「ウィッチをですか?

それの何が問題なのですか?」

 

 共和党のウィッチ擁立計画に芳佳達は分からずにいたが、圭助は分かったらしく、ハッとしていた。

 

「そこが大問題なのですよ。

今、世界中の政府や軍上層部はウィッチが軍や政治のトップとなる事に恐怖心を持っているのですよ」

 

 杉田の言葉に芳佳達ウィッチ達3人がギョッとした。

 

「現在も続いているネウロイとの戦いの殆どでウィッチ達が英雄的活躍をしていますが、彼等はそのネウロイとの戦いが終わった後、ウィッチ達が各国の軍の中枢に入り込むだけでなく、1人でも政界に進出して国家元首となった時、芋蔓式にウィッチが世界中で軍政を担うようになり……極端な話ですが、地球がウィッチ中心に構成され、男卑女尊の世界になるのではとの未来予想図があるのです」

 

 芳佳達ウィッチ達3人は、「そんな事は無い!」と一斉に叫んで否定したが、実際の処はその前兆としてカールスラントでは元ウィッチの空軍大臣たるゲーリング元帥が陸海空三軍を超越する大派閥を構成し、扶桑では元ウィッチの源田(現)大佐が航空艦隊の航空参謀時に自分が艦隊司令官であるかの様(此の為、“源田艦隊”と陰で言われていた)に振る舞い、更に現在は軍令部内の航空関係で絶対的な権勢を振るっていた。

 因みに先述の大統領選挙だが、現実には共和党は元ウィッチやマッカーサーではなく、前の大統領選に出馬してルーズベルトに大敗したニューヨーク州知事トマス・E・デューイを再擁立する事となる。

 更に言うと、圧倒的優位との下馬評を得ていたデューイだったが、まさかのトルーマンに逆転敗北となり、共和党の政権奪取は次の大統領選まで持ち越しとなった。

 

「…更に言いますと、連合軍司令部ではウィッチがクーデターを起こして権力を掌握しようとするのではと、不信感を募らせれてマークされている人物がいるのです」

 

「……誰なのですか?」

 

 杉田から躊躇いが感じた事から、シャーリーが鼻で笑っているのに反して芳佳は、何か嫌な予感を感じながら質問した。

 

「……ミーナ・ディートリンゲ・ヴィルケ中佐です」

 

「ミーナさん!?」

「ミーナ!?」

「ミーナにか!?」

 

 芳佳はなんとなく察していたみたいだが、連合軍が自分達の戦闘隊長であるミーナを危険視しているとの事に、芳佳達3人が驚き叫んだ。

 

「何故、ミーナさんなのですか!?」

 

「ミーナ中佐はウォーロックの1件時、バルクホルン大尉とハルトマン中尉と共にマロニー大将を一派共々拘束しましたよね。

どうも連合軍司令部では、あの時のミーナ中佐の行為で、ミーナ中佐やウィッチ全員への不信感が生まれ始めたようなのです」

 

 当然ながらミーナは501JFWやブリタニアを思ってやり、結果的にブリタニアの防衛に成功するだけでなくガリア開放も成し遂げれたのだが、その事が逆に第2、第3事のマロニーを生み出す処か、連合軍司令部そのモノがミーナや501JFWだけでなくウィッチそのモノに不信感を持ってしまった事に、シャーリーが「ミーナはそんな事でやったんじゃない」と杉田に食って掛かっていた。

 此の為に501JFW再編成を目指していたミーナは、上官に予定していたカールスラントのアドルフィーネ・ガラント空軍中将の就任が取り消されるだけでなく、自分にクーデターを計画しているとの黒い噂がある事をしらされて愕然としていた。

 勿論、ミーナやバルクホルン達は必至に火消しに励んでいたが、人間は黒い噂ほど信じて広めたい性質を持っていて、そしてなにより連合軍司令部が此の事にやる気が零である以上は、ほぼ不可能であった。

 

「勿論、私もミーナ中佐がその様な事をする訳がないと信じています。

ですが、5年、10年、下手をすればそれ以上続くかもしれない程の先の見えないネウロイとの戦いで、世界各国の軍部や政府は“戦争による経済的破綻”に怯えるだと同時に、英雄的ウィッチが増え続け、いずれはその中から軍や政治を牛耳ろうとする野心家のウィッチが現れる事に怯えているのです」

 

「…でその結果、作られたのが、此の『アリゾナ』だって事か」

 

「はい、異常なまでに機械力を詰め込んだ、こんな戦艦の様な物をです。

そして此の船の様な兵器をリベリオンは開発し続け、世界中に大感染(パンデミック)が起こり始めているのです」

 

 シャーリーに頷いた杉田は艦長席に近づいて、その手刷りを撫でた。

 だが杉田が言う通り、リベリオンは世界初のジェット艦載機FHファントムの生産が開始されて間も無く実戦配備予定で、FHファントムだけでなく研究開発中の戦略級の新型爆弾を搭載可能な双発機が運用可の、ミッドウェー級を超えて『アリゾナ』とほぼ同じ巨体の超巨大空母『ユナイテッド・ステイツ』がカリブ海での慣熟訓練を間も無く終えようとしていた。

 因みに『ユナイテッド・ステイツ』は実験艦の色が強すぎる上に飛行甲板を新開発のアングンルドデッキへの変更に伴っての安定性の悪化、島型艦橋が無い事からの艦運用の難しさ(何で最初っから載せなかった?)等の問題が多発していたので、同型艦四隻全てを取り止めにして次の艦級にシフト予定であった。

 勿論、アリゾナ級の量産も進めていて、二番艦『オクラホマ』(ネヴァタ級二番艦から継承)が間も無く艤装工事が終了予定で、三番艦『ユタ』(標的艦になっていたフロリダ級二番艦から継承)も艤装工事中、四番艦(後に『ネブラスカ』と命名)が近々進水式が行われる予定、更に改ユナイテッド・ステイツ級空母(後のフォレスタル級)四隻と共に五番艦、六番艦の健造が容認されていた。

 更に各国もリベリオンに追従し、取り分けて『アリゾナ』の戦闘システムをリベリオンが気前よく公開かつ格安提供している事もあって、自国艦艇に次々に導入し、特にオラーシャは、主砲を一つ下ろす等の代わりにより重装甲を程した『アリゾナ』の準同型艦{後のイワノフ級戦艦、此の代償で国内健造予定だった23設計戦列艦(史実のソビエスキー・ソユーズ級)が取り止め}を四隻もリベリオンに要請していた。

 当然ながら扶桑も先ずは『武蔵』と『信濃』に『相良』にて試験運用を行った後、他の艦艇にも導入予定に加えて、先述の新型戦艦(仮称として改大和級か超大和級のどちらかで呼ばれている)に加えて、ジェット艦載機が運用可能の改大鳳級空母の健造が内定していた。

 只、言っておきますが、各国共にウィッチの育成とストライカーユニットの開発もちゃんと行われています。

 

「そして欧州でのウィッチ大量行方不明です。

連合軍司令部の一部は天からの慈雨だと思っている傾向があるそうなのです」

 

「…『アリゾナ』等で、人類はウィッチ無しでも戦っていけると示したいのですね?」

 

 美千子に杉田は頷いた。

 

「一様、統合戦闘航空団で唯一太平洋配備の508JFWの転身は決定していますが、おそらくですが、501JFWの再編成は無いと思われます」

 

 実を言うと、501JFWには逆に力を削ごうとする行為が行われたが、それを言うべきか迷った杉田が圭助に目線を向けたが、その圭助が目線を逸らした為に杉田は言うのを止めた。

 

「……此の船は、ある意味、ウィッチの不信感や恐怖心を具現化した様な存在なのです…」




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