――― 横須賀 ―――
横須賀軍港に入港したリベリオン艦隊の歓迎式典が開始され、芳佳と美知子が辿り着いた時には扶桑とリベリオンの艦艇が満艦飾を飾ってお祭り騒ぎになっていた。
更にリベリオンの将兵の何人かが扶桑の車両を借りて町に繰り出していき、その内の何割かは近くを通り過ぎようとする芳佳と美千子に陽気に声を上げながら手を振ってくれたが、ギョッとしている美知子と逆に芳佳はシャリーの顔を浮かべながら苦笑しながら返していた。
「…御待ちしていました」
横須賀軍港の正門に辿り着いた芳佳と美千子を目的の美緒ではなく彼女の従兵である土方圭助が出迎えた。
「…土方さん、坂本さんはどうしたのです?」
「……少佐は休暇でして…」
真面目人間である美緒の事がチョットやそっとで休暇をとる者で無い事を知っている芳佳は美緒不在に疑問を感じていた。
それにそれを伝えた圭助の様子もおかしかった事もあって思わず勘繰りをしていたが…
「…にゃあぁぁー!!!…」
「「……?」」
「…猫?」
「よ~しかぁー!!
ひっさしぶりぃ~!!」
……頭上から何か変な声が聞こえてきたと思ったら…何か黒い少女が満面の笑みで芳佳の背後から彼女の胸に抱き付いた。
「~~…!? ルッキーニちゃん!?」
圭助が呆れて美千子が口を押さえながら頬を赤らめていたが、当初は驚いた芳佳は相手が同僚のルッキーニである事に気付いた。
「よう、芳佳!
久しぶり!」
「シャーリーさん!」
ルッキーニの存在に難とな予想はしていたが、そのルッキーニとよく組んでいるシャーリーが軍港内から現れた事に芳佳は更に驚いていた。
「…でどうだ?」
「う~ん、残念賞に変わりなし」
「……はう…」
芳佳の胸を揉んでいるルッキーニが呆れていたが、当の芳佳の首が項垂れたが、美千子には芳佳が星座の闘士さながらに吹っ飛んだ後に頭から墜落したかの様に見えていた。
「ま、数ヵ月位じゃ変わらないって事だな」
シャーリーが慰めみたいなのを言っていたが、扶桑とリベリオンの国力差を体言化させたかの様な芳佳とは真逆な彼女の胸部を見れば誰だって凹むと思われる。
だからと言ってシャーリーの胸を、涎を垂らしながら凝視するのはどうかと思うぞ、芳佳…
「…え~と…45度の角度で…えい!!」
「…は! そう言えばシャーリーさんとルッキーニちゃんは何故横須賀にいるのですか?」
ルッキーニがシャーリーの所に行き、美千子の手刀を頂頭部に受けて正気に戻った芳佳はアフリカにいる筈の二人が此所にいる訳を尋ねた。
「ああ、私のストライカーユニットにオーバーホールが必要だったから一旦リベリオンに戻ってたんだよ。
でアフリカに行くのに古馴染みがいた船に乗せてもらったんだ。
只、こんな遠回りをするなんて思わなかったがな」
「船って『アリゾナ』に乗せてもらったんですか!?」
「ああ、そうだが……芳佳、此の娘は?」
「私の幼なじみのみっちゃん…じゃなくて山川美千子です」
シャーリーが何気なく親指で差したのが埠頭に接舷している『アリゾナ』であった為に美千子が興奮していたが、そんな彼女にシャーリーが少し引いていた。
「そう言う芳佳も何故横須賀に?」
「そ、そうだよ。
確か予備役に入ってたんじゃないのか?」
「実は先日、お父さんから此れが届いて…」
ルッキーニに乗っかる形であったが、芳佳の存在に疑問を感じたシャーリーに芳佳は父から届いた二つある封筒の片方を手渡した。
「……え、え~と…“the Mysterians”?」
「ミステリアン~…何それ?」
「私達も題名らしきモノは分かったんですけど、内容は全く読めなくて。
シャーリーさんなら読めますか?」
芳佳もミステリアンと書かれた資料の束を自分の力では読めなかった為に取り扱いに少し困っていたが、シャーリーも一通り目を通すと渋い顔付きになった。
「…駄目だ。 コイツは私でも読めない」
脇で仏頂面のルッキーニは論外(事実だが酷いな…)であったが、シャーリーでも駄目だった事に芳佳が溜め息を吐いた。
「いや、でも私が見た処だとコイツはガリアの古い文字で書かれているみたいだぞ」
「て事はペリーヌさんなら読めるかもしれないのですか?」
芳佳にシャーリーは「断定は出来ないが…」とのオマケ付きで頷いた。
「え~…あのツンツン眼鏡に頼るの~?」
まぁ、文句を言うルッキーニは置いておき…
「でもう一つのは?」
「あ、はい、此れが何かの設計図である事は分かったのですが…」
…ミステリアンの資料を一旦封筒に戻してもう一方のと代えると…確かに芳佳の言う通りに設計図が入っていた。
「…此れはストライカーユニットの設計図じゃないか!?」
「此れってストライカーユニットのだったのですか?」
「ああ、だがこんな構造の機体は見た事ないぞ」
設計図に描かれているのがウィッチに馴染み深いストライカーユニットであった事に芳佳が驚いていたが、元々ストライカーユニットの
「しかしコイツは技術部にでも渡さないとどうにもならないぞ」
「その事で坂本さんに会いに来たのですが、坂本さんは休暇でいないそうなのです」
「へぇ~…あの少佐がね…」
シャーリーも美緒の不在に少し驚いていた。
「じゃあ、コイツはとうするの?」
「ミステリアンのはどうにもならないですが、取り敢えず設計図は杉田大佐に託そうと思ってます」
「でその大佐は?」
「…今『アリゾナ』の視察に行っています……?」
設計図を杉田淳三郎(空母『赤城』の最後の艦長)に預けると言った圭助だったが、その杉田が『アリゾナ』にいると聞いた美千子が期待を込めて目を輝かせていた。
「……分かったよ。
私が話を通してやるから一緒に行くか」
美千子の意を汲んだシャーリーに圭助と芳佳が苦笑したが、『アリゾナ』が見学出来る事に美千子は何故かルッキーニ(何故かノリノリ)とハイタッチをした。
――― アリゾナ ―――
「…近くで見ると、やっぱり大きいね」
早速、『アリゾナ』にやって来た芳佳達一行は改めて『アリゾナ』の巨体に圧倒されていた。
「う~…」
だが此の船を『赤城』や『信濃』みたいにどうしても好きになれない芳佳であったが、隣のルッキーニも『アリゾナ』に唸り声を上げている事に少し驚いていた。
「誰だキサマ!?
此の船は関係者以外は立ち入り禁止だ!」
その間にシャーリーがタラッブに近づいていたが、そのタラッブの前で
最もその軍警察達はシャーリーが近づく前まで雑談をしていた上、一部は近づいたら近づいたで動く処か生きてるだけで揺れを関知出来る彼女の胸を鼻を伸ばしながら凝視していた。
まぁ、後者はムッとしたシャーリーが胸を強調する様に、胸を張った為に変に男のサガを刺激してしまったと思われるので、仕方がないと思われるが…
「……宮藤さん?」
だが此のタラッブでの騒ぎを艦内見学を終えようとしていた杉田が甲板から見下ろして芳佳達を見つけた。
「何を騒いでいるのかね?」
此の為、杉田が下りてきたので、軍警察達は慌てて敬礼した。
「…あ、いえ、部外者と思われる者が来ましたので」
「彼女達は私の知り合いだ。
すまないが、入れてやってくれないか?」
「しかし…」
「もういいよ!!
アイツには悪いが、私の事は第一主砲のジムに聞いてくれ!」
杉田の提案に戸惑っていた軍警察達であったが、シャーリーの“第一主砲のジム”発言にギョッとした。
「…貴女は第一主砲砲台長のジム・ボーガン中佐の知り合いなのですか?」
「ああ、同郷の古馴染みだよ。
と言ってもアイツはワシントンへの転勤で此の船から降りたみたいだけどな」
シャーリーの知り合いが『アリゾナ』の高官であった者だと知って、軍警察達は一斉に「知らぬ事と言え、失礼しました!」と言いながら姿勢を正した。
勿論、シャーリー達の乗艦を直ぐ許可してくれ、早速芳佳達は『アリゾナ』の甲板に上がった。
「大きくて広い!」
美千子は『アリゾナ』の広大さに圧倒されていたが、芳佳は『赤城』を基準にして見ていた為にあまりそうは感じていない様だった。
まぁ、艦上のほぼ全てを飛行甲板にしている空母を基準だと艦軸線上に主砲や艦橋を置いている戦艦を狭く感じると思われるが…
「私が言うのもなんですが、此の船はどうですか?」
「聞いた通り、大きいですね」
…圭助の杉田への返事の通り、軍艦の知識がある程度知っている者には『アリゾナ』の広大さが分かる様だった。
それにリベリオンの艦艇はパナマ運河の関係でアイオワ級以前の船が艦幅を33m未満に抑えている為、世界的に細長い艦艇が多いのだが、先月中に新運河が出来たのでモンタナ級以降(大西洋艦隊所属だったと言え、新運河開通前に竣工したモンタナ級はそれまで南米最南端ホーン岬を通らないといけなかった)は50mまでに緩和されたのだが、それ抜きでも『アリゾナ』の広大をより強烈に感じ取れた。
因みにドッグや港湾設備以外を気にしない扶桑等とは別として、リベリオンの艦艇と同じ悩みをブリタニア(スエズ運河)とカールスラント(キール運河)も持っていた。
「…それにしても此の船は『信濃』と比べると随分機銃が少ないですね」
「ああ、近年の高速・重装甲化が著しいネウロイに、機銃は威力と射程が不足しているから40mm機銃を必要最小限に抑えたらしい。
まぁ、その代わり高角砲……じゃなくて、両用砲をモンタナ級より増設しているいますがな」
芳佳の指摘通り、機銃を針鼠の如く大量登載している『信濃』が近くにいる為、『アリゾナ』の機銃の少なさがよく分かった。
只、沖合いにいる『信濃』は、本来の彼女の停泊場所を『アリゾナ』に取られてしまった為なのか、気持ち小さく見えていた。
「確かに両用砲が多いですけど、だからと言って対空防御に不安を感じてしまいます?」
「それに此の船、木甲板が無い(代わりに滑り止めが施された金属板を使用)だけでなく、艦橋に天井が無いですし…」
「…ですが、『アリゾナ』にはそれを払拭する力があるのですよ。
それは此の船の内部に入ればよく分かりますよ」
杉田の言葉に芳佳達は首を傾げたが、杉田に薦められるまま艦橋近くの『アリゾナ』艦内への扉を潜った。
――― アリゾナ ―――
『アリゾナ』の艦内に入った芳佳達はと言うと、杉田の案内の下に通路を進んでいた。
「…また聞きますが、どうですか、此の船は?」
「『赤城』と比べるとの話ですが、天井も高いですし、通路も広いですね。
照明も明るくてかなり良いです」
「芳佳ちゃん、二十年近く前の船と比べるのはちょっと酷だと思うよ」
杉田の質問に答えた芳佳だったが、比較対象が『赤城』であった為に美千子から注意されていた。
思わず“あっ!”とした芳佳がシャーリー達に笑われていたが、杉田だけはつい先月まで艦長を務めた亡き空母を思い出したのか何処か寂しく微笑んでいた。
「でもな、今は泊待っているから分かりにくいけど、此の船は揺れが殆ど無いから快適の一言だぞ!」
「そうそう!
ご飯も美味しいしね!」
「……どうですかね…」
美千子にシャーリーとルッキーニが乗っかったが、杉田が反論みたいな事を発した。
「…どう言う事です、杉田大佐」
「良すぎるのですよ、此の船は」
圭助の質問に答えた杉田だったが、その訳が全く理解出来ず圭助達は目線を合わせていた。
誰となく杉田に更に質問しようとしたが、その直前に目的地の一つ目である第二砲主砲塔に入った。
「…此れが『アリゾナ』の主砲、50口径46cm砲。
此の主砲は大和級の物と同口径ながら、長砲身であるだけでなく九一式徹甲弾(1.4t)より重い
『アリゾナ』の目玉である主砲を……最新機器がズラリと配備された内部を見せられて美千子と圭助はかなり興奮していた。
「そしてなにより此の主砲は大和級より一回り大型の砲塔になる事を代償に、自動装填装置によって僅か十五秒で砲弾を装填出来ます」
芳佳達ウィッチ三人娘は分からずにいたが、此れは大和級が四十五秒、アイオワ&モンタナ級が三十秒、ほぼ同世代の中で一番早いビスマルク級(38cm砲)でさえ十八秒……つまりより重い砲弾を運用しているにも関わらず、大和級の三倍の速さで連射が出来る凄まじいモノであった。
「更に二種類の両用砲にも、此の主砲と同じ構造の装填装置を装備しています。
此の為、八基の15cm連装砲(ウースター級の主砲と同型)は五秒、十基の7.6cm単装砲に至っては二重自動装填装置によって機銃並の連射が可能です」
「……此れだったら機銃はいらないな…」
「ええ。
ですけど、此れよりもっと特長的なのがあります」
『アリゾナ』の搭載火器にシャーリーが引き吊っていたが、杉田は砲塔全体を見渡す様に示し、それに圭助が何かを察した。
「…此の砲塔、砲員の座席が有りませんね」
「はい、『アリゾナ』は主砲処か、両用砲や機銃の一部を戦闘指揮所からの遠隔操作で動かしているのです」
「何なのそれ!?」
「ルッキーニ、珍しい事じゃないぞ。
リベリオンはBー17で遠隔操作式の砲座の搭載に成功しているんだから、艦艇に出来てもおかしくはない」
シャーリーの補足も聞いて、芳佳は改めて砲塔内部を見渡し、人の気配らしき等が全く感じれなかったので、『アリゾナ』が好きになれない理由がなんとなく分かった気がした。
感想・御意見お待ちしています。
今回震電の設計図と共にミステリアンの資料が送られたとしていますが、もしかしたら本作では宮藤博士は何らかの形でミステリアンの技術を手に入れてストライカーユニットを作ったかもしれません。
その事と関係しているかどうかは不明ですが、“ハウニブ”と言う敵専用ストライカーユニットを登場させる予定です。
それと『アリゾナ』の捕捉情報ですが、先ず艦橋ですが史実では『ノース・カロライナ』から『アイオワ』までの新型戦艦は元々は露天でしたが、ソロモン海の死闘での反省から『ニュージャージー』以降は建造途中から、『アイオワ』のみは戦後に屋根を追加していますが、本作ではそのソロモン海の出来事が無いので全艦揃って露天のままです。
機銃も『アイオワ』級は40mm以外はジェット機の対応出来ないとして全廃し、『エセックス』や『ミッドウェー』に至っては機銃処か高角砲も全て降ろしています。
では次回も『アリゾナ』の見学が続きます。