【完結】島村卯月「もういいです、私、アイドル辞めます」 作:ラジラルク
歌い終わって舞台袖へと引き上げて来た私を待っていてくれたのは目を真っ赤にした美嘉さんだった。後ろから聞こえるのは未だに私を名前を呼び続けるお客さんたちの声と鳴り止まない拍手。そのステージを背に一度も振り向かずに舞台袖まで歩いてきた私。
舞台袖まで辿り着いた瞬間、私はその場に崩れ落ちた。張り詰めていた気が一瞬にして緩んでいくのを感じると、とっくに限界を越えていた緊張が私の全身の力を奪って去って行き堪えていたはずの涙がここにきて一気に堰を切ったように溢れてくる。
ステージに立つ時の緊張感、私の全てをさらけ出す恐怖、そしてアイドルを辞めてからの四年半もの間ずっと私の心を苦しめ続けていた霧から解放された瞬間だった。私は暫くその場に崩れ落ちたまま両手で顔を覆っていた。
「卯月ちゃん……。サイコーのステージだったわよ。やっと……、やっと卯月ちゃんもシンデレラになれたのね」
崩れ落ちた私を抱きしめるように、包み込んでくれた美嘉さん。その美嘉さんの言葉に私の瞳からは更に大粒の涙が溢れてくる。私を抱きしめてくれている美嘉さんも泣いていた。私のステージなのに私と同じように、いや、もしかしたら私以上に泣いていたのかもしれない。それから暫く、私たち二人は抱き合ったまま声を上げて泣いた。
暫くして私の背中から再び大歓声が上がった。そしてその大歓声の中心には未央ちゃんの明るくて元気な声――……。
――あぁ、私のステージはもう終わったんだ。
この時、初めて私は自分のステージが終わったのだと実感した。私のせいで武内プロデューサーがクビになってしまってシンデレラプロジェクトが解散になってしまって、何処までも迷惑をかけたはずなのに、唯一笑顔でシンデレラプロジェクトを旅立てなかった私のために武内プロデューサーが用意してくれた今日のこのライブ。そのライブで武内プロデューサーが私のためだけに用意してくれた曲を無事に歌え終えたのだ。
今聞こえてくる未央ちゃんの歌声や私の前にステージに立った李衣菜ちゃんに比べたらブランクを差し引いても私のステージは見劣りするものだったかもしれない。
だけど私はこの一曲に全ての想いを込めて歌った。ひたすらキラキラする自分に憧れて前だけを見て駆け抜けた養成所時代の二年間、武内プロデューサーとシンデレラプロジェクトのメンバーたちと出会って過ごしたかけがえのない半年の時間、何度も迷って悩んで苦しんで、紆余曲折しながら立ち止まっては歩んできたこの四年半の時間の全てを、そして私をこのステージに立たせてくれた美嘉さんと武内プロデューサーへの感謝の気持ちを込めて歌いきった。
これから私はもっとレッスンを受けて歌も今よりは遥かに上手くなるだろうしアイドル生活を送る中で何度もステージに立つ機会があるだろう。もしかしたら今日より大きな会場で沢山のお客さんの前で今日よりもっともっと長い時間歌うことができるかもしれない。
それでも、今日の私の歌と立ったステージは私の生涯で間違いなく一番のライブになると私は確信していた。
私のステージは終わった。
そう実感するのと同時に、昔本当に少しだけ垣間見えた夢の光の兆しが私には僅かだが、だけど間違いなく見えた気がした。
☆☆☆☆
その後のステージは何事もなく進んでいった。
シンデレラプロジェクトの復活ライブの最後を締めた凛ちゃんのステージは圧巻だった。さすが『大ブレイクの歌姫』と呼ばれるだけあって、シンデレラプロジェクトのメンバーの中でも群を抜いた歌唱力を見せつけてくれたのだ。一人だけ明らかに次元の違う歌唱力を披露し会場は最後にして一番の盛り上がりを見せていた。
そんな凛ちゃんに比べると私はまだまだだなぁと思ってしまう。歌も勿論だがダンスもカリスマ性も、今の私では凛ちゃんに勝てる要素なんか何一つないだろう。
それでも……、何年かかっても私は凛ちゃんにいつか追いついて追い越すことが出来ると信じている。
ずっと笑顔で歌って踊り続けて、もっともっと夢を見て願って努力すればきっと――……。
いつか私が憧れたキラキラした私に、絶対になれるのだと。私はそう信じて凛ちゃんのステージを舞台袖から眺めていた。
凛ちゃんのステージが終わった後、前日にディレクターから聞いた通り何もトラブルもなくスケジュールを消化できたから、ほんの少しだけの休憩を挟み私たちは再びステージに立つことができた。
シンデレラプロジェクトの十四人全員でステージに立つと、私たちは横一列に並んでみんなで肩を組んでアカペラではあるがシンデレラプロジェクトの代名詞とも言えるヒット曲、「star!!」を合唱した。
精一杯に輝くスーパースターに、それぞれが憧れるキラキラする自分を目指して、小さな一歩だけど少しずつ少しずつ歩んでいたあの頃の私たち。
シンデレラプロジェクト始動から五年が経った今、残念ながら半分のメンバーはアイドルを辞めてしまった。それでも、例えあの頃目指していた夢とは違う夢だとしても、みんな五年経った今でもあの頃と変わらず憧れるキラキラした自分を目指してギラギラした眼で夢を追い続けていた。
現役アイドル、舞台女優、女子アナに一児の母、ファッションモデルにOL、そして声優。シンデレラプロジェクト解散に従い、みんなバラバラのステージで生きる道を選んだ十四人の元シンデレラたち。私の隣にいる凛ちゃんも未央ちゃんも、横一列になって肩を組んでいる私たちは皆、歌いながら泣いていた。
みんなあの頃の時間を大切に胸に抱いてそれぞれの日常を送っていたのだ。例えアイドルになる夢を諦めたとしても、それぞれ違うステージに進むことになったとしても、決して色褪せないあのキラキラした日常を糧にして、それぞれが今の現実としっかり向き合って生きていたのだ。
何かを諦めて何かから逃げて、それが「大人になる」ことだと私はずっと思っていた。そしてそう思う度に、そんなことをするくらいなら大人になんかなりたくない、と思い続けていた。
でも実際は違うのだ。何かを「諦めたり」、何かから「逃げる」のではなく、それぞれが歩む人生の中で新たな夢や道を見つけてそれに生きて行くのが「大人になる」ということだったのだ。
横一列に並んで泣きながら歌うみんなを見ていて、私はようやくその真実に気が付いた。
そしてもし私がそう思ったことが本当の「大人になる」という意味ならば――……。
大人になるということは決して悪いことではないのかもしれない。私はそう思ったのだった。
十四人の元シンデレラたちが歌う鼻声交じりの「star!!」が終わり、シンデレラプロジェクトの復活ライブは幕を下ろした。
そしてこれ以降、二度とシンデレラプロジェクトの十四人が全員揃ってステージに立つことはなかった。
☆☆☆☆
シンデレラプロジェクトの復活ライブからちょうど二週間が経過した日曜日の夕暮れ時、私はオフなのに関わらず会社の最寄の駅で電車を降りた。
降り立ったホームから見える黄昏時を迎えた空は綺麗なオレンジ色のグラデーションを描いている。その大空に描かれたグラデーションを暫くの間足を止めて見つめると、私は少しばかり足早に改札へと続く階段を降りていった。
「あ、卯月!」
「やっと来たかー、遅いよしまむー」
改札越しに立つ未央ちゃんと凛ちゃん。
私は財布に入れた切符を通すとすぐに二人の元へと駆け寄って行く。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって……」
「気にしないで。それより早く行こう?みんな待ってるよ?」
「はい、これ!しまむー遅れたからこれ持つの手伝ってよね」
未央ちゃんが両手に握っていた大きなビニール袋を私の方へと一つ差し出す。私が受け取ったビニール袋には沢山のお菓子やジュースが詰め込まれていた。
「……これ、全部未央ちゃんが買ったんですか?」
「卯月も買い過ぎだと思うでしょ?私も一応注意したんだけど……」
呆れたように溜息を吐く凛ちゃん。
その横で未央ちゃんは苦笑いをすると空いた右手を頭の後ろに回し髪を掻く。
「ごめんごめん、みんなに会えると思うと張り切っちゃってつい……。あははは」
「ふふ、未央ちゃんらしいですね」
シンデレラプロジェクトの復活ライブから二週間が経った今日、今更ながらライブの打ち上げをすることになっていた。
「せっかくみんなで集まれたんだから打ち上げもやりましょうよ」、そう提案したのは美波ちゃんだ。美波ちゃんの意見にみんなが賛成し打ち上げをすることになったのは良かったのだが、いかんせんみんなそれぞれの生活があり日程がなかなか合わなかったのだ。
ライブが終わったその日の夜にしようという意見もあったが、まだ未成年である莉嘉ちゃんとみりあちゃんのことを考えるとどうしても時間が遅くなってしまうので残念ながらライブの終わった後はボツになった。
だが次の日からは当たり前だが皆それぞれの日常に戻り仕事が待っていた。凛ちゃんは全国ツアーを目前に控えレッスンと打ち合わせで多忙な毎日を送っていたし、智絵里ちゃんはライブの次の日に東北で収録があったりと、せっかく復活ライブで集まれたのに皆再びバラバラになってしまったのだ。
ライブが終わって数日が経ち、未だにライブの余韻が抜けないままだった私がやっぱりみんなバラバラの日常を過ごしてるんだから集まるのは難しいんだなぁ、なんて諦め半分に思っていた矢先に美波ちゃんから電話が掛かってきた。
「来週の日曜日の夕方からなら、ホント偶然なんだけどみんな予定が空いてるみたいなんだよね。卯月ちゃんはどう?」
スマートフォンを肩で耳に挟んだまま私は慌てて鞄からスケジュール帳を取り出して確認する。『シンデレラプロジェクト復活ライブ』と書かれた日の丁度二つ下の日曜日の欄には小さな字で『オフ』と書かれていた。
「私も大丈夫です!」
「そっか、良かったわ。なら詳しい時間と場所はまた追って連絡するわね」
それから数日後、美波ちゃんから届いたLINEを見て私は思わず目を見開いた。集合場所の横に記しされていた場所が『346プロダクション オフィスビル30階 旧シンデレラプロジェクトルーム』だったのだ。
ここは私たちがまだシンデレラプロジェクトに所属していた頃に夢を見て毎日通っていたあの思い出の場所だ。
美城常務がアイドル事業部の統括重役に就任したのとほぼ同時に半強制的に追い出されるようにして地下に拠点を移すこととなったシンデレラプロジェクトだったが、それからこの部屋は使用用途が決まらず空き部屋になったままになっていた。
どうやってこの場所で打ち上げをする許可を得たのだろうか。思わず浮かんでくる疑問。
それでもこの思い出が沢山詰まった場所で、大切な仲間たちとまた集まれることが、私は嬉しくて仕方がなかった。
美波ちゃんのLINEに「分かりました。楽しみにしてます」とだけ返信すると、私は興奮冷めぬままの筆先でスケジュール帳にしっかりと予定を書き込んだのだった。
☆☆☆☆
「あー、やっと来たー!遅いよ、みんな待ってたんだからねー!」
久しぶりに訪れた旧シンデレラプロジェクトルームには私たち三人を除く全てのシンデレラプロジェクトのメンバーたちが集まっていた。
私たち三人の前で腰に手を当てて頬を膨らます莉嘉ちゃん。私の隣に立っていた未央ちゃんは頬を膨らましている莉嘉ちゃんを宥めるようにして頭を撫でる。
「ごめんごめん。ほら、お菓子いっぱい持ってきたから許してよ」
ニカッと笑うと得意げに右手に握っていたビニール袋を見せる未央ちゃん。だが未央ちゃんに頭を撫でられたまま莉嘉ちゃんはその様子を見てわざとらしく大きな溜息を吐いた。
莉嘉ちゃんの予想外の態度に未央ちゃんは思わずオドオドしている。だがそんな莉嘉ちゃんの態度の原因もすぐに知ることができた。
呆れて溜息を吐いた莉嘉ちゃんの後ろで私たちの様子を見ていた残りのシンデレラプロジェクトのメンバーたち。みんなが囲んでいる机の上には溢れ落ちそうほどまでのお菓子が広げられていたのだ。
「……みんなも買ってきてたんですね」
メンバー全員が良かれと思ってお菓子を買って持ってきていたようだ。
皆年齢も選んだ道もバラバラのはずなのに、こういう妙な所が似て偏っている。その光景に私たちは思わず笑ってしまった。
「ささ、三人も早くおいでよ!乾杯するよ!」
みくちゃんに手招きされ、私たちは李衣菜ちゃんとみくちゃんが空けてくれたスペースに並んで座り、みんなと同様にお菓子が大量に広げられた机を囲んだ。
私たち三人が来たことでようやく全員のシンデレラプロジェクトのメンバーが揃った。シンデレラプロジェクトのメンバーたちは皆無意識に私たちが座った席の向かい側に座る武内プロデューサーへと視線を送った。
その十四人の視線に気付いた武内プロデューサーはわざとらしく咳払いをする。そして机の前に置いてあった紙コップを握ると目の高さまで持ち上げた。
「それでは皆さん、シンデレラプロジェクト復活ライブお疲れ様でした。今日はライブの時よりも更に良い笑顔で楽しんでください」
武内プロデューサーの言葉に私たちは声を上げて笑った。
あんなに堅苦しいことしか言えなかった武内プロデューサーがほんの少し冗談を織り交ぜた言葉を話せるようになったのが妙におかしかったのだ。
「それでは、かんぱーいっ!」
みくちゃんの隣に座る美波ちゃんの掛け声と同時に、みんな紙コップを持ってお互いの紙コップへとぶつけ合った。
「えー、デビュー決まったの!?」
「うん!今年の冬から始まるアニメのヒロインだよ。しかもOPも歌わせてもらえるらしいの。ちゃんと李衣菜ちゃんもオンエアで見てよね!」
「みく凄いじゃん、声優デビューおめでとう!」
「美波ちゃん、あの野球選手との熱愛報道ってホントなのー!?」
「さぁね?莉嘉ちゃんの想像にお任せするわー」
「もーっ!誤魔化さないで教えてよー!」
「かな子ちゃん、結婚生活はどう?」
「うーん、色々大変だけど幸せだよ。子供も可愛いしね。智絵里ちゃんは結婚しないの?」
「わ、わたしは結婚なんてまだ……。ちゃんと好きな人としたいし……」
「杏は誰でも良いよ。早く養ってくれる男と結婚してこんなブラック企業辞めてやりたいね」
「アーニャちゃんはね、日本だけじゃなくてロシアでも活動してるんだよねぇ?凄いにぃ!」
「そ、そんなスゴくないです。キラリだって、今度新しいブランドメーカー立ち上げるそうじゃないですか。ソッチの方がスゴイです」
「えー、きらりちゃんがブランドメーカー作ったの?スゴーイ、私もきらりちゃんが作った服着たーい!」
「もちろん、みりあちゃんもきらりの服着て、みんなでハピハピしようにぃ!」
「あ、らんらん!そこのお菓子取って!」
「ら、らんらん!?だからその呼び方は止めろと……」
私の眼の前で繰り広げられている一つ一つの会話、やり取り、その全てが懐かしかった。
あの頃はこれが当たり前でいつまでも永遠に続くと思ってた日常。そんな日常がどれだけ大事なものであって私を支える源になっていたのかーー……。
この思い出の詰まった場所で大事な仲間たちと過ごす幸せなこの時間を、私は一秒足りとも取りこぼさないように噛み締めようとしていた。
そして打ち上げが始まってすぐに気が付いたのだが、これだけみんながお菓子やジュースを別々に買って持ってきたのに、不思議なことに誰もアルコールは買っていなかった。
みりあちゃんと莉嘉ちゃんを除く他のメンバーはもう成人済みだからアルコールを飲んでも何らおかしくないはずなのに、誰一人としてアルコールを持って来なかったのだ。
最初は不思議に思っていたが、その理由が時間が経つにつれ何となく分かってきた。
あの頃にタイムスリップするのに、私たちにはアルコールが必要なかったのだ。
酒の力を借りなくても、お菓子とジュースだけで盛り上がっていたあの頃の自分を皆誰もが無くさずに今も心の何処かで持ち続けていたのだ。
「ねぇ、せっかくだしみんなで写真撮ろうよ!」
未央ちゃんがそう言いだしたのは打ち上げが始まって二時間ほどが経過した頃だった。未央ちゃんの突然の提案にそれぞれの会話に華を咲かせていたみんなが一気にまとまり賛成する。
「良いね、良いね!なんか同窓会っぽくてロックじゃん」
「なら私が皆さんの写真を撮りますよ」
武内プロデューサーがそう言って私たちから少し離れたところでポケットからスマートフォンを取り出そうとした時だった。
私の横でジュースを飲んでいた凛ちゃんが突然立ち上がると武内プロデューサーの元へと真っ直ぐに向かっていく。
「ほら、プロデューサーも映ろうよ!せっかくなんだしさ」
そう言うと無理矢理武内プロデューサーの腕を握って私たちの元へと凛ちゃんが連れてきた。武内プロデューサーは困ったような表情をしていたが嫌そうな表情にも見えない。
私たちが初めて顔合わせをして撮影を行った時にみんなからの誘いを頑なに断って写真に写らなかったあの頃の武内プロデューサーからは考えられないような表情だ。
「でもこれじゃあ写真撮る人がいないじゃん。どーするの?」
「未央ちゃん、安心して。ジャジャーン!」
ノリノリなセリフと同時に李衣菜ちゃんが鞄から取り出したのは黒いプラスチックの指示棒のようなもの。
「あ、これ今流行りの自撮り棒でしょ?」
「さすが莉嘉ちゃん!あったり~!ロックでしょ?」
「李衣菜ちゃん、相変わらず何でもロックにするとこは変わってないんだね……」
かな子ちゃんの言葉に顔を真っ赤にして必死に反論しようとするも、なかなか言葉が出てこなかったのか無意味に自撮り棒を振り回している李衣菜ちゃん。
そんな李衣菜ちゃんを見て私たちはまた笑った。
「も、もう……。そんなに笑わなくたって良いじゃんか~。はい、撮るよ!」
ふてくされたような台詞を呟くと李衣菜ちゃんは気を取り直したかのように自撮り棒に挟んだスマートフォンを私たちの斜め上にめいいっぱい伸ばす。
私たちは慌てて席を立つと李衣菜ちゃんのスマートフォンのカメラに入るように、みんなぎゅうぎゅうになって寄せ合った。
「パワーオブ!?」
私の真後ろにいる美波ちゃんの声。
その声の後に残りの十三人全員が誰にも負けない自慢の笑顔を浮かべながら声を揃えて叫んだ。
「スマイル!!!!」
――パシャ。
私たちの声に掻き消されそうなか弱い音を立ててシャッターを切った李衣菜ちゃんのスマートフォン。
その画面には私たち十四人の元シンデレラとその元シンデレラたちを城へと導いた一人の男が満面の笑みを浮かべて写っていた。
明日からはまた皆この懐かしい大切な時間を再び胸の奥にしまってそれぞれの日常に戻っていく。
今でもアイドルとして活動を続ける私と凛ちゃん、李衣菜ちゃんに蘭子ちゃん、そして私の後輩として共に346に残ったみりあちゃんと莉嘉ちゃん。ファッションモデルへと活躍の場を移したきらりちゃんとアーニャちゃん、女子アナになった美波ちゃんと智絵里ちゃん、舞台女優として変わらぬ元気で進み続ける未央ちゃんに今年の冬のアニメで正式に声優としてのデビューが決まったみくちゃん。そしてアイドル活動から離れ普通の日常へと戻っていった杏ちゃんとかな子ちゃん。
次にこうしてみんなで会えるのはいつになるのだろうか。近いうちにまた集まることができるのか、遠い未来になってしまうのか、それは今は誰にも分からない。
それでも、決して離れ離れだとしても、私の知らない場所でもみんなあの頃と変わらない夢に真っ直ぐな眼差しで新たな目標に向かって頑張っているのだから――……。
私も負けていられないのだ。
私たちにかけられた魔法は解けてしまった。
これからは魔法が解けたこの世界を、元シンデレラの十四人は生きて行かなければならない。きっとこれからもっと厳しい現実が待っているだろうし上手くいかないこともあるだろう。
それでも私は私と同じように魔法の時間を過ごしたかけがえのない仲間たちと共に、魔法が解けたこの世界を生きて行くのだ。
――誰にも負けない、武内プロデューサーが何度も褒めてくれた、私だけの笑顔で。
くぅ~疲れましたw
これにてこの物語は完結です。
予想以上に時間があったため、今日手直しをして投稿することにしました。
この物語のあとがきも書こうと思ったのですが、やっぱり書かなくても良いかなという気がしたので今は書かないでおくことにしました。
物語を読んだ読者の皆さんがそれぞれの解釈でこの物語を捉えてもらってください。気が向いたら書くかもしれませんが。笑
もともと書き溜めはしていたので早いペースでの投稿にはなりましたが、予想以上に沢山の方々に見てもらえたようでホントに感謝しています。
ここ最近はアクセス数がエグイぐらい増えてたり、偶然Twitterでこの作品を紹介してくださっている人を見たりと、予想外のことばかりで自分も驚いてばかりです……。
拙い文章ではありますが、見てくれた方々の記憶に残る作品になれたら光栄です。
当初は物語の終盤にあるライブで完全にS(mile)ING!の歌詞を引用して卯月の気持ちを反映させようとしていたのですが、自分の不注意で完全に著作権の問題を忘れており修正をしたため一度投降したラストとは少し違ったラストになっています。
なので出来れば物語を読み終わった後に、もう一度卯月のS(mile)ING!を聞いていただけたらな……と思っています。
次回作は今のところ予定はありません。
ですがこの作品と同じ時間軸でシンデレラプロジェクトの解散に従い、別々の道を歩むことになったアスタリスクの二人の解散してから復活ライブまでの話もいつか書けたらなと思っています。書くかどうかは分かりませんが……。
何はともあれ、短い間でしたが本当にありがとうございました。
もし次回作を書くことになりましたら、また是非ともよろしくお願いします。