やはりあざとい後輩とひねくれた先輩の青春ラブコメはまちがっている。   作:鈴ー風

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どうもどうも、鈴ー風です。
割りと早めに書けました。でも不安定になりそうで怖い…
ようやく病院編が終わり、新章「それぞれの日常編」の始まりです。まずは八幡視点の物語となります。
ではどうぞ( ゚д゚)ノ

いろはす~( ´∀`)


それぞれの日常編
第八話 漸く始まった高校生活は、されど変わらず。


 

「お兄ちゃん、大丈夫?ちゃんとハンカチとティッシュ持った?足痛くない?」

「しつこいわ、小町。大丈夫だっての」

 

 週明けの朝。時計の短針が七を指そうかという時間に妹、小町がここまで甲斐甲斐しく世話を妬いてくるのはとある理由がある。

 

「だって今日からお兄ちゃんの高校生活が始まるんだよ!?第一印象は良くしていかなきゃ!」

「あの、小町ちゃん。入学初日から行ってない時点で第一印象も何も無いからね?既に出遅れてるからね?」

 

 まあ、ぶっちゃけ俺の高校初登校日な訳だが。元々学校に行ってない上に初登校日が五月、もうグループはあらかた出来上がってるだろうし、第一印象も何も無い。中学の時と同じ、ボッチ生活が始まるだけだ。

 そんな兄の心境は露知らず、当の本人以上にせわしなく動く小町。

 

「まあそうなんだけどさ。ただでさえ印象を悪くとられがちなお兄ちゃんなんだから、できる限りはやっといて損はないでしょ」

「そんだけやっても精々プラマイゼロだけどな」

「何言ってんのお兄ちゃん」

 

 ようやく納得がいったらしい小町は、その発展途中の胸を反らしながら得意気に言った。

 

「これでようやくマイナス十くらいだよ」

「……」

 

 どうやら俺は、精一杯着飾ってもマイナスの域を出ないらしい。あれ?晴れてるのに雨が降ってるよ……

 

「まあ冗談はこれくらいにして」

「冗談?小町ちゃん、どこが冗談?どこからが冗談?」

「そんなことよりも!」

 

 妹から兄への罵倒はそんなことですかそうですか。

 

「とにかく!もう事故に遭ったりなんかしないように、早く、安全に学校に行くこと!いい?」

「……あい」

 

 流石にもう心配をかけるわけにもいかない。それに、そうそう車に轢かれてなどたまったもんじゃない。

 ……フラグじゃないよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …まあ、流石にもう轢かれることもなく学校に着くことに成功した。流石に今の足だと自転車は中々キツかったが、まあこげないこともない。これからも自転車通は確定だな。

 

「とりあえず、まずは職員室に行かなきゃだっけか……」

 

 まだだいぶ空いている駐輪場の端に自転車を止め、そのまま職員室を目指す。本来初日に受けるはずだったオリエンテーション的なことを含む、諸々の説明を受けなければならないらしい。まだ早い時間だからか、あまり人も多くない。精々朝練をしている部活動のやつらくらいのものだ。

 ……部活、か。

 

「…すみません、比企谷です」

「ああ、待っていたよ。そこに座ってくれ」

 

 考え事をしていたが、いつの間にか着いていた職員室の扉を叩き、中へと招かれる。そして、担任の教師だという男性から、本来初日に受けとるはずだった資料や教科書を受け取り、そのまま細かい説明を受ける。

 

「───と、説明は以上だ。何か分からないことはあるかい?」

「…いや、大体分かりました。……あ、一つだけ、いいっすか?」

「何だね?」

「いや……その、部活とかって強制だったりするんすか?」

「…いや、強制ではないよ。入りたくなければ入らなくてもいい。それだけかい?」

「そっすか……。ありがとうございます」

「いや、いいよ。さて、そろそろ時間だ。君の教室に案内しよう」

 

 話を聞いている間に結構な時間が経過していたらしい。部屋の外からは生徒達のものであろう喧騒が徐々に聞こえ始めていた。

 

『変わるチャンスをくれ』

 

 多分、俺の高校生活は以前と何も変わらない。それでも、ああ言った手前、俺が変わる努力位はしたい。

 

「……さて、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前言撤回していいっすか……

 

「えー、入院していて今日が初の登校になる比企谷くんだ。分からないことも多いだろうから、みんなでサポートしてあげるように」

 

 黒板に書かれた名前を背に、自己紹介という名目で教卓の横に立っているわけだが。

 

「「「………」」」

 

 痛い!クラス中の視線が痛いよ!そりゃ、こんな時期まで学校に来ずに入院してたとか色々思うこともあると思うけどね?殆ど珍獣扱いじゃね?女だらけの教室に放り込まれた某主人公の気持ちが今なら分かる気がする。状況全然違うけど。それでも、今までヒッキーで通してきた俺からすれば十分即死クラスの眼光な訳で。何、魔貫光殺砲でも出しちゃうの?

 

「じゃあ、比企谷くんからも何か一言」

 

 そういうのいいんで早く座らせてください……とは口に出せないので、クラス中を軽く見渡す。興味ありげにこっちを見るやつ、興味無さそうにだらけてるやつ、色々いるが、元々俺は人気者でもトップカーストでも無い。故に、いつも通りでいい。普通に、普通に……

 

「ひ、比企谷八幡です。まあ、よろしくお願いしましゅ」

「「「………」」」

 

 ……死にたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開始早々挨拶をトチるという大失態をやらかしてしまったわけだが、特に問題はなかった。別段誰も俺のことを気にしてなかったし、小町にも言った通り、既にグループが出来上がってるこの時期に、俺の入る余地などあるわけがない。というか、別に無理に入ろうとも思わないし。

 というわけで、ぼっち確定の俺は休み時間と数学は机に突っ伏して寝ていよう……

 

「あ、あの……」

 

 ……寝よう、と思っていたのだが、何とも珍しいことに声をかけられてしまった。いやいや、多分他の誰かに声をかけたんだ。そうに違いない。ここで反応したら、数ある八幡黒歴史の一つ、「え、あんたに話しかけたんじゃないんですけど自過剰乙」が目覚めてしまう。ここは無視を──

 とんとん。

 ……肩を叩かれてしまったら無視できないじゃないですかー。仕方なく声のする方に目を向けると、茶髪を可愛らしく纏めたクラスメートが、右手を半分あげた状態で固まっていた。その髪型もさることながら、発育良くとても女性らしさを象徴している二つの果実が素晴らしいと思いますはい。

 ……何か寒気がした。ハチマンワルクナイヨ、ホントダヨ?

 

「……何だ?」

「あ、いや、その……」

 

 まさか声をかけられるなどと思ってもみなかったので、かなりぶっきらぼうな返答になってしまった。女子生徒も、気圧されたのか所帯無さげにおろおろとしている。

 そして。

 

「…や、やっはろぉ~……」

 

 謎の呪文を唱えた。…え、何?やっは……何?

 

「…何だ、それ。死の呪文か?それともあれか?ゾンビは光に消えろ的な」

「違うし!ザラキでもニフラムでも無いし!」

「せめてザキじゃね?被害拡大してんぞ」

 

 ついついゲームネタで返答してしまったが、どうやら通じたようだ。つうか、ノリいいな、こいつ。

 

「…んで、何か用か?悪いが、転校生みたいに注目を浴びる要素は何もないんだわ」

「え!?いや、そういうんじゃなくて……」

「何だよ、歯切れ悪いな」

「ご、ごめん。…その、あ、あの時は───」

「由衣ーー!何やってんのー?」

 

 女子生徒が何かを言おうとした時、クラスの奥の方からこれまた女子A(名前は知らん)が女子生徒の名前らしきものを呼んでいた。成る程、こいつもトップカーストの一人だったか。名前を呼ばれたそいつは、何故か俺と女子Aを交互に見ながらあわあわしていた。

 

「……多分、お前呼ばれてるぞ。いいのか?あっち行かなくて」

「え、あぁうん。ごめん、また後で……」

「へいへい」

 

 そいつが女子Aのところに行ったのを見届けて、机に突っ伏す。あー……疲れた。

 

(変わるのって、やっぱ疲れるわ)

 

 家族以外の女子と話したのなんていつぶりだ?中学の時のあいつ以来……いや、少し前にあいつがいたな。

 

『せんぱい』

 

 ふと、脳裏によぎったそいつの笑顔を思い出し、伏せた顔が自然と緩んでいるのを自覚する。少し前の俺なら、とっくに諦め、邪険にして追い払っていただろう。昔を考えれば、ちゃんと話が続いただけましになった方だと思う。

 ……まあ、何だ。高校生活は以前と対して変わらないけど。

 変わろうとするのも、たまには悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の体育はテニスだ。難しいことは抜きにして、二人一組で打ち合ってみろ」

 

 午後一発目の体育はテニスだ。しかも、悪魔の呪文「フタリヒトクミ」を唱えるおまけ付き。ちょいと先生よ……実質今日が初登校の俺に一緒に打ち合う友達なんかいないです!中学でもいなかったです!(自虐)

 しゃあねえ、壁打ちでもしとくか……

 

「あいや待たれよ、そこの御仁!」

 

 ボールとラケットを手に、レッツ壁打ち……というタイミングで、誰かの声が聞こえた。まあ、俺を呼び止めるわけ無いし、別のやつなんだろう。無視無視。

 

「え?あ、いや、待たれよ!」

 

 しつこいな、相手のやつ待ってやれよ。待たれよ!って言ってるじゃん。

 

「ちょ、待って!無視はやめて!そこの御仁!えと、壁打ちしようとしてるそこの者!」

「……俺?」

 

 丁度壁打ちのフォームに入ったところで動きを止めた。軽く回りを見渡しても、俺以外に壁打ちをしようとしてるやつはいない。

 ん、俺のことだな。

 

「…で、何?その前にあんた誰?」

 

 声のする方を向くと、逆立った髪に眼鏡、でっぷりとした体を隠す体操服にコート……コート?を羽織った、中年風のやつが立っていた。

 

「よくぞ聞いてくれた!我こそは、かの名高い剣豪将軍、足利義輝(あしかがよしてる)の魂を受け継ぎし者、その名を材木座(ざいもくざ)義輝(よしてる)と申す!」

「………」

「無視はやめてぇ!?」

 

 ここまでの会話で分かった。こいつは危ないやつだ。関わらないに限る。

 

「何だ、どうかしたのか」

 

 と、相変わらず材木座とかいうやつが騒ぎ立てたせいで先生がこっちによってきちゃったよ。せっかく秘技・「空気と同化する八幡(ステルスヒッキー)」で存在感を消してたのに。

 

「何だ材木座、またお前か……ん?お前は、確か比企谷だったか?」

「……はい」

「そうか、お前は今日が初だったな。すまん、うっかりしていた。普段はいつも材木座が一人余るんだが、丁度いい。比企谷、今日は材木座と組んでやってくれ」

「げぇ……」

 

 教師の粋な計らい、というやつだろうか。まあ、俺と材木座とかいうやつ以外はみんなペアを作ってる以上、余り物が纏められるのはしょうがないことだ。

 

「…ふ、ふむ!仕方あるまい!今日はこの剣豪将軍、材木座義輝が貴殿に剣の極意を伝授してやろう!」

 

 …しょうがない、ことなんだが……ぶっちゃけ面倒臭い。突っ込みどころが多すぎて。お前から教えてもらわなくてもテニス位できるし、そもそも剣じゃない。ラケットだ。

 

「……まあいいや。適当にラリーでもしとくぞ……えと、材木座?」

「そう言えば、まだ貴殿の名を聞いておらなんだな。貴殿、名を何と申す!」

 

 聞けよ、話。

 

「あぁ…比企谷だよ。比企谷八幡」

「そうか、では八幡!我の華麗なる剣捌き、今こそお目にかけようぞ!」

「うるせえ、見せるならラケット捌きにしろよ。ざ…もく……木材屋?」

「ぎゃふん!?」

 

 ……分かった、こいつ危ないやつじゃない。痛いやつだ。所謂、「中二病」的な。

 痛いやつではあるが……まあ、悪いやつでは無いか。

 

「おら、さっさとやるぞ、材木座」

「…はっ!う、うむ!我の華麗なる剣ーー」

「それはもういい」

 

 うるさくても、こういう素を見せてぶつかってくるようなやつは、まあ嫌いじゃない。

 

「ゆくぞ、八幡神よ!」

「何だよ、八幡神って」

 

 ……うるさいけど、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「あ、お兄ちゃんお帰りー」

 

 玄関で靴を脱いでいると、小町がとてとてと歩いてくる。

 

「お兄ちゃんどうだった?初めての高校生活は」

「どうもこうもねえよ。思った通りのぼっち生活が始まっただけだ」

 

 昔なら現実に悲観してやさぐれでもしていたかも知れないが、今は中学と同じぼっちでも、それほど悪くないと感じている。

 やっぱ、あいつのおかげかね。

 

「でも、まあ話すやつくらいはできたぞ」

「え、本当に!?」

「ああ」

 

 中二病だけど。

 

「そっかー。友達なんて幻想だのまやかしだの言ってたお兄ちゃんが……変わるもんだねえ」

「うっせ、友達じゃねえっての。……でもま、変わるって決めたからな」

 

 なら、変わるしかないだろうよ。変わりたいと感じてる俺がいるんだから。

 

「ま、俺の話はともかく、だ。お前はどうだったんだよ」

「あ、小町の話?ふふーん、聞きたい?ねえ聞きたい?」

「いや別に」

「お兄ちゃん冷たーい!小町は話したくてもうウズウズしてるんだよ!」

「分かった分かった。飯食いながら聞いてやるよ」

 

 そう言って玄関から移動し、既にあらかた準備のできていた小町お手製の料理を並べ、二人で晩飯を食べる。

 

「いただきます」

「いただきまーす。それでね、お兄ちゃん。今日ね───」

 

 俺の漸く始まった高校生活は、中学以前と何も変わらない。やはり、俺の学校生活はどこか間違っていて、それが当たり前なのだろう。

 だけど、それでもいいと思えているのは。

 

(やっぱ、あいつの影響なんだろうな)

 

 無性に懐かしさを覚えるあいつのことを浮かべながら、俺は小町の声に耳を傾け続けた。

 

 




八幡の高校初日を描いた今回、いかがでした?既にお馴染みの人が二人ほど出てきましたね。

今回一番苦労したのは材木座です。あいつキャラ濃すぎるんだもん。動かし方が分からない!
でも好きなキャラでもあります。中二最高!
……オホン!では次回です。次回は誰の視点なのか、楽しみにしていてください。あ、新たなオリキャラも出ますよ!
では次回。

第九話 リスタートした中学生活は、中々悪くない。

『次回もお楽しみに!ね、せんぱい!』
いろはす~( ´∀`)

……おや?

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