やはりあざとい後輩とひねくれた先輩の青春ラブコメはまちがっている。   作:鈴ー風

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はい、と言うわけで二話目です。
今回も新キャラが登場です。勿論「神奈川県 地名」で検索しました。改めて思うのがやっぱ原作者すげえです。少しでも八幡のひねくれといろはすの可愛さが出せたらいいなぁと思ってます。日々精進あるのみです。

ではどうぞ( ゚д゚)ノ

いろはす~



第二話 一色いろはは模索し、歪な闇の中に光を見る。

「せんぱーい、ここ教えてくださいよー」

「うるさい、俺今読書中。後せんぱい言うな。お前まだ中学生だろうが」

「年齢でいったらせんぱいの方が上じゃないですかーならせんぱいで良くないですか?」

「良くない。むず痒いから止めろ」

 

 一色いろはと相部屋になって一週間。勉強中の一色がうるさい。あれから何だかんだ色々あったが、まあ流石にお互い慣れてきた。病院側も思うところがあったのか、瀬谷さんを始め、色々な人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。そのお陰か、一色の態度も徐々に軟化してきたんだが……

 

「良いじゃないですかーこんなに可愛い後輩に呼んでもらえるんですよ?普通なら泣いて喜びそうなものじゃないですか?」

「普通なら真意を測りかねて困惑と猜疑心(さいぎしん)で泣きたくなりそうだけどな」

 

 今度は別の問題が浮上した。こいつ距離感が無さすぎる。最初の警戒心どこ行った。しかも何故だか俺のことを「せんぱい」とか呼ぶようになった。……正直ニヤけそうになるのを抑えるので精一杯なんで止めてください一色さん。そんな顔をすれば一発で軽蔑の眼差しを受けてゾクゾク身悶えしちゃうまである。いや、ゾクゾクすんのかよ。どっちみち変態じゃねえか。

 

「とにかくせんぱいは止めろ一色。それ以外なら何でもいいから」

「と、言われてもですね……」

 

 んー、と顎に手を当てて考え出した一色はすぐにはっとした表情で後ずさりした。や、ベッドの上だからそんな後ずさってねえけど。

 

「もしかしてさりげなく名前呼びを推奨してるんですかすみません下の名前呼びは特別な人だけって決めてますのでいくらせんぱいが私と親しくなったからって流石に無理です後やっぱり目が生理的にアレなんで二重で無理ですごめんなさい」

「もう突っ込むのすら億劫(おっくう)だわ」

 

 距離は変わってもこのマシンガンお断り(俺命名)だけは変わらない。むしろ良く噛まずに言えるな。呆れを通り越して感心するまである。

 

「ま、結局どう呼ぶかなんて勝手にしろ。俺は読書に戻る」

「そうですかーじゃあせ」

「せんぱい以外でな」

「ぶー!けちー!」

 

 そう言って両の頬をハムスター宜しく膨らませる。一色本人の小柄さも相まって本物の小動物みたいだな。

 

「はいはいあざといあざとい」

 

 このいなし方も何度目だろうか。これはあれだな、一色は学校では「今どきJC」って感じのトップカーストの一員だろうな。正に輝かしき光の住人。俺のような最底辺の闇住人とは大違いだ。

 

「もー何ですかまたあざといってー…はっ!もしかして遠回しに可愛いとか言ってますか告白ですかすみません可愛いと言われるのはぶっちゃけ嬉しいですけどできればもっとかっこいい人に言われたいし何よりせんぱい相手だとアレがアレなんでやっぱり無理ですごめんなさい」

「だんだん雑になってね?」

 

 何だよ、アレがアレって。

 まあ、このようにどうにも女子との距離感ってやつが分からん。今のJC的にはこれが普通なんだろうか。比較できる女子の知り合いがいないから考えてみても分からんが。女子との会話なんて、学校とかで提出課題の回収で「ヒキタニ君、ノート」って言われればいい方だったからな。あれ、これ会話じゃなくね?やだ、目から汁が……

 後一色さん、あざといの意味を調べてみろ。基本良いことなんて何も言ってねえから。どっちかってーとマイナスだから。

 一旦思考を打ちきり、俺はベッドに立て掛けてある松葉杖に手をかける。

 

「せんぱいどこ行くんです?」

「売店。マッ缶買いに行くんだよ。後せんぱい止めろ」

 

 会話してるうちに喉が乾いてしまった。なので、千葉のソウルドリンクことマッ缶を買いに行くのだ。え?そんなこと思ってるのは俺だけだって?ハハハ、ソンナマサカ。

 杖を使い立ち上がると、何故か同じく一色が隣に立っていた。

 

「え、何?お前もどっか行くの?」

「せんぱいについていくんですよー」

 

 勉強中じゃなかったっけ、こいつ。それともこいつも何か買いたいものでもあるんだろうか?特に断る理由も無いから別にいいんだが。

 

「じゃ、行くか」

「はーい」

 

 隣に一色が並んで歩く。その様子は、ずっと前から知っていたような安心感があった。近すぎるだとか言ったが、俺は何だかんだこの距離感が意外と気に入ってるのかも知れない。

 

「せんぱい遅いですよー」

「松葉杖患者になんと無慈悲な」

 

 ……意外と、だけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、いろはちゃん」

「……あー、お久し振りです」

 

 売店でマッ缶と紅茶(一色に買わされた)を買って部屋に戻る途中、ロビーで制服姿の男が声をかけてきた。正しくは俺にじゃなく、一色にだが。さっぱりとした黒髪にすらっと伸びた長身。誰がどう見ても「イケメン」という部類に属するやつだろう。まさしく、一色のようなトップカーストが好みそうな。

 だというのに、対照的に一色はあまり浮かない顔をしている。むしろ顔色が悪いまである。

 

「一色、こいつは?」

「あ、せんぱいのこと忘れてました」

 

 ちょ、酷くね?

 

「こちら、同じクラスの大場大成(おおばたいせい)君。で、こっちは比企谷八幡先輩。いっこ上の先輩で、相部屋のお相手です」

「うす」

「……ええ、よろしくお願いします、比企谷先輩」

 

 ぞくり、と。彼の声を聞いた瞬間、背中に冷水でもぶっかけられたような寒気を感じた。…何だ、この感覚は。

 

「…それと、いろはちゃん。さっき相部屋がどうとかって言ってたけど……」

「…あぁ、この人が私のルームメイトなんですよー」

「ルームメイト……って、何で君たち二人が?仮にも男女なんだし、万が一を警戒すれば……というか君は」

「あー大丈夫ですー!この人、結構ヘタレなんで!そーいうことは何もないし、する度胸もない人なんで心配ないです!」

「おい」

 

 何故急に俺がディスられなきゃならんのか。

 

「それに、病院側にも色々あったみたいだしー、別に私は文句ないんでいいんですよーこのままでも」

 

 嘘つけ、最初の方は結構文句垂れてたじゃねえか。まあ、言わんけど。

 

「……まあ、それならいいか。それより、一刻も早くいろはちゃんが学校に戻ってこれるよう影ながら祈ってるよ。リハビリ、頑張って」

「……はい、ありがとうございます」

「今日は時間とれなかったからこれで失礼するけど、また日を改めてお見舞いにーー」

「や、大丈夫です!そんな大したことじゃないんで!本当!」

「そう、かい?分かった。ごめんね、じゃあ」

 

 最後に手を軽く振って、大場という男は去っていった。

 ……さて。

 

「……もう大丈夫か、一色」

「…やっぱり、気づいてました?」

「まあ、そんなあからさまに服の端っこ掴まれたらな」

 

 そう、一色はさっきの話の時から、小さく俺の服の端を掴んでいた。そして、ぎゅっと握った手は、体は、小刻みに震えていた。ただのクラスメートと言うのなら、会話しただけでこんな状態にはならないだろう。顔色も、さっきより酷くなっているように思う。

 

「……とりあえず、部屋に戻るか」

 

 とりあえず、ここから早く移動した方がいい。何か訳がありそうだしな。

 

「……せんぱい、遅いです」

「無茶言わんでくれ」

 

 手を離してくれたらまともに歩ける、とは流石に言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、紅茶」

「ありがとうございます……」

 

 互いにベッドに腰掛け、向かい合う形で座る。紅茶を渡しても、一色の表情は晴れない。さっき売店で泣き真似してまで俺に奢らせたあの勢いはどこへやら、だ。

 とりあえず、マッ缶のプルタブをあける。プシュッと小気味よい音を立てたマッ缶をおもむろに煽る。やはりこの暴力的な甘さがいい。苦々しい現実を洗い流してくれる。俺につられたのか、一色も紅茶のボトルをあけて、口をつける。

 

「美味しくないです……」

 

 じゃあ何で買ったんだよ。雰囲気的に言わんけど。まあ、飲まんなら後で処理しておこう。瀬谷さんが。

 ……さて、と。

 

「その、一色。良かったら話してみないか?何があったのか」

 

 良かったら話してみないか?だとさ。あの面倒臭がりな俺が。友情なんてない、ぼっち最強なんて(のたま)ってた俺が。自分でも何言ってんだって思うよ。

 

「嫌です」

 

 しかもバッサリ断られたよ。

 

「そんな義務感に駆られたから聞く、みたいなこと言われても話したくないです」

 

 そう言って、一色はくるりと体ごと顔を背けてしまった。

 義務感、か。そんなの……

 

「俺が嫌いな『偽物』そのものじゃねーか……」

 

 やっぱり俺はまだまだ未熟だ。孤高のぼっちを目指す、なんてアホみたいなこと宣いながらもまだまだ生温い「偽物」にすがろうとしていた。

 正直、俺は自分さえ良ければ他人がどうなろうがどうだっていい。他人のために何かするのすら面倒だ。

 だが、なんというか。

 目の前にいるこの少女だけは、放っておきたくなかった。

 

「……じゃあこう言い変えよう。義務感なんかじゃない。俺は、俺のためにお前に何があったのか聞きたい」

「……どういう意味ですか?」

「言った通りの意味だ。俺はお前のことを何も知らん。よくよく考えればお前が何で入院してるのかすら知らねえわ。…つまりだな、知らないってことは想像しかできねえし、どうやったって手探り状態になっちまう。そんな状態で義務的になるなって言う方が無茶だ。だから俺はお前のことを知りたい。知った上で、もし下らないことなら笑ってやるし、何なら罵倒だってしてやるよ。俺は、『義務的』になっても『同情』はしない」

 

 顔の見えない一色に、持ちうる語録をフル活用して話続ける。多分、俺は思い出しているんだ。過去の俺を。勝手に俺のことを知った気になって、勝手に行動して、勝手に失望して、自分勝手に心を踏み荒らされた、過去の俺自身を。俺と一色は違う。故に、状況が同じだなんて思わないが、人間関係の「闇」を嫌というほど味わった俺だからこそ、理解できることがあるかもしれない。「同情とは、時として否定よりも強い毒である」。そんな言葉を聞いたことがある。俺はさっき正に、一色の傷口に無意識に毒を塗り込もうとしていたんだ。

 だから、今の一色に必要なのは、甘い言葉や態度なんかじゃない。

 

「それに、お前の調子が悪いと、ひいては瀬谷さん達に俺が怒られるまである。それにだ」

 

 今まで甘い欲望に裏切られ、嘲笑われ、蹂躙され続け、歪んでしまった最底辺の俺でも一色にできること。

 

「今まで何回言っても止めなかっただろ、『せんぱい』呼び。だったら、こんな時ぐらいせんぱいに頼れ、あざとい後輩の一色さんよ」

 

 一色が最底辺に墜ちたなら、歪んでしまうと言うのなら、俺の最低な過去を総動員してでも、こいつを最底辺から引っ張り出す。光の届く表参道に放り出してやる。

 それが、ひねくれた最底辺の「せんぱい(おれ)」にできる最大限の手だ。

 

「……ずるいです、その言い方」

「ひねくれてるからな、お前のせんぱいとやらは」

「人たらしですか、最低です」

「自覚してるよ」

「っふふ……」

 

 一色が笑った。顔は見えないが、こんな俺でも、確かに一色を笑わせることができると分かった。何だよ、最底辺の住人でも、できることはあんじゃねえか。

 少しの間、一色の笑い声だけが聞こえ、ゆっくりと一色が振り向いた。

 その顔は、まごうことなきいつもの一色いろはの、あざとい笑顔だった。

 

「ありがとうございます、せんぱい」

「礼を言われるようなことはしてないけどな」

「ひねくれてますねえ。か・わ・い・い後輩のお礼くらい素直に受けとればいいのに」

「ひねくれてるのがアイデンティティーまであるからな、俺は」

「っふふ……」

「っはは……」

 

 そして、今度は笑い合う。そして。

 

「それじゃ、ひねくれてる比企谷先輩。……話、聞いてもらえますか?」

 

 そう告げる一色の目には、確かな覚悟があって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私、虐められてたんです」

 

 自らの過去を、語り出した。

 

 




はい、新キャラ大場くんが登場です。なんとなく感づいてる人はいるかもしれませんが、かなーり不穏な空気です。その理由は次回に。
最近暑くなってきましたねぇ。というよりは蒸し暑いかな?まだ部屋に扇風機が来ないので、最近はもっぱらいろはすうちわで凌いでます。本格的な夏到来までには扇風機が来ればいいなぁ。それでもいろはすうちわは外せませんが。

では次回

第三話 光の元に闇は生まれ、闇は、静かに光の糧となる。

いろはす~( ´∀`)

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