やはりあざとい後輩とひねくれた先輩の青春ラブコメはまちがっている。   作:鈴ー風

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大っ変、お待たせしましたああぁぁぁぁ!
もう弁解の余地もないっす。週一投稿(キリッ の直後にこれですよ、全く俺って奴は…はい、すみません。
しかも待たせた割にそんなに長くないというね、もうね、ただただすみません。
これからも遅くなるとは思いますが、何とか血涙の思いで書き続けていきたいと思います。失踪だけはしないよ!

では第十話です。
どうぞ( ゚д゚)ノ

いろはす~( ´∀`)



第十話 騒がしい彼女との時間も、まあ悪くない。

 

 

「はふぅ……」

 

 全身を暖めてくれる湯船に体を沈めると、思わず声が漏れた。一日の疲れを溜め込んだ体の隅々まで、暖かさが広がっていくみたい。

 初日の学校は、まあ色々大変だった。転校生特有の通過儀礼を受け、クラスの女子から牽制され、トラウマがフラバしかけ。

 

(でも……)

 

 ぶっちゃけ凄く苦しかったし、泣きたくもなった。逃げたくもなった。それでも、負けずに言い返せた。多分…ううん、あれはせんぱいのおかげ。

 

「変わりたいって、思っちゃったんだもん……」

 

 ひねくれててちょーキモい時もあるけど、根は純粋で、恥ずかしがりやで、すっごく優しいせんぱい。なのに、他人を優先して自分を蔑ろにしちゃうせんぱい。真っ先に傷ついちゃうせんぱい。そんなせんぱいの背中に、追い付きたくなった。並びたくなった。

 ……支えてあげたくなった。

 

(これって、母性…って、やつなのかな)

 

 せんぱいのことは好き。だからこそ追い付きたいって気持ちもあるし、同じ所を歩きたいっていうのもある。でも、自分を傷つけるせんぱいを見て、どうしようもなく悲しくなる私が、守ってあげたいと思う私がいる。

 

(…何か、考えてたらすっごい恥ずかしくなってきた……)

 

 多分お風呂の熱気だけが原因ではない顔の火照りを隠すかのように、顔を湯船に沈めていく。沈んだ口元から、息が気泡となってぶくぶくと音をたてる。

 

(の、のぼせる前にでちゃお…)

 

 これ以上せんぱいのことを考えてると本当にのぼせてしまいそう(二重の意味で)なので、ざばっと音をたててお風呂場を後にした。

 お風呂場の鏡に映った私の顔は、やっぱり赤く火照っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあお母さん、行ってきます」

「ええ。…無理はしちゃダメよ」

「分かってる」

 

 翌日。学校の近くまで送ってもらった私は、自分の通うクラスへと向かう。

 

「………」

 

 クラスの扉を開けると、昨日とはうって変わり、クラス中に静寂が広がった。さっきまでは騒がしかったのに。まあ、転校初日であんな態度をとれば、どうなるかぐらい分かってはいたけど。

 

(前途多難って感じかなぁ……)

 

 そんなことを考えながら、自分の席に着く。…何か塗られてないか確認してしまった。前にあったから。

 とにもかくにも、やっちゃったものは仕方ない。気持ちは切り換えられたし、もう大丈夫。別に一人でもやっていけるし……はっ!

 

(こ、これがいわゆる「ぼっち」というやつでは……)

 

 しまった…まさか、あんなに馬鹿にしてたせんぱいのぼっち体験を、まさか自分がすることになるとは。

 …でも、せんぱいと一緒、か。

 

「…えへ」

 

『…ど、どうしたんだろ、一色さん。急に笑いだして』

『何かあったのかな…』

『変わった人だよな……』

 

 や、やばい。みんなの前で弛むのはマズイ。ぼっちだけならいざ知らず、このままだと変態扱いされてしまう。なるべく、自然に表情を作る。自然に…自然に……

 

『一色』

 

 ゴンッ!

 

『!?』

 

 駄目だ────!無理、絶対無理!一回考えちゃったら緩みまくってせんぱいしか出てこない!私ヤバイ!うん、知ってる!あー、思いっきり机にぶつけたから皆ビックリしてるだろうなー変人決定かなー…あ、おでこ痛くなってきた。

 もういいや、このまま授業まで寝たふりしとこう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、だよね?」

 

 一時間目終了後。何故か、私は一人の女生徒から声をかけられていた。椅子に座ったままなのを見るに、どうも隣の席の女子みたい。ふわふわした感じの雰囲気に薄い綺麗な茶髪、それに激しく自己主張してくる二つのそれ。ザ・美少女って感じの子。で、デカイ……せんぱいも、大きい方が好きなのかな。

 ………何か嫌だ。

 それは置いといて、正直意外だった。転校生があんな態度をとって、わざわざ声をかけられるとは思っていなかったし。周りもざわざわしてるし。見た感じ、悪意があるわけでもなさそうだし、この人の考えが読みづらい。……警戒はしてるけど。

 

「あ、ごめんね。まずは自己紹介だっけ。あたし、金沢佐和子(かなざわさわこ)。あなたは?」

「…一応、昨日自己紹介はしたんですが」

 

 あんなことがあったから、クラスメイトの把握までは流石にできてない。というか、今はあんまり他人と関わりたくない。

 

「あー、あなたが転校生!ごめんね、あたし昨日休んでたんだよー。ごはん食べ過ぎてお腹痛くなっちゃってさぁー」

 

 あっははーと目の前で笑う彼女の様子に、何というか脱力する。警戒するだけ無駄、みたいな。

 少し気は緩んだけど、結局私の対応は変わらない。

 

「…一色いろはです。金沢さん、あんまり私に関わらない方がいいですよ」

「え?」

 

 それは二重の意味での警告。一つは、私と一緒にいることで彼女が悪意に晒されることがないように。

 もう一つは……

 

「あれ、どこ行くの?」

「どこでもいいじゃないですか」

 

 只今深刻なせんぱい不足によって頭の中がせんぱい一色な私の、緩んだ顔が見られないように、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甘かった。

 

「ねね、一色さん」

「…」

 

 三時間目。

 

「一色さん、ちょっとノート見せてくれない?よく見えなくってさー」

「……」

「こら金沢!私語をするな!」

「っだぁ!?」

 

 四時間目終了後。

 

「一色さー」

「………」

「逃げた!?」

 

 お昼休み。

 

「一色さん、一緒にごはん食べよー」

「…………」

「黙々と食べ続けてる!?しかも早っ!」

 

 午後の体育。

 

「一色さーん、一緒に組もうよー!」

「……………」

 

 これは正直助かったけど。

 

「一色さーん」

「一色さん?」

「一色さーん、どこー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………何だろう、この状況は。何で私は、放課後になってまで、同姓のクラスメイトから逃げているんだろう。というか、はぁ、金沢(あのこ)、はぁ、しつこすぎ……はぁ、もー駄目、息切れ……

 

「あー、一色さんここにいた」

「…ぅげえ」

 

 壁を背に座り込んでいる私の元に、もう何度目か分からないあのこ…もうこいつでいいか。こいつが現れた。もはや無関心を貫くのも疲れるので、あからさまに嫌そうな声を出した。

 

「ちょ、うげえはないんじゃないの?酷くない?」

「そう思うなら少しくらい休ませて……」

「逃げなきゃ疲れないよ?」

「遠回しに来んなっつったんですよ……」

 

 もう放課後、周りに人目がないからか、私の素が露骨に出始めた。…もう猫被るのにも飽きた。ていうか疲れた。

 

「……それが一色さんの素ってわけ?」

「何か文句ありますか……」

 

 あー気取らないって楽ー……引くかな?引くよね?もう噂とかどうでもいい。なんでも来いですよ。あ、いじめだけは勘弁。というか本当、帰って……

 

「……ふふっ」

「何笑ってんですか……」

 

 こいつは引くどころか、何故か笑っていた。

 

「いや、やっぱりだって思って」

「やっぱり……?」

「私ね、初めて会ったはずの人を見ると何となくわかっちゃうんだー。その人がいい人かどうか」

 

 いい人かどうか分かる。そう話すこいつは、楽しげな様子で話を続ける。

 

「朝、クラスに来てみたら知らない生徒がいて、みんな遠巻きにあなたを見てて、でも誰も話しかけない。ちょっと気になったんだー、あの時。でね、声かけた時にね、分かったんだ。あ、この人いい人だって。で、友達になりたいなーって思ったの」

「友達……」

 

 楽しそうに話すこいつは…彼女は、すごく純粋でまっすぐな目をしていた。

 いつかの私みたいな目をしていた。

 

「それで、こうやって話をしてみて、素のあなたと話してみて、やっぱり間違ってなかったって思えた。だからさ、私はあなたと友達になりたい。…私、これでも人を見る目には定評があるんだよ?一色さん」

 

 私のとなりに座り、じぃっと私を覗きこむ彼女。私の素を見ても引くことなく、むしろ彼女の使う「友達」に、昨日のような感覚は起こらなかった。

 それでも。

 

「駄目」

 

 やっぱり、心は受け入れてくれない。彼女は違うんじゃないか、信じてみてもいいんじゃないかと揺れる頭とは裏腹に、心は、冷酷に、冷静に「友達」を受け入れてはくれない。

 

「別にあんたが嫌いとか、そういうんじゃない。けど、無理なの。私、友達絡みで前の学校で色々あって、すっごく悩んで、疲れて、傷ついて……」

 

 なのになんでだろう。私の口からは、私の心の中に押し込めていた痛い記憶が、思いが言葉になって溢れていく。私の弱さが、傷痕が、溢れ出していく。

 

「あんたはいい人だと思う。多分、信じていいと思ってる。友達になりたいとも思ってる…と思う。……でも無理。やっぱり怖い、また裏切られたら、また傷ついたら、今度こそどうなるか分からないから。だから……ごめん」

 

 話すつもりなどなかったのに、ずっと閉じ込めておくつもりだったのに、私の口は、思いを吐き出すことを止めてはくれない。

 やっぱり、思った以上に、心はそう簡単には変われそうにない。

 

「…そっか」

 

 静かに、彼女の声がした。流石に諦めてくれるだろう。私は変わりたい。変わりたいけど、今の私にはまだ────

 

「じゃあやっぱり諦められないなー」

「へ……」

「確かに私はさ、一色さんが前の学校で何があったかは知らないし、分からない。でも、一色さんは友達が『嫌い』なんじゃなくて、『恐い』んでしょ?それってさ、私の努力次第でどうとでもできる気がするし!あ、嫌がることはしないよ?絶対!」

 

 立ち上がり、手をぐっと握って力説する姿は、確かに私への信頼を感じる。

 

「…どうして、あんたはそこまで私と友達になりたいわけ?」

「へ?」

「はっきりいって私性格悪いし、あんたは知らないだろうけど、昨日クラスでやらかしてるから、私に関わってると白い目で見られるかもよ?それでも、あんたは私に固執するわけ?」

 

 だからこそ、気になる。なぜ、彼女がそこまで私に固執するのか。単に珍しい転校生だからにしては明らかに度が過ぎていると思う。

 彼女は手を顎に添えてうーん、と悩み、再び私の隣に腰を下ろした。

 

「多分、眩しいからかな、一色さんが」

「………!」

 

『……多分、眩しいんだ、一色が』

 

 思い出すのは嘗ての記憶。大切な人の、大事な言葉。

 

「何て言うか、私も随分変わってるって言われるからさ。こう見えても意外と色々誤魔化しながら生きてるんだ。でも、そんな私には自分ってものを真っ直ぐ持ってるあなたが眩しく見える。だから、あなたと仲良くなりたい。…こういう理由じゃ駄目かな?」

 

 そう言って覗き込んでくる彼女の顔を見て、漸く理解した。私は変わろうとしていたんじゃない。ただ、拒絶していただけだったんだって。逃げていただけだったんだって。

 そう理解したら、途端に。

 

「…ばっかみたい、私」

 

 変わるとかなんとか言ってた自分が途端に恥ずかしくなってきて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いろは」

「え?」

「名前。友達(・・)になるんだったら、下の名前で呼んでみてもいいんじゃない?…金沢さん」

「……!そうだよね、いろはちゃん!」

 

 彼女の…金沢さんの屈託のない笑顔は、見ているこっちが恥ずかしくなるほどで。

 

「じゃあ帰る。また明日、金沢さん」

「えー、一緒に帰ろうよーいろはちゃーん!」

 

 傷ついたら、裏切られたら。せんぱいに並び立つためにはそんなものを怖がってる暇なんてない。だから、まずは「友達」を信じてみることから始めてみようと思う。人の心にずけずけと入り込んでくる、どこかあの人に似ている彼女を。

 まーその、あれです。

 

「私のことも名前で呼んでいいからね、いろはちゃん!」

「絶対嫌です」

「ええっ!?」

 

 この学校で初めてできた騒がしい彼女(ともだち)との時間も、まあ悪くない、かな。

 

 

 




はい、オリキャラ金沢さんの登場です。今回遅れた原因の1つでもあります(自分で作ったのに!?)
この金沢というキャラは、「女版ヒッキー」という感じでイメージされ、陰気だと何かアレ、ということで「明るいヒッキー」的なキャラとなりました。もうそれヒッキーじゃないじゃん!作中でアクティブ過ぎだよ!どうしてこうなったorz
まあ、とにもかくにも早十話。まだ高校生編には入れず。長いね……
そういえば今回ヒッキー出てねーや。前回もだ。主人公って誰だろう(すっとぼけ)
さておき次回です。

第十一話 アットホームな我が家にて、先輩と後輩は再び邂逅する。

いろはす~( ´∀`)

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