ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
前回で第三章完結と言いましたが、今回は前回で語られなかったとある話を綴りたいと思って執筆しました。
それではどうぞお楽しみください!
「それにしてもこれでよかったのかい?」
船が出た後、氏真は綾にそう問いかけた。
「ええ、千歌には言い残しておきたいことは全部言ったわ。」
「そうじゃなくて氏政どのたちのことだよ。ほぼ喧嘩別れ同然じゃないのかい?」
氏真は氏政たちとの別れがこんな形でよかったのかと心配していた。事実、記録では綾が氏政の武田との和睦に憤り、夫である氏真や息子の五郎を連れて出奔したという記述が残っている。
「ええ、いいのよ。あんな馬鹿な弟たちの事はね。」
綾は氏真にそうきっぱり言うと空を見上げた。
「ちょっと氏政!!武田と同盟なんて正気!?」
氏康の葬儀が終わってしばらく経った11月末、氏政の部屋に来ていた綾は氏政に掴みかかった。
「仕方ありません姉上。武田との抗争もあまり芳しくないですし・・・。」
氏照はバツが悪そうな表情で綾を諫める。
「氏邦もなんか言いなさいよ!あんたは上杉との同盟の取次ぎ役でしょ!?」
「俺だって最初は反対したが冷静に考えたらなぁ・・・。駿河だって結局は武田に殆ど奪われちまった上に武蔵だって御嶽領があいつらに占拠されちまってるんだぜ?それにあいつらめっぽう強いから真正面から戦いを挑めば氏信どのや長順の様に犠牲が出るかもしれねえ。」
甲相同盟復活に反対していた氏邦も、蒲原城で戦死した幻庵の息子である氏信と長順を例に挙げて綾を諫めた。普段強気な氏邦でさえも弱気にならざるを得ない状況に北条家は直面していたのだ。
「それに将軍からも武田と和睦するように御教書が来てますからね・・・。」
北条家の外交官である氏規は室町幕府の将軍である足利義昭から送られてきた書状を見せた。
「じゃあ今川家はどうなるのよ!」
「・・・心苦しいですが、武田から何か言われたら氏真どのを差し出すしか・・・。」
「ふざけないで!!あんた、
「だからその前に姉上たちは小田原から脱出してくだされ。」
「―――え?」
氏政の言葉に綾は呆然となった。
「姉上が氏真どのと共に行方をくらませてしまえばあの信玄どのとはいえ強くは言えないでしょう。」
氏政は先ほどの申し訳なさそうな顔から一転して不敵な笑顔で綾や氏照ら弟たちにそう告げる。
「だとしたら行き先は家康どのの所がいいでしょうね。」
「確かに駿河をとる大義名分としても欲しがりそうだもんな。」
氏規の提案に氏邦が頷く。
「だが駿河は通れねえから船を出さなきゃならねえな。」
「そう言えば師走に梶原どのが紀伊に向けて商船を出すそうなのでそれに乗せていただけるように頼みましょう。」
氏規は水軍大将にして交易にも携わってる梶原景宗に交渉するべく部屋を出て行った。
「そうであれば伊豆にはこの事を伝えねばなりませんな兄上。」
「そうだな、であれば康英に連絡しておこう。あやつなら上手くやってくれるだろう。」
氏政は氏照の提案に頷いた。
「氏政・・・。」
「姉上。我らは武田との盟約があるので目立った支援はできませんが、姉に対する不孝の償いとして小田原から出るための準備に協力は惜しみません。どうか我らを頼っていただけると幸いです。」
氏政はそう言うと綾に頭を下げた。
「・・・ええ、これでよかったのよ。」
そう感慨深げな表情で呟く綾の顔には涙が一筋流れていた。果たしてそれは頼りない弟の成長を嬉しく思うものか、家族との別れを惜しむものなのか、誰にもわからない。
「・・・そうか。」
氏真はそんな綾に対して、何も言わずただその隣に寄り添った。
今川氏真と、その妻である綾(早川殿)――のちの蔵春院――は各地を転々としながらも、乱世を無事に生き延びて5人の子供に恵まれ、さらには江戸幕府の高家として今川家の名を後世に残すことに成功している。
綾は大坂の陣が勃発する前年の1613年に天寿を全うし、氏真もその2年後の1615年の12月に綾の後を追うようにひっそりとその生涯に幕を閉じたという。
乱世にあり、数奇な運命に見舞われながらも、死が2人を分かつその時まで互いに寄り添い合いながら生きたその生涯は、恵まれたものとはいえないものの、氏真と綾にとってはきっと幸せなものであったかもしれない。
いかがでしたでしょうか?
今回の話は、本当なら前回の話でいっぺんに書いちゃいたいと思ったんですが、思った以上に書きたい話があって、字数がかなり多くなってしまったので幕間という形で掲載することにしました。
少しばかり美化しすぎた気がしなくもないですが、まあ主人公勢力だし是非もないよネ!
それでは次回もまたお楽しみください!!