ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
2ヶ月ぶりの更新です!今回はタイトルの通り、あの人物が登場します!!
それではどうぞお楽しみください!!
千歌たちが所属する氏政率いる北条軍本隊が薩埵峠で武田軍と睨み合っていた頃、今川氏真が籠る掛川城を囲みながら悩んでいる男がいた。
「どうしたものか・・・。」
「如何されましたかお屋形様?」
「このまま掛川城に手こずるのは如何なものかと考えていたのだ。」
家臣の問いにしかめっ面で答えたのは桶狭間の戦いで今川義元が戦死したのをきっかけに独立を果たした三河の岡崎城の城主、徳川家康であった。彼は今川家から独立すると織田信長と同盟を結び、三河東部を守っていた今川家臣を次々と遠江へ追い出して三河を統一すると、領土を拡大するために武田信玄と『駿河は武田、遠江は徳川の物とする』という条件で同盟を結び、遠江へと攻めかかっていたのだ。
「確かにこのまま睨み合ってるだけでは兵たちの士気も下がってしまいますからなあ。」
「それもあるのだが、このままだと恐らく信玄が介入してくると考えておる。事実、秋山虎繁がちょっかいをかけてきたしな。だからこそ信玄が薩埵峠で北条軍と睨み合っている間に掛川城を落としてしまいたいと思うのだがこれではなあ・・・。」
家康はそう言うとため息をついた。
家康は先ほど書いたように信玄と同盟を組んではいたのだが、氏政が駿河へ兵を進めた頃に信玄の重臣である秋山虎繁が信濃から遠江に侵攻して来たことを信玄に抗議しており、その時は誓詞を交わして関係改善を試みたが家康の信玄に対する不信感は完全にはぬぐえなかったのだ。
「家康さま!」
「なんだ忠次。わしは今どうすれば掛川城を落とせるのか考えてるのだ。」
家康は徳川家の筆頭家老にして後に徳川四天王の1人と称されることになる酒井忠次に対して素っ気なく振る舞うが、
「実は北条軍から使者が来てるので家康さまにお伝えしようかと思った次第で・・・。」
「なに、北条からだと?して、使者の名は?」
「北条助五郎氏規と・・・。」
「なに!?氏規どのだと!通せ!!今すぐ連れてくるのだ!!」
家康は氏規の名を聞くと態度を一変させて氏規を通すように忠次に命じた。
「お久しぶりです元康どの、いや今は家康どのですよね。」
「いやあこっちこそ久しぶりだ氏規どの!相模に戻った後も息災そうで何よりだ。」
家康は氏規の手を握り、和やかな様子で挨拶をした。なぜこうも家康が氏規に対して馴れ馴れしいのか不思議に思う方もいるかもしれないが、その理由は家康がまだ竹千代または元康と名乗っていた頃にある。
松平竹千代こと、かつての徳川家康が今川家の人質だったのは説明するまでもなく有名な話なのだが、その人質生活は我ら現代人が想像するよりも実に余裕があるものだった。彼に限った話ではないが人質に屋敷が与えられることもあった。竹千代もその例に漏れずと言うより、三河の有力国衆である松平家の嫡男である彼を義元は優遇していたので、当然竹千代にも屋敷は与えられた。
そして、その屋敷の隣で暮らしていたのが氏規であった。氏規もまた氏康が義元に同盟の証として出していた人質だったのだ。
つまり家康と氏規は現代でいうところの隣同士の家に住んでる幼馴染みといった間柄だったのだ。
「しかししばらく見ないうちに随分と逞しくなったな。噂では三崎城という城と韮山城を任せられてるとか。」
「いえいえ、まだまだ兄上たちに比べれば未熟も未熟。出来ることといえばこのような交渉の使者ぐらいですよ。」
氏規は頭を掻きながら照れ臭そうに答える。
「いやいや、交渉というのはよほどの胆力と弁舌が無ければ任されないものだ。それを任されているという事はよほどご隠居や氏政どのから実力を買われているのだろう。」
「ありがとうございます家康どの。して、此度の要件なのですが・・・。」
氏規は礼を言うと、話を切り出した。
「掛川城の事だな?」
「はい、此度は氏真どのへの援軍として伊豆水軍を率いて参りましたが兄上より掛川開城の交渉をして来いとの密命を受けてきた次第にございます。」
「なんと!?」
「驚いたな、北条は今川とは初代早雲公以来の縁戚であり同盟国であるはずだが?実際、駿河で武田軍と睨み合っているではないか。何故氏政どのはそのような申しつけを?」
氏規の申し出に家康は酒井忠次共々驚いたが、冷静に氏規に氏政の真意をたずねる。
「兄上は武田との戦は簡単に決着が付くものではなく、掛川城への援軍は間に合わないと予測し、せめて氏真どのだけでもお救い致そうと考え私を差し向けたのです。」
氏規は堂々と兄の狙いを家康に教えた。
「なるほど、確かに信玄どのは手強いからな。故にこうしてわしらも武田と駿河と遠江を山分けにすると言う条件で手を組んでいる。それに落城後の氏真どのの扱いにはわしも困っていたところでな。」
「氏真どのの扱いですか?」
「うむ、わしとしては義元公の息子でありかつての君主でもある氏真どのを殺すのは忍びなく思っているのだが、何せ家臣たちは氏真どのを殺せと言う者が多くてな・・・。」
「そ、それがしはそのような事は言っておりませんぞ!?」
「分かっておる。お主はわしが駿河にいた頃から付いて来てくれたからな。」
家康が悩ましい様子で現状を氏規に教えると忠次は慌てた様子で弁明し、家康は彼を宥めた。
「それに、武田への不信感も拭いきれてないのでは?」
「なに!?」
氏規の一言に家康はどきりとした。
「噂によれば信玄は伊那の秋山虎繁に遠江を攻撃させたとか・・・。」
氏規は風魔の忍び達から聞いた情報を話し出した。
「うむ。それに関しては信玄どのは秋山の独断であるとして互いに誓詞も交わしたが・・・。」
「ですがそれも信用しきれない・・・ですよね?」
「ああ、信玄どのは目的のためなら親を追い子を殺し、固く結んだ盟約もいとも簡単に反故にする男だ。わしらとの盟約もいつ反故にされるか分かったものではない・・・。」
家康は深刻な様子で氏規に信玄への心情を語った。
「でしたら、我ら北条と手を組みませんか?」
そこに氏規はさらなる申し出を家康に告げる。
「北条と?」
「はい、幸い兄が率いる本隊は武田軍と睨み合っています。そこで家康どのが背後を突けば武田軍を駿河から追い出すことができます!」
「しかしわしらは掛川城を囲んで・・・そうか!」
家康は一瞬氏規の真意が読めず悩むが、すぐに気が付いた。
「ええ、我々から出す条件は掛川城の開城と氏真どのの引き渡し、そして北条と徳川の同盟締結でございます。」
氏規は指を三つ立てて家康に条件を突きつけた。
「して、今川の所領は?」
家康は和睦成立後の駿河と遠江の処遇をたずねる。
「遠江は家康の領土として、駿河は信玄を追い払って安定した後に氏真どのにお返しするようにと兄上は仰っておりました。」
「よし!それならばその話に乗らせてもらおう!」
家康は喜々とした様子で氏規の出した条件に乗った。
「では私は掛川城に行って氏真どのを説得してきますね。」
「ああ、よろしく頼む!」
家康はそう言って氏規を送り出した。
こうして氏規の説得により氏真は掛川城を家康に明け渡した。そしてこれにより北条家と徳川家による同盟が結ばれた。
一方、薩埵峠で北条軍と睨み合っていた武田軍は長陣によって兵糧が足りなくなってきたことに加えて、徳川軍の敵対による挟み撃ちを恐れてひとまず江尻城に一門である穴山信君を残して甲斐へと撤退することになった。
そして肝心の今川氏真だが、掛川城が開城された後は朝比奈泰朝を連れて氏規と共に伊豆の戸倉城に入り、妻の綾がいる小田原へ移ることになる。余談であるが彼は氏政の嫡男である国王丸に駿河の統治権を譲ったが、結果的にそれが実行されることは無かった。
ともかく、この戦いで駿河を本拠に遠江や三河にまたがる大領土を誇り、もっとも天下に近い大名の一角として権勢をほしいままにした今川家は戦国大名としては実質的に滅亡することになった。
こうして武田軍による駿河侵攻を阻止することになんとか成功した北条軍は相模や伊豆に兵を引いた。そして数日後・・・。
「ふぅ~、熱海の温泉気持ちいい~!」
千歌たちは駿河での合戦の疲れを癒すために熱海の温泉に湯治に来ていた。
「それにしても今回はあまり出番がなかったよね。」
「出番が少ないことに越したことは無いと思うよ。」
伸びをしながら言う曜に対して梨子がため息交じりに答えると、
「合戦って言うと、国府台とか三船山みたいなのを想像しがちだけど今回はほとんど睨み合いだったもんね。」
「争いが少なかったのはいい事ずら~・・・。」
ルビィと花丸が梨子の言葉に同意した。
「大きな局地戦こそはそれほどありませんでしたが、あの時の武田勝頼さんとの戦いのようなことはこれからも起こり得るのですから、油断は禁物ですわよ。」
「確かにあの人、すごく強かったな・・・。」
「まあでも、今回もみんな無事だったんだしそれで all okでしょ!」
「そう言えば鞠莉さん、傷は大丈夫なんですか?」
千歌は、鞠莉が勝頼との戦闘で付けられた肩の傷を心配するが、
「心配してくれてありがと千歌っち。でもNo problem!鎧のおかげでそこまで深い傷にはならなかったし、痕も残らないってお医者様が言ってたから大丈夫デース!」
と、心配されてる当の本人は余裕綽々な様子であったが、
「まったく、こっちはすごく心配したんですのよ!私たちはスクールアイドルなのですからもしも傷痕が残ったりなんてしたら・・・!」
「ダイヤの言う通りだよ鞠莉。それにいくら私たちのためだからって相手は戦いに慣れてる武将なんだから無茶しちゃダメだよ。」
ダイヤと果南に勝頼との戦いでの無茶をたしなめられた。
「うゆ・・・。」
「どうしたずらルビィちゃん?」
急にそわそわしだしたルビィを見て不思議に思った花丸が理由を聞いた。
「なんか気のせいかもしれないけど、誰かに見られてるような・・・。」
「うそ、覗き!?」
ルビィの言葉を聞いた梨子は慌てて胸を手で隠した。
「そう言われてみると何かどっかから人の気配がするわね・・・。」
風魔小太郎に直々に鍛えられた善子がそう言って周りを見回し始め、しばらくして何かがいることを察知したのか
「そこっ!」
と叫んで石を茂みに投げ込んだ。すると、
「あ痛!」
と茂みの中から声が聞こえた。
「え!?うそ、ほんとにいたの!!?」
梨子がそう叫ぶと同時に千歌たちは胸を隠しながら身構えた。
「いないふりをしても無駄よ、伊達に風魔のところで修行してたわけじゃないんだから。次は桶をぶち込むわよ。」
善子が桶を掴みながら茂みに隠れている何者かを脅すと、
「ひぃ!分かった、分かったからもう痛くするのはやめておくれよ!」
と茂みの中から声が聞こえてきたら、
「いやぁ、まさか隠れていたのがバレるなんてこいつは計算外だったなあ。あ、僕は怪しいものじゃないからそのまま温泉に入ってて大丈夫だよ。」
と言いながら男が1人茂みから出てきた。彼は柔和な印象であったが、どこか高貴な雰囲気も纏っていた。
『・・・。』
「あれ、どうしたの?」
『い、いやあああああああああああああああああ!!!』
千歌たちは突然の出来事に呆然としていたが、しばらくすると彼女たちの悲鳴が温泉中に響き渡った。
「何事ですか!?あ。」
悲鳴を聞きつけた氏規が温泉に飛び込んできたが、目の前にあられもない姿の千歌たちがいた。
「いやああああああ!!氏規さん入ってきちゃダメえええええ!!!」
「わ、わ、すいません!」
氏規はそう言って千歌たちから目を背けた。
「というか誰なんですのこの方!!」
「というか覗きじゃないこの人!?」
「ぴぎゃあああああああ!!!」
「Oh!これがジャパニーズ夜這いね!?」
「いやああああ出てってくださいいいいい!!」
千歌たちは茂みから出てきた男に桶を投げつけまくった。
「痛たたた!ちょ、暴力反対!暴力反対!!」
「ん?その声はもしや?」
「あ、そこにいるのは氏規どの!助けてくだされ氏規どの!!」
千歌たちに桶を投げられまくった男はたまらずに氏規に助けを求めた。
「何やってんですか氏真どの!!?皆さん落ち着いてください!!その方は姉上の夫である今川氏真どのです!」
氏規は千歌たちを止めようとするも千歌たちの方を見てしまい、お湯をぶっかけられたり桶をぶつけられることになり現場はさらにカオスな状況になってしまった。
このカオスな状況が完全に鎮圧されるまで時間がかかったのは言うまでもなかった―――――――
「ほんっとうにうちの馬鹿な夫がごめんなさい!!ほら、あなたもちゃんと頭下げて謝って!」
「いや~、誠に申し訳ない。」
「もうちょっと真剣に謝りなさいよ!」
「ちょっ!綾、やめてやめて頭割れちゃう!割れちゃうから!!」
氏真と合流するために熱海にやって来ていた綾に氏真は千歌たちに謝るようにと頭を叩きつけられていた。
「まあまあ姉上、そのへんになさっては・・・。」
「助五郎!あんたも千歌さんたちの裸を覗いたんだから謝りなさい!」
「ひっ!すいませんAqoursの皆さん、悲鳴が聞こえたものだからつい・・・。」
「いやいや、氏規さんは悪くないよ~。綾さんも氏規さんは許したげてください。」
氏規が姉に半ば強制的に促される形ではあったが真剣に謝ると千歌は2人を宥めた。
「というか氏真どのは何故このような事を・・・。」
「いや~、駿河で武田勝頼と戦い信玄に真正面からものを言って見せた女子たちが、たまたま僕らと同じく熱海にいると聞いて会いに行ったら温泉に行ってていなかったから温泉まで直接赴いたってわけさ!」
氏規に呆れられながらたずねられた氏真はけらけらと笑いながら理由を話した。
「じゃあ何故氏真さまは千歌さんたちを覗いたんです?話がしたければ温泉からあがってからでもよろしかったんじゃ?」
氏規に続いて、綾が不自然なまでの笑顔を浮かべて氏真に理由を聞いた。
「それは決まってるだろう!温泉に女子が入ってると聞いてそれを覗かないというのは添え善に手を出さないのと同じでこのような巡り合わせをくださった天に失礼というもの痛たたたたた!!」
「ほんっとあなたって人はだらしないにもほどがあります!!そんなんだから義父さまが亡くなったスキを突かれて国衆たちに背かれたり信玄に責められたりするんですよ!!」
氏真はまた綾にしばかれていた。
『あはは・・・。』
そんな氏真夫婦の様子を見ていた千歌たちは苦笑いするしかなかった。
「まさか覗きの犯人が今川家の当主である氏真さんだったとは・・・。いくら覗きをした犯人とはいえ大名だった方に桶を思いっきり投げつけてしまうなんて、私たちはなんてとんでもないことを!!」
「大名だった人が入浴現場を覗くなんて普通なら考えつかないからしょうがないと思うよダイヤ・・・。」
そう言って果南は頭を抱えるダイヤを宥めていた。
「それにしても氏真さんは気さくな人ずら~。」
「なんていうか、あまり大名らしくない感じだよね。あ、もちろんいい意味でだよ!?」
花丸とルビィがそう話していると、
「はは、よく言われるよ。まあ僕自身あまり大名に向いてないからね。」
と氏真が笑いながら2人の言葉に答えた。
「氏真さんは遊興にふけって政治を顧みなかったと私たちの時代では言われていますが実際はどうだったのですか?」
「ん?私たちの時代?」
「ああ、そう言えば氏真どのには彼女たちの事は紹介していませんでしたね。彼女たちは四百と数十年後の伊豆からやって来たAqoursというアイドル・・・すなわち歌や踊りで人々を楽しませる者の一座の少女たちなんです。」
氏規は氏真に千歌たちの事を紹介した。
「へえ、つまり僕たちの遠い子孫たちの時代から来たって事だね。」
「そう言う事になりますね。」
「まあ、そこの黒髪の子の言葉から察するに僕はあまり優れてない人物だって伝えられてないみたいだね。」
「あっその、すいません!失礼いたしました!」
ダイヤが慌てて謝ると、
「いや、謝らなくてもいいよ。僕が優れていないのは事実だしね。」
と氏真はあっさりとした様子で答えたが、
「そんなことはありません!氏真さまは義元さま亡き後の今川家を寿桂尼さまの助けがあったとはいえ切り盛りしてらしたではないですか!」
「そうよ!確かに氏真さまは蹴鞠とか連歌とかに現を抜かすことも多かったけど楽市を開いたり徳政令とか民の税を減らしたりいろいろ頑張ってたじゃない!」
と側にいた侍と綾は氏真を擁護した。氏真はかつては『父義元の敵討ちもせず、和歌や連歌、蹴鞠などに現を抜かして家を滅ぼした愚か者』と伝えられてきたが、最近の研究で義元亡き後の今川家を何とか切り盛りしていたことが明らかになっている。敵討ちをしなかったのは桶狭間で父と共に重臣のほとんどが戦死し、遠江や三河の国衆たちへの支配力が弱まって大規模な軍事行動に出られなかったのが実際の理由であったとされる。
「あの~、そこのお侍さんはどちら様ですか?」
「む?ああ、名乗っていなかったな。俺は氏真さまの家臣の朝比奈泰朝という者だ。」
千歌に声を掛けられて名乗ったのは朝比奈泰朝という男だった。この男は多くの今川家臣が武田信玄や徳川家康に寝返る中、岡部元信や富士信忠といった今川家が滅亡するまで氏真のために戦った数少ない武将の1人で、駿府から逃れた氏真を自分が城主を務めていた掛川城に受け入れ、徳川家康に徹底抗戦していたのだ。掛川城が明け渡された後は氏真と共にこうして北条家を頼って亡命してきたのだ。
「泰朝さんはどうして氏真さんを見捨てなかったんですか?」
千歌が泰朝に氏真を見捨てずに仕え続けている理由をたずねた。
「そりゃあ、氏真さまはどこか放っておけない雰囲気がするお方だからな。同盟を破った信玄や義元さまから大きな恩を受けておきながら今川を裏切った家康に寝返るなんてことは全く考えられなかったものだ。」
「泰朝・・・!」
泰朝が氏真を見捨てなかった理由を聞いた氏真は感激していた。
「氏真どののためにも、そして泰朝どのの忠義に報いるためにも必ずや駿河を完全に取り戻してみせますよ!」
「あーそれについてなんだけど、僕はもういいかなって思ってるんだ。」
『え!?』
氏真の発言にその場にいた者たちは驚いた。
「父上が死んでから8年間大名として頑張って来たけど、やっぱり僕は大名に向いてないなって思ってたんだよね。父上が武将らしさを身に着けろって言うから塚原卜伝に新当流の剣術を教わったけど剣術が上手くなるだけで戦が上手くなった試しも無かったし。」
「では駿河はどうするんですか!?」
「ん?正直義父どのや氏政どのは僕を駿河の国主に戻すようにしてくれるみたいだけど、僕自身はもう大名に戻る気は無いからなあ・・・。あ、その時は氏政どのの子を猶子にでも貰ってその子に駿河を譲るよ。その後は綾と一緒に隠居して平和な余生を過ごすよ。」
どうやら氏真は大名として返り咲く気はほとんどないようだった。
「なんていうか、氏真さんって変わった人だよね・・・。」
「うん、そうだね・・・。」
千歌と梨子が小声で話していると、
「そういえば君たちは歌と踊りが出来るって言ってたよね!?よかったら僕たちにも見せてくれないかな!?」
と、氏真が目を輝かせながら千歌たちに迫った。
「いや~、お見せしたいのはやまやまなんですが今はラジカセを持ってないので・・・。」
「そのラジカセって物が無いとできないのかい?じゃあ小田原に着いて落ち着いたらその時また頼むことにするよ。」
氏真の前で歌うことを約束した後、千歌たちは氏真たちと様々な話に花を咲かせた。
氏真が小田原に落ち延びたあとも武田と北条の駿河をめぐる抗争は続き、信玄は着々と駿河での勢力を広げてはいたが完全に駿河を支配するに至ることは無かった。
そこで信玄は氏規が守る韮山城を攻めるが、氏規は兄の氏照や氏邦にも劣らぬ勇将ぶりを発揮してこれを退けてみせた。
「くそっ、伊豆を攻めたが駄目だったか。まさか氏規も氏照や氏邦と同じように戦上手だったとは・・・。」
韮山城から撤退する最中、勝頼は悔しそうに呟いた。
「ふふふ。四郎、此度はこれでよいのだ。」
「これでよいとはどういうことですか?」
信玄の意味深な言葉に勝頼は首を傾げた。
「伊豆は相模に並ぶ北条の本拠地よ。駿河と共にそこを攻められれば奴らは駿河と伊豆に守りを集中させるだろうよ。」
「伊豆と駿河に守りを集中すると言いますと・・・上野と武蔵はがら空きになりますね。」
「その通りだ四郎よ。甲斐に戻り、十分に兵を休ませたら北条攻めの支度をするのじゃ!」
「はい!!して、目的は武蔵ですか?」
「いや・・・。目的は奴らの根城、小田原城だ!」
甲斐の虎、武田信玄の次なる狙いは、北条家の本拠地である小田原城。千歌たちAqoursや氏政たち北条家の喉元に虎の牙が迫りつつあった。
いかがでしたでしょうか?
氏真さんのキャラ付けに関しては大名に向いてなかったという個人的な評価をもとに、大名らしからぬ気さくでフレンドリーな言葉遣いや態度という形になりました!
次はいよいよ武田信玄による小田原城攻めです!!
ここしばらく忙しくなってきたのと、『若虎と女神たちの物語』の執筆に力を入れていたのとで更新が滞っていましたが、失踪による未完で幕を引く気は毛頭なく、どちらの作品もちゃんと最後まで書き抜くつもりでいるので、応援よろしくお願いします!
感想を書いてくださると作者のモチベーションが跳ね上がるので、感想なんかも書いてくださると幸いです!!
それでは次回もまたお楽しみください!!