ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
いよいよ今回から新章がスタートします!北条、武田、上杉の関東を巡る駆け引きに千歌たちはどのような形で身を投じるのか・・・!
それではどうぞお楽しみください!!
16話 新たなる脅威
1568年12月、木々の葉が散り雪もちらほらと降り始めた。年の暮れを控えていた北条家の家中は平穏であったが一人の使者からもたらされた知らせをきっかけに、その平穏はいとも簡単に砕かれてしまった。
「甲斐の武田信玄が駿河に侵攻しました!!」
そう、武田信玄の駿河侵攻であった。
「くっ!おのれ信玄め、父上と氏康どのと結んだ同盟をないがしろにする気か!!こうなったら薩埵峠で迎え撃つのだ!」
信玄が攻めてくることを聞いた氏真は1万5千の兵力を庵原忠胤に預けて迎撃させようとしたが、武田軍が駿河に進撃すると今川軍は戦わずに撤退してしまったのだ。この時すでに今川家の重臣たちの大半は武田家や徳川家に内通していたのだ。
そんなわけで武田軍はあっさり駿府を占拠し、氏真は辛うじて遠江に逃れ、重臣である朝比奈泰朝の居城である掛川城へと逃げ込んだ。
だがここで一つ問題が発生する。氏真の妻であり、氏康の娘にして氏政の姉である綾やその侍女らが輿を用意することも出来ずに徒歩で小田原に逃げ戻ってくる羽目になってしまったのだ。家族想いであった氏康はこれに大激怒した。
「信玄め、おのれの欲のために息子を死に追いやり、わが娘をこのような目にあわせておいて『駿河をともに切り取ろうではないか』とは片腹痛いわ!!」
「では、いかがいたしましょうか。」
「決まっておる!信玄入道を攻める!!憲秀、氏政を呼んで来い!!」
氏康に氏政を呼ぶように命じられた憲秀はそそくさと氏康のもとから去っていった。
その頃、氏政の屋敷では・・・。
「えい!やあ!!」
「おっ、国王丸くん上達してきたね!」
「それじゃあ次は槍の突き方を教えたげるね!」
「はい!」
千歌と曜が国王丸に武術を教えてあげていた。
「いつも国王丸の相手になってくれてありがとうございます。」
「いえいえ、千歌ちゃんは三人姉妹の末っ子で曜ちゃんは一人っ子だから二人とも弟が出来たみたいってすごく嬉しそうにしてるんですよ。」
縁側で三人の様子を見ながら梅と梨子が和やかに話していた。
「へっくし!」
「大丈夫千歌ちゃん?」
「うん、大丈夫だよ曜ちゃん。」
「そっか。まあもう冬だもんね。」
「国王丸くんは寒くても元気だねえ。」
「子供は風の子って言うからね。」
千歌と曜はそう言いながら、庭で長い木の棒を槍に見立てて槍の練習をしている国王丸を眺めていた。
「あ、父上!お帰りなさいませ!!」
国王丸は父である氏政の姿を見るなり、彼のもとへ走っていった。
「あ、ああ・・・。ただいま国王丸。」
普段ならば走り寄ってくる国王丸に笑顔で応える氏政であったが、その表情は険しかった。
「お帰りなさいませ、氏政さま。何かあったのですか?」
梅は氏政の表情を見て何があったのかをたずねた。
「・・・梅、実はお前に話さなくてはならないことがある。」
「ふう、やっと今月分の議題が終わりましたわ。」
「お疲れ様ダイヤ。」
「評定衆だっけ?別に氏政さんや氏康さんがスパッと決めちゃえばいいことを無駄に何人も集まって決めるのってだるくならないの?」
「鞠莉さん!北条家は常に領民の皆さんのことを考えて政治をしてるのですよ!誰か一人だけで決めるのではなくいろんな人の意見を吟味してこそより多くの人のためになる結論が出せるのですよ!!」
「でもそれで決まるのが遅くなってたら意味が無いじゃない?」
「まあまあ、ダイヤも鞠莉も落ち着いて・・・ってあれ、千歌たちだ。」
果南、ダイヤ、鞠莉の三人が廊下を歩いていると部屋の前で固まってる千歌たち二年生組を見つけた。
「ヘーイ!千歌っちたち何やってんの?」
「うわ!鞠莉さん!?」
「氏政さんの部屋で何やってんの?」
「覗き見とは感心しませんわね。」
「なんか氏政さんが梅さんに大事な話があるみたいなんだけどね。」
「私たちも聞こうとしたら二人きりにしてくれって言われたからこうしてるの。」
「私は千歌ちゃんと曜ちゃんを止めようとしたんだけど二人とも聞かなくて・・・。」
千歌たちは三人はそれぞれ言い分を果南たちに話した。
「確かにそれは気になるね。」
「だったら私たちもウォッチしましょ!」
「そんなのいけませんわ!」
「じゃあダイヤは見なくていいのね?」
「むむむ・・・。別にそういうわけでは・・・。分かりました!こうなったら野となれ山となれですわ!!」
「そういう問題なのかな?まあ、私も気になるし見てみよっかな。」
こうして三年生も覗きに加わった。
「・・・お姉ちゃんたち何してるの?」
「みんな揃って氏政さんの部屋の前で何してるずら?」
「な!ル、ルビィに花丸さん!?決して私たちはやましいことをしてるわけでは・・・。」
ダイヤは慌てて弁明しようとするが、
「いや、覗いてる時点で十分怪しいんじゃ・・・?」
善子にあっさり論破されてしまった。
「なんか氏政さんと梅さんが二人っきりで話してるから気になって覗いてるんだ。」
「夫婦なんだから二人っきりで話すのは当然だと思う・・・。」
「でも氏政さんが帰って来た時すごく思いつめたような表情をしてたから絶対ただ事じゃないよね。」
曜がそう言うと一年生組も覗きに加わった。やはり9人とも乱世に迷い込んでから長きにわたって過ごしてるとはいえやはり女子高生、噂とかが気になるお年頃なのだろう。
「ちょっ、よっちゃん押さないで!」
「しょうがないじゃない見えないんだから!」
「お姉ちゃんもう少し頭下げて!!」
「そうしたいのはやまやまですがこれ以上は下がりませんわ・・・!」
「ちょっと鞠莉さりげなく胸揉むのやめてよ!」
「私じゃないわよ果南!」
9人で襖の隙間を覗くものだからぎゅうぎゅう詰めになってるはさりげなくセクハラ(不可抗力かもしれないが)を働く者が出るはとカオスな事態になっていた。
「ちょっとみんな、そんなに押したら倒れ・・・ってうわあ!?」
千歌がそう言った矢先に襖が外れて千歌たちは雪崩のように氏政の部屋の中に倒れこんだ。
「・・・お前たち、何をやってるんだ!?」
そんな千歌たちを見た氏政夫妻は驚いた。
「あはは・・・。氏政さんたちの話が気になってつい・・・。」
皆を代表して千歌が理由を話すと氏政はため息をつき、梅を下がらせた後に、
「・・・まあいい。お前たちにも話さなくてはならないからな。実は・・・。」
真剣な面持ちで話し始めた。
『えええええ!!?梅さんと離婚!!?』
「うむ、梅の父である武田信玄が父と今は亡き今川義元どのと結んだ三国同盟を蔑ろにして氏真どのの駿府に攻め入ったのだ。」
「でもそれだけで離婚なんて理不尽じゃ・・・!」
梨子は納得いかない様子で反論するが、
「前にも話したが氏真どのには私たちの姉上が嫁いでいてな。信玄の駿河侵攻の際の混乱で乗り物に乗ることも出来ずに徒歩で駿府からこの小田原まで逃げ帰る羽目になったのだ。もちろん姉上がボロボロになって帰って来たのを知った時には私も怒りを露わにしたが、それ以上に父上の怒りは凄まじいものだったよ。」
と自嘲するように氏政が答えた。
「確かに氏康さん家族想いだもんね。」
「というか駿府から小田原って結構距離あるわよ!?」
曜と善子はそれぞれの感想を口にした。
「でもだからって梅さんと離婚する必要なんてないんじゃ・・・。」
「私もそう思いたいのはやまやまだが、ただでさえ信玄が同盟を破ったことで家中の武田家に対する反感は強くなっているところに姉上の話が家中に広まったことで反武田の気風が強くなっている。」
「でも梅さんはもう氏政さんの奥さんになってから10年以上経ってるずら!」
「花丸ちゃんの言う通りです!梅さんはもう北条家の人だって言っても過言じゃないじゃないですか!」
「ああ、確かにそうだ。私もそう言って父上に梅との離縁はご容赦してほしいと願い出たが駄目だった・・・。」
「そんな!氏政さんは北条家の当主なんでしょ!?一番偉いんでしょ!?梅さんがいなくなっちゃったら国王丸君は、ううん。国増丸くんや菊王丸くんたち兄妹はどうなっちゃうんですか!?」
千歌は叫ぶように抗議するが、
「千歌どのの言う通り、確かにこの家の当主は私だが父上は完全に隠居したとはいえ家中に対する絶大な影響力を持っている。私は父上に逆らうことは出来ないんだ・・・!」
氏政は拳と声を震わせながら言葉を絞り出した。
「氏政さんの言う通りですわ。それに乱世の政略結婚とはそういうものなのです。嫁とは人質同然で同盟が破られればその身の安全は保障できませんし、離婚で済むならまだマシな方ですわ。」
ダイヤはつとめて冷静に千歌たちに乱世における政略結婚の在り方を話した。
「そんな・・・。」
千歌はそれを聞いて絶望するが、
「私もそれが道理だと考えていました。ですが・・・。ですが納得いきませんわ!確かにそれこそがこの時代の武家にとって正しいあり方であるのかもしれませんが、私は人として間違ってると氏政さんと梅さんの様子を見て確信しました!!冷静に考えれば氏政さんの妻となって14年も氏政さんのことを支え続け、北条家に尽くしてきた梅さんを、いくらその実家である武田家が同盟を無視して今川を攻め、氏政さんのお姉さんを辛い目に合わせたからってその責を梅さんに背負わせるなんて間違っていますわ!!もしそれが正しい道理だというのならこの黒澤ダイヤがぶち壊してみせますわ!!」
ダイヤは先ほどとは打って変わってまるで某熱い男の様に自らの持論をまくし立てる。曲がったことやはっきりしないことが嫌いなダイヤにとって、この氏政夫妻の離婚話は非常に理不尽なものに映った事だろう。
「さっすがダイヤ!硬度10の名に恥じないハートの硬さね!!」
「そうだ!ダイヤさんの言う通りだよ!!」
千歌はダイヤの言葉を受けて立ち上がりながら叫んだ。
「私たちで氏政さんと梅さんを助けてあげよう!!」
「でもどうやって助けるの千歌ちゃん?」
「そうよ、いくらなんでも私たちだけじゃどうにもならないんじゃ・・・。」
「曜どのと梨子どのの言う通りだ。父上はこのことに関しては本気だ。多分お前たちの説得にも耳を貸さないだろう・・・。」
「氏康さんって結構頭柔らかそうなのに実はかなり頑固なんだね。」
「策はあるのかしら千歌っち?」
「う~ん、氏康さんを説得できないってなると手の施しようがないよ~!」
千歌はそう言ってふて腐れるように寝転がった。氏政とAqoursの間に陰鬱な雰囲気が漂い始めるが、
「いいえ、策なら一つだけとっておきの物がありますわ。」
そんな中、ダイヤが悪い空気を打ち払うように言った。
「本当!?お姉ちゃん!どんな策なの!?」
「慌てないのルビィ。北条家は重要な事を決める時は当主が一人で決めるのではなく、重臣たちと合議を重ねたうえで決めると言っていたのを覚えてますか?」
「う、うん!お姉ちゃんのいる評定衆とかがそうなんだよね!」
「流石は我が妹ですわ!そう、私たちがそれぞれ手分けして各地に散らばる北条家の重臣に氏政さんと梅さんの離婚を阻止するために協力してもらえるように説得するのですわ!!」
「でも北条家の重臣って結構いるわよ?」
「確かに全員説得するのは難しそうずら~。」
「善子さんと花丸さんの言葉も一理ありますが、何も全員説得する必要はありませんわ。家中の中でも重きをなしている方たちさえ引き込めれば勝ち目はありますわ!!」
ダイヤは勝ち誇ったように言った。
「家中で重きをなしてるって言うと・・・。」
「『三家老』、『五色備え』、『評定衆』と『御馬廻衆』に・・・、あとは氏照さんたち兄弟や幻庵さんたちといった北条家の一族・・・ってところかな。」
果南は指折り数えながら確認した。
「よーし!じゃあ早速みんなでそれぞれ手分けして説得に行こう!」
『うん!!』
「じゃあみんな行くよ!Aqours~!」
『サンシャイン!!』
千歌たちはいつもライブ前に行う円陣を組んでから次々と部屋から走り出していった。
「じゃあ私は氏照さんと氏邦さんと会ってくるね!」
「江戸城の政景さんと直勝さんは任せて!」
「だったら私は綱成さんと康成さんのいる玉縄に行ってくるね!」
「おらは幻庵お爺ちゃんのところに行くずら~!」
「このヨハネは漆黒の軍勢の長にして私のもう一人のマスター、多目元忠さんのところに降臨するわ!」
「うーん、じゃあ私は大道寺政繁さんのところに行くわね。」
「ルビィはどうしよう・・・。」
「ルビィはお姉ちゃんに付いてらっしゃい。私たちは北条家筆頭家老の松田憲秀さんと評定衆たちを説得しに行きますわ!」
千歌以外のメンバーはそれぞれ自分の行くべき場所を決めてクモの子を散らすように氏政の屋敷から出発していった。
「よし、私は氏規さんのいる韮山に行くぞ~!」
千歌も目標を定めて部屋から出ようとした瞬間、
「待ってくれ千歌どの。」
氏政が千歌を呼び止めた。
「なんですか氏政さん?」
「何故お前たちは危険を冒してまで私と梅のためにそこまでしてくれるんだ?」
「何故・・・ですか。私たちをここに置いてくれてることに対する恩返しもあるけど、それ以上に氏政さんが大切な仲間だからです!」
「大切な・・・仲間?」
「はい、だから氏政さんや梅さんが悲しむ顔は見たくないんです!!」
千歌は氏政の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「・・・ありがとう。恩に着る・・・!」
「お礼なら全部終わった後に言ってください。まだ始まったばかりなんですから!」
千歌は氏政にそう言い残して部屋から走り出した。
千歌たちの氏政と梅の運命を懸けた新たな戦いが始まった。果たして千歌たちは無事に氏政夫妻の離縁を阻止できるのだろうか・・・。
いかがでしたでしょうか?
北条氏政と梅(黄梅院)の離縁を阻止するために千歌たちが動き出す!!
氏政公と黄梅院の離縁はあまりにも切ないので、せめて架空の話の中では幸せになってほしい・・・!そう思って今回の話を書いている次第です!もちろん、阻止できるか否かは全て千歌ちゃんたちに懸かっていますがw
今回から始まる『関東三国志』編はこの物語の序盤の最大の山場なので、上手く書けるように尽力します!!
感想や意見があればどしどし書いていってください!(定期)
それでは次回もまたお楽しみください!!