ラブライブ!サンシャイン!! Aqoursの戦国太平記 作:截流
今回は拙作、「ラブライブ!若虎と女神たちの物語」の15話の後書きにも書いたように新しいアイデアが下りてきたので、この話を書きました。
それではどうぞお楽しみください!!
1話 戦国時代に来ちゃった!?
「今日は気分を変えていつもとは違う場所で練習しようよ!!」
静岡県沼津市の片田舎の内浦のスクールアイドル『Aqours』のリーダーである高海千歌が発したこの一言が全ての発端だった。
彼女、高海千歌が選んだ練習場所はかつて城が建っていたという「長浜城跡」にある史跡公園だった。
「うわあ・・・!綺麗な景色・・・!」
東京出身である桜内梨子は城跡から見える海の景色に感動していた。
「気分を変えて、とは言ってもそもそもこの内浦自体が海に面しているからあまり新鮮味がありませんわね。」
「まあまあダイヤ、細かいことは気にしない気にしない。ここは広いし結構見晴らしがいいから練習にはもってこいだと思うよ。」
千歌の提案に乗り気でなかった少女、黒澤ダイヤを同じ学年の松浦果南がなだめる。
「ここは戦国時代に伊豆を支配していた北条氏が水軍、今でいう海軍の拠点となる城を建てた場所だから見晴らしがいいのは当然ですわね。」
「そうなんだ、お姉ちゃん詳しいね。」
「水軍かあ・・・。うちのご先祖様も水軍の船長をしてたのかなあ・・・?」
姉であるダイヤの博識さに妹である黒澤ルビィは舌を巻き、フェリーの船長を父に持つ渡辺曜は自分の先祖に思いを馳せる。
「こういう所に来ると昔の人たちの見ていた景色を共有できるから感慨深い気分になるずら。」
「でも城があった場所っていう割には何も残ってないからつまらないわね。なんか刺激的なものがないと飽きちゃうんじゃない?」
「ここなら海の悪魔、リヴァイアサンを召喚するための儀式を執り行うためにはちょうどいいわね!」
お寺の娘である国木田花丸は海を眺めながら感慨に浸り、刺激的なものが好きな小原鞠莉は何もない城跡を見て退屈気味で、自らを『堕天使ヨハネ』と称してる津島善子は地面に魔法陣を書き始めるなど、反応はみんなそれぞれ違っていた。
「よーし、じゃあ早速練習を始めようか!!」
千歌が練習を始める号令をかけた瞬間、なんと急にあたりが光に包まれて彼女たちの姿が消えてしまった。
「痛たた・・・。何が起きたの?」
「うーん・・・。そもそもここはどこなんですの・・・?」
「え?ここはどこって、長浜城の跡地じゃあ・・・。」
「でもあそこはこんなにたくさん木が生い茂ってなかったような・・・。」
「じゃあルビィたちは今どこにいるの!?」
「落ち着くずら、ルビィちゃん!あそこからさっき見えた海の景色が見えるから場所自体は変わって無いずら。」
そうやって花丸が指さした場所へ行ってみると木々の隙間からさっきまで眺めていた景色が見えた。
「でもちょっと待って。花丸ちゃんの言う通り『海の』景色はそのまんまなんだけどさ、内浦の町が見えない気がするのは気のせいじゃないよね・・・?」
「まさかー、そんなわけ・・・ってホントだ!内浦の町が無い!!なんで!?」
「お、落ち着いて千歌ちゃん!でもなんで内浦の町が無いんだろう?」
「ねえ、ひょっとしたらこれってありえないことだけど、私たちはタイムスリップしちゃったんじゃないかな・・・。」
みんなが動揺している中、梨子はふと頭に浮かんだ言葉を口にした。
「タイムスリップですって?そんな非科学的なことが起こるわけありませんわ。いくら梨子さんでも冗談が・・・。」
いつもは常識人ポジションである梨子がタイムスリップという非現実的なことを口に出したので、はっきりしないことが嫌いなダイヤが反論した。
「確かに突拍子もないことかもしれないけど、でも整備されてた場所に木や草が生い茂ってたり町が無くなってるのを見るとそうなんじゃないかって・・・。」
「ワオ!タイムスリップですって!?まさかホントにそんなことが起こるなんてアンビリーバボー!!これよ!こういう刺激が欲しかったのよ!!」
「な、鞠莉さん!今はそんなことを言ってる場合じゃないんですのよ!?」
「もー、ダイヤってば頭がかたーい!今は特にできることがないんだから今を楽しまなきゃ!」
「そうそう、何もわからない何もできないのないない尽くしの今の状況だからこそいつも通りでいる事が大事ずら。だからダイヤちゃんも落ち着こう?」
「うう・・・。それはそうですが・・・。」
「ねえ、善子ちゃん。さっきから震えてどうしたの?」
「ふふふ・・・!流石は私ね!このヨハネの手にかかれば時間遡行なんてお手の物よ!」
「善子ちゃん・・・。流石にそれは違うと思うよ?」
「ねぇ千歌ちゃん。これからどうするよ?」
「どうするって?」
「どうするって?って・・・。流石にずっとここにいるわけにはいかないでしょ。」
「そっか、確かにずっと森の中にいるわけにもいかないもんね。」
「曜ちゃんの言う通りだよ。もし熊とか猪が出たら・・・。」
曜と梨子が千歌に森から抜けるように提案する。
「あはは、梨子は考えすぎだよ。内浦には熊なんていないよ。」
「熊はいないって、それ猪は出るってことだよね・・・?」
ガサガサっ!
「ひっ!?」
梨子が果南の言葉に不安を覚えた直後、梨子の後ろの茂みが揺れた。千歌たちが身構えてると茂みの中からみすぼらしい格好をした男が2、3人出てきた。
「ふう、なんとか撒いたな。」
「でも仲間たちとはぐれちまったぜ?」
「なぁに、ここら辺は俺たちの庭みたいなもんだ。一晩やり過ごせば仲間たちともいずれは合流できるさ。」
「あ、すいませーん!私たち道に迷っちゃったんですけど・・・。」
「ちょっと待って千歌!」
千歌は男たちに声をかけようとするが果南が千歌の腕を引っ張って彼女を止めた。
「何するの果南ちゃん?」
「何するのじゃないよ・・・!だったその人たち、刀を持ってるんだよ!?」
「え?」
果南の言葉を聞いて千歌はもう一度男たちを見てみると、男たちはそれぞれ手に少し刃こぼれした刀や鉈を持っていたのだ。
「お?見ろよ、こんな所に女がいるぜ?」
「ひひひ・・・。こいつは僥倖だな、こいつらを売り飛ばせばそれなりに儲かるぜ。」
「でもただ売り飛ばすだけじゃ割りに合わねぇや、少しぐらい味見しても文句は言われねえだろ。」
「そうだな、よく見るとどいつも食べごろじゃねえか。」
男たちは武器を手にして下卑た笑いを浮かべながら千歌たちを見て舌舐めずりをしていた。その風貌はどう見ても野盗の類いにしか見えなかった。
「ど、どうしよう果南ちゃん・・・!」
「そんなの決まってるじゃん。逃げるよみんな!!」
果南がそう言うと千歌たちは男たちに背を向けて走り出した。
「あっ!逃げやがったぞ、捕まえろ!!」
男たちも千歌たちを追うべく走り出した。
「はぁ、はぁ・・・。お姉ちゃん、ルビィもう走れないよ・・・!」
「ルビィ!?そんな事言ってる暇はありませんわよ!あの男たちに捕まればどのような辱めを受けるか!ゼェ・・・ゼェ・・・。」
野盗たちから逃げ始めて5分ほどだった頃、お世辞にも体力や身体能力には自信があるとは言えない黒澤姉妹が疲労困憊となり、走るスピードが遅くなっていた。
「嘘でしょ!?ダイヤもルビィちゃんもしっかりして!早くしないと捕まっちゃうよ!?」
先頭を走っていた果南が立ち止まって二人の元に向かう。
「しょうがないでしょう・・・!いくら体力を鍛えてるとはいえそこまで一朝一夕で体力がつくわけないですわ・・・!」
「ヒャッハー!女は生け捕りだぜー!!」
「まずい・・・、もう追っ手が・・・!」
「ふふふ、ここはこの堕天使ヨハネがあの邪悪なる者どもを・・・!」
「よっちゃん!そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
善子が野盗たちに突っ込もうとするが梨子が手を引いて止める。
「果南、あなたはルビィをおぶって逃げてください。」
「え、ダイヤはどうするのさ!?」
「そんな事、決まってるでしょう?私が囮になりますわ。その隙にみんな逃げてください…!」
「そんなのやだよお姉ちゃん!みんなで逃げなきゃ!!」
「ルビィ!世の中には何かを犠牲にしなきゃいけない時がありますの。それに、出来の悪い妹を守るのも姉の務めですわ!」
そう言ってダイヤは野盗のところへ向かおうとする。
「お?あの女、こっちに近づいてくるぜ。」
「自分一人で身代わりになるつもりだな?だが無駄だ、全員引っ捕まえて売り飛ばしてやるぜ!」
ダイヤを見て野盗が突っ込んできた。あと少しでダイヤに掴みかからんとした瞬間、
「お姉ちゃんに手を出しちゃダメえええええええええええ!!!」
ルビィがそう叫びながらカバンから防犯ブザーを何個か取り出してそれを全部鳴らして野盗たちに向かって投げ飛ばした。
「うおお!?なんだこりゃ!こいつはいったい何事だ!!」
「くそ!耳が!!なんつーうるさい音だ!!」
「このちっこいのから音が出てるのか!?うわわわ、どうやったら音が消えるんだー!?」
「早く消せ!でないと音に気付いて追っ手が来ちまうぞ!」
防犯ブザーから出る甲高い音を聞いた野盗たちは激しく狼狽えた。いくらこの時代の人間が鉄砲が出す轟音に慣れていても、防犯ブザーが大音量で長時間放つ甲高い音を聞く事は無いため動揺するのも無理は無い事である。
「ナイスルビィ!ほら、ダイヤも手を掴んで!一緒に逃げるよ!!」
果南はダイヤとルビィの手を引いて走り出した。
「ルビィちゃんかっこよかったずら〜!」
「すごいよルビィちゃん!防犯ブザーを投げるなんて考えたね!!」
「ナイスファイト、ルビィちゃん!すごくパワフルだったよ!!」
千歌と花丸と鞠莉がルビィの立てた大手柄を褒める。
「ううん、お姉ちゃんが危ないって思ったから夢中になって・・・。お姉ちゃんが今まで防犯ブザーを持たせてくれてなかったら何も出来なかったよ・・・。」
ルビィは恥ずかしそうに笑う。
「ルビィ、少しは黒澤家の娘としての心構えが身についてきたようね・・・!」
「お姉ちゃん・・・。」
「・・・でも本当に助かりましたわ。ありがとう、ルビィ。」
「お姉ちゃん・・・。えへへ。」
ルビィは普段厳しい態度をとってるダイヤが珍しく優しい言葉をかけてくれたので嬉しそうに笑った。
「あああ!!」
先の方から先頭を走っていた曜の叫び声が聞こえてきた。
「どうしたの曜ちゃん!?」
千歌が曜のところに向かうと、己の目を疑った。
「どうしよう千歌ちゃん・・・。私たち、追い詰められちゃったかも・・・!」
千歌と曜の眼前は断崖絶壁となっており行き止まりとなっていたのだ。
「そんな・・・。せっかくここまで逃げてきたのに・・・!」
「どうしよう~!ルビィたちもう捕まっちゃうんだ・・・!」
「ルビィ!黒澤家の娘たる者、こんなところで弱音を吐いてはいけませんわ!」
「ダイヤは何かアイディアはあるの?」
鞠莉はダイヤに何か策はないかたずねた。
「う!そ、それは・・・。ないですわ。」
流石のダイヤもお手上げといった様子であった。
「うーん・・・よし!みんな、いっそ海に飛び込もう!」
「「「「「「「「えええええ!!??」」」」」」」」
曜の突拍子もない発言に曜以外のメンバーは驚いた。
「本気なの曜ちゃん!?」
「うん、本気だよ。」
「確かに名案かもしれないけど無茶だよ!」
幼馴染である千歌と果南が曜を止めに入った。
「だってこのままじゃみんな捕まっちゃうよ!?確かに危ないかもしれないけどここは覚悟を決めないと・・・!」
「うーん、曜ちゃんの言うことにも一理あるずら。『進めば極楽、引かば無間地獄』って昔の偉いお坊さんも言ってたずら。」
花丸は目を閉じて手を合わせながら曜の言葉にうなずいた。
「花丸ちゃん・・・、それってこの場合だと本当に極楽に行っちゃうパターンだよね!?」
ルビィはすかさず花丸にツッコミを入れる。
「とにかく早くしないと追いつかれちゃうよ!」
「梨子ちゃんだったらどうする?」
「ええ!?私!?私は・・・。」
急に千歌と曜から話を振られた梨子は困り果ててしまった。
「リリーってば実は怖がりだったり?」
「そうじゃないけど・・・。じゃあよっちゃんは大丈夫なの!?」
「そんなのヨハネは平気に決まってるじゃない!」
そう言って善子は崖っぷちに立ってみるが、
「平気じゃない!平気じゃない・・・。平気じゃ・・・やっぱり無理いいい!!」
「う、うんごめんねよっちゃん・・・。」
怖気づいて泣きついてきた善子を梨子があやすように撫でた。
「ドラマとか映画ならここでヒーローがやってきて助けてくれると思うけど~。」
「鞠莉、流石にそれは無いと思うよ。」
「そもそも非現実的すぎますわ。」
そうこう言って千歌たちがどうこうするか揉めていると、野盗たちが森から抜けてきた。
「へへへ・・・。散々手間取らせてくれやがって・・・!」
「うう・・・。まだ耳がキンキンするぜ・・・。」
「さっきのお礼代わりにたっぷりと可愛がってやるぜ。特にさっき変なもんを投げつけてくれたそこの赤髪の嬢ちゃんはな!!」
「ルビィには手は出させませんわ!!」
「そうずら!おらたちがルビィちゃんに指一本触れさせ無いずら!!」
ダイヤと花丸がルビィの前に手を広げて立ちふさがる。
「お姉ちゃん・・・。マルちゃん・・・!」
「ヒャハハハ!お前らそんなか細いなまっちろい腕で武器も持たないで俺たちに勝てるかっての!!」
「そうそう、それに後ろは崖だ。逃げ場はもうねえぞ?」
「安心しな。お前たちは大事な売り物になるんだ痛めつけはしねえからよ。」
「でも中古にはするんだろ?」
「ちげえねえや!」
「「「ヒャハハハハハ!!!」」」
自分たちの圧倒的有利を確信し、野盗たちは下卑た笑い声を上げながら少しずつ千歌たちとの間合いを詰めていく。
「なんて下劣な・・・!」
「どうしよう・・・。」
「大丈夫ずらルビィちゃん。おらが守るから・・・!」
「うーん、これは少しデンジャラスかも。」
「もしかしなくてもデンジャラスだよ・・・。」
「そ、それ以上近づくと堕天使の裁きを食らわせるわよ!!」
「どうしよう千歌ちゃん・・・!」
「やっぱり飛び込むしか・・・って千歌ちゃん!?」
Aqoursのみんなが諦めムードに入っていく中、なんと千歌は単身で野盗たちの前に躍り出たのだ。
「あ?なんだお前?」
「お願いです!私がみんなの身代わりになるのでみんなには手を出さないでください!!」
「何やってんの千歌ちゃん!!馬鹿な事言っちゃだめだよ!!」
「そうだよ千歌ちゃん!!この人たちに捕まれば何をされるか・・・!」
曜と梨子が千歌を止めようとするが、
「私だって怖いよ・・・。でもみんなが辛い目に合うのはもっと怖いの!!だから私一人で済めば・・・!」
そう言う千歌の体は震えていた。
「ふむ・・・。友垣のために身を張る美しい自己犠牲の精神ねえ。感動的じゃあないの。」
「じゃ、じゃあ・・・!」
「だが断る!今は力が正義で何でもありの乱世だぜ?友情なんてもんは犬の糞にもなりゃしねえんだよ!!」
「まあ、自分から来てくれたのはありがたいんだけどな。」
野盗の一人が千歌を捕まえた。
「いや!離して!!」
「馬鹿言うんじゃねえよ、自分から身代わりになるっつったんだろ!?おい、こいつは押さえておくから他の奴らも捕まえろ。」
「あいよ。」
「いいか、間違っても顔は切ったり殴ったりするなよ?傷が残ったら価値が落ちちまうからな。俺たちに逆らえなくなる程度に二、三発痛めつけてやれ。」
「はいはい。」
「離してよおおお!!」
「こら、暴れるんじゃ痛えええええええええええええええ!!!」
なんと千歌は自分を抑えていた野盗の腕を思いっきり噛んで拘束を解かせたのだ。
「いつつつ・・・。このクソガキ・・・!優しくしてりゃあ調子に乗りやがって・・・!!」
「お、おい。せっかくの売り物を潰す気かよ。」
「一人減っても変わんねえよ!それに楽に殺す気はねえさ。とにかく嬲っていたぶってから野犬の餌にしてやらあ・・・!」
「千歌ちゃん逃げてえええ!!!」
「へ、恨むんなら馬鹿な真似をした自分を恨むんだな。」
梨子の悲痛な叫びも届かず、野盗の一人が千歌に刀を振り下ろした。
(ああ、私死んじゃうのかな・・・。せっかくスクールアイドルになれたのに、まだ穂乃果さんみたいになれてないのに、まだまだみんなとやりたいことがあるのにこんなところで死んじゃうんだ・・・。ごめんね、みんな・・・。)
千歌は死を覚悟して目を閉じたが、その時!
「ぐわああ!!!」
千歌を斬ろうとした野盗の後ろにいるもう一人の仲間が悲鳴を上げて倒れた。
「な、なんだ!何事だ一体!!」
仲間の異常に野盗が後ろを振り向いた。千歌は自分の体に何にもないことに気付き、目を開けると倒れてる野盗の側に二人の鎧武者が立っていた。
一人は歴戦を潜り抜けてきた壮年の武者で、鎧兜から手にしてる刀の柄や鞘まで純白に染めており、もう一人の鎧武者は先ほどの鎧武者と比べると若く、朱色の紐で結われているとはいえ全体的な色は黒と地味に見えるが、兜の前立てになっている三角形を三つ組み合わせた模様が印象的だった。
「ふう、何とか間に合ったようですな。氏規さま。」
「ああ、賊を追っていたら森の奥から妙な音が鳴り響いてて、山菜を刈りに来ていた民から『賊が女子を追い回している』と聞いてやってきたら案の定だったな。」
「ちっ!まさか見つかるとは・・・!」
「おい、あの全身真っ白な鎧を着てるやつ・・・、ありゃあ北条の『白備え』じゃねえか?結構な腕利きだって聞いたぞ。」
「構うもんか。あっちもこっちと同じ二人だ。しかも向こうのもう一人はこのガキと同じくらいだ。白いのにさえ気をつけてりゃあ平気さ。」
「あ、ああ。」
そして野盗二人と鎧武者二人は静かに睨み合う。先に動いたのは千歌を斬ろうとした野盗だった。野盗は砂を若武者の目にめがけて投げつけてから若武者に斬りかかった。
「うっ!」
「どうだッ!この砂の目つぶしは!!世の中勝ちゃあいいんだよ!!」
「そうか、勝てばいいのなら話は簡単だな。」
「え?」
若武者に刃が届きそうになった刹那、『白備え』と呼ばれた武者が横っ腹から野盗を斬りつけた。千歌たちには早すぎて何が起こったのか分からないほどだった。
「な・・・にぃ・・・!」
わき腹を斬られた野盗は地面に倒れ伏した。
「ひ、ひいいいいい!!お、お許しくださいい!!命だけはご勘弁を!!!」
もう一人の野盗は仲間が二人とも倒されたので土下座して命乞いをした。
「いかがいたしましょうか?」
白い武者は上官である若武者に野盗の処分に関する指示を仰いだ。
「命乞いをしてるから殺す必要はないよ。とりあえずそこの二人も生きてるから城まで運んで、裁きに関しては父上に書状を送って返事をもらおう。」
「はっ!御意にございます。」
そう言って後ろで倒れてる野盗二人を縛りに行こうとしたその時、
(へへ・・・、随分な甘ちゃんだなこいつは・・・!大名の息子にもなれば温室育ち全開だな。仲間の仇、取らせてもらうぜ!!)
「お侍さん、危ない!!」
命乞いをしていた野盗が若武者の背後に斬りかかってきたが、
「うん、知ってる。」
「がぁ・・・!」
なんと若武者は後ろから斬りかかってきた野盗のみぞおちに刀の鞘を突き立てていた。口ぶりから察するに襲撃を察知していたのだろう。
「うわあああん!みんなああ、怖かったよおおおおお!!」
「もう、千歌ちゃんの馬鹿!こっちもすんごくひやひやしたんだよ!!」
「すごく心配したんだから・・・!もうこんな無茶はしないでね!」
泣きながら飛びついてきた千歌を曜と梨子が優しく抱きしめた。
そして二人の武者は三人の野盗を縛り上げてから千歌たちに声をかけた。
「我らの落ち度でこんなことに巻き込んでしまってすまなんだな、娘たち。」
「ここらで暴れまわっていた賊を討伐しようとしたのはいいのですが何人かに逃げられてしまいまして・・・。このようなことに巻き込んでしまい、誠に申し訳なく思っている!!」
若武者が頭を下げると千歌たちは慌てて、
「そんな!私たちは別に巻き込まれたなんて!」
「そうですよ!お侍さんが来てくれなかったら私たちどうなってた事か・・・。」
「とにかく助けてくれてありがとうございます!あの、お侍さんたちのお名前は・・・。」
「ちょっと千歌さん!?失礼ですわよ!?」
さっきまでの状況が嘘であったかのように賑やかなAqoursのメンバーを見て二人の武者は笑った。
「ははは、どうやら心配する必要はなかったみたいですね康勝どの。」
「そうですな。おっと、名乗るのが遅れてしまったな。それがしは『北条五色備え』が一つ、白備えの大将にして、氏規さまの補佐をしている笠原能登守康勝と申す。」
「そして私は北条氏康が五男の北条助五郎氏規だ。父上の命で韮山城の城主として伊豆の統治と駿河方面の守りを任されている。」
「え?城主ってことはつまり・・・。」
「お殿様ってこと、だよね・・・。」
「ええええ!?お殿様だったのおおおおお!!??」
千歌の驚愕の叫びが、伊豆の海と空に響き渡る。果たして戦国時代に迷い込んだ千歌たちはどのように生き延びていくのだろうか。
読み切り一話目、いかがでしたでしょうか?
今回の小説は「若虎と女神たちの物語」とは真逆の『もし、ラブライブ!のキャラが戦国時代に迷い込んだら?』というコンセプトで書きました。書いた理由は前書きにも書いてありますように、「若虎と女神たちの物語」15話の後書きをご覧ください。(ダイレクトマーケティング)
自分は戦国大名の中でも後北条氏が好きなのですが、如何せん織田、豊臣、徳川の三英傑は当然として、武田、上杉、今川、毛利、島津、伊達、真田と言った人気どころと比べると地味なんです!!ゲームや小説、漫画などのどんな媒体でも地味であるがゆえにやられ役や噛ませ犬扱いが多くて・・・!しかも某戦国お祭りバカゲーのナンバリングタイトルではリストラされる始末!!!(これから発売される作品で復活が確認されましたが扱いは変わらないだろうし、リストラされた事は許さない、絶対にだ。)
故に後北条氏好きとしては北条氏がメインで書かれる創作が少なくてヤキモキしていたところに、『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台である内浦に後北条氏が建てた城の跡地があると聞いて、このコラボを考えついた次第です。
アニメキャラと戦国武将のコラボって楽しそうだな、という思いを『信長の野望』でアニメキャラ武将を作りながら考えていたのでまさに渡りに船でした。
自分が好きなラブライブ!のキャラたちと戦国武将のコラボを楽しむことができる上に、今まではやられ役か噛ませ犬扱いが多かった後北条氏を主人公側として書くことができて感無量でございます・・・!
・・・え?「若虎と女神たちの物語」を書けって?もちろん書きます!!こっちはあくまでもまだ読み切りです!向こうの方の物語がひと段落着いてから、あるいはラブライブ!サンシャイン!!のアニメが始まった後に手を付けていこうという寸法です!!
出来れば失踪という形で幕を引かないように頑張っていきたいと思います!!
もしよろしければどちらの作品でもいいので感想をじゃんじゃん書いてください!あなたの感想が私のモチベーションと持続力に繋がります!!
それでは次回もまたお楽しみください!!