「好きじゃ! わ、わしと……つつ、つきあってくれ!」
告白。
この二文字に憧れる男子諸君は多い事だろう。
無論俺も一男子として憧れている。
いや待てよ、される方も考えれば女子諸君の方が多いのだろうか。
自身の好意を相手にぶつける。
なんとも潔い行為なのだろうか。
少なくとも現代社会において自分の意見を素直に伝えられる人間などほとんどいない。大抵は後込みして流れに身を任せる。
ましてや相手が断る可能性だって無き子にもあらずだ。それを踏まえた上で思いを伝える。これを潔いという言葉以外にどう表現すればいいのやら。
しかし告白というのは驚きが多いものだ。
とある作品の作家は告白を暴力だと表現している。
なんでもする方は幸福だが、される方は不意打ちだ、と。
言えて名利だな。暴力もやる方は楽しいからやるし、される方にとってもいきなりだったら不意打ちだもの。
そんで現在状況告白をされている俺は不意打ちを受けていることになる。
しかし先ほど俺は告白とは驚きが多いものとか言っていたが、別段告白という名の不意打ちをされて驚いているわけじゃぁない。
では何故に驚き感じているのか。
答えは至ってシンプルだ。
「いや………お前────男だろ」
そりゃ男が男から告白されたら誰だろうと驚くだろうさ。
人気のない夕焼けの公園。
俺こと黒乃創は男から告白されていた。
俺に告白してきたのは子の名前は木下秀吉。
幼少からのつき合いある俺の親友かつ幼なじみだ。
見た目はそこいらにいる女の子より女の子らしく可愛い容姿の持ち主。
しかし男だ。
声もどこぞのロリ吸血鬼みたいなハスキーボイスなのではなく中性的。いや、むしろ高音質だな。
だが男だ。
仕草も男というかむしろ女だろといえるような人間だ。
二回ほど男だと言ったが大切なことなのでもう一度言っておこう、それでも男なのだ。
「そ、それでもお主のことを好きになってしまったのじゃ!」
公園内に秀吉の声が木霊する。
どうやらそれほどなまでに決意を持って告白してきたみたいだ。
しかしまさかそんなに俺の慕っていたとは。
いやさ、なにげに学校の登下校はほぼ一緒だったし、時たま朝に弱い俺を起こしに来てくれたりもしてたよ。朝ご飯もたまに作ってくれたり好きな髪型の話をした翌日にはその髪型だったり──って、以外とヒントはそこかしこにあったようだ。なんで気が付かなかったのだろうか。
「そうか……ふむ」
少し考える。
一般的な回答をするのであれば断るべきなのだろう。
世間体がマズいやら、法律的にアウト、生産的じゃない、と言った感じに。
しかしこの場合だとそれは最悪の答えだ。
秀吉は今、確固たる決意を持って告白しているのだ。世間的にどう見られるのかも踏まえた上で。それをそういった俺の考え以外の理由で答えるのは秀吉に対して失礼過ぎる。
故に、ここでは俺の言う俺の答えを伝えるべきだ。
「秀吉。正直さ、断るべきだとは思うんだ。俺たちは男同士だからな」
「ッ! ──しゃが!」
早とちりした秀吉がさらに叫ぼうとするのを俺は「話を最後まで聞かんかい」と落ち着かせる。
まつたく。人の話は最後まで聞きなさいって小学校低学年の時に習っただろうに。
「話を戻すぞ。でもよ、こうも思うんだ。そんな第三者のよくわかんない理念如きでお前の告白を断るのは無粋すぎるってな。それにお前は俺の大切な親友だ。嫌う理由もないし、友達のままでいようなんて失礼なことも言うつもりもない」
「創…」
「だけどさぁ、もう少し考えさせてくれ。俺個人、女子だろうと男子だろうと、つきあうって事を上手く理解できてないんだ。だから、それを理解した時に世間的とか関係なしに俺個人の答えを伝えるから」
言ってることがある意味矛盾してるのもわかってる。
でも、親友だから……いや、親友だからこそ真意になって答えを見つけたいんだ。
「そう……か。それなら仕方ないかのぉ」
ぐだぐだな返事に納得してくれた秀吉に「悪いな」と言いつつ頭を撫でる。
うーむ。サラサラだ。なんでこいつ男なんだろう。
こうして俺たちは、親友以上恋人未満といった奇妙な関係になった。
● ● ●
衝撃の告白から早数日。
4月1日。
この日を待ちわびる人というのはどれだけいるのだろうか。
世間一般だと、本日というのは大抵の日本の学校の始まりを指す。
由来としては仏教が絡んでくるみたいだな。たしか昔の年創が4月からだったのが今でものこってるとかなんとか。
そんでこれまた世間一般的に俺は今日から第二学年に当たる。
長ったらしい坂道を登り続けてようやく校門が目に付く。
私立文月学園。
それが俺の通う学園の名前だ。
なんでこんな坂道の上にあるのかと言えば、ちょっとこの学園が特殊だからと言う理由に尽きる。
なんでもここの学園長が実験的に開発した科学とオカルトの結晶である召喚システム。それを試験的に導入した学園が文月学園なのだ。こんな高台にあるのは土地代が安いからだし、私立でありながら学費は公立高校よりも二三割安く、設備も最新の物ばかり。
明らかに普通ではない。
それと後二つこの学園には面白い制度がある───っと、もう着いたか。
坂を上りきり校門前まで来ると、そこには鍛え抜かれた筋肉をもつ人に遭遇した。
よく見知った人物なため、俺は軽く友人に対しての挨拶をする。
「よっ、鉄ちゃんおはよう~」
「黒乃………鉄ちゃんではなく西村先生と呼べ」
そう言うなり鉄ちゃんは顔に手を当てだす。
この人の名前は鉄ちゃ──ではなく西村宗一先生。補習担当の教員で、趣味はトライアスロン。
その趣味によって鍛え抜かれた肉体は強靭そのもの。その肉体をフルに活用する彼の補習は地獄とまで言われている。まあ単に勉強しない奴に対してスパルタ式にやっているだけだから人による。だが彼の補習を受けた人の約二割は「シュミハベンキョウ。ソンケイスルヒトハニノミヤキンジロウ……デス。キライナノハベンキョウ───ガガガガガ」が口癖の勉強廃人になっていた。鉄ちゃんよ、一体何をしたんだ。
まあそんな先生故に恨み事も少なくなく、トライアスロンが趣味な事から、彼に対する皮肉で鉄人レースを文字って鉄人というあだ名で呼ばれている。
本当はいい先生なのになぁ。あぁ、だからと言って補習受けるのはごめんだ。
「まあ親しみを込めたあだ名なんですから、いいじゃないですか」
「まったくお前ときたら。それよりほら、受け取れ、この前のクラス分け試験の結果だ」
言うなり鉄ちゃんは一通の茶封筒を俺に差し出してきた。
クラス分け試験。
これが二つある面白い制度の内の一つだ。
進級する際、全学年の生徒が受けるテストの結果によってクラスが分けられるというもの。
成績上位から順に A B C D E F の六つのクラスに振り分けられる。
A が一番頭のいいクラスになり、F が掃き溜めレベルのアホクラスとなる。
さて、その差し出された試験結果なのだが、無論普通に受け取るつもりはない。
俺はできる限りのけぞり、手を差し出す。
「うむ。大義であるぞ」
「普通に受け取れんのかお前は!」
それは無理だ。だって俺だもん。
鉄ちゃんから大げさに茶封筒を受け取り、それを開ける。
中には一枚の紙が入っていた。
なるほど、この紙に結果が書いてあるんだな……あれ?
そこで俺はふとあることを思い鉄ちゃんに聞く。
「というか鉄ちゃん。なんでこんな面倒なやり方なんだ? 別に掲示板とかで一気にやった方が楽だし紙代も安くね?」
「鉄ちゃんではなく西村先生だ。それとそのことだが、最近は何かとプライバシーの問題があるからこの形になった」
「はぁ、プライバシーねぇ。あの狸──いや狐か。あの狐が俺たちのためにそんな殊勝なことを考えるのか?」
「そう言うな。というかお前にとって学園長はどんな評価なのだ」
狐か婆、もしくは化け狐でも可。
狸改めて化け狐こと学園長。
この学園を立ち上げた科学者で、基本的には自身の研究第一のお人だ。
本当に学園長なのかと思うくらいに俺たちのことなどどうでもよく思っていたり、化け狐のように言葉巧みに俺たち生徒を騙したりする事から俺は化け狐と称している。前まで狸と称していたがそこまでふっくらしてないので化け狐に改めた。
「まあいいや。俺が困るわけでもないし、むしろ大変なのはつきあわされる鉄ちゃんたち先生方だもん」
「別にそれほど大変ではない。これも仕事だからな。それと西村先生だ。あと、中を確認しないのか?」
「ん? あぁコイツか」
封筒に入っている紙を取り出す。やれやれ、こんな手のこったことをするとは。
そんな思いもあってか、開けるのに少し躊躇いが生まれる。
「確認するまでもないんだけどなあ。いや待てよ、様式美としてならゆっくりと溜めて見るべきで───わかりましたよ! すぐに確認しますから指をならさないでくださいや鉄ちゃん!」
鉄ちゃんの指鳴らしに戦慄しつつ紙を広げ、書いてあるものを確認する。
紙にはでかでかとあるアルファベットがかかれてあった。
『黒乃創…………F クラス』
これが俺の試験の結果だ。
やはりな。まっ、当然か。
大体予想通りだったため、とりわけあわてることもない。
「黒乃……俺としてはお前はもっとましなクラスに行くべきだと思っている」
「おや鉄ちゃん珍しい。明日は空からプロテインが降り注ぐな」
普段から厳しい事しか言わないのに。マジで明日はプロテインの雨じゃないのか?
傘もって来なきゃ。あぁでも、ベトベトしそう。
とりあえず次になにを言われてもいいように身構える。
「茶化すな馬鹿者が。俺は正当に判断して言っているのだ。確かにお前は根は馬鹿だが」
「非道い言われようだ」
「事実だろうが。でもな、勉学ができないという馬鹿では無いのはわかっている」
「………まぁ、ね」
確かに鉄ちゃんが言うように俺は馬鹿じゃぁない。
どっちかっつぅと頭がいい分類だ。
高校進学と同時に教科書を全部暗記する程度の頭脳を持っている。まあ正確には天才というよりは記憶力が人より優れているだけだがな。よって本来なら A クラスに行くべきと鉄ちゃんに思われているだろうなぁ。でも自分で決めた事だから後悔なんて微塵もない。
それに、
「本当によかったのか?」
「まっ、どっかの大馬鹿に頼まれちまったからな。同じクラスになってくれって。それに知ってるか鉄ちゃん」
「なんだ?」
「天才ってのは、どこだろうとどんな環境だろうと勉学出来んだぜ? 鉄ちゃんだって設備の悪いジムだろうと普通に筋トレできるだろ? つまりはそういうことさ」
どこだろうと俺のやることは変わらない。
だったら、その馬鹿のやる渦の中心にいたいのさ。
それを聞いた鉄ちゃんは一度頷くと、
「若干例えがわかりにくいが、大方理解した。つまりはどのクラスだろうとやることは変わらんと言うことだな。補習室に行くか?」
「なんでその回答に至ったのかについて教えてもらいたい!」
盛大な爆弾を落としてきやがった!
今の会話のどこに補習室に行かなければならない理由があったんだよ。
「少なくともお前たちの一学年時の行動を見ての正当な判断だ。それとお前の言った大馬鹿に心当たりしかなくてな。まぁーたよくない企みでもしているに違いない」
「おっふ、確かに去年結構やんちゃしたけど、そんな評価を受けてる俺というか、大馬鹿という単語で特定されるあいつが可哀想なってきた」
とりあえず心の中で大馬鹿に手を合わせておく。
お前世間からは大馬鹿で通ってるみたいだぜ。
「さーて、渡すものは渡した。さっ、チャイムが鳴る前に書かれてあった教室に向かえ。それと、くれぐれも新学期初日から問題行動を──」
「おいおい、そんなんであの大馬鹿が───」
「────したら容赦なくクラス全員が連帯責任で補習室送りだと大馬鹿に言っておけよ創」
「暴走しないようにあの手この手核ミサイルのスイッチを使用しても止める所存です!」
「しないわけがない」と言おうとした言葉を180度曲げ、敬礼と共に鉄ちゃんに宣言する。
なんだよ! なんで止めなかっただけで補習室に行かなぁならんのだ! 理不尽すぎるわ!
若干ショックを感じつつ俺はその場を後にした。