君の名を呼ぶ時の僕の気持ちを君は知らない   作:坂下郁

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金剛型4姉妹が拓真の自宅に集結。
榛名の今後をどうするのか、金剛が宣言する。


第07話 貴方に預けまス

 地下の駐車場に車を停めた後は、金剛さんがはるなさんを抱きかかえ、霧島さんが先頭に出る。俺がその前に出ようとすると、金剛さんの後ろに行くよう霧島さんに言われた。どこへ行くか知ってるの? と問う俺に、霧島さんは厳しく答える。

 

 「もし誰かにそんなナリを見られたら、それこそ警察沙汰ですよ」

 

 傷だらけのはるなさんを抱っこしていたので、確かに俺のシャツは赤く染まっている。最後尾にすることで、できるだけそれを隠そうと気を使ってくれてるんだな、と思い、言われる通りの位置に付き、エレベーターの位置や階数を伝える。

 

 幸い他に乗り込む人もなく、俺達は一気に自分の部屋のある最上階へと到着した。俺の部屋はエレベーターを降りた通路の先にある角部屋。だが、ドアの前では見知らぬ女の子が待っていた。足元には緑色のバケツが四つ。その女の子は、こちらの姿を認めると、元気な声で呼びかけてくる。

 

 「比叡、気合! 入れてッ! バケツ持ってきましたっ! 榛名は無事ですか、金剛お姉さまっ!? と霧島と……誰?」

 

 不審げにこちらをジロジロ眺める比叡さん。いちおうこの部屋の主なんですけどね、俺。

 

 「WOW! 比叡、よく来てくれましたー!! 拓真ぁー、早く鍵を開けてクダサーイ。あと、bathroomはどこですカー」

 

 急かされ鍵を開けると、艦娘達はなだれ込むように部屋に入ってゆく。ブーツのまま上り込む三人にあっけに取られる。お前ら靴脱いで部屋に入れよ……と思いながら、とりあえず床を拭き掃除する俺。

 

 「Hey 拓真ぁー、bathroomはどこですカー」

 

 さっきから風呂風呂って、人の部屋に来たらまず風呂に入るのが艦娘の挨拶なのか? とか考えていると、少し焦れたように金剛さんが俺を急かす。

 

 「hurry upネー。Bath tab使いたいヨー」

 「今行くから。ダイニングの真ん中辺にあるスライドドアの向こうがそうだよ」

 「OK, Huh, It’s not too bad(ふ~ん、まぁ悪くはないデース)

 

 何か文句ありそうだな、そもそも何に使うんだと確認しようとスライドドアを開く。

 

 

 今日の教訓:ドアは必ずノックすること。

 

 

 ドアの向こうでは、比叡さんがバスルームにいて、バスタブを持参したバケツの中身で満たしていたが、その手前、洗面台兼脱衣所では、金剛さんと霧島さんがはるなさんの服を脱がせていた。はるなさんと目が合う。みるみる真っ赤になるはるなさんは、おずおずと胸のあたりを両腕で隠そうとしている。

 

 「……HEY、ていと……じゃなかった拓真ぁー……時間と場所をわきまえなヨ…」

 

 こめかみのあたりをピクピクさせる金剛さん。

 

 「やだ……榛名は大丈夫……じゃないです……」

 

 半泣きの表情のはるなさん。

 

 「さぁ、砲撃戦、開始するわよ……」

 

 メガネをピキッと割りそうになる霧島さん。

 

 予想外の光景に固まる俺は、機械仕掛けのように、三者三様の反応にこくこくと頷くしかできない。

 

 「……さっさと……出ていくネーッ!!」

 「は、はいっ、すみませーんっ!!」

 

 金剛さんの一喝で、慌ててドアを閉め、リビング兼勉強部屋へと逃げ込む。

 

 

 しかしはるなさん……自分でも顔が紅潮しているのが分かる。うん、あれだけでご飯三杯はいけそうだな……。

 

 

 しばらくするとスライドドアの開く音が聞こえ、足音がそのままリビングへ入ってくる。部屋の入口で、金剛さんは両手を腰にあて、比叡さんは腕を組み、霧島さんは眼鏡をクイッと上げている。三人とも、何か汚い物を見るような目で俺を見ている。俺は残念ながらそれをご褒美と思うタイプではないが、彼女達がそうしたくなる気持ちも分からんではない。

 

 

 「拓真……正座シナサーイ」

 

 

 流れるような身のこなしで金剛さんの命令に従う俺。だってマジ怖いんだもの……。その後延々三〇分に渡り説教をされ、すっかり足が痺れてしまった……。

 

 

 

 

 その後、何とかお許しを得た俺は、冷蔵庫からペットボトルのフルーツジュースとグラスを四つ、リビングへと運んでいた。三人はとりあえず一仕事終わった態で、ソファで寛いでいる。だが、こっちは全く何が何だか分からない。とにかく事情を聞かせてもらわないと……。こちらの視線に気が付いた金剛さんは、ニコッとした笑みを浮かべ、グラスを並べジュースを注いで回る俺に声をかける。

 

 

 「拓真ぁー、聞きたいことがありマース。榛名の電探……この金色のカチューシャみたいなやつ、拓真が榛名を見つけた時、どうなっていましたカ?」

 

 

 金剛さんは自分の頭のカチューシャを指さしながら質問する。俺は砂浜での状況を思い出しながら答える。

 

 「俺が見つけた時点では、割れ残った部分が少しだけ頭に残ってたけど」

 

 

 三人の雰囲気がザワッとする。

 

 

 やはりですか、と言いながら金剛さんは、はるなさんの物と思われるカチューシャの残骸を取り出し、その表情は難しく考え込んでいる。と言いますか、ソファに深く腰掛けて、ミニスカで足を組まれるとちょっと刺激的な光景が……なんてことを考えていると、刺すような冷たい視線を感じた。視線の先では比叡さんが、じとーっとした目で俺を見ていた。

 

 「金剛お姉さまにイヤらしい視線を送るなんて……!」

 

 あれ? 比叡さんってもしかしてシスコン的な感じの人だったの?

 

 「とにかく、榛名はここを動くことができません。入渠施設を使わずに高速修復剤だけで、どのくらいの効果があるのか前例がありません。それに、私たちもいい加減鎮守府に戻らないと怪しまれます。この後どうするか……この霧島にも適切な戦略が浮かびません」

 

 

 え? 一体なんのこと? というか、君らうちの風呂場で何してる訳?

 

 

 長いこと考え込んでいた金剛さんが、突然立ち上がって、俺を指さして宣言する。

 

 

 

 

 

 「仕方ありまセーン。拓真、榛名を貴方に預けまス。おそらくそれが一番安全……カナ?」


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