君の名を呼ぶ時の僕の気持ちを君は知らない   作:坂下郁

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鎮守府から脱走し追撃を受けた-それが負傷した榛名がこの浜に流れ着いた理由

妹を思う金剛と霧島、好きな相手を思う拓真の出した結論は?


第06話 艦娘

 艦娘ーー人類に敵対する深海棲艦に唯一対抗できる存在。日本が独自に開発した、テクノロジーとオカルトが高度に融合した美少女型生体兵器……それが一般的に言われている定義だが、イエティとかチュパカブラ並の都市伝説でしょうに。かつての戦争で沈んだ軍艦とその乗員の魂をその体に宿し、艤装と呼ばれる武装を有し、深海棲艦と戦う美少女。うん、ゲームかアニメだね、こりゃ。

 

 

 …………で、目の前のあなた方とはるなさんが、その『艦娘』なんですか?

 

 

 確かに美少女、というところは当ってるけどね。実際現実感ないくらいに、はるなさん可愛いし。けれどこんなにふにふに柔らかい兵器があるかよ、そう思いながら、腕の中のはるなさんに目を向ける。

 

 あれ?

 

 擦り傷とか軽い火傷とか切り傷が、うっすらとだけど塞がり始めている? もちろん完治には程遠いし、頭とか両脚とか、特にひどいケガに目に見えた変化はない。でも、すでに榛名さんは意識を取り戻している。

 

 

 「それで……あの……拓真さん……。いいのでしょうか、このまま……その、抱っこしていただいていて」

 

 血色がよくなったのでも、夕日に照らされたからでもない、明らかに顔を赤らめているはるなさん。そうだ、たまにはカッコいいこと言おう!

 

 「大丈夫だよ、はるなさん。はるなさんさえよければ、ずっとこのまみゃでーー」

 

 あかん、噛んだ。あああーーっ、どうしてこうなるっ!? 頭を掻き毟りたいところだが、あいにく両手ははるなさんでふさがっている。だが、弱々しいがクスッと笑い、それでも確実にはるなさんは左手を動かし、俺の頭をなでる。

 

 

 「ありがとうございます、拓真さん。榛名……嬉しいです」

 

 

 「私たち艦娘は、少々のケガならself-recovery function(自己修復機能)で、時間が経てば生体部分の機能は生命維持に必要なレベルまでは回復できマース……って聞いてませんネ」

 金剛さんが何か言ってるようだが、俺もはるなさんもお互いから目を離せずにいる。

 

 

 「He-y、聞いてますカー?」

 

 

 正直、はるなさんが艦娘がどうか、俺にはよく分からない。だが、今目の前、というか腕の中のはるなさんに起きている現象は、これまで知られている細胞の治癒過程を大きく逸脱する。線維芽細胞の活動が尋常じゃない速度で行われている、としか考えられない。目の前で起きている事実を否定しないのは、研究に関わるものとして当然の姿勢だ。だが、これを論理的に納得いく形で自分に飲み込ませる知見を俺は持ってない……とか考えていたところに、金剛さんの大きな声で我に返った。

 

 

 「………聞いてますヨー?」

 

 わざと金剛さんのしゃべり方を真似して答える。特に気にした様子もなく、金剛さんと霧島さんが近寄ってくる。

 

 

 「分かったのなら、榛名をコッチに渡してくだサーイ。ASAPで傷の修復をして匿わないと、大変なことになるのデース!!」

 「私たちも帰りが遅くなると、言い訳しきれなくなります。時間がありません、さ、早くっ!!」

 

 二人して代わる代わるはるなさんを引き渡すよう求めてくる。言葉こそソフトだが、有無を言わせない威圧感を漂わせる金剛さんと霧島さん。

 

 ごくりと俺は思わず唾を飲みこむ。はるなさんも不安げに、俺と姉妹を交互に見ている。このままはるなさんを渡してしまえば、おそらく、いや絶対に二度と会えないだろう。だが、彼女達の言うことが正しければ、はるなさんの治療は俺の手ではどうにもできない。

 

 

 「……せめて、事情を聞かせてくれないか? なんで妹を『匿う』必要があるんだ?」

 

 

 あなたねっ、と俺に詰め寄ろうとした霧島さんを抑え、金剛さんがやれやれ……といった表情で口を開く。

 

 「手短に言いマース。榛名はDeserter(脱走兵)デース。なので、鎮守府から追撃され、ボロボロになってこの浜に流れ着きマシタ。Search & Destroy(捜索後殲滅)の命令が出てマスが、私たちは、何とか榛名を匿うため、探していたのデース。Do you understand, don’t you(分かったでショ)? さ、榛名を渡してくだサーイ」

 

 納得のしようがない、けれど受け入れざるを得ない。なぜなら、金剛さんの後ろにいる霧島さんに、俺の常識では理解できないものが付属しているからだ。

 

 

 武装。

 

 

 背中にある大きなバックパックのような物から4本のアームが伸び、その先に砲塔が据え付けられている。そしてその砲塔がこちらに向け動いている。

 

 今までこんなものは無かった。突然、武器を身にまとった霧島さんは、ひどく好戦的な雰囲気を漂わせている。

 

 

 …………これが艦娘…………。

 

 

 「霧島っ、やめなさいっ!! この人は私を助けようとしてくれただけですっ!!」

 

 はるなさんが緊張した面持ちで必死に呼びかけるが、霧島さんは武器を収める気配はない。金剛さんも先ほどまでのフレンドリーな気配が消え、冷ややかに俺を見据えている。こんな時になんだが、俺はあることが気になった。

 

 

 「金剛さん、霧島さん。はるなさんを『匿う』って言ってたけど、なんかアテはあるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「Hey 拓真ぁー、もっとspeed up ネ!」

 「私は、霧島は、まだあなたを信用した訳ではありませんっ」

 「拓真さん、ほんとによろしいのでしょうか……?」

 

 何とかはるなさん匿う場所を見つけたかった金剛さんと霧島さんと、何とかはるなさんを助けたい俺の利害が一致し、俺は3人の艦娘を乗せた車を飛ばして自分のマンションへと急いでいる。


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