君の名を呼ぶ時の僕の気持ちを君は知らない   作:坂下郁

6 / 56
近づいてきた2人と榛名を巡って言い合いになる拓真。
事態の真相に少しずつ近づき始める。




第05話 アイドルグループ?

 とにかく車まで戻って、警察と救急に電話して……はるなさんを抱えながらそんなことを考えつつ、車へ向かおうとした所で、場違いに背後から呼び止められる。

 

 「HEY そこのboy、ちょっと待つデスヨー」

 「私の理論的な考察からすると、その男性は救命活動中なのでは?」

 

 ん?

 

 首だけ動かして声の方を振り向くと、そこには夕日を背にし、2人の女性が波打ち際に立っていた。

 

 二人ともはるなさんとよく似た、というかほぼ同じ服装をしている。違いはミニスカートの色だけで、茶髪ロングで違和感ありまくりの日本語を話す方が黒、黒髪ショートで眼鏡をクイっと直している方が黒に近いダークグレー。……このファッションって最近の女子の間で流行してるの?

 

 

 いや、こんなことしてる場合じゃないから、俺。

 

 

 「あ……すみません、急ぐので。ちょっと連れがケガしちゃったので、病院に行かないと」

 

 何者か知らんけど、これだけ言えば事情は分かってくれるだろう。ほんとは連れじゃないけど。軽く会釈だけして、そのまま車へと戻ろうとする俺の肩をつかみ、強引に足を止める茶髪ロング。瞬間的にカチンときて、怒鳴りつけてやろうと思った俺の言葉は、彼女の次の一言で出番を失った。

 

 「My sisterを、妹の榛名をどうするつもりですカー? 私たちに返してクダサーイ」

 

 ……My sister=妹? はぁ?

 

 突然現れ、はるなさんの姉を名乗る日本語の怪しい女。女性をじろじろみるのは失礼とは思ったが、改めて上から下まで瞬時に眺めてやるぜ! 顔立ち……この人も十二分にきれいだ、はるなさんの次に、だけど。髪型は……よくわからんけど頭にフレンチクルーラーを乗っけたような……。ごめん、俺のボキャブラリーでは説明不能だ。手の込んだ髪型というのは分かった。体形や体つきは……むぅ、姉妹と言われれば似た感じがする。出るとこは出て締まるところは引き締まり、スラっとした長い脚。うん、見事だ。でも胸ははるなさんの方が大きいかな?

 

 「……『フレンチクルーラー』のあたりからぜーんぶ口に出てマース」

 

 苦笑いを浮かべながらも、俺の視線の動きに合わせて、腰のラインを強調するようなポーズをとったり、ウインクをしたり、とサービス精神旺盛に対応してくれる。あなどれないな、この人……。

 

 「お姉さま、そんなことしてる場合ではないのでは? この方をここに埋めた方がいいと思います」

 

 もう一人の黒髪ショートが、少しイラッとした感じでメガネを光らせながら、物騒なことを言い出す。何ですか、その脳筋思考丸出しの発想は。話せばわかるよ、だいたいのことは。

 

 「榛名がいるからダメデース。それに、いくら何でも民間人に手を出すのはマズいヨ」

 

 茶髪ロングがやれやれ、といった感じで肩をすくめながら、黒髪ショートをたしなめるように言う。

 

 

 『民間人』の言葉でピンときた。

 

 

 三人そろって美人、お揃いで普通とは違う格好、けっこう強引なキャラ付け、それに俺を『民間人』と区別する言い方――。

 

 

 「分かったぞ、君たちアイドルグループなんだろ? ここでロケかなんかやってて、はるなさんが事故でケガをした。表ざたになると番組とか収録に影響が出るから慌ててる、そうなんだろ?」

 

 

 ふっ……我ながら冴え過ぎている。

 

 

 

 

 

 あっけに取られたような表情を浮かべ、しばらく言葉を失っていた二人だが、突然茶髪ロングの方が笑い出しだ。目に涙まで浮かべてる。やっと呼吸を整え、黒髪ショートに話しかける。

 

 「…WOW! 霧島ぁー、私たちアイドルだったんダー♪ でもboy…天気そのanswerは大外れデース」

 

 嬉しそうに両手をあげたかと思うと、ふと真面目な表情になる茶髪ロング。

 

 「……金剛お姉さま、そんなことよりも榛名の治療を……」

 

 付き合ってられない、とばかりに大げさな溜息をつく黒髪ショート。

 

 

 この時点で分かったこと。

 

 一、俺の名推理は大外れだったようだ

 二、茶髪ロングが金剛、黒髪ショートが霧島という名前(感じからして苗字だろう)

 

 そして……三、はるなさんをまだ病院に連れて行っていない!!

 

 くだらない掛け合いのおかげで足を止めてしまった。費やしたのは大した時間じゃないが、はるなさんの状態を考えると一分一秒を惜しまないと!! 慌ててはるなさんを見てみると、なぜか先ほどより呼吸が落ち着き、顔色も心なしかよくなっているように見える。いや、夕日に照らされているだけだ、都合よく解釈してはいけない。

 

 

 改めて俺は車まで走り出そうとする。その背中に耳障りな言葉が投げかけられる。

 

 

 「病院なんて行っても何もできませんよ」

 

 じゃぁ何か? 葬儀屋にでも直行しろっていうのか? 言い返したいが、時間の無駄だと思い、無視して走り出そうとすると、今度は自分の腕の中から邪魔が入った。

 

 「……拓真さん、霧島の言う通りです……病院では……何もできないと思います」

 

 はるなさんが、さっきより少しだけはっきりとした声で言い、弱々しくニコッと微笑む。っていうか、ほんとに金剛さんと霧島さんと姉妹なの、その様子だと?

 

 

 「人間のhospitalで、私たち『艦娘』の治療ができるわけないネー。時間を無駄にしないほうがいいと思いマース」

 

 

 

 金剛さんが面白いことを言った…………艦娘?

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。