その糸は再び伊達提督へと結ばれる。
※今回は、この物語における艦娘についての独自設定が出てきます。気になる方はブラウザバック推奨です
伊達提督と久しぶりに会う。
大将が昔のコネを使い軍に接触した結果、俺達が探している初期艦の五月雨さんはまだ生きていることが分かった。それだけではない、西日本のとある泊地に彼女はいて、その泊地こそ伊達提督の前任地だった。大将がさらにコネを動かして伊達提督に接触を図ったところ、『穴吹君になら話す』ということになり、俺は今、ベーカリーの裏手にある砂浜で彼を待っている。
「待たせたね、穴吹君。久しぶりだが元気にしてたかい?」
伊達提督は海側からではなく、道路側から砂浜に降りてきた。てっきり軍艦か何かで沖合までやってくると思っていたんだが…。
「ここまでは鎮守府から一本道なので車の方が楽だよ。何より私用で人に会うのに軍艦を使う訳にはいかないよ」
もういい加減慣れてきたけど、どうして俺の心はこうも容易く(以下略)。
「は、初めましてっ。私、特型駆逐艦一番艦の吹雪です。よろしくお願いしますっ!」
思わず顔が険しくなる。一対一の話じゃなかったのか? そのまま疑問の視線を伊達提督に投げるが、彼は何も気にするそぶりが無い。
「彼女は新しく着任した艦娘で、視野を広げるいい機会と思ってね。それとも男二人砂浜で突っ立って話をするのかい? よっぽど不自然だよ。安心したまえ、艤装は持参していない。その代りに…まぁ、見た通りだ。一応
吹雪さんという艦娘は、軽々と色々な物を持っている。クーラーボックス、パラソル、折り畳みテーブルやチェア、アウトドア用のコンロ、炭、各種食材…えっと、今日ってバーベキューの約束でしたっけ?
「そう警戒しないでほしいな。おそらくそこのベーカリーに君の仲間が待機しているのだろう? こういうのはみんなで楽しまないとな」
すべてお見通しって訳か。やっぱり喰えない人だ。
伊達提督の本拠地である鎮守府にのこのこ行けば何をされるか分かったもんじゃない。だからマンションと商店街の間にある小さな砂浜を会談場所にしようと、俺は彼に要求した。開けた場所なら、仮に伊達提督が何か企んでいても、人目につくから容易に手は出せないだろうとの読みだ。
見抜かれた通り、砂浜を望む位置にあるベーカリーのカフェコーナーには、大将と鳳翔さん、そしてはるなさんが待機している。万が一提督が武力に訴えようとしたなら、鳳翔さんがそれに対抗することになっている。
「やる時は、やるのです!!」
なぜか知らないが、鳳翔さんはやる気満々だった。それって俺が危機に陥ることが前提になってるんですか…。
軽くため息をつき、俺は携帯を取り出してはるなさんに連絡を取る。
◇
砂浜に立てられたパラソル、その下に据えられたテーブルと6脚のチェア、そしてバーベキューコンロ。あっけに取られる俺達4人を気にすることなく、吹雪さんは紙コップを配り、飲み物は何がいいですか、と甲斐甲斐しく歩き回っている。伊達提督は白い軍服の上着を脱ぎ、Tシャツ姿になり、バーベキューコンロの準備に余念がない。
「艦娘と一口に言っても、大きく分けて三世代あるんだよ。…まずは火が通りにくい物から焼かないとな」
グリルの上にひょいひょいと野菜を並べながら、伊達提督が唐突に話しはじめる。
「艦娘は初期艦と第一世代、第二世代に分けられる。初期艦というのはオリジナルの5人を指すのだが、一人を除いて全員戦没した。そうだな…初期艦はワンオフ、第一・第二世代の艦娘はプロダクションモデル、第一と第二の違いは性能と安定性、生体機能としてはそう考えてもらっていい。…吹雪、そろそろ肉を並べ始めてもいい頃合いだと思うが、どうだ?」
吹雪さんは、はいっ、司令官!と元気よく返事をし、程よく火が通った野菜をグリルの脇にずらし、中央に手際よく肉を並べている。おお、何かいい匂いがしてきた。
「吹雪、どんどん肉を焼いてくれ。ほら、穴吹君も食べるといい」
実は我慢してたんだよね。はるなさんがいい感じに焼けた肉を取り、俺の紙皿に載せてくれる。優しいよなぁ、ほんとに。
「はい、拓真さん、あーん」
箸で肉を摘むとその下に手を添え、満面の笑みで俺に差し出してくれる。あの…みんなニヤニヤしながら見てるんですけど。
ま、いっか。俺が大きく口を開け肉を迎えに行ったところで、伊達提督が再び艦娘の話に戻る。
「艦娘の生体機能は、一撃で脳か心臓を破壊するか一瞬で焼き尽くさない限り、入渠と呼ばれる整備で概ね再生できる」
………あの…俺達今何食べてるんでしたっけ? 全員の箸が止まる。…絶対ワザとでしょ、伊達提督?
「五月雨は最後に参加した作戦で、深刻な損傷を受けた。あの当時の技術水準、発見までに時間がかかった事、その後の処置が適切ではなかった事、加えて政治的な思惑まで加わり、完治はできなかった。身体機能は回復したものの、高次脳機能障害が残ったままだ」
「…それ以前から五月雨ちゃんは、度重なる生体実験のせいで、何もない所で転んだり、他の艦娘や輸送船にぶつかったり、味方を誤射したり…方向感覚と視覚、一部の運動機能が正常に働いていませんでした。教授の元で治療を受けていましたが、治らないまま作戦に参加させられて…。初期艦の中でも最優秀と呼ばれた子だったのに…」
鳳翔さんが昔を思い出すように、伊達提督の話を補足する。
「政治的思惑って、どういうことなんでしょう?」
はるなさんが口を開く。確かに俺も疑問に思った。他の事は理解できるが、これはどういうことなんだ? 伊達提督はその問いに対してはすぐに答えず、肉をひっくり返していたが、意を決したように焼けた肉を皿に載せ食べ始めた。焦れた俺が重ねて質問しようとしたタイミングを見計らうように、話を再開する。…ぜったいワザとだ…。
「西松教授は優秀過ぎたとも言える。初期艦は、人間の持つ
全ての機能…? 俺は思わず身を乗り出し、伊達提督に詰め寄る。
「全てって、どこまでを指している? まさか…?」
俺の言いたい事に気づき、全員が固唾を飲んで伊達提督を見つめる。
「…初期艦は
あまりも勝手すぎる話だ。怒りに震えている俺に対し、伊達提督が飄々と声をかける。
「穴吹君………野菜、焦げるから食べてくれないか?」