君の名を呼ぶ時の僕の気持ちを君は知らない   作:坂下郁

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前回の流れに続くような展開。


第38話 どストライク

 金剛さんから、俺とはるなさんに着替えが渡される。

 

 「はるなはサイズが合うはずでース。好みかどうかは知りませんケド…。拓真はそれで我慢してくだサイ」

 

 準備ができたら外に出てくださいネ、と金剛さんは言い残し、部屋を出てドアの外で俺達を待っている。

 

 

 はるなさんは納得いかなさそうだが、病衣でうろつく訳にもいかないだろう。俺ははるなさんに、準備ができたら教えてくれるよう言い、背を向けて着替えはじめる。

 

 「どうかな、はるなさん?」

 「は、はいっ。は、はるなは大丈夫ですっ」

 

 掛布団を壁代わりにしてベッドの上でもぞもぞ着替えていたはずのはるなさんが、挙動不審な声をあげる。…大丈夫って言ってたし、振り返ってもいいか-俺はそう判断しはるなさんの方を向く。

 

 

 生まれて初めて、目がハートになる、というのを実際に見た気がする。白い軍服(第2種軍装というらしい)を着た俺を、はるなさんはまるでスターか何かを見るような、熱い視線で見ている。

 

 「拓真さん…とってもよく似合ってます」

「そ、そうかな…。はるなさんもその洋服、すごく可愛いよ」

 

 うちのクローゼットにはないフェミニンな感じのワンピースで、はるなさんの清楚な魅力が強調され、何だろう、妙に照れてしまう。

 

 

 

 「Wow! 拓真ってちゃんとした服を着るとカッコよかったんですネー!! これはsurpriseでース!!」

 「拓真さんは元々かっこいいですっ!」

 金剛さんが微妙な褒め方をしながら、俺と腕を組む。はるなさんがむくれたような顔で俺の反対側の腕を取る。そうこうしているうちに、わらわらと艦娘達が集まってきた。

 

 「おおっ、これがイクの言ってたイケメン? たしかにー。鈴谷だよ、よろしくね。…っていうか女連れ? テンションさがるわぁー」

 なんだこの女子高生っぽい感じの馴れ馴れしいヤツは。

 

 「鈴谷、その二人が救助された()()()よっ。ねえそこのアナタ、困ったことがあったら、この雷に頼っていいのよ?」

 えっと…茶色い髪の中学生? のような女の子が話に入り、鈴谷というJKに説明してくれる。

 

 「はわわわわ…カッコ…いいのですー」

 最初の子に良く似た女の子が何故か照れた表情で俺を見ている。

 

 「電、その男性(ひと)は、その女性(れでぃー)()()なんだから諦めた方がいいわよ」

 やっぱり中学生くらいで、少し大人ぶった感じの女の子が、覚えたてなのだろう、使いたくてウズウズしていたかのように右手でジェスチャーをする。

 

 おそらくはサムズアップ=彼氏、をしたかったはず。だが、立てるはずの親指は人差し指と中指の間に入り、それを飛び越えた意味を示している。

 

 「暁姉さん、それは流石に…恥ずかしいな」

 帽子を被った、プラチナブロンドの長髪の女の子が、ジェスチャーを決める少女にひそひそとその意味を説明している。

 

 聞き耳を立てていた他の二人も、真っ赤な顔でえええぇーっと叫び声を上げ、響と呼ばれたその子に「何でそんなこと知ってるのーっ!?」とか言って盛り上がっている。…えっと、ここは軍事施設なんですよね、金剛さん? 私立の女子高にしか思えないんですけど…。あれ? はるなさんすっごい不機嫌…?

 

 「どうやらイクがぺらぺら喋っちゃったみたいですネー」

 不機嫌そうなはるなさんをにやにや見ながら金剛さんが訳知り顔で口を開く。

 

 「拓真は、大柄でゴツく、顔立ちは整っているけどやや濃いめで、マッシブな印象(impression)でース。だから、当時の軍人を見慣れている私たちにとってはどストライクなのでース。ね、はるな? But 服のセンスは最悪ですけド」

 

 多分褒められているようだ。うん、そう思おう。けれど服のセンスが最悪って…。ちらりとはるなさんを見ると、こくりと頷いてる。あれれ? そんなにヒドいのか…。

 

 

 「遅いと思えばこんな所で何をしている? …ほぉ、普段の服に比べれば見違えたぞ。やればできるじゃないか、穴吹」

 

 不意に現れた男性が不躾に声をかけてくる。まったく、どいつもこいつも俺の私服をなんだと思ってるんだ。

 

 

 ………って、教授っ!? いや、あなたこそこんな所でなにしてんの!?

 

 

 「あれだけの戦闘の後だ、艦娘のメンテナンスのために技術顧問が鎮守府にいて何の不思議があるのだ?」

 

 だから心の声になぜ答えられ(以下略。

 

 

 「まぁいい、二人ともついて来い。艦娘達は着いてこなくていいぞ」

 

 教授は俺達の返事を待たずにくるりと背を向けて歩き出し、金剛さんは俺から手を離す。はるなさんはむしろ余計にしっかりと俺の腕にしがみ付く。あの…その…お胸的な何かがぎゅっと当たってるんですけど…。

 

 「当ててるんです♪」

 

 うん、だからみんなエスパーかよ? 俺の心の声に当たり前のように返事をしないでほしい。

 

 

 

 「榛名はこっちだ。穴吹はー」

 「いやですっ!! 拓真さんと離れる訳にはいきませんっ」

 

 怪訝そうな顔をする俺と、警戒感を露わにするはるなさん。腕にしがみ付くどころか、両手で俺を横抱きにし、今にも噛みつきそうな顔で教授に食って掛かる。教授は苦笑しながら、聞き分けのない子をあやすような口調で語りかける。

 

 「…そういきり立つな。穴吹を大切に思うのは構わないが、目の前にいるのがお前の敵かどうか、冷静に判断したらどうだ? まぁ、味方かと問われても困るが。…とにかく、榛名、お前には私から話がある。穴吹には別な者から話がある」

 

 はるなさんは教授の言葉を聞き、むぅっとした顔で考え込んでいる。

 

 「拓真さん…」

 

 はるなさんは俺の軍服の上着の裾をつまみながら、不安そうな目で俺を見上げる。俺ははるなさんを軽く抱きしめ、おでこをこつんとつけ微笑みかけながら、彼女を落ち着かせるように静かに語りかける。

 

 「たぶん大丈夫だ…。教授は、口調はアレだけど、決して悪い人ではない…と思う。それに、俺達はもう離れない、だろ?」

 

ちゅっ。

 

 はるなさんは俺に軽く口づけながら、頬を赤らめつつ、笑顔を作る。

 

 「はいっ、これではるなは大丈夫ですっ」

 

 

 「話は済んだか? では穴吹はそこの廊下をまっすぐ行って右に行きすぐ左に曲がって突き当りにある部屋まで行け。…しかし何だな、人の色恋沙汰に嘴を突っ込むほど暇ではないが、伊達に『バカップル』とは呼ばれていないな」

 

 いや、その…はい、スミマセン…。というかその呼び方を定着させたの、ほんと誰だ?

 

 

 はるなさんが気掛かりだが、俺は教授に指示された通りに進んでゆく。

 


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