【子蜘蛛シリーズ1】play house family   作:餡子郎

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No.018/家出少女と家族会議

 

 

 

「だから、手放すなら早くしてあげて。ちょうど今ギスギスしてるし」

「ちょっと待ってよ。なんで? なんで能力が使えなくなるんだよ」

 シャルナークが、訝しげに、少し大きな声を出した。ワンテンポおいてから、パクノダは話しだす。ずっとまっすぐにクロロを見つめながら。

 

「あの、『おままごと』の能力。あの年齢であそこまで強力で複雑な内容の力が使えるのは、ルールが細かいからじゃない。とても大きな制約があるから」

 パクノダは、まっすぐにクロロを見ている。

 

「あの能力は、子供のうちしか使えない」

 

 だから能力だけ盗んでも使えないわよ、とパクノダは肩を竦めた。

「もちろん意図的にシロノが課した制約じゃないけど、アケミが、多分そうなるだろう、って……。ああ、多分と言っているけど、これは確信よ」

「……ふむ」

「能力が使えなくなる、正確な年齢は不明。ただ、“おままごと”という遊びに純粋な興味が持てなくなる様な年齢、という様な感じだった。一般で平均的な年齢は6、7歳? だったかしら。すぐよ」

 どうやらパクノダも育児書を読んでいるらしいことが、その発言でわかる。

 A級首盗賊団ともあろうものが、自分も含めこの中の何人があの育児書を熟読したのだろうか、とシャルナークは場の雰囲気にそぐわず、少し苦笑したくなった。

「そしてアケミも、自分に制約を課してる」

「アケミも?」

「そう。……“自分がこの子を守ってあげられるのは、この子が子供の間だけ”」

 

 ──アタシが守ってあげられるのは、子供のうちだけだから

 

 アケミがそう言っていたことを、クロロははっきりと覚えている。

 どこか寂しそうな色が滲んだ声で、大人になったらひとりで生きていけるように強くなくちゃ、とアケミは言った。

「……アケミはそうやって自分に制約を課すことで、あそこまで強力な力を手に入れている。オーラだけの身でもほぼ絶対的に娘を守ることの出来る、強力な力」

「……ちょっと待って。ということは……」

 シャルナークが言いたいことを察し、パクノダは頷いた。

「ええ。『おままごと』はシロノの能力だけど、『レンガのおうち』はアケミの能力。水見式をやらせることが出来ないから断言はできないけど、アケミは変化系の能力者なんじゃないかしら。オーラを硬化し、強固なシェルターを作る事が出来るっていう能力者」

「……多分、それで間違いないだろうな」

 クロロが、シャルナークが調べた資料の束のクリップを外し、再び事件についての記事を広げた。

 

「“アケミ・ベンニーアさんは約六畳の自宅室内に強行侵入され、すぐにナイフで襲い掛かられた模様”──この部屋の広さ。覚えがあるだろう? シロノの“円”の最大範囲だ」

「──あ」

 シャルナークがはっとした。生きていた頃のアケミの情報を初めて聞いたパクノダが、表情を歪ませている。

 

「……狼が絶対に入って来れない、レンガのおうち──というわけか」

 藁の家や木の家では、狼が入って来て、子豚を食べてしまう。でも、レンガの家なら安心だ。狼が絶対に入ってくることはない、頑丈なレンガの家なら。

「そして、“こども”を傷つける家族……それがたとえ家の中で最も権力のある父親であっても絶対的な制裁を下すことの出来る、母親としての強力な力」

「……なんてこと」

 パクノダが、片手を額に当て、背もたれに体重を預けた。

 

「深い怨みや未練を持ったまま死ぬことで、生前より念が強まる場合がある。つまり幽霊であるアケミは、腹の中の娘を守ることが出来なかったという未練と、更に期間限定という条件を自分に課すことで、マシンガンの一斉射撃も完璧に防ぐ『絶対的なセキュリティ付きの家』と、『父親にも制裁を下せる強力な力』、この二つを手に入れたわけだ」

「──なんて、」

 パクノダはもう一度呟いたが、最後まで言葉を発することは出来なかった。

 シャルナークも、驚いている。クロロだけが、淡々とした声で続けた。

「ボノに聞いたのだが、幽霊や精霊というものは、モノであれ人であれ、何かに取り憑くことでその対象を支配したり、媒介として何かの現象を引き起こすということが可能らしい」

 全ての妖精や幽霊に言えることであるが、人間と交わること──方法は色々である──で、その相手に霊感や才能を与えることもある、という。

 

「つまりアケミは娘に取り憑き、シロノの身体や念能力の成長を媒介にして能力を発揮している。アケミに取り憑かれることでシロノが自分の持つ以上の能力を発揮できる──、と、言い換えてもいいが」

 クロロはそう言って、資料を再び机に戻した。そして顎に手を当て、思案顔になる。

(いや……それだけではない、が)

「……それで団長、どうするの」

 シャルナークが言い、クロロは再度顔を上げた。

 

「何が」

「何が、じゃないわよ。シロノ、どうするの? 手放すの?」

 パクノダが、怒ったように言う。

「──あれ次第だ」

 クロロがそう言うと、パクノダは思い切り椅子を蹴り飛ばして部屋を出て行った。怒ったようにではなく、正真正銘怒っていたらしい。

 見事に粉砕された椅子を見て、シャルナークが重々しいため息をついた。

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 本拠地(ホーム)は、旅団総出で大騒ぎになっていた。

 

「シロ──、……どこだコラ」

「箱の中にもいねえな……。オイ、こっち全部探したぞ」

 かくれんぼで隠れている確率が高い廃材の山の後ろを、ノブナガとフランクリンが探して回る。

 小さなシロノなら入れる空き箱も全部開けて回ったが、その姿はどこにもない。

 

「シロノ、出てらっしゃい! どこにいるの!」

「オラこのチビ! 早く出てこねえと尻ひっぱたくぞ!?」

「フィンクス、それじゃよけい出て来ないだろ」

 部屋を全部空けて回るパクノダと、既にイラついて足取りの荒いフィンクスをじろりと見遣るマチ。こちらも収穫は無しである。

「くっそー、ちンまい奴は見つけづらいな!」

「おまえはでかいからな……。シロノ、いいかげんに出て来い」

 片っ端から全てをひっくり返すウボォーギンの横で、ボノレノフが穏やかな声を響かせていた。しかしやはり反応はなく、二人はため息をつく。

 

「──屋上と外壁、建物の周りにもいなかた。拷問室にもいないね」

 部屋に戻って来たフェイタンが、イライラしたものが滲む声で言った。フィンクスがばりばりと頭を掻く。

「マジかよ、どこに居んだ? もう探してねえとこなんかねーぞ」

「……居たか?」

 そう言って入ってきたクロロに、全員の視線が集まった。マチが小さく首を振る。

「居ない」

「……手のかかる」

 ふう、とクロロがため息をつく。

 

 万策尽きてどうするか、という空気が流れて暫くしたあと、今度は、何か重たいものでも背負っているかの様な顔のシャルナークが現れた。

 部屋に入るなり、彼は鉛の様なため息をつく。それを見たノブナガが訝しげな顔で「どした、シャル」と声をかけると、彼は再度、更に重い息を吐いた。

「あーうん……シロノはさすがあれだよね……“絶”ばっかりは旅団随一だよね……」

「まったくだ。旅団総出で探しても見つからねえってこれ、よっぽどだぞ」

「いや、そうじゃなくてね」

 シャルナークはそう言って、手に持っていた小さな紙を皆に示した。

 各々が身を乗り出し、あるいは覗きこむようにして、それに注目する。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「……“みんなへ。 おせわになりました。くろろさん さようなら”」

 フィンクスが、可愛らしいメモ帳に色ペンで書かれたそれを読み上げた。

 丁寧に書いたというのがなんとなくわかる拙い字は、確かにシロノのものだ。下に小さく署名もしてある。

 

「あー……………………………。……家出か」

「おい、マジかよ」

「マジみたい……」

 は──……、と、シャルナークは重々しいため息をついて言った。

 

「なんてことなの。団長!」

「おい、速攻で俺か」

「ほかに誰がいるのよ。何したの?!」

 パクノダが、座っているクロロの前に仁王立ちになった。

 モデル顔負け、身長百八十センチのナイスバディに仁王立ちになられるとかなりの迫力があるが、さすがに団長だけあって、クロロは彼女を平然と見返した。

 

「いやまあ、団長のせいっていえば団長のせいだと思うよ?」

 シャルナークがそう言ったので、全員の視線が彼に集まった。クロロが顔を顰める。

「なんでだ。俺はここしばらく口もきいてないぞ」

「それも原因の一つだけどね。団長の本の部屋の前にこれが落ちてた」

 彼が出したのは、子供向けの算数ドリルである。頭の上に疑問符を浮かべる面々に、彼は言った。

「中、全部やってあるんだよ、これ」

「全部?」

「あの勉強大っ嫌いなシロノが?」

 シロノは、あまり勉強が得意ではない。

 しかし課題を出すクロロときたら、シロノと同じくらいの年には高等学校か大学レベルの問題を楽々解くような天才児だった。

 そのせいもあり、六の段から九九が怪しいシロノは勉強に劣等感を持ってしまっていて、机に向かって勉強するのが大嫌いなのだ。とくに算数はシロノの天敵である。

 

「……ほんとだ、全部やってある。七の段の九九間違ってるけど」

「でも分数のとこ、通分と約分全部ちゃんとできてるぞ」

 ドリルを受け取ったマチとノブナガが、ぱらぱらと中をめくって驚愕の表情を浮かべる。

 計算問題の横には、こんな単純な計算でなんでここまで式が長くなるんだ、という様な式を書いては消した努力の跡がいくつも見られるが、それでも答えはちゃんとあっている。

 

「団長に怒られてから、シロノ、修行だけじゃなくて勉強も頑張ってたじゃん? で、その結果を見せようと思って昨日、ていうかあの時、部屋の前に来てたんじゃないかな、と……」

「ちょっと……まさか」

 シャルナークの台詞に、パクノダが青くなる。

 

「あれを聞いてたっていうの……!?」

「……よっぽど緊張してたんだろうね。シロノ、緊張すると“絶”になっちゃう癖あるし……。あ~、よりにもよってあの時居たなんて……。全然気付かなかった……」

「おい、何の話だ?」

 フランクリンが眉を顰めて尋ね、シャルナークは仕方なく、昨日クロロにも見せたあの資料と新聞の束を持ってきた。そしてパクノダ含め、全員に説明をする。

 衝撃的な事実に全員が聞き入り、驚きながらも納得していく。

 

 そして全てを説明し終わったあと、全員の視線は残らずクロロに向いていた。

 

「団長が悪いな」

 

 ノブナガが、断言した。

 彼のこめかみには、やや青筋が浮いている。

「何やってんだアンタは。教育云々の前に、幻影旅団の団長ともあろう男があんなチビいびってんじゃねえよ、カッコわりーな」

「いびってなどいない。躾けただけだ」

「おォそうかい。じゃあ俺がこの、チビの根性が染み込んだ算数ドリルであんたの横っ面張り飛ばすのも、マジギレじゃなくて躾だよな?」

「やめろノブナガ。シロノがせっかくやったんだ、ページが千切れたらどうする」

 まだ答えあわせしてないだろう、というフランクリンの声に、ノブナガはハリセンよろしく高く構えた算数ドリルを下ろして、テーブルに置いた。

 

「………………あ──ぁあ」

 フィンクスが、風船の空気が盛大に抜ける様な声を出した。

「……クロロさん、だってよ」

「とうとうね。いつかこうなるとは思てたよ」

 いつもよりやや割り増して目が据わったフェイタンも、覆面の下でため息をつく。

 

「あーあ」

「……何だシャル、その目は」

 本人はこの時点でも罪悪感というものを感じていないという体たらくであるが、それでも全員からちくちくとした非難の目を向けられれば、クロロとて眉をしかめる位の反応はする。

 間延びした声とともに半目で見られ、クロロはとうとうシャルナークを見返した。

「あれだね、天下の蜘蛛の団長の大嘘も、シロノには通用しないんだって事だね。初めて会ったときからさ。……あの子は嘘をつかれてることに気付いちゃった」

「嘘?」

「“パパなんかじゃなかった”ってことだよ、“くろろさん”」

 おままごとの嘘、あの子はそれに気付いたんだ、とシャルナークは言った。

「それに、シロノが聞いてたって事はアケミも聞いてたってことだからね。あの娘命の……ああ、もう死んでるのか。とにかく彼女が、あんな話を聞いて、シロノをまだここに置いておこうなんて思うはずもない」

「……ま、そりゃそうだな。親としては」

 フランクリンが、はあ、と体の大きさに見合ったため息をつく。

 

「……でもまあ、もともともう手放すつもりだったんでしょ。じゃあ都合良かったんじゃない」

「ちょっと、シャル」

「マチも聞いたろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺たちのこともそうやって通り過ぎていく、それだけのことだよ。アケミがついてるなら命の危険はないしね」

 最初どんよりと重く疲れたようだったシャルナークの声は、ひどくハキハキしたものになっていた。

 いつもマイペースな彼が、こうして早口でまくしたてるのは珍しい。何らかの感情が高まっている彼に何人かが驚くが、何人かはすっかり同調してもいた。

 

「……まだ手放すとは言ってない」

「何言ってんの。“あれ次第だ”って言ってたじゃない」

 憮然としたクロロの声に、パクノダが、シャルナークと同じ口調でそう返した。

 

「あの子は出てったわ」

 

 シン、と、部屋中が静まり返った。

 

 シャルナークによると、シロノは荷物をほとんど持っていないらしい。

 団員達に似せてマチが縫った服も、小さなぬいぐるみも、子供用の勉強セットも、シロノとアケミは、全部置きっぱなしでここを出た。繋がりを断つようにして。

 

「……にしてもよ、どこ行ったんだ? 俺らといるようになってから、ほかの人間と繋がりなんて持ってねえだろ、あいつ。行くあてなんかねえはずだ」

「ただうろうろしてるんでしょう。今までだって誰かに拾われる前は野宿とか当たり前だったみたいだし。アケミがいるから、命の危険はなかったみたいだけど」

「野宿……」

 マチが、パクノダが“野宿”と言った途端、少し顔を歪めた。

 彼女は最近、シロノのためのかわいらしいベッドカバーを製作していた最中である。

 

「……なあ、どうすんだよ」

「どうすんだって言われても」

「コインで決めるとか?」

 さわさわと、困った様な表情の団員達が言いあう。

 シャルナークとパクノダ、マチ、ノブナガは、無言で延々クロロを睨みつけている。

 

 そしてそんな状態が三分も続いたかという時、耳をつんざく大声が響いた。

 

「ッだ────! 何なんだテメーら、まどろっこしい!」

「ぎゃあっ、何だよウボーいきなり! 鼓膜が破れる!」

 本気を出せば、大声だけで脳震盪を起こさせることも朝飯前なウボォーギンの大声に、ノブナガが文句を言う。

 ウボォーギンは丸太の様な脚で、コンクリートの床を踏みつけた。ビシッ、と盛大な音がして、蜘蛛の巣の様なヒビが床に広がる。

 

「役に立つとか立たねーとか、ぐだぐだ言ってんじゃねーよ、さっきからよ!」

「って……」

「気に入ったなら置く、気に入らねーなら追い出す、それでいいだろうが!」

 その言葉に、数人が目を丸くする。

「あんなチビがちょっと期待はずれだったからって、なにブチブチ文句たれてんだ、ケツの穴の小せえ話してんじゃねえ!」

「ウボー」

「例えあのチビがなんの役にも立たなかったとしてもだ、猫の一匹でも飼ったと思えばいい話だろうが。それとも何か、俺らは十何人もガン首揃えてチビ猫の面倒ひとつ見れねーってか」

 そう言って、ウボォーギンはどっかとその場に座り込んだ。

 

「俺はあのチビを気に入ってるぜ。おもしれーしな」

 

 終わり、と言わんばかりにそう言い切ったウボォーギンに、皆が呆気にとられた。

 しかしやがてそれぞれが彼の言った言葉を咀嚼し始め、そして顔を見合わせる。

 

「……ウボー、お前ってたまに物凄くいいこと言うよな」

 感心したように、ノブナガが言った。

「たまに、は余計だコラ。で、お前はどうなんだ?」

「おう、俺もお前の言う通りだと思うぜ。そんで俺もあいつを気に入ってる」

 ノブナガが言うと、ウボォーギンは、そうか、と言って、全く手入れをしていない髪をばりばりと掻いた。

 

「……そうだな。あんなちっこいのが居たところで邪魔になるわけじゃなし──」

「フィンクス」

「……………………わかったよ」

 パクノダに睨まれ、フィンクスはチッと舌打ちをしてから話しだす。

「……あァ、俺もチビを気に入ってるぜ。殺風景なアジトにおもしれーチビが一匹居るのもいいんじゃねーの」

「構ていて飽きないというのはワタシも同意見ね。アジトに居るときの暇つぶしには持てこいよ。それにワタシ、シロノに新しく編み出した拷問の仕方教える言てまだ教えてないね」

 フェイタンが言った。

 彼は定期的にシロノを拷問室に呼び出したりして、戦闘のみならず、拷問の仕方についてもよく教えている。

 ビビらないどころか積極的に質問して来る小さな生徒を、フェイタンは気に入っていた。

 以前はシロノの手を引いて外に出掛けていったことすらあって、子供連れで出掛けたというフェイタンに、全員が驚いたものだ。行き先が“世界拷問具博覧会”であったことと、そのうち何点かを盗んで帰って来たことは置いておくとしても。

 

「……アタシもまだベッドカバー縫ってないし。もう型紙作りまくっちゃったし」

「お前はどれだけあいつのものを作る気なんだ、マチ……」

 フランクリンが、苦笑した。

 シロノが来てからというもの、シロノの服やかばんやぬいぐるみなどは、全てマチが作っている。

 マチのクールな性格とはかなりかけ離れたファンシーな作品たちは団員達を驚かせたが、彼女自身はそういったものを身につける趣味はないものの、作る事自体は好き、らしい。

 シロノのものは全てがミニサイズなので、パっと思いついてパっと作るにはとても勝手がいいのだと言って、マチはシロノがここに来てから趣味を炸裂させているのだ。

「そう言うアンタはどうなのさ、フランクリン」

「俺か? ああ、わかりやすくて悩まねえ性格でいいと思うぜ。ガキが好きなわけじゃねえが、シロなら面倒見るのも苦じゃねえよ。ボノはどうだ?」

「素直で良い子だな。善悪抜きでああまでまっすぐな性質は珍しいと思う」

 

 こうしてだいたい意見が出切ったところで、シャルナークがくるりと身体を反転させ、クロロを見た。

「……ということだよ。あ、オレもシロのことは気に入ってるから。あとは団長だけだよ」

 シャルナークは完全にクロロに身体を向けて、しっかりと立った。

「シロノが使える使えないを抜きにして、団長はシロノをどう思ってるわけ?」

 全員の視線が、クロロに集まっている。

 

 クロロは、思考した。

 考えたこともないことだったので、いちから考えることにする。

 成長とともに能力がなくなる、つまり鍛えてもあまり意味がないかもしれないシロノを、たとえ何の役に立たなくなっても手元に置きたいかどうか。

 

「シロノを獲物だと思うなら、よけい簡単なことでしょ。気に入ってるかいないかだよ」

「直感だ、直感。ぐだぐだ考えるな団長」

 ウボォーギンが言った。

 

 クロロはゆっくりと瞬きをしてから、小さく息を吐いた。

 そして、顎に当てた手を下ろしたかと思うと、その手をシャルナークに差し出す。

 何かをねだるようなその手に、シャルナークはきょとんとした。

「何さ?」

「携帯。俺のは部屋に置いて来た」

 

 ──携帯は持ってってるんだろう、あいつ。

 

 そう言って手を差し出すクロロに、シャルナークは苦笑した。

「……なんだ、ちゃんと聞いてたんだ」

 シロノは、団員達に似せてマチが縫った服も、小さなぬいぐるみも、子供用の勉強セットも、全部置きっぱなしでここを出た。

 携帯を持っていったとは言わなかったが、シャルナークが作ってやった小さなピンクのウサギ電話は、部屋の中になかった。

 

 シャルナークはポケットの中から携帯電話を取り出すと、クロロの手に落とすように置いた。

 

 

 


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