きんいろモザイク~こいいろモザイク~   作:鉄夜

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第13話それぞれの夏休み(マリー編)

夏休み前、中等部校舎裏。

 

「好きです!付き合ってください!」

 

「ごめん、無理。」

 

この間、0.2であった。

 

マリーにピシャリと言い放たれた男は目に見えて落ち込みながらトボトボと教室に戻っていった。

 

物陰から見ていた友人達はマリー近づいて言う。

 

「これまたこっぴどく振ったねー。」

 

「あの子サッカー部で結構人気あるのに。

マリーのお眼鏡には叶わなかったか。」

 

そう言った友人に、マリーは仏教面で言う。

 

「たしかに有名なのは知ってるし、

顔もなかなかだと思う。」

 

「じゃあなんで?」

 

「私は彼のこと知らないし、大して仲良くない。

そんな相手と付き合おうと思う?」

 

「そりゃそうだけどさぁ。」

 

「よくわからないけど、

ああいうことをするならまず相手のことを知って仲良くなってからするものじゃないの?

その順序を飛び越えて一方的な感情でどうにかしようって人間を私は信用出来ない。」

 

「やだ超かっこいい付き合お?」

 

「こらこら。」

 

友人達は、楽しそうに笑ったあと。

 

「さすが、氷の女王だよね。」

 

いつものように、冗談めかしてそう言うのであった。

 

#####

 

夏休み。

 

数日に渡る北アルプス縦走から無事帰ってきたマリーは翌日、

 

剣道部の練習が終わり、帰路に就いていた。

 

(今日晩御飯どうしようかな。

なんか今日はいっぱい作りたい気分だし、

陽子姉と空太と美月呼んでご馳走に・・・ん?)

 

マリーは少女が男二人に言い寄られているのを見つけた。

 

「今1人なんでしょ?いいんじゃん別に。」

 

「何もしないからさぁ、ね?」

 

「え・・・えっと・・・その・・・。」

 

その様子を、マリーは冷静に分析する。

 

(うっわぁ、分かりやすいナンパ。

今時あんなの本当にいるんだ。

ていうかあの子、ウチの高等部の制服きてんじゃん・・・ってことは先輩か。

あのバックにラケットケース・・・テニス部?

部活帰りに捕まったか。)

 

一通り分析した後、

 

「まぁ、大丈夫っしょ。」

 

そう呟いて数歩進んだところで立ち止まる。

 

「・・・あぁもう!」

 

マリーは踵を返して少女に近づき、手を引いて自分の背後に隠すように男達の前に出る。

 

「・・・え?」

 

戸惑う少女の前で、マリーは男達を睨みつける。

 

「なに?この子の友達?

なら君も一緒に遊ばない?」

 

マリーは返事を返さずに、無言で睨み続ける。

 

「えっと・・・すいませんでした。」

 

あまりの気迫に、男達は立ち去っていった。

 

「あ・・・あの・・・。」

 

背後の少女に呼ばれ振り返ると、少女は頭を下げてきた。

 

「ありがとうございます、助かりました。」

 

「このあたりは基本的には治安いいですけど、ああいうのがたまに湧くんで気をつけてください。」

 

「はい、すいません・・・あの、お名前をお伺いしてもいいですか?」

 

「マリーです、工藤マリー。

中等部3年です。」

 

「松原穂乃花です。

高等部の1年生です。」

 

「敬語はやめませんか?

そっちの方が先輩なんですから。」

 

「そ・・・そうですね。

じゃなかった、そうだね。」

 

大人しそうな少女、穂乃花を見てマリーは、

 

(小動物みたいな人だな。)

 

と、思った。

 

「それじゃあ私はこれで。」

 

「あ、あの!」

 

立ち去ろうとするマリーの服の裾を穂乃果は掴んで引き止める。

 

「よかったら、お茶していかない!?」

 

「・・・まさかナンパから助けた相手からナンパされるとは思わなかったです。」

 

「ち・・・ちがうの!」

 

穂乃花は慌てて手を離すと、顔を真っ赤にしてあたふたとしながら言う。

 

「そういうのじゃなくて!

さっきのお礼って言うかその・・・本当にやましい気持ちはないから!」

 

「落ち着いてください、逆に怪しくなってますよ。」

 

「あう////」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがっている穂乃花に、マリーは淡々と言う。

 

「ご好意はありがたいですが、

別に見返りを求めてやったわけじゃありませんから。」

 

「で・・・でもなにかお礼をしないとこっちの気が済まないよ。」

 

「ですが・・・。」

 

断ろうとするマリーに、穂乃花は少し顔を俯かせて上目遣いで言う。

 

「だめ・・・かな・・・。」

 

マリーは少し考えて、

 

「分かりました、お願いします。」

 

マリーがそう言うと、穂乃花は花のような笑顔を咲かせた。

 

「それじゃあこっち!こっちにおすすめのカフェgきゃあ!」

 

マリーは転けそうになった穂乃花の手を掴む。

 

「少し落ち着きましょう」

 

「ご・・・ごめん。」

 

#####

 

マリーは穂乃花おすすめのカフェでテラス席に座る。

 

「ここのケーキ、すごく美味しいの。」

 

「へぇ、そうなんですか。」

 

マリーはメニューを開いて中を見る。

 

(本当に美味しそう。

なんて言うか女子って感じだなぁ。)

 

マリーは対面に座る穂乃花を目だけを動かして見る。

 

穂乃花はウキウキとしながらメニューを見ていた。

 

その様子を見てマリーは本当に歳上なんだろうかと少し思った。

 

それから少し経って。

 

「決まった?」

 

「はい。」

 

「じゃあ注文しよっか。

すいませーん。」

 

穂乃花が呼ぶと、店員が来て注文を取り始める。

 

「私はチーズケーキとオレンジジュース。

マリーちゃんは?」

 

「私はチョコレートケーキとホットコーヒー

ブラックで。」

 

「ブラッ!?」

 

「かしこまりました、少々お待ちください。」

 

店員が立ち去ると、穂乃果は驚いた様子で聞く。

「コーヒー・・・ブラックで飲むの?」

 

「はい。」

 

「大人だね!」

 

まるでヒーローを見るかのようにキラキラとした瞳でそう言われ、マリーは少々戸惑った。

 

「そうですか?

兄貴にはよくマセてるって言われるんですけど。」

 

「兄貴・・・。」

 

「どうかしましたか?」

 

マリーが首をかしげて聞くと、穂乃果は言う。

 

「マリーちゃんのお兄さんって、工藤エレン君だよね?」

 

「兄貴のこと知ってるんですか?」

 

「うん、すごく有名だもん。

イケメンで彼女とすごくラブラブだって。」

 

「・・・やっぱりあの二人は学校でも通常運転か。」

 

少し恥ずかしそうにしながら、マリーは思い出していた。

 

「ひょっとして穂乃花さんって、

カレン姉に餌付けしてる穂乃花さん?」

 

「餌付け!?」

 

「偶にカレン姉が大量にお菓子もってきては、『ホノカにもらいまシター』ってはしゃいでるんで。」

 

「で・・・でも別に餌付けしてるわけじゃないもん!」

 

「傍から見たらそう見えますよ?」

 

「うぅ・・・マリーちゃん意地悪だよぉ。」

 

「でも、こうやって名前しか聞いたことが無い人とこうやってお茶してるなんて。」

 

抗議の目を向ける穂乃花に、

 

「世の中って、本当に狭いですよね。」

 

楽しそうに微笑んで言った。

 

「・・・かわいい。」

 

「は?」

 

穂乃花はガタッと立ち上がって前のめりになる。

 

「マリーちゃん!笑うとすごく可愛い!」

 

「な・・・なんですか急に。」

 

「もう1回!もう1回笑って!

スマホで撮るから!」

 

「撮ってどうするんですか?」

 

「カレンちゃんに贈る。」

 

「断固拒否します。」

 

「えー。」

 

何故かしょぼんとする穂乃花を見て、マリーの頬は自然に緩んでいた。

 

#####

 

ケーキを食べ終えた二人は、穂乃花の家の近くまで一緒に歩いてきた。

 

「それじゃあ私はここで、

ケーキありがとうございました、

美味しかったです。」

 

「私もすごく楽しかった!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

2人に謎の沈黙が生まれる。

 

「そ・・・それじゃあ。」

 

「う・・・うん。」

 

二人は背中を向けて歩き出した。

 

マリーは、思った。

 

このまま終わりにしていいのかと。

 

穂乃花といた時間はとても短い。

 

だがその時間はマリーにとって心地よいものだった。

 

(これで終わりにしたくない。)

 

そう思ったマリーは、振り返って声をかける。

 

「あの!」

「あの!」

 

まるで示し合わせたかのように、こっちを振り向いた穂乃花と声が重なった。

 

それがおかしくて、二人は声を出して笑った。

 

そして2人は再び距離を詰める。

 

「あの、よければ連絡先交換しませんか。

これからも2人で遊びたいですし。」

 

そういったマリーに、穂乃花は微笑む。

 

「私も、同じ事考えてた。

これから宜しくね、マリーちゃん。」

 

「はい、こちらこそ。」

 

この出会いを大切にしよう、マリーは心の底からそう思った。


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