きんいろモザイク~こいいろモザイク~   作:鉄夜

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第10話それぞれの夏休み(アリス・隼人編)

大宮家に、電話の音が鳴り響いた。

 

忍が受話器をとる。

 

「はい、もしもし、大宮です。

あ、はい、分かりました。

アリスー?」

 

「なに?シノ?」

 

アリスが居間から顔だけだす。

 

「隼人君からお電話ですよ?」

 

「え!?ハヤトから!?」

 

アリスは忍から電話を受け取ると何故か一度深呼吸をする。

 

「も、もしもしハヤト?」

 

『アリスか?

すまないなせっかくの休日に。』

 

「ううん、いいよ、別に用事もなかったし。

それでどうかしたの?」

 

『夏休みの前に、アリスには色々と面倒をかけたからな。

そのわびといってはなんだが、水族館のペアチケットが福引で当たってな。

明日にでも一緒にどうだ?』

 

「水族館?」

 

『あぁ・・・嫌なら別にいいんだg』

 

「行く!絶対行く!」

 

『そうか、なら明日の10時くらいに迎えに行っていいか?』

 

「うん!待ってる!」

 

『喜んでくれて何よりだ、それじゃあな。』

 

電話が切れると、アリスは受話器を電話に置いて、今にも小躍りしそうな笑顔を浮かべた。

 

しかし、こちらをニコニコと見つめる忍を見て、顔を真っ赤にして固まった。

 

「ふふふ、隼人くんとデートですか?

よかったですねぇ。」

 

「ち・・・ちが・・・そんなんじゃなくて!」

 

「隠さなくてもいいんですよ?

隼人くんのこと、好きなんですよね?」

 

忍の質問に、アリスは顔を赤くしながらコクリと頷いた。

 

「じゃあ明日はいっぱいお洒落しなきゃですね。」

 

「お洒落・・・そ・・・そうだ!

明日どんな服着ていこう!

子供っぽいと思われたらいやだし・・・どうしよう!」

 

「大丈夫ですよアリス!私に任せてください!」

 

「シノに?」

 

アリスは忍が今まで自分に着せた服を思い出していた。

 

「シノ、ソウイウノ、イイカラ。」

 

「カタコト!?」

 

アリスの対応に、忍が涙目になっていると、

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

忍の姉である大宮勇が『バーンッ!』という効果音がなりそうなポーズで現れた。

 

「お姉ちゃん!」

「イサミ!」

 

勇は、壁にもたれて腕を組みながら言う。

 

「そういうことなら私に任せなさいアリス。

私がデート用の服を見繕ってあげるわ。」

 

「いいの!?」

 

「ええ、可愛いアリスのためだもの。」

 

「イサミいいいい!」

 

アリスは勇に抱きついて喜んだ。

 

それを見ていた忍は、涙目になりながら陽子に電話をかける。

 

「陽子ちゃぁぁぁん!」

 

『ど、どうした?シノ。』

 

「アリスがお姉ちゃんに取られちゃいますぅぅぅ!」

 

『お、おう。』

 

マジ泣きするシノに、電話の向こうの陽子は戸惑っていた。

 

#####

 

シノと電話で会話している陽子を横目で見ながら、エレンは隼人と通話していた。

 

『アリスに告白しようと思うんだが、どうすればいいと思う?』

 

「クソして寝な。」

 

隼人の質問に、エレンはめんどくさそうに答える。

 

『・・・真剣に話してるんだが。』

 

「てめぇは急に何を言い出してんだ。

なんだ?目覚めたのか?

ロリコンは島流しだぞ?」

 

『いや、別に特殊な性癖に目覚めたとかじゃなくてだなぁ。

というかお前の中の法律厳しすぎないか?』

 

「まぁ、冗談はともかく。

お前俺にそれ聞いてどうすんだよ。」

 

『いや、先駆者としてアドバイスをだな。』

 

「アドバイスっつってもなぁ。

・・・変に気取らないで思ってることぶちまけるしかねぇんじゃねぇか?」

 

『それだけでいいのか?』

 

「当たり前だろ。

本当の気持ちは面と向かって口にしてこそ伝わるんだよ。

手紙や電話なんかじゃ伝わらないこともある。」

 

『・・・』

 

「本気で惚れてんだろ?アリスに。」

 

『ああ。』

 

「その気持ちに嘘偽りなんてないんだろ。」

 

『もちろんだ。』

 

「誰にも負けないくらい自信があるんだろ。」

 

『当然だ。』

 

隼人はしばしの沈黙のあと、力のこもった言葉で言う。

 

『アリスを・・・愛している。』

 

その言葉に、エレンはフッと笑う。

 

「なら気張れ、粉々に砕け散っても後悔のないように全力でぶつかってこい。」

 

『・・・ありがとう。

やはりお前に聞いて正解だった。』

 

「そうかい、じゃあな。」

 

エレンが電話を切って、一度大きく息を吐く。

 

視線に気づき、横を向くと。

 

「(<●>ω<●>)」

 

陽子が肘掛から顔を覗かせてエレンをじーっと見つめていた。

 

「なんだよ。」

 

「(<●>ω<●>)口にしなきゃ伝わらないことがあるとかなんとか、どの口が言ってるんですかねぇ。」

 

「俺はちゃんと口で伝えてんだろ。」

 

「(<●>ω<●>)セクハラ発言は気持ちを伝えったってことにはなりません。

ちゃんと好きって言ってください。」

 

「たまに言ってんだろ、後その顔やめろ腹立つ。」

 

「私は毎日言ってんだろ!」

 

「そういうのはたまに言うからいいんだよ。

いわばレアガチャなんだよ。

100連回して出るか出ないかがいいんだろうが。」

 

「なんだよそれ!私はノーマルガチャってか!?

それともなんだ!課金すればいいのか!

いくら貢げばいいんだこの野郎!」

 

「その言い方やめろ!

俺がクズみてぇだろ!」

 

「彼女とのアレコレをソシャゲのガチャに例える時点でクズじゃね?」

 

「それな。」

 

「分かってるならやるなよ!」

 

ウガー!と吠える陽子の頭を、エレンは爆笑しながら撫でた。

 

#####

 

翌日。

 

忍の家に着いた隼人がインターホンを鳴らす。

 

「ハーイ!」

 

元気な声を上げて、アリスが扉を開ける。

 

「アリス、またせた・・・な。」

 

隼人は、お洒落をして出てきアリスに見蕩れてしまった。

 

「な・・・なに?//////」

 

「あー、すまん。

てっきりシノが選んだ服で来ると思っていたからな・・・よく似合ってるぞ、アリス。」

 

アリスは顔を真っ赤にしながらも答える。

 

「た・・・.確かにシノの選んだ服も可愛いとは思うけど・・・でも男の子とお出かけだし・・・ちゃんとしたかったから。」

 

「・・・そうか。」

 

隼人はニッコリと微笑むと、片手を差し出した。

 

「なら俺も、しっかりエスコートをしないとな。」

 

差出された手を、アリスは照れながらも微笑んで握った。

 

#####

 

「わー!すっごーい!」

 

トンネル水槽の中を泳ぐ魚達を見て、アリスは大いにはしゃいでいた。

 

「いろんな魚がいて綺麗だね!ハヤト!」

 

そんなアリスを隼人はニコニコと笑顔で見ていた。

 

「どうしたの?隼人。」

 

「いや、そこまではしゃいでくれるなら、連れてきたかいがあったなぁと思ってな。」

 

「え!?いや!あの・・・これは・・・//////」

 

「恥ずかしがることはないと思うぞ、

誰でもはしゃぎたい時ははしゃぐものだ。

ほら、見てみろ。」

 

隼人が指を指した方向に目をやると、

 

「うっはぁ!すげぇっすよ綾!

いろんな魚がよりどりみどりっす!」

 

「ちょ・・・ちょっと賢治!

はしゃぎすぎよ。」

 

どこかで見た2人組が騒いでいた。

 

「はしゃいでるのはお前だけじゃないみたいだぞ。」

 

「いや、アヤめちゃくちゃ恥ずかしそうにしてるよ!?

あ・・・引きずってかれた。」

 

「あれは説教コースだな。

まぁとにかくあまり気にするな。

アリスに楽しんでもらうために連れてきたんだから。」

 

「・・・うん。

ありがと、ハヤト。」

 

二人は再び歩き出し、館内を見て回る。

 

しばらくすると、周りからささやき声が聞こえてくる。

 

「ねぇねぇ、あの背が高い人かっこよくない?」

 

「本当だ、ちょっと顔怖いけどカッコいいかも。」

 

どうやら隼人のことを話しているようだった。

 

(すごいなぁ、やっぱり隼人ってモテるんだ・・・。)

 

アリスは何気なく耳を傾けていた。

 

「一緒にいる子って妹かな。」

 

「え?でも外国人っぽいよ?」

 

「ハーフとかじゃない?」

 

その言葉が、不意にアリスの心に突き刺さる。

 

(そっか・・・そうだよね。

大きくて大人っぽくてカッコいい隼人に比べると、私って妹に見えちゃうよね。)

 

アリスは、服の裾を強く握る。

 

(私なんかが隼人と付き合いたいなんて・・・夢見すぎだよね。)

 

アリスが思い悩んでいると。

 

「アリス、見てみろ。」

 

「・・・うわぁ。」

 

隼人に促されて顔を動かすと、そこにな巨大な水槽があった。

 

中では、小さな魚が群れをなして動いており、1匹の巨大な生き物のように蠢いていた。

 

しかし、それよりも目を引くのは、その魚達の周りを悠々と泳ぐ巨大なジンベエザメだった。

 

アリスは、幻想的な光景にしばし見とれてから呟く。

 

「ねぇ、隼人。」

 

「なんだ?」

 

「地球にはたくさんの生き物がいるんだよね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「・・・なら、私達が人間として生まれてきたのは、奇跡なのかもしれないね。」

 

こちらに笑顔を向けるアリスに、隼人は水槽を見つめながら微笑んで言う。

 

「なら、こうやって俺達が出会えたのも奇跡・・・だな。」

 

「・・・え?」

 

隼人は真剣な顔をアリスに向けて言う。

 

「アリス、愛している、俺と付き合ってくれないか。」

 

その言葉にアリスは信じられないという顔をする。

 

「嘘・・・嘘だよ。

だって私、隼人と比べてチンチクリンだし!

子供っぽいし!」

 

「アリス。」

 

「それに・・・!」

 

「アリス!」

 

少し強めな隼人の声に、アリスは一瞬体をびく吐かせるが、すぐに隼人と目を合わせる。

 

隼人は跪くとアリスの手を取り目を見つめる。

 

「俺の好きになった女性(ひと)を悪く言うのはやめてくれ。」

 

「・・・」

 

「アリスはたしかに小さいかもしれない。

少し子供っぽいところもある。

だが・・・そんなものと比べ物にならないほどの強さと優しさを持っている。」

 

「そんなことない。」

 

「あるさ。

この間俺がバットで殴られそうになった時、

体を張って助けようとしてくれたじゃないか。」

 

「でも・・・そのせいで隼人に怪我をさせちゃったし。」

 

「それだけじゃない。

馬鹿な考えを持っていた俺を叱りつけてくれただろう?」

 

「それは・・・」

 

言いよどむアリスに、隼人は続ける。

 

「あの言葉で俺は自分を見つめ直すことが出来た。

お前のおかげて救われたんだ。

その時に思ったんだ、そんなお前にそばにいて欲しいと。

そして・・・可能ならこの手で守りたいと思った。」

 

隼人はアリスの目をまっすぐ見据える。

 

「アリス、俺にとってお前は、

強い意志と優しい心を持った、

世界でただ1人、この身を賭して守りたいと思える、そんな女性だ。

そんなお前を俺は・・・。」

 

隼人は少し間を開けると。

 

「心の底から、愛している。」

 

はっきりとそう言った。

 

「・・・いいの?」

 

「何がだ?」

 

アリスは微かに震える声で言う。

 

「私、ハヤトが思ってるほどいい子じゃないよ?」

 

「かまわない。」

「わがままだって言うよ?

いっぱい迷惑だってかけるよ?」

 

「望むところだ。」

 

「・・・」

 

アリスの顔が赤く染まり、目尻に涙が浮かぶ。

 

「私も好き・・・ハヤトが大好き!」

 

首に手を回して抱きついてきたアリスの体を、

隼人は優しぐ抱きしめる。

 

「よかったぁ〜」

 

それと同時に隼人は脱力する。

 

「な・・・なにが?」

 

「実のところ・・・振られるんじゃないかと不安だった。」

 

「あはは、なんかハヤトかっこ悪い。」

 

「その通りだ、俺だってお前が思ってるほどかっこいい人間じゃない。

だから・・・これからもっと俺を知ってくれると嬉しい。」

 

「うん、きっと私、どんなハヤトでも好きになれる気がする。」

 

満面の笑みでアリスがそう言うと、

隼人は照れながら口を抑えて顔を収める。

 

「・・・なるほどな、エレンが陽子に執心なのも頷ける。」

 

「どうしたの?、ハヤト。」

 

「何でもない。

アリス、せっかく来たんだ、もっと見て回るか。」

 

「うん!」

 

隼人とアリスは手を繋ぐと、仲良く歩き出した。


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