大宮家に、電話の音が鳴り響いた。
忍が受話器をとる。
「はい、もしもし、大宮です。
あ、はい、分かりました。
アリスー?」
「なに?シノ?」
アリスが居間から顔だけだす。
「隼人君からお電話ですよ?」
「え!?ハヤトから!?」
アリスは忍から電話を受け取ると何故か一度深呼吸をする。
「も、もしもしハヤト?」
『アリスか?
すまないなせっかくの休日に。』
「ううん、いいよ、別に用事もなかったし。
それでどうかしたの?」
『夏休みの前に、アリスには色々と面倒をかけたからな。
そのわびといってはなんだが、水族館のペアチケットが福引で当たってな。
明日にでも一緒にどうだ?』
「水族館?」
『あぁ・・・嫌なら別にいいんだg』
「行く!絶対行く!」
『そうか、なら明日の10時くらいに迎えに行っていいか?』
「うん!待ってる!」
『喜んでくれて何よりだ、それじゃあな。』
電話が切れると、アリスは受話器を電話に置いて、今にも小躍りしそうな笑顔を浮かべた。
しかし、こちらをニコニコと見つめる忍を見て、顔を真っ赤にして固まった。
「ふふふ、隼人くんとデートですか?
よかったですねぇ。」
「ち・・・ちが・・・そんなんじゃなくて!」
「隠さなくてもいいんですよ?
隼人くんのこと、好きなんですよね?」
忍の質問に、アリスは顔を赤くしながらコクリと頷いた。
「じゃあ明日はいっぱいお洒落しなきゃですね。」
「お洒落・・・そ・・・そうだ!
明日どんな服着ていこう!
子供っぽいと思われたらいやだし・・・どうしよう!」
「大丈夫ですよアリス!私に任せてください!」
「シノに?」
アリスは忍が今まで自分に着せた服を思い出していた。
「シノ、ソウイウノ、イイカラ。」
「カタコト!?」
アリスの対応に、忍が涙目になっていると、
「話は聞かせてもらったわ!」
忍の姉である大宮勇が『バーンッ!』という効果音がなりそうなポーズで現れた。
「お姉ちゃん!」
「イサミ!」
勇は、壁にもたれて腕を組みながら言う。
「そういうことなら私に任せなさいアリス。
私がデート用の服を見繕ってあげるわ。」
「いいの!?」
「ええ、可愛いアリスのためだもの。」
「イサミいいいい!」
アリスは勇に抱きついて喜んだ。
それを見ていた忍は、涙目になりながら陽子に電話をかける。
「陽子ちゃぁぁぁん!」
『ど、どうした?シノ。』
「アリスがお姉ちゃんに取られちゃいますぅぅぅ!」
『お、おう。』
マジ泣きするシノに、電話の向こうの陽子は戸惑っていた。
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シノと電話で会話している陽子を横目で見ながら、エレンは隼人と通話していた。
『アリスに告白しようと思うんだが、どうすればいいと思う?』
「クソして寝な。」
隼人の質問に、エレンはめんどくさそうに答える。
『・・・真剣に話してるんだが。』
「てめぇは急に何を言い出してんだ。
なんだ?目覚めたのか?
ロリコンは島流しだぞ?」
『いや、別に特殊な性癖に目覚めたとかじゃなくてだなぁ。
というかお前の中の法律厳しすぎないか?』
「まぁ、冗談はともかく。
お前俺にそれ聞いてどうすんだよ。」
『いや、先駆者としてアドバイスをだな。』
「アドバイスっつってもなぁ。
・・・変に気取らないで思ってることぶちまけるしかねぇんじゃねぇか?」
『それだけでいいのか?』
「当たり前だろ。
本当の気持ちは面と向かって口にしてこそ伝わるんだよ。
手紙や電話なんかじゃ伝わらないこともある。」
『・・・』
「本気で惚れてんだろ?アリスに。」
『ああ。』
「その気持ちに嘘偽りなんてないんだろ。」
『もちろんだ。』
「誰にも負けないくらい自信があるんだろ。」
『当然だ。』
隼人はしばしの沈黙のあと、力のこもった言葉で言う。
『アリスを・・・愛している。』
その言葉に、エレンはフッと笑う。
「なら気張れ、粉々に砕け散っても後悔のないように全力でぶつかってこい。」
『・・・ありがとう。
やはりお前に聞いて正解だった。』
「そうかい、じゃあな。」
エレンが電話を切って、一度大きく息を吐く。
視線に気づき、横を向くと。
「(<●>ω<●>)」
陽子が肘掛から顔を覗かせてエレンをじーっと見つめていた。
「なんだよ。」
「(<●>ω<●>)口にしなきゃ伝わらないことがあるとかなんとか、どの口が言ってるんですかねぇ。」
「俺はちゃんと口で伝えてんだろ。」
「(<●>ω<●>)セクハラ発言は気持ちを伝えったってことにはなりません。
ちゃんと好きって言ってください。」
「たまに言ってんだろ、後その顔やめろ腹立つ。」
「私は毎日言ってんだろ!」
「そういうのはたまに言うからいいんだよ。
いわばレアガチャなんだよ。
100連回して出るか出ないかがいいんだろうが。」
「なんだよそれ!私はノーマルガチャってか!?
それともなんだ!課金すればいいのか!
いくら貢げばいいんだこの野郎!」
「その言い方やめろ!
俺がクズみてぇだろ!」
「彼女とのアレコレをソシャゲのガチャに例える時点でクズじゃね?」
「それな。」
「分かってるならやるなよ!」
ウガー!と吠える陽子の頭を、エレンは爆笑しながら撫でた。
#####
翌日。
忍の家に着いた隼人がインターホンを鳴らす。
「ハーイ!」
元気な声を上げて、アリスが扉を開ける。
「アリス、またせた・・・な。」
隼人は、お洒落をして出てきアリスに見蕩れてしまった。
「な・・・なに?//////」
「あー、すまん。
てっきりシノが選んだ服で来ると思っていたからな・・・よく似合ってるぞ、アリス。」
アリスは顔を真っ赤にしながらも答える。
「た・・・.確かにシノの選んだ服も可愛いとは思うけど・・・でも男の子とお出かけだし・・・ちゃんとしたかったから。」
「・・・そうか。」
隼人はニッコリと微笑むと、片手を差し出した。
「なら俺も、しっかりエスコートをしないとな。」
差出された手を、アリスは照れながらも微笑んで握った。
#####
「わー!すっごーい!」
トンネル水槽の中を泳ぐ魚達を見て、アリスは大いにはしゃいでいた。
「いろんな魚がいて綺麗だね!ハヤト!」
そんなアリスを隼人はニコニコと笑顔で見ていた。
「どうしたの?隼人。」
「いや、そこまではしゃいでくれるなら、連れてきたかいがあったなぁと思ってな。」
「え!?いや!あの・・・これは・・・//////」
「恥ずかしがることはないと思うぞ、
誰でもはしゃぎたい時ははしゃぐものだ。
ほら、見てみろ。」
隼人が指を指した方向に目をやると、
「うっはぁ!すげぇっすよ綾!
いろんな魚がよりどりみどりっす!」
「ちょ・・・ちょっと賢治!
はしゃぎすぎよ。」
どこかで見た2人組が騒いでいた。
「はしゃいでるのはお前だけじゃないみたいだぞ。」
「いや、アヤめちゃくちゃ恥ずかしそうにしてるよ!?
あ・・・引きずってかれた。」
「あれは説教コースだな。
まぁとにかくあまり気にするな。
アリスに楽しんでもらうために連れてきたんだから。」
「・・・うん。
ありがと、ハヤト。」
二人は再び歩き出し、館内を見て回る。
しばらくすると、周りからささやき声が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、あの背が高い人かっこよくない?」
「本当だ、ちょっと顔怖いけどカッコいいかも。」
どうやら隼人のことを話しているようだった。
(すごいなぁ、やっぱり隼人ってモテるんだ・・・。)
アリスは何気なく耳を傾けていた。
「一緒にいる子って妹かな。」
「え?でも外国人っぽいよ?」
「ハーフとかじゃない?」
その言葉が、不意にアリスの心に突き刺さる。
(そっか・・・そうだよね。
大きくて大人っぽくてカッコいい隼人に比べると、私って妹に見えちゃうよね。)
アリスは、服の裾を強く握る。
(私なんかが隼人と付き合いたいなんて・・・夢見すぎだよね。)
アリスが思い悩んでいると。
「アリス、見てみろ。」
「・・・うわぁ。」
隼人に促されて顔を動かすと、そこにな巨大な水槽があった。
中では、小さな魚が群れをなして動いており、1匹の巨大な生き物のように蠢いていた。
しかし、それよりも目を引くのは、その魚達の周りを悠々と泳ぐ巨大なジンベエザメだった。
アリスは、幻想的な光景にしばし見とれてから呟く。
「ねぇ、隼人。」
「なんだ?」
「地球にはたくさんの生き物がいるんだよね。」
「ああ、そうだな。」
「・・・なら、私達が人間として生まれてきたのは、奇跡なのかもしれないね。」
こちらに笑顔を向けるアリスに、隼人は水槽を見つめながら微笑んで言う。
「なら、こうやって俺達が出会えたのも奇跡・・・だな。」
「・・・え?」
隼人は真剣な顔をアリスに向けて言う。
「アリス、愛している、俺と付き合ってくれないか。」
その言葉にアリスは信じられないという顔をする。
「嘘・・・嘘だよ。
だって私、隼人と比べてチンチクリンだし!
子供っぽいし!」
「アリス。」
「それに・・・!」
「アリス!」
少し強めな隼人の声に、アリスは一瞬体をびく吐かせるが、すぐに隼人と目を合わせる。
隼人は跪くとアリスの手を取り目を見つめる。
「俺の好きになった
「・・・」
「アリスはたしかに小さいかもしれない。
少し子供っぽいところもある。
だが・・・そんなものと比べ物にならないほどの強さと優しさを持っている。」
「そんなことない。」
「あるさ。
この間俺がバットで殴られそうになった時、
体を張って助けようとしてくれたじゃないか。」
「でも・・・そのせいで隼人に怪我をさせちゃったし。」
「それだけじゃない。
馬鹿な考えを持っていた俺を叱りつけてくれただろう?」
「それは・・・」
言いよどむアリスに、隼人は続ける。
「あの言葉で俺は自分を見つめ直すことが出来た。
お前のおかげて救われたんだ。
その時に思ったんだ、そんなお前にそばにいて欲しいと。
そして・・・可能ならこの手で守りたいと思った。」
隼人はアリスの目をまっすぐ見据える。
「アリス、俺にとってお前は、
強い意志と優しい心を持った、
世界でただ1人、この身を賭して守りたいと思える、そんな女性だ。
そんなお前を俺は・・・。」
隼人は少し間を開けると。
「心の底から、愛している。」
はっきりとそう言った。
「・・・いいの?」
「何がだ?」
アリスは微かに震える声で言う。
「私、ハヤトが思ってるほどいい子じゃないよ?」
「かまわない。」
「わがままだって言うよ?
いっぱい迷惑だってかけるよ?」
「望むところだ。」
「・・・」
アリスの顔が赤く染まり、目尻に涙が浮かぶ。
「私も好き・・・ハヤトが大好き!」
首に手を回して抱きついてきたアリスの体を、
隼人は優しぐ抱きしめる。
「よかったぁ〜」
それと同時に隼人は脱力する。
「な・・・なにが?」
「実のところ・・・振られるんじゃないかと不安だった。」
「あはは、なんかハヤトかっこ悪い。」
「その通りだ、俺だってお前が思ってるほどかっこいい人間じゃない。
だから・・・これからもっと俺を知ってくれると嬉しい。」
「うん、きっと私、どんなハヤトでも好きになれる気がする。」
満面の笑みでアリスがそう言うと、
隼人は照れながら口を抑えて顔を収める。
「・・・なるほどな、エレンが陽子に執心なのも頷ける。」
「どうしたの?、ハヤト。」
「何でもない。
アリス、せっかく来たんだ、もっと見て回るか。」
「うん!」
隼人とアリスは手を繋ぐと、仲良く歩き出した。