翌日ーー
幸いにも運転手に怪我はなく、今回の騒動は事故として治められることになった。あくまで……今は。
「なのは大丈夫⁉︎ 怪我はない⁉︎」
事情聴取や事態の収拾のため、学院に登校したのは昼からだったので、予想以上に心配されたようだ。
「うん、大丈夫だよフェイトちゃん。 レン君が助けてくれたから」
「そう、よかったわ」
「ご無事でなによりです」
「はああ……連絡をもらった時は本当にビックリしたんだから」
「すまんな、こっちも事態を治めるのを優先したから、その後の連絡を後回しにしちまってた」
「でも、2人共大したこともなくて本当に安心したよ」
皆は俺となのはの無事を確認できてホッとしている。
「でも……さすがに驚いたよ。 まさか、あの“占い”が現実になるなんて……」
「さすがに的中しすぎていて不気味やなぁ……」
「にゃはは……さすがに偶然だよ。 皆も占いは占いって言ってたよね」
「確かに、どう考えてもあり得ないな」
「……ああ、あり得るわけがない」
普通に考えれば、まずそんなことはあり得ない。だが………俺はアリサ、すずか、アリシアと顔を合わせると、目が合い頷く。 どうやら3人共同じ考えのようだ。
それから通常通りに授業を受け。放課後になり、なのは達に断りを入れて。俺達、異界対策課の4人は屋上に集まった。
「神様のいうとおり……レビューを見る限りでもよく当たるって書いてある。 けど、今回の事故はさすがにおかしいね」
「ああ……どう考えてもな」
「一般的に広まっている占いには、“広く解釈の利く言葉”が意図的に使われていることが多いわ」
「でも、今回の場合は“事故”じゃなくて、“交通事故”と明言されている……これはどちらかといえば“予言”に近いね」
「予言……か」
「問題は、昨晩の事故に……異界が関わっているかどうかだ」
昨日のうちに車や辺りを調べたが、異界や怪異の痕跡は見つからなかったが……可能性は否定できない。 それが非常識が当たり前の異界の世界なのだから。
「正直、まだ情報が少な過ぎて断定は出来ないけど。 ただ……少なくとも何かあるのは間違いないね」
「確かにそうね。 経験上、こういうのは何かあるわ」
「証拠は見つからなかったが……俺もそう思う」
「私もそう思うよ。 けど……情報もほとんどないし、まずは取っ掛かりが欲しいけど……」
今ある情報は神様のいうとおりが関わっていること、それだけでは前に進めない。
(そういえば、昨日神様アプリが話題になって雑談していた時確か……)
「そういえば昨日、リヴァンが言っていたよな。 神様アプリは、この学院の生徒の誰かが作ったとか」
「あ、確かに言っていたね」
「不確かな情報かもしれないけど……異界絡みだと取っ掛かりとしては悪くないわね」
「そうだね、調べていく内にまた何か分かるかもしれないし」
「よし、それじゃあ捜査開始だ」
「おおぉっ!」 「ええ!」 「うん!」
まずは学院の神様アプリを使用している生徒から情報を集めた。 どうやらなのは以外にもあの不気味な通知があった生徒が何人もいて、全員がその通知通りに不幸な出来事にあっていた。 共通点としては機械の誤作動などがあり怪我をしたというのがあった、昨日の車の事故も運転手にやればカーナビの誤作動と言っていたため捨て置けない情報だが……どれも開発者を特定するにはまだ足りず、異界の関連性もまだ確証を得ない。
「なかなか見つからないね?」
「ふう、どうやら一筋縄では行かないようだ」
「何か決定的な確証が欲しい所だけど……」
学生会館前で全員で頭を悩ませている時、会館の扉が開いてフィアット会長が出てきた。
「あれ? レンヤ君達どうかしたの?」
「会長……少し捜査が行き詰まっていまして」
「フィアット会長は、神様アプリの開発者が誰なのかご存知ですか?」
すずかが一応とフィアット会長に神様アプリの事を聞いてみた。
「それって最近噂のよく当たるっていう占いアプリのこと? 確かに開発者はこの学院の生徒って噂だけど、それが誰なのかまではちょっと分からないかな」
「そうですか……」
「そういえばフィアット会長はもう帰りですか?」
「ううん、これから首都に行くんだ。 不登校になっている生徒の家に行かないといけないの」
「不登校って……そんな人がいるんですか?」
「なんでも入学当初からほとんど出席していないそうなんだよ。 これからその子の家まで行って確認しに行くんだ」
また、大変な仕事を1人でやっているなこの人。 そういえば、新VII組のメンバーが1人が入学式以降来ていないと担任から聞いていたような……
「フィアット会長、会長も忙しいのですからそこは生徒会役員や代理人を派遣すればいいことじゃないですか。 何も会長ご自身行く必要は無いんですよ」
「あはは、そうなんだけどね」
「それにしても……苦労して入学したのに、そんな人がいるのね」
「それも含め確認しに行くの。 それじゃあ皆も頑張ってーー」
フィアット会長が一歩前に進むといきなりつまずき、転んだ。
「あいたた……」
「大丈夫ですか?」
「あ、あはは……ごめんね、アリシアちゃん」
フィアット会長はアリシアに手を貸してもらい立ち上がると、フィアット会長のカバンから封筒が落ちた。
「これは……?」
「それを、今からその子に渡しに行くんだ」
「なるほど……、‼︎」
すずかが封筒の宛名が書かれた部分を読むと、驚いた顔になった。
「すずか、どうかしたの?」
「アリサちゃん、この名前……」
「なになに、サーシャ・エクリプス……エクリプス?」
「もしかして、
「ミッドチルダで有名な天才ハッカーだな」
偶然かもしれないが、もしかしたらエクリプスが開発者かもしれない。
「……会長、お願いが「いいよ」あって……っていいんですか⁉︎」
「か、会長……さすがに理由も聞かないで了承するのは……」
「レンヤ君達だからだよ。 何の理由もなしに頼むわけがないし、なにより信用しているから!」
フィアット会長は笑顔でそう答えた。
「フィアット会長……」
「ありがとうございます」
「困った時は遠慮しないでどんどん頼んでね、皆にはお世話になりっぱなしだから。 正式に生徒会からの依頼をします、その封筒をサーシャさんに渡してください。 場所は西部にある記念公園の一角にあるタワーマンション……よろしくお願いするね」
「はい、分かりました」
フィアット会長は笑顔で頷くと、学生会館に入って行った。
「さすがに無理を言わせちゃったかな?」
「そのうちお礼をしておかないとな」
「ともかく、これで有力な手掛かりが得られたわね。 記念公園の外れにあるタワーマンション……さっそく行ってみましょう」
「うん!」
心の中で改めてフィアット会長にお礼を言いながら、異界対策課の専用車で西部にある記念公園に向かった。
「ここに全員で来るのも久しぶりね」
「あの時は霧で視界が悪かったし、それどころじゃなかったけど……」
「そうだな。 さて……タワーマンションは」
「あそこじゃないかな? この辺りで1番高い建物だし」
アリシアの指した建物は周りの建物と比べられないくらいの高さを誇っていた。 門の前に来ると改めてその高さを感じる。
「近くで見ると本当に高いねぇ」
「依頼で何回か入ったことがあるが、中は広くて綺麗だから家賃も結構するらしい。 エクリプス一家はそれなりに裕福みたいだな」
「封筒の住所だと中層の部屋みたいだね。 そろそろ日も暮れそうだし、さっそく訪ねてみよう」
「ええ、そうね」
アリサは備え付けのインターホンに部屋番号を入力し、ホーンが鳴るが……
「……出ないな。 今は留守にしているのか?」
「もう一度やってみるわ」
もう一度ホーンを鳴らしたら、すぐに誰かが出た。
『ご、ごご、ごめんなさい! 浄水器はいりません!』
スピーカーから少女の慌てた声で変な事を口走った。
(部屋のモニターからちゃんと見ていないのかな)
「エクリプスさんの自宅で間違いないわね?」
『は、はい! あれ? セールスの人じゃなさそうですけど』
「俺達はレルム魔導学院・生徒会からの通知を頼まれて持って来た」
「それと……神様アプリについてちょっと話を聞きたいんだ」
『……!』
息を飲むのが聞こえ、それから沈黙が続いた。
『……分かりました。 少しなら時間を取れますので、部屋でお待ちしています』
そう言うと通信が切れて、マンションの扉が開いた。
「行きましょうか」
「それにしても、どんな子か全然想像がつかないね」
「確かに、こんな子が月蝕だなんてあり得なかな?」
マンションに入り、中層にあるエクリプス宅の前に来た。
「ここだね」
「それじゃあ、押すね」
すずかがインターホンを鳴らすとすぐに扉が開いた。
「い、い、い、いらっしゃいませ! 本日はお日柄もよきゅっ……」
出て来たのは小柄で白いセミロングの髪とワインレッドの瞳をした少女だった。 出会い頭またズレた事を口走り、噛んだ。
「あはは、とにかく中に入ってもいいかな?」
「は、はい! どうぞ……」
「お邪魔します」
少女に案内され、自室と思われる部屋に入った。 部屋には画面が3つあるパソコンとベットだけという簡素な物だった。 目立つ物と言えば本棚に敷き詰められたデバイスやソフトウェア工学関連の本の数々だ。
「すみません、座れる物がなくて……」
「構わないわ。 それであなたがエクリプスね」
「……はい。 サーシャ・エクリプスです。 皆さんと同じレルム魔導学院・VII組に在籍している1年です……」
少女……サーシャの視線の先には、壁に掛けられた魔導学院の真紅の真新しい制服があった。
「あの制服は……!」
「なるほど、君が最後のVII組のメンバーだったわけだ」
「はい……」
「なら、これを渡しておくわ」
アリサはサーシャに封筒を渡し、サーシャは封を切って中の紙に目を通した。
「あうあう……不登校生徒への通知……うう、とうとうこんなレベルまでに……」
やらかしてしまったような感じで落ち込むサーシャ。
「……皆さん、わざわざ届けてもらってありがとうございますです」
「どういたしまして、私達の事は存知しているみたいだね?」
「は、はい。 異界対策課でも、VII組としても有名ですから」
「それで……あなたがあの月蝕、でいいのかしら?」
「あ……」
サーシャはしばらく黙ると、静かに頷いた。
「はい……私が
「あの時のハッキングだね。 その節はありがとう、本当に助かったよ」
「い、いえ」
「ーー本題に入るぞ。 君がエクリプスだとしても、今回は神様アプリについて聞くためにここに来た」
「ただの偶然だけどね」
「あはは……コードネーム捻らなかった私の落ち度ですよ」
「それはともかく、教えてもらいましょうか。 あのアプリがどういう代物なのかを」
「え、あ、はいです」
話は逸れたが、本来の目的である神様アプリについて、サーシャが説明しくれた。
「神様のいうとおり……実はあのアプリにはハッキング機能が付いているんです。 “悩め事”を入力すると、アプリのAIがバックグラウンドでメイフォン内にサーチします。 得られた個人情報を元に、使用者に合わせた適格なアドバイスをしてくれるわけです」
「それって……アプリが全部やってくれているの?」
「はい、多少結果のバラつきはありますけど、誤差の範囲内です。 コミュニケーションアプリやSNSからも情報を集めていますし。 心理学のデータや占いや悩み相談の類似ケースからも照合していますからかなりの精度だと自負しています」
えっへんと胸を張って誇らしげな顔をする。
「簡単に言うなぁ、それが実現するのがとんでもなく難しいというのが普通に分かるぞ」
「でも、決して不可能ではないよ。 理論上可能だよ、エコーもそれに似たようなアプリだし」
「えへへ」
「褒めてないから。 いずれにしても、かなり優秀なシステムエンジニアのようだね?」
「ごめんなさいです……」
「怒ってもいないから!」
バカと天才は紙一重とはよく言ったものだな。
「コホン、それじゃあ予言の話とはどう結びつくのかな?」
「えとえと……あの例の話ですか? 事故や怪我がお告げ通りになったていう? 調べてみましたが……今の所1度も再現性もないですし、偶然としか言えません」
「実際に何人も怪我人も出ているんだぞ?」
「こればかりは私からはどうとも……アプリの影響で事故というのも信憑性もないですし……」
「そうか……」
サーシャは現実的な回答で予言を否定する。 だか、これに普通じゃないことが起きていたら……
俺達は顔を見合わせ、頷く。
「……ありがとう、これだけ聞ければ充分だわ」
「それじゃあ、私達はこれで失礼するね」
「それと話は戻るが、ちゃんと学院にーー」
ピーーンポーーン……
その時、インターホンが鳴り、優しげな男性の声が聞こえて来た。
『サーシャ、いるか? 入るぞ?』
「あ⁉︎ もうこんな時間!」
サーシャが驚く中。 玄関が開く音が聞こえ、真っ直ぐこちらに向かい部屋に入って来たのは、声の通りサーシャと同じ髪色をした優しげな男性だった。
「返事ぐらいしてくれ。 すまないとは思っているが、しっかり休んでーー」
男性はようやく俺達の存在を認識すると黙ってしまう。
「えっと……(ペコリ)」
「こんにちは」
「ども」
「お邪魔しているわ」
とりあえず挨拶してみた。
「………あ………サーシャ。 もしかして……」
男性は驚いた顔から……途端、笑顔になると……
「友人が来たのか⁉︎」
……勘違いもいいところだ。
「ええっ⁉︎ えとえと、この人達は学院のーー」
「ああそうか! その制服、レルム魔導学院・VII組の! 聞いてはいたが、あのクラスに入るとはお兄ちゃんも鼻が高いぞ……!」
……なんか、恭也兄さんと同じ感じがする。
「君達はサーシャと同じVII組の友達なのかな?」
「いえ、その……」
「それに友達ならここじゃなくて、実家に呼んだほうがいいじゃないか。 だがちょうどお茶菓子も用意したから少し待っていてくれ、今ーー」
「わあああっ⁉︎ お、お兄ちゃん! 返済も終わっていないのに……危ないから来ちゃダメって言ったでしょう!」
サーシャは部屋の扉を開けると男性を引っ張った。
「お、おい……サーシャ?」
「ご、ごめんなさい皆さん! 何も聞かずに帰ってください!」
部屋から出た俺達はマンション前まで来た。
「あはは……追い出されちゃったね」
「やれやれだな」
「それにしても……学院に来ないにしても、何か事情があるようだね」
その時、先ほどのサーシャの兄と思われる男性が近寄って来た。
「すまない、君達。せっかく来てもらったのに、ゆっくりしてもらえなくて」
「大丈夫よ。 話も終わっていたところだったし」
「もしかして、貴方は……?」
「あ、そうだね。 自己紹介がまだだったね。 サーシャの兄のアルトマイルと言う。 お詫びと言ってはなんだけど、飲み物でもご馳走させてもらえないかな?」
事情も知りたかったので、その誘いを受けて。 すぐそこのカフェで話を聞くことにした。 まずは自分達がここに来た事情を説明した。
「ーーなるほど、見覚えがあると思ったら異界対策課の皆さんでしたか。 そんな通知を届けに……ご足労をかけたようだね」
「いえ、俺達も別件がありましたから」
「別件?」
「彼女が作ったアプリについて、確認したいことがあったのよ」
「まだ今日のところは確証はないですけど……」
「……サーシャが作ったアプリ?」
「もしかして、知らなかったんですか?」
神様アプリについて、かいつまんで説明した。
「……そうだったのか。 そんな人気のアプリをサーシャが……そういえば職場の人も触っているのを見た気もする」
「失礼ですが、アルトマイルさんはお仕事は何を?」
「アルトでいいよ。 こう見えても、博物館の学芸員をしています。 中央区画にある博物館なんですけど」
「学芸員ですか。 すごいですね」
「お近くの職場なのですね。 そうすると……どうして彼女は1人暮らしを?」
「学院の方にも通知していないようですし、そもそも何故寮に住まないのですか?」
その質問にアルトさんは答えられさずにいた。
「……あまり土足で他人の事情に関与するのは気が進みませんが。 同じ学院、そしてVII組の仲間です。 失礼を承知で言います、借金を抱えているのですか?」
「……はい」
アルトさん静かに頷くと、事情を話してくれた。
「私達の父は2年前に失業してしまって、以前から仕事がなかったんです。 それまではデバイスやパソコンのソフトを作る仕事だったんですが、無理して体を動かすアルバイトを続けていたら、体を壊してしまって……」
「アルトさん……」
「結構、凄腕だったんだよ? 作ったソフトが賞を取ってたんだから」
どこか誇らしげに告げてから、肩を落とし、ゆっくりと首を左右に振った。
「しかし、会社が潰れてしまって、本人もそれなりの歳ですから再就職も大変で。 借金もありますので、手術費用も払えなくて……なんとか頑張っているが、所詮学芸員の収入では何十年かかるのやらで……」
「そんなことは……」
「それで、ある日突然サーシャがどうにかすると言い出して。 借金取りと交渉して情報屋をして借金を返済する事になったんだ。 あの部屋は相手から用意した檻なんだよ」
顔を上げてタワーマンションを憎らしげに見つめる。
「サーシャは子どもの頃から父の薫陶を受けていたし、サーシャ自身にも才能があったからなんとか返済の目処が立った。 しかし、相手も無理やりサーシャを酷使する時もあるの。 その度にサーシャは疲れ果てた体になって……それでも頑張ろうとするんだ」
「そんな……」
「……失礼ですが、全額は幾らで後どれくらいの返納を?」
「2千万です……そして後2百万と言っていた」
「2千っ⁉︎」
「何やったの⁉︎」
「会社の失業の責任を肩がされてしまったようで……社員全員分がこっちに……」
「明らかに不正です。 抗議をしなかったんですか?」
「どうやら事前に相手と交渉していたようで……証拠を探しようにも見つからなくて、結局ここまで来てしまったわけだ……」
さすがに不幸すぎて同情する。
「こんな不正、どう考えてもおかしいよ。 相手というのは誰ですか?」
「確か、フェノール商会だったな」
「それ、グリズリーファングの表向きの名前じゃない。 通りで奴らがやりそうな手口だと思ったわ」
「この件は執務官としても見過ごせないね」
「ありがとう、感謝するよ。 サーシャの友人じゃなかったのは残念だけどね」
アルトさんはどこか残念そうな顔をする。
「その……すみません」
「でも、もう顔見知りだから友達みたいなものですよ!」
「後輩を守るのが先輩の役目ですし、同じVII組の一員としても気に掛けておきます」
「そうか……おっちょこちょいな子だが、よろしくお願いするよ」
やることが増えたが……兄公認で任されたからには、この件は絶対に解決しないとな。と、アルトさん公園に備え付けてあった時計を見た。 ちょうど18時を回った所だ。
「おっと、もうこんな時間か。 首都で博物館の仕事を抜け出して来たからな。 悪いけど僕はこれで失礼させてもらうよ」
「そうですか……お疲れ様です」
「ご馳走になったわね」
「気にしないでくれ。 それじゃあ、またね」
アルトさんは席を立つと、公園の出口に向かって歩いて行った。
「……行っちゃったね」
「兄妹揃って優しいんだな。 雰囲気も似てたし」
「さて、神様アプリに加えてやることが増えてしまったわね」
「フェノール商会の方は私が何とかするとして……アプリの方はまだ異界との関わりが確定したわけじゃないよ」
「それを見極めるのが今後の課題になるね」
「ああ……明日は放課後から改めて街を回って情報収集するとしよう」
「うん、皆で頑張ろうね!」
「そうだ、さっき言っていたら、サーシャが作ったっていうアプリ……」
アルトが博物館に向かう途中、ふとレンヤ達の言っていた話を思い出した。
「せっかくだしダウンロードしておくか」
メイフォンを取り出し、さっそく神様のいうとおりをダウンロードし始める。
「すごいダウンロード数だな……ランキングもかなり上位だし」
だが、これも借金返済のために作ったと思うと居た堪れない気持ちになってしまう。
「ーーインストール完了っと。 こんなの作っているなら一言くらい家族に入れてもいいだろうに」
ピロンピロン!
さっそく神様アプリから通知が届き、その内容を読む。
「何だ、これ……?」