魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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98話

 

 

冬季休業が終わり、新しくなった第三学生寮に驚くのもつかの間、それから1カ月もしないですぐに期末試験が行われた。 結果は前回と似た感じだったが、ツァリがまさかの10位以内までランクインしたのだ。 しっかり自分と力に向き合い、認めたおかげで念威操者としての実力が出たようだ。 それから空もテロリストも目立った活動はせず、3年生が学院を卒業し去っていく中。学院に入って2度目の春を迎え、俺達は2年生になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダにあるマンションの一室。必要最低限の物しか置いていない簡素なその部屋には、3画面のパソコンとカスタムキーボードを使用している白いセミロングの髪をした少女がいた。

 

カタカタカタカタ

 

「………………………」

 

食い入るような目つきで画面に流れる情報を見ながら忙しなく手を動かし続けていた。

 

「ふう……ごめんなさい、あなたに恨みはないのだけど、これも家族のためです」

 

少女は手に入れた情報をしぶしぶ誰かに送り、それからすぐにその相手から返信が来た。 送られてきたのは報酬金額だった。

 

「よし、これで借金返済もあとちょっと……」

 

金額に納得し、少女はまたキーボードを操作する。

 

「はう……そういえば入学式以降学院に行ってないや……うう、せっかく奨学金頼りで入学したのに……」

 

自業自得と自責の念に悩みながら、正面の画面に杖を持ち、頭上に輪っか、白い髭はを生やし、胸にハートマークがある黄色い卵型のマスコットが現れると……

 

『よくぞ来た、迷える子羊よ。今日はどんなご用かな?』

 

機械音声でそう質問してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月上旬ーー

 

新VII組の1年生をフォローしつつも自分のことは問題なく所を見ると、皆はそれなりに先輩としての威厳というものが出てきたらしい。

 

新しい学年に慣れたそんな時、学院では去年から急激に普及し始めたMIPHONのあるアプリの話題で持ち切りだった。

 

「神様アプリ?」

 

昼休みの時、教室でアリシアがそんなことを言った。

 

「そ、“神様のいうとおり”ーー通称神様アプリっていう対話型占いアプリ。 かなり高い精度で当たるらしくて女の子に人気みたいだよ」

 

「へえ……? そんなアプリがあったんやな」

 

「そんな人気みたいなのに、このクラスの女子から最近そんな話を聞かないね……」

 

「アプリをしている暇があったら他のことを優先しているわよ」

 

「確かに、そんな余裕もないしね」

 

「あはは、私はちょうどこの前ダウンロードしたんだけどね」

 

なのはがMIPHONを取り出し、アプリを起動すると画面を見せてくれた。

 

『よくぞ来た、迷える子羊よ。 今日はどんなご用かな?』

 

画面にはコミカルなキャラクターが映っていた。

 

「あっ、かわええなぁ」

 

「……これが?」

 

「そうだよ。 使い方は悩み事を入力するだけで……」

 

なのはは“どうすれば教官に勝てますか?”と入力すると……

 

『ーー日々の積み重ねを大事にするのだ。 教官と相対して危機的状況に陥ろうとも、積み重ねてきた鍛錬はそなたを裏切らない。 友と切磋琢磨すれば遠くない未来、届くかもしれんゾイ』

 

と、機械音声で助言をくれた。

 

「こんな感じで、神様がお告げをくれるんだ」

 

「へえ、なかなか的を射ているわね」

 

「というか無謀な質問だね」

 

「あ、あはは……」

 

「でも特に友達の事や、結局勝てる見込みが低い事とかちゃんと分かっていてアドバイスしてくれているよ」

 

「届くかもしれない……だからね」

 

「あいつ相手に卒業するまで一本取れればマシな方だ」

 

「でも、女子に流行るのも分かる気もするよ。 皆占いとか大好きだからね」

 

「確かに、女子ってそういうの好きそうだもんな」

 

「そういえば、このアプリが話題なのは他にも理由があって。 どうやらこのアプリの開発者はこのレルム魔導学院の生徒の誰からしいですよ?」

 

ユエが今思い出したのか、興味深いことを言った。

 

「そうなの? でも生徒って」

 

「まあ、ありえなくはないかもね。 グロリア先輩やすずかのような人もいるんだし」

 

「もしかしたら1年の可能性もありますね」

 

「でも、本当だったら確かにすごいね」

 

そうこう話ていると昼休みはあっという間に過ぎ、残りの授業を受け放課後になった。

 

「さてと、異界対策課に行くとするかな」

 

「珍しいね、平日に行くなんて」

 

「今月から本当に久しぶりに新しい隊員が入ったからな」

 

新しい隊員とはソーマの事だ。 ソーマ、ティアナ、スバルは今月陸士訓練校を主席卒業し、ソーマは推薦を受けて異界対策課へ。 ティアナとスバルは首都から南にある陸士386部隊災害担当へ配属された。

 

「私達は部活とかの予定があるから行けないけど」

 

「私もや」

 

「そうだ! ならレン君、途中まで一緒に行こうよ」

 

「なのはも何か予定が?」

 

「2月くらいに行われた戦技披露会にレン君達に出てもらったよね? どうやら模擬戦のレベルが高過ぎて、未だに映像の調整や説明とかがまとまってないの」

 

「ああ、あれね。 あれでも結構手を抜いたんだけど」

 

「これは訓練生に見せる予定だったの……」

 

「あはは、途中から熱くなっちゃったからね〜」

 

「参考にならない魔力変換資質も使ちゃったし……」

 

「反省しています……」

 

さすがにやり過ぎたこともあったな。 そもそも俺の戦闘スタイルは近接両用型のベルカ寄りの魔導騎士だ、最初から参考になるかどうかすらわからない。

 

「コホン……皆が反省しているならそれでいいから。 それじゃあレン君、さっそくーー」

 

ピロンピロン、ピロンピロン!

 

なのはの言葉を遮るように誰かのメイフォンが音を立てた。

 

「あれ、この音……」

 

「なのはのメイフォンじゃないかな?」

 

「うん、どうやら神様アプリの通知が入ったみたい。 今日の運勢を自動で知らせる設定にしたんだ。えーっと、どれどれ……」

 

メイフォンを取り出し、通知を見ると……

 

「……なんだろう、これ?」

 

なのはは顔を歪ませながら画面を見る。 見せてもらうと、昼休みに見せた神様アプリの画面と全く別だった。 今は背景もキャラクターもまるで悪魔のような雰囲気だ。

 

『ーー今日のあナたは最悪でショう。 交通事故にあっちゃウかも♪ 楽シい1日はあっといウ間におしマい♪ 心ノ準備ハ、しておキマしょうネ』

 

画面の文字は所々文字化けしており、まるで嘲笑うかのようになのはの運勢を告げた。

 

「……これは」

 

「それにこの内容って……」

 

「……交通事故……?」

 

「こんな表示が出たのは初めてだよ……」

 

なのはは嫌そうな顔をしてメイフォンをしまった。

 

「はあ、縁起でもないの……せっかく2人っきりなのに……」

 

「大丈夫だよなのは、所詮占いなんだから」

 

「そうだね。 あんまり気にしない方がいいよ」

 

「そうだよ、単なるアプリのバグかもしれないし」

 

「そっか……そうだよね? よし、気を取直して行こう!」

 

フェイト達に励まされ、あっさり元気になった。

 

「全く、単純だな」

 

「あはは、でもそれでこそ、なのはだもんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガンまでなのはと一緒に同行し、駅で別れてから異界対策課に向かった。

 

「現時刻より異界対策課に配属されました、ソーマ・アルセイフです! 最良の力を持って励まさせて頂くので、どうかご指導をお願いします!」

 

体をガチガチにしながら敬礼をするソーマ。

 

「そう堅くならなくていい。 異界対策課はご覧の通り若者しかいないから、そこまで上司、部下の関係にこだわっていない」

 

「し、しかし……憧れの異界対策課に入れたのはレンヤさ……隊長のおかげですし……」

 

「それを言って実行したのはソーマだけだぞ」

 

身内びいきでソーマを推薦したわけではなく、ただ推薦を希望したのがソーマしかいなかったからである。 異界対策課のハードさは知られているし、怪異を相手にするのはかなり度胸もいる。 隊員が全然増えない原因の1つだ。

 

「まあ、だんだんと慣れて行けばいい。 異界対策課の大まかな活動の流れはラーグから聞いたな?」

 

「は、はい」

 

「それじゃあソエル、説明よろしく」

 

「了解♪ まずはソーマ、メイフォンを出して」

 

「は、はい」

 

ソエルがソーマのメイフォンにサーチアプリを送信した。

 

「これは……」

 

「XーSearchーSystem……アプリの正式名称は“エコー”。ディアドラグループの協力の元に作られたアプリで通称サーチアプリ。 それを使えば異界の反応を確かめ、ゲートの位置を特定することができる」

 

「なるほど……それでどうやって使えばいいんですか?」

 

「反応があれば自動で起動するから、街を歩き回ればいい。 アプリが起動したら連絡をくれ」

 

「わかりました」

 

「依頼も簡単のを少し用意したから後で確認しろ。 必須以外は別にやらなくてもいいから、そこはお前の技量次第だ。 ルーテシアも同伴させるから、わからない所はルーテシアに聞いとけ。 異界が見つかった場合はすぐに連絡して状況を報告すること、俺が現場に向かうから」

 

「了解しました!」

 

「それじゃあ行ってきま〜す」

 

「気をつけろよー」

 

ルーテシアとアギトが手を振りあい、ソーマが敬礼をして異界対策課を後にした。

 

「ふう、これで優秀なオペレーターも増えれば言うことないんだが……」

 

「はいはい、それよりも書類を片付けてね」

 

ソエルに言われて書類を片付けて行く。 途中、ソーマ達がゲートを発見して異界の収束にあたったりもして、区切りの良い所に一旦終わるには夜になっていた。

 

「ふう………」

 

「お勤めご苦労さん」

 

「ああ……ようやく書類を片付けるのも慣れてきたなあ……」

 

「確かに板についてきてんな」

 

アギトに言われて苦笑しながら、ここ最近の異界の発生率が書かれた書類を読む。

 

「4月に入ってから、異界の発生率が上がってきているな」

 

「確かにそうだね」

 

「先月だけでも3件の事件が起きたらな。 一応、緊急時にティーダとヴィータを呼べるようにはしている」

 

「呼ばない方がいいんだがな……」

 

なにやら不吉な予感がする。 今日入った異界もフェイズ2だったが、いつもより危険度がかなり高かった。

 

「……考えても仕方ないか」

 

気を取直し、作業を再開した。 次々とソエル達が帰るのを見送る中、全ての仕事が終わり、時間を見るともう9時過ぎだった。

 

「さてと……」

 

帰り仕度をして、カバンを持って異界対策課を出ようとすると、先に扉が開き……

 

「レン君、いる?」

 

「なのは?」

 

教導官の制服を着たなのはが入ってきた。

 

「どうしたんだ、こんな時間に?」

 

「それはこっちの台詞……った言いたいけど、私もついさっき戦技披露会の映像の編集が終わったの。 それから帰ろうとしからソエルちゃん達にあってね。 それでここに来たの」

 

「なるほど、それで帰りも一緒に?」

 

「うん!」

 

「了解」

 

なのはと一緒に帰り、本部を出て中央駅に向かって歩いた。

 

「レン君、ここ最近異界の事件が増えてきているって聞いたんだけど……大丈夫? 怪我とかはしてない?」

 

「大丈夫だ。 確かに増えてきているが、そこまで大きくはないし十分対処できている」

 

「そっか……」

 

「なのはも教導、頑張っているか? お前のことだからドジ踏まないか心配なんだよな」

 

「そ、そんなことないよ! ちゃんと教導できているし、ドジも……たまにしかしてないし……」

 

なのはは途中から目を泳がせながら口ごもる。

 

「ふふっ、まあ、お互い気をつけるとしますか」

 

「う、うん」

 

雑談しながら道路に出ると、信号が赤になったのでその場で止まった。

 

「レン君は1年の子達と仲良くしている? レン君は変な所で遠慮するし」

 

「顔を合わせる機会は多いし、特別実習でのアドバイスもよくしている。 まあ、ちょっと1年が堅すぎるんだが……」

 

「あはは、私も。 もっとフレンドリーにしてもーー」

 

その時、なのはの方から車がスピードを落とさず走ってきた。 まるで前が見えていないような、それほどにフラフラしながらこちらに向かってきている。

 

「なのは!」

 

「え?」

 

すぐさまなのはの手を引いて抱き寄せ、その場で車より高く飛び……

 

キイイィィーーガシャンッ‼︎‼︎

 

車はブレーキ音を立てながら電柱にぶつかり停止した。

 

「これって……」

 

着地して、なのはこの惨状を見て呆然とする。 そして俺は、今日の放課後のことを思い出した。

 

【ーー今日のあナたは最悪でショう。 交通事故にあっちゃウかも♪ 楽シい1日はあっといウ間におしマい♪ 心ノ準備ハ、しておキマしょうネ】

 

「……交通……事故……」

 

神様アプリが告げた不吉な占い……今起きたことを見ると占いではなく、まるで予知のように思えてくる。 どうやらこの神様アプリ、何かあるようだ。

 

「ふう……よし!」

 

気合いを入れ、運転手の救助と事情聴取をするために車に近寄った。

 

 




色んな意味で飛ばして行きます。

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