魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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97話

 

 

大変で楽しいかった学院祭も終わり、学生達はまた勉学に励む日々が再開された。俺達、VII組はいつも以上に教官に鍛えられ、そして仲間と競い合い、お互いを磨き合いながら毎日を過ごしていた。特別実習で新たな発見や出会いもあったりしたが……この2か月の間に行った実習地、そこで管理局内の対立や日に日に強くなっていく怪異を改めて目の当たりにした。いつも事件に居合わせたのがなぜ異界対策課の自分ではないのかと歯痒くなったことが何度もあったが、その度にVII組の皆と話し合い、考え、答えを見つけ、様々な敵と戦って、事件を解決に導いた。

 

そして、現在ーー

 

12月下旬、期末試験を約1ヶ月後に控えながらも……暦が似ているのだからか、地球とミッドチルダ共通の恒例行事が行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわああぁぁ……」

 

大きなあくびを手で押さえもしないで、忙しなく目の前のパソコンで資料を作成していた。

 

今俺は地球にある高町家の自分の部屋にいる。 レルム魔導学院……もといミッドチルダは年末年始の大晦日を迎え、学院は冬季休暇に入っていた。と言っても夏季休暇同様に1週間程度だし、1ヶ月後に期末試験も控えているため全力で羽を休めることはできない。 異界対策課に所属している全員の休みを作るために日付が変わる前でもこうして働いているわけだ。さらに第三学生寮は来年新しくはいる新VII組のために改装工事が行われているから、現VII組のメンバーは強制的に帰郷させられた訳である。

 

「ふう〜……終わったぁ〜……」

 

『お疲れ様です、マジェスティー』

 

資料作成が終わり、背を伸ばしながらレゾナンスアークに労いの言葉をもらう。

 

「やれやれ、自分で選んだ道とはいえここまで大変だと辛いな」

 

「もっと容量よくやればいいんじゃないの?」

 

「なら変わってよ」

 

「今レンヤがやってんのって、隊長本人じゃないと無理なやつだろう」

 

「知ってる」

 

コンコン

 

「レン君、もう終わった?」

 

その時ドアがノックされてなのはが部屋に入って来た。

 

「ああ、ちょうど今終わったぞ」

 

「お疲れ様、それでこれから皆で初詣に行こうと思うんだけど……レン君もいくよね?」

 

「……はい?」

 

時計を見ると長針と短針が真上にあった。 いつの間にか新年を迎えていたようだ。

 

「コホン……もちろん行くぞ」

 

「よかった、それじゃあまた後でね」

 

なのはは嬉しそうに笑うと部屋を出て行った。

 

翌朝ーー

 

早朝、手早く着替えてラーグとソエルをポケットに入れてから玄関前でなのはを待った。

 

「お、お待たせ……レン君」

 

しばらくして、鮮やかな桜色の着物を着たなのはがやって来た。いわゆる晴れ着と言う物で、髪も結ってあり、普段と雰囲気も違うので見惚れてしまった。

 

「ど、どうかな?」

 

「あ、ああ……いいと思うぞ。 すごく綺麗だ」

 

「えへへ、ありがとう///」

 

それから父さんと母さんと姉さんと一緒に1番近い神社……海鳴神社に向かった。

 

「あ、皆〜!」

 

「なのは、レンヤ!」

 

「来たわね」

 

到着すると神社はさすがに混んでいたが、すぐにフェイト達が見つかった。 フェイト達も着物を着ていて、すごく綺麗だった。 皆の家族も一緒に来ていたようだ。

 

「レンヤ君、なのはちゃん、あけましておめでとうございます」

 

「あけましておめでとうや! レンヤ君、なのはちゃん!」

 

「それでどうかな? 私達の着物姿は、似合ってる?」

 

「ああ、似合っているぞ。 普段と違ってかなり大人っぽいくて……正直見惚れていた」

 

「えへへ///」

 

「あ、ありがとう///」

 

「ま、まあ……悪くはないわね///」

 

「そ、それじゃあ参拝に行こうよ///」

 

すずかの提案で皆で参拝に行く事になり、逸れないようにしながら賽銭箱の前にたどり着いた。

 

そういえば前に兄さんが言っていたな。“ご縁”とかけて5円玉を投げ入れるというのは有名だか、これが65円となると“ろくなご縁がない”となり、10円玉になると“遠縁”となり。500円玉は、それ以上の硬貸がないことから“これ以上効果がない”となるらしい。 神様に祈ることに金額は関係ないと思えるのだか、これが1万円札となると“円満”となり縁起が良いというから始末が悪い。

 

まあ、ここはセオリー通りあんまり悩まずラーグとソエルの分も入れて合計15円の5円玉3枚を賽銭箱に入れ、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼をした。

 

「………………」

 

目を閉じ、頭の中で願い事を思い浮かべる。

 

この先、ミッドチルダが戦渦に呑まれることは否定できない。 もちろん平穏を守るために俺達が頑張るのだが……俺は神様に、皆無事に当たり前の明日を迎えられるよう、願った。 皆が笑って、当たり前の明日を得られる日常を描いて行きたいから。

 

「……ふう」

 

小さく息を吐いて、目を開けて顔を上げた。 左右を見るとまだ皆は祈っているようだ、どこか顔が赤くなっている気もするが。 するとなのはが祈り終わったのか目を開けた。

 

「何を祈ったんだ?」

 

「ふえ⁉︎ そ、それは……秘密なの///」

 

「はは、そうか」

 

聞けたらよかっただけで特に追求しなかった。 他の皆も祈願を終えたのか目を開けていた。

 

「フェイトは何をお願いしたの?」

 

「え⁉︎ ええっと……その……」

 

「そう言うアリサは何をお願いしたんだ?」

 

「そんなの、秘密に決まっているじゃない///」

 

「と、とにかく。 次の人が待っているから、行こう」

 

顔を赤くして胸をはるアリサたが。フェイトの言葉に俺達は頷き、後ろに並んでいる参拝客に頭を下げると、賽銭箱の前から移動した。

 

「あ、おみくじはあるよ。 皆で引いてみようよ!」

 

「そうね、面白そうだわ」

 

「あっちには絵馬があるんよ」

 

「はやてちゃん、行ってみようよ」

 

はやてとすずかは絵馬を書きに行き、俺達はおみくじを引きに行った。 他の皆はすでに引き終えており、表情から見るに誰も悪い結果ではなかったようだ。 俺も御神籤箱からみくじ棒を出し、出た番号の書かれた整理箱を引いてみると……

 

“大吉”

 

新年の開始はなかなか好調のようだ。 他の運も見てみると、特に気にする事もなかった。 個人的には吉とか凶ぐらいしかあんまり見ないから問題ない。

 

「レンヤ、どうだったの?」

 

「大吉だった、フェイトは?」

 

「私は中吉、なのはは?」

 

「末吉、微妙なの……」

 

「あんまり結果を鵜呑みにしなくてもいいじゃないの?」

 

「そうだよ。 毎日が楽しいと思えば全部大吉だよ!」

 

「そうだね……ありがとう、アリシアちゃん」

 

その後おみくじを境内の木に結び付け、絵馬を書いているはやて達の元に向かった。 すぐに見つかったが、すずかとはやては結構一心不乱に絵馬を書いており、後ろに控えていたノエルさんとリンスが苦笑い気味で見守っていた。

 

「おーい、2人共」

 

声をかけると、すずかとはやてはそこで俺達の存在に気付いて顔を上げた。

 

「レ、レンヤ君……」

 

「お、レンヤ君達。 遅かったなぁ」

 

すずかは俺達に気付くと慌てて、はやては気楽そうに笑って手を振っていた。

 

「2人共、絵が上手いね」

 

「う、うん。 開発のデザイン作りで結構書くからね」

 

「私も部長のせいでそれなりやな」

 

毎度思うけど文芸部ってなにやっているの? 本を読み書きしているのは聞いているけど、その内容は聞いたことがない。 学院祭の時も妙に女性来場者がいた気もするんだが……

 

その時、ふと社務所が視界に入った。 俺は皆に一言入れてから社務所に向かった。 そこで魔除けの御守りを買った、グリードも一応魔に通ずるのでご利益は多分あると思われる。

 

「そや、こんなん書いたんやけど。 なのはちゃん、いるんか?」

 

「え⁉︎ こ、こんなの書いたの⁉︎」

 

「気付いたらいつの間か書いていたんだよね、この絵馬」

 

「あんた何してるのよ」

 

「いや〜、具体的に書いた方が神さんも分かりやい思うてな」

 

「他の人の迷惑を考えようよ……」

 

「はやて……グッジョブ」

 

それから騒いでいる皆と合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから食べ物や飲み物を買ってはやての家で雑煮を食べることになった。 母さん達は翠屋に行くということで八神家を除いた大人達はここには居ない。

 

「コホン。 それじゃあ改めまして、あけまして……おめでとうございます!」

 

『おめでとうございます!』

 

リビングに集まり、改めて新年の挨拶を交わした。

 

「レン君、今年もよろしくなの!」

 

「よろしくね、レンヤ!」

 

「よろしくや!」

 

「ま……まぁ、よろしくしてあげるわ!」

 

「あはは……よろしくね、レンヤ君?」

 

「よろしくね〜」

 

挨拶も終わった所で、さっそく用意したおせちや雑煮を食べた。

 

「さあ、正月といえば羽子板! フェイト、一緒にやろうよ!」

 

「ね、姉さん、行くから引っ張らないで……!」

 

「あ、墨いるかぁ?」

 

「お〜、いるいる!」

 

「えええっ⁉︎」

 

アリシアは食べ終えるとフェイトと庭で羽子板を始めた。

 

「はやてちゃん、また腕で上げたかな?」

 

「確かにそうね。 何というか前より一味違うのよね」

 

「そうか? いつだってはやての料理はギガ美味だぞ!」

 

「あはは、あんがとうなあ、ヴィータ」

 

「そうだ! レン君、確か今日ケーキを作っていたよね?」

 

「ああ、皆で食べようかと作ったんだ。 ラーグ」

 

「おう」

 

ラーグの口からケーキの入った箱を出してもらった。

 

「いつ見ても慣れないわねえ」

 

「それどういう意味だよ?」

 

「ほんの少し憤慨です」

 

「あんまり細かいことは気にしなくてもいいだろ」

 

「そうですぅ、さっそく食べましょう!」

 

一悶着ありながらもケーキを切り分け、並べるとすぐに皆の手に渡ってあっという間にケーキは無くなってしまった。

 

「うーん♪」

 

「ふむ、なかなか美味いな」

 

「レンヤ君も腕でを上げたなぁ」

 

「学院祭でお互い鍛えられたんだろうな」

 

「そうだね、あの時の2人は本当に楽しそうだったからね」

 

「ああああっ! 皆、ケーキ食べている⁉︎」

 

アリシアの叫びを聞いて庭を見ると、アリシアとフェイトは肩で息をしながらこっちを見ていた。

 

「……ぷっ」

 

「あはは! なんやその顔⁉︎」

 

かなり連戦していたのか、顔中が墨で描かれていた。 フェイトは猫髭などが、アリシアには丸ばつといった記号が描かれていた。

 

「あらあら、お湯とタオルを持ってくるわね」

 

「お願いします……」

 

「それよりも私達の分はあるの⁉︎」

 

「結構大き目に作ったんだが、もうないな」

 

「そんなぁ〜……」

 

「俺のをやるから元気だせ」

 

「ホント⁉︎ ありがとう!」

 

「ってこら! その顔で抱きつくな!」

 

「持ってきたわよ」

 

「ありがとうございます、シャマル」

 

2人はシャマルから受け取ったお湯とタオルで顔の墨を落とし、アリシアは俺からケーキを受け取るとさっそく口に入れた。

 

「美味しい〜♪ 運動した後だとまた格別だよ〜」

 

「フェイトちゃんはいいの?」

 

「うん、レンヤがまたいつでも作ってくれるからね」

 

「それもそうだな」

 

それからも楽しい時間が続いていたのだが……

 

「ふう、ちょっと喉が渇いたわね」

 

「飲み物ならテーブルにあるんよ」

 

「ありがと」

 

アリサが確認もしないでテーブルにあったコップを取り、中身に口につけた。 あれ? あの妙に赤くて綺麗な飲み物なんだろう?

 

……ごく

 

「あら? ここに置いてあった私のコップは?」

 

こっ、こっ

 

「ふむ、誰かが持っていったのか?」

 

ごっ、ごっ

 

「誰が持っていったのかしら……私の()()

 

ごきゅっ、ごきゅっ!

 

シャマルとシグナムの会話を聞いて、俺は静かに振り返り、コップを片手に反り返っているアリサを見る。

 

「ア、アリサ?」

 

「ぷはぁ……」

 

コップから口を離したアリサ、その顔はどこか赤く高揚している。

 

「ふ……」

 

「ふ?」

 

「ふわああぁぁ……!」

 

『⁉︎』

 

アリサの口から出た甘い声を聞いて全員が驚愕した。

 

「このジュース、美味しい〜♪」

 

「ああぁ! それ私のコップ!」

 

「アリサちゃん、お酒飲んじゃったの⁉︎」

 

「しかもかなり酔いやすい」

 

「これはレアな姿やで」

 

確かにそうかもしれないが、色々とマズイ気もするんだが……

 

「レ〜ン〜ヤ〜♪」

 

アリサが上機嫌な顔で俺の背に寄りかかってきた。

 

「ア、アリサ……ちょっと落ち着こうか?」

 

「……ごめんね」

 

「え……」

 

「レンヤが私達のために深夜まで仕事していたんでしょ? ホントは手伝いたかったんだけど、あの内容だとレンヤしかできないしむしろ迷惑だと思うと……」

 

そこまで言い切ると罪悪感か、涙ぐむ。

 

「だ、大丈夫だって! 俺のためでもあったし、別にアリサが気にすることはないぞ」

 

「本当⁉︎ ありがとう、レンヤ〜!」

 

途端、笑顔になって抱きついてきた。

 

(か、可愛い……!)

 

いつものアリサはビシッとしていて、可愛いいよりも綺麗が似合う少女だが。 このアリサは顔を綻ばせて屈託のない笑顔が眩しく、不覚にも可愛いらしいと思ってしまった。

 

「アリサちゃん、とにかくお水を……」

 

「それにしてもギャップが激しいね」

 

「そ、そうだね……」

 

「アリシア〜、これはジュースよ〜」

 

「え、嘘でしょう?」

 

半信半疑のアリシアは、アリサからコップを受け取るとそのまま飲んだ。

 

「ちょっ⁉︎」

 

「アリシアちゃん⁉︎」

 

アリシアはぷはぁっと飲み切ると、首から段々上に赤くなって行き……

 

「きゅう……」

 

そのまま倒れてしまった。

 

「姉さーーん!」

 

「なんで飲んだんや⁉︎」

 

楽しい時間は唐突に騒がしくなり、新年そうそう慌ただしい開始になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

アリシアは苦しみながら頭を抱えて二日酔いに耐えており。

 

アリサは酔いを全く感じさせなかったが、レンヤの顔を見るたびに顔を赤くさせながら挙動不審になったことから、酔っていた時の内容を覚えていたようだ。

 

 

 




これから結構時間を飛ばして話を進めて行きます。

Stsまでまだかかりますが、気長にやって行きます。

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