魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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94話

 

 

10月21日

 

学院祭準備期間ーー

 

小旅行に戻ってきた俺達は数日分の遅れを取り戻すために寝る間も惜しんで準備を進めた。

 

ちなみに魔法訓練の授業で、天剣を使ったユエはまさしく無敵だった。これでリヴァンにもせめて剄に耐えられるデバイスがあればいいんだが……

 

話を戻して……現在、本来ならすでに1限目が始まっている時刻にVII組のメンバーも含め、1、2年の学生達が正門前に集まっていた。それと向き合っているのは学院祭実行委員と生徒会だった。

 

「コホン、皆さん、本日は天気も良く、絶好の設営日和となりました先月から準備を進めて待ちに待っていた人も多いんじゃないと思います」

 

フィアット会長は腕を空に振り上げ、高々と宣言した。

 

「それでは、これより学院祭の各種準備・設営を始めます!期限は今日と明日の2日……明日の深夜は“なるべく”作業を持ち越さないようにしてくださいね。皆、ケガをしないように元気に張り切って頑張ってください!」

 

『おおっ!』

 

フィアット会長の言葉に、一同大きな声で返事をした。

 

さっそく各クラスが催しの準備を開始した。この期間中は生徒の学院と街の往来が激しいためか、各場所に教官がいて生徒達に目を光らせていた。

 

俺達VII組もさっそく準備を開始した。

 

「さあ皆、さっそく準備を開始しよう!」

 

「「「おおっ!」」」

 

すずかの掛け声になのはとアリシアとはやてが返事をした。

 

「おう、やっているな」

 

そこに、テオ教官が教室に入ってきた。

 

「ほら、言われた通り必要事項の記入をしておいたぞ。後はサッサと搬入することだな」

 

「ありがとうございます。ただ、もうちょっと早くして欲しかったですけど」

 

すずかがジト目でテオ教官を睨みつける。

 

「い、いや〜俺も結構暇じゃなくて……」

 

「……………………」

 

「……すいませんでした……」

 

「コホン、まあそれはいいとして、後は……」

 

「衣装が届くのが今日の夕方……それまで各自、教室の飾り付けや準備を進めよう」

 

「各個人の部活もあるし、できるだけ早く終わらせましょう」

 

「うん、学院祭なんだから協力しないとね」

 

「レンヤはフィアット会長から課外活動を受け取っているのでしたね?」

 

「ああ、本来なら今月はアリシアなんだが忙しいみたいでな。それに相当忙しそうだし力になれればいいと思ってさ」

 

「俺も見回りをしているから、何かあったら呼べよ」

 

「それと衣装が届いたら連絡するんよ。今日中に衣装合わせだけはしておきたいからなぁ」

 

そして一旦解散となり、俺は正門付近にいたフィアット会長を見つけ、依頼を受け取ろうとした。

 

「それじゃあ、お願いするね」

 

「はい、任せてください」

 

フィアット会長から今月の依頼の入った封筒をもらった。依頼を見ると、全部学院祭関連のものだった。

 

「学院祭関連ばかりですね。それに、ルキュウの商店街も随分協力してくれていますね?」

 

「うん、毎年恒例なんだ。ラジオ局ともちょっとしたタイアップなんかもしてくれるし」

 

「判りました、ルキュウ方面もなるべくフォローしておきます」

 

「うん、お願いね。あ、でも喫茶店の方も疎かにしちゃダメだよ?クー君から聴いているけど、かなり大変なんでしょう?」

 

「物資や機材が到着するまでの少しの間、こうして手伝うだけですよ。まだそこまで忙しくはないです。その……エテルナ先輩も来てくれるんですよね?」

 

「あ……」

 

そう質問すると、困った顔をして考え込んでしまった。

 

「……すみません、やっぱり無理そうですか?」

 

「ううん、何度か連絡は取っているんだけどまだなんとも言えなくて……ルナちゃんの事だから心配はいらないと思うけど」

 

「そうですか……」

 

「大丈夫だよ、ルナちゃんは絶対に約束は破ったりしないから。グロリア君だって、クー君だってレンヤ君だっているし……だから、ルナちゃんが来た時に思いっきり楽しめるようにお互い頑張ろう? レンヤ君のお菓子を食べさせたり、学院祭を成功させることで」

 

「……判りました。腕によりをかけて、全力でやり切ってみせます。会長にも格好悪い所は見せられませんし」

 

「あはは……うん、頑張ってね!」

 

「フィアット会長〜!」

 

その時、慌てて生徒会の役員がフィアット会長の前に駆け寄った。

 

「すみません、発注した資材の到着が遅れるらしくて……!」

 

「このままだと設営進行に支障が……!」

 

「わかった、スケジュールの組み換えを検討するよ!ごめん、レンヤ君。喫茶店、頑張ってね!」

 

「はい……!」

 

フィアット会長は役員と一緒に走って行った。

 

(俺も負けていられないな……よし!)

 

気持ちをしっかりと切り替え、依頼以外の手伝いを積極的に手伝った。

 

途中、ルキュウに流れる川の主を釣ったり。各部活の手伝いなどをした。

 

ピロン、ピロン!

 

ある程度依頼を片付けて、ソアラさんから資材と機械の到着の連絡をもらい。一旦教室に戻ろうとした時、買い替えたばかりのMIPHONに着信が入った。

 

「(はやてか、何かあったのか?)もしもし、どうかしたのか?」

 

『レンヤ君、実はトラブルがあったんや。衣装の到着が遅れるそうなんや。急いでも明日の午前中になりそうってさっき連絡をもろうてな』

 

「そうか、ちょっと痛いな。今日中に衣装合わせをしないと集中できなさそうだ」

 

『そうやな、そこでや。レンヤ君、ちょっと行ってきて直接取ってくれへんか?』

 

「え……確か、クラナガンにあるブティックに全員分を頼んでおいたよな?」

 

『そや、本店にいる職人に手がけてもろうてる。夕方に完成するらしいんやから直接受け取ればええ。本当は私が行きたかったんやけど、ちょうど資材と調理機器が到着してなぁ、手が離せないんよ』

 

「なるほど……判った。となると、すぐに駅に向った方がよさそうだな。下手したら夜になりそうだし」

 

車は1月前のスクランブルでグリードに安物とはいえお釈迦にしてしまったし……一応、異界対策課の車が技術棟にあるにはあるが、今は運悪くメンテナンスしていて。学院祭もあって進んでいないと思われる。

 

『ならちょうどええ。すずかちゃんに頼んでおいたから、後で技術棟に向こうてな。どうやら一昨日バイクが完成したらしいんや』

 

「それで向かえと?まあ……すずかが作った物だし、首都に向かうのならバイクの方が早いが……」

 

『ならお願いな、すずかちゃんに頼んでサイドカーをつけてもろうたから、できれば1人、手伝いを連れて行くとええ。11人分の衣装や、かなりの荷物になるしな』

 

「それもそうか……判った、任せておいてくれ」

 

『あんがとな、レンヤ君。喫茶店の方は私達がなんとかするから頼んだで』

 

ピ………

 

(よし、一通り用事が済んだら技術棟に行こう。すずかに声をかけてバイクを借りないとな)

 

そこでふと気がついた……

 

(資材が到着したのならVII組のメンバー誘えないよな……)

 

そう思ったが、すずかをそのまま誘えばいいと思い技術棟に向かった。

 

技術棟、第一研究室に着くとグロリア先輩がV組の生徒に機器の使い方の指導をしていた。

 

「やあ、レンヤ。はやてから話は聞いているよ。最終チェックも済ませてあるから自由に乗って行くといい」

 

「すみません。ありがたく使わせてもらいます」

 

「はは、僕は手助けしただけですずか君が作った物だし。遠慮せずに使ってくれ、今すずか君もいるから会って行くといいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ーーそれで、ここの表示でエラーになる場面だけど……」

 

「は、はい。一体どうしたら……」

 

お礼を言うとまた説明を再開した。隣の部屋に行くと、サイドカーが取り付けられたバイクにすずかがいた。制服の上を脱ぎ髪をポニーテールにしており、ジッとバイクと睨み合ってい作業をしている、相当集中しているようだ。

 

「すずか」

 

「わひゃぁ⁉︎」

 

後ろから声をかけると悲鳴を上げながらポニーテールを逆だたせ、その場で飛び上がった。

 

「レ、レンヤ君⁉︎」

 

「驚かせてごめんな、はやてから連絡はもらっているよな?」

 

「あ、うん。メンテナンスは終わったからいつでも出られるよ」

 

「ありがとうな。それと一緒にお願いしてほしい事があるんだ」

 

「え、何?」

 

「このまま付き合ってくれないか?」

 

「え⁉︎」

 

衣装を一緒に取ってくるのをお願いすると……すずかはみるみる顔を赤くする。

 

「ええっと……それってつまり///」

 

「クラナガンに向かって衣装を取りに行くんだ」

 

「……ああ、うん。わかってたよ……わかってたけど……」

 

今度は顔を暗くして何やら小言を言っている。

 

「えっと……都合が悪いなら断ってもいいんだぞ?」

 

「ううん、大丈夫だよ。すぐに行こう」

 

「そうか」

 

すずかはポニーテイルはほどき、制服を着て身支度を済ませた。俺はバイクに乗り、すずかはサイドカーに乗り込み、エンジンをかけてガレージを出て、クラナガンに向かった。

 

「うーん……風が気持ちいいね。サイドカーのシート乗り心地もこだわって良かったよ」

 

「確かにな。それにこうやって飛ぶ以外で風を受けるのもいいもんだな」

 

「そういえば、衣装って結局どうなったの?」

 

「特に旅行の案以降手は加えていないし、心配するような事はないと思うぞ。はやてに任せたけど、発注時のデザインはチェックしたし」

 

「ま、まあ喫茶店の衣装だし。露出が高かったら返っておかしいからね。さすがにはやてちゃんはそこまでしないよね」

 

「……………………」

 

「レ。レンヤ君⁉︎ 何でそこで黙るの〜?」

 

「はは……(まあ、高くないだけで。全くないわけじゃないからな)」

 

それから数時間して、クラナガンにある発注を頼んだブディック店に到着した。その時にはすでに日は沈みかけており、夕方の日が街を照らしていた。

 

「悪かったなぁ。わざわざ取りに来てもらって。だが、その分満足のいく仕上がりになっていると思うぜ」

 

相手も悪いと思っていたのかオーナーが直々に出て来た。

 

「そうですか……楽しみです」

 

「こちらこそ、こんな短期間での製作をありがとうございます」

 

「なに、前に異界対策課のルーテシアちゃんにはお世話になったからな。これぐらいの恩返しは当然だ」

 

と、そこでオーナーがすずかを見た。

 

「そういや、あんたがフロントのお嬢ちゃんかい? スリーサイズは聞いていたが……こりゃあ、デザインと相まって凄い破壊力になるかもしれんなぁ」

 

「そ、それって……レンヤ君、本当にどんなデザインなのぉ?」

 

「ま、まあ……帰ってからのお楽しみって事で」

 

ジト目で見られてあせるも、なんとか先送りにしてごまかす。

 

先に男子の衣装を受け取り、店の前ですずかを待っていると……

 

「お兄さん」

 

「ん?」

 

声をかけられ、横を向くと。中学生くらいの黄色い髪と翡翠の瞳をした少年がいた。

 

「お兄さん、もしくて神崎 蓮也さん?」

 

「ああ、そうだが」

 

「やっぱり! どこかで見た顔だと思ったんだぁ」

 

少年は俺と偶然に出会えて嬉しかったのか、はしゃいでいる。

 

「君はここに何をしに?」

 

「ちょっと待ち合わせをね、姉さんが後でくるんだ」

 

「なるほど」

 

その時、店のドアが開けられてすずかがトランクを引いて出て来た。

 

「お待たせレンヤ君。あれ、この子は?」

 

「今会ったばかりの子でな、えっと……君の名前は?」

 

「僕はコルディ。よろしくね」

 

「よろしくね、コルディ君。私のことはすずかって呼んでね」

 

「俺もレンヤでいいぞ」

 

「うん、ありがとう。すずかさん、レンヤさん。 お2人の方は、そんなトランクを2つも抱えてどうしたんですか? あ、もしかしてデートですか?」

 

面白そうにコルディが言うと、すずかが慌てふためく。

 

「そ、そんなんじゃないよ!///」

 

「実はな……」

 

俺は喫茶店の衣装を受け取りまし来た経緯をコルディに説明した。

 

「へえ、学院祭で喫茶店ですか。 面白そうですね! 魔導学院ですか……予定が入らなければ遊びに行けるんですが……」

 

「ああ、よかったら来てくれ。 お菓子には自信があるから」

 

「ええ、時間ができたら是非。それじゃあ僕はこれで失礼します。また……会えるといいですね」

 

コルディは店に入って行った。

 

「レンヤ君、私達も行こう」

 

「…………………」

 

「レンヤ君?」

 

「あ、いや……そうだな、そろそろ日も沈むし早く戻ろう」

 

2つのトランクをサイドカーに入れ、バイクの方に2人乗りで座り、ルキュウに向けて走り出した。

 

「……………///」

 

「すずか、大丈夫か?」

 

「う、うん! 大丈夫だよ///(レンヤ君がこんなに近くに……暖かい……)」

 

お腹に回された腕に力が入るのを感じながら、俺達は学院に向かってバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンヤ達が出てすぐにブディック店のドアが開けられ、コルディが出て来た。コルディは去って行くレンヤ達の背を眺めていた。

 

「……直接対面するのは初めてだったけど、僕だけじゃ全然歯が立たないや。改めて姉さんって凄いんだなぁ」

 

ピロン、ピロン!

 

その時、コルディのMIPHONに通信が入った。

 

「はいもしもし……ああ、クク? どうしたの………え、予定が変更してもう出発しちゃうの⁉︎ 全くドクターは人使い荒いなぁ。それじゃあ姉さんと合流したらすぐ戻るよ」

 

コルディは通信を切ると、レンヤ達の向かった方向を見る。

 

「学院祭に行けないくなったのは残念だなぁ………さぁて、バチバチ行くとしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行きと同じ時間をかけた走り続け、学院に到着する頃にはすっかり夜になっていた。

 

そして皆を呼び、ドームの更衣室で衣装合わせをした。

 

「ふうん……悪くはないわね」

 

ウエイトレス服とメイド服の中間のような紺色の衣装を着て、アリサはそう言う。全員、基本的なデザインは同じだが、微妙に細部が違っていた。

 

「うん、ちょっと露出は多いと思うけど良いと思うよ」

 

「うんうん、悪くないね」

 

「皆とお揃いなのもいい感じがするよ」

 

「ううっ……何だが落ち着かないよ……」

 

ファリンとはやてに連れられてやって来たのは、薄化粧をして髪を少しウェーブ気味にしたすずかだった。

 

「すずかちゃん、可愛いよ!」

 

「確かに、いつもとは別人みたいだよ」

 

「ぶっちゃっけエロいね!」

 

「うううっ……信じた私が馬鹿だったよ……」

 

「いや〜、ええ仕事としたんよ♪ さすがファリンさん。ここまで完璧とは驚きや」

 

「すずかちゃんのメイドとして当然です! 皆さんも可愛いですよ」

 

「へえ……皆予想以上に似合っているな」

 

そこに、着替え終わったレンヤ達が更衣室から出て来た。これも女子と同じくウエイター服と執事服の中間のような深緑色の衣装だった。

 

「あら、そっちもいいじゃない」

 

「皆、とても似合っているよ」

 

「なんかエセっぽいけど、悪くはないかな」

 

「皆も所々デザインが違うんだね?」

 

「まあ、期間ギリギリだったんだけどはやてがこだわってさ」

 

「このクラスの男子はイケメン揃いやからなぁ。癒し系のツァリ君、紳士なユエ君、ワイルドなリヴァン君、クールなシェルティス君、王様のレンヤ君、ステージならともかく接客となると男子も華があった方がええんや」

 

「なるほど」

 

「て言うか僕だけなんかおかしいような……」

 

「だが、お前が接客なんかできるのか? 経営というものは常にイレギュラーが付き物だぞ」

 

「それぐらい、レストランの手伝いをよくやっていたから問題ない」

 

2人はいがみ合いながらもいつも以上のやり取りはなかった。おそらく衣装の効果だろう。

 

「さて、レンヤ君がいない間に準備は進めとったんやけど……まだまだやることがたくさんあるでー」

 

「にゃはは、調理機器を設置する前に教室を隅々まで綺麗にするのに時間がかかっちゃったから、まだ座席や内装に手を付けていないんだよねぇ……」

 

なのはがバツが悪そうな顔をして笑う。

 

「はあ……今夜は帰れるかな?」

 

「あはは、後で全員分の夜食を持ってきますね」

 

「ファリンさん、そういう問題じゃあ……」

 

「まあ、とことんやりましょう」

 

「……はぁ……こうなったらあえて開き直って頑張るしか……(ブツブツ)」

 

「す、すずか……?」

 

「すずかちゃんが壊れた⁉︎」

 

「あはは……そっとしておこう」

 

衣装合わせも終わった所で動きやすい服装に着替え直してから、日付が変わるギリギリまで作業を進めた……明日に引き継いだ。

 

翌日ーー

 

準備期間、2日目。レンヤ達は朝早くから教室で飾り付けや準備を進めていた。一方、学院祭の各種準備もフィアット会長の指揮下で着々と進み……VII組のライバルでなるであろう各クラスの出し物についても万全な状態が整えられるのであった。

 

「……フフ、去年以上に今年は盛り上がりそうだの」

 

学院祭で着々と準備が進められる中、ヴェント学院長とイリード教官が生徒達を屋上から見ていた。

 

「ミッドを取り巻く霧は晴れぬまま東に暗雲が立ち込めているが……」

 

「それでも若者は若者らしく、熱き血潮を燃やすもの………いつの時代も同じでしょう」

 

「ハハ、そうじゃな。ワシにしてもう、貴方にしても、ミゼットにしても……レジアス君にしても、ソイレントの馬鹿者にしてもな」

 

「……ええ……」

 

その時、屋上のドアが開けられ、報告に来たテオが屋上に出てきた。

 

「見回り、行って来ました」

 

「ご苦労、テオ君」

 

「この調子だと、何とか夜までのに一通り完了しそうですね。あ、イリード教官。お疲れ様です」

 

「お疲れ様です、テオ教官」

 

「教官も飲食店関連で大変なのに、ここにいて大丈夫なのですか?」

 

「ええ、あらかた終わったので少し休憩を」

 

「ハハ、ここまで優秀だと、ドマーニ教頭には悪いが次の学院長は貴方を推薦させてもらおう」

 

「おお、確かにいいですね!」

 

「ふう……ご冗談を」

 

イリード教官はため息をつき、テオは苦笑した後、顔をシャキッとする。

 

「それで学院長、モコから何か報告は?」

 

「今のところは。 明日の学院祭には顔を出すと言っておったが」

 

「そうですか……管理局の方には特に何も情報は入っていませんし」

 

「いずれにせよ、あらゆる事が大きく動き始めているようです。そんな中でも、我々の使命は何も変わることはないでしょう」

 

「ですね」

 

「うむ、その通りじゃ」

 

ヴェント学院長は空を見上げると……

 

「覇王よ……それに聖王よ。若者達に勇気と加護を。そして無事、今回の学院祭をやり遂げられるように導きたまえ」

 

祈りを空に向かって呟いた。

 

レンヤ達の預かり知らない所で、多くの大人達が手助けしてくれていた事を……この時のレンヤ達は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

「や、やっと終わったぁ〜……」

 

「ほんと、疲れたよ……」

 

朝から教室内の内装の装飾を終えてlようやく一息がつけた。窓の外を見ると、もう10月に入ったので日が沈むのも早く、少し日も暮れていた。

 

「やり切った実感がありますね」

 

「ふう……久しぶりの労働だったよ」

 

「確かにそうね、最後に肉体労働をしたのは中学3年以来だったかしら?」

 

ああ、あれか。 異界に依頼人の叔母の形見が盗られたので探しに行ったのだが……形見が小さかったのとグリードがいたから夜までのかかったやつか。

 

「あはは……後は明日使う食材のチェックくらいかな?」

 

「そういえば、いつ頃に学院に来るんだっけ?」

 

「そうだな、そろそろ業者が届けに来てもおかしくないはずだが」

 

「一旦確認をした方がいいかもね」

 

「ほな、私が行って来るな」

 

はやてが確認の為、フィアット会長の元に向かった。

 

「さて、私達は内装の再確認をしておこう」

 

「そうだね、手伝うよ」

 

「なら俺達がやっておく。なのは達は休んでおけ」

 

「え、でも……」

 

「こういう事は男子の役目だからね」

 

「そういうこった」

 

「皆さんは休んでいてください」

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

アリサが喜んで了承すると、すずかを連れて教室の一角に置いたテーブル席に座った。

 

(それで……どうだったのよ?)

 

(ど、どうって……何が?)

 

(それはもちろん昨日レンヤと一緒にバイクに乗った事だよ)

 

(昨日聞きそびれちゃったけど、すずかちゃん。実際の所どうだったの?)

 

(それは……その、暖かかったというか……幸せな気分っていうか……)

 

(……いいなぁ、私もレンヤと一緒に行きたかったのに)

 

何やらコソコソと喋っているようだが、俺作業を進めた。それからしばらくして……

 

「た、大変や!」

 

はやてが息を切らせて教室に入って来た。

 

「はやてちゃん?」

 

「も、もしかして……何かあったの……」

 

「それが、私達の食材を搬入していたトラックが事故にあったらしくてな。 そのせいで荷台の冷凍機能もダメになったらしくて、はよう行かんと食材がダメになってしまうんや!」

 

「嘘でしょう⁉︎」

 

「ああもう、何でこう……毎度トラブルが起きるのよ!」

 

「とにかく、急いで行こう!」

 

「私が氷結魔法で冷凍するよ!」

 

「というか場所は?」

 

「クラナガン方面に一駅先のテーマパークの手前や」

 

「よりによって遠い……」

 

「車は人数的にも荷物的にもダメだから……」

 

「氷結魔法使う以上、バイクか最悪……徒歩だな」

 

「そんな〜……」

 

「嘆いてないで行くわよ」

 

念のため、フィアット会長に一言入れると。同伴としてクー先輩とテオ教官が付いて行くことになり、急いで数キロ先の駅まで急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈みすでに夜になってしばらく、準備を終えた学生が次々と寮に帰って行くが、まだ魔導学院に数名が準備を進めていた。

 

「フィアット、お疲れ様」

 

「あ、グロリア君。そっちもお疲れ様。難しそうな設営も何とかなったようだね?」

 

「ああ、大変だったけどね。その分、去年以上に楽しいものになりそうだ」

 

「そっか………………」

 

フィアットは嬉しそうに笑うと、少し残念そうな顔をして黙ってしまった。

 

「ルナのこと、心配かい?」

 

「……うん……絶対に見に来てくれるとは思うけど……テロや管理局の事もあって……ミッドチルダが大変な状況じゃやっぱり難しいかもって……」

 

「……そうだね。でも、どうしてかな? 僕は余り心配してないんだよね。ルナが学院の行事を取り仕切らないなんて……そんなこと想像もつかないから」

 

「グロリア君……うん、そうだよね……!」

 

と、そこでフィアットは何か思い出した。

 

「そういえば……VII組、レンヤ君達まだ帰ってこないね……何もないといいんだけど」

 

「資材搬入トラックのトラブルはこっちでも聞いていたけど……昼間機器の確認しに行った時は、内装はほぼ終わりかけていたから、喫茶店の方は大丈夫だと思うな」

 

「うーん、クー君が同伴で付いて行ったけど……ちょっと心配じゃない?」

 

「うん、言われてみれば」

 

「はは、ちょっと遅かったようだな」

 

テオの声が正門から聞こえてくると、大荷物を持ったレンヤ達と手ぶらのテオとクー、ファリンがいた。 荷物はバイクのサイドカーにも乗っていたが、大半の荷物は全部手で持って来ていたので、VII組のメンバーはずいぶんと消耗していた。

 

「レ、レンヤ君達⁉︎」

 

「見ているだけで重そうだね」

 

レンヤ達は一旦、教室に戻って荷物を調理スペースに置き。 用意したテーブル席に座って一息つく。 ファリンがお茶を淹れてくれ、喉を潤した。

 

「あ、ありえねえ……」

 

「……疲れた……」

 

「にゃはは……まさかバイクがガス欠になるなんてね……」

 

「急ぎすぎてむしろ酷い目にあったよ……」

 

「はあはあ……こんな長時間魔法を維持したのは久しぶりだよ……」

 

「ごめんなさい、すずか。あなたに任せっきりにして……」

 

「飛行魔法を何度も使いたくなったよ……」

 

「その度に止めるのが大変だったよ……」

 

全員が見るからに疲労しており、動くのも億劫そうだった。

 

「皆、大丈夫?」

 

「相当大変だったようだね」

 

「ええ……正直かなり」

 

「いや〜、ぶっちゃっけ付いて行かない方が良かったと思ったぜ」

 

「ですが、それでも手伝った割には……元気そうですね」

 

「やれやれ。 あんましだらしない顔をすんな」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

「でも、良かった。これなら明日が楽しみだよ」

 

「皆、外を見てごらん」

 

グロリアに言われて、レンヤ達は窓の外を見てみると……

 

「あ……」

 

「これは」

 

すでに飾り付けが済んでおり、明日の学院祭がいつでも開催できるようになっていた。

 

「……わぁ……」

 

「飾り付けが終わったのか」

 

「ふふっ……いよいよって感じね」

 

「クク、去年よりも更に盛り上がりそうじゃねーか」

 

「会長、グロリア先輩も、本当にお疲れ様でした」

 

「ああ、君達もお疲れ」

 

「ふふ、それじゃあ明日は大変だと思うけど、目一杯楽しんでね!」

 

フィアット会長に激励をもらい、レンヤ達は明日の学院祭に備えて寮に帰って休むのであった

 

 


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