魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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93話

 

 

夕食の後ーー

 

俺達は男女に別れて大浴場に行き、ここ数日溜まった疲れを存分に癒すことができた。風呂上がりには、卓球や童心に帰って枕投げをやりつつ、普段しないような世間話にあちこちでされ、ルーフェンの夜は静かに更けていく。

 

皆が寝静まった頃、俺は先ほどレイさんに書庫の場所を聞いてそこに向かっていた。あることが気がかりで寝付けなかったのだ。

 

(明日の夜……三岩窟の西側、か。書庫に行けば何か分かるかもしれない)

 

書庫に辿り着くと、本が山ほど積んであった。古い本が多いが最新の本もチラホラとあった。魔力球を浮かせて明かりをつける。軽く見てみると春光拳の武術書や剣術書の入門書と教練書や色々とあった。

 

「て、いかんいかん。本題は地図だ、地図地図っと……」

 

操作魔法で本を出し入れして探しながら目的の物を探す。それからしばらくして……古い地図を見つけた。

 

「ふう……やっぱり操作魔法は苦手だな」

 

よくユーノとかが使っているけど、どうも合わない。

 

地図をみると青空湖が乗ってあり、その上に3つが穴がある岩山があり。そこに丸がついていた。

 

「思ったより近いな」

 

《マジェスティー、その地図の裏にすかし文字が書かれているようです》

 

「すかし文字?」

 

ひっくり返すとただの白紙だが、魔力球の光ですかしてみると文字が浮かび上がってきた。

 

「どうやら三岩窟の説明や進み方が書いてあるな」

 

えっと、西側は……知性と心を試す道、ね。他にも暗星行路という場所もあるそうだが……とりあえず心の道の記述だけを読んで。その後元あった場所に置いて書庫を出て行こうとすると……ふと、ある書物が目に入った。

 

「これは……」

 

どうやら武術書のようだ。技とその優位性と劣等性、使われる場面などがこと細かに書いてあった。

 

「へえ、面白いな。著者はーー」

 

裏返して著者を見ると……シャオ・ハーディンと書かれていた。

 

「ッ……!」

 

シャオ……父の名前。やっぱりここが故郷だったのか。それに書を見るかぎり相当な実力者なのがわかる。だが……それを考えるのは後だ。書を置いて書庫から去った。

 

(ユンおじいさんの言葉……心、心の在り方か……)

 

一度気分を変える為に露天風呂に入ろう。そう思い、歩みを進めると……

 

「ふう……」

 

ロビーでエテルナ先輩が座っていた。

 

「エテルナ先輩?」

 

「ん?レンヤ君ですか。こんな時間まで夜ふかしですか?」

 

「はは、エテルナ先輩こそ。ロビーで何を?」

 

「いえ、湯浴みを終えたら、夜景を見たくなったのです。せっかくですし、あなたも一緒にどうですか?飲み物くらいは奢らせてもらいますよ」

 

「……そうですね。お言葉に甘えて」

 

俺はエテルナ先輩の対面に座った。

 

「ふふ、あなたとこうして話すのは久しぶりな気もします。学院生活は楽しんでいますか?」

 

「半年も過ぎたのに、まだまだ忙しいままで。でも、学院祭も近づいてすごく充実しています」

 

「それはなによりです。色々ありましたが、実習結果も学業も頑張っていますし、順風満帆と言った所ですか」

 

「まだまだですよ。ここにきて気がかりな事が出来てしまいましたし……」

 

「……あなたの父君の事ですね?」

 

「え……」

 

まさか自分の父親の事をエテルナ先輩が知っているとは思いもよらなかった。

 

「ベルカであなたの両親が失踪した事件はそれなりに有名ですよ。わたくしも独自で調べたのですが……シャオ・ハーディン。華凰拳歴代最強とうたわれた武人です。そして……それを目の当たりにして混乱と迷いが出ている、そんな顔をしていますよ」

 

「……先輩の言う通りです。自分が何なのか……むしろ誰なのか。ここに来て、分からなくなってしまいました」

 

「ふふ、焦ることはありません。あなたはまだ1年生、時間はまだまだ残されていますし、仲間もいます。親しい仲間となら、どんな壁でも乗り越えられる……VII組で過ごしてきて、そんな気持ちになりませんでしたか?」

 

「それは……いつだって、思っています」

 

「なら大丈夫です。その気持ちを大事にしてください、答えなんて仲間と学院生活を過ごしているうちに自ずと見つかります」

 

「そうですね……」

 

しばらく沈黙が続くが、俺は先ほどから気になっていた事を聞いてみた。

 

「あの……先輩こそ、何か抱えているんじゃないですか?」

 

「……ふふ、少々先日の一件で航空部隊に目を付けられてしまいましてね。実家にその影響が及んでしまったのです」

 

「なっ……!」

 

「もちろん、手を出されたわけじゃありません。しかし、お父様が用心の為学院に休学届けを提出するように言われました」

 

「何とかならないのですか?学院長達の力を借りればーー」

 

「腐っても管理局です。逆らえば魔導学院の運営にも支障が出ます。単位はこと足りていたので、学院長の配慮で3学年への進級は問題ないのですが……いつ休学が明けるのかわかりません」

 

「…………………」

 

「ふふ、心配しないでください。学院祭は何とか見に行くつもりです。あなたも仲間と共に頑張ってください」

 

「はい……」

 

エテルナ先輩を笑顔で笑うと立ち上がった。

 

「話に付き合わせてしまって申し訳ありません、これで失礼します」

 

「いえ、こちらこそ。相談に乗ってくれて気が楽になりました」

 

「それはなによりです。それでは、良い夢を」

 

「おやすみなさい」

 

エテルナ先輩は部屋に戻って行った。それから少し夜景を眺めた後、本来の目的である露天風呂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱衣所に到着すると、深夜だから当たり前に人はいなかった。

 

「風呂でも入って、頭を切り替えるか。貼紙だとこの時間は混浴らしいけど、さすがに誰も入っていないだろうし。考え事にはもってこいだ」

 

服を脱いで腰に湯浴み用のタオルを巻き、露天風呂に入った。湯煙で温泉はよく見えないが、景色はとてもいい。

 

「……ん?誰か来たのかな?……」

 

「……もしかして、すずか達も眠れないのかしら?……」

 

「ん?」

 

湯煙の中から声が聞こえてきた。俺と同じように眠れないの人が先に入っていたようだ。温泉の手前まで来ると……

 

「あ……」

 

「え⁉︎」

 

「え……?」

 

そこには一糸纏っていないフェイトとアリサがいた。

 

「うわああっ⁉︎ アリサ、フェイト⁉︎」

 

「きゃあああっ‼︎」

 

フェイトは悲鳴をあげて座り込んで温泉に入った。

 

「レ、レレ、レンヤ⁉︎」

 

「ち、違う⁉︎ 誤解だ!」

 

「レーンーヤー……‼︎」

 

「はい?」

 

「焼き加減はミディアムがいい? それともウェルダン?」

 

アリサが手に炎の球を出しながらそう質問してきた。

 

「ええっと……できればレアで……」

 

「あらそう、でも残念だけど私の調理法はロースト(消し炭)しかないわ……!」

 

「さっきの質問の意味は⁉︎」

 

「レンヤ……」

 

今度はフェイトがちゃんとタオルを巻いてゆらりと立ち上がる……なぜか手の上の魔力球があって放電しているけど。

 

「レンヤが……そんな人だったなんて……!」

 

「違う! 断じでそんな人じゃない! と言うか2人共、まず俺の話を聞いてくれ!」

 

「このー!」

 

「ちょっと待って! それ絶対に死ぬ!」

 

「レンヤの……エッチ!」

 

「変態、唐変木!」

 

「ぎゃああああぁっ‼︎」

 

2つの放たれた魔力球が俺を直撃し。俺は温泉に沈んで行った。

 

その後、目が覚めた俺は事情をちゃんと説明して。2人はようやく納得した。

 

「ご、ごめん……まさか今の時間が混浴だったなんて……!」

 

「確認するのを忘れちゃった。それに全力の魔力球をぶつけちゃったし……」

 

「……死ぬかと思った……」

 

2人に背を向けながらしみじみとそう思う。

 

「いや、俺もよく確認してなかったし……悪かったよ」

 

「ううん、私達のせいだよ。お詫びと言ったらおかしいけど……こ、このまま入ってもいいよ///」

 

「え?」

 

今なんて言ったの。もし聞き間違えたらそれはそれで問題だが……

 

「ちょ、ちょっとフェイト!何言ってんのよ!」

 

「誤解したのに、このままだと湯冷めさせちゃうから……それに、申し訳ないし……」

 

「それは確かに、そうだけど……」

 

「えっと〜……この場合、どうしたらいいんだろう……?」

 

正直、この場に誰か来たらさらに面倒な事になるんだが。

 

「はあ、まあいいわ。そのまま入っちゃいなさい。ただし……振り向いたら、分かっているわね?」

 

「いや、分かるも何も俺が出て行けばーー」

 

「いいからそのまま浸かっておきなさい!」

 

出ようとしたら肩を掴まれて湯船に押し戻された。その後アリサは俺の背に寄っ掛かり、次にフェイトも近づいて。それからしばらくその状態と沈黙が続いた。

 

「えっと……レンヤ?」

 

「な、なんだ?」

 

「明日って……予定ある?」

 

「いや、特にないが」

 

ユンおじいさんの所に行くのは夜だし、大丈夫だとは思う。

 

「だったら明日練習に付き合ってくれないかな? 興味深い武術書を見つけたの」

 

「それくらいならお安い御用さ」

 

「ならレンヤ、私にも付き合いなさい」

 

後ろから俺の顔を覗き込むように俺に寄っ掛かるアリサ。という背の柔らかい感触って……

 

「アリサ、私が先だよ」

 

「私も一緒に頼んだのよ」

 

2人は俺を間に入れてにらみ合った。

 

「あの〜、2人共? どっちが先とかは別に後にしても……」

 

「「だめ(よ)!」」

 

ふにゅん!

 

「ぐっ……⁉︎」

 

両腕に言葉にできない感触が発生し、温泉から熱を急激にもらい……熱が頭に到達した。

 

「……あ、レンヤ⁉︎」

 

「ちょっと、しっかりしなーー」

 

天国と地獄の狭間で俺の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜ん、昨日温泉に入った以降の記憶がない……」

 

朝に目が覚めた時、記憶の欠落がある事が気になった。

 

「レゾナンスアーク、俺が温泉に入った後部屋で寝たのか?」

 

《……はい、温泉に30分ほど入った後。部屋で睡眠を取られました》

 

「うーん、やっぱり気のせいか」

 

レゾナンスアークにしては微妙にはっきりと言わなかったが、気のせいならそれでいいか。

 

朝食を食べた後、俺は空いている外道場で刀を無心で降っていた。ただ、食事を食べている時にフェイトとアリサがチラチラとこっちを見ては顔を赤くしていたのが気になったが……

 

他の皆は各自自由に行動しているが、俺は今晩の事もあり体を準備していた。

 

「疾っ……!」

 

地面に点々と置いてある大めの木をを蹴り上げ、力と技で6当分にして薪にする。斬った薪を一ヶ所に積み集めながら速度を上げる。

 

「ラスト!」

 

最後の木を薪に変え、同じ積み上げた。息をはき、静かに残心をする。

 

「見事じゃの」

 

「レイさん」

 

そこに、レイさんが道場に入って来た。

 

「すまんの、客人に力仕事を任せて」

 

「いえ、自分が勝手にやっているだけです。気にしないでください」

 

「そうかの?しかし……」

 

レイさんは屋根より高く積み上がった薪を見上げる。

 

「ほっほ、こりゃ冬に薪割りせんでもいいかもしれんの」

 

「あ、あはは……」

 

「じゃが」

 

レイさんは薪を1つ取るとこっちに投げた。その薪はギリギリの所で斬られていなくて繋がっていた。

 

「……あ」

 

「どうやら、雑念があるようじゃな」

 

「…………はい。情けないですけど、ここにきて……自分に迷っていまして……」

 

「ふむ……」

 

レイさんはヒゲをひと撫ですると、空を見上げた。

 

「そういう時は、あんまり考えずに受け入れればいい」

 

「え……?」

 

「あるがままに、己を、自然も、受け入れ……収めてしまえばいい」

 

「ですが……」

 

知らない自分が今まで自分を操り、鍛えて、体を作っていた……そんな事実を自覚しては簡単には受け入れられなかった。聖王の血でもお腹いっぱいなのに、そこにルーフェンの血まで自分を苦しめている。

 

「ほっほ、悩めばよい。それもまた武術じゃ」

 

レイさんはほっほっほっと笑いながら道場を去って行った。

 

「ユンおじいさんにレイさん……宿題多過ぎでしょう……」

 

薪を片付けた時にはちょうどお昼過ぎになっており、汗を拭いてから食堂に向かうとすでに皆が食事を食べていた。

 

「あ、レンヤ!」

 

「どこ行ってたんや?」

 

「ちょっと道場で気晴らしに刀を振ってただけだ。皆こそ、午前は何してたんだ?」

 

「ルーフェンを歩きながら観光してたよ」

 

「リンナちゃんと一緒にね」

 

「まだまだルーフェンのいい所は残っていますよ!」

 

「それは楽しみにしているね」

 

「ユエ達はどうだったの?」

 

「私達は春光拳の道場にお邪魔していました。皆さんがルーフェンの武術に興味がおありでしたので門下生と混ざって一緒に練習を」

 

「そうそう、小さい子でも凄かったんだから!」

 

「改めてルーフェンの武芸には驚かされたよ」

 

「そういえば……前々から思っていたけど、剄って……魔力とはどう違うの?」

 

フェイトが剄について知らなかったのか、そう質問してきた。他の皆も知らなかったようで興味津々だ。

 

「簡単に言えば、剄は高密度の魔力だな。同じ大きさの魔力量でも爆発的な威力を持っている」

 

「ふーん、私達でも使えるの?」

 

「剄の習得には体質の問題もありますから、誰にでも習得できるわけではありません」

 

「それにシステムと素材の都合上、本来デバイスとの相性も悪い。それを出来るだけ使えるようにしているんだが、基本的に魔法や技は自分の技術で発動するんだ」

 

「確かにユエ君のはアームドデバイスだし、リヴァン君のはストレージデバイスだったね」

 

「デバイスに魔法を登録できないなんて……大変じゃないの?」

 

「さあな、それが当たり前だったし」

 

「それにいささか魔法と呼べる代物でもありませんし……魔力を使った武術の技、とでも認識してください」

 

「それと全力で剄をデバイスに流し込むと、オーバーフローして壊れるから……ユエとリヴァンは攻撃においては全力を出していない事になる」

 

「そうなんだ……」

 

「あれ?そういえばソーマ君のデバイスは? 前にレン君と模擬戦した時、普通に全力だったと思うけど」

 

「え、ええ、まあ……」

 

ユエにしては妙に歯切れが悪い。

 

「ソーマさんのデバイスはルーフェンで作られた特別な金属で作られたデバイスで。ルーフェンに12個しかない特別なデバイスなんです!」

 

「その金属は特殊な形状記憶合金でな。簡単に言えばアームドデバイスなのじゃが……耐久性や魔力伝導率は通常のデバイスとは比べ物にならん。本来はユエにも……」

 

レイさんがそう言いかけると、ユエは大きな音を立てて立ち上がった。

 

「叔父上、私にはその資格はありません。ソーマはなるべくして手にしましたが、私にそんな資格は……」

 

「誰もお前の事は責めてはおらん。奴も納得しておる」

 

「ーー失礼します」

 

ユエは手を合わせて礼をすると、食堂を出て行った。

 

「やれやれ、あの頑固さは筋金入りじゃな」

 

「あの、失礼ですが……昔に何かあったんですか?」

 

「……ふむ、そうじゃな。 VII組の方々には知ってもらった方がいいじゃろう」

 

レイさんは立ち上がると窓の前に立ち、語り出した。

 

「ユエが11の時じゃ、ユエは才覚に溢れ、誰にでも隔てなく優しく、武術を健全に真剣に打ち込む子じゃった。剄の量にも恵まれておったから必然的にルーフェンの12のデバイス……天剣が授けられる予定じゃった」

 

「天剣……」

 

「す、凄そうだね……」

 

「じゃがその時、天剣は全席埋まっていた。そしてある者がユエに後任として天剣を譲り渡したのじゃ。その者はヤン・タンドラ……ユエの父親じゃ」

 

「親子二代で天剣を」

 

「無論、反対する者もおった。天剣を持つ者は最強でなくてはならない……そんなしきたりが当時ユエを苦しめてた」

 

「今は改善されているんですよ? 外から来たソーマさんが天剣を持ち出せたのもそのおかげです」

 

「そんなある日、山奥に現れた危険生物を討伐するためにヤンが出向いた。そして、同伴としてユエが」

 

「まさか……!」

 

「ヤンとの戦いの末、傷ついた危険生物はユエに襲いかかった。ユエも1人の武人、戸惑いながらも危険生物と向かい合った……が、ヤンはそう思わなかった。ヤンはユエを庇って傷を負った、さらに不幸にも反撃したユエの剄を纏った拳がヤンに……」

 

「そんな……」

 

「その後、危険生物は他の天剣授受者に討伐されたが……ヤンはその時の怪我でもう武人としては生きていけなかった。必然的に天剣はユエに授けられたのじゃが……あの子は父の誇りを汚した、自分が父から天剣を奪ったと言い、天剣を受け取らなかった……あの子に責がない事はルーフェンの皆が知っている。じゃが、あの子は未だに自分の責任だと思っておるのじゃ。そして現在、2人の両親は保養地にいてここにはおらん」

 

顔を下に伏せ、レイさんはそう言う。リンナちゃんも泣きそうな顔をしているが堪えている。

 

「すまんの、休みに来たのに湿っぽい話をして」

 

「いえ、お話しして頂きありがとうございます」

 

「あ、あの!兄を嫌わないでください!」

 

「大丈夫だよリンナちゃん、絶対にユエ君を嫌ったりしないから」

 

「今思えば、ユエはあまり自分を語らない人だったね。いつも他人を思いやって……」

 

「誰かを守りたい気持ちはあっても、どこか戸惑い躊躇している……そんな感じだね」

 

「ほっほ、ユエはいい仲間に巡り会えたようじゃ。これからもあの子の友でいてくれると助かる」

 

「もちろんです!」

 

「いつだって、俺達はユエと友達ですよ!」

 

たとえレイさんの頼みがなくたって、ユエとは友達で居続ける。

 

その後、俺達はリンナちゃんの提案でルーフェンの伝統服を着て、ユエにルーフェンの武術の師事をお願いした。最初驚いた顔をしたが、すぐに笑って引き受けてくれた。ただ……教わる事にあっさり習得して応用、新しく技を考える自分にも葛藤した。

 

ユエの事も気がかりだが……自分自身の事をまずはどうにかしなければ始まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー

 

俺は日が沈んだら皆に断りも入れず、夕食も食べずにすぐ三岩窟に向かって行った。自身の問題に皆を巻き込みたくはない。

 

「ここか……」

 

《どうやらそのようです》

 

しばらくして目的地に到着した。目の前には3つの入り口がある洞窟があった。

 

「三岩窟の西側……左の方か」

 

《マジェスティー、洞窟の入り口を》

 

レゾナンスアークが入り口にある台を見つけた。近寄ってみると台の上にアームバンドと角の取れた四角形のデバイスのような物があり、デバイスにはベルカ式の魔法陣が刻まれてあった。

 

バンドを付けると魔力結合ができなくなった。どうやらAMFと同じ効果が出るらしい。気を引き締め、俺は三岩窟の西側のルート……心の道に足を踏み入れた。

 

《ブレイドモード》

 

「……………………」

 

武器だけを展開……刀を腰にさし、前に進んだ。洞窟の中は照明で照らされており、地元の人が使用しているのがうかがえる。

 

「さてと、そろそろ何か出てきてもおかしくないけど……」

 

その時、奥の通路から何か巨大な物が出てきた。

 

「うっわぁ〜……」

 

いわゆるスライムみたいな感じだが、魔導的に見れば液状型の人形だ。

 

「こういう時は核を探して……」

 

抜刀の構えを取り、神経を研ぎ澄ませる。

 

「せいっ!」

 

地を踏みつけ一気に接近し、スライムを細切れに斬り裂く。そして宙に浮いた核を斬撃を飛ばして真っ二つにした。

 

「よし、行くか」

 

その後にもスライムの襲撃はあったが、大した脅威ではなく。あっさり退けて奥に進んだ。

 

「照明が点いていない? ここからが暗星行路か」

 

《どうやら暗闇の魔法がかけられているようです》

 

お先真っ暗とはこの事であり、小さいながらも魔力球で明かりを点けたが奥まで照らせなかった。とりあえずまっすぐに進んでみると……すぐに行く手を大岩が塞いでいた。

 

「うーん、これ砕くと崩落の危険もあるし……迂回するか」

 

横道を通り、地図を作りながら出口を目指した。しばらくして少し大きめな場所に出ると……横から何かが飛んできて明かりの魔力球を破壊された。

 

「ッ……⁉︎ 気配は無かったぞ!」

 

《レーダーが使用不能、目標を感知できません》

 

次の瞬間、全方向から飛来音がすると……全身が斬り裂かれた。

 

「ぐあっ!」

 

なんとか受身をとるが、敵が見えないのでは手の出しようがない。いつもの魔力による探知は使えない、気配も感じ取れない………絶体絶命だ。

 

(何か、何か手は!)

 

またも飛来してくる攻撃にギリギリ対処しながら打開策を模索する。

 

「つっ……!」

 

《マジェスティー!》

 

とうとう膝をつき、刀を支えにして立つ事しかできなくなった。

 

(ここで……終わってしまうのか?)

 

【あるがままに、己を、自然も、受け入れ……収めてしまえばいい】

 

走馬灯のようにレイさんの言葉が頭をよぎる。

 

(それができないから……)

 

【認めろ、自分も周りも。目を背けるな、否定するな……お前はお前なんだからーーー】

 

「!」

 

今まで聞いた事のない男性の声、だけど……なんでだろう、安心できるような、信じてもいいような、そんな感じがする。その時、また飛来音が聞こえ、次の瞬間……

 

キンキンキンキンキンキンッ!

 

飛来してきた物体を全て斬り落とした。

 

(なんでだろう……この感覚。暗闇なのに、全てが見える……感じ取れる)

 

《マジェスティー?》

 

また飛来音がすると同じように斬り、そして飛来してきた先ににあった物体を斬り裂いた。

 

「なるほど、この装置で圧縮した空気を音も無く発射したのか……」

 

本来なら見えないはずなのだが、把握できる……世界が見えている。

 

(聖王でもルーフェンでも、結局は俺なんだ。まずはありのままの自分を認める事が先……そうだよね? 父さん)

 

手の平を見て、拳を握った後、迷わず道を歩いて行く。進んで行くとまた同じ装置が出現し、攻撃して来た。

 

「シールドビット」

 

《イエス、マジェスティー。シールドビット、イグニッション》

 

左右に菱形のコアを核に魔力で作られた盾が2つ展開する。全方向から襲ってきた攻撃をシールドビットで防ぎ、全部の装置に斬撃を放って沈黙させた。ビットの操作が思うように動く、直感が先読みして体が動いているようだ。それからしばらくして暗星行路の出口に出た。

 

「ふう、やっと出られた……」

 

「よう来たの」

 

そして……正面の地面に禅を組んで座っていたユンおじいさんがいた。

 

「暗星行路から抜けられたという事は、理解したようじゃな」

 

「はい、ようやく……自分の意志で前に進むことができました」

 

「結構、じゃが……」

 

ユンおじいさんはそばに置いていた刀を手に取って立ち上がると、強烈な気を俺に向けてきた。

 

「ッ……!」

 

「ワシを退けなければ心の試練、突破できると思わんことじゃな」

 

「……はい、その胸お借りします!」

 

「ーー行くぞ。八葉一刀流総師範……剣仙ユン・カーファイ、参る!」

 

ユンおじいさん……ユン老師が一瞬で接近し、高速で刀が振られるが……先ほどから続いている感覚で受け流し、流れるように斬るが、後退して避けられた。

 

「ふむ、すでに六徳(りっとく)を習得しているの」

 

「六徳……?」

 

なんの事か分からないが、また同じように消え……後ろからの攻撃を確認しないで直感で防いだ。

 

「六徳とは五感を極限化したものが第六感の感覚、すなわち勘じゃ……六徳は数の単位、刹那の10分の1」

 

ユン老師は刀を振りながら説明する。手と刀が見えない速度で何度も斬りかかってくるが、その度にまさしく直感が先に反応し……それに対応して体が先読みして動く。

 

「どうやら虚空にも半歩踏み入っているようじゃ、どれ……」

 

ユン老師は刀を弾くと一歩下がり……先ほどと比べ物にならない速度で突きを繰り出した。

 

「ぐうっ!」

 

ギリギリ受け流したが、首すれすれに刀がある。本気の殺す気の突きだった。

 

「虚空は六徳のさらに10分の1……すなわち刹那の100分の1、大抵の達人の攻撃に対応できよう」

 

「というか……殺す気……ですか……!」

 

「何、心配いらん。おぬしに渡した防護装備があるじゃろう。あれがあれば滅多なことでは怪我はせん」

 

「すでに滅多なことが起きているんです!」

 

触っていないから確証できないけど、さっきから突きに掠った首筋から何やら生暖かいのが流れている感触がある……絶対に血だ、到底信用できない。

 

「ほれ、見切れなければ死ぬぞ……紅葉切り」

 

正面からユン老師が消え、気配は背後にあったが……すれ違いざまに凄まじい剣を何度も斬りかかってきた。

 

「ぐう……はあああっ!」

 

前と右からの攻撃を刀で防ぎ、左と後ろの攻撃はシールドビットで防ぎきった。そしてビットを操作し、ユン老師の左右を塞ぎ……

 

「飛円環!」

 

鋭い弧を描きながらユン老師に飛びかかり、一回転しながら縦360度に魔力斬撃を放った。

 

「ほっ」

 

予想通りユン老師は攻撃を防いだ。

 

《モーメントステップ》

 

空を蹴って地面にスレスレまで身を伏せて抜刀の構えを取る。

 

「雷噛!」

 

ユン老師の刀と腕を狙い、剣筋を稲妻状に放った。

 

「甘いは!」

 

老師それをギリギリで避けると、一瞬で刀を納刀し……

 

「伍の型、残月!」

 

「かっ……!」

 

神速の抜刀が胴を斬り、衝撃で吹き飛ばされた。

 

「かはっ、ごほごほ……」

 

息を吐いて衝撃を体内から逃す。だが傷がないのに腹部の痛みが消えないし意識が朦朧とする。昔、似たような経験がある……DSAAのクラッシュエミュレートだ。今まで軽傷で反映されなかったが、さすがに今の一撃はクラッシュエミュレートに入ったようだ。

 

「限りなく実戦かよ……」

 

《腹部の裂傷から出血及び移動制限が発生しています》

 

「くっ……」

 

「何をしておる、まだ終わってはおらんぞ。早う立て」

 

左手で腹部を抑えながら立ち上がる中、ユン老師は御構い無しにそう言った。

 

「ここで達しなければそれまで……だが抗うのならーー」

 

老師は無納刀状態で抜刀の構えを取り、体から剄が静かに奔る。

 

楓葉切り(ふうようぎり)……さあ、見せてみよ……!」

 

ユン老師が地を静かに踏み込んだ。次の瞬間、俺は無数の斬撃に襲われ……倒れる、いや……防護装備を超えて命が斬られるだろう。だけど……諦めない、最後まで抗い、喰らい付いてみせる……!

 

(受け入れろ、自分を、世界を、あるがままに……否定するな、森羅万象、全てを認めろ!)

 

「う、うおおおおおぉぉっ‼︎」

 

直感をユン老師だけではなく、全方向に……世界に向けた。その瞬間……神速の見えなかった刀が感じ取れた。放たれたユン老師の楓葉切りは全方向から俺に迫っていた。

 

今なら……届く!

 

全方向から来た斬撃を右肩から腕まで剄で強化しながら爆発的に動かし、全て叩き落とす。側から見れば滅茶苦茶に振っているように見えるが、ちゃんと理のある剣筋である。

 

最後の剣筋を弾いた後、ユン老師に接近する。老師がどう反撃、防御するのがわかる。そして防御が及ばない場所に……

 

虚空千切(こくうちぎり)っ‼︎」

 

防御できない部分全てに繋げるように刀で軌跡を描いた。そしてすれ違い、お互いに背を向ける。

 

「うっ……」

 

老師の剣は全て防ぎ切ったが、体がついてこれなかった。不幸中の幸いは剣筋を落とすために複雑な動きをしたが、重心が安定していたから負荷が少なかった……今更ながらに感謝する。

 

「ほっほ、至ったの……虚空に」

 

「はあはあ、はい……」

 

「それにしても容赦なく斬ってきたの。もう少しご老体を労っても……」

 

「冗談言わないでください!」

 

手を抜いたら一瞬でやられるわ!

 

「ほっほっほ……」

 

ごまかすように笑うと奥に進んで行く、まるで疲れていないよあの人。

 

「ほれ、早よ来い」

 

「……その前にクラッシュエミュレートを切ってください……」

 

「おお、そうじゃったな」

 

ようやくクラッシュエミュレートがなくなり、腹部の痛みが消えるが……首筋の傷は本物、今思うとゾッとする。

 

死に体を引きずりながらユン老師について行くと、洞窟の出口が見えて来た。外から月明かりが射し込んで、綺麗な光をみて心がようやく安らぐ。

 

「ここは天声の間、他の道とも繋がっている場所じゃ」

 

「そう……ですか」

 

はっきり言って喋るのも辛いのだ。無理に動かした体が悲鳴をあげている。虚空に体がついて行けなかった……もっと修行しないと。

 

「あの……老師?」

 

「ん、なんじゃ?」

 

「八葉一刀流と言いましたよね。失礼ながら、その流派もユン老師の名前も聞いたことがないのですけど……」

 

「そりゃそうじゃ、八葉は作られてから40年は経っているが……まだ一度も後世に伝えてはおらん」

 

「それは、なぜ?」

 

「さあの? 完成に納得せんかったのか……ま、そろそろ教えても良かろう。おぬしが最初の弟子になるか?」

 

「いえ、俺はまだまだ未熟ですが……もう師はもういます」

 

それは士郎父さんであり、ソフィーさんでもある。あの2人は俺の最高の師匠だ。

 

「そうか……お、誰か来よったな」

 

「え……」

 

老師がそう言うと、確かに段々と数名の人が近付いて来ていた。

 

「どうやら迎えのようじゃの」

 

「あ、あはは……」

 

心当たりがあり、乾いた声しか出ない。時間を見るともう夜の9時だった。激しい足音が近付いて来て……

 

「ようやく出れた!」

 

「なんだったのよ、あのゴーレムは」

 

「ぷはー! 息が詰まるよー」

 

3つの道からバラバラでVII組の皆がここに集まってしまった。

 

「あー! レンヤ君、いた!」

 

すずかが叫ぶと皆が俺を見た。しかし、傷とユン老師を見て身構える。

 

「あなたがレン君を攫ったの⁉︎」

 

「落ち着いてなのは、決め付けはダメだよ」

 

「それでも、レンヤ君が傷だらけや……!」

 

「皆気を付けて、凄まじく強いよ」

 

「ゴーレムで道を塞いだのもこの人?」

 

「おそらくね」

 

なんだか、かなり誤解しているような。と、そこでユエが……

 

「待ってください。この人は敵ではありません」

 

「え?」

 

「そうなんか?」

 

「ユン老師、お久しぶりです。旅からお戻りになられたのなら一言言ってくれれば……」

 

「ほっほ、流浪に無茶を言うな」

 

「えっと、ユエ?この人は……?」

 

「このご老人は八葉一刀流の総師範、剣仙ユン・カーファイです」

 

「よろしくの」

 

「よろしくって……レンヤに何したのよ!」

 

軽く挨拶するが、アリサは俺の傷についてユン老師に追求した。

 

「誤解だアリサ、ユン老師は俺に稽古をつけてもらったんだ」

 

「だからって……!」

 

「ユン老師は迷ってしまった俺に歩き方を教えてくれたんだ、ちょっと過激だったけど……」

 

「……いいは、確かに温泉の時から変だったし」

 

「うん、でも今のレンヤはいい顔をしているよ」

 

とりあえず納得はしてくれたようだ。

 

「それで、皆はどうやってここに?」

 

「レンヤが夕食になっても来ないから皆で家を探してたんだけど見つからなくてね、それで外を探そうとした時にレゾナンスアークから救難信号が届いたんだ」

 

「それでここまで来たってわけ」

 

「そうか……迷惑をかけたな」

 

《いえ、マジェスティーの戦いに水を入れてしまいました》

 

「はは、いいさ。お前は最高の相棒だ」

 

《感謝します》

 

「全くレンヤったら……」

 

アリシアが困り顔で治癒魔法をかけてもらった。

 

「さて、ここにいる全員が望む望まずしても試練を突破したわけじゃ。己の長所や足りない部分も多く見つかったはずじゃ……」

 

ユン老師がそう言うと、心当たりがあるのか皆ハッとなる。

 

「各々が理解したはずじゃ、これからも研鑽せよ……己が道を歩むために」

 

『……はいっ!』

 

仕組まれていたみたいだが、それでも俺達に何か伝えようとしてこうなったのかよ。

 

その後、洞窟を出てユン老師と皆と一緒にタンドラ家に帰って行った。そういえば結局、父の事を聞いていなかった。帰ったら聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三岩窟から帰って来た俺達は、治療をーー特に俺がーー受けて。軽い食事を取って体を休めた。

 

「はあ……つ、疲れた……」

 

「とんだ旅行だな。どうやらテオが仕組んだようだが……」

 

「いや〜、レイ師範に提案されちまってなぁ。レンヤはかの剣仙直々に見てくれるっつうから受けちまったんだよ」

 

「せめて私達に一言くらい入れてもいいのでは……」

 

「やめなさいフェイト、この人に言っても聞きやしないわ」

 

「じゃが、いい修行になったろ?」

 

「それは……まあ」

 

「納得はしていないけど……」

 

「すみません皆さん、おじいちゃんとユン老師がご迷惑を……」

 

「別に気にせんでええよ」

 

俺達の為とはいえ、微妙に納得しないようだ。だが皆はあの三岩窟で何か掴んだみたいだ。

 

「…………………」

 

「お兄ちゃん? どこか怪我でもしたの?」

 

「……大丈夫、心配してありがとう、リンナ」

 

思い詰めるユエはリンナの頭を撫でる。おそらく……昼にレイさんから聞いた話に関係があるのだろう。

 

「あ、そうでした。レンヤさん、裏庭でおじいちゃんが呼んでいます、お一人で行ってくれませんか?」

 

「レイさんが?」

 

「まさか……また……」

 

「大丈夫です! ちゃんと私が釘を刺しておきましたから!」

 

「それなら、いいかな?」

 

「俺も大丈夫だと思うし、行ってくるよ」

 

「うん……」

 

皆に手を振って部屋を出てしばらくしたらいきなりなのは達が騒ぎ出した。

 

「……アリサちゃん、さっき洞窟で温泉の時からってどう言う事かな?……」

 

「……そ、それは……」

 

「……そういえば昨日の夜にフェイトと一緒に温泉に入っていたよね?……」

 

「……確か夜の露天風呂は混浴……まさか、レン君と?……」

 

「……ち、違うよ。レンヤと一緒に温泉に入っていないよ!……」

 

「……アウトや! 何があったかキリキリ喋って……」

 

遠すぎてあんまり聞こえなかったが、気にせず裏庭に向かった。到着するとそこにテーブルとイスが置いてあり、そこにレイ老師が茶を飲んでいた。

 

「呼び立ててすまんの、レンヤ君」

 

「いえ」

 

俺は特に気にせず対面に座った。

 

「レンヤ君、君は私に聞きたい事があるんじゃないかい?」

 

「……はい、俺の父……シャオ・ハーディンについて教えてください」

 

「よかろう」

 

茶を一口飲むと、静かに話し始めた。

 

「シャオは華凰拳始まっての天才じゃった。一度教わり、覚えた技は一瞬で習得し、応用する並外れた力を持っていた。普通なら強さゆえに傲慢な性格になると懸念されていたが……シャオは努力を惜しまず、周りを巻き込んで師事をしていた。月日が経っても優しいシャオのままで、そして……ミッドチルダに留学、レルム魔導学院に入学した。そこでーー」

 

「お母さん……アルフィン・ゼーゲブレヒトと出会った」

 

「さよう、それからどういう経緯で婚約、レンヤ君を産んだのかはワシにもわからん。いきなりアルフィン君と一緒に失踪したと連絡が来ただけじゃ」

 

「そうですか……」

 

思っていたのと違うけど……お父さんの事が知れて良かった。

 

「してレンヤ君、ユンから聞いたのじゃが虚空に至ったのじゃな?」

 

「え、ええ、まあ……あんまり自覚ないですけど」

 

「そうかそうか、神撃の領域に入ったか」

 

「神撃?」

 

「少し見せてもらえんかの?」

 

妙にごまかされたが、一応了承し。席を立って向かい合う。

 

「……………………」

 

静かにあの感覚を呼び起こすと……老師が拳を放ってくるのがわかった。

 

「うむ……まあよかろう」

 

「ふう、いきなりですね」

 

ユン老師とも引けを取らない速度で一気に距離を詰めてられるも、冷静に拳を受け止め、嘆息する。

 

「六徳は攻撃が放たれて刹那に反応するに対し、虚空は放とうとする以前から刹那に反応する境地……いわば予知の類いじゃ」

 

「確かに、そうですね」

 

「レンヤ君が異界に、怪異に関わっていくのならこの先の道は煉獄……後戻りは出来んぞ?」

 

「そうかもしれません、でも……自分が選んだのなら、自分の本当の意思が選んだのなら……俺は、後悔しません」

 

「ほっほ、その目。シャオにそっくりじゃ。お主の道の果て、遠き異郷の地で見守っておるぞ」

 

「はい!」

 

「それとユエとリンナには今のことは内緒にな、怒られるから」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日ーー

 

帰り支度を済ませた後、俺達は一昨日来た駅の前にいた。

 

「もう出発するのですか?」

 

「はい、予定よりも少し遅れてしまいましたが」

 

「叔父上、元気で」

 

「本当にお世話になりました」

 

「気を付けての」

 

「すみません、もっと皆さんにごゆっくりして欲しかったのですが……」

 

昨日のことを気にしているのかシュンと身を縮めるリンナ。

 

「平気だって昨日も言ったろ、むしろいい経験になったんだから」

 

「テオ教官は調子に乗らないでください」

 

「まあ、得難い経験だったのは確かだったよね」

 

「そういえば、ユン老師はどこに?」

 

「えーっと、ユン老師は……」

 

「ヤツなら半刻前にルーフェンを出たぞ」

 

レイ老師が言い忘れていたような口ぶりで言う。

 

「そうですか……」

 

「放浪癖があるとは聞いとったけど……自由過ぎるやろ」

 

「ある意味らしいといえばらしいけど」

 

少々、ユン老師に呆れるも、実りのある小旅行になった。

 

「…………………」

 

「ユエよ」

 

「はい」

 

「昨日の話……聞いておったろ?」

 

「はい……」

 

おそらく、昨日の昼食の時の話しだろう。かなり気まずい空気になる。

 

「えっと……」

 

「その、ごめん! 本人がいない場所で聞く話しじゃなかったよ……」

 

「いえ、私が未熟なせいでもありますので」

 

「ユエ……」

 

「して、お主の答えは出せたかの?」

 

「1つの答えも見出せてはいません……ですが、彼らと、VII組の皆さんと一緒なら。いつかは超えられると信じています。今の自分と、昔の自分に」

 

ユエは迷っていながらもはっきりとそう言った。

 

「はは、なら……ちゃんと言ってくれよ。手伝って……てな」

 

「遠慮なくどしどし頼ってよね!」

 

「僕もユエにお世話になっているし、恩返ししたいから」

 

「皆さん……ありがとうございます」

 

「ほっほ、いい仲間を持ったの。道は共に歩めば延々と伸びて行くものか……」

 

レイ老師は懐から白い長方形の箱のような物を取り出した。

 

「それは……!」

 

「天剣クォルラフィン……ユエと同じ武具の籠手と甲掛にしておる。手にするかはお主次第じゃ」

 

「……いつか、必ずファルマシオンに限界が来ることは重々承知です。そうなっては皆さんの足手まといになるだけ……ですが、掴めば解決する方法が目の前にあっても、私は……」

 

「ユエ」

 

俺はクォルラフィンを取るとユエの前に出る。

 

「俺はユエのことを絶対に足手まといなんて言わない。むしろ俺を足手まといにしてほしい、完全な差をつけられてな」

 

「その天剣はユエのお父さんから奪ったんじゃないよ。受け継がれたんだと思うんだ」

 

「ユエが天剣を選ぶんじゃない、天剣がユエを選んだと思うよ」

 

「……全く、そうまでして天剣を掴ませたいのですか」

 

呆れ顔になりながらも俺の手から天剣を受け取った。

 

「後悔しないでくださいよ」

 

「ああ!」

 

「ライバルが強くなるのなら大歓迎だよ!」

 

その光景を、離れた場所でテオ教官とフィアット会長とエテルナ先輩が見ていた。

 

「こりゃ大変なことになりそうだな」

 

「はい、そうですね!」

 

「ふふ、別れの前にいい思い出をありがとうございます……皆さん」

 

「お兄ちゃん、良かった……」

 

「ほっほ……それにしてもサーヴォレイドか。いやはや、偶然か……もしくは……」

 

色々な事があったがルーフェンに別れを告げ、俺達はミッドチルダに帰って行った。

 

 


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