魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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91話

 

 

シメオン霊山から戻って来た、俺達は広場の一角にいた。

 

「とにかく、何が起きているのか状況を見極める必要があるな」

 

「テロリストとイレイザーズが完全に通じているとしたら……ディアドラ第一製作所が隠蔽している“何か”の証拠隠滅を図っているのが狙いなんだろう……」

 

「でも、そんな事のためにこんな大掛かりな事をするのかな?それともあの霊山に何かあるのかな?」

 

「私も詳しくは知らないけど、山頂に何かしらの霊がいるに違いないと思う」

 

「もしかしたらそれが狙いで、第一製作所の方はフェイクなのかもしれないね」

 

「テロリストの目的がはっきりしないわね……」

 

情報をまとめても、求める情報は得られず。頭を悩ませていた時……

 

「ーー少しばかり到着が遅れましたか」

 

凛とした声が聞こえて来た。そこにはクー先輩とエテルナ先輩、グロリア先輩がいた。

 

「エテルナさん……⁉︎」

 

「グロリア先輩も……」

 

「クーさんいる」

 

「よお、元気してるか?」

 

「どうしてここに?」

 

クー先輩をスルーしつつ、エテルナ先輩からここに来た理由を聞く。

 

「私達は別の案件でイラに来ているのです」

 

「あ、もしかして前にすずか言っていた“気がかり”ですか?」

 

「そう言う事だよ。事件が起きたのは驚いたけど」

 

「会長とは一緒ではないのですか?」

 

「ええ、代わりに各方面の情報収集に当たってくれています。何かあったらすぐに連絡がきます」

 

「えっと、話が見えないんですが……」

 

「あ!そうだ、確か霊山の管理はレグナムが……!」

 

「そう言う事です。どうやらお互いに情報交換をした方が良さそうですね」

 

「いったん場所を変えようか」

 

グロリア先輩に案内で、下層にあるレストランに向かった。

 

「じ、実験ですって⁉︎」

 

エテルナ先輩の説明を聞いて、アリサが驚きで声を上げた。

 

「ええ、どうやら霊山で何やら不気味な実験を我がレグナム家に隠れて行っていたそうなのです」

 

「あの霊山は数年前から調査されているのだけど。調査記録を見る限り不明な点がいくつか見つかっているんだ」

 

「………………」

 

「調査の名目に実験か……」

 

「元々人気の少ない場所だし、気付かれにくいかも……」

 

「その辺りは全部フィアットが調べたんだぜ。ディアドラと管理局、エルの家に提出された資料を集めてな」

 

「その苦労の甲斐あって突き止められたんだ」

 

「凄いな……あの人は」

 

知ってはいたが、改めてフィアット会長の能力に驚かされる。

 

「それで、一体いつからその実験が行われたのですか?それに、その実験の内容は?」

 

「内容の方はまだ何も……期間は憶測だけど、調査が開始されて間も無くだと思う」

 

「そ、そんな早くから⁉︎」

 

「なんで今まで気付かれづに……⁉︎」

 

「家の文献によれば、あそこには遺跡があるそうなのです。おそらくそこで身を隠していたのでしょう」

 

「そうなると真っ先に調査員全員が疑われるんだが……どうやら調査に便乗していたようでな。アシガ付かねえんだ」

 

「ーー実験や遺跡などはともかく。それが事実だとして、先輩方はこの事態にどう動くつもりですか?」

 

「決まっています。代々霊山の番を任された我がレグナム……無関係な調査員の方々も巻き込まれている、これ以上神聖な地を土足で野放しにはいきません」

 

エテルナ先輩は立ち上がり、自分の意志を見せる。

 

「ルナ……」

 

「行くのか?」

 

「フフ、両者共に私ごときの言葉で動きほど純情ではないでしょう……ですから、己が手で災厄を祓うのみ。霊山には何度も足を運んでいます、侵入経路さえ見つかればテロリストも何とか出来るでしょう」

 

「はあ……やっぱりそうなるか」

 

「くく……真面目の割にやる事が大胆だよな、お前は」

 

エテルナ先輩は自分の手でこの事態を収拾する気だ。俺達は顔を見合わせて、頷く。

 

「ーーだったら、俺達も協力します」

 

「突発的な事態に対してどう主体的に振る舞えるか……これも特別実習の活動の一環でしょう」

 

「さすがに放ってはおけません!」

 

「同感、それに武力行使の方が分かりやすくて楽だし」

 

「管理局も関わっている以上、私も放ってはおけない。止めてもついて行くわよ」

 

「私も全力全開で頑張ります!」

 

エテルナ先輩は少し驚くと、くすりと笑う。

 

「ありがとうございます。実は少し期待していました。協力してくれますと助かります」

 

「やれやれ、しゃあねぇか」

 

「となると、航空派の裏をかいて霊山内に侵入する必要があるね。ルナなら、航空武装隊の責任者と話をするくらいならここは出来そうだけど」

 

「その隙に私達が霊山に忍び込むとか?」

 

「うーん、さすがにちょっと難しい気がするけど……」

 

「侵入経路は私達に任せてください。何とか見つけ出してみせます」

 

「わかりました、そちらはよろしくお願いします。私は第一製作所と航空隊に改めて探ろうと思います。グロリアさんはフィアと連絡して政府の動きを探ってください」

 

「了解……それと使えそうな機器とかも調達しておくよ」

 

「俺はエルについて行くぜ、おめえ一人だと心許ねぇからな」

 

「余計なお世話です……けど、ありがとう」

 

初めてエテルナ先輩の敬語以外の口調を聞いた。クー先輩はエテルナ先輩にとって気楽に……心を許せるような存在なのだろう。こうして、俺達VII組A班はエテルナ先輩達と共同戦線を張ることとなり……霊山侵入の手がかりを探し始めた。

 

先にエテルナ先輩達が行動を開始した。それを見送った後、俺達も動き始めた。

 

「俺達も行こう。ああ言っておきながら、手がかりはあるのか?」

 

「エテルナさんも言っていたでしょう、霊山には遺跡もあるって。昔、ベルカの文献でシメオン霊山の事が書かれた記述があったのよ」

 

「私も見た事があるよ。霊山の周辺、もしくはこの街から地下に繋がっている脱出用の通路がある見たい」

 

「ならイラに詳しい人……ソアラさんなら何かに知っているかも」

 

「よし、ディアドラグループ本社ビルに向かおう」

 

「ふう、何で行く先々こう大変なんだ……」

 

「あはは……毎回こんな感じだよね」

 

すぐに本社ビルに向かい、受付にソアラさんがいるか確認した。

 

「あ……皆さん、よかった、ご無事でしたか。市外にも出られると聞いたので心配していたのですが」

 

「霊山の件ね。その事でソアラさんと話をしたいの……戻って来ているかしら?」

 

「ソアラ会長ですか?ええ、つい先ほど……お取次ぎしましょうか?」

 

「お願いするわ」

 

こういう時アリサは頼りになる。受付は備え付けの電話でソアラさんと連絡を取った。

 

「……はい……ええ……VII組の皆さんが……はい、承知しました」

 

ピ………

 

「大丈夫だそうです。あまり時間は取れないそうですが……」

 

「ありがとう。時間はとらせないわ」

 

「それじゃあ23階の会長室に行こう」

 

「何となくキルマリアさんが出迎えて来そうな気が……」

 

「ありえそう」

 

エレベーターに乗り込み、23階に到着すると……

 

「お待ちしていました」

 

キルマリアさんが待ち構えていた。

 

「やっぱり……」

 

「お約束だね」

 

「まあいいわ、案内してくれる?」

 

「はい、でわこちらへ」

 

昨日と同じように案内され、キルマリアさんは会長室のドアをノックした。

 

コンコンコン

 

『通して』

 

「はい」

 

「失礼します」

 

「ごめんなさい。こんな事に巻き込んじゃって、今日の夕食は一緒に出来なそうだわ」

 

「いえ……当然でしょう」

 

「あれだけの出来事が起こっている最中ですから」

 

「どうにかしようにも、手の打ち用がないのが現状で……とても歯痒い状況ね。グループが航空隊に抗議しているのだけど……そう簡単には行かないのよ」

 

「それはどうして……?」

 

「管理局と同じだ。ディアドラは巨大すぎて動けないんだ、動かせば都市規模で影響が出る……管理局より厄介な事態になるんだ」

 

「確かに、その影響は管理局より凄まじくなりそう……」

 

「あなた達がここに来た理由はわかっている……けど、やめなさい。今のあなた達では対処出来ないわ」

 

「それは……」

 

今の、つまり学生の俺達では色々と触りがあるためだ。いかに実力があろうとも、先の事を考えたら足が止まってしまう。

 

「判っているならいいわ。依頼を追加するから今日はそれをこなして。そして、こんな状況でもあるし、明日の朝にはイラを発ちなさい。私が許可します」

 

ソアラさんが初めて命令口調で言って来た。それだけ切羽詰まっているのだろう、しばらく無言が続く。

 

「………………」

 

「ーーそれは出来ません」

 

沈黙を破ったのはアリサの一声だった。

 

「確かに身のあり方で人の行動は抑制されます。でも、だからといって事実から目を背けることは絶対に出来ません。だから変える、この手で!」

 

「…………ふふふ……あっははははは!」

 

ソアラさんは驚いた顔をすると、口に手を当て笑い出した。

 

「いやー、予想通りもいいとこだね。キルマリア、例の物を」

 

「はい……アリサさん、こちらを」

 

目尻の涙を拭うソアラさんは、キルマリアさんに指示を出してアリサに鍵を渡した。

 

「これは……何かの鍵……?」

 

「それは太古に作られた霊山に通じている通路を開くためのものよ」

 

「あ……」

 

「やっぱり、あったのですね」

 

「私の祖先がイラを開拓している時に発見された物よ。掟として世に出してはいけないから調査隊にも黙っていたの。都市上層にある聖王教会系列の教会にある祭壇裏に鍵穴があるはずよ」

 

「そんな大切な事を……いいのですか?」

 

「いいよいいよ。すでに遺跡の事がテロリストにバレているし」

 

「でも、そこを通れば……」

 

「イレイザーズの封鎖を超えて霊山内に侵入できる……!」

 

「ーー感謝するわ。私の言葉を信用してくれて」

 

「失礼します、ソアラさん。必ず無事に戻って来ます」

 

「どうか安心してください!」

 

全員で一礼して、会長室を後にした。

 

「ふふ、役者が揃ったってところね。さて、あなたにお願いしたい事があるのだけど」

 

「何なりと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達はエテルナ先輩達と連絡を取り……都市上層にある教会前に集まった。司祭に断りを入れて、教会奥にある祭壇の裏にあった鍵穴に鍵を差し込み回すと……祭壇前の階段が凹み、地下に繋がる入り口が現れた。司祭に誰も通さないように頼み、エテルナ先輩達と一緒に入り、階段を降りていった。しばらく降りると一直線に通路が奥に伸びている場所に出た。

 

「まさかイラ市から霊山まで直通できる連絡道があったとは。さすがに驚きました」

 

「それにしても何で秘匿していたんだろうね」

 

「ただバレたくなかったのか、それとも見せてはいけないものがあったのか……真意は進めばわかるさ」

 

「ただ、その前に……」

 

グロリア先輩はアンテナがついた機械を置き、ノートパソコンを開くと打ち込み始めた。

 

「これで……よし」

 

すると機械が作動し始めた。

 

「これは……」

 

「魔力波アンテナだね」

 

「工科大学で研究中のものを何とか借りてきたんだ。指向性の魔力波を飛ばす事で通信範囲を広げるもので……霊山付近は通信環境がまだ整っていないから、これで通信機能が霊山でも使えるようになる」

 

「これでリアルタイムで情報をえられるようになったってわけだ」

 

「僕はここで司令・中継役として様々な情報を送らせてもらうよ……危険な状況になったら撤退も指示するから従うように」

 

「……了解しました」

 

「でも、バックアップは助かります」

 

「ま、コイツに任せておけば背後は問題ねぇだろ」

 

「よし、そろそろ行きましょう……VII組の皆さん、改めて宜しくお願い致します。これでも魔導学院の生徒、足は引っ張りません」

 

「おうよ、いい加減先輩らしいとこ見せねぇとな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ルナ先輩とクー先輩が入れば、とても心強いです!」

 

「すずかから聞いていた実力、見せてもらいます」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い。俺達は霊山に向かうため、通路を走り出した。

 

「どうやらここは基本、一本道のようですね」

 

「迷う心配はねぇ、一気突っ切るとするか!」

 

それからしばらく長い通路を走り続け……終点に到着すると地上に上がるための梯子が見えてた。

 

「着きましたね」

 

「どうやらここが脱出道の終点みたいだね」

 

「ああ、相当走ったし、方角も間違っていなさそうだ」

 

「それじゃ、この上が……」

 

「テロリストが占拠している霊山ってわけだね」

 

「それじゃあ、すぐに登ろう」

 

なのはがさっそく梯子に手をかけると……俺はその手を上からその手を抑えた。

 

「え⁉︎レ、レレ、レン君……⁉︎」

 

瞬時に顔を真っ赤にしたなのはの梯子から離した。

 

「梯子や階段を上る時だけは絶対レディー・ファーストの例外……って前にティーダさんが言ってたからな。俺から先に行かせてもらうぞ」

 

「……チッ……」

 

何故そうするのか未だによくわからないが……クー先輩、何故舌打をするんですか?ともかく上に感じ気配が正しいとするなら、外に出る1人目は危険だ。

 

俺は梯子に足をかけ上を見上げる。そして全身に魔力を流して強化して……

 

「しっ……!」

 

手を使わず一気に梯子を駆け上った。そして天井に到達すると……

 

「せいっ!」

 

ドゴンッ‼︎

 

入り口の扉を蹴り破り、遺跡内に侵入した。扉は天井にぶつかり、その上逆さの状態で立ち、内部を確認すると……数体のグリードがいた。

 

「レストレーション02!」

 

《ハンドレットバスター》

 

両手に大型の片手銃を持ち、全方向にいるグリードに向かって魔力弾を連射した。魔力弾は寸分違わずグリードの急所を撃ち抜き、地に降り立てば辺りにグリードはいなかった。

 

「よし、上がっていいぞー!」

 

皆が上がって来るまで辺りを見回した。ほとんど壁の岩がむき出しだが、床だけが整備されており、脱出用なのがうかがえる。

 

「レン君、こういう事は先に言っておいてよ」

 

「済まん済まん、今度からは一言入れるよ」

 

「お願いね(でも……レン君が手を包んでくれた。えへへ///)」

 

どういう訳か、怒っている割には手を合わせて嬉しそうにしている。

 

「ほら、さっさと行くわよ」

 

「あ、ちょっ……!」

 

「レッツゴー!」

 

アリサに手を掴まれ、アリシアに背を押されて奥に歩かされる。

 

「あ! 待って〜!」

 

「ふふふ……」

 

「全く、緊張感がねぇな」

 

少し進み、隠し扉を見つけ。横にあったスイッチを押して壁が下に沈むと、見覚えのある場所に出た。

 

「ここは……どうやら昨日要石があった階だね」

 

「こんな所に繋がっていたのか……」

 

「ここを抜ければ、うまく封鎖された入り口の内側に出られるはずです。まずは状況を確認にしなくては」

 

「そうですね。さっそく行きましょう」

 

ピリリリ、ピリリリ!

 

いざ出発しようとした時、端末に通信が入ってきた。どうやらグロリア先輩のようだ。

 

「っと……こちらレンヤです」

 

『ああ、どうやら到着したみたいだね。通信状態も良好……これなら問題なく君達のサポートができそうだ』

 

「よろしくお願いします。そちらは何かありましたか?」

 

『さっき首都にいるフィアットから連絡が入ってきた。地上警備隊の部隊多くがイラとアーネンベルク方面に集結しているらしい』

 

「それは……」

 

『おそらく、この状況を打開するために何とか動いているんだろう。けど、どれだけ時間がかかるのか分からない……なるべく急いでくれ』

 

「……分かました」

 

ピッ……

 

「グロリア先輩は何て?」

 

「ああ……」

 

通信を切り、全員に地上警備隊の状況を説明した。

 

「アーネンベルク方面にも……!」

 

「くす、なかなかやるようですね」

 

「確かアーネンベルクにはB班が行っていたっけか……」

 

「あっちも混乱していそうだね」

 

「フェイトちゃん達だし……心配はないと思うけど……」

 

「とにかく、一刻の猶予もない……皆、気を引き締めて進もう!」

 

「了解……!」

 

迫り来るグリードを退けながら地上を目指した。どうやら地上本部と同じように同種のグリードが放たれたようだ。それから昨日通った道を通り、地上に出た。

 

「あ……」

 

「地上に出たようだね」

 

「人気がない……それに昨日と地形も変わっている」

 

「霊山にあった瓦礫や岩でバリケードを組んだようですね。おそらくテロリストの仕業でしょう」

 

「イレイザーズの奴らは内部には配備されてねえようだな」

 

「そっちは入り口の封鎖に集中しているみたいです。テロリスト達や人質の調査員達はどこに……?」

 

「ちょっと待って……」

 

アリシアが目を閉じて、何かを感じ始めた。

 

「! いた、頂上付近の人の気配がする!」

 

「それならあちらへ、頂上への道です」

 

「どうやらテロリストどももあの先にお待ちかねみてえだな」

 

「軍需工場みたいに、グリードが放たれてそうね」

 

「なんとか人質を助け出さないとね……!」

 

「ああ……さっそく進もう!」

 

山頂に向かって走り出した。シメオン霊山はそこまで大きくはないが、麓、1合目から9合目と山頂という構成をしている。2合目にさし掛かると突然目の前に2体の銅鐸型のグリード……シュウドータが現れ、立ちふさがる。

 

「大型のグリード……!」

 

「どうやらここを守っているみたい」

 

「ということは……」

 

「はっ、ぶっ倒して進むしかなさそうだな!」

 

「ええ……行きますよ、セイバータクト!」

 

エテルナ先輩デバイスを取り出し起動し、手に歴史を感じさせるレイピアを持つ。

 

「はあっ!」

 

《ミリオンスラスト》

 

1体のシュウドータに連続で魔力刃を纏った突きを入れた。だがもう1体が目を光らせ、視線をエテルナ先輩に向けていた。

 

「させるかよ!」

 

バアアンッ!

 

もう1体のシュウドータの顔面を撃ち抜いた。横を向くと、クー先輩の手には両手では持ちきれないほどの大砲を構えていた。

 

「クー!次です!」

 

「おうよ!」

 

連続の突きを止め、レイピアに魔力を込めて強烈な突きを繰り出しシュウドータを吹き飛ばし。飛ばした方向に大砲を向けて……

 

《リミットバースト》

 

「砲音轟かせろ、スチュート!」

 

砲口から燃え盛る火炎弾が発射され、シュウドータと周囲を吹き飛ばした。

 

「すごい……」

 

「何て息のあった戦い方……」

 

「ボーっとしてんじゃねぇぞ!」

 

「皆さんはもう1体を!」

 

「は、はいっ!」

 

気を取り直し、もう1体のシュウドータに向かって行く。

 

《ソニックソー》

 

「せいっ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

「業火一文字!」

 

《ミラースラッシュ》

 

「やあ!」

 

一気に畳み掛け、後方でなのは達がデバイスを構える。

 

《アクセルシューター》

 

「シュート!」

 

《目標を補足しました》

 

「結晶百七四・光臨翠瀑布(こうりんすいばくふ)!」

 

「花びらよ、切り刻め!」

 

遠距離からの攻撃が直撃し、シュウドータを倒した。もう1体の方を見ると、高速に回転しながら先輩達に突撃していた。

 

「クー、行きなさい!」

 

「おめえが命令すんな!」

 

《チャージブラスター》

 

文句を言いながらも砲口に魔力を溜め込み、巨大な魔力弾を撃った。シュウドータに直撃し、回転が止まった。

 

「止めです」

 

《シュトラグリッツェ》

 

シュウドータの前方に飛び上がり、突きで魔力弾を連続で放ち、最後に魔力刃で貫いた。シュウドータは消えていき、エテルナ先輩は静かににレイピアを収める。

 

「ふう……片付いたか」

 

「い、いきなり現れたから驚いたけど……」

 

「エテルナ先輩、さすがですね」

 

「へっ、全然鈍っていないどころかさらに磨きがかかってんじゃねえか」

 

「フフ、数日前にすずかさんと手合わせのおかげです」

 

「なるほど、納得です」

 

「とにかく、これで先に進めそうだね」

 

「グリードが守っていた場所……もしかして」

 

「ええ、確認してみましょう」

 

少し先に進むと、魔力フィールドで作られた檻に入っていた複数の調査員を発見した。

 

「あっ……君達は⁉︎」

 

「確か、昨日見かけた……」

 

「怪我はなさそうね」

 

「無事で良かった」

 

「あ、エテルナさん……⁉︎」

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

「すぐに檻を壊します、離れてください」

 

シェルティスが魔力フィールドの動力部に剣を突き立てると檻が消え、調査員達が出てきた。

 

「ふう……助かった」

 

「ありがとう、君達」

 

「爆弾やセンサーが付けられていなくてよかったよ」

 

「さすがに山中じゃ崩落の危険もあったんだろう」

 

「済みません、俺達が不甲斐ないばかりに……」

 

「あなた達の落ち度ではありません。むしろ事前に処理できなかった私の責任です」

 

「そ、そんなことないです!」

 

(あはは、随分慕われているんですね)

 

(ま、それなりに付き合いは長いからな)

 

「ところで……人質はこれで全員ではないですよね?」

 

「確かに、昨日あった隊長がいないわ」

 

「……隊長と他の調査員達は、頂上の方に連れていかれたんです。多分、頂上の簡易施設に閉じ込められているんでしょう」

 

「そうですか……」

 

「急がないとな……」

 

「……くっ、いてて……」

 

1人の調査員が腕が痛むのか、腕を抑えた。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

「すぐに手当をします!」

 

アリシアが回復魔法を怪我をした調査員の腕にかけ始めた。

 

「……はは、ちっとばかし抵抗しちまってな。なに、こんなのかすり傷だ」

 

「あまり無理をしないでください」

 

「怪我人もそうだけど……このまま全員を放置するわけにはいかない」

 

「ああ、一旦彼らを連れて街に戻るのが得策だ」

 

「ここは役割分担して行こう」

 

「ええ、それが一番でしょう」

 

「なら、その役目は俺が引き受ける」

 

いきなり名乗り出たクー先輩。

 

「クー先輩……?」

 

「調査員のオッサン達は俺が引き受ける。責任持って送り届けるから、お前達はこのまま先に進みな」

 

「よろしくお願いするわ。あなたの実力なら徘徊しているグリードも退けられる」

 

「そういうこった。エルもいることだし、1人抜けてもどうってこたぁねえだろ」

 

「そうですね……理にかなっています」

 

「そういえば、この人一応先輩だったけ」

 

「ア、アリシアちゃん……」

 

「はは……よろしくお願いします。クー先輩」

 

「おう、任せときな」

 

クー先輩は怪我人の調査員に肩を貸し、来た道の方を向く。

 

「悪いね、街までお願いするよ」

 

「クク、任せとけ。たまにゃあ先輩らしい一面も見せなきゃいけないしな。エル、そっちは頼んだぜ」

 

「…………………」

 

クー先輩はエテルナ先輩に向かってそう言うが、エテルナ先輩は心配そうな目で見つめる。

 

「たっく、お前もこいつらの先輩だろうが。もっとシャキッとしろ」

 

「い、言われるまでもありません!」

 

「そうそうその意気だ。ま、このまま一緒にいて砲撃が誤射ったら、内の男子供が黙っていねえのが怖ぇんだがな」

 

「う、うるさいです!さっさと行きなさい!」

 

「おとっと……オッサン達を送ったらすぐに戻るからな。そんじゃまた後でな」

 

シャーっと牙を向くエテルナ先輩をスルーして、クー先輩は調査員達を連れて街に戻って行った。

 

「……行ってしまったね」

 

「クー先輩だったら大丈夫だと思うけど……」

 

「ふん……心配はいりません。あれでも頼りのはなります」

 

「にゃはは……そうですね」

 

「コホン、先に進みましょう」

 

「ああ、俺達は頂上に向かおう。必ず人質を救出しよう」

 

エテルナ先輩の意外な一面を見つつも先に進み。中間地点にさし掛かろうとした時……

 

ドオオオン……

 

遠くで何かが崩れる音が聞こえてきた。

 

「今のは……」

 

「どこかが崩落した……?」

 

「な、何も起こらないよね?」

 

「かなり距離がある、問題ないだろう」

 

「よかった……」

 

なのはがそれを聞いて一安心していると……

 

ピリリリ、ピリリリ!

 

端末に着信が入ってきた。画面を見るとクー先輩だった、何かあったのだろうか?

 

「はい、こちらレンヤです……」

 

『ーーチッ、やられたぜ』

 

「クー先輩、何かあったのですか?」

 

『一応、調査員のオッサン達は送り届けたんだが……そっちに戻る最中崩落があってな。脱出道からのルートが完全に塞がれちまった』

 

「さっきの音……やっぱり崩落だったか。先輩は無事ですか?」

 

『ああ、問題ない。だが、退路が完全に絶たれちまったようだ。何とか他のルートを探して見るが、お前らの方も気をつけろよ!』

 

「はい、了解です」

 

ピ………

 

「今のはクーですか?」

 

「崩落がどうとか聞こえたけど……」

 

「ああ、どうやら脱出道のルートが塞がれたらしい。クー先輩無事だけど、合流は難しいかもしれない」

 

「そうか……」

 

「これで街に引き返すこともできなくなったわね……」

 

「こうなったら、覚悟を決めるしかないね」

 

「とにかく先に進まなくちゃ」

 

「ああ……気を引き締めて行こう」

 

クー先輩の事を気にかけながらも先を急ぎ、グリードを退けながら9合目にさし掛かった。

 

「そろそろ頂上に到着します。そこに人質が捕らわれている簡易施設があります」

 

「うまくテロリストの目を掻い潜れればいいんだけど」

 

「今の所は直接的な妨害はないし、気づかれてはいなさそうだね」

 

「ともかく、人質の安全を最優先にしないと」

 

「ここから先はさらに慎重に行かないとな」

 

ピリリリ、ピリリリ!

 

と、また端末に着信が入ってきた。今度はグロリア先輩からだ、何らかの情報を得たのかもしれない。

 

「こちら、レンヤです」

 

『ーーグロリアだ。今大丈夫かい?』

 

「はい、問題ありません」

 

『たった今、フィアットからまた連絡があってね。今回は直接話したいそうだからこれから通信を中継するよ。音質は悪いと思うから、スピーカーモードにして待っててくれ』

 

「はい、分かりました」

 

耳から端末を話し、スピーカーモードをオンにしてしばらく待つと……

 

『ーーレンヤ君達、大丈夫⁉︎』

 

「デイライト会長……!」

 

「ええ、皆無事です」

 

『ルナちゃん……よかった、声が聞けて。さっきもクー君が崩落に巻き込まれたって聞いて本当に心配したんだから!こんな事なら私もそっちに行けばよかったよ』

 

「いえ……こうして声が聞けただけでも心強いです」

 

「はい!サポートも頼りにさせてもらっていますし!」

 

「クーも無事です、ひとまず安心してください」

 

『そっか……よかった。コホン、さっき情報が入ってね……地上警備隊に対して、ラルゴ・キール元帥からの調査許可証が発行されたみたい』

 

「元帥の許可証……!」

 

つまり、地上警備隊はイレイザーズの封鎖を超えられる権限を得たわけで、後数分もすれば霊山に突入するという事だ。

 

『うん、イレイザーズもきっと無視できない。もうすぐ地上警備隊も突入できるはず』

 

「……いい報せですね。会長、俺達はこのまま山頂に進みます」

 

「もしその情報がテロリストにも伝わっていたら、それに乗じて裏をかけそう」

 

「うん、それに地上警備隊が突入できてもイレイザーズの妨害がないとは限らないし」

 

「そうね、調査員の安全を考えたら悠長にしてられない」

 

『そっか……分かったよ、くれぐれも気をつけてね!本当に危険になったらちゃんと逃げるんだよっ?特にレンヤ君とルナちゃんは絶対に無茶しない事!』

 

相当無茶しているのが分かっているのか、釘を刺されてしまった。

 

「え、ええ……分かりました」

 

「ふふ、名指しで釘を刺されてしまいましたね。必ず無事に戻ると聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに誓います」

 

『うん……待っているから!それじゃあグロリア君に代わるね』

 

少しノイズが走った後、グロリア先輩の声が聞こえてきた。

 

『ーー話は聞いていた通りだ。皆、どうか気をつけてくれ』

 

「了解です」

 

「後は任せてください」

 

ピ………

 

「あはは……突入前に元気をもらった気がするね」

 

「ああ……クー先輩達の助けでようやくここまで来れた。ここが正念場だ……気を引き締めて行くぞ!」

 

「ええ……!」

 

「これ以上所業、断じで許すわけには参りません……!」

 

先輩達から激励をもらい、一気に奥に向かって駆け抜けた。奥に日の光が見えてきて……そして頂上にたどり着いた。辺りを見回すと雲のちょうど真上の高度にあり、白い絨毯が地平線まで続いていた。

 

「ーー来ましたか」

 

とても澄んだ女性の声が聞こえ、前方にある坂の上を見ると……白い礼服を着て、目元だけを隠す仮面をつけた、腰までの長い金髪……にしてはさらに黄色い髪をした長身の女性が立っていた。だが女性の出すオーラがただの女性とは判断せず、自然身構える。後方には次元会議を襲撃したテロリストと同じ武装をしているのが数名いた。

 

「あなたは………」

 

「仮面……?」

 

デバイスを構え、警戒を続ける。

 

「あなた方が噂のテロリストですか。どうやらわたくし達の侵入はとうに気付いていたようですね」

 

「もとよりイレイザーズの封鎖は当てにしていません。あなた達が来ようと、地上警備隊が来ようと常に迎撃体制は敷いています。過剰戦力だと思いましたが……どうやら十分だったようです」

 

「それは光栄です……」

 

「気をつけて……!彼女、凄まじく強い!」

 

「うう、気迫で肌がビリビリする……」

 

「……どうしてあなたのような気品に満ちた人が、テロリストの真似事をしているんですか?」

 

アリシアの疑問は最もだ、周りのテロリストと比較すれば明らかに浮いていて、この場にいる心情が違うようだ。

 

「そうですね……ただ目的が同じなので行動を共にしている、とだけ」

 

「ッ……!」

 

「それって!」

 

その答えは、ある人物を連想させる。つまりはD∵G教団の背後にいる……

 

「貴方達……どうしてこの霊山を?イレイザーズと協力しても、一枚岩ではなさそうね。ここを襲撃した所で、ミッドチルダに何ら影響はないわよ」

 

「確かに経済的な攻撃にたり得ないでしょう。ですが彼らにとって必要な作戦なので、致し方なく」

 

「ならD∵G教団に聞く、なぜグリードを崇める。悪魔を信仰しているのと同義だぞ」

 

「……貴様らには判るまい」

 

「我らは欲望の先に神を見た、秩序を正せと……!」

 

「たとえ悪魔でも、我らの心は救われたのだ!」

 

「仲間の無念は……我らと共にある!」

 

「くっ……」

 

テロリストの迷いない答えにシェルティスは怯む、心が救われたのは確かだろう。

 

「先月のことか……」

 

「確かに……非情だと思うけど……」

 

「テロには断固たる対応を………それが当たり前でもある」

 

「その通り。これは、どちらが“正義”の話ではありません。彼らは欲望に喰らわれた亡者……世界を救うため、世界を壊すことも厭いません」

 

「そんな……」

 

ゴウッ!

 

女性はこれで話は終わりと言わんばかりに魔力を放出する。手のひらに乗せた非人格がたデバイスを前に出すと、デバイスが起動し……巨大な騎兵槍(ランス)を片手で掴み、構えを取ると静かに雷光が発せられる。

 

「これ以上の問答は無用……彼らの信念に負けては我が一槍、耐えられると夢々思わないこと」

 

「来る……!」

 

「VII組A班、迎撃準備!」

 

「エテルナさん、頼むわよ!」

 

「ええ、任されましたっ!」

 

お互いに魔力を放出し、相手を見据えて集中する。

 

「我が名はフェロー、神槍グングニル。いざ……!」

 

『バチバチ行かせてもらいます』

 

その瞬間、シェルティスが飛び出したが、金髪の女性……フェローが一瞬で目の前に移動した。

 

「な……」

 

「………⁉︎」

 

「ッ……!」

 

ツァリに向けられたランスをアリサと2人がかりでギリギリで受け止めた。

 

「なんて速度……!」

 

「しかも重い……!」

 

ツァリは目の前で起こった事が理解するのが遅れたが、ハッとなってすぐさま飛び退いた。テオ教官と事前に戦っていなければ危なかった。シェルティスとエテルナ先輩はそのままテロリストとの戦闘を始めた。

 

「レンヤ!」

 

「アリサちゃん!」

 

「く、来るな!」

 

「遅い」

 

「っ……!」

 

《オーバーロード》

 

なのはとアリシアが俺とアリサの前に出ると。フェローはランスは戻し、一瞬で構えると……超高速の突きを一瞬で何十も放った。俺達はすぐさま防御と回避体制を取り……吹き飛ばされたがなんとか致命傷は避けた。

 

「……………………」

 

「………くっ………」

 

「私でも……ギリギリだなんて……」

 

「……この人も……人間をやめているの……?」

 

「テオ教官と試合をしてなければ……今のでやられてた……」

 

『へえ、全員があの槍を凌ぐなんてね。エースと呼ばれるだけはあるみたいだ』

 

「なかなかの反応です。三つ編みの少女も全ての槍を見切り他の者も守るとは……見事」

 

「あなたこそ……非殺傷設定にしているなんてね……?」

 

「なっ……」

 

「まさか、手を抜かれた……?」

 

「無用な殺生は好みません。若き芽を摘むことは真意に反します」

 

「テロリストに加担する割に、随分と綺麗な考えのようね……」

 

「否定はしません」

 

「やあっ!」

 

そこに、エテルナ先輩が背後から刺突を繰り出し。フェローは振り返らず、柄でレイピアを受け流し、お互い睨み合う。

 

「まだまだ!」

 

エテルナ先輩も連続で刺突を繰り出すが、フェローと比較するとやや遅く。全て捌かれていた。

 

「その歳でこの速度……かなり苛烈な修練を積んでいますね」

 

「くっ……!」

 

『レンヤ、すぐにシェルティスの援護を!あっちは人数が多くてサポートしきれない!』

 

「レンヤ、私となのはが行くわ!」

 

「私達じゃ、次に来たら、あの槍は見切れきれない……お願い!」

 

「ああ、そっちは任せた!」

 

なのはとアリサはテロリスト達の方に向かい、俺とアリシアはフェローに向かって飛び出した。

 

《オールギア、ドライブ……モーメントステップ》

 

「せいっ!」

 

《ムーブポイント》

 

「ッ……!」

 

機動を上げて、正面に立たないように戦い。お互いに決定打がない状態が続く。

 

「そらっ!」

 

テロリスト達がなのは達に向けて質量兵器の銃弾を放ちながら接近していた。

 

《ロッドモード》

 

「このっ!」

 

銃弾を避けながら、確実にテロリストを棍で倒していく。

 

「くそっ!」

 

《うわ、マジですか⁉︎》

 

「剣晶十九・飛雹晶!」

 

1人が手榴弾を構えたので、幾つも結晶を飛ばし手から落とさせた。

 

「行くよ、ブルームボミング」

 

そこにツァリが端子をテロリスト達に張り付け、次々と爆発させた。

 

「あっちもかなり不利ね……」

 

《お嬢様、ここは分断して完全に孤立した方がよろしいかと》

 

「そうね……レンヤ、避けなさい!」

 

《バーニングウォール》

 

突如、アリサが地面から炎の壁を作り。二手に分断した。

 

「ちょ、アリサ⁉︎」

 

「この程度で気を取られるとは……」

 

「いけない……アリシアさん!」

 

フェローが隙を見せたアリシアに高速の突きを放ったが……

 

「ほう?」

 

「ぐ……」

 

それを、聖王の力を解放しギリギリでアリシアの前に出て刀で受け止めた。フェローの仮面に隠れた翡翠の双眸が俺の瞳を見る。

 

「その瞳……聖王の神眼ですか」

 

「なにっ……⁉︎」

 

『理解していないようだね』

 

《アグレッションドメイン》

 

魔力波が横からフェローに放たれ、フェローは飛び退いた。

 

「レンヤ君!」

 

「エテルナ先輩、助かりました」

 

「完全に分断しましたか。ですがこの程度の奇策で彼らは止まりませんよ」

 

「百も承知!」

 

アリシアとエテルナ先輩が加勢に加わりながら高速の戦闘を続けていく………しかし、ついには炎の壁を背にして追い詰められてしまう。

 

「ぐっ……!」

 

「策に溺れましたか」

 

「ま、まだまだ……」

 

「うっく……お、終わっていません!」

 

ふらふらになりながらも諦めの意志を見せず、デバイスを握る力を込める。

 

「その傷でなおも立ち上がりますか……いいでしょう」

 

フェローをランスを構え、爆発的に魔力を放出する。

 

「ならば全力で答えましょう!」

 

「来るよ!」

 

《ミラーデバイス、セットオン》

 

「はあああああっ!」

 

「ふううっ!」

 

こちらも全力で答えるべく、魔力を一撃に込める。そして炎の壁の反対側からも魔力が上がって行くのを感じる、あっちも大技を出すようだ。

 

「行きます……!」

 

フェローが魔力を膨れ上げ、アリシアが一歩踏み出した瞬間……

 

「ッ……⁉︎」

 

「え……」

 

アリシアが逆方向に走り出し、炎の壁に向かって行った。次の瞬間、炎の壁が開かれ……アリサが燃え盛る剣を持ちながらこちらに向かっていた。2人が交わり側に視線を合わせると、変わったターゲットに向かって行く。

 

《ロードカートリッジ》

 

「紅蓮の刃……イグナイトキャリバー!」

 

「これは……!」

 

《ロックオン》

 

「プリズムデステロア!」

 

「「「ぐあああああっ⁉︎」」」

 

燃え盛る剣をフェローに振り下ろし、ランスで防ぐも炎で体を焼かれ。ミラーデバイスに込められたレーザーを全方向からテロリスト達に発射した。

 

「アリシア!」

 

「了解!」

 

《ムーブポイント》

 

アリサをすぐさま転移させた。

 

「ソーンバインド!」

 

「む……!」

 

「レンヤ、なのは、今だよ!」

 

《バスターモード》

 

「ディバイン……バスター!」

 

《チャージ完了》

 

「スカイレイ……ブレイカー!」

 

防御をしていないフェローに向けてなのはの砲撃と斬撃型のブレイカーが放たれ……フェローに直撃し、爆煙に包まれる。その余波で山は揺れ、小さな石は簡単に吹き飛ばされた。

 

「はあはあ……」

 

「や、やったの?」

 

やがて煙が晴れていき、そこにいたのは……

 

「やりますね、我が礼装を傷付けるとは」

 

礼服が汚れ傷付いているが、ほぼ無傷のフェローが立っていた。

 

「嘘でしょう……」

 

「けど、テロリストは制圧できた」

 

「……くっ……」

 

「エース相手に付け焼刃だったか……」

 

「なるほど……どうやら選択に見合う資格は持っているそうですね」

 

テロリストに膝をつかせ、無力化に成功したが。女性は別格の力を持っており、なんとか傷付けられた程度にしかできなかったが……魔力を余分に消費させ手の内をある程度見た、このまま続ければ地上警備隊が到着し、結果的に勝てる。

 

「ーーここまでだ、これ以上の戦闘の続行は不可能」

 

「大人しく人質を解放しなさい!」

 

「もとよりそのつもり……ですが、その程度で彼らを止められるとでも?」

 

テロリスト達が次々と立ち上がり、目に執念を燃やしている。

 

「そ、そんな……」

 

「まだ立てるのか……⁉︎」

 

「やばいよ。あの人に全然勝てる気がしないんですけど……」

 

「でも、やるしか……!」

 

「ーーそこまでです」

 

そこに、横槍を入れてきた。声のする方向を見ると……肩に白い隼を乗せた水色の髪の少女、クレフがいた。

 

「あなたは⁉︎」

 

「クレフ・クロニクル……!」

 

「……この子が……」

 

「初めて見るけど、こんな幼い子が……」

 

「フェローさん……既にペルソナさんは作業を終えて転移されました。撤退の準備を」

 

「……致し方ありませんね。VII組の方々、次に会いまみえる時はこの身に一太刀……届かせるよう」

 

「すまない……!」

 

「君も急いでくれ……!」

 

フェローは渋々納得したようで、テロリスト達はクレフに礼を言うと山頂奥へ走って行った。目の前にはクレフとフェローが行く手を阻んでいる。

 

「これは……」

 

「さっきよりも厄介だね」

 

「……私は手を出しません。彼女に任せます」

 

そう言い、フェローはランスを待機状態にし、後方に控えた。どうやら今は傍観にするらしい。

 

「レグナム家息女……エテルナ・レグナムとお見受けします」

 

「え、ええ……そうですが……」

 

「そしてVII組……以前と人員は違いますが、今度は水は入らなさそうです」

 

「……まさか、1人で相手をするつもりなの?」

 

「はい……ですが、少々部が悪いので……これくらいは許してください」

 

その時、クレフの左右の空間が赤い渦を巻きながら……2体にゴウセンジュが現れた。

 

「………!」

 

「まだこんなのが……!」

 

「隠し玉まで持っていたのか……!」

 

《Gauntlet Activate》

 

「ガントレット、チャージオン」

 

緑色のガントレットから光が発せられ、隼が緑色に光り球となってクレフの手に収まる。

 

「レルム魔導学院、第3科生VII組の面々……夏至祭から2ヶ月……この巡り合わせを楽しみにしていました」

 

クレフはカードを落としながら手を前に向けると2体のグリードが攻撃して来た。

 

「もう戦闘パターンは読めているのよ!」

 

《チェーンフォルム》

 

アリサは銃身を出してから剣を小さくし、柄から鎖を伸ばし先端に刃がある形態に変化させた。

 

「行くわよ!」

 

《ブラッディカーニバル》

 

銃身の方……チェインガンと、鎖先端の刃……チェインブレードを交互に振り回し2体のゴウセンジュを滅多斬りにする。

 

「ツァリ、投げさせないで!」

 

「う、うん!」

 

ツァリがウルレガリアをクレフに向かって振るい、刃がある花びらを勢いよく飛ばした。しかし、2体のゴウセンジュが身を持ってそれを防いだ。

 

「爆丸、シュート……」

 

その隙に、平坦な掛け声で球を投げ。緑色の球が展開して地面に立つと……

 

ピイイイイイィィッ!

 

「ゼフィロス・ジーククローネ。アビリティー発動」

 

《Ability Card、Set》

 

「ゴースト・ストーム」

 

巨大な緑鳥が出現して、すぐにアビリティーを発動し、クローネは緑色の魔力を纏って突撃して来た。

 

「きゃあああっ!」

 

「なのは!」

 

突撃がなのはに直撃し、弾き飛ばされた所を受け止めた。

 

「先ずはグリードから……!」

 

《剣晶三十三・星清剣》

 

「そうね!」

 

《ソードブラスト》

 

シェルティスが二本の氷柱のように結晶を伸ばして2体のゴウセンジュを串刺しにして動きを止め、エテルナ先輩が前方にいるグリードを薙ぎ払う斬撃を放ち、まとめて一閃した。

 

「次はーー」

 

「ーーゲートカード、オープン。ゼフィロスリアクター」

 

次の行動に移そうとした時、地面から緑色の光が発せられ。突如、強風が吹き荒れる。

 

「これは……」

 

「天候が、操作された?」

 

「皆、見て!」

 

アリシアがクローネを指差すと、クローネは風の影響を受けて魔力が上がった。クレフは空を飛び、クローネの背に乗る。

 

「マズイわね……」

 

「こっちには、あれに対抗できるあいつらがいない」

 

「でも、やるしかない!」

 

《ガトリングブリッツ》

 

背の魔法陣の8門と両手の銃から黄緑色の魔力弾を連射したが……ゲートカードの効果を受けて素早く避けられる。

 

「これで終わり……アビリティー発動、ドレイク・ツイスター」

 

目の前に巨大な竜巻を作り出し、その風圧を伴う斬撃を放った。一ヶ所に集まり、障壁を張りなんとか防ぐ。

 

「うう、これじゃあいつまで持つか……」

 

「八方ふさがりだね……」

 

「私が風の斬撃の合間を縫って緑鳥を落とします。その隙にとどめを」

 

「ダメですよエテルナ先輩!この風じゃあまともに飛べません!私なら……!」

 

「なら、僕の結晶で道を……」

 

「どれも確実性がない、危険だ……許可できない」

 

「でも!」

 

「風……そうよ……風なら!」

 

アリサが何かひらめくと障壁を飛び出した。

 

「アリサちゃん⁉︎」

 

《フレアトーネード》

 

「はあああああ!」

 

アリサは竜巻の前に立つと、チェーンフォルムのフレイムアイズを炎を上げながら振り回し……炎の竜巻を作り出した。

 

「何を……」

 

「! そうか……!」

 

アリサの意図に気付くと……少しずつ相手の竜巻の勢いが落ちていく。周りの風がアリサに集められ……ついには炎の竜巻だけが残った。

 

「そんな……⁉︎」

 

「食らいなさい!」

 

チェーンをクレフに向かって振るうと、竜巻がクレフに向かって行った。

 

「ぐうううっ……!」

 

「なのは!」

 

「うん、任せて!」

 

怯んだ瞬間を狙い、一気に接近する。刀を振ろうとするとクローネは範囲外に逃げるが、なのはのアクセルシューターで押し込まれ、そのまま斬撃を入れ……

 

「「スターブラスト!」」

 

後方からなのはの砲撃が放たれ、それをギリギリで避け。砲撃の魔力をもらい、強烈な一撃を放った。

 

「かはっ……!」

 

衝撃がクレフまで到達し、クローネは球に戻り落下して行った。助けようと空を踏み出そうとすると……落下地点にフェローがいて、優しく受け止めた。

 

「良き決闘でした」

 

「いえ、彼女が幼いゆえの経験不足で勝てました。それがなくては危なかったでしょう」

 

「それよりも、調査員達を解放しなさい!」

 

アリサがそう聞くと、フェローは後方にある建物に顔を向けた。

 

「彼らはあの上です。拘束はしていますが命に別状はありません」

 

「本当に……?」

 

「信じてもいいと思うよ。彼女の信念がそうだから」

 

ツァリが、たとえテロに加担している……それでも信じたいと言う眼差しが、フェローを射抜く。

 

「ふふ、あなたのような青年は初めてです。ありがとう」

 

「い、いえ……」

 

「って、何和んでいるの……!」

 

「このまま失礼、なんて致しませんよね?」

 

勝てる見込みがないと分かっていても、エテルナ先輩は彼女達を逃がそうとはしなかった。

 

「その信念、見事です」

 

フェローの足元にベルカ式の魔法陣が展開されると、一瞬で転移し……クレフ達を連れて消えて行った。

 

「ふう、終わった……」

 

「い、生きた心地がしないよ……」

 

「……見逃されたわね」

 

フェローとの実力差は歴然だった。まさかあんな人がテロに加担しているとは思いもよらなかった。

 

「さて、調査員達を助け出しましょう」

 

「はい、そうですーー」

 

「貴様ら、何をしている⁉︎」

 

背後から男性の怒号が響くと、地上部隊率いるイシュタルさんとイレイザーズ率いる分隊長が現れた。

 

「これは……」

 

「貴様達、ここで何をしている⁉︎魔導学院だったか……どうしてこんな場所にいる⁉︎テロリストはどうした⁉︎場合によってはタダではすまないぞ!」

 

「え、えっと……」

 

「うわぁ、怒りの矛先が変わったぁ……」

 

「……あなた達は……」

 

隊長はテロリストがいない事と、地上部隊が持っているラルゴ・キール元帥の調査許可証で突破された怒りをこっちに向けてきた。そこに、エテルナ先輩が隊長の前に出た。

 

「何か誤解があるようですね。彼らはあくまでわたくしに付き合ってくれただけです」

 

「先輩……⁉︎」

 

「貴様は……レグナスの娘か……」

 

「お、おい……マズイんじゃないか……」

 

エテルナ先輩のことはイレイザーズも承知だったようで、レグナスが管理している霊山を踏み荒らしたとは思われたくないらしい。

 

「狼狽えるな!レグナス嬢、この地を任された我らが管轄された地の範囲に入っておりまして……!」

 

「ーーいつからシメオン霊山が君達の管轄になったのかな?」

 

そこに、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。

 

「な……」

 

「え……?」

 

「この声は……」

 

「まさか……!」

 

そこにいたのは、クー先輩とグロリア先輩、護衛であるゼストさんを引き連れた……クライド・ハラオウンだった。

 

「クライドさん……!」

 

「ナイスタイミング!」

 

「クー先輩にグロリア先輩も……」

 

「よかって……無事でしたか」

 

クー先輩に怪我がない事にエテルナ先輩が安堵する。

 

「おお、そっちこそな。しっかし……とんでもねー事になったな」

 

「ああ……さすがに予想外の結末だね」

 

クライドさんの階級はクロノと同じ提督だが、権限としてはかなり上であり。イレイザーズでもおいそれと牙は向けられない。クライドさんは2つの部隊を引き連れ、奥に向かった。そこには壊された遺跡があった。

 

「……これが霊山に眠っていた遺跡か」

 

「眠っていたは少し語弊があるがな。詳しく調査が必要だろう」

 

「そうだな……」

 

「て、提督はどのような件でこちらに?」

 

分隊長がクライドさんの表情を見て、控えめに質問した。

 

「それは後だ。それよりも状況を整理しよう。そちらの魔導学院生達の行動の正当性は私が保証する。依存はないか?」

 

「も、もちろんです!」

 

「クライドさん……」

 

「はあああっ〜……よ、良かったぁ〜……」

 

身の安全が保証され、ようやく一息がつけた。

 

「そして、私はレグナスからの要請によりこの場の全ては私に一任された。航空部隊は速やかに撤退を。地上部隊は私の指揮下に入ってもらう」

 

「イエス、サー」

 

「りょ、了解です……!」

 

航空部隊が速やかに撤退し、イシュタルさんは何かを疑問に思いながらもクライドさんに敬礼をした。

 

そして……その後の事態収拾は驚くほどスムーズだった。クライド提督の指揮下、地上警備隊は忠実に職務を果たし……残されたグリードの駆逐は俺達がちゃんと行われ、調査員達をも無事、全員が解放された。しかし……事件がもたらした余波はタダではすまなさそうだった。航空部隊は明らかに、テロリスト達の行動を黙認するかのように動き……航空派牛耳る第一製作所による不正実験の証拠もテロリストによって全て破棄されていた。しかし……証拠は限りなく黒に近く。クライド提督はソアラ会長の全面協力を受けるかたちで、厳正な調査を行うことを宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ーー

 

夜の静まりかえった霊山は……いかにも何か出そうな雰囲気を醸し出していた。そこに1人の女性……キルマリアが、崩れた遺跡に近寄っていた。

 

「……やはり何らかの儀式を行うための祭壇ですね……」

 

「どうやらそちらも気付いたようだな」

 

キルマリアの後ろから威圧感溢れる声がした。そこには目を鋭くしたイシュタルがいた。

 

「ええ……おそらく各地にあるものの1つかと。こうも歴史的大発見を無にする神経がわかりません」

 

「確かにな……キルマリア・デュエット。お前とは一度、話して見たかった。雇い主はどこまで関与している?」

 

「……それはいったいどちらの雇い主でしょう?」

 

「はあ、もちろん……両方だ」

 

そこで、イシュタルは何かに気が付いた。

 

「……すまない、どうやら見逃したようだ」

 

次の瞬間、虚空から2体のシュウドータが現れた。

 

「ふっ!」

 

「はあ……!」

 

キルマリアがニ丁拳銃を取り出し、正確に急所を打ち抜き。イシュタルが槍を構え、一瞬で薙ぎ払った。それだけで2体のグリードは崩れながら落ちていった。

 

「お見事です、イシュタルさん。さすがは筆頭を名乗るだけはありますね」

 

「そちらこそ……魔断の射手。腕は落ちていないようだな」

 

「恐縮です」

 

お互いに賞賛し合うが、どこか一線を引いており。その先に踏み入れようとはしなかった。

 

「先ほどの質問ですが、ソアラ会長の方は何も。今回の事態の収拾で手一杯でしょう」

 

「……だろうな」

 

「そしてもう一方は……傍観でしょう。今はまだ、ですが」

 

 


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