魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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遅れて申し訳ございません!


90話

 

 

その後、MIPHONの使用アンケートを書いた後、実習を切り上げ。俺達はディアドラグループ本社に戻りエレベーターで上に上がっていた。

 

「それにしてもすごいね。最上階の2フロアが実家だなんて」

 

「下手な金持ちより金持ちだね」

 

「? それくらい普通じゃないかしら?」

 

「それはアリサだからだろ」

 

「これを普通とは言わないよ」

 

「あ、あはは……何気にアリサってすごいんだね……」

 

それから最上階に到着し、エレベーターを降りるとキルマリアさんが出迎えてくれた。

 

「皆様、どうもお帰りなさいませ」

 

「お邪魔します、キルマリアさん」

 

「相変わらずタイミングいいですね」

 

「恐縮です。それでは皆様、どうぞお入りください」

 

キルマリアさんがドアのロックを解除し、俺達はペントハウスに入った。見るからに豪華な家だと思えるほど広く、窓の外の景色も会長室より絶景だった。

 

「うわあああっ……」

 

「す、凄いの……」

 

「これは想像以上だよ」

 

「へえ、市街が一望できるわね。結構いいじゃない」

 

「久しぶりに見たけど、案外慣れるものだな」

 

「そうだね。ここにすずかの家にアリサの家、後レンヤの実家も見たし……もう慣れちゃったね」

 

「レンヤの実家って……聖王教会の?」

 

「まあ、そうだな。見た目重視でここより生活し難いが、それなりに思い入れもあるからな」

 

「ふふ……うん、そうだね」

 

なのはが同意するように笑顔で顔を覗き込む。

 

「すでに夕食の準備は出来ています。いつでも始められるので、気軽に声をかけてください」

 

「ありがとうございます」

 

「もうお腹ぺこぺこだよ」

 

「我慢しなさい。夕食はソアラさんと一緒に取るんでしょう?」

 

「あ、そうだね。それまで待たないと。聞きたい事もあるわけだし」

 

「それでしたら大丈夫です。先ほどの連絡で、会長は時期に戻ると申していましたので……先に夕食を食べておいても構わないとも言っていました」

 

「う〜ん……どうしよう?待った方がいいよね?」

 

「その方がいいよ。先にレポートを大雑把にでもーー」

 

「ただいま! 今戻ったよ!」

 

その時、ちょうどいいタイミングで玄関が開いてソアラさんが入って来た。

 

「ソアラさん、お帰りなさい」

 

「お帰りなさいませ、会長」

 

「ただいまレンヤ君、キルマリア。皆もただいま」

 

「は、はいっ!」

 

「お仕事ご苦労様です……!」

 

「ふふ、君達も今来たようね。ちょうどいいタイミングね……キルマリア、夕食の準備は?」

 

「いつでも……」

 

「うん、それじゃあお願いね。私は部屋で休んでいるから出来たら呼んでね」

 

「かしこまりました」

 

ソアラさんは自分の自室に入って行った。それから夕食ができるまで、俺はデバイスの調整をしていた。

 

しばらくして夕食が完成し、ソアラさんと一緒に夕食を食べていた。

 

「ん!これは……」

 

「すごく美味しいです!」

 

「ありがとうございます」

 

「て言うか、キルマリアさんってソアラさんの秘書だよね?何故メイドのような事を?」

 

「キルマリアさんはメイドのようなじゃなくてメイドなんだよ。副業だけどね」

 

「ええそうよ。昔、パパに秘書として引き抜かれて以来、家族同然の関係ね。キルマリアほど信頼できる人はいないわ」

 

「ありがとうございます、ソアラ様」

 

「そうなんですか……」

 

「そういえば……そのご両親は?」

 

「2人共、次元世界の分社を回っているわ。当分は帰ってこないわね、2年前に会長の座を貰っているけどパパとママがいなきゃ半人前……今の私は言ってしまえば会長見習いなのよ」

 

「そんな謙遜しないでください。俺はすごいと思いますよ」

 

「そうですよ。本社を任せて貰っているんですから」

 

「ふふ、ありがとう。さて……」

 

ソアラさんはフォークを置いて、話を切り出した。

 

「あなた達の聞きたい事は空と陸の事、でいいわよね?」

 

「……はい」

 

「教えてください。このイラで起きていることを」

 

「そして……ディアドラグループがそれとどう関わっているのかをです」

 

ソアラさんは目を瞑ると、重々しく開いた。

 

「……現在、陸上警備隊からディアドラ第一製作所への強制査察の検討をお願いされているの」

 

「強制査察……ですか?」

 

「第一製作所……ディアドラグループの1部門ですね」

 

「ええ、マインツから送られてくる鉄鉱石を加工した鉄鋼などを中心に手がける部門よ。そういえば、その節でもお世話になったわね。改めてお礼を言うわ。危うくお得意様を掠め取られる所だった」

 

「い、いえ……大したことはしてません」

 

「話を戻すわ。ちなみにディアドラグループが様々な派閥があるのは知っている?」

 

「はい、もちろん。ソアラさんが把握しているのは1部だけで……後は取締役の人達が……」

 

「元々、ディアドラグループは鉄鋼、デバイス、乗用機、工作機械などの各部門の構成で成り立っているわ。問題はそれぞれが大きくなり過ぎた事にあって……そして部門ごとに航空派、陸上派に分かれている事ね」

 

予想外の事実に全員が驚く。

 

「そ、そうなんですか⁉︎」

 

「そんな所まで浸透しているなんて……」

 

「もちろん、私もある程度把握しているわ。でも各部門が社の意向もあって独立していてね。完全に掌握しきれないのよ」

 

「すると、陸上警備隊が査察を検討している第一製作所……そこが航空派が占めているわけね」

 

「なんだか管理局と似たような問題だね。大きすぎるって所が」

 

「そしてその査察を露骨に牽制されている……それが夕方に起きた小競り合いの背景ですか……」

 

「もちろん、改善の為動いているけど……どうしても時間はかかるし、向こうも協力的でもないから……解決は難しいでしょう」

 

思っていた以上に管理局のいざこざに完全に連動していたようだった。

 

「思っていた以上に危ない状態ね……」

 

「そうだね、私達も無関係じゃないし」

 

「ーーそれじゃあ、話はこれで終わり」

 

ソアラさんは手を叩き、この話の終わりを告げる。

 

「各地でも緊張は高まっているけど、君達はあくまで学生の領分で実習を行ってね」

 

「あ……」

 

「助言、感謝します」

 

「ふふ、それじゃあ少し冷めちゃったけど……食べましょうか」

 

確かに少し冷めたが、それでも味は落ちず美味しかった。そして夕食後、俺達は早々に本日分のレポートをまとめた。

 

「それじゃあ皆、私はまだ仕事が残っているからこれで失礼するわ。無駄に広い家だから私室以外は勝手に見回ってもいいからね」

 

「分かりました」

 

「お忙しいのに、お時間を頂きありがとうございます」

 

「私は明日に早朝でイラを発つわ。実習の成功を応援しているよ」

 

そしてソアラさんはディアドラ家を出て行った。恐らく会長室でまた仕事に追われるのだろう。同じ経験があるので同情する。

 

「さて、私達は学院祭の喫茶店の最終的な詰めをしておきましょう」

 

「そうだね、ちょっと詰めきれない部分があるし」

 

「俺も手伝おうか?」

 

「そうね……レンヤは後で意見を聞かせてもらうわ」

 

「レン君にはやっぱりお菓子の意見が聞きたしね」

 

「分かった、なら後で行く」

 

「頑張ってね、皆」

 

「手が借りたいなら遠慮なく言ってよ」

 

レポートを書き終えてから自由行動となり、俺はまたデバイスの……レゾナンスアークのモードの調整をしていた。

 

「う〜ん、リミットブレイクモードは機動と防御主体にして……攻撃は物理と魔力の刃でどうにかするとしても……」

 

頭を悩ませながら、基盤を作っていく。ふと顔を上げると、2階のテラスにアリサが入って行くのが見えた。

 

「アリサ?」

 

もう終わったのかと思ったら、まだなのはとアリシアが意見を出し合っていた。どうやら息抜きのようだ。ちょうどこっちもひと段落ついたのでテラスに向かった。

 

「ふう……」

 

「ーーアリサ」

 

「あ、レンヤ。そっちはもういいの?」

 

「企画だけだからな。まだ基盤が固まっていない状態だ」

 

「そう……」

 

アリサは柵に手を置き、窓の外に見える夜景を眺めた。

 

「この夜景……案外、地上本部といい勝負しているんじゃないか?」

 

「いえ、車の騒音がない分こっちがいいわ」

 

「確かに……」

 

しばらく静寂が続いた。それからアリサがこっちを向いた。

 

「ずいぶんと……歩いてきたわね」

 

「……ああ、そうだな。遠くまで来た」

 

少し理解するのに時間がかかったが……恐らくアリサの言っていることは初めて会った時から今までの道のりのことだろう。

 

「後悔は……してないんだよな?」

 

「当たり前じゃない。当然の事を聞かないで」

 

「はは、そうだな、ごめん」

 

「ふふ、いいわよ。むしろここに連れて来て貰って感謝しているくらいだわ」

 

幻想的な空を見上げ、楽しそうに笑う。

 

「普通に暮らしていたら絶対に巡り合わなかったと思うわ。だから……ある意、あの時私達を攫ってくれて感謝したいくらい」

 

「いくらなんでも不謹慎だぞ」

 

「そうね……でも、手を伸ばして掴んでよかった。辛いことや大変なこともあったけど……」

 

右手を両手で掴まれ、胸の前まで引っ張られる。

 

「ありがとうレンヤ、ここまで手を繋いでくれて」

 

とても可愛らしい笑顔で感謝の言葉を言った。

 

「あ、ああ、むしろお礼を言うのは俺の方だ。ついて来てくれて」

 

「ふふ、ええ……!」

 

アリサが片手を離し、そのまま握手する形になった。

 

「いつも通り、私達のできる範囲で頑張りましょう」

 

「あ、気づいていた?」

 

「当然、何年一緒にいると思っているの」

 

俺はイラで起こっている件をどうにかしたいと考え、明日にでも調査しようと思っていた。

 

「私だけじゃない。なのはも、アリシアも、ツァリも、シェルティスも同じだと考えだと思うわ」

 

「……そうだな。ごめんな、また先走って」

 

「まったくよ」

 

「それじゃあ明日、依頼を受け取ったら皆で話し合おう」

 

「ええ、わかったわ」

 

手を離し、アリサは扉の前に行く。

 

「なのはの所に行くわ。これ以上放っておくとアリシアが知恵熱を出しかねないし」

 

「はは、そうだな。俺もデバイスの調整を済ませておくとするか」

 

アリサは笑顔で頷くと、テラスを後にした。

 

扉が閉まると、また窓の外の夜景を眺めた。正確には街の郊外にそびえているシメオン霊山を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

キルマリアさんの朝食を食べた後、ディアドラ本社前にいた。

 

「ふわあああ〜……」

 

「眠い……」

 

なのはが大きな欠伸をし、アリシアも眠そうに目をこする。

 

「空気が澄んでいて気持ちいいね。山間部にあるから空気も美味しいし」

 

「ベルカと似たような感じかな?都心部では味わえないから結構新鮮」

 

「うーーんっ……!よく地上本部で寝泊まりして、早朝の屋上の空気を吸っていたもんだなぁ……」

 

「そうね、4人で徹夜した後に吸った空気と似ているわね」

 

「あ、あはは……大変だね……」

 

「ま、それは置いといて。僕達で動くとなるとして……昨日のソアラさんの情報が一番有力だね」

 

「うん、その情報を元に私達でできる所まで行こうよ」

 

全員が顔を見合わせて、頷き。アリシアが空間ディスプレイを開く。

 

「第一に限らず、ソアラさんの管轄以外の製作所の取締役は結構好き勝手しているみたいだけど。前任は、各部門を競争させて全体の利益を上げるためにあえて放置してきたようだね。結果がこれだけど……」

 

「放置主義も大概にして欲しいかな……」

 

空間ディスプレイに映されたのは、ディスプレイグループの構成図だ。

 

第一製作所が鉄鋼、大型機械全般の航空派。

 

第ニ製作所が鎮圧用の兵器開発などの地上派。

 

第三製作所が走行車、飛行船などの中立派。

 

第四製作所がデバイス、通信技術などの会長直轄。

 

「勿論、こんな風に単純に分かれていないけど。それでも、各部門を統括する取締役達の立ち位置は明確だね」

 

「見るからに第一と第二が対立していそうだよ……」

 

「そうだとしても、俺達の特別実習は変わらない」

 

「私達でこの状況を少しでも打開できるように頑張ろう!」

 

「ええ!」

 

「おお〜っ!」

 

俺達はイラでの2日目の実習を開始した。依頼を片付けつつ、第一製作所や他の部門の情報を集めた。

 

そして今は、首都方面に続く街道に出現した異界の中にいた。

 

「やっ!」

 

「せいっ!」

 

地下洞窟を模した異界の最奥で、ダンゴムシのようなエルダーグリード……ダンガンチュウにアリサとシェルティスの魔力弾が当たり、壁にぶつけた。

 

「ふう、硬いわね」

 

「丸まって威力が分散されるから、大してダメージが与えられない」

 

「あ、皆見て!」

 

なのはがダンガンチュウを指差すと、勢いよく回転して突撃してきた。それを余裕を持って避けると……

 

「え……」

 

「ちょっ……!」

 

ダンガンチュウは地面を削りながら方向転換して、再度突撃してきた。

 

『レンヤ!』

 

「了解っ!」

 

ウルレガリアの花びら……端子がダンガンチュウを取り囲み。そのまま突撃するダンガンチュウの進行方向に斜め上に傾いたシールドを張り、ダンガンチュウはシールドを登り、空中に飛んだ。

 

「狙いを定めて……」

 

《エネルギーニードル》

 

アリシアの背後にいくつもの魔法陣が展開され、そこから細長いビームを放つ。その時、ダンガンチュウの目が青く光り始め……アリシアのビームを当たる直前に曲げた。外されたビームはさらに曲がるとダンガンチュウに向かうがまた曲げられ、数秒したら消えてしまった。

 

「な、なんで……?」

 

『アリシア、あの魔法は自動で磁場を形成してそこにいる敵を追尾するんだよね?』

 

「う、うん」

 

『今、あのグリードから強力な磁場が形成されている。おそらくあのグリード自身が強力な磁石なんだ』

 

「なるほど、それで磁場で追尾するアリシアの魔法が曲がったわけね」

 

『ただ……問題があるとすればーー』

 

ツァリが言いかけた時、ダンガンチュウが浮かびながら回転を始め、こっちに向かって引っ張られるように突撃してきた。

 

『僕らのデバイスに誘導されて追ってくるんだ』

 

「追尾はお互い様ですか!」

 

シェルティスが結晶を飛ばすも回転と勢いは止まらない。

 

「なら……!」

 

『モーメントステップ』

 

迫るダンガンチュウに突っ込み、一瞬の踏み込みの後……ダンガンチュウの背後に刀を振り抜きながら立つが……いい結果は得られなかった。

 

「くっ……当たる瞬間、刀が反発して大してダメージはない」

 

「それなら!」

 

なのはがバリアを張り、ダンガンチュウの突撃を受け止め……

 

「行っけええぇっ!」

 

《バリアバースト》

 

バリアの表面を集束して爆発させ、ダンガンチュウを吹き飛ばした。

 

「アリサちゃん!」

 

「ええ!」

 

《ロードカートリッジ》

 

ガシャンッ!

 

「伸びろおおぉ!」

 

フレイムアイズを上段に構え、紅い魔力刃が天井ギリギリまで伸びる。

 

「ボルケーノ……インパクト!」

 

巨大な剣はダンガンチュウに振り下ろされ、斬撃の線上から炎が噴き上がった。炎が治ると、ダンガンチュウが叫びを上げながら消えていった。

 

そして、白い光りを放ちながら異界が集束して行き。元の街道から逸れた広場に戻ってきた。

 

「ふう……」

 

「お疲れ様、アリサ」

 

「上手くいってよかったよ」

 

賞賛し合う中、アリシアが辺りを見回す。

 

「……やっぱり。ここに飛空艇が着陸していたみたいだね」

 

「え、そうなんだ?」

 

「確かに、不自然な凹みがあるわね。ちょうど聖王家の専用飛空艇のサイズだわ」

 

「アリサちゃん、よく解るね……」

 

「何度か乗ったことがあるからな。さて、報告しに行こうか」

 

「そうだね、早く戻ろう」

 

来た道を引き返し、イラに到着した。このまま依頼者に報告しに行こうとした時……

 

ウウウゥゥーー!

 

唐突にサイレンが鳴り響いて来た。

 

「え……⁉︎」

 

「こ、この音は⁉︎」

 

周りを確認すると、建物の1つが火事になっていた。

 

「火事⁉︎」

 

「あそこはディアドラの工場のはずよ」

 

「なんでいきなり……」

 

「とにかくいってみよう!」

 

すぐさま工場前に向かうと、工員達が次々と避難していた。

 

「ゲホゲホ……し、死ぬかと思った……」

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「一体何が起きているんですか?」

 

「わ、分からん。いきなり工場にグリードが現れて……」

 

「グ、グリード……⁉︎」

 

「こんな場所で⁉︎」

 

「とにかく避難をーー」

 

ドカアアアアンッ!

 

工場内に爆発が起き、上の階にあった窓ガラスが割れて破片が飛び散る。

 

「うわああっ!」

 

「くっ、ガスタンクに引火でもしたのかも……⁉︎」

 

「まずいね……」

 

「ま、まだ中に仲間がっ⁉︎」

 

工員が工場を見上げながら叫ぶ。

 

「まだ逃げ遅れた人が⁉︎」

 

「ああ、まだ奥に……」

 

「地上部隊や航空部隊はまだ来ないのかっ⁉︎」

 

「そういえば、サイレンもいつの間にか止まっているけど……」

 

「さっきの爆発で壊れたのかもね」

 

「……こうなったら、俺達で突入しよう」

 

その提案に、なのは達は驚く。

 

「それって……!」

 

「今動けるのは俺達だけだ。グリードもいるとなると地上も航空も待っていられない」

 

「そうね、行きましょう」

 

「ま、待ってくれ!せめて地上警備隊を待ってからでも……」

 

「今は一刻も争います」

 

「あなた達はこの場の人達の避難誘導をお願いします!」

 

「くっ、それもあるが……」

 

「こうなったら頼む!仲間を助けてくれ!」

 

「はい、任せてください」

 

「レルム魔導学院VII組……これより、工場に突入する!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリアジャケットを纏い、突入し。逃げ遅れた人がいる奥に向かうと……

 

「! いた……!」

 

「でも、あれって……」

 

奥に逃げ遅れた人もいたが、一緒に千手のような銅像のグリードがいた。

 

「化け物め……!」

 

「応援はまだ来ないのか⁉︎」

 

「く、くそっ……!」

 

ゆっくりとグリードが近寄って行き。工員達は足をすくめる。

 

「ーー待て!」

 

レンヤが大声を出すと、グリードはこちらを向いた。

 

「あ、あんた達は……!」

 

「ここは僕達に任せてください!」

 

「あなた達は避難を!」

 

「わ、わかった!」

 

警備員が工員達と戦闘に巻き込まれない距離に避難するのを確認し、グリードと向き合う。

 

「とは言ったけど……」

 

「やっぱり教団のグリードみたいだね。地上本部に出て来た種類よりも厄介そうだね」

 

「千とはいかないとはいえ、あの二本の三叉の矛が面倒だね」

 

「撹乱しつつ、一気に畳み掛けるぞ!」

 

「ええ……!」

 

グリード……ゴウセンジュは手を合わせ、背にある手で二本の矛を交差させて振り抜いた。

 

「ぐう、なんて重い一撃……!」

 

レンヤが振り抜き前に交差する槍を刀で止めるが、予想以上に重い一撃に冷や汗を流す。

 

「レン君!」

 

《ロッドモード》

 

「イリス!」

 

結晶(クォーツ)を生成します》

 

左右からなのはとシェルティスが飛び出し、同時に攻撃を仕掛けるが、両方の攻撃を6本の手で受け止められる。

 

そして残った腕で3人を殴り飛ばした。

 

「ぐうっ……」

 

「うっ……!」

 

「レンヤ!」

 

《ミラーデバイス、セットオン》

 

庇うようにアリシアが前に出て、ゴウセンジュの周囲に幾つものミラーデバイスを浮かせる。

 

「行くよ!」

 

《パーティクルレイ》

 

2丁拳銃の銃口から小さい魔力ビームを連続して放ち、ビームはミラーデバイスに反射しながらゴウセンジュを全方向から狙った。鬱陶しいのかゴウセンジュはミラーデバイスに狙いを付け、矛を振り上げる。

 

「させないよ!」

 

ツァリの花びらがミラーデバイスを逸らして矛を躱し。さらにゴウセンジュの周りを花びらで埋め尽くしミラーデバイスを隠した。

 

それでもゴウセンジュはがむしゃらに矛と腕を振るう。レンヤ達はそれを避けつつ、全員でバインドを掛け動きを封じる。

 

「今だよ!」

 

「試作段階の装備だけど……ド派手に行かせてもらうわ!」

 

《リボルバービット》

 

背後に1門の非固定型の赤いリボルバー式の砲台が出現した。アリサは腰のマガジンを上に放るとマガジンが消えて6発のカートリッジがばら撒かれ、そのままリボルバーに装填される。

 

「砲撃、用意!」

 

アリサの合図で回転式のマガジンが勢いよく回転を始め、マガジンが赤熱の炎を放つ。

 

撃て(ファイア)!」

 

砲台から赤い砲撃が放たれた。ゴウセンジュは全ての腕で防ぐが、砲撃に耐えられず腕が砕かれる。その隙にレンヤがゴウセンジュの背後に接近する。

 

地疾(ちばしり)!」

 

抜刀と同時に地面すれすれで振り抜き、ゴウセンジュの足を斬り膝をつかせる。

 

「剣晶五十四・双連輝衝!」

 

斬撃を2つ、縦に放ち。上半身に直撃し倒れる。

 

「よし……!」

 

《クリスタルケージ》

 

ゴウセンジュが正三角錐に囲まれ、なのははレイジングハートをバスターモードに変えて構える。

 

「ディバイン……バスター!」

 

正面の面を消し、そこにディバインバスターを撃ち込んだ。衝撃は正三角錐の中に閉じ込められるが、数秒でヒビが入り始め、砲撃が止むと同時に砕けた。

 

そして、ゴウセンジュは光を出しながら消えていった。

 

「はあっ、はあっ……」

 

「倒せたか……」

 

「や、やったの……」

 

「砲身が全然冷めないわ。まだまだ改良が必要ね」

 

息を整えつつ、武器をしまう。

 

「す、すげえ……」

 

「あんなデカブツを倒しちまうなんて……」

 

「そうか、その制服……あの魔導学院の……」

 

警備員と工員達が関心しながら、納得する。

 

「どうやら無事みたいね」

 

「ふう、やっと終わったよ」

 

「さすがにもうダメと思ったよ」

 

「ーー全員、無事ですか!」

 

そこに、数人の隊員を連れたイシュタルが救助のために現れた。

 

「イシュタル一尉……!」

 

「地上警備隊か……」

 

「……誰も大事内容だね。後は私達が対処するから建物の外に避難して」

 

突然の言い分に、レンヤ達は驚愕する。

 

「え……⁉︎」

 

「どういう事ですか?」

 

「ここは軍事機密に属する軍需工場。たとえ君達でも今は学生、関係者以外の立ち入りは本来、許可できない」

 

「それは……」

 

「納得出来ないけど……」

 

「仕方ないね」

 

「……イシュタルさん、後はお願いします」

 

「ふふ、任せておいて」

 

今は猫を被っているが、どこか任せても安心できるような雰囲気だ。

 

「各員、彼らを外まで案内してね。要救助者共々、丁重に送って」

 

「「「イエス、マム!」」」

 

こうして、地上警備隊によって軍需工場はあっという間に制圧された。グリードの駆逐や鎮火活動も迅速に進められ、事件は収束されていった。

 

「……とりあえずは一件落着みたいだな」

 

「残された人達も無事に保護できたって。ああ見えても、やっぱりさすがだよね」

 

「いつも良ければいいんだけど……真面目で面倒くさがりが変なバランスをとっているから……」

 

「……とにかく、これでよしとしましょう。でも……これはテロリストの仕業なのかしら」

 

「可能性はあるね」

 

「だけど……本人がここにいないのが不自然なんだよねぇ」

 

「確かに……目的がわからないな」

 

「ーーそれに関しては調査中だよ」

 

後ろから飄々とした声が聞こえてくると、イシュタルが近寄って来た。

 

「イシュタル一尉……」

 

「その、お疲れ様です!」

 

「君達もね。おかげて、最低限の被害に抑えられたよ」

 

「大したことはしてないです……」

 

「残された人も、無事でよかったわ」

 

「ええ……そうね。あくまで結果論だけど」

 

柔らかそうな雰囲気から一転して、真面目な感じに変わった。

 

「え……」

 

「確かに君達ならグリードを倒せるけど……私達の到着を待たないで突入したのはいただけない。機密の問題もあるし、二次被害の可能性も理解しているはず」

 

「それは……」

 

正論を言われ、アリサは言い返せなかった。

 

「……………………」

 

「それは、そうですけど……」

 

「確かに、無計画過ぎたと思うよ。それでも……」

 

「シェルティス、状況に対して輪郭を見極め適切に対処する……そう教えたはずだ」

 

猫被りが少し解け、鋭い眼光が体を貫く。

 

「それでも……危険から目を逸らすことは出来ません」

 

「………………」

 

レンヤの脳裏に運命に翻弄されながらも自分の意思で異形の左手を振るう女性が浮かぶ。

 

「そこに“力”ある以上、どう付き合う必要がある。そうじゃないですか?」

 

「あ……」

 

「レンヤ……」

 

「…………………」

 

レンヤの言葉に、イシュタルは少し驚いた顔をする。そして雰囲気をまた柔らかくした。

 

「ふふ、仕方ないね」

 

「え……」

 

「結果的に被害も大きくなかったし、今回は大目に見てあげる。ただし、今後はもう少し気を付けるように」

 

「……はい……!」

 

「ありがとうございます、イシュタルさん」

 

「そういえば、あのグリードは一体どこから?テロリストもゲートもいませんでしたけど……」

 

「そういえば……」

 

「うん、私達も気になって調べたけど……どうやら、いくつかのコンテナに収納されて搬入されたみたい……3ヶ月以上前に」

 

「3ヶ月前……?」

 

「……俺達がベルカに行った6月末くらいだな」

 

「そしてD∵G教団がミッドチルダで名乗りあげる1か月前でもある。正直、私達でもチェックし損ねたくらい」

 

「そんな以前からこの事件を計画していたのか……」

 

「予想以上に頭が切れる相手みたいだね」

 

「テロリストのリーダー格……ペルソナと呼ばれる男性。おそらく、彼だろうね」

 

「ペルソナ……!」

 

「それって……」

 

「あなた達がクラナガンで会った男ね」

 

「ああ……」

 

「確かに、そんな印象もあったかな……?」

 

「た、確かに指揮をしていたけど……どこかおかしい気がするんだ」

 

ツァリが手を顎にあて、考え込んだ。

 

「それは俺も思った。リーダーとして引っ張っているんじゃなくて、決定権があるだけ……対等な関係と言う感じだった」

 

「うん、そんな感じ」

 

「そう……まあ、それでも侮れない組織。そて、ここは私達に任せて。皆は実習の続きをーー」

 

そこで言葉を切り、唐突に考え込み、何か気付いたように顔をしかめる。

 

「……イシュタルさん?」

 

「ッ……!そうだ、なんでまだ航空隊は動いてないんだ……!」

 

「すでにあちらにも通達したはず………しまった、航空隊の方を……!」

 

「まさか、陽動⁉︎」

 

「ーーイシュタル一尉!」

 

そこに、やって来た陸上隊の隊員が慌てて報告する。

 

「シメオン霊山で動きが!」

 

「どうやら、テロリストが強襲した模様!」

 

「まさか……!」

 

「はめられたっ!」

 

「ーー総員撤収、霊山に向かう!」

 

猫被りを辞めたイシュタルがすぐさま指示を出し、隊員を引き連れ霊山の方角に向かって行った。

 

「い、一体何が起きているの……?」

 

「でも、なんで霊山を……?」

 

「わからない……けど」

 

「あそこには瘴気が晴れたから、調査員が複数いる……!」

 

「行こう、自体を見極めないと!」

 

「ああ……急いで追いかけよう!」

 

レンヤ達はシメオン霊山の様子を確かめる為、山道を駆け抜け、急いで霊山に向かった。

 

「これは……」

 

霊山に到着すると……おそらく調査員の物であろう車が炎上しているのが目についた。

 

「……荒らされているね」

 

「消化活動はされているから大丈夫だと思いけど……」

 

「それで、イレイザーズは軍需工場じゃなくてここに来ているわけか」

 

「見て、入り口の方……!」

 

霊山の入り口を見てみると、イレイザーズとイシュタル率いる地上部隊がお互いに向かい合っていた。

 

「あれは……イレイザーズと地上部隊じゃないかな?」

 

「あんな場所で何を……?入り口も完全に封鎖しているし」

 

「……とにかく、近くに行ってみよう」

 

両者に気付かれない場所まで近寄る。

 

「ーーテロリストは霊山を完全に占拠した!調査員達を人質に取られた以上、手出しは出来ない!」

 

イレイザーズの分隊隊長がそう言い、霊山の入り口を封鎖していた。それに対し、イシュタルは首を横に振るう。

 

「だからといって、交渉もせずに様子を見るつもりか⁉︎奴らの目的を持って行動している……時間を稼がせてはいけない!」

 

お互いに言い分を認めずに言い争っていた。

 

「激しく言い争っているね……」

 

「……どうやら霊山はテロリスト完全に占拠されたようだな」

 

「そして、先に駆けつけたイレイザーズが霊山を封鎖している……状況としてはそんな感じね」

 

「ど、どうしてそんなことを……」

 

「あからさまに怪しいよ」

 

「うん、イレイザーズの準備も整いすぎているね……ぶっちゃけなくてもグルだね」

 

「ああ……まるで、予期してたかのような感じだ」

 

「それに被害も見た目以上に小さい……十分にあり得るわね」

 

「……だとしたら、イレイザーズがここを封鎖したのは別の理由があるのかな……?」

 

別の可能性を模索すると、アリサが何かに気付いた。

 

「……もしかしたら、ディアドラの第一製作所が関係しているのかもしれないわ」

 

「それって、第一製作所って航空派に属している……」

 

「そういえば、霊山の調査員の出は……確か第二製作所から……」

 

「てことは、第ニに発見されたくない何かを揉み消す為にテロリストと結託して封鎖しているの……⁉︎」

 

「そう考えれば辻褄は合う……でも、それが何なのかはわからない。だがどちらにせよ、調査員が危険に晒される可能性は高い。放ってはおけない」

 

「……一旦、街に引き返しましょう。これからのことを考える必要があるわ」

 

「そうだね……」

 

「心配だけど……今出来ることはない、よね。」

 

その提案に乗り、レンヤ達はイラに引き返した。

 

 


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