「ーーレンヤ君、私たちの養子にならないかい?」
翌日の朝、朝食の席でいきなり士郎さんがそんなことを言ってきた。
「えっと……養子って、血のつながりがない家族ですよね?」
「ちょっと違うけど大体そんな感じだね」
「いやいや、住むとは言いましたけど。 そこまでしなくても…」
「世間体の事もあるし、君の両親が見つかった時にスムーズに話を進めるためでもあるんだ」
「ぐっ」
正論に言い返せなくなった。 しぶしぶながらも納得するしかないか……
「……わかりました」
「ありがとう、ではこの後レンヤ君がいた孤児院に行こう」
「いってらっしゃ〜〜い」
「あなたも行くのよ」
「ーー冗談じゃないです。 好き好んであんな所、行きたくありません」
「これは君のためでもあるんだ」
「レン君、私も一緒に行くの」
「………わかり…ました」
なのはに手を繋がれながら迫られ、重苦しく頷いた。
「恭也、これを忍君に」
「………!これは、わかったすぐに頼んでくる」
「頼んだぞ」
海鳴市の外れ、そこに孤児院はあった。
「レン君……」
フードを深くかぶりうつむく、さっきまでのレンヤはいなく、桃子の服を掴んで放さない。
「……すみません」
「はい!海鳴孤児院へようこそ!何かご用でしょうか」
「この子について、お話があります」
士郎がレンヤを指すと、レンヤは桃子の後ろに隠れてしまう。
「その子は……わかりました、こちらへどうぞ」
士郎たちは孤児院の応接室に通された。
「少々お待ちください、院長を呼んできます」
そう言い残し、出て行った。
「レン君…大丈夫?」
「だっ大丈夫だよ、なのは」
「無理しないでね」
レンヤはラーグとソエルに抱きしめて、震えていた。
「レン君……」
その時、扉が思いっきり開き。
「ようやく見つけましたよ!神崎 蓮也!」
太っている女性が入ってきた。
「こいつを見つけてくれてありがとうございます、私はこの孤児院の院長をしています美谷と言います。こいつはそのぬいぐるみを盗んで逃げた悪ガキでして。見つけていただき本当にありがとうございます」
美谷はレンヤに近づき……
「ほら、さっさとよこしなさい!」
「いやだ!」
ラーグとソエルを奪おうとした。
「待ってください!まずは落ち着いて説明をしてください!」
「美谷さんも落ち着いてください!」
「!失礼しました、ではご説明しましょう」
美谷がソファーに座る、軋む音が聞こえる。
「一年前、そいつがそのぬいぐるみを自分のものだと言い張り同日、養子に出された女の子から盗んだのです」
「その女の子がこのぬいぐるみの所有者だと言う証拠は」
「証拠など無くても、男のそいつがぬいぐるみを持つことなどありえません」
「この子が言うには、この孤児院に捨てられた時、一緒にあったと言っていますが」
「そんなのデマカセの嘘ですよ」
「孤児院に入れられる時、証拠となるような持ち物のや、状況が記録されているはずです」
「そうですか、なら」
美谷が職員に資料を持ってこさせた。
「どうぞ、その時の記録です」
資料を見る限りでは、レンヤがぬいぐるみを持っておらず、その女の子が持っていたと記録されている。
「どうです、動かぬ証拠です」
士郎は資料から目を外し。
「ええ、そうですね」
「ご理解いただき何よりです、では……」
「レンヤを渡すことはできません」
「はぁ?」
「ですからレンヤを渡すことはできませんと言ったのです」
「何を馬鹿な、証拠はちゃんとあるのですよ」
「それが本物でしたらね」
そう言い、ラーグからもらった資料を見せた。
レンヤがぬいぐるみを持っていた証拠と美谷の孤児院不正運用の数々。
「知り合いに頼んで調べさせてもらいました、随分と裕福な暮らしをしていたのですね」
美谷は孤児院に入るはずのお金を奪っていた、その他にも色々と。
「ぬいぐるみを狙うのも、値札がないからオーダーメイドの一品であり、宝石も使われているから、専門分野に高く売りつける気だったらしいな、その女の子と里親からぬいぐるみを盗むよう頼み、その後もう一体を盗む算段だろう。まったく記録まで捏造するとはな、呆れて言葉も出ない」
「くそ!」
ファンファンファン
外からサイレンの音が聞こえてきた。
「どうやらここまでのようだな」
「……くっそがーー!」
逆上してなのはとレンヤに襲いかかった、捕まえて人質にする気だ。
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
「なのは!レンヤ!」
桃子が2人をかばう。
「ふっん!」
士郎が腹を1発殴り、気絶させた。
「弱くなっても、家族ぐらい守ってみせる…!」
「士郎さん……」
「お父さん……」
「しろ…う…さん…」
「もう大丈夫だ…」
「ありがとう……ございます…」
美谷が逮捕され、海鳴孤児院の問題が明るみになり、取り壊されることになった。
「でもよかったよ、養子の手続きができて」
「忍さんとあの人には感謝しなきゃね」
あの後、養子の手続きをしてくれたのは、忍さんが裏で何かをしてたり。
最初に会った職員の人がやってくれた、一年前レンヤがここを出て行くきっかけを作ってしまい後悔していたらしい。
「やっぱり、いい人もいるの」
「そう……だね」
レンヤはまだ暗かった。
その時、正門の前に女の子と、その親と思われる男女がいた。
「いた!そのぬいぐるみを返しなさい!それは私のものよ!」
一年前の女の子だったらしい、親も呆れたように女の子を見る。
「返しなさい!」
「あっ!」
レンヤはソエルを取られてしまう。
「返せ!」
「これは私のものです、私が決めたのですから」
「そんな自分勝手なことを……!」
そこになのはが割り込み、女の子の頬を叩いた。
「痛い?でも大事なものを盗られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ」
その言葉が胸に響いた。
(なにをうじうじしていたんだ、なのはに言ったじゃないか。俺の言いたいことを言うだけだって)
「なのは」
「レン君?」
「ありがとう、おかげで目が覚めたよ」
レンヤは女の子の前にきて……
「そのぬいぐるみ俺の両親の手がかりだ、返してくれ」
さっきまでとは雰囲気の変化に女の子は戸惑った。
「だからこれは私の……」
「わかっているはずだ、それは自分じゃないと。君はそれを認めたくないだけだ」
「ですから…」
「お前はいつまで、親を困らせる気だ」
女の子は里親の顔を見た、とても悲しい顔をしていた。
「私……は……」
女の子はうつむき無言でソエルを押し付け、孤児院から出て行った。里親も謝ってから追いかけた。
「レン君、大丈夫?」
「ありがとうなのは、助かったよ」
「それはレン君の力だよ、似たようなこともあったし、私も許せなかったから」
「似たようなこと?」
「えっと、初めてアリサちゃんとすずかちゃんに会った時、同じことがあって、それで……」
「……それで?」
「………アリサちゃんにビンタしちゃったの………」
「…ぷっ、あははははははは!」
「わっ笑わないでよ〜〜!」
「あっははは、はーごめんごめん、すごくなのはらしいなって」
「私…らしい?」
「そ、すぐに誰とでも仲良くなれる、そんななのはが羨ましいよ」
「私も…レン君のその優しさが羨ましいの」
「そうか、俺たち似た者同士だな」
「にゃ!そっそうだね///」
あれ?顔が赤くなった。
「2人とも、行きわよ」
「はい!今行きます、ほら行こうかなのは」
俺はなのはに手を伸ばす、なのはは笑顔で手を握った。
「うん!」
「そんなことがあったの」
あの後、家に帰って恭也さんと美由希さんに事情を説明してた。
「ふふ、あの時の士郎さんかっこよかったわよ」
「からかうのはよせ」
「あら、本当のことよ」
士郎さんは顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「それで養子の件はどうなったんだ?」
「問題なくできたわ、これでレンヤはうちの子になったわけです」
「忍君には感謝しないとな」
孤児院でも言っていたが、士郎さんと桃子さんが俺を呼び捨てにしていた。
「そ・れ・で、レンヤ♪」
「なっなんですか?」
「私のことは、お母さんと呼びなさい」
「えええ!そこまで了承したつもりは……」
「いいわね」
「いいもなにも……」
「い・い・わ・ね♪」
「……………はいっ」
有無言わせぬ、迫力に屈した。
「それじゃ、私の事もお父さんと呼んでくれるかい?」
「はい、お父さん」
「なに?やけに素直じゃない」
「もう…諦めました……」
「なら私の事もお姉さんと呼びなさい!」
「いやです、美由希さん」
「即答⁉︎少しくらい悩んでもいいじゃない!」
「性格からして、姉とは呼べません」
「ガーーン‼︎」
「あはは」
「俺は今まで通りでいいぞ」
「はい、恭也さん!」
「あら、もったいない。素直に聞くと思うのに」
「いきなり変えても戸惑うだけだ」
「なのはとは今まで通りがいいな」
「私もレン君とは今が一番なの」
「ふふ、それじゃあ今日もお祝いといきましょうか」
「またですか⁉︎」
「今回は、アリサちゃんの家に招待されたの」
「それって……」
「レンヤがアリサを助けたお礼をしたいそうだ」
「別にそこまでしなくても……」
「もう決まったことだ、断れば余計な恥をかかせるだけだ」
「………わかりました」
「ふふ、ちゃんと正装しなきゃね」
「えっ」
あれから正装をして、やって来た車に乗った。
「鮫島さんよろしくお願いします」
「かしこまりました。失礼、あなたが神崎 蓮也様ですね、私はアリサお嬢様の執事をしています、鮫島と言います。この度はアリサお嬢様を救っていただき誠に感謝しています」
「いえ偶然居合わせただけですし、様もいりません」
「ほっほ、これは癖でしてね。それとも旦那様とお呼びした方がよろしいかと」
「結構です!」
ノエルさんと同じことを言ったよ。流行っているの、それ?
「それでは参ります」
車はアリサの家……邸宅に向かって行った。 そして……
「やっぱりデカイ」
大きな邸宅を見上げた呟く。 先日すずかの家と同サイズとアリサが言っていたが……敷地もかなり広いような……
「驚く事か?」
「驚きますよ……」
屋敷の中に案内されて、奥行きに長い部屋に入った。テーブルも奥に向かって長い。
そこにアリサがやって来た、綺麗な赤いドレスを着て少し化粧をしていた。
「ようこそ皆様、今日はご足労頂き誠にありがとうございます。こよいの食事会どうかお楽しみください」
ドレスの端をつかんでお辞儀をするアリサ、本当にお姫様みたいだ。
「アリサちゃん、綺麗なの!」
「なのはも可愛いわよ」
アリサは俺の前に来て。
「どう?何か感想はあるかしら」
「ああ、アリサが敬語でしゃべっていた」
「そっち⁉︎他にも言うことがあるでしょう!」
「ごめんごめん、そのドレス似合っているぞ。本当のお姫様みたいだ」
「そっそう……ありがと///」
「レン君!私は⁉︎」
なのはは白いドレスで肩が出ている
「綺麗っていうより可愛らしいが似合う、なのはらしいよ」
「えへへ///」
扉が開きアリサの両親と思われる男女が入ってきた。
「初めまして、私はデビット・バニングス。アリサの父親をさせてもらっている、こっちが妻の……」
「ジョディ・バニングスです、この度はアリサを助けて頂きありがとうございます」
「いえ、そんなかしこまらなくても……」
「はっはっは、命の恩人にそのような無下な扱いはできんよ」
そこに鮫島さんがやって来て……
「旦那様、お食事の用意が出来ました」
「わかった、積もる話もあるが、それはディナーの後にしよう」
俺たちは席に座って、出てくる料理を食べた。
テーブルマナーなんて、落ちたスプーンを拾ってはいけないくらいしか分からない。
「………ほら、こうやるのよ………」
隣でアリサが教えてくれなければ、完食できなかった。
当然、味なんてよくわからない。こんなに疲れるごはん初めて。
食事が終わって、デビットさんが話はじめた。
「改めて、アリサを助けてくれてありがとう。君がいなければ今頃どうなっていたか」
「すずかのお姉さんにも言いましたが、偶然居合わせただけです、アリサに嫌な思いをさせてしまいました」
「私は大丈夫よ、あんたが守ってくれたもの」
アリサは顔を赤らめて言う。
「ふむ……やはり」
「ええ、そのようですね」
「レンヤ君、君はアリサのことをどう思っているのかい」
「パ、パパ⁉︎」
「どう思っている…ですか。…会って間もないですが、勝気で負けず嫌い、友だち思いででも素直になれない、でもそれがアリサだって思える証明なんです……すみません、うまく言えなくて」
「いや結構だよ」
「アリサ、いい友人に恵まれたわね」
「う、うん///」
「あら?本当に友人でいいのかしら」
「ママ!」
「うふふ」
「さて、これから困ったことがあれば頼ってくるといい。力にならせてもらおう」
「はい!感想します」
「送らせましょう、鮫島」
「了解しました、奥様」
「すごかったねー、レン君!」
「俺はむしろなんでなのはが平気なのか不思議なんだけど」
「前にアリサちゃんに教わったの」
「ああ、それで」
「ほら2人とも早く帰るぞ」
「う〜ん、緊張した〜」
「その割にはよく食べていたわね」
「うっおいしかったんだもん」
「はは」
「俺たち忘れられていないか」
「桃子が連れて行けないって言ってたからね」