カレイジャスのブリッチにいるクルーの1人がクロノって名前でした。
偶然って恐ろしい……
俺達がクラウディアに乗り込むとすぐに上昇し、クラナガンに向けて飛翔した。目的通り、お披露目のためクラウディアはクラナガンを中心とした地区を時計回りに飛びんだ。
現在はイラに向かっており、クルーから送られてくる情報を得てクロノが指示を出してアルトセイム上空を飛んでいた。
「ここがクラウディアのブリッジか。アースラより広いな」
「クルーが少ないのも相変わらずだけどね」
「開発部が作った最新型の情報処理システムが使われているね。ディアドラグループと、イーグレットSS、トライセン工房の共同開発のようだね」
すずかがクルーの1人が使用しているディスプレイを覗き込み、製造元を推測する。
「ふふ、さすがすずかちゃんは詳しいわね。この艦の開発にあたっては様々な人々の力を借りましてね。資金面でクロノ君に、技術面でプレシアさんに、色々とご迷惑をかけてしまってね」
「どうやら結構資金繰りに苦労したようだな」
「ええ、ウイント氏も含めて各方面から融通してもらいました。その甲斐もあって理想通りの素晴らしい翼が完成したと思っています」
「全長は90メートル。アースラよりは一回り大きいサイズだな」
「ディアドラ製の高性能エンジンを30基搭載したことによって、大気圏内での最高速度は700を超え……大型の次元艦で上位に入るほどの速度と迎撃能力を誇っているよ」
ミゼットさんに続き、ヴィータとヴィロッサが全長と大まかな性能を話してくれた。
「それにしても、聞けば聞くほどすごい艦ですね」
「でも……ちょっとやり過ぎな気も……」
「お母さんならやりかねないと思うよ」
「それにしても……まさかクロノが艦長なんてね」
「もしかして、アースラを降りたんか?」
「一応、今もアースラの艦長を兼任しているが、元々アースラは経年劣化なので長期間の任務には耐えられないと診断されていてね。まだ廃艦処分は決定してないが、なんとか後一回だけでも出動できるようにはするさ」
「そうなんだ……」
「ジュエルシード事件、闇の書事件や任務で………今思えば、私達ととても縁が深い艦だったね」
「そうだな。それでクロノ、“牽制”……でいいんだよな?」
クロノにクラウディアが現れた意味を聞いてみた。
「ああ、空と陸……主に空を牽制するために海から僕が、ミゼット統括議長に大任を任されたんだ」
「なるほど、確かに適任だ」
「ふふ、クロノ君だから任せられるのよ」
「基本的にクルーはアースラと同じメンバーだけど、他の部隊の出向や、教会騎士団からも出て来ているんだ」
「効果は確実にありそうだな」
リヴァンが納得する横で、ユエが質問した。
「ついでという話ですが……このままミッドチルダ全体を回るおつもりで?」
「ああ、各地の緊張を少しでも和らげるようにね。そして……D∵G教団にも睨みを利かせたいと思っている」
「確かに……トライセンの飛行艇も使っていたし」
「ゲンヤさんやティーダさんも動いているが……この艦なら、違う形で奴らの動きを牽制できるな」
「効果的でしょう?それに、こうして気軽に飛べるのもいいものですよ」
「ま、そのせいでティーダ辺りの航空警備隊が苦労するんだがな」
「このご時世、空を飛ぶのも簡単じゃないからね」
確かに、基本的に飛行魔法の使用は禁止だからな。
「さて、この艦ならイラまで1時間はかからないよ」
「しばらくくつろぐといい。機関部や機密エリア以外は自由に見学しても構わない」
「ありがとう、クロノ。そうさせてもらう」
クロノに許可ももらったことで、各自自由に艦内を見学して回った。ヴィロッサの言っていた通り、クルーは知り合いばかりだったが、騎士団の団員に会うと跪かれたりした。
それからすぐにイラに到着して、俺達A班はB班とテオ教官達に別れを告げてイラの地に足をつけた。クラウディアはすぐに離陸し、ミッドチルダ東部に向かうクラウディアを見送った後……都市中心部に続く回廊を歩いていた。
「な、なんだが屋内をずっと歩いている気が……」
「確かに、イラなら当たり前そうだけど」
「中心部はもう少し先だ。はっきり言って地球出身の俺達でも魔法の国と思うくらいだ」
「そうそう、非常識な街だからね〜」
「そういえば、レン君とアリシアちゃんは来たことがあったんだっけ?」
「そうね、ここは2人の管轄が重なる場所だから。私も一度来たわ、驚いて何も言えなかったけど……」
「そ、そうなんだ……」
「あ、結局滞在中の宿泊場所ってどこなんだろう?確かに案内人がいるそうだけど」
「さあね、まあ、予想はつきそうだけど」
「………?」
そうこうしていると奥から外の明かりが見え、回廊を抜けると……
「な、なにこれ……!」
「街が上の方にも?」
どこかミッドチルダと似たような雰囲気を微かに感じるも、それでも皆にこの街は初めて見るような光景なのだろう。上層と下層をつなぐ道は基本的にエレベーターなのだし、それくらい上層と下層は離れているんだ。
「これが技術と工業で栄えてきた巨大魔導都市……イラだよ」
「……確かに非常識だね」
「昼なのに電灯が点いているよ……」
「人口は20万人……ちょっとした小国並みよ」
「なんだが前来たよりも大きくなっているな……」
「さて、それじゃあ案内人はどこに……」
「ーー失礼します」
シェルティスが辺りを見回そうとすると、ワインレッドの髪をひとまとめにした、スーツを来たメガネの女性が声をかけてきた。
(やっぱり……)
「えっと、あなたが……?」
「はい、レルム魔導学院、VII組A班の皆様ですね。初めまして、キルマリア・デュエットです、以後見知りおきを。ようこそ、工業都市イラへ、滞在中の宿泊場所までご案内します」
「あ、はい」
『レン君、知り合いなの?』
『ついて行けばわかるさ』
キルマリアさんについて行き、上層にエレベーター向かうに乗った。
「ふ、普通に街に中にエレベーターがあるよ」
「さすがに驚きだよ」
「これぐらいここじゃ普通だよ」
「へえ……あ、あれは?」
なのはの指差した方向に塔のような建造物が立っていた。
「ずいぶん変わった形の建物だね」
「あれは魔導ジェネレーターだろう。小型のを見たことがある」
「魔導ジェネレーターは集束魔法と同じ原理で空気中の魔力を集めて発電する物だ」
「イラには大規模工場が多いため大量の電力が必要とされています。その場合、各工場で電力を生み出すより、巨大なジェネレーターから分配した方が効率よく電力を生み出せるんです」
詳しい説明をキルマリアさんが説明してくれた。
「そ、そうなんですか……」
「ここではそんな事情があるんですね」
エレベーターを降りると、目の前に見上げるほどの高いビル……ディアドラグループの本社ビルが建っていた。
「すごい……」
「資料で建物自体見たことはあるけど……」
「にゃはは、さすがはディアドラグループの本社だね」
「はは……俺も最初にイラに来た時はちょっと目を疑ったな」
「まあ、大きいけど地上本部よりは小さいからね」
「規模の問題でしょう、特に気にすることもないわ」
「それでは中に入りましょうか」
ディアドラグループの本社に入った。内部もかなりの造りだと思われる。
「内部も豪華だね」
「あれって、ディアドラグループの製品ディスプレイなのかな?」
「空間シュミレーターによる投影だな、実際に触れると思うぞ」
「まあ、それは後でいいでしょう」
「それでは23階……会長室まで案内します」
またエレベーターに乗り、23階に到着し。奥にある会長室の前まで来て、キルマリアさんがドアをノックした。
コンコンコン
「失礼します。VII組の方々をお連れしました」
『通して頂戴』
「はい」
キルマリアさんがドアを開けてくれ、俺達は会長室に足を踏み入れた。
(うわ〜……!)
(すごい眺めだね)
だが、幾分大き過ぎる気もする。使用しているのは奥にあるデスク辺りをだけだと思う。そのデスクに夜色の髪をした女性が座っていた。
「よく来てくれました、レンヤ君とアリシアちゃん以外は初めまして。私はディアドラグループの会長を務めさせてもらっていますソアラ・ディアドラです」
「よ、よろしくお願いします」
「ふふ、そう固くならないで、もっと気を楽にしていいわよ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、このまま話していたいのですが……この後外せない案件がありましてね」
ソアラさんは引き出しから封筒を取ると、前に来て渡してくれた。
「ありがとうございます」
「夕食までには戻れると思います、積もる話はそこで。後のことはキルマリアに任せています」
「分かりました、お気をつけて」
ソアラさんはそのまま会長室を出ようとすると、何か思い出したのか振り返った。
「そうそう、知っての通り今陸と空は荒れているから可能な限り近寄らないでね。それと……できれば南にある霊山にも深入りしないでね。今あそこは原因不明の瘴気が発生しているの。ま、君達はしっかりしているから大丈夫だと思うけど、気をつけね」
「お気遣い、ありがとうございます」
なのはのお礼に笑顔で返し、ソアラさんは会長室を出て行った。
「大企業の会長だから厳しい人かと思ったけど、結構優しい人だね」
「そうなんだが、ソアラさんはああ見えていつも忙しいんだ……理由は一緒なんだけど……」
「え、今なんて?」
「なんでもない」
「それにソアラさん、綺麗な髪をしていてお嬢様って感じだったよ」
「私達の身の安全も考えてくれるしね」
「そうね、彼女の苦労が共感できそうだわ。さて、私達も実習を始めましょう」
「荷物は寝室に運びます。皆様もどうかお気をつけて」
キルマリアさんに見送られ、またエレベーターに乗って1階に向かった。
「あ、しまったな。全員の荷物をキルマリアさんに預けちゃったけど……大丈夫かな?」
「多分、大丈夫でしょう。しっかりしていたし、どうやらソアラさんも信頼しているようだから」
「私もそう思うよ。あ、そうだレン君、さっき受け取った実習の依頼を見てみない?」
「ああ、判った」
封筒を取り出し、中に入っていた依頼書に目を通した。
「大体は工業に関する物だが……これが厄介そうだ」
俺は必須と書かれている一枚の依頼書を皆に見せた。
「なになに……霊山の周辺調査をせよ、ね。ソアラさんにも注意されたけど、霊山っていうのは?」
「ここより南にある山脈よ。普通の山と違って洞窟を通って頂上に行くルートがあったりする珍しい山よ」
「でも、瘴気が発生したって言っていたよね。その原因を探るのかな?」
「それも含めて調べて解決するのが特別実習だ。他の依頼もあるし、それを解消してから行くとしよう」
「了解だよ!」
俺達は実習を開始した。本社を出る前に、なのはが空間シュミレーターの投影に興味津々だったが……まずは携帯端末専門店に向かった。そこで、依頼者の男性に依頼内容を聞いた。
「君達にやって欲しいことは最新型の携帯端末のテストをしてもらいたいんだ」
「最新型の携帯端末、ですか?」
「ああ、これなんだが」
男性が見せてくれたのは、全体が板のようなで、画面に埋め尽くされた携帯端末だった。
「ここ最近でようやく完成した個人用情報端末、
「ボタンらしき物がかなり少ないですけど……どうやって取り扱うのですか?」
なのはの質問で、MIPHONEの説明が始まった。
簡単に言えば通話以外にも高度な情報サービスを利用することができ。SNSやゲームなど多種多様のアプリが使用できる全く新しい端末のようだ。さらに所有者の生体情報を認証し、同期する機能もあり、それを利用したサービスやセキュリティシステムなどもあるらしい。
「ーーとまあこんな感じでね。それで君達には色んな場所を回ってもらってMIPHONEの受信効率の悪い場所の検出と耐久性のテスト、使い心地や使い易さを検証して欲しい」
「なるほど、実際に使ってみて不備がないか確認するのですね」
「ああ、よろしく頼んだよ」
試験用の2台をもらい、所々で確認しながらそのまま実習を再開した。
そして街内での依頼を終わらせ、イラ郊外南部にあるシメオン霊山に向かった。その道中、アリシアはMIPHONEのゲームアプリで遊んでいた。
「ふっふふ〜ん♪ このゲーム面白いね〜」
「アリシア、歩きながらゲームするな。つまずいて転ぶぞ」
「大丈夫、大丈夫♪」
「全く、しょうがないわね」
「あはは……あ、そういえばレンヤとアリシアは前からソアラさんと知り合いだったんだっけ。どういう経緯で知り合ったの?」
「1年位前に、異界対策課の依頼でアリシアと一緒にイラに来たんだ。その時発生した異界にソアラさんとキルマリアさんが巻き込まれた所を助けたんだ。それ以来、異界対策課を援助してくれてな。よく雑談や相談に乗ったりしている」
「すずかが作っている物も少しだけだどその資金援助と技術提供がされているのよ。まあ、そのせいで勧誘もあるのだけど」
アリサは肩を竦めてため息をつく。
「管理局に入っているのを知っているのに……なんで勧誘されるの?」
「いわゆる引き抜きよ。私達、異界対策課は会社を経営するのに必要な分野が優れているのよ。私は取引などの社交術や交渉術、すずかは開発などの技術力、レンヤは情報処理、アリシアはああ見えて会計や投資に優れているの」
「うわぁ……なんだかレンヤ達だけでも大丈夫な気がしてきた……」
「う、なんだが私だけなんにもないような……」
「そうでもないぞ。フェイトは治安や規則関連がしっかりしている。はやては人をまとめられる統率力や事態に対してすぐに行動できる力があるの訳だし……なのはの教導も、経営に必要なスキルだ」
「あ、ありがとう、レン君」
「そうそう、もっと自信を持ってーー」
と、そこでゲームしていたアリシアが段差に足を取られた。アリシアが倒れる瞬間、回り込んで抱き止めた。
「……………え?」
「全く、だから歩きながらゲームするなって言ったんだ」
アリシアをちゃんと立たせて、MIPHONEを取り上げた。
「ご、ごめん………」
「ふう……話を戻すと、そんな能力を持っているから色んな所から勧誘されるってわけよ」
「なるほど、レンヤ達も大変なんだね」
「もう慣れたけどな」
「ーーそれでアリシアちゃんはいつまでレン君とくっ付いているのかな?」
なのはがすごい笑顔でそう言った。アリシアも今の体勢に気がついたのかバッと離れた。
「ご、ごめんレンヤ///」
「気にするな、それより早く行こう」
それからすぐにシメオン霊山の麓に辿り着いた。霊山の周りには草木が生えておらず、霊山に続く道は立ち入り禁止のゲートとバリアジャケットを着た監視員がいた。
「なんだか、かなりただ事じゃないみたいだね」
「うん。とりあえず警備員の人に事情を説明して通らせてもらおう」
ゲートまで近付き、警備員に事情を説明すると。事前にソアラさんが手回しをしており、簡単に許可が下りた。ただし、常にバリアジャケットを身につけるか、防御魔法で覆うことを説明される。
俺達はバリアジャケットを着て、ツァリはバリアジャケットを展開できる魔力はないので端子で自身を囲み障壁を張った。ゲートをくぐり抜け、洞窟の入り口の前に来た。他に頂上に向かうための山道はなかった、見るからに険しい山だから当然だが。それに洞窟から紫色の瘴気が出て来ていた。
「なるほど、封鎖するわけだ」
「有害なのは間違いないようだね」
「……………………」
「アリシアちゃん、どうかしたの?」
「え、いや、なんでも……」
手を振って平気そうに振る舞うが、明らかに嫌そうな顔をしている。
「気分が悪いなら辞めとくか?」
「ううん、大丈夫。行こう」
アリシアは障壁を張りながら洞窟に入って行った。
「バリアジャケットを着ているのに障壁なんて……」
「行くわよ。先に行けばわかるわ」
「そうだね。どうやら……何かあるみたいだし」
シメオン霊山に入ると、一層瘴気が濃くなった。
「さとて、原因はどこだろう……」
「うっ……なんてひどい穢れ……」
「確かに、気分が悪くなるな」
口を押さえながら、アリシアの背をさする。
「穢れって……なに?」
「簡単に言えば陰の気、悪意や負のエネルギーという物だ。アリシアは霊感が強いからもろに受けるんだ」
「やっぱり引き返した方が……」
「大丈夫。アリサ、火を出してくれてない?」
「え、ええ」
アリシアに言われるままアリサは火の玉を出した。そうすると、瘴気が火から離れていった。
「これは……」
「ふう……従来、穢れは火によって浄化されるんだよ。気休めだけど、幾分平気なはずだよ。それと瘴気の発生場所はここより下のようだね」
「洞窟に火ってのもどうかと思うが、結構広いし大丈夫か」
アリシアの先導で奥に進み、地下に向かった。発生地点と思われる場所に大き目な岩があった。どうやらその岩から瘴気が発生している。
「この岩からみたいだけど……なんでこれから発生しているのかな?」
「アリシアちゃん、わかる?」
「ちょっと待ってね……」
アリシアが岩に手をかざすと黄緑色のミッドチルダ式の魔法陣が展開された。
「う〜ん……これが原因なのは間違いないね」
「それで、どうやって止めるの?」
「私が浄化術式を構成する陣で囲うから、それをアリサが炎で一瞬で燃やせばいいよ」
「わかったわ」
アリサが前に出て、岩に向かて手をかざし。岩が一瞬炎で包まれた。次に現れた岩は、瘴気を発していなかった。
「ふう、これで大丈夫だと思うよ」
「そうだね、少しずつ瘴気も晴れているみたいだし」
「でも、なんでもこんな事になったんだろう?」
「おそらくこの要石が穢れたせいだよ。元々ここは霊山の穢れを集めて浄化する場所だったみたいだけど、容量を超えて要石自体が穢れて瘴気を発しちゃったんだと思う」
「ともかくこれで依頼完了よ。イラに戻りましょう」
「そうだね。ここはちょっと息苦しいし」
着た道を引き返し、シメオン霊山を出た。その後、さっきの警備員に報告をして、イラに向かった。
「さてと、依頼も終わった事だし帰ろうか」
「そういえば結局どこで寝泊まりするんだろう?」
「多分、来客用の部屋があるんじゃないかな」
街に到着する頃には夕方になっていた。
「すっかり夕方だね」
「そうだね。でも依頼は一通り終わったし、ちょうどよかったと思うよ」
「レポートもあるし、戻った方がいいかもね」
「ああ〜、いい空気。気分爽快だよ〜」
「不快感がなくなった感じだな」
その時、上層を歩いていると。下層の駅前広場の方から騒めきが聞こえてきた。
「何かしら?」
「行ってみよう!」
下層が見える場所に来ると、柵から広場を覗き込んだ。
「あれは……」
「まさかーー」
そこには、下層の広場で本局と地上の部隊が睨み合っていた。
「地上部隊に航空隊……」
「航空隊はソイレント派……いや、イレイザーズみたいだね」
確かにイレイザーズだが、あの時の部隊じゃなかった。
「嫌な予感はしていたけど、ちょっとマズイね」
「うん、かなり殺気立っているよ」
「下に降りて様子を見るわよ」
「ああ、行こう」
すぐにディアドラグループ本社前のエレベーターから下層に向かおうとするが、エレベーターは航空隊が封鎖しており、使用できなかった。
「エ、エレベーターが……」
「封鎖……⁉︎いったい何を考えているのよ⁉︎」
「仕方ない、別ルートから降りるぞ……!」
空いているエレベーターを探し出し、下層に降りて広場に近づく。改めて見てみるとかなりマズイ状況だった。
「ーーイラ市の治安維持は地上部隊の役割だ!そちらの管轄外のはずのここになんの権利があってここにいるっ!」
地上部隊の隊長が怒気混じりで言い立てる。それを航空隊の隊長はどこ吹く風の如く受け流す。
「……お言葉ですが、我々は正規の手続きを踏んでいます。そちらこそ邪魔をしないでもらいたい」
「こいつら……」
「あいつらののモノマネしやがって……!」
「まあ、こちらにも任務がありますのでーー」
隊長が手を上げると、街道方面から戦車が街に入って着た。戦車の登場で、市民にも騒めきが上がる。
「しょ、正気か⁉︎」
「街中にそんなものを持ち出とは!」
「武は示すものです。先日現れたテロリストにも我々が拘束、逮捕しました。我々こそが、テロリストに対抗できる確かな力があるのです!」
イレイザーズの隊長は両手を広げ、市民に訴えるかのように声をあげた。
「もっともらしい事を……!」
「でも……いくらなんでも街中に戦車なんてムチャだよ!」
「どうしたら……」
「どっちも正式な組織。いまの俺達は学生、介入できる相手じゃない。だが、万が一衝突が起きたら周りの人を避難させるぞ」
「ええ……それが最善ね」
「了解、怪我人を出さないためにも」
「ーーその通りだ」
そこに、空港方面の通路から女性の声が聞こえてきた。
「確かに我々にはテロリストに対抗できる力はない。だが、それでも力を示せればそれでいいわけでもない」
「あ……」
「この声……!」
出てきたのは……イシュタル・フェリーヌだった。
「イシュタル空尉……!」
「き、来て下さったんですね……」
「ご苦労だった。後は任せろ」
今のイシュタルさんは鋭い眼光をしており、いつもの飄々とした感じは全くなかった。
「あれが噂の……」
「地上警備隊筆頭……」
「お役目ご苦労。確かにそちらの実施は上から通達されている。そのような車両を出して不都合でもあったか?」
「それは……」
「それと先ほどの言葉を訂正してもらおう。確かに我々は怪異に対抗できない……が、それを操るテロリストに遅れをとるつもりは毛頭ない。何より、いつまでも後手に回っているわけではない。奴らが事を起こす前に止めてみせる!」
イシュタルさんのその言葉に市民が反応を示す。
「イシュタルさん……すごいタイミングだな」
「しかもすごい迫力、こっちまで気が届くわ」
「えっと、聞いていたイメージと違うんだけど……」
「あの人、普段猫かぶっているからね」
その迫力に、イレイザーズの隊長も怯んでいた。
「くっ……」
「我々とて怪異の脅威の前にそちらと争う気はない。そちらはそちらで、我々は我々で役割分担すればいい事……そうではないか?」
「だが……」
「ーーならば複数の場所で何かあったらどうするつもりかな?」
そこに割って入って来たのは、エレベーターから降りてきて後ろに護衛を連れたウイントさんだった。
(ウイントさん……⁉︎)
(なんでここに……)
(またすごいタイミングで来たね)
「こ、これはウイント氏!もうお帰りでしたか!」
イレイザーズの隊長は敬うかのようにウイントさんに敬礼した。
「ああ、ここの司祭との会談が済んだからね。そろそろ戻ろなければいけない」
ウイントさんはイシュタルさんに近づき礼をする。
「会議以来ですね、イシュタル・フェリーヌ空尉。お元気そうで何よりです」
「……恐縮だな。ウイント・ゼーゲブレヒト」
「ウイントで構わない。どうやらなぜイラにいるのか……いや、どうやってイラに来たのかが不思議のようだね?」
「…………………」
「あらゆる路線網は、君達の監視下にある……かといってイラ空港に私が訪れた気配もない。答えは……王家の専用高速飛行艇で来ただけさ。もっとも停泊させたのはイラ郊外の街道外れだけどね」
「なるほど、確かにそれなら我々の目をかい潜れる」
「そういうことだ、両者共にあまり過信をし過ぎないように。取り返しのつかない失敗にならないよう、ね」
「……忠告、感謝する」
ウイントさんは納得すると、両者の解散を言った。それを受けて、イレイザーズと地上警備隊は撤収して行った。
「…………………」
「やあ、奇遇だね」
撤収を見届けていたら、ウイントさんがこちらに気が付いたようだ。
「は、はいっ!」
「お久しぶりです」
「固くなることはないよ。私はここの教会の司祭に話をしてきただけでね」
「そうですか……」
「それで、なんでイレイザーズは叔父さんに友好的だんですか?」
「大方、恩を売りたいのだろう。もしくは、聖王教会を敵に回したくないのか……思惑は預かり知らないが、どうもあれ以来好きに動けなくてね。今回はクラウディアの盛り上がりに乗じてこっそり来たわけだ」
やや疲れ気味にそう言う。
「東のアーネンベルクもそうだけど、何が起きてもおかしくない状況だ。君達も特別実習は気をつけておくといい。私も……学院祭を楽しみにしているのでね」
「……ありがとうございます」
アリサが礼を言うと、ウイントさんは笑顔で頷き、街道方面に向かって行った。
「はああああっ……」
「き、緊張したの……」
「さすがは聖王の代理をしているだけはあるわね」
「でも、やっぱり疲れているみたいだったね」
「色々と錯交している時期だからね、仕方ないのかもしれない」
「無理しなければいいんだが……」
頭を振り、気持ちを切り替える。
「そろそろ日も暮れる、ソアラさんなら何か知っているかもしれないし……いったん本社に戻ろう」
「ええ、それがいいわ」
「イレイザーズの……本部の動きが分かるかもしれない」
「水面下で何か起こっているかもね」
「予定通りなら、夕食の時に聞き出せると思うよ」
「それで、本社のフロントでキルマリアさんを呼べばいいのかな?」
「ううん、ソアラさんの実家に行けばいいと思うよ」
「え、実家?」
「そうだよ。ディアドラグループ本社ビルの24Fと25F。最上階のペントハウスがソアラさんの実家だよ」
あまりの事実に、なのは達は驚愕して固まってしまっていた。