魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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85話

 

 

とあるジオフロントの一角にある端末制御室に茶髪でメガネをかけた少女がいた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜♪」

 

少女は部屋の奥に備え付けてあったパソコンのキーボードをものすごい速さでキーを打ち込んでいた。

 

「ふふふ、空間キーボードもいいですが、たまにはこう言うのも悪くないわね。指を押し返してくる感覚がなんとも言えません」

 

タンッ!

 

エンターを押して、作業を終えた。画面に映し出されたのは何かの図面だった。

 

「こんなものですね。あの白まんじゅうの防壁が厄介でしたけど、本人が操作しなければどうと言う事は……あーあ、どこかにいませんかねぇ、一瞬の油断で全てを失うような戦いができる人がーー」

 

ブーブーブー!

 

突然画面にWARNINGの文字が映し出され、警告音が鳴り始めた。

 

「……!やりますわね。でも、これくらいなら数時間は持たせられますわ」

 

それから数分間操作した後、立ち上がった。

 

「餌は蒔きました。一体どんな獣が網にかかるのやら……ふふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マインツでの実習を終えて、次の目的地であるクラナガンにある地上本部に、俺達は向かっていた。

 

「ふわああ〜……」

 

昨夜の事件もあり、ほぼ完徹の状態で運転していた。そんなこともあり、この車の絶妙な揺れで皆は早々に寝てしまった。

 

「すぐ側で寝られると色んな意味で辛いな……」

 

「これぐらい平気だろ。お前は3日は休まず働いけるからな」

 

「その後まる1日は寝るがな」

 

ラーグと雑談して眠気に耐えながら、4時間後にクラナガンに到着した。

 

「ん〜、あっという間に着いたなぁ」

 

「座席も最高に寝心地よかったぜ、疲れがなくなっちまった」

 

「久しぶりによく寝れた気がするよ」

 

「……それを俺の前で言うなよ」

 

「大丈夫、レンヤ?」

 

コーヒーを飲みながらフェイトが気にかけてくる。

 

「ゴクゴク………ぷはぁ!早くカフェインが効いて欲しい……」

 

「無理だろうな。レンヤは昔から薬が効きにくいし」

 

「へえ、そうなんですか?」

 

地下駐車場から1階のロビーに向かうと、すでにB班がいた。

 

「来たか」

 

「皆!」

 

「レンヤ、こっちこっち」

 

「来たわね」

 

「よかった、怪我とかはないみたいだね」

 

ロビーの一角になのは達が座っていた。テオ教官も一緒だった。

 

「あれ?何だかレン君だけ疲れてない?」

 

「確かにそうね?」

 

「それも含めて実習での出来事をお互い話合おう」

 

お互いに実習の内容を教えあった。

 

「ーーなるほど。A班も色々あったみたいだな」

 

「まさかマフィアまであんなのに手を出しているなんて……」

 

「思った以上に裏で出回っているみたいだね」

 

「おそらく入手ルートも探れないだろうな」

 

「それにしてもラーグ君の爆丸の姿、見てみたかったなぁ」

 

「それでルーテシアを連れてた訳ね」

 

「ま、それよりも段々と裏の方が活発になって来てるな。議員までそれに加担しているわじけだし」

 

「B班の行ったミシュラムではそう行った話は無かったわね……まあ、エミューはそんな感じだったけど」

 

「エミューが?あそこは保養地ですよね?」

 

「その保養地にある別荘の1つが問題だったんだよ。他の別荘とは比べ物にならないくらい大きかったやつが」

 

「もしかして、そこって議員の?」

 

「ご想像通りだと思うよ」

 

議員が所有している別荘……確かに何かありそうだな。

 

「まあ、それはともかく。このタイミングというのは気になるな。例のD∵G教団があれ以来、静かなのも気になるし」

 

「そういえば……」

 

「確かに不自然だね……」

 

「私達がここにいるのにも、何か関係が……?」

 

「直接的な関係はないが、全く無関係でもないな。その辺はおいおいな」

 

それからしばらく待っていると……

 

「お待たせしました、皆さん」

 

モコ教官がエレベーターから降りて来た。

 

「モコ教官、今までどこに……」

 

「警備の打ち合わせとその場所の確保に」

 

「今回の実習期間中、俺達は特別講義の担当をする。それじゃあ行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内されたのは実習期間中に宿泊する部屋なのだが……

 

「何で異界対策課があるフロアなんですか⁉︎一体いつ改装したんだよ⁉︎」

 

「レンヤさん達が夏季休暇に行っている間ですよ。来客用だって」

 

「だから話を通せって……」

 

愚痴りながらも荷物を置いて。今度は異界対策課の部屋の前にある大型会議室に案内された。そこでモコ教官からここでの実習内容を伝えられる。

 

「ーー今回の特別実習は今日を入れて残り2日……その間、あなた達は実習課題に取り組むことはありません。代わりに特別講義と明日の警備の段取りと配置を検討します」

 

「仮配属みたいなものか……」

 

「それは……どういったものでしょうか?」

 

「その名の通りですので、特に気負う必要はありません。私からは以上です。今はもうお昼前なので食事を取った午後に備えてください。午後2時にまた開始しますので最低10前にここに戻って来てください」

 

そして食堂に向かい、食事を済ませてた後にテオ教官に特別講義の時間とその間の自由行動を伝えられ、各自おもむろに行動し始めた。

 

「ふわあああ………ようやく寝れそうだな」

 

ちょっと目が覚めてしまったが充分まだ寝れそうだ。

 

「あ、レンヤ。ちょっといい?」

 

「ソエル、何かあったのか?」

 

「うん、説明するから入って」

 

異界対策課に入り、デスクに置いてあったパソコンを見る。

 

「誰かがジオフロント区画のコンピュータを使って地上本部のサーバーにハッキングされてる形跡があるよ」

 

「ハッキング?この時期に……取られた情報は?」

 

「この地上本部の詳しい見取り図だね」

 

「このタイミングでそんな情報……場所は?」

 

「ジオフロントB区画だけど……まさか行くつもり?」

 

「今寝ても中途半端にまた眠くなりそうだからな。完全に覚ましてきた方がまだ楽だ」

 

「そう……許可は貰っておくよ。後で解除コードをレゾナンスアークに送るね」

 

「わかった」

 

ソエルの頭を人撫でして異界対策課を出て、地上本部から少し離れた場所にある地下開発予定地区、その一角に向かった。

 

入り口の前に到着して、先程送られた解除コードでジオフロントに入った。どうやら開発が進んでいるらしく、そのうちデパ地下にでもなりそうだ。しばらく通路を歩いていき、その途中に制御室があった。

 

「あそこか」

 

《生体反応は感知出来ません》

 

だが一応警戒してバリアジャケットを纏い、銃を構える。ドアのロックを解除し少しだけ開け、中の状況を確認して……

 

「ッ……!」

 

一気に開け放ち突入する。レゾナンスアークの言った通り誰もいなかった。部屋の奥には巨大な画面のコンピュータがあった、そこにはソエルが調べたんと同じ物……地上本部の図面が映っていた。

 

「確かに誰かが使用してた形跡はあるな」

 

他に物色してみたが大した物は見つからなかった。とりあえずここから出ようとした時……

 

バタンッ!ガチャッ……

 

いきなりドアが閉まってロックがかかってしまった。

 

「なっ……⁉︎」

 

ドアを開けようとするがまるで開かず。タックルを喰らわせてもビクともしなかった。

 

「閉じ込められた!」

 

《電波、魔力共に遮断されています。通信は不可能です》

 

「なら、壊すだけだ!」

 

刀を展開させ、ドアを打ち破る為に魔力を込めようとしたら……

 

「ぐうっ⁉︎」

 

強烈な重圧とAMFが発生して、バリアジャケットが解除されて膝をついた。そして、部屋の火がかけられた。

 

「くっそ……万事休すか……」

 

《マジェスティー!神器です!》

 

「……!そうか……!」

 

手を合わせて開くと、槍が出てきた。雷の神器はソエルに預けずいつも体内に保管していたんだった。思った以上に火の周りが早く、瞬時に神衣化する。

 

「奔るは飛電!」

 

雷を纏った槍でドアを壊してそのまま制御室を脱出した。

 

ドガアアアァンッ!

 

遅れて爆発が起こり、衝撃で飛ばされてしまった。

 

「うう……いてて……」

 

《大丈夫ですか?》

 

「ああ、大した事はない」

 

頭を振って気を直し、制御室を見る。爆煙が立ち上っており、もう調べられない状態になっていた。

 

「証拠は消えたが、目的はわかった。明日の会議、気を引き締めないとな」

 

神衣を解き、来た道を引き返そうとした時、通路の先から誰かが走って来た。

 

「ーーレン君!」

 

「なのは⁉︎」

 

なのはが近寄って来て、肩で息をしながら呼吸を整えていた。

 

「レン君!さっきの爆発はなに⁉︎ていうか大丈夫、少し煤汚れているけど怪我はない⁉︎」

 

「だ、大丈夫だって。ちゃんとバリアジャケットを着てたし、爆発する瞬間脱出したから」

 

「そう言う問題じゃないよ!」

 

むりやり座らされて、軽い治療を受けた。

 

「なのははどうしてここに?」

 

「レン君が外に出て行くのを見てね。見失っちゃったけど何かあると思って異界対策課に行ったの。そこでソエルちゃんに聞いてここに来たの」

 

「そうか……迷惑をかけちゃったな」

 

「本当だよ。一言くらい言ってよね」

 

「……ごめん」

 

さすがに自分にも非があり、素直に謝った。それから本部に戻り、エレベーターに乗ろうとしたら集合30分前の放送が流れ、すぐに会議室に向かった。フェイト達になのはと一緒に来た事を疑問に思われたが………気にせず軽い説明を受けた後、正規隊の行う基礎体力トレーニングに参加した。その後休む間も無く特別講義を受けた。最後に明日の警備の段取りを聞き終えた後に、会議で使用されるフロアの案内を受けた。会議中に使用されるのは34F、35F、36Fの3フロアで他のフロアは封鎖される予定だ。そして、A班が会議会場周辺を、B班が地上本部1Fからその周辺の警備にあたることとなった。

 

そして夜になり、今は食堂で食事を取っていた。

 

「ああー、疲れた〜」

 

「思ったよりハードだったね」

 

「でも、学院で重視されていない身体能力の向上訓練があるなんて……」

 

「実戦に出れば嫌と言うほど理解したんだろう、魔法だけじゃどうにもならない。必ず道は途切れると」

 

「しかし、その考えは根強いです。そう簡単には変えられないでしょう」

 

「I・II組の学生も何人か居たけど……終わった頃には全員バテバテだったね」

 

「僕でもついてこられたのにね」

 

「どうやら地上本部の警備を横取りされたと思われたみたいだね。何人か敵意のある目で見てたよ」

 

「なんか、悪い事しちゃったな」

 

「手柄求めている奴らや、かまへんやろ」

 

「ーーなかなか盛り上がっているな」

 

その時、食堂の入り口からテオ教官が入って来た。

 

「テオ教官……」

 

「話は終わったのですか?」

 

「ああ、後は明日に備えるだけだ………明日の予定を伝える。朝にまた警備の段取りのミーティングをする。後は会議中の警備を続けるだけだ」

 

「そうですか……」

 

「明日なんだね、管理局次元会議は」

 

「ま、どこかのアホがやらかしたせいで明日に何かが起きる確率は高くなったんだがな。それは置いておいて、俺も飯を食うか」

 

最後に微妙に誰かを指している風に言った後、食事を買いに行ってしまった。そして、全員の視線が俺に向けられる。

 

「…………………」

 

「あ、あはは……」

 

「やっぱり休憩中に何かやったんだね?」

 

「キリキリ吐いてもらうで〜」

 

トレーニングが始まる前にテオ教官にジオフロントでの出来事を話していた。呆れられたが……

 

皆にも同じことを説明した。やっぱり事前に言っておかなかった事に怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー翌日

 

特別実習の最終日。改めて警備の打ち合わせをして各自、適度な緊張を持って警備に当たった。

 

そして、会議が始まった。俺達は会議の様子を会議を行われているフロアの上の階にある回廊室から見下ろしていた。

 

「始まったね……」

 

「……ああ。各部隊の隊長陣と3提督に総司令、それと議長にベルカの代表が集まるこの会議が」

 

「次元航行部隊……通称海から代理としてクロノ君が、オブサーバーに無限書庫からユーノ君、中立の立場と護衛としてヴェント学院長がおるなぁ」

 

「グランダム少将にラース査察官もいますね。グランダム少将はあまり乗り気ではなさそうですが……」

 

「しかし始まったのはいいが……さすがに小難しい話をしてんなぁ」

 

「まあ、会議の内容は俺らが関与する事じゃない。お前達はこの会議が無事に終わるだけを考えとけ」

 

「はい」

 

「俺は下の奴らを見に行く。後は頼んだぞ」

 

テオ教官は後ろ向きで歩きながら手を振り、エレベーターに方向に向かった。

 

「さて、俺達も行こうか」

 

「うん、頑張ろう」

 

「何もなければいいですけど……」

 

俺達は使用されている3フロアを隅々まで巡回して。やがて、会議の前半が終了し、休憩時間になる前に、報道陣による合同取材が行われた。

 

そして、B班と合流して。休憩室で会議の内容を先に休憩に入ったユーノから聞く事となった。

 

「なるほど、それで皆が警備してたんだ。ヴィータやシグナムさんも隣の部屋で待機していたけど……レンヤ達が警備をしているならすごく安心できるよ」

 

「上はそのつもりで集めたらしいがな」

 

「それで会議の方はどうなったんや?荒れた雰囲気はあらへんかったみたいやけど」

 

「今のところは順調に進んではいるよ。各部隊も友好的な感じだったし」

 

「そうだったの……」

 

「ちょっと、ホッとするね」

 

「でも、今のところって事は何か懸念でもあるのかな?」

 

シェルティスが的を射たような事を言った。

 

「そうなのか?」

 

「オブサーバーの僕から言うのもなんだけど……前半は、警備体制についてや次元世界の管理状況が主だったよ。でも、後半はおそらく人員導入基準の検討と異界に関する話しが出るみたいだね」

 

「人員導入って……確か優秀な魔導師は本局に流れて行ってしまうって言う」

 

「確かに、荒れる要素はあるね」

 

「地上本部総司令レジアス・ケイジに本局総司令ソイレント・チェイサー、ですね」

 

「レジアス中将はともかく……ソイレント中将が問題だね。あの人は現状維持を優先しているから事あるごとに地上と衝突しているよね」

 

「まあ、それはいいとして。異界に関すると言うのは?」

 

「現在、異界に確実に対抗できる力があるのは地上にある異界対策課だけ。ソイレント中将はそこをついて異界対策課の規模を縮小、またはレンヤ達を本局に入れる算段みたいだ」

 

「そんな……」

 

「兄さんは、多分味方だと思うけど……」

 

「ま、そこは任せよう。父さんも味方だし」

 

「ふう……休憩が終わったら、荒れるな」

 

それから会議について話し合い、休憩が終了してまた会議が再開した。そして、会議の後半はユーノの予想通り、最初から荒れ気味の会議となった。

 

さっそくソイレント中将が異界対策課の事を指摘し、レジアス中将が冷静に対応するが、だんだんと熱が出てきた。その過程で議長にこの前のマフィアに独断で異界の対処と使用を指摘されたが、最高評議員の許可と言いのらりくらりと躱して行った。クロノ他の隊長陣が止めに入らなければ危なかっただろう。

 

俺達は回廊室からその様子を見ていた。

 

「……これって……」

 

「ユーノ君が心配した通りやな」

 

「しかも、ソイレント中将が議長を指摘したのも多分グルだろ」

 

「熱が上がっている中、別方面の事例が上がるが正当な理由があって否定されず。その後は熱をぶり返して話題を消してしまうってことか?」

 

「遣る瀬ないですね……」

 

「…………………」

 

「どちらにせよ、今俺達がやる事は決まっている」

 

テオ教官の言葉で、気持ちを切り替えた。

 

「……はい、もちろんです」

 

「それではまた、一通り巡回をーー」

 

〜〜〜〜〜〜♪

 

そこでテオ教官の端末が通信を受けた。

 

「こちらテオ……ヴァイスか。いったいどうしたーーーなんだと?」

 

ヴァイスさんからの通信らしいが、何かあったようだ。それから通信を切ってこちらを向く。

 

「ーー地下にグリードが大量に出現した。それと……ミッドに滞在していたヘインダールも動いたらしい」

 

「えっ……」

 

「まさか!」

 

「おいテオ!いったいどう言う事だ!」

 

「あいつらがここにいる事は以前から知っての通り、念のため監視していたんだが……監視を振り切ったらしいな」

 

「くっ……」

 

「落ち着け、想定の範囲だ。今グリードの方はB班が対応に当たっている。何かあったら知らせるから引き続き警戒しておけ」

 

テオ教官はどこかに通信をしながら下へ向かって行った。

 

「一体何をするつもりだ……⁉︎」

 

「リヴァン……」

 

「リヴァン、落ち着け。いくらヘインダールでもここを仕掛けるとは思えない」

 

「それにどうやら本来の目的とは別件らしいなぁ。会議が決まったのはつい最近やし、目的の達成はまだ先やから途中に別の依頼を受けったちゅうのが妥当や」

 

「確かに……」

 

「でも、それなら誰が……」

 

『ーー何だと⁉︎』

 

いきなり会議室から怒声が聞こえてきた。

 

「何や……?」

 

「レジアス中将?」

 

こちらが立て込んでいる間に何かあったらしい。

 

『すまないが、もう一度言ってもらえるか?』

 

『いいですよ。私はあそこにいる彼を、神崎蓮也三等陸佐を本局に移籍してもらいたい』

 

「なっ……!」

 

ソイレント中将に手を向けられ、会議室内にいる人の視線が集まるが……驚きで気にもならなかった。

 

『異界対策課は少数精鋭ですがそれでミッドチルダ全域を守るには酷と言うものです。それに何でも以前から彼らを酷使して、まともに休暇を許可しなかったらしいですね?』

 

『ぐっ……』

 

「ッ……!」

 

“違う!”と叫びたかったが、何とかこらえた。確かに以前、休暇をもらえなかった事に腹を立てていたが、あれはレジアス中将ではなく最高評議員かそれに准ずる者が拒否していたものだ。レジアス中将はそれに対して何とか抵抗して、仕事量を減らしてもらったり。ティーダさんとヴィータに頻繁に補助をしてもらうように申告していたのだ。

 

『それに彼の同意があれば、すぐにでも可能……そうですよね?』

 

『……はい。相互の同意があれば可能です』

 

確認をユーノにさせてご満悦のソイレント中将。話を振られたユーノはいやいやそうだったが、私情ははさめず苦しそうに言った。

 

『待ちたまえ。そもそも本局のどこに所属させる気だ。どこに行くにしても、順序を踏まえてもらいたい。どこかの優秀な部隊に入れて、彼に能力制限をかける気か?』

 

『それにこの手の話は、彼を会議に入れて話すべきだ。彼の意見を聞かなくては始まらない』

 

『そもそも、今は学生の領分を真っ当してもらっている。そのような事は受けいられない!第一、カンザキ二等陸佐が本局に入ったところで状況は差ほど変わらない!』

 

ラース査察官とグランダム少将が待ったをかけ、レジアス中将がそれに便乗する。

 

『そうとも言えませんよ。より良い方法を模索すれば可能ですよ』

 

『……具体的には?』

 

『そうですねぇ。あまり口では言えない事……と言っておきましょう』

 

バンッ!

 

それを聞いて、ウイントさんが机を思いっきり叩いて立ち上がった。

 

『それは、いったいどう言う意味か……説明していただけませんか?』

 

『気に障ったようなら謝ります。ただ、いったい何を考えたのですか?』

 

『貴様……!』

 

『ーーおやめください、ウイント代理人。ソイレント中将もあまり問題発言や挑発はやめてもらいたい』

 

そこにクロノの静止が入った。もう少し止めるのを遅れたら、危なかっただろう。

 

『それは失礼。ですが、ナカジマ三佐もご検討を願いたい』

 

『ぐっ……』

 

ゲンヤさんも強く否定できず、渋い顔で悩む。

 

「何考えてんだ、あいつは」

 

「レジアス中将とウイントさんが怒るのもわかるよ」

 

「うん。私も同じ気持ちだよ」

 

「ホンマ、堪忍袋の緒が切れそうや」

 

「落ち着いてください。相手の思う壺です」

 

「俺は大丈夫だから安心しろ。誰があんな奴のところに行くか」

 

「ーーそれもそうだな」

 

そこにラーグがやって来た。

 

「ラーグ、どうしたんだ?」

 

「緊急連絡用に俺が来たんだ。B班にもソエルが行っている」

 

「そう、ありがとうね」

 

すずかはお礼を言ってラーグを抱きかかえる。

 

「だが、流れは悪いみたいだな」

 

「クロノが抑えているけど、いつまで持つか……」

 

ーーーーーー♪

 

緊迫した空気に水を差すように端末に着信が入った。

 

「こんな時に……」

 

「テオ教官から?」

 

「はい、神崎でーー」

 

『ティーダだ』

 

あのティーダさんが名乗るのを遮るなんて、よほどの事態なのだろう。

 

「ティーダさん?どうしたんですかーー」

 

『時間がない、手短に話す。空港にあるレーダー施設がグリードに襲撃された。ミッドチルダに侵入する飛行艇や次元艦を捕捉するためのな』

 

「それってつまり……!」

 

『どうやら出て来たようだな。テオテスにも伝えたからお前達も備えておけ』

 

「了解しました」

 

そこで通信が切れた。尋常じゃない雰囲気に、フェイト達も焦っていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「まさか、ヘインダールの奴らがやらかしたのか⁉︎」

 

「そっちじゃない。実はーー」

 

『皆さん。少々、よろしいか?』

 

そこに、やや強面の男性……ギャラン議長が席を立ち、声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、この場で語られている神崎 蓮也氏の移籍について。延いては異界の対応、対策について……1つ私から提案してもらいたい事があります」

 

「…………………」

 

「ははは、先程から大人しいと思っていましたが……いったい何を?」

 

「ええ、それはーー」

 

「! ーー方々、お下がりを!」

 

ヴェント学院長が異変を感じ取り、議長の言葉を遮った。

 

次の瞬間……会議室にある外に面するガラス張りの壁の下から、1隻の飛行艇が上がって来た。

 

「なっ……!」

 

「飛行艇だと⁉︎」

 

「まさか……!」

 

全員が驚愕する中……

 

ダダダダダダダダダダッ‼︎

 

飛行艇から何の警告もなく、質量兵器の銃弾が撃たれ。ガラスに無数の蜘蛛の巣状にヒビが入っていく。

 

「くっ……!」

 

「まさか……テロリスト共か⁉︎」

 

「…………………」

 

「ここで来ましたか……」

 

「問題ない!質量兵器、魔法にも耐えられる特別製のガラスだ!だが、念のため全員下がれ!」

 

レジアス中将の指示で、後方に下がって行った。それにしても、ギャラン議長とソイレント中将は妙に落ち着いているな……

 

それからしばらく撃ち続けた後、飛行艇は上昇して行った。会議室の両脇にあった扉が乱暴に開けられ、待機していた護衛が会議室に入って来た。

 

「お父さん、大丈夫⁉︎」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

ギンガがゲンヤに駆け寄り、安否を確認する。ゲンヤや手を振って答える。

 

「奴らはどこに?」

 

「さあな、だが……逃げたわけはないだろう」

 

レジアスとゼストはまだ終わらないと踏んでいた。

 

「今のは……トライセンの高速艇か」

 

「そのようですね」

 

「お二方、念のためお下がりを」

 

上昇した飛行艇の製造元を言うラース、助手の女性も同じ考えで頷く。そして護衛についていたシグナムが注意を促した。

 

「こら起きんか」

 

「ふわあああ〜……ねむ……」

 

グランダムがイシュタルを叩いて起こす。

 

「クロノ!」

 

「大丈夫だ、それよりも奴らを……」

 

クロノはヒビ割れたガラスの奥を睨みつけ、ヴェロッサは杞憂だと思い肩で嘆息する。

 

「ユーノは下がってろ!」

 

「ありがとう、ヴィータ。でも安心して、僕も自分の身は自分で守れるから」

 

ヴィータがユーノの前に立ち、ユーノは懐から数枚の符を取り出した。

 

「やれやれ、物騒ですね」

 

「……いかが致しましょう?」

 

護衛がソイレントに近寄り、何やら密談をしていた。議長もそれをチラリと見ていた。そこで正面の扉が開いて、テオが駆け込んで来た。

 

「皆さん、ご無事ですか⁉︎」

 

「ああ、無事だ」

 

「しかし、連中はどこに?」

 

『……聞こえているな』

 

音響機器にノイズが発生した直後、男性の声が聞こえてきた。

 

『ーー会議に出席している方々、我らはD∵G教団だ』

 

「何だと⁉︎」

 

「報告にあった……」

 

「レンヤが言っていた、怪異主義者集団か!」

 

『此度は我らの大義がため、ここにいる全ての人間を惨殺する!覚悟するがいい!』

 

「何を戯言を……!」

 

「こいつは話になるねぇな」

 

「だが……これはマズイな」

 

「ええ、確かに」

 

「ちっ……!」

 

シグナム達、護衛がデバイスを起動し戦闘態勢に移る中……

 

飛行艇は地上本部屋上に着陸し、艇内から武装した集団が出て来た。武装集団は迷わず、会議室に向かう道を走っていた。

 

「なに⁉︎ コッチにまっすぐ向かっているだと⁉︎あの図面はこのためか……!」

 

テオは監視室の連絡を受け、図面が奪われた意味を理解する。

 

「おい!待機させていた警備隊をこちらにーー」

 

「だ、駄目です!外部からのハッキングで外壁が降ろされ、急行できません!」

 

「何だとっ⁉︎」

 

警備責任者は驚愕して思考を停止してしまう。

 

「どこか非常時に開けられる場所はないのか!」

 

『ダメ、どこも閉鎖されている!』

 

シェルティスの問いに、ツァリが端子を地上本部の周囲全体に飛ばしながら答える。

 

「こうなったら、力づくで……!」

 

「開けるのみ……!」

 

「やめなさい!確かにあなた達の実力ならこじ開けられるけど……そうなった場合、防衛レベルがさらに上がって手がつけられなくなる!」

 

魔力を高めるアリサとアリシアをモコが止め……

 

「レン君、フェイトちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、リヴァン君、ユエ君……」

 

なのはがA班の名前を心配そうにつぶやき、地上本部を見上げた。

 

その時、なのは達の正面にある空間に赤いヒビが入り……ゲートが出現した。そこから次々と怪異が出始めた。

 

「なっ……!」

 

「ええええっ⁉︎」

 

「こんなことまで出来るなんて……」

 

「仕方ありません。今は目の前のグリードの撃破を優先します!各自、市民の安全を確保しつつ、グリードを倒しなさい!」

 

「了解しました!」

 

デバイスを起動してバリアジャケットを纏い……気持ちを切り替え、なのは達は目の前グリードに向かって行った。

 

次々と地上本部の外壁は降ろされ、とうとう入る事も出る事も出来なくなった。テロリストの進行方向を除いて……

 

「あ……」

 

「これは、とんでもない事になりましたね」

 

「地上本部の制御を奪われたようだね。昨日、図面を盗み出したハッカーの仕業かもしれない」

 

「ソエルの防壁を突破した奴だ、その可能性は高えな」

 

「とにかく俺達も行くぞ!下に降りて、全員の安全を確保するぞ!」

 

「了解や!」

 

「エレベーターは駄目だ、非常階段から行くぞ!」

 

デバイスを起動して戦闘態勢を整え、非常階段がある場所に向かうと……上下ともに階段のシャッターが降ろされていた。

 

「さ、さっきまで通れたのに……!」

 

「それなり私がーー」

 

「あかんでユエ君。管理局の防衛システムは突破されるごとにレベルが上がって行くんや。最悪、AMFが出てきてお陀仏や。相手は質量兵器を持っておるんやで?」

 

「だから別の方法で突破する。すずか、行けるか?」

 

「なんとかやってみるよ。スノーホワイト」

 

《かしこまりました》

 

すずかは端末の上にスノーホワイトを乗せ、シャッター脇のコネクタに端末に繋がっているケーブルを接続した。空間ディスプレイとキーボードが展開され、打ち込み始めた。

 

「……………ちょっと厄介だね。でも、これならなんとか……!」

 

タンッ!

 

最後にエンターを押すと、下に降りる方のシャッターが上がった。

 

「開いた……!」

 

「さすがすずか!」

 

「ううん、セキリュティが低めに設定からだよ。それにここを開けたせいで他の扉のセキリュティが強化されちゃったの。とても全部を開けられる時間はないよ」

 

「そりゃまた用意周到な……そのハッカーの性格、かなり捻くれてるんじゃねぇのか?」

 

「検索は後だ……とにかく下に降りるぞ!」

 

レンヤ達は解放されたシャッターを通り、下に降りて行った。

 

 


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