8月中旬ーー
ミッドチルダは地球の日本と同じように四季があり、今の時期は夏真っ盛りの暑さが襲ってくる。夏季休暇を終えたからは授業や訓練を再開していた。そして、I・II組の生徒のほとんどは管理局のどこかの部隊に仮配属されていて今はこの学院にはいない。そんな中、III組からV組までの生徒は一科生に差を広げられないように努力しながら、どこかで羨みながらも勉強と修練に励み……俺達VII組のメンバーもそちらに気をとられずに努力していた。
すでにホームルームの時間はとうに過ぎており、雑談がてら集まっていた。
「はぁ……毎日暑いねぇ」
「……だるいよぉ〜」
「だらしないわね。もっとシャキっとしなさい」
「私達はアリサちゃんのように始めから熱うないんやで。シグナムやって平気やし」
「炎熱の副次的な効果だね、私も寒いのは平気だし」
「まあでも、エアコンくらいあれば少しは快適になるわね」
「無茶を言うな……レルムは元々古い建物を改装してできているし。仮にも魔導学院だ、学生にそんなに甘くないだろ」
「そうだ!ならすずかが氷を出してーー」
「魔法の不正使用だから却下だよ」
「でも、確かにここは海鳴より暑さが厳しいね」
「ベルカは同じくらいだけど、それなりに風は吹くから過ごしやすいな」
「そういえば……レンヤ達は結局仮配属を申請しなかったんだよね」
「すでに入っているのに配属も何もないでしょう」
「そもそも、管理局員でレルムに入っていたのはどうやら私達7人だけだからね」
「ただ、仮配属という名目で異界対策課に戻ることもできたんだけど……」
「それって……」
アリシアの言葉に全員が理解する。
「D∵G教団か……」
「グリードを信仰の対象とした集団だったね」
「一体どうやったらそんな解釈ができるのか聞いてみたいぞ」
「それにまだ明確な構成員や規模、現在の目的も定かではない状態よ」
「あれからの足取りは?」
「全然だよ、本局の方にも情報は入ってないし」
「相当バックが強いんだね」
「そっちの方は簡単に目星はつくんだがなぁ……」
全員があの名前を頭に思い浮かび、黙ってしまう。
「まあ、それも視野に入れた会議が地上本部で行われるらしいけど」
「管理局次元会議……この前のテロはもちろんの事次元世界の管理体制やミッドチルダの現状、異界やそういった問題を各部隊の隊長が話し合う為の会議ね」
「元々2、3年の周期で行われるらしいけど……急遽今月末に行うことを発表したからね」
「うん、かなり大騒ぎみたいで今朝の記事もそれ一面だったよ」
「そういえば、レンヤ君も出席するん?」
「レンヤも隊長ですからね」
「いや、俺は出席しない。異界の事は全部俺達に任せてもらっているが……政治関連にまで手は回っていないんだ。異界に関する被害報告の資料作成まではするが、その他はゲンヤさんに任せることになっている」
「へえ、そうなんだ」
「ま、歳を重ねている人達に放り込まれるのはいい気分ではないわね」
「もう慣れたよ。でも確かベルカからウィントさんが出るらしいな」
「へえ」
俺達はことの重要性を改めて感じ取らせれた気分だ。
「そういえば……テオ教官、遅いね?もうHRの時間だけど」
「もう10分も過ぎていますね」
「全くあの人は……寮で寝坊してるんじゃないわよね?」
「テオならありえるな」
「昨日も遅くに帰ったみたいやし」
「否定できないのが厳しいね」
「こらこら、今日は違うぞ」
と、そこで教室の扉が開いた。入ってきたのは噂のテオ教官だった。
「テオ教官」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
皆はすぐに自分の席に着いた。
「で、遅れたのにはちゃんとわけがあるんだが……ちょっとややこしい事情があってな。まあ真っ当な理由だから気にすんな」
「はあぁ……?」
「ちゃんと理由があるなら、まあ」
「そんじゃあ遅れたが、HRを始めるぞ」
それから滞りなく今日の授業が始まった。正直まだ心残りの部分もあるが、すぐに気持ちを切り替えた。
そして今日ラウム教官の次元史を最後に今日の授業が終了し、今はHRだ。
「ーー明日は自由行動日だ。来週の水曜も予定通りに実技テストを行うからな。もう慣れたと思うし、とやかく言うつもりはないが一応体調には気を付けろよ。HRは以上だ、リヴァン、挨拶を」
「起立ーー礼」
テオ教官が教室を出ると、各自次々と教室を出て行った。俺もそろそろ帰ろうとした時……
「レンヤ、ちょっといい?」
アリサに呼び止められた。
「どうしたんだアリサ、部活に行ったんじゃないのか?」
「今日はラクロス部はないわ。それでレンヤ、少し付き合ってくれない?」
「こっちも部活はないしいいけど、何するんだ?」
「武練館までね。少し体を動かしたい気分なのよ」
「それくらいなら喜んで」
アリサと一緒に武練館に向かい、練習場の一角で剣の稽古をする。
「そういえば、ハリーの、指導は、どうなっている……!」
「問題ないわ、基本あの子の、戦闘スタイルは、我流だから、魔力の扱いや、トレーニング法を教えている、くらいだわ……!」
素振りをしながらの会話なので所々途切れて会話する。
「そういう、レンヤこそ、ミカヤは、どうなのよ……!」
「似たような、感じだ、アリシアも、エルスに、色々教えて、いるみたいだし……!」
「そういえば、すずかも最近、依頼で知り合った、どこかのお嬢様を、指導して、いるそうよ……!」
「へえ、意外だな……!」
「ふう、いつか……私達が育てた弟子同士で戦わせてみたいわね」
「それもまた、一興かな」
それから気の済むまで基礎練習を続け、切りのいい所で寮に戻った。駅前に差し掛かると、寮の方角から子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「子どもの声が……」
気になり、駆けて行くと……
「ほ〜ら、インタラスティングのワンダーランドだよ〜♪」
「すごいすごい!」
「どうやってんの⁉︎」
ファリンが子ども達に芸みたいなのを見せていた。長方形の白い紙に正方形の黒線が描かれた紙をお手玉していた。その隣ではサポートが球乗りしていた。
「何やってんのよ」
「あ、おかえりなさい」
「ミウミウ」
「ファリンもすっかりいつもの調子に戻ったみたいだね」
「はい!お姉ちゃんに言われて堅苦しくしていましたが……ようやく解放されましたよ!」
「それで遊んでいるわけね」
「ちゃんと仕事は終わりましたよ、料理当番も今日ははやてちゃんですし」
「一気にメイドらしくなくなったわね」
「あはは、そういえばその紙は?普通の紙じゃなさそうだけど」
「これはノルミンちゃん達の力と連動して動く式神です。最近できるようになって、色んな事ができるんですよ」
そう言うと式神を大きくしてその上に乗ったり、縦に伸ばしたりした。
「まだまだ行きますよ〜。飛び出せ三分身!」
「「「「わああああっ!」」」」
子ども達が驚く中、俺達は呆れながらも寮に入った。
後日ーー
今月の生徒会の依頼はようやく一周回ってきて俺の番になった。規模は小さくなっているとはいえ、いつもと同じように依頼を受けた。
あらかた片付けてからグロリア先輩からの依頼で技術棟を訪れた。
「失礼します」
「お、来たね」
研究室に入ると、グロリア先輩がこちらに気付いて手を振っていた。その隣にフィアット会長とエテルナ先輩も一緒にいた。
「レンヤ君、お疲れ様ー」
「ご苦労様です」
「会長、今日はこっちにいるんですね」
「息抜きがてら、グロリア君のお手伝いをね」
「こちらですよ」
視線を逸らしてみると、研究室の真ん中に白の塗装がされた車があった。
「それじゃあ、早速説明してもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとう、僕からの依頼はこの車のテスト走行をお願いしたいんだ」
「この車の?」
改めてよく見てみると、車高が高くいわゆるSUVタイプで。開けれていたドアは前後共にスライド式だった、これなら狭いスペースでも楽に乗り降りができる。
「あ、レンヤ君!」
「おお⁉︎」
いきなり車下からすずかの顔が出てきて驚いた。作業をしていたようで髪をポニーテールにしていた。
「驚かせちゃってごめんね」
「それはいいけど……すずかはどうしてここに?」
「うん、グロリア先輩とこの車を開発していたの」
「そうなんだ……って、1研究室でそんな予算は出るのか?」
「これは君達、異界対策課の要請で開発しているんだよ」
「え……あ、そういえば学院に入ったばかりに……」
確か異界対策課の足が必要と言われて、それでせっかくならより良いものを作りたいとすずかに任せたような。
「もう、レンヤ君たら……」
「はは、ごめんごめん。つまり俺達が予算を出しているのか。確かにうちの予算は無駄に有り余っているからなぁ」
「コホン、説明するよ。この車には私が開発した新型エンジンを搭載していて最高速度は450は堅いよ」
「お〜、すごいね!」
「ん〜、俺としては後泥除けのフェンダーと乗り降りの楽にしたいからステップも欲しいな」
「確かに、そうすれば見栄えも良くなります」
「あ、なるほど……取り入れてみるよ。本題に入るけど、レンヤ君にはこの型式XDー78の試運転をしてもらいたいの」
「その試運転を踏まえてから、君達の専用車として渡す算段ということだよ」
「そうですか……それじゃあ早速」
「うん、はいこれがキーだよ」
すずかから車のキーをもらい、車内に入ってみた。シートを触ってみるといい素材が使われているのがわかる。すずかは結構凝り性なので内装のデザインから運転席のハンドルまでこだわったみたいだ。
その後、すずかとフィアット会長とエテルナ先輩も乗り込み、ガレージが開いたのを確認してからエンジンをかけて発進した。すぐに公道に出て、ミッドチルダ方面に向かって走った。
「これはすごいな。スピードが出ているのに安定していてエンジン音も静かだ」
「レンヤ君の運転も上手ですよ」
「うんうん、今の所は異常なし。でももうちょっと安定性は欲しいかな?でもレンヤ君の要望にと一緒にバンパーを入れちゃうと重々しい感じになっちゃうし……」
「確かにな、緊急時に爆走することだってありそうだが……そこはすずかに任せる」
「今は安全運転でお願いね?」
「うん……とりあえず問題はなさそうだね。レンヤ君、学院に戻ろう」
「了解」
来た道を引き返して、学院に向かった。それからアンケートを書き、グロリア先輩に渡した。
「ふむ、なるほどね。すずか君の報告書を見ても目立った問題はなし。後は最終メンテナンスと各部のチェック、追加のアタッチメントを装着し終えたら……いつでも君達に支給できるよ」
「ありがとうございます、グロリア先輩」
「いいないいなぁ、私もこういう車に乗ってみたいなぁ」
「足がアクセルにつくのか心配ですけど」
「ルナちゃん酷い!」
「あ、あはは……」
「それじゃあ先輩、私は次の作業を進めます」
「まだ何か作るのか?」
「うん、緊急出動用にバイクをね」
すずかについて行き隣の部屋に入ると、そこにはまだ開発途中のバイクが2台置いてあった。
「これが?」
「型式ZFー28、グリードとの戦闘を考慮してバリア機能や自動操縦、後高い場所から落下してもタイヤから落ちる用にもしているよ。これなら空中で降りてもバイクは無事だよ」
「それはすごいですね」
「タイヤから落ちるって事はもしかして猫ひねりを参考にしたのか?」
「なるほど、確かに参考になりますね」
「猫好きのすずかちゃんならではのアイディアだね」
「はい!」
その後、意見を出しながらすずかの手伝いをした。
3日後ーー
水曜日、俺達はいつも通りにドームに集まっていた。
「さて、今月も実技テストの時間がやって参りました。準備はいいな?」
「はい」
「問題ありません」
「いつでも行けるよ」
「よしよし、本来ならいつも通りに人形が相手になるんだが……今日は趣向を変えてみた」
「……また思いつきですか?」
「いやいや、これはちゃんと事前に考えたものだから。あんま怖い顔すんな」
「そうやでなのはちゃん、この人もたま〜に教官らしい事もするんやで」
「たまには、は余計だ。ま、思いつきも上等なんだがな!」
やっぱ一度なのはに粛清された方がいいと思います。
「ということで、レンヤ!それとなのはとはやて!」
「はい」
「いきなり指名かいな……」
「まあまあ」
「お前ら、チームな」
え、つまりチームということは……
「残りは男女に別れてチームを組め。リヴァン達副委員長チームとすずか達委員長チーム、そんでレンヤ達変則チーム……その3組で模擬戦を行う!」
「なんだよその名前は……」
「それもそうだけどその前に……」
「なかなか興味深いチーム分けですね」
一同が驚く中、俺は疑問を言う。
「ちょ、ちょっと待って下さい!何で俺達だけ変則チームに……⁉︎ていうか人数少ないし!」
「俺の見立てだとこの3組が実力的に拮抗しているんだよなぁ。2チームの戦力バランスもいいし。レンヤのチームは人数こそ少ないけど、VII組1位2位を争うほどの魔力量と実力を持った2人とここしばらくで近接戦が伸びてきているなのはがいる。人数のハンディキャップくらいどうってことないだろう」
意外にも正当な理由で驚いた。
「確かに、納得はするね」
「少なくとも毎度の実習の班分けよりはマシかな」
「ま、そうね」
「トラブルの中心は、いつも通りやけど」
「あ、あはは……」
「他人事だと思って……ああもう!やりますよ、本気出して神衣化しますよ!」
「本気でやめて!」
自棄っぱちになるが、アリシアに止められた。
「そんなことしたら不合格だぞ〜。実技テストはあくまでそいつ個人の技量や能力を測るものではないからな。ま、早速始めるぞ。まずは変則チームと副委員長チームからだ。各自、準備してから配置につけ」
はやてとなのはと簡単な作戦会議やデバイスのチェックをした後、デバイスを起動してバリアジャケットを纏い、配置についてリヴァン達と向き合う。
「あのメンバーならどの間合いからも対処するだろう……何とか崩していかないと」
「久々の対人戦……緊張するんよ」
「あはは、でも気を抜かずに行こう」
「双方、準備はいいな」
一呼吸おいてーー
「それではーー始めっ!」
合図と同時にユエとシェルティスが飛び出し、刀を抜刀して斬撃をシェルティスに飛ばし、斬り返しでユエの籠手と鍔迫り合いになった。そのまま一騎打ちとなり、攻防のたびに魔力が火花のように飛び散る。
「やあっ!」
「そこだ!」
そこに、ツァリが端子を鋭くして飛ばし、リヴァンが弓の弦を弾いて幾つもの鋼糸を飛ばしてきた。
「なのはちゃん!」
「任せて!」
《ディバインシューター》
それをなのはが撃ち落とした。端子はレイジングハートで落とし、鋼糸はシューターで落としながらユエ達を抜いて敵後方に切り込んだ。
「しまった!」
「くっ……」
「行かせへんで!」
シェルティスがなのはを追いかけようとした所をはやてが上からの小型砲撃で道を塞いだ。その隙になのはがリヴァンにロッドモードに変形したレイジングハートを振るう。
「えいっ!」
「ちっ……」
リヴァンは左の剣で受け止めるも威力に負けて防戦一方だ。そんな攻防をしながらなのははツァリに向かって牽制の為のシューターを撃ち続ける。
「なら……剣晶三十三・星清剣!」
「効かへんよ!」
シェルティスは直ぐに相手をはやてに移し、地面から翠の結晶をはやてに向かって鋭く伸ばした。それをはやては落ち着いてアガートラムで砕く。
「……よし、今や!」
「「了解!」」
はやての合図で転移魔法でなのはと立ち位置を入れ替える。相手の思考が停まった隙に、ユエとリヴァンを一ヶ所に飛ばした。
「何っ⁉︎」
「気を取られすぎやで!」
シェルティスの視線が移った瞬間に、はやてがアガートラムで後方へ飛ばしてユエ達にぶつけた。
「今だ、なのは、はやて!」
《ハープンスピア》
3人を拘束し、なのはとはやては魔力を手のひらに集める。
「善なる白と……」
「悪なる黒!」
「「混ざりて消えろ!ケイオス・ブルーム!」」
2つの相反する性質を持つ魔力が混ざり合い、生まれた波動がユエ達に向かって放たれた。2人の本来の魔力光とは違うが、問題は質なので元の魔力光でも問題ないはずだが……見た目がおかしいからと言う理由で変えていた。意味はない。
「ぐっ……!」
「何て魔力だ!」
「障壁が削られる……」
「皆!」
「動くな」
なのは達に気を取られている隙にツァリの背後に回って、後頭部に銃を向けた。
「ーーそこまで!変則チームの勝ちだ!」
と、そこでテオ教官が止めに入り。勝敗が決した。
「連携の差で打ち勝ったな、まあ及第点ってところか」
「ふう……やったか」
「く……してやられたな」
「あ、危ないとこやったわ」
「はあ、さすがに悔しいね……」
「あ、あはは……そうだね」
「しかし、見事な采配でしたよ……はやて」
「うん、確かに。上手くいっていたね」
パンパン!
武器をしまい、一息つこうとした所をテオ教官が手を叩いて止めた。
「まだ次があるんだ、和むのはまだ早いぞ。次は変則チームと委員長チームだ。5分の休憩後に始める!」
「れ、連続ですか⁉︎」
「ス、スパルタやなぁ……」
「まあ、このくらいなら」
デバイスのチェックと休憩を行い、5分後……バリアジャケットを纏ったアリサ達と向かい合った。
「とりあえず体力、魔力は回復できたけど……」
「やっぱり、フェイトちゃんとアリシアちゃんのコンビネーションが厄介だね。アリサちゃんとすずかちゃんも侮れないよ」
「お互いにコンビを組んでいるわけやからなぁ」
「ああ……だがそこに、突破できる糸口があるはずだ」
「さあ、2戦目行くぞ!お互いに全力を尽くせよーー始めっ!」
「ッ!」
《モーメントステップ》
長期戦は圧倒的に不利なので、開始に一瞬でフェイトの懐に入り……
「
納刀したまま攻撃を与えた。
「きゃあっ⁉︎」
「フェイトちゃん!」
追撃しようとした所をすずかに止められ、なのは達の反対側に飛んだ。
「せいっ!」
「やあっ!」
「く……」
そこにアリサとフェイトが仕掛けて来た。一対一では勝てるが、2人相手ではさすがに防戦一方だ。
「レン君!」
《アクセルシューター》
「ブラッティダガー!」
後方から援護射撃が飛んできたが……
「狙い撃つよ、フォーチュンドロップ!」
《ドライブバレット》
アリシアの高速の魔力弾で全て撃ち落とされる。さらにすずかに接近されて逃げ場を失う。怒涛の波状攻撃に少しずつ追い込まれていく。
(深く切り込むか離れるかするか、隙を見せると他が攻めてくる……逃げ場がない)
「ハーケンスラッシュ!」
「ヒートコメット!」
「アイスブランチ!」
3方向から同時に仕掛けてきた。だが、同時なら……先ずはフェイトの鎌を受け流し、飛んでくる幾つもの火球と地を這う氷に向かって……
《サークルロンド》
「はああああああっ!」
全方向に魔力斬撃を飛ばし、攻撃を防ぐ。
「嘘っ⁉︎」
「斬撃を広げて3方向の攻撃を防いだの⁉︎」
「人数はこっちが上なのに……圧される!」
「! 今だ!」
《アイアンスクラップス》
怯んだ隙に、小型の魔力弾を全方向に放った。
「きゃあっ!」
「まだまだ……」
「シクザールクーブス!」
3人は一瞬で立方体の箱の中に囲われた。
「やられた!」
「皆!」
「させないよ!」
アリシアが助けに行こうとするのをなのはが止める。はやては箱を狭めて3人を動けなくした。
「ちょ、はやて……!」
「ごめんなぁ、もう少し我慢しとってなぁ」
「できないよ……!」
《フリーズクラッシュ》
すずかが箱を凍らせて砕き、はやてに向かって行く。
「はやての予想通り!」
「え?」
《ラバーバインド》
すずかの足首にバインドがかかり、アリシアに向かって引っ張られた。
「きゃあああああ⁉︎」
「うえ⁉︎」
「はやて!」
「了解や!」
はやてが魔力弾と白銀の魔力剣を飛ばし、それを掴んで……
「「クロイツカリバー!」」
魔力弾をかい潜り、十字に斬り裂いた。
「ーーそこまで!勝者、変則チーム!」
勝利を確認して、魔法を解除してようやく一息つけた。
「なかなかやるようになったなぁ。俺もうかうかしてられねぇな」
「はあ、負けちゃったわね」
「結構いい線までいったのに……さすがはレンヤ達だね」
「ホント、残念だよ」
「はは、ギリギリの勝利だったけどな……」
「はあはあ、疲れたよ〜……」
「ふふ、皆お疲れ様」
「うん、皆よう頑張ったと思うで」
武器をしまうと途端に疲労が出てきた。短い時間とはいえ、激しい戦いだったからな。
「変則チームは大体こんなもんか。総括は後回しにして……最後は委員長チームと副委員長チーム、前へ出ろ!」
その後、2チームの模擬戦が行われて……わずかな差で委員長チームが勝利した。
「ま、ざっとこんなとこか。最後の模擬戦もなかなか白熱したなぁ」
「く、もうちょいで勝てると思ったが……」
「あはは……ほんの少しの隙で一気に押し切られるなんてね」
「さすがはフェイトとアリシアね」
「戦闘だけでも、管理局の精鋭達にも対抗できそうだね」
「ううん、今回はアリサとすずかのサポートがあったからだよ」
「そうだね、私達だけじゃああも上手くいかなかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「とにかく皆さん、よく頑張ったということですね」
皆はお互いを労い、賞賛し合った。
「それにしても、レンヤ達はよくやったと思うぜ。2戦とも勝利を収めるなんてな」
「はは、俺1人では到底無理でした」
「ううん、レン君もよく頑張ったと思うよ」
「そうやで、これは3人の勝利や」
今回の実技テストはこれで全て終了し、全員が一息吐いていると、そこに女性の声が聞こえてくる。
「ーー全く、相変わらずですね……」
その声の主を確かめるためると……そこにはドームの入り口から歩いてきているモコ教官の姿が見えた。
「えっと、どうしてモコ教官が?」
「ま、まさかこのまま教官と模擬戦なんて言うんじゃ……」
「そうかなぁ?」
「最初に言っておくが違うぞ」
そう否定するが内心それも面白そう……という顔をしている。
「次の特別実習は、前回のクラナガン同様にちょっと変則的でな。彼女も段取りに関わっているから、こうして来てもらった」
「変則的、ですか……?」
「何やら思わせぶりだな」
「ま、ちょうどいいからこのまま実習地の発表と行きますか」
いつものように配られていく実習の行き先が記された紙。それを受け取り、内容を確認する。
【8月特別実習】
A班:レンヤ、すずか、はやて、フェイト、ユエ、リヴァン
(実習地:マインツ)
B班:アリサ、なのは、アリシア、シェルティス、ツァリ
(実習地:ミシュラム)
※2日の実習期間の後、指定の場所で合流すること
メンバーの班分けや実習先はいつも通りだが、下の方にいつもとは違う記述が書かれたあった。
「これって……」
「A班のマインツってどのあたりなんや?」
「ミッドチルダの北西、荒野を越えた先にある鉱山町だ。あの辺りの鉱山は良質な鉄鉱石や貴金属採れる場所でな、そしてその採掘量は未だ減少の兆しを見せていない」
「一見、かなり潤っていると思われがちだけど……町はいたって普通だよ。慣れた暮らしを捨てる程、器用でもないし」
「なるほど……」
「そして、私達が向かうミシュラムは……」
「ミッドチルダの南東、ウーク湖に位置する湖畔の町だよ。対岸には高級保養地エミューがあってね、あそこのテーマパークは楽しいよ♪」
「へえ、興味があるね」
「それで、この最後の一文は……?」
ユエの疑問の声に対する答えをモコ教官に任せるテオ教官。モコ教官もまた、このことについては自分自身の口から説明するべきだろうと一度咳払いを入れてから最後の一文についての説明を行う。
「コホン、皆さんには各々の場所での実習の後、そのまま合流してもらいます。合流地点はミッドチルダにある時空管理局地上本部です」
「え、地上本部ですか⁉︎」
「この時期に地上本部ということは……」
「まあ、ご想像通りだと思うぜ」
「あなた達には次元管制会議に警備の名目で行ってもらいます」
「ええ……⁉︎」
「それは一体なぜ?」
「基本、実習の範囲と思っていい。無理な事は任せないし、適度な緊張を持って取り組めばいい」
「それでも、重大な立ち回りですね」
「会議が行われている近くでの警備だからね」
「それと、俺も合流するつもりだから。あんまりこき使われないかの監視と同じく警備するためだ。ま、管理局のガチガチな論理が悪影響を及ばさないか心配だからなぁ」
妙に棘を含ませてモコ教官を横目で見ながらそう言う。モコもまたその言葉を買ったのか火に油を注いでいく。
「お生憎、私はカリキュラムを勝手に改変した理不尽なしごきをする予定はありません。どこかの気分屋な教官と一緒にしないでもらいたいものです」
「む……」
無言のままモコ教官を睨みつけるテオ教官に対し、モコ教官もまたテオ教官を睨みつける。そんな、一触即発の雰囲気に陥った2人を見て、Ⅶ組メンバーは内心で溜め息を吐くのだった。