魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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8話

車を走らせること数十分、民家が少なくなるに連れて窓の外に大きな屋敷が見えてきた。

 

「これが……すずかの?」

 

「うん、私の家だよ」

 

「……大きいな」

 

「これぐらいで驚いていると、私の家を見ると持たないわよ」

 

「どんだけデカイんだよ」

 

驚きながらもメイドさんに案内されて屋敷の中に入り、客間に通された。 かなり広い上に床からソファーまで高級品だ、歩くだけで疲れる。

 

「全く、さっきまでの威勢はどうしたのよ」

 

「いや緊張するよ! 壊したと思うと……」

 

「ふふ、たとえ壊してもレンヤ君に弁償はさせないよ」

 

「でもお値段は聞いてもらいますよ」

 

すずかの後ろにいた、メイドさん ーーーファリン・K・エーアリヒカイトーーーがからかうように言う。

 

「お値段……」

 

「ちなみに今座っているソファーは…」

 

「ファリン、レンヤ君を困らせないの」

 

「はーい」

 

(座るのが怖くなってきた)

 

「ーー待たせたわね」

 

ドアを開けながら誰が入って来た。 声のする方向を見ると、すずかと同じ髪の色の女性2人と恭也さんがいた。

 

「あれ、お父さんは?」

 

「俊さんは仕事で遅れるみたいよ。 さて……あなたが神崎 蓮也君ですね。 私は月村 春菜と言います。 この度はご足労願いありがとうね」

 

「私は月村 忍、すずかの姉よ」

 

「どうも初めまして、神崎 蓮也です」

 

春菜さんと忍さん、恭也さんは向かいのソファーに座った。 メイドさんがお茶を淹れ、一口飲んでから話を切り出した。

 

「まずはお礼を言わなきゃね。 娘とアリサちゃんを助けてありがとう」

 

「いえ、たまたま居合わせただけですし」

 

「それでも助けてくれたことには変わりはないの。 だからお礼を言わせてちょうだい」

 

そう言い忍さんと春菜さんは頭を下げた。 そして顔を上げると……

 

「それで、月村についてどれだけ知っているのかしら?」

 

少し真剣な表情をして聞いて来た。 俺は軽くすずかを一瞥すると……笑顔で返してくれた、大丈夫ということだろうか。

 

「……月村が、吸血鬼……ということですか?」

 

「そう、なら説明しておくわね」

 

春菜さんは詳しく月村の家系について話してくれた。 月村とは夜の一族と言われる吸血鬼。 しかしいわゆる吸血鬼モドキであって、太陽やニンニクといったものは効かず、血が必要ではあるが輸血パックで事足りるらしい。

 

「それで、あなたに選択の余地があるわ。 夜の一族のことを忘れるか、それとも友好を誓うか…」

 

そこで言葉を止め、忍さんがイタズラをするような顔をして……

 

「すずかと結婚するかのどちらかよ♪」

 

「………え?」

 

「お、お姉ちゃん!!」

 

突然の事に唖然とした声が出てしまい。 次いですずかが声を上げながらテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「け、結婚って、あの結婚ですか?」

 

「その結婚よ、女の子だったら前の2択でいいんだけど…」

 

ええ、そんなのありー、って言うかアリサよ眼光が痛い。 目で攻撃できたら、俺何回死んでるんだろう。

 

「コホン、えっと……友好を誓うわせてもらいます」

 

「あら残念」

 

(なんでだよ)

 

「さてと、次の話よ。あなたたちは何者なの?」

 

「それはこの子たちが説明してくれます」

 

後の話を任せてソエルたちをテーブルに乗せた。

 

「初めましてモコナ・ソエル・モドキだよ。 ソエルって呼んでね♪」

 

「モコナ・ラーグ・モドキだ。 よろしくな」

 

「……何!? この不思議生物は……可愛い!」

 

「あ〜れ〜」

 

忍さんは顔色を変えてソエルを抱きしめ、頰ずりをした。

 

「あらあら、忍ちゃんたら」

 

「コホン、話を戻すぞ。 まず俺たちのことは話すことはできない」

 

「それはどうして?」

 

疑問を問いかけると忍さんは真剣な顔になるが、ソエルを抱きしめたままだった。

 

「レンヤのためだ、だから話すことはできない」

 

「レンヤ君のため?」

 

みんなの視線が刺さるが……

 

「ラーグ、やっぱり俺の正体知っていたんだな……」

 

「いやっこれにはちゃんと訳があってだな……」

 

俺はラーグの頭を鷲掴みし、バルコニーに出ると……

 

「今までの旅が無駄じゃねえか黒まんじゅう!」

 

「あーーーれーーー………」

 

思いっきり外に投げた。 放物線を描きながらラーグは月村の敷地内に落ちていった。 戻ってくると、すずかが困惑していた。

 

「あの、話の続きは……」

 

「ソエルがしてくれるさ」

 

「ほいきた!」

 

ソエルが忍さんから逃れた、ちょっと残念そうな顔をしている。

 

「ラーグも言った通り、私たちとレンヤのことは話すことができない……いいよね?」

 

「……納得はしていないけど、いいわ」

 

「それじゃあ次の話、3日前の廃工場で起こったことを話すよ」

 

ソエルは廃工場で起こったことや、異界のこと、魔法についても話した。

 

(ゲート)、異界化、迷宮、怪異(グリード)、そんなことがあるなんて」

 

「現実で起きている災害や神隠しの8割以上が関わっているよ」

 

「私達の存在よりメルヘンね〜」

 

「それじゃあ、レンヤ君が消えたことは?」

 

「あれは地脈の揺らぎの影響を受けて、出現座標が移動したらしいんです。 別に逃げるつもりはなかったんですよ」

 

「……それにしても、魔法も存在しているなんて」

 

「あはは……魔法と言っても理論が証明されていて科学の力で起こる現象のことを通称、魔法って言っているの」

 

「ふぅん……どんな魔法があるのよ」

 

「基本的に3つに分かれていて……変化、移動、幻惑に分かれているの。デバイスもいわゆる魔法の杖みたい物で、魔法のプログラムを入れておくハードディスクであらかじめ入れた魔法プログラムを打ち込むことで、魔法を使うことができるんだよ」

 

「そうだったんだ。 奥が深いね」

 

「ーーすずか? デバイスをちょっと貸してくれないかしら」

 

「!? だ、ダメだよ! 分解すると元に戻らないってスノーホワイトが言っていたの!」

 

「な!? デバイスは言葉を話すことができるのか!?」

 

「そういう種類があるの。

すずかのスノーホワイト、アリサのフレイムアイズはAIが入っている“インテリジェントデバイス”

簡単な魔法を記録できる“ストレージデバイス”

近接の戦闘が得意な“アームドデバイス”などがあるよ」

 

「へー、結構あるのね」

 

「いたた、ひどい目あったぜ」

 

と、そこでラーグがバルコニーをよじ登って戻ってきた。

 

「おかえり〜」

 

「ふん! ラーグが悪いんだからな!」

 

「はいはいわかっているさ。 ソエル、今どれ位話したんだ?」

 

「大体の事は話したよ」

 

「そうか。なら、忍に頼みたいことがある」

 

「ん? 何かな?」

 

「異界に関することだ。 ゲートが出現を予測する装置を作って欲しいんだ」

 

「別に構わないけど、情報も材料もないことには……」

 

「データと材料は持っている」

 

ラーグは口を開けて中から何かを取り出した。 かなりシュールだが、取り出したのはUSBメモリと異界の材料だった。

 

「ラーグ、それって……」

 

「この前の迷宮で手に入れたものと異界に関する資料が入っているメモリだ」

 

「ふーん? ま、これだけあれば、なんとかできるかもしれないわ」

 

「よろしくね〜」

 

「これで話は終わりかな」

 

「あ、待って、まだ聞きたいことがあるんですけど」

 

「何?アリサ」

 

「ーー異界の子って何?」

 

「………………」

 

その言葉にソエルが黙った。 他の皆は……いや、月村意外の、俺と恭也さんだけが何の事か分からず首を傾げている。

 

「すずかも知っているようだったけど……」

 

「それは……」

 

「……今更黙っていてもしょうがないでしょう、夜の一族は異界の子を知っています」

 

「え、それって……!?」

 

「異界の子については知っていますが異界化や迷宮のことは今まで知らなかった。 これは本当です」

 

「私たち、月村が知ってる情報は傍観者であることと、レムと言う名前だけ」

 

「レム……」

 

「すずかは見たのよね」

 

「うん、白い髪で歳が私たちくらいだよ。 覚えていないと思うけどアリサちゃんも見たんだよ」

 

「え、嘘!? 覚えていないわよ!」

 

「レムを知らずに会うと、記憶から消えることが多いんだ」

 

「そうなのか」

 

「うぅ、なんで覚えていないのよ」

 

「仕方ないさ、アリサ」

 

あ、そういえば……

 

「士郎さん、恭也さん」

 

「なんだい」

 

「俺からして聞けることなどないぞ」

 

「そうじゃなくて、ここにいるってことは、夜の一族のことを知っているんですよね。やっぱり友好を誓うにしたんですよね」

 

「私は友好だが、恭也は違う」

 

「えっ」

 

「……俺は忍と付き合っている」

 

「えっ、ええええええええええ!」

 

俺はつい叫んでしまう。 仲が良いとは思っていたけどまさか……

 

「えっと、お似合いですね」

 

「ふふ、ありがとう。さてと、これで本当に話も終わりね」

 

そこで忍さんは一度辺り見渡して……何も無い事を確認してから立ち上がった。

 

「車で送るわ、ノエル」

 

「かしこまりました」

 

「ふふ、今度はゆっくりとお茶をしましょうね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レンヤ君、アリサちゃん、また明日」

 

「またね、すずか」

 

「また明日、すずか」

 

その後、来た道を引き返して高町家まで車で送ってもらった。

 

「ありがとうございます、ノエルさん」

 

「いえこちらこそ、すずかお嬢様を助けてくださりありがとうございます。 レンヤ様」

 

「あはは、様は付けなくてもいいですよ」

 

「これは、癖みたいなものです。それとも旦那様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 

「い、いえ結構です……」

 

「ふふ、それでは失礼しますレンヤ様。良い夜を」

 

ノエルさん、生真面目だと思ったけど。 冗談も言うんだな。

 

「そうだレンヤ君」

 

「なんですか」

 

「この後、家に住むためになのはの許可をもらいに行こうか」

 

「えっ」

 

「なのはが帰る前に言っていたじゃないか、なのはの許可をもらえば家に住んでくれるって」

 

「あっそういえば、そうでした」

 

最後の望みをなのはに託したんだ。

 

「わかりました、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レン君ここに住むの!やったーー!」

 

「決まりだね」

 

現実は……非情だ。

 

「往生際が悪いぞ」

 

「そうそう、男の子がうじうじしない」

 

「〜〜〜〜〜っ!わかりました!わかりましたよ!士郎さん、ちゃんと両親を探してくださいよ!」

 

「もちろんだよ」

 

「ふふ、今日はレンヤ君のためにご馳走を作ったの。3人とも手を洗ってきてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うわあぁぁ!」」

 

俺となのはは目の前の料理に目を輝かせた。

 

「それじゃあ、みんな」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

お肉を1つ食べて。

 

「おいしい!すごくおいしいです、桃子さん!」

 

「まだまだおかわりがあるから、遠慮しないでゆっくり…」

 

「ムグッ!」

 

「言ったそばから、ほら」

 

「ゴクッゴクップハー、すいません恭也さん」

 

「まったくだ」

 

「はいレン君、あーんして」

 

「えっなのは⁉︎」

 

「ほらほら、あーん」

 

「あっあーん」

 

「おいしい⁉︎」

 

「おいしいよ」

 

そんな光景を4人は見ていた。

 

「あらあら、なのはったら」

 

「お似合いね〜」

 

「くっ俺は認めんぞ!」

 

「私はいいと思うぞ」

 

「「(お)父さん!」」

 

「あら意外ね、真っ先に否定すると思ったんだけど」

 

「あの子ほど、聡明で優しい子はそうそういない。この翠屋を継がせるのもやぶさかでもない」

 

「そっそれは…」

 

「士郎さん、流石にそれは行き過ぎですよ。先はまだまだ長いのですから」

 

「それもそうだな」

 

それから桃子さんは、料理を少し持って。ソエルたちの所に行った。

 

「ごめんね、一緒に食事ができなくて」

 

「大丈夫だよ桃子」

 

「あんな嬉しそうな顔をしたレンヤは初めてだ、ありがとうな桃子」

 

「どういたしまして、いつかあなたたちとも一緒のテーブルで食事したいわね」

 

「それは、案外早いかもしれないな」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、お腹いっぱい……」

 

「もう動けないの……」

 

俺となのはは食べ過ぎで、ソファーに座っていた。

 

パンパン

 

「ほらダラダラしない、2人ともお風呂に入ってきなさい」

 

「はーい」

 

「わかりましたって、着替えが……」

 

「子ども頃の恭也の服を出しておくから、入ってきなさい」

 

「レン君、はやくはやく」

 

「わかったから、引っ張らないで」

 

四苦八苦しながらも風呂を堪能した。 何故かなのはがやたら俺の背中を洗いたがっていたし、視線が分かるように背中に突き刺さっていた気がする。

 

「ふう、いいお湯でした」

 

「いつもより気持ちよかったの」

 

「レンヤ君、今日は早く寝ちゃいなさい。色々あったのだろうし」

 

「はい、それじゃあ……」

 

「レン君!一緒に寝よう!」

 

「え、でも……」

 

「そうしなさい、家具も何も無い部屋よりいいでしょう」

 

「やった〜!ありがとうお母さん!コッチだよレン君!」

 

「だから、引っ張らないでよ!」

 

レンヤたちはリビングから出て行き。

 

「士郎さん」

 

「ああ、明日レンヤ君がいた孤児院に行こうと思う。養子にしないと学校にも行かせられない」

 

「なら、私もついていきます」

 

「明日は土曜とはいえ店が……」

 

「息子よりお店を優先するなんて、母親のすることではありません」

 

「…そうだな、あの子の父親になるんだ、それくらいしなくてはな」

 

そこに恭也と美由希が入ってきた。

 

「お店のことなら俺たちに任せてくれ、簡単な事しかできないが」

 

「私も頑張るよ!かわいい弟のためだもん、料理くらい…」

 

「やらなくていい、お前が作るものは全部ダークマターだ」

 

「ひどい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桃子、士郎、これを……」

 

「これは?」

 

「明日、必ず必要になるもんだ」

 

「レンヤを本当の意味で助けて、レンヤはまだあの孤児院に捕らわれているの」

 

「必ず助けるわ、だから安心して」

 

「任せてくれ、ちょっとやそっとじゃ私は諦めない」

 

「期待しているぞ、士郎」

 

 


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