魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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79話

 

 

騒ぎというものはそう簡単には収まるものではなく。負傷しながらも陣頭指揮を取ったラース査察官と航空武装隊と地上警備隊の働きによって3日に渡る夏至祭も無事に終了した。そしてその後日、俺達VII組のメンバーは揃って首都クラナガンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在ーー

 

8月の初めにレルム魔導学院は短い夏季休暇に入っていた。そもそもレルム魔導学院は本質的には士官学校と同じで年末年始以外の長期休暇は存在しない。だが、一部の一科生に限っては学院からの推薦で仮配属の名目で管理局の部隊に配属されおり……夏季休暇が終わっても8月の間はI組とII組の生徒のほとんどは会うことはないだろう。

 

と、そんな先のことを考えても仕方なく。俺達、地球出身組は休暇初日に地球に三日間だけ帰還していた。

 

「うーーん!やっぱり見慣れた空は気持ちがいいな〜♪」

 

「ご機嫌だな、なのはは」

 

「うん、家に帰るのは久しぶりだもん!」

 

「あれ、なのはは前の自由行動日に帰ってなかったか?士郎に棒術を教わるために」

 

「ラーグ、なのはにとっては一週間でも久しぶりになるんだよ」

 

「そうそう」

 

俺となのは、ラーグとソエルはすずかの家の転送ポートから地球に帰ってきて。フェイト達と別れて今は昼前なので翠屋に向かっている。しばらくして翠屋に到着した。

 

「ただいま!」

 

「ただいま」

 

「なのは、レンヤ!お帰りなさい」

 

母さんは俺の顔を見るなり抱きしめてきた。

 

「ちょ、母さん……恥ずかしいよ」

 

「ふふ、これぐらいいいじゃない」

 

「お母さん、私は⁉︎」

 

「なのはは前に帰ってきたじゃない。もう、よしよし」

 

「えへへ」

 

頭を撫でられ途端笑顔になるなのは。

 

「レンヤ!」

 

「帰ってきたか」

 

そこに厨房から美由希姉さんと父さんが出てきた。

 

「お帰り、少し見ないうちに男前になっちゃって」

 

「つもる話しもあるだろうが、それは家でゆっくりな」

 

「あ、なら手伝うよ。久しぶりに腕を振るいたいし」

 

「2人共、せっかくのお休みなのに手伝わなくてもいいのよ?」

 

「いいのいいの、私も手伝うよ!」

 

「全く……」

 

それからピークが過ぎるまで手伝いをした。それから一体家に帰って、久しぶりに海鳴を歩きまわることにした。

 

「へえ、あんまり変わっていないね〜」

 

「4カ月余りでそう簡単に変わったら困るよ〜」

 

「変わったと言えば、昔と見える景色が変わったことかな」

 

「そりゃあお前らの身長が伸びたからな」

 

基本散歩気分で歩きまわると、どこか見覚えのある道に差し掛かった。

 

「ここは……」

 

「どうしたの、レン君?」

 

「いや、ちょっと見覚えがあってな。行ってみてもいいか?」

 

「うん!」

 

坂を上って、少し進むと住宅地から離れた場所にあったあの孤児院があった。正門には立ち入り禁止の看板があった、未だに壊されていないことに結構驚いた。

 

「通りで見覚えがあったわけだ」

 

「レン君……」

 

「大丈夫だ、もう吹っ切れている。さ、行こうーー」

 

踵を返して来た道を引き返そうとした時、身体を引っ張られるような妙な感覚に陥った。あの孤児院の隣にある森からだ。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、ああ。ちょっと待ってくれ」

 

森の中入り、少し進んだ場所の木にたどり着く。妙な感覚はこの下からするので、手を魔力で硬化させて地面を掘り始めた。それからすぐに何かを掘り当てた。

 

「何だこれ?泥だらけで何が何だか……」

 

木にぶつけて泥を落としていくと、小さな鎌が出てきた。

 

「……おいラーグ」

 

「何だ?」

 

「これって、神器か?」

 

「そうだぞ、最後の神器。闇の神器だ」

 

「つまり、俺の本当のお父さんとお母さんがここにこれを埋めたわけだな……!」

 

「うん、アルフィンとシャオがね」

 

「………どこに行ったとかは教えてくれないんだな」

 

「うん……誓約でね、ごめん」

 

「いいさ、自分で真実にたどり着くって決めたから。なのはが心配していると思うし、早く戻ろう」

 

「ああ……」

 

早足で孤児院前に着くと、なのはがガラの悪い男3人に絡まれていた。すずかの時と同じで強く断れずにいる。

 

「なのは」

 

「あ、レン君!」

 

なのはは俺の姿を確認すると笑顔になって、俺の後ろに隠れた。

 

「ああぁ、何だテメェは……!」

 

「その子は俺達と遊ぶ予定なんだぞ……!」

 

相手的にそれなりに気迫を出しているようだが、テオ教官とティーダさんと比べると雀の涙分も怖くない。いやあの2人と比べるのも酷な話か。

 

「あーはいはい、彼女は俺の連れなので諦めてください」

 

「舐めてんのか!」

 

「女の前で恥ずかしい思いしたくなければさっさと失せろ」

 

「それともボコボコに……」

 

そう言いかけ、男は俺の方をジッと見る。正確には上着の両ポケットから顔を出しているラーグとソエルに。

 

「おいおいその趣味の悪いぬいぐるみは……お前神崎 蓮也だなぁ!」

 

うん?俺のことを知っている……こんな顔、見覚えないな。

 

「えっと、どこのどちら様ですか?」

 

「なんだ忘れちまったのかよ、この孤児院で散々可愛がってやったじゃねえか」

 

「うーん………あ、男女の!」

 

「それはおめえだよ!」

 

「と言っていた奴」

 

「どんな思い出し方だ!まあいい、また酷い目にあいたくなければ女を譲るんだな」

 

よく覚えていない男はそう言う。取り巻きはつられるように下品に笑う。

 

「はあ……」

 

ため息をつきながらそのまま持っていた闇の神器が目に入ってきた。

 

……人生初めてワルに目覚めた時だった。

 

「あ、なんだ、その鎌でやり合うってのか?」

 

「つうか何で鎌なんぞ持ち歩いているんだよ、頭おかしんじゃね!」

 

「はいちゅうもーく」

 

幻影魔法で身体を今と同じ状態のままにして神衣を発動した。実際には黒い装飾のある白い服になっているが、男3人には何も変わってないように見え、ただ鎌が消えたことだけが理解できた。

 

「何だ手品かよ、そんなのは他所でやれ」

 

「はいはい………幻影想起、ナイトメアフィアー……」

 

すぐに掌握した力を小さな声で魔法を発動すると……

 

「うわ!何だこれ⁉︎」

 

「か、影から手が!」

 

「うわああああっ⁉︎」

 

影から手が飛び出し、男3人を驚かせながら縛りつけた。

 

「行くぞ」

 

「え、ええええ⁉︎」

 

なのはの手を引き、一気に坂を下り、しばらく走り続けた。

 

「ふう、ここまでくれば一安心だな」

 

「はあはあ、そうだけど………レン君、魔法で脅かすなんてらしくないよ」

 

そういえば、そうだ。なぜあんな行動に出たのか、自分でも分からない。

 

「そう……だなぁ。自分でも知らずに……恨んでいたのかもな、あの孤児院に……イジメて来た奴らに」

 

「レン君……」

 

「ああもう!吹っ切れたとか言っておきながらまだ引きずっているのかよ!はあ……」

 

「それもまた、人だよ。レンヤ」

 

「誰だってそう簡単に変われない。あがいて、失敗して、理解しながら少しずつ変わって行けばいいんだ」

 

「そうだな……ありがとう、ソエル、ラーグ」

 

「うん!」

 

「いいってことよ」

 

「よし!なら帰ろうか!」

 

なのはに手を引かれながら、家に帰って行った。もちろん魔法も神衣も解除して。

 

帰ってから部屋でゆっくりしていた時、なのはがやって来て棒術の練習相手をお願いして来た。断る理由もなく、離れの道場でなのはが納得するまで相手になった。

 

「やああああっ!」

 

「はあっ!」

 

棒と木刀が何度も打ち合い、木をぶつける音が道場内で響かせる。

 

颪風(おろしかぜ)!」

 

「昇り龍!」

 

上から下へなのはの棒が、下から上へ俺の木刀の柄頭がぶつかり、すぐに離れて距離を置く。

 

「やっぱりレン君は強いや」

 

「そういうなのはこそ、武術歴が短いのによく俺について来られる」

 

お互いを褒め合いながらも視線は逸らさず相手の動きを見逃さない。

 

「「ッ!」」

 

「ーーそこまで」

 

踏み出そうとした時、横から声をかけられてきた。

 

「熱中するのもいいが、もう夕方だぞ」

 

「え、もうそんな時間⁉︎」

 

「ふう、まあキリもいいかな」

 

「なのは、先に汗を流してきなさい」

 

「はーい!」

 

なのはが道場を出た後、ふと壁に掛けられた2本の小太刀が目に入った。

 

「父さん、ちょっと聞いてもいい?」

 

「何だいきなり」

 

「父さんは何で二刀小太刀にしたの?父さんが収めている御神流、小太刀二刀術ってことは裏なんだよね。普通、流派が2つに分けられていたら表と裏が存在する。鍛錬において裏は表の練習相手、演舞の時は表の後ろに………父さん、表はーー」

 

「すまんなレンヤ、さすがにそれを教えることは出来ない」

 

「……ごめんなさい、無理に聞いちゃって……」

 

「お前は聡明だ、疑問に思うのも仕方がない。そろそろなのはも上がった頃だろう、私は先に行っている」

 

父さんに頭を撫でられた後、お母さんの元に行ってしまった。

 

俺もシャワーを浴びようと部屋から着替えを取ってお風呂に向かう。なのははすでに出ていると思い扉を開けたら……

 

「え⁉︎」

 

「え……」

 

一糸纏わぬ姿のなのはがいた。しばらくジッと見つめあっていたが、すぐ正気に戻って後ろを向く。

 

「えっと、あの、もう上がっていると思っていて……その……」

 

「う、うん、わざとじゃないのはわかっているよ///」

 

服を着る音が妙に大きく聞こえてくる。しばらくして肩を叩かれた。振り返ってみるとちゃんと服を着たなのはがいた。

 

「ごめんねレン君」

 

「大丈夫だって。その……綺麗だった」

 

「ふえ⁉︎///」

 

って何言ってんだ俺は!

 

「ほ、ホントに?///」

 

「え、ええっ……⁉︎ほ、本当だ……///」

 

「えへへ///」

 

なぜ喜ぶ。

 

「じゃあ許してあげる、また後でね!」

 

本当に許してくれたように笑いながら行ってしまった。呆然としながらもシャワーを浴びて、その後何事もなかったかのようになのはと一緒に久しぶりの母さんの料理を食べた。学院生活の事を話したりで盛り上がった。久しぶりの家族の食卓はとても楽しい時間になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日ーー

 

俺達は地球でやる事があり、今日そこに行ってから次の日にそのままミッドチルダに帰るので今日中に出発する事になっている。母さん達とお別れを言った後、海鳴にいる知人に挨拶周りをした。ある程度周った後にリンディさんとプレシアさんの住むマンションに向かった。

 

「リンディさん、お久しぶりです」

 

「あらぁ、レンヤ君になのはちゃん、久しぶりね」

 

「にゃのは、にゃのは!」

 

「はーい、なのはですよ〜ユノちゃん」

 

「ユノはもう3歳でしたよね」

 

「ええ、もうすっかりやんちゃでアルフも手を焼いているわ」

 

「これぐらい平気だっての。それにカレルとリエラもいんだからな」

 

「うん、アルフには感謝しているよ」

 

奥から赤ん坊を抱きかかえたエイミィさんとフェイトが出てきた。

 

「フェイトちゃん、その子が?」

 

「うん、お兄ちゃんのカレルだよ」

 

「それでこっちが妹のリエラ」

 

「へえ、双子なんだね〜」

 

「いないいない……メキョ!」

 

「それ、地味に怖いわよ」

 

だがカレルとリエラは物珍しいそうにソエルとラーグをジッと見つめている。

 

「髪はエイミィさんに、瞳はクロノ似なんですね」

 

「そうだぞ、どっちもスクスク成長して嬉しいんだ!」

 

「そう言えばプレシアさんとアリシアは?」

 

「姉さんは昨日から海鳴の異界の調査に、お母さんはリニスと一緒に今朝ミッドチルダに仕事で。後で合流するってちゃんと言っていたから大丈夫だと思うよ」

 

「全く、こんな日ぐらいゆっくりすればいいのに」

 

「私達もそろそろ行こう、時間がなくなっちゃう」

 

「そうだね」

 

フェイトはカレルをアルフに渡して荷物を持った。

 

「それじゃあ、リンディさん、エイミィ、アルフ、ユノちゃん行ってきます」

 

「気をつけてねー」

 

「クロノにもよろしくお願いね」

 

「頑張ってこいよフェイト!」

 

「ばいば〜い」

 

次にすずかの家に向かった。正門に着くとノルミンがいて普通に案内された。屋敷に入ってからチラチラとノルミンが目に付く。あ、猫に襲われている……

 

「いらっしゃい、レンヤ君、なのはちゃん、フェイトちゃん!」

 

「来たわね」

 

「よお」

 

それなりに待っていたのかアリサ、すずか、アギトは紅茶を飲んでいた。

 

「それじゃあ、そろそろ出発する?」

 

「途中でアリシアを拾う必要があるけどね」

 

「さっき連絡が来たんだけど、今はやてちゃんと一緒にいるみたいだね」

 

「ならすぐに行こうか」

 

「うん、ノエル、家をお願いね。ファリンはミッドチルダで」

 

「かしこまりました」

 

「はい、すずか様」

 

それから次は駅に向かった。

 

「そういえばすずか、ノルミンが結構いたけど……全部で何体いるんだ?」

 

「ノルミンちゃんは全部で49体いるよ」

 

「随分と中途半端ね」

 

「私はいいと思うよ」

 

「でも名前がアレだけど……」

 

「大丈夫、最近芸名をつけ始めた子もいるから」

 

「芸名って……」

 

「それにファリンとも協力して面白い事を始め出したみたいだし」

 

「面白い事?」

 

「すずか、それは……?」

 

「それは……秘密♪」

 

「勿体振るわね」

 

「ま、お楽しみは取っておいた方がいいからな」

 

しばらくして駅に到着すると、正面にアリシアとはやてとリインがいた。

 

「皆〜!」

 

「おはよう、アリシア、はやて」

 

「おはようですぅ!」

 

「1日振りやなぁ。ほな行こうか」

 

「ええ、異界については電車の中で聞くわ」

 

電車に乗って、都心部に向かった。それでアリシアによると海鳴一帯の異界は縮小傾向にあったという。被害が出なくなるならそれに越した事はないが、以前原因は不明だ。

 

「それで行ってみるんだよね?東亰の杜宮市に」

 

「ああ、東亰冥災が起こった場所。行ってみたら何か判るかもしれないからな」

 

「基本旅行気分で問題ないんやろ?」

 

「ええ、あんまり深く調べると別の組織に感づかれる危険があるからね」

 

「でも楽しみだねぇ!上亰なんて初めてだよ!」

 

「確かに、地球では初めてだから結構新鮮だよ」

 

「ただ遠いからね〜、到着は夕方でしょう?そして次の日の夕方に出発……ちょっとハードスケジュールだよ〜」

 

「調査なら私達に任せて」

 

「地球じゃあ動けねえからな、これぐらいは当然だ」

 

「あたし達は人形の真似しなきゃ面倒だかんな」

 

「ですぅ」

 

都心部に到着してからすぐに新幹線で北に向かった。最初は雑談やゲームをしたりで盛り上がったが、時間が経つごとに少しずつ眠って行ってしまった。

俺は窓の外の景色を見ながらつい先日行われたクロノとエイミィさんの結婚式の事を思い出した。結婚式とはまだ縁のない事だったが、友達を祝福ことは自分も嬉しくなるとは思ってもいなかった。ただ、最後のブーケトスの時のなのは達の目がヤバかった。まさしく獲物を狩る野獣の如くブーケを狙っていた。しかし、投げられたブーケは……どう言う訳か俺の手に落ちて来てしまった。巻き込まれないよう離れた筈なんだがな。なのは達は悔しそうにしてたが、なぜか内心嬉しそうだった。

 

それから適当に時間を潰して行っていたら、車内放送でそろそろ到着するとの事だった。

 

皆を起こし、それからすぐに到着して。次はモノレールに乗り換えて杜宮市に向かった。そして予定通りに夕方に杜宮市に到着した。

 

「うーん、ようやく着いたんか〜」

 

「さすがに疲れたね」

 

「まずはホテルを探しましょう」

 

「確か、駅前広場の近くにあったはずだよ」

 

「俺は一旦この辺りを散策してくるから先に行っててくれ」

 

「それなら私もーー」

 

「ダメよフェイト、いつ感づかれるかわからない状況よ。1人の方がいいわ」

 

「そうだよフェイト、大丈夫。レンヤは平気だって」

 

そう言いアリシアは手を出してきた。意図を理解して、その手に荷物とラーグを持たせた。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「行ってきまーす」

 

「気をつけてね、レン君!」

 

手を振って返事をして、まずは西から調べる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し進むとレトロな感じの通り、レンガ小路という場所に着いた。

 

「うーん、見た感じ変わった所はないな。まあ、9年前の事だし当然か」

 

「どうするの、レンヤ」

 

「この先に記念公園があったはずだ、人気の少ない場所に行けば何か判るかもしれない」

 

レンガ小路を抜けた先に杜宮記念公園があった。さっきより人気は少ないものの、スケートボードのコースがあり。それなりに子ども達が賑わっていたり。オープンカフェで大人達が賑わっていたりしていた。とりあえずカフェでカフェオレを購入して近くのベンチで休んでいた。

 

「ふう、平和そのものだね〜」

 

「こりゃ、無闇に年長者の人に震災の事は聞けないかなぁ。ギリギリ高校生なら何とか……」

 

「それでも小学生くらいでしょう?覚えているのかなぁ?」

 

「ま、気楽にやるさ」

 

そう思いカフェオレを飲んでいたら……

 

ピロン、ピロン♪

 

端末に搭載された異界サーチが反応を示した。

 

「いきなりだね」

 

「空気よんでもらっても困るけどな……85パーセント、近っ」

 

「あ、あそこだよ」

 

ソエルが指した方向にゲートがあった。先ほどのカフェの裏手だ。

 

「よし、行ってみるか」

 

「いいの?」

 

「ああ、それに試したい事もあるしな。後、感を戻しておきたいし」

 

歩きながらゲートに入って行った。

 

異界の中は木々で覆われていて、まるで天然の迷宮のようだった。

 

「思っていたよりグリードは強くないな」

 

「それで何を試すの?」

 

「こいつだ」

 

腰から古風の銃……ジークフリートを取り出した。

 

「これの本来の使い方は意思の弾丸で間違っていないけど、単純に力を増幅する事も出来るんだろう?」

 

「そうだけど……体がついては来られるの?」

 

「それもまた修業のうちだ。ごめんなレゾナンスアーク、今回は出番はなしだ」

 

《問題ありません、マイマジェスティー》

 

ジークフリートを側頭部に押し当て……引き金を引いた。

 

瞬間、魔力が跳ね上がり、身体能力も上昇するのを感じ取る。

 

「ふう!死なないとはいえ心臓に悪いな」

 

「腕でも効果は変わらないよ」

 

「やってみたいだろ、そういうの」

 

「そうかな〜?」

 

そう言いながらソエルは地の神器を出してくれ、神衣で纏った。

 

「さあ怪異共、今の俺を止められるなら止めてみろ!」

 

「レンヤ、行っけーー!」

 

地面を揺らすほど踏みしめ、迷宮に飛び出していった。

 

「晶石点睛!クリスタルタワー!」

 

足元から水晶を隆起させてグリードを貫く。比較的弱いグリードなので、ほぼ一撃で倒していき無双状態だ。

 

「絶好調だね!」

 

「当然!乱れる弧投!」

 

地面からアームで巨大な岩石を引っ張り出してグリードの群れに続けて食らわせた。そのまま中心に突っ込み、反対側に来て力をためる。グリードが襲い掛かってきたのを待ち……

 

「豪腕一閃!」

 

一瞬で何度も腕とアームは振り、グリードを殴りまくった。

 

その調子のまま最奥に到着し、それと同時にエルダーグリードが顕れた。女性の悪魔のようなグリードで三つ叉の槍を持っていた。

 

「主か……速攻で終わらせる!流転防岩!ロックサテライト!」

 

岩を自身の周囲に3つ生み出し、周りに浮かせる。グリードが放ってきた魔力弾をそれで防ぎ、一気に接近する。

 

「舞うは黄砂!鳴るは残響!握るは塵芥!」

 

流れるようにグリードをアームで殴り、握り潰し。そして浮かび上がった所を……

 

「一撃必沈!デットキャプチャー!」

 

アームで掴みんで上空に飛び上がり、思いっきり地面に叩きつけた。あまりの威力に地面が広範囲にひび割れた。しかし、これが技ではなく魔法の分類に入っているのがよくわからない。明らかに違うと思う。

 

「行けーー!レンヤーー!地神招来!」

 

「我が腕は雌黄!輝くは瓦解の黄昏!アーステッパー!」

 

そのまま上空から巨大化したアームをグリードに向かって振り下ろし、今度は大地が裂かれた。

 

グリードはアームの下敷きになったまま消え去った。

 

異界は収束していき、現実世界に戻るとすっかり夜になっていた。

 

「もう夜か……少し時間がかかったな」

 

皆の所に戻ろうとして一歩を踏み出したら、全身に鈍い痛みが走り膝をついた。

 

「……ッ………」

 

「やっぱり反動がきたんだね。ジークフリートの魔力増幅と併用して神衣も使うからだよ」

 

「でもやっておかないといざという時に力を十分に発揮できない。もう大丈夫だ、行こう」

 

右二の腕にできた傷を抑えながら、なのは達の待つホテルに向かった。

 

「…っ……ふう」

 

行く道の途中で普通に歩いていたが、ホテル前に着くと一瞬だけ痛み出したがすぐに治まった。

 

「一回休んでからでもいいんじゃないの?」

 

「これ以上時間をかけたら心配されるだろう。大丈夫だって」

ホテルに入るとカウンターの前にすずかが心配してそうな顔でそわそわしていた。こちらに気がつくと、駆け足で近寄ってきた。

 

「レンヤ君!どこに行っていたの、心配したんだからね……!連絡もつかないし……」

 

「ごめんすずか。異界が出現したからそれに対応していたから……」

 

「異界に1人で⁉︎大丈夫、怪我してない⁉︎」

 

「ッ!大丈夫だって………!」

 

すずかに体のあちこちを触られて、また少し痛んだがすぐに誤魔化した。

 

「嘘、いま一瞬痛そうにしていた」

 

「えっと、大して強くなかったし……」

 

「レンヤ君」

 

「……ごめんなさい」

 

「もう、しょうがないんだから。後でレンヤ君の部屋に行くからね、ちゃんと手当しないと」

 

「ああ……って部屋を別々にしたのか?」

 

「ううん、なのはちゃんと一瞬だよ」

 

「……そういえば……俺の部屋は?」

 

「ちゃんと取ってあるよ、はいこれ。部屋のカードキー、私達の部屋の隣だから」

 

カードキーを受け取り、少しホッとする。前回の二の舞にはなりたくないからな。

 

それからレストランでなのは達と合流して、簡単な報告をしながら夕食を食べてた。その後部屋に行き、応急手当をしてベットに倒れこんだ。

 

「ふう、あいたた……」

 

「大丈夫か?」

 

「ああ……」

 

「すずかを呼んでくるよ」

 

「おう……」

 

……ピン、ポーーン……

 

この慎ましいチャイムの押し方、すずかだ。ソエルが扉を開けて入ってきた。

 

「レンヤ君、大丈夫?」

 

「動きたくないだけだ、心配するな」

 

うつ伏せになって枕に顔を埋めながら手を振って返事をする。すずかはベットに座ると回復魔法をかけてくれた。少しずつ痛みが和らいでいく。

 

「まったくもう、バレていないと思っているのはレンヤ君だけだよ」

 

「え、マジですか?」

 

「当たり前だよ、どれくらい一緒にいると思っているの?」

 

「……そうだな」

 

治療が終わり、体を起こす。これなら明日に響かないだろう。

 

「あのレンヤ君……お願いがあるんだけどね」

 

「ん?なんだ?」

 

「えっと、ね///」

 

なぜか顔を赤めながら上目遣いでコッチをチラチラ見てくる。それに、すずかの目が少し赤く。これはもしかして……

 

「まさか、血が欲しい……とか?」

 

「う、うん。少しだけでいいから」

 

「まあ、それくらいなら」

 

お礼も兼ねて、特に断る事もなく了承した。その吸血衝動が別方面に行ったら困るし。

 

「ありがとう!」

 

すずかは笑顔になってお礼を言うと俺に向かって身を乗り出し、襟元を少し引っ張って俺の首筋を露わにした。そして、ゆっくりと口を首筋に近づけていき、俺の首筋に噛みついた。

 

「んっ………」

 

すずかの牙が俺の皮膚を突き破り、流れ出した血をすずかは飲んでいく。瞼を閉じながらコクコクと喉を鳴らしながら飲むすずかは、どこか可愛い感じがして抱きしめたくなってしまうが、ここは自重する。しばらくするとすずかは口を離し、傷口を舐める。それだけで噛みついた傷は治った。

 

「ありがとう、レンヤ君」

 

すずかは満足したのか、微笑んでそう言った。

 

「ひゅうひゅう、すずか大胆♪」

 

「確か吸血って、キスと同義だよな」

 

「えっ……」

 

「…………///」

 

すずかは顔を真っ赤にしながら俯いている。まるで分かっててやったように。

 

「レ、レンヤ君!」

 

「は、はい!」

 

「お、おやすみ!」

 

逃げるように部屋を出て行った。しばらく呆然とするが、人工呼吸みたいなものと同じなんだなと解釈した。

 

「よし、おやすみ。ラーグ、ソエル」

 

「おやすみなさ〜い」

 

「……絶対変な解釈してるだろう……」

 

 


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