魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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78話

 

 

「お見送りありがとうございます、オーリス三佐もお忙しい所を」

 

「いえ、皆様も大変でしたでしょう」

 

陽は落ち、既に夜の時間帯になっている中、ミゼットさんから話を聞き終えた俺達はオーリス三佐に見送られながら、地上本部前に並んでいた。

 

オーリス三佐は俺達の方に改めて向き直り、丁寧に一礼をする。

 

「御足労いただき、誠にありがとうございました。それでは皆さん、お気を付けてお帰りくださいませ」

 

「ありがとうございました」

 

「案内、感謝します」

 

「おやすみなさい、オーリスさん」

 

「おやすみなさい、それでは……」

 

再び一礼をすると、オーリス三佐は地上本部に戻って行った。

 

「……ふう、緊張したなぁ」

 

「そうなんか?」

 

「はやてはフレンドリー過ぎだから、実感ないんだろう」

 

「確かにね、ちょっと心配になるレベル」

 

「ふふ、そうだね」

 

「皆酷いんよ〜!」

 

「まあそれはいいとして………ミゼット・クローベル、噂以上の方だったな」

 

「確かに、老いてなお厳たる風格って感じがしたし」

 

「それでいて年相応の柔らかな感じもしたの」

 

「面白い人だったね」

 

確かに、良く言えば個性的………悪く言えばのほほんとしていると見れなくはないが強烈な印象を与える人物である事は間違いないだろう。だが、それ以上にあの人物は恩義を感じなければならない存在にいるということもまた、間違いない。

 

「あの方が私達Ⅶ組の産みの親ですか」

 

「まぁ、あの軽妙さはともかく。改めて気が引き締まったな、それ以外にも気になる情報を色々と教えてくれたし」

 

「うん……僕達の親兄弟、関係者たちの思惑……」

 

シェルティスの父、ツァリの兄……そして俺の師。Ⅶ組メンバーの身内であり、本局と地上で重要な位置にいる2人と、聖王教会の騎士団団長。そしてミゼット・クローベルの思惑。ミゼットさんは本局統幕議長だが中立の立場にいるらしいが。このⅦ組という存在がミッドチルダ、延いてはこの次元世界の未来に影響を与えると踏んでいるのだろう、それだけに複雑に思惑が絡み合っていると言っていいだろう。それだけ期待されている、という面も感じ取れるのだが。

 

「それにしても、テオ教官の経歴もちょっと驚きだったよね。まさかフリーの魔導師だったとは思もっていなかったけど」

 

「噂で度々耳にした事はあるよ。報酬を払えば何でもやってくれる便利屋って」

 

「それを目の敵にする連中もいるらしくてね。数年前にその連中をまとめて管理局に連れて来たって噂もあるわ」

 

「うーん、聞いてみると特別実習の内容と似ているね」

 

「だから、選ばれたんじゃない?」

 

「せやな、でもあの剣はどう説明をすれば……」

 

「テオ教官の使う大剣は確かに騎士団の剣だったね」

 

「そういえば当然、リヴァンは知っていたのだな?」

 

「ああ、何度か手合わせをしている時に教えてくれた。テオは昔教会騎士団に居たらしいんだが合わなかったらしく、剣も色々とアレンジが入っている」

 

「そ、そうなのか……」

 

「あはは、昔から自由だったんだね……」

 

「ーー確かに、俺は気ままだからなぁ」

 

突如として聞こえてきたテオ教官の声。全員が振り抜くと、何時の間にそこにいたのか、既に現れたテオ教官に視線を向ける。

 

「テオ教官……!」

 

「い、何時の間に……」

 

「やれやれ、俺の過去もとうとうバレちまったか。過去の自分のやんちゃがバレると結構恥ずかしいな」

 

少し気恥ずかしそうにしながら苦笑いするテオ教官。

 

「す、すいません……」

 

「分かるんよ、そういうの……」

 

「お、おう……」

 

すずかとはやてがいきなりぺこぺこ謝り出して戸惑うテオ教官。2人、昔になんかあったのか?とそこにテオ教官の後ろからティーダさんが歩いてきた。

 

「やあ、こんばんわ」

 

「ティーダさん……」

 

「何だが、珍しい組み合わせだね」

 

「不本意だがな。査察官殿の伝言だ、明日の実習課題は一時保留。代わりに、この兄さん達の悪巧みに協力するはめになりそうだな」

 

「え」

 

「悪巧み……ですか?」

 

「ティーダさんが?」

 

「ふう……テリオス、先入観を与えるな」

 

ティーダさんが呆れ顔で溜息をつきながら訂正して本題に入る。

 

「実はⅦ組のお前達に協力してもらいたい事があってな。ラース査察官に相談したところ、こういった段取りとなった。だがこの場で話すのはまずいからな、クラナガン中央ターミナルの司令所にて事情を説明する」

 

用意されていた2台の管理局正式採用車に乗り込み、再びクラナガンで宿泊所のカードキーや依頼などを受け取った航空部隊司令所のブリーフィングルームへと連れられ、そこである事項を告げられるのだった。

 

「テ、テロリスト⁉︎」

 

「ああ、そういった名前で呼称せざる得ないだろう。だが目的も、所属メンバーも、規模と背景すらも不明……名称すら確定していない組織だ」

 

「ま、まるで雲を掴むような話ですね……」

 

「確証はあるんやろうか?」

 

「1時間前に極秘に犯行声明が送られてきた。無視できる問題じゃなくなってな」

 

「そのテロリストが、明日クラナガンで何かをやらかすと?」

 

「明日の夏至祭初日。そこで何かを引き起こすと判断している。夏至祭は三日間あるが……他の地方のものとは異なり、盛り上がるには初日だけだ。奴らがこれを機に何かをするならば、明日である可能性が高いだろう」

 

「ま、俺も同感だ。テロリストってのは基本的に自己顕示欲が強い連中だからな。何しでかすか分かったもんじゃない」

 

「最初は戦力が整っていないからそれを揃えてたって事ね。今は事を起こしきれるだけの戦力が揃ってると見えるわ」

 

恐らく、テロリストの目的は旗揚げだろう。自分たちの名を知らしめるために。

 

「そこから派手に決起して一気に動く……まぁ、テロの基本だね」

 

「……成程」

 

「そ、それで私達にテロ対策への協力を……?」

 

「ああ、航空武装隊も陸上警備隊と協力しながら警備体制を敷いている。だが、とにかくクラナガンは広い、警備体制の穴が存在する可能性も否定できない。そこで遊軍としてお前達に協力してほしいと思ってな」

 

「どうだ、お前達。特別実習での活動内容として受けるも断るもお前達の自由だ。断った場合は、当初の予定通り、査察官殿から課題を回してもらう。夏至祭絡みの細々とした依頼は色々とありそうだからな」

 

受けるかどうか……俺とアリサは一度顔を見合わせ、その後Ⅶ組全員と視線を向ける。全員が首を縦に振ったのを確認し、自分達の決意を告げる。

 

「VII組A班、テロリスト対策に協力させていただきます」

 

「同じくB班、協力したいと思います」

 

「……そうか」

 

少し嬉しそうにしみじみとした様子で11人の意思を感じ取るテオ教官。ティーダさんも嬉しそうに笑う。

 

「感謝する。早速、担当してもらう巡回ルートの説明をする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティーダさんの説明が終わる頃には夜も更けており、早めに寝ないと明日がきつい時間帯だ。バスもギリギリ運行していて、最終便で何とかシェルニ地区の東方支部に到着した。どういう訳かテオ教官もこちらに着いて来たが。

 

「へえ、ここが異界対策課の支部か。いい家だし機材から家具にいたってまで金かけてんなぁ」

 

「否定はしません、不相応なのは分かっていますから」

 

「おいおい良い子ぶりか?俺より給料良いくせに」

 

「それとこれとは話しが違います!」

 

「それに教官だってお酒に使わなければもっとマシでしょう」

 

「ふ、だからって逃れられないのが人間さ」

 

「やっぱっ駄目だコイツ」

 

「そ、そういえば教官は以前、騎士団に居たんですよね。それからどうしてフリーの魔導師になってから教官に?」

 

なのはが場の空気を変えようとすると同時に疑問を聞いた。

 

「ん?そうだなぁ……騎士団にいたのは腐った世界を是正する為だったんだ」

 

「え」

 

「俺がいた場所は差別が酷くてな、それを変える為に入ったんだが……想像以上に腐敗した実情を目の当たりにして失望して技とデバイスを盗んで退団。今はまだマシだがな。それから各地を転々としながら所々で人助けしてたらいつの間にか青嵐(オラージュ)なんて呼ばれるようになって、それから名を上げようとした馬鹿どもが集まりだしたんだ」

 

「そ、その人達は……?」

 

「まあ、ご想像通りだ」

 

「「「「「………………」」」」」

 

「そんで偶然にヘインダール教導傭兵団を見つけて、そこに明らかに周りと雰囲気が違うリヴァンを攫って。俺の噂を聞き付けたヴェント学院長がスカウトして今に至るわけだ」

 

……思ってた以上に壮絶だった。こんな事がありながらいつもヘラヘラしていると逆に凄い。

 

「まあ俺の事はいい。お前らも色々あってチームワークもよくなったみたいだし、俺は先に休ませてもらうぞ」

 

「あ、それなら2階を上がって奥の部屋が空いています」

 

「お、サンキュー」

 

テオ教官は欠伸をしながら階段を上がって行った。

 

「さて、俺達は早くレポートを終わらせるか」

 

「ちょっと、テオ教官が羨ましいかな」

 

「ふふ、そうだね」

 

「慣れているとはいえ、深夜までには終わらせよう」

 

「夜だしお茶は出せないな。作り置きしたクッキーを食うか?」

 

「ありがとう!レン君の作るお菓子は絶品だからね!」

 

クッキーをつまみながらテキパキとレポートを仕上げ、明日の警備に備えてベットに倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝ーー

 

そろそろ始まる夏至祭に外がだんだんと騒がしくなる頃、テオ教官はB班の様子を見に先に支部を出て、俺達も巡回ルートを確認した後行動を開始した。

 

基本、実習期間に訪れた地区を回りながら聞き込みをしていく。そして一昨日訪れたレストランに立ち寄ってみると……

 

「フッフッフ……やっぱ近頃の俺は冴えてるぜ」

 

レルムの緑の制服を来た灰色の髪の男性……クー先輩がずいぶんとご機嫌そうに食事をしていた。

 

「こりゃ特賞はいただきだな」

 

「何してんですか……クー先輩」

 

「お、よー、お前らか。実習の方は捗ってんのか?」

 

「は、はい……」

 

「それよりも、なぜここに?」

 

「夏至祭中は学院の方も休みなんだよ。そんで、今後の学院生活の為に一勝負しにきたってわけだ」

 

「勝負?」

 

「ああ、夏至賞でな」

 

「って、思いっきり競馬じゃん」

 

「学生が賭博に走らないでください……」

 

「くくくっ、別に馬券は買ってねえし、いわゆる雑誌の付録のやつだ。さ〜てと、後は神に頼むとしますかね。あ、お前に拝んだら効果あるのか?」

 

「やめてください」

 

そんなくだらない事言いながら、クー先輩は会計を済ませて立ち上がる。

 

「ちょっくら大聖堂に行くわ。お前らも頑張りな〜」

 

「は、はあ」

 

「夢に豪華賞品、頼むぜ神様〜♪」

 

いい悪い顔をしながら、クー先輩はレストランを出て行った。

 

「なんて罰当たりな人なの……」

 

「あ、あはは……」

 

「チャランポランすぎだね」

 

「何だか、テオ教官と気が合いそうだね」

 

「あれとあれが組み合わさるとロクな事が起きなさそうだがな」

 

「は、はは……」

 

相変わらずだと思いながら飽きれて乾いた声しかでない。気をとり直して巡回を再開してレストランを出た時……

 

「あれ?レンヤさん?」

 

「え⁉︎」

 

ばったり夏至祭を楽しんでいるソーマ、スバル、ティアナと出くわした。

 

「久しぶりだな、3人共」

 

「はい、訓練校で会ったきりですね」

 

「お久しぶりです、なのはさん」

 

「ティアナも元気そうでよかったよ」

 

「皆さんも夏至祭に参加するんですか?」

 

「いや、俺達は……」

 

テロリストが暗躍していることを除き、学院での実習の内容を伝えた。

 

「へえ、第3科生VII組ですかぁ」

 

「警備を任せられるなんて凄いです」

 

「そんなことないよ」

 

「私達もそれなりに楽しんでいるし」

 

「そういえば訓練校はどうだ?うまく入っているか?」

 

「はい!レンヤさんの言う通り、ソーマとティアは優しいです!」

 

「ちょ、スバル……!」

 

「はは、まあ、訓練校でもデバイスの違いで浮いた為か3人でチームを組まされましたし……これもまた縁ですね」

 

「ふふ、うまく入っていてよかった」

 

「えっと、レンヤ。彼らは……」

 

「あ、ごめんね。この子達は第4陸士訓練校に在籍していて私達の知り合いなの」

 

「ソーマ・アルセイフです」

 

「スバル・ナカジマです!」

 

「ティアナ・ランスターです、よろしくお願いします」

 

「うん、よろしく。僕はツァリ・リループだよ」

 

「俺はリヴァン・サーヴォレイドだ」

 

「ちなみにティアナはティーダさんの妹さんだよ」

 

「ああ!確かに似ているよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「こらツァリ君、女の子にお兄ちゃんが似ているなんて言われると結構傷つくんだからね」

 

「ご、ごめん」

 

うん、すっかり打ち解けて来たようだな。

 

(……レンヤさん、聞いてくださいよ。あのティアがこの短い期間で初めて会った人と仲良くなるなんて凄いんですよ)

 

(へえ、あのティアナが)

 

(でもしょっちゅう怒るんですよねー。そのせいで他の訓練生に微笑ましい目で見られるのが精神的に辛くて……!)

 

(へ、へえ……)

 

「聞こえているわよソーマ……!」

 

「げっ……」

 

「あんただって座学がダメじゃないの!あの能天気なスバルだって頭いいのに、あんたがしっかりしないと首席で卒業できないんだから!」

 

「痛い痛い痛い!頭をグリグリしないで〜!」

 

「ていうかさり気なく酷っ!」

 

ホント、仲がよろしい事で。これは良いトリオになりそうだ。

 

「ふふ、それじゃあ私達はこれで」

 

「夏至祭、楽しんでいってね」

 

「え、あ、はい……」

 

ティアナ達と別れて、巡回を再開した。

 

次は伝説の三提督の1人、ミゼット・クローベルが訪問するリスト公園に向かった。航空武装隊と陸上警備隊が合同で警備していた。軽く警備の人と話してから出口に向かうと……

 

「ーーフン、君達か」

 

レルムの白い制服を着たランディがいた。

 

「あ……!」

 

「ランディ……来てたのか」

 

「フッ、僕も園遊会に招待されたのでね。そういう君達はこんな日まで実習とやらか?まったくご苦労なことだな」

 

「はあ……(アホすぎて怒る気もしない)」

 

(まあ、慣れな気するけどね)

 

「そういえば、いつも一緒にいるエランっていう執事はどうしたの?」

 

ランディを含む1科生のベルカの名門には執事またはメイドがつけられるようになっている。ファリンさんもすずかのメイドとして学院に登録されている。

 

「常に一緒いるわけではない。執事がいないと何も出来ない騎士と思わないでもらいたい」

 

(どちらかというとお目付け役って感じだけど……)

 

(実際そうじゃない?)

 

「……何か言ったか?」

 

「「何でもないです」」

 

「フッ、まあいい。僕はかの三提督に拝見を賜るつもりだが……あまり妬まないでくれよ。ハハハハ、それでは失礼する」

 

意気揚々にガラス庭園に向かうランディ。だがすでに昨日、その1人に会っていたので特に何も思わない。

 

「昨日存分に話したんだけどな」

 

「はやてに至ってはミゼットさんに気に入られているし」

 

「むしろ哀れに見えてくる……」

 

「私達の態度も変わっていなかったし、それはそれでよかったのかな?」

 

「うーん、賛否が難しい所だね」

 

「まあ、ここは大丈夫そうだし次に行こうよ」

 

リスト公園を出ようとしたと時、端末に通信が入った。テオ教官からだ。

 

「はい、魔導学院A班、神崎 蓮也です」

 

『ーーテオだ。状況の報告を頼む』

 

「了解しました」

 

声色からいつもの飄々とした感じはしなく、かなりシリアスな感じだった。

 

俺は午前中に巡回した各街区の状況について報告した。

 

『そうか、聞く所目立った動きはなしか。少数精鋭か、それとも監視の目を潜っているのか……警戒は怠るなよ』

 

「はい」

 

『そろそろ三提督を乗せた車がクラナガン各地の行事に参加する為地上本部を出発する。ラルゴ・キールが聖王教会の大聖堂。ミゼット・クローベルがリスト公園。レオーネ・フィルスが競馬場だ。レオーネには凄腕の護衛がいるから問題ないとして……お前達はミゼットの方を頼むぞ』

 

「了解です。リスト公園に向かいます」

 

通信を切り、通話の内容を伝えた。

 

「そう、もうすぐなんだね」

 

「ちょうどよかった、すぐに巡回をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車道に通行規制がかけられ。それからしばらくたった時に、ミゼットさんを乗せた車が到着し。問題なく庭園に向かわれた。

 

「うん、後はここの警備に任せても大丈夫そうだね」

 

「中には一応魔導師もいるしね」

 

「姉さん、あんまり陰口はよくないよ」

 

「僕達も巡回を再開しようか」

 

「だがもう昼だ。どこかでメシを食べたいな」

 

「夏至祭だ、屋台は幾らでもあるだろう。それでいいな?」

 

「うん」

 

「このまま何事もないといいんだけどね……」

 

その後、屋台で簡単に昼食を済ませて。今一度担当している街区の巡回を行った。

 

そして時刻は5時前、最後の巡回に地上本部前の広場を訪れた。

 

「そろそろ行事も終わる頃か」

 

「確か、三提督が戻るのは夕方頃だっけ?」

 

「ああ、行事が終わったら懇親会があるらしいからな」

 

「となると、今の時間帯が1番気が緩みそうだね」

 

「だね。テロが本当ならそろそろ来るかも」

 

「私達は最後まで気を引き締めて行こう」

 

巡回を始めた所で、広場の一角に見覚えのある人がいた。

 

「フィアット会長……!エテルナ先輩も」

 

「あ、レンヤ君達」

 

「これは奇遇ですね」

 

「デイライト生徒会長……」

 

「エテルナ先輩も珍しいですね。コッチにいるなんて」

 

「ふふ、確かに招待状が届きましたが……わたくしも偶には友人との付き合いの方が優先したい時だってあります」

 

「なるほど、むしろ安心しました」

 

「う〜ん、やっぱりお祭りはいいね。これでテロの心配がなければよりよかったんだけど……」

 

「え……」

 

さらりとテロのことを知っているフィアット会長に驚く。

 

「どうしてそれを?」

 

「ひょっとしてテオ教官からですか?」

 

「ええ、君達の実習の関しては私も少なからず関与してるの。昨日もラース査察官からの要請を教官に取り次いだ所だよ。ここに来た本来の目的は、どちらかといえばそれかな」

 

「そうですか……」

 

「すみません、お世話になりっぱなしで」

 

「ありがとうございます」

 

「いいよいいよ、別に大したことないし」

 

「おや、細かい手続きや書類作成も手伝っていましたよね?テオ教官に変わって各方面の連絡もしているようでしたし」

 

「え、そうなんですか⁉︎」

 

「テオ教官……ちょっとは見直したと思ったんだけど……」

 

「あいつのサボリ癖がそう簡単に治るわけない」

 

そもそもあの一件だけで過去の事がなくなる訳でもないが。

 

「ま、私も好きでやっているから別段苦でもないんだよね。そういえば、レンヤ君達はミゼット・クローベルと会ったんだよね?」

 

「はい、驚きましたけど……」

 

「普通のおばあちゃんって感じでしたよ」

 

「へえ、結構意外だね」

 

「いかに高い階級を持っていも、それは人でしかありません。階級で人柄は決められないということです、レンヤ君達のように」

 

「にゃはは、ありがとうございます、エテルナ先輩」

 

「ふふ、とそうでした。レンヤ君、あなたに聞きたい事がありました」

 

「俺に?」

 

「先日、レグナス家の書庫で古い文献を見つけました。その文献に興味深い一節がありました」

 

「それはどんなのですか?」

 

「確か……“なぜ、鳥は空を飛ぶのだと思う?”だったと思うわ」

 

「!」

 

その言葉は………彼女の………

 

「うーん、何かの禅問答なのかな?」

 

「確かに、これじゃあ答えがバラバラだよ」

 

「普通に考えたら……餌を捕るためかな?」

 

「レン君、判る?」

 

「…………………」

 

「レンヤ?」

 

「ーーそれが現実の理だから。感情ではどうにもならない……」

 

「ッ!」

 

「レンヤ?」

 

「って、拳を握りしめながら、怨みながらそう言っていた」

 

「それって、もしかして……」

 

「でも、俺は違うと思う」

 

彼女は確かにそう言ったが、他人の言葉をそのまま言っていただけで自分の言葉で言ってはいなかったしな。空を見上げながら自分の言葉で答える。

 

「俺は……自由だからだと思う。あの空を、あの蒼穹を自由に飛べる翼があるから」

 

「あ……」

 

「……ふふ、ありがとうございます。あなたに聞いてよかった、おかげで胸の違和感が消えました」

 

「よかったね、ルナちゃん」

 

「なんだなんだ、揃い踏みか?」

 

と、そこへクー先輩がやってきた。その表情はそこはかとなく暗い感じがする。

 

「あ、クー先輩」

 

「あれ、クー君?」

 

「あなたもいらっしゃっていたのですね」

 

「まーな」

 

「そういえば夏至賞に行ったんじゃないんですか?」

 

「もう結果は出ましたよね?」

 

リヴァンが夏至賞の結果を聞いてみると、クー先輩は暗い顔をさらに暗くした。

 

「聞いてくれるな……」

 

「なるほど」

 

「これを機に、賭け事は控えて下さいね」

 

「そこははっきり止めようよ、フェイト」

 

「全く、毎度の事ながら学習能力がないのですか?」

 

「これで何回目だろうね〜?」

 

「あ、あはは……」

 

カーーン……カーーン……カーーン……

 

クー先輩に呆れる中、3時を告げる鐘が鳴り響いた。

 

「もう3時だね」

 

「各地の行事も終わるくらいの時間かな?」

 

「私達も、もう一回り巡回しておくべきだね」

 

「そうだね、そろそろ気も緩み始めているし」

 

「ああ、同感だ」

 

「すみません、先輩達。俺達はこれで……」

 

「ええ、どうかお気をつけて」

 

「なんだもう行っちまうのか?」

 

「何かあったら気軽に連絡して、協力するから」

 

「ありがとうございます、それではーー」

 

いざ巡回に行こうとした時、周辺の異変とざわめきが聞こえてきた。騒ぎの方向を見てみると、広場にあった噴水が勢いよく水を出していて、水が囲いからはみ出していた。

 

「あれは……」

 

「噴水が……」

 

「あれ、どうしたの?」

 

「……これって……」

 

「故障?それにしては……」

 

「これは、何かの圧力が高まっているような……」

 

「ああ、こいつは……」

 

どんどん水が溢れ始め、住民不安が比例するように大きくなっていく。

 

「これって……」

 

「余興にしてはずいぶんと……」

 

「いやーー」

 

そして次ぎは地揺れが始まり、次々とマンホールの蓋が吹き飛び水が飛び出してきた。それによって住民達がパニック状態になる。

 

「きゃっ……!」

 

「始まったね!」

 

「ああ!」

 

「ッ……やばっ!」

 

飛び上がったマンホールが子どもに向かって落ちてきた。すぐに飛び出し子どもを抱きかかえてその場を離れた瞬間、コンクールを砕いてマンホールが地面にぶつかった。

 

「大丈夫か?」

 

「ふえ、ふえええ……」

 

「ーーミウラ!」

 

よほど怖い思いをしたのだろう、今にも泣きそうだった。すぐに親御さんが駆け寄り、子どもを渡した。っていうかミウラか……実際にあれだけ歳が離れていることを実感する。

 

「レン君!」

 

「フェイト、会長達は?」

 

「会長達は避難誘導をしてくれているよ!」

 

「おそらくこれは陽動だ、本命は……!」

 

「うん、私達はリスト公園に!」

 

「急ごう!」

 

急ぎリスト公園に向かうと、公園内には魚獣型のグリードが放たれていた。航空武装隊と地上警備隊はグリードの対応に当たっていた。

 

「これは……!」

 

「君達は……!」

 

「協力している魔導学院の……⁉︎」

 

ゴゴゴゴゴ………!

 

「今のは……!」

 

「クリスタルガーデン……園遊会の会場からだよ!」

 

「爆発音じゃない……おそらく地面が崩れた音!」

 

「まずいぞ、敵はすでに中だ!」

 

「レンヤ!」

 

「ああ!俺達が見てきます、この場を確保しつつ応援要請を!」

 

「分かった……!」

 

「頼むぞ!」

 

すぐさまデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「フェイルノート、セットアップ!」

 

《ヤー》

 

リヴァンがフェイルノートを起動してバリアジャケットを纏う。リヴァンのバリアジャケットは一見狩人風で装甲などは両手の籠手ぐらいしかない。左手に黒い洋弓、片刃の剣が腰に佩刀されていた。

 

「へえ、リヴァンのバリアジャケットかっこいいなぁ」

 

「あんまジロジロ見んな」

 

「それよりも急ぐよ!」

 

「うん、早く行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在テロリストがミゼットとその付き人の女性を拘束しており、リーダー格と思われるメガネの男が左右に外にいる同種のグリードを控えさせていた。男の後ろには大きな穴が開いており、どうやら地下道に繋がっていたようだ。

 

「御機嫌よう、査察官殿。招待されぬ身での訪問、どうか許していただきたい」

 

男の正面には肩を撃ち抜かれて膝を着いているラース査察官がいた。

 

「……君達は……」

 

「貴方には恨みはありませんが……スポンサーから派手にやれとのことで、許していただきたい」

 

「くっ、提督は関係ないだろう!2人を解放したまえ!」

 

「ラース君……」

 

「ふふ、安心して下さい。殺すつもりも傷付ける気もありません。ただ、彼女らには人質になってもらいますがね」

 

「ッ……!」

 

「そこまでだ!」

 

その時、扉が勢いよく開き、レンヤ達が駆け込んで来た。

 

「あなた達……!」

 

「き、君達は……!」

 

「来てくれましたね……」

 

「兄さん、大丈夫⁉︎」

 

「すぐに応急手当を……」

 

アリシアが回復魔法でラース査察官の肩の傷を癒していく。

 

「レルム魔導学院……噂はかねがね聞いている。管理局のエース達が在籍しているクラス………VII組」

 

「目的は聞かない、早急にお二方を解放してもらう!」

 

「ふ、やれるものならな」

 

男は笛を取り出し、吹き始めると左右にいたグリードが迫って来た。

 

「……!」

 

「グリードを……操っている⁉︎」

 

「そ、それで外のグリードも」

 

「ジェイル・スカリエッティ……一体どこまで……!」

 

グリードに動きを止められている間にテロリスト兵に銃を突き付けられ、2人は穴に歩かされる。

 

「待てっ!」

 

「ーー見つけた!」

 

穴から人影が飛び出してくるとテロリスト兵を飛ばして、男に斬りかかってきた。

 

ガキンッ!

 

「ッ⁉︎」

 

「甘いです、よっ!」

 

男は杖型デバイスで防ぎ、弾き返した。

 

「ソ、ソーマ君⁉︎」

 

「どうしてここに……」

 

「この人達がいきなり襲って来て、スバルとティアを攫って行ったんです!」

 

「なっ……」

 

「ああ、君は彼女達の連れか。彼女達なら……」

 

すると穴の中から霊型のグリードに吊り上げられた気絶しているスバルとティアナが現れた。

 

「スバル!ティア!」

 

「退けっ!」

 

「ぐあっ……!」

 

「ソーマ君!」

 

「まあちょうどいい、いかに彼らが屈強でも大人2人を抱えて行くなど無謀だからな。人質なら見せ知らしめれば誰でもいいのさ」

 

ソーマをレンヤ達の後方に飛ばし、テロリスト兵に視線で合図してミゼットさんと女性を解放してスバルとティアナを抱えた。

 

「くく、それでは失礼する。後はこいつらが相手をしてくれる、せいぜい頑張るのだな」

 

テロリストはスバルとティアナを連れて穴に入っていった。

 

目の前には魚獣型のグリードが2体、霊型が2体で道を塞いでいる。

 

「くっ……退いて!」

 

「グレートワッシャー2体、スペクター2体、行けるよ!」

 

「VII組A班、全力で撃破する!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

それを合図に2体のグレートワッシャーは叫びを上げながら大口を開け、スペクターは背後にいる一般人を狙ってきた。

 

「させるかよ!」

 

リヴァンが矢なしの弓を構え、弦を弾いた。次の瞬間、幾つもの鋼糸がかなりのスピードで放たれスペクターを斬り刻んだ。

 

「ずいぶんと凶悪になったものだな!」

 

「じゃなきゃ生きてられなかったんでな!」

 

レンヤが落ちてきたスペクターを蹴り飛ばし一般人から遠ざけ……

 

「はあっ!」

 

フェイトがハーケンフォームのバルディッシュで2体まとめて斬り裂いた。

 

2体のグレートワッシャーは大口でなのはとアリシアに噛みつこうとした。

 

「そんな大振り、効かないよ!」

 

「幾らいようとただのグリードだもんね!」

 

2人は飛び上がってグレートワッシャーの背に乗り、ゼロ距離で魔力弾を撃ち込む。そして2体の周りに薄紫色の花びらが飛び交い……

 

「いっけええっ!」

 

一斉に爆破させた。煙が晴れたら2体の姿はなかった。

 

ミゼットさんと女性の無事を確認し、アリシアとツァリがソーマ査察官を診ており、周囲を警戒しつつ穴を調べた。

 

「レゾナンスアーク、ここはどこに繋がっている?」

 

《どうやらそこは廃棄になった地下道のようです。地下道はクラナガン中に広がっているため、敵の最終脱出地点は予測できません》

 

「そうか……」

 

「あの、レンヤさん!」

 

「ソーマか、怪我はなかったようだな」

 

「はい、これでも頑丈が取り柄ですから」

 

「で、まさか着いて行くなんて言わないだろうな?」

 

「はい」

 

ソーマは迷いなく頷いた。

 

「しょうがないなぁ」

 

「ちょっとレンヤ」

 

「今はうだうだ言っている時間はない。レンヤがいいならそれでいいだろう」

 

「でも……」

 

「ソーマの実力は分かっているし自分の身は自分で守れるだろう。最終的の責任は俺が取る、だから安心しろ」

 

「……ソーマはいいの?」

 

「はい!」

 

「そう、ならこれ以上は何も言わないよ」

 

そこへ治療を終えたアリシア達が戻ってきた。

 

「よし、追いかけるぞ」

 

「ま、待ってくれ!僕も助太刀する!」

 

妙にビクつきながらランディがそう言ってきた。

 

「いや、お前にはこの場を任せてもらいたい」

 

「しかし……!」

 

「ここにはまだ一般人はおろか怪我をしているラース査察官とミゼットさんもいるんだよ?」

 

「それに外にはまだグリードも残っているの。ここを手薄にするわけには行かないの」

 

「僕からもお願いするよ。兄さんを守って……!」

 

「……分かった、ここは任せてくれ」

 

「お願いするよ」

 

「決まりだな、行くぞ!」

 

「はい!」

 

そしてレンヤ達は巨大な大穴の中へと飛び下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り立った地下道は思いのほか古く、通路の所々にカンテラが設置されておりそれで通路を明るくしていた。

 

「クラナガンの地下にこんな場所があるなんて」

 

「ミッドチルダも最初っから近未来的じゃない時代もあったんだな」

 

「こんな近くにあるのに誰も知らない場所かぁ」

 

「感想言ってないで行くぞ」

 

〜〜〜〜〜♪

 

そこに端末に通信が入ってきた。

 

「魔導学院VII組、神崎 蓮也です」

 

『こちらテオだ。査察官殿から連絡をもらった。詳しい状況を説明してくれ』

 

テオ教官はいつにも増して真剣な雰囲気だ。俺は敵勢力と人質がいる事を説明してた。

 

『了解、こっちは航空武装隊とそっちに急行している。可能な限り先行を足止めしろ。ただし人質の安全を最優先にしろよ』

 

「分かりました」

 

『後、そこにいる奴にもな』

 

そこで通信が切れる。

 

「やっぱりソーマの事はダメだった?」

 

「ああ、怪我をさせなければ大丈夫だ」

 

「大丈夫です!怪我はしません!」

 

「なら、先を急ごう!」

 

それからしばらく通路を疾走していると開けた場所に出た。真ん中に大きな石橋が架かっていた。

 

「ここは……」

 

「何だか不気味な感じがするよ……」

 

「首都の地下にこんな場所が……?」

 

「どうやら旧暦時代に作られた地下墓所のようだね」

 

「ここを通って行ったのは間違いないみたいだね」

 

「急いで行こう」

 

「はい!」

 

石橋を走って渡り、反対側に渡ろうとしたら、目の前に2体悪魔型グリードが現れ、道を塞いだ。

 

「ちっ、邪魔を……」

 

「私に任せて!」

 

「もう1体は僕が……!」

 

なのはとソーマが飛び出した。

 

「やっ、たあああ!」

 

なのははステップを踏みすごい勢いで回転しながら飛び上がった。

 

「まだまだ!奥義……太極輪!」

 

片方のグリードに激突して、すぐにグリードの周囲を駆けながら攻撃して撃破する。

 

「外力系衝剄・閃断」

 

衝剄を線状に凝縮して放ち、もう一体のグリードを真っ二つにし……

 

「はあっ!」

 

一瞬で近付き、一閃した、グリードは塵となって消えた。

 

「ビ、ビックリしたぁ〜……」

 

「連中は後どれだけグリードを備えているんだ?」

 

「それに、明らかに待ち伏せされてたね」

 

「あの笛を持っていた男性だね」

 

「あの時、あの笛の音色が響いたらグリードがまるであの人の望んだとおりに動いた」

 

「そうだな……あの笛にそういう力があるのか、あるいはそういう音があるのか……」

 

「とにかく先を急ぎましょう!」

 

「ああ、そうだな」

 

「考えても仕方ないね」

 

奥へ進み、しばらく通路を駆け抜けていると大きな場所に出た。その先にテロリストがいた。

 

「……!」

 

『追いついた……!』

 

『先行するよ!』

 

『私も……!』

 

『僕も行きます!』

 

『威嚇は俺がやる』

 

『僕も足止めくらい……!』

 

『任せて!』

 

『頼む……!』

 

念話で瞬時に役割を決め、行動に移った。そして魔力を込めて息を吸い……

 

「そこまでだっ‼︎」

 

内力系活剄・戦声

 

空気を震動させる剄のこもった大声を放った。

 

「何っ……⁉︎」

 

まさかの事態に3人のテロリストは虚を突かれ、2人を抱えたテロリストは足を止めて後ろを振り向く。

 

「あ……」

 

「皆さん……」

 

「シュート!」

 

「そらっ!」

 

「えいっ!」

 

なのはが足下に魔力弾を撃ち込み、さらに逃げようとした所をツァリの花びらとリヴァンの鋼糸が逃げ道を塞いだ。その隙にアリシアとフェイトが左右を抑え……

 

「はあああっ!」

 

「なっ……!」

 

「ぐっ」

 

ソーマが懐に飛び込みスバルとティアナを抱えているテロリストの腕を薙いだ。2人はそのまま空に投げ出され……ソーマとなのはに抱きとめられた。

 

「大丈夫、ティア?」

 

「お、お……」

 

「お?」

 

「遅い!いつまで待たせるの!」

 

「ちょっ、暴れないでよ……!」

 

「スバル、怪我はない?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「ふふ、こうして抱えるのも久しぶりだね。ちょっと腕が辛いかな?」

 

「な、なのはさん……!」

 

軽口を叩けるみたいなので、ひどい事はされてなさそうだ。

 

「ーーここまでだ。大人しく投降しろ」

 

「あなた達のスポンサーについて詳しい説明してもらいます」

 

「こいつら……」

 

「……………」

 

「いくらグリードがいても、私達相手じゃあ勝ち目はないよ」

 

「その、できれば穏便にしたいんです」

 

テロリストに現在の状況を説明して、投降を促す。

 

「フフ……恐れ入った。レルム魔導学院……まさかここまでの逸材を育てていたとは……」

 

「世辞はいらない。大人しく投降するか、抵抗して1度殴られてから拘束されるか。どっちにする?」

 

「こいつら……!」

 

「……分かった、降参だ。少なくとも我々に勝ち目が無い事だけは認めよう」

 

「それじゃあ……」

 

「大人しく降参するんだな?」

 

自嘲するかのように笑いながら、構えを解いて腰に手を当てる。その姿を見て、なのはは取り敢えず落ち着いてもらえたかと安堵する。

 

「……ふぅ、何とかなったねレン君」

 

「…………」

 

「どうかしたの、レンヤ?」

 

奴の表情から何か含みがある事に気付き、次に何をするのかわかりった。

 

「っ、動くな!」

 

「今気付いた所で遅い!」

 

奴は腰に当てた手をさらに下に滑らせながら笛を取り出す。同時に素早くそれを口に当てて音色を奏でた。

 

それに呼応して、最初からこの場所にあったと思われる大剣が反応した。大剣は縄と札で厳重に地に封印されていたようだ。大剣の刀身の紋様が赤く光り、一瞬で封印を燃やし、ゆっくりと地面から抜け。ひとりでに空中に浮いて立ち塞がった。

 

「な、なに⁉︎」

 

「これは……!」

 

「クックックッ……ハハハハハハハハッ‼︎これぞ業魔の笛の力……!旧暦時代に封印されたのグリードすらも従わせる笛だ……!さぁ、それでは今度こそ死出の旅路へと向かいたまえ……レルム魔導学院VII組の諸君!」

 

「……これは……」

 

「な、なにこれ……⁉︎」

 

「なんて瘴気……!」

 

「旧暦時代に封印?まさかベルカの文献にあったゴベラの剣⁉︎」

 

「ま、まだ大丈夫。オバケじゃない……」

 

「う……」

 

「な、なに?この感じ……」

 

「震えが止まらない……」

 

発生した瘴気がグリードと出会って間もないソーマ達には厳しく。他の皆も気圧されている。

 

「はああああっ‼︎」

 

俺は刀を上段に構え、魔力を込めて一気に振り……瘴気を吹き飛ばした。

 

「あ……」

 

「……!」

 

「皆!気合いを入れろ!今回の実習で俺達が得たものを考えてたらーー勝てない相手じゃない!」

 

「ああ、そうだな!」

 

「私も、いい加減に前に進まないと……!」

 

気合いを入れなおし、それぞれデバイスを構える。

 

「クッ……悪あがきを!行くがいい、封印されしグリードよ!この愚かで哀れな若者共に無情の裁きをくだしたまえ‼︎」

 

男の叫びを合図に、大剣は俺達目掛けて振り下ろされた。

 

「フェイト、2人を安全圏へ!」

 

「了解した!」

 

フェイトに指示を出し、なのはと飛び出す。

 

「ふっ!」

 

「やあ!」

 

大剣に斬撃と打撃を入れるが、まるで効いてはいなく、横に薙ぎ払われたのを受け流す。

 

「全然効いていないな……」

 

「なら、直接……!」

 

ソーマが飛び出し、剣に剄を込める。

 

「外力系衝剄・蝕壊」

 

相手の武器に剄を流し込み硬度を失わせ破壊する技。その状態でつばぜり合いが続いた時……

 

「ぐあっ⁉︎」

 

突然、見えない何かに掴まれたように浮き上がった。首を絞めけられているようで、首が凹んでいた。

 

「ソーマ!」

 

「なるほど、剣がグリードで動いているんじゃなくて。見えないグリードが振っていたわけか」

 

「この……!」

 

「え、それって……」

 

ツァリの花びらで剣の周囲を囲み、フェイトも驚愕しながらも剣の周囲に魔力弾を撃ち、当たる前に炸裂させた。その衝撃でソーマの拘束が解かれ、落ちてきた所を受け止めて後退する。

 

「どうする、手がつけられないぞ」

 

「念威でも感知できないよ……」

 

「幽霊型のグリード……フェイトちゃん」

 

「だ、大丈夫。いい加減乗り切らなきゃ」

 

「レンヤ、見えるよね。あの骸骨ヤギを」

 

「まあな」

 

聖王の力を一部解放して、両目の色が変わる中、鮮烈になった視界に大剣を持った黒い外套を着たヤギの骸骨のグリードが見えてきた。

 

「攻撃する瞬間に実体化するよ。合わせてレンヤ」

 

「ああ」

 

同時に走りだし、振り降ろされた大剣を2人で受け流し、胴体を斬った。

 

ギャアアアアッ!

 

「可視化したか!」

 

「ッ……!」

 

うっすらだった姿に色がつき、完全に見えるようになった。

 

「フェイト、大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫……」

 

「行っくよ〜!」

 

追撃をかけようと接近するアリシア、それをグリードは黒い波動で弾き飛ばした。

 

「とっ……」

 

「上がらせてもらえないな」

 

「僕が動きを止めるよ。リヴァンが落として」

 

「任せろ!」

 

花びらがグリードの周りを飛び交い動きを止める。その瞬間に矢が放たれグリードは落下した。

 

「今だよ!」

 

「ああ!」

 

「う、うん!」

 

すぐさま3人で連続で一撃を入れて、グリードは剣を突き刺し膝をついた。

 

「ソーマ!」

 

「はい!」

 

ソーマが空中で前転と同時に兜割りの両用でグリードの頭に衝剄を撃ち込んだ。

 

グリードはその強烈な一撃に耐えきれず、あたま断末魔をあげ、体を無数のコウモリに変えて天井に空いていた穴に逃げて行った。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

「なのは、アリシア!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

なのははグリードを残した大剣を浮かせて、加速魔法で撃ち、テロリストの背後にある壁に勢いよく刺した。

 

「⁉︎」

 

テロリストの視線がそれた隙にアリシアが接近して取り巻きのテロリストの足を撃ち抜いた。

 

「ぐあっ!」

 

「なっ……」

 

「貴様らっ……!はっ⁉︎」

 

アリシアに目がいった隙に懐に飛び込み……

 

「せいっ!」

 

刀を下から上へと振り上げた刃が業魔の笛を両断する。

 

「ぐぅ……業魔の笛が……⁉︎」

 

地面に落ちた笛の断面から紫色の粒子が空中に霧散して消えていく。

 

「これで終わりだ」

 

「ふう〜……かなり厳しかったけど……」

 

「今度こそ、大人しくしてください」

 

「はあはあ……」

 

「だ、大丈夫、フェイトちゃん?」

 

「ぐっ……」

 

「どうすれば……」

 

「……………………」

 

手を押さえながら無言を貫く男。そんな彼を、万策が尽きた2人は救いを求めるような視線を向ける。

 

「既に死は覚悟の身。いつ果てても文句はない……だが!」

 

「!」

 

無言のまま閉じていた目。開かれたその目には、執念に似た炎が燃えているように感じ取れた。

 

「今回の作戦だけは屍すら残すわけにはいかん……!」

 

「まだ抵抗するつもりですか?」

 

「例え刺し違えても、貴様らをーー」

 

「ーーその必要はないと思われます」

 

突然、上から少女……にしては幼い声が聞こえてきた。

 

そして巨大な緑の鳥がアリシアに向かって降りてきた。

 

「……っ⁉︎」

 

《Ability Card、Set》

 

「アビリティ発動、フェザーバレット」

 

緑鳥が翼を羽ばたかせ、羽を弾丸のように撃って来た。アリシアは後退して羽を避けた。

 

「な……」

 

「鳥⁉︎」

 

「あなたは……!」

 

緑鳥の背に水色の髪をしたルーテシアくらいの女の子がいた。

 

「た、助かったぞ……」

 

「早急に撤退を、そして……お久しぶりです、およそ1か月ぶりですね」

 

あの時、ベルカで俺を襲って来た子だった。

 

「ーー君は何者だ、そいつらの仲間なのか!」

 

「そいつら……彼らの事と推定。ナイン、彼らの組織に属していません」

 

「彼女はスポンサーの方の者だ。協力関係にはあるがな」

 

「……お前達は一体何者だ、何が目的なんだ!」

 

「ふむ、それもそうだな。教えておこう……私ペルソナ、そして我らはD∵G教団!偉大な神の使者たるグリードを崇め、世界を救う組織だ!」

 

「なっ……!」

 

あまりにも突飛した内容に、一同が驚愕する。

 

「グリードは敵性存在です!あれに善意も悪意もありません!」

 

「それは貴様らが勝手に決め付けたことだ。グリードは世界の危機に現れた救世の神の使いだ!」

 

「グリードは未だ不明な点が多い……だから色んな解釈が行き交う。狂信者が出てくるのは予見していたが……」

 

「……!とにかく、一緒に来てもらいます!」

 

フェイトが前に出て、バルディッシュを構える。

 

「ーーこれ以上の会話は無意味と判断します。あなた方は速やかにこの場から離れてください」

 

「感謝する。それでは諸君、また会える日まで」

 

「待て!」

 

ペルソナを追おうと駆け出すと……

 

「ゲートカード、オープン」

 

突如地面が光り、見えない壁に塞がれた。

 

「コマンドカード、エンドレスマッチ。これで私を倒さない限り出れません」

 

「あなたは一体……」

 

フェイトの言葉に少女は何を思ったのか、鳥から降りてきた。

 

「私はクレフ。クレフ・クロニクル。コードネームは(シルフ)。そしてこの子は……ゼフィロス・ジーククローネ」

 

ピイイィィィ……!

 

「これより任務を遂行します」

 

「くっ……」

 

「ーーそこまでだ!」

 

そこに、テオ教官とティーダさん率いる航空警備隊が追いついてきた。

 

「テオ教官、ティーダさん……!」

 

「間に合たっね!」

 

「ーー水が差しましたね」

 

クレフはガントレットに手を添えた。

 

「え……」

 

「まさか……」

 

「それでは皆さん、またの機会に」

 

ガントレットを操作した瞬間……

 

ドガアアアアンッッ‼︎

 

大地が大きく揺れ動き、次々と爆発音が響き渡る。

 

「ちっ……!」

 

「ば、爆弾……⁉︎」

 

「なんてことを……!」

 

「システム強制終了。それではこれで失礼します」

 

ガントレットから光が消え、緑鳥の全身が緑色に光り小さくなると……一羽の隼になってクレフの肩に止まり、奥へ逃げて行った。

 

「崩れるぞ、早くこっちへ!」

 

「はい!」

 

「3人共、走れるな!」

 

「は、はい!」

 

「問題ありません!」

 

「平気です!」

 

テオ教官の指示に従い、崩れる部屋を急いで脱出する。それとほぼ同時に天井が崩れ、大量の落石が部屋へと降り注ぎ、完全に埋まってしまう。

 

「ティアナ!怪我はないか!」

 

「ちょっ、兄さん……!」

 

「あはは、優しいお兄さんだね」

 

「う〜ん、何方かと言えば過保護だけど……」

 

ティーダさんに抱きしめられ、鬱陶しくするティアナをソーマとスバルは苦笑いしながら眺めていた。

 

「全く、ヒヤヒヤさせやがって。だが全員無事よかった」

 

「おかげさまで……」

 

「さすがに危なかったけど……」

 

「ていうか、来るのが遅い」

 

「すまんすまん……って、こりゃ追跡は無理だな」

 

テオ教官は完全に瓦礫で塞がった通路を見てため息をつく。

 

「はい……」

 

「ま、とりあえず実習は成功したのかな?」

 

「うん、そうだね」

 

「レンヤさん、なのはさん!」

 

ソーマ達が近寄ってきて、お互いの無事を喜びあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを頬に真っ赤な紅葉を作ったティーダが眺めていた。

 

「情報通りでしたね。幾つかのルートは押さえていますが網にかかるでしょうか?」

 

「難しいだろう。首都地下はジオフロントもあるし未知の区画が多いからな。ある程度で捜索を切り上げて市内の治安回復に専念しろ」

 

「り、了解」

 

「か、各方面に通達します」

 

的確な指示だか、顔の紅葉のせいで若干戸惑いながらも端末で各方面に連絡した。

 

「やれやれ、当分は退屈しなくてもよさそうだな」

 

 


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