魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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77話

 

 

翌日ーー

 

朝食の為ツァリがレンヤ達を呼びに東方支部に訪れていた。

 

「あれ……皆まだ寝ているのかな?珍しい」

 

インターホンを鳴らしても応答がない事を不思議がった。しばらくして、レンヤ達が出てきた。

 

「ああ、ツァリ……遅れた」

 

「遅れてごめん……」

 

「ど、どうしたの?そんな疲れきった顔をして……」

 

「昨夜色々あってな……」

 

「皆だらしがないなぁ。私達なんか気合い充分なのに、ねえフェイト」

 

「ふふ、そうだね」

 

「お前らと一緒にするな」

 

「まあ、これも慣れの問題だ。あんまり気にするなリヴァン」

 

「え、えっと……」

 

ツァリはフェイトとアリシアの仲が戻った事に気がつくも状況が飲み込めていなかった。

 

「まあ、ともかく後で説明するよ」

 

「?」

 

郵便受から本日の依頼が入った封筒を取り出し、ツァリの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼を確認しようとしたら、アスフィさんに朝食が冷めるとの事で。先に朝食をとってから内容を確認する事にした。

 

「僕がいない所でそんな事をしてたんだ……何だが仲間外れな気分だよ」

 

「あはは、ごめんね。ツァリの話しがきっかけで居ても立っても居られなかったし」

 

「今度お詫びに何か奢るから、それで許してね?」

 

「その後説教されなかっただけましだろう……」

 

「それでそんなに疲れていたんだ」

 

「ティーダさんが弁護してくれなかったらどうなっていた事やら」

 

重労働は慣れているとはいえど説教までは慣れていないからな。慣れたくもないけど。

 

「それで、ラースから追加の課題は来ているの?」

 

「はい、それは食後に確認をします」

 

「うん、そうだね」

 

「ふふ、ならいっぱい食べて活力をつけてもらわないとね。遠慮なくおかわりを言ってね」

 

それから美味しい朝食を頂いた後、依頼を確認して。先日と一新して気を改めて実習を開始した。

 

市民からの依頼をテキパキと解決していき、エルダーグリードの討伐に至ってはフェイトとアリシアの独壇場だった。異界を出ようとしたらまた地脈の影響を受けて、今度はどこかの路地裏に出た。

 

「また地脈の影響を受けたの?」

 

「そのようだな」

 

「ここは……クラナガン南東付近みたいだよ」

 

「アリシア、クラナガンの中心に地脈点があるのか?」

 

「あるよ、しかもとびきり珍しいのが」

 

路地裏を歩きながら地脈についてアリシアが説明する。

 

「基本的に地脈は水平に広がって大地に根付いているんだ。だけどごく稀に垂直に流れる地脈があるの、力が地脈の底に潜って行く場所を地脈浸点………逆に奥底から力が湧き上がってくる場所を地脈湧点って言うんだよ」

 

「へえ、そうなんだ」

 

「それでどこにあって、その地脈なんたらはどっちなの?」

 

「クラナガン中央ターミナルのど真ん中に地脈浸点があるよ。昨日気付いたんだ。そのせいでここら一帯の地脈は随分活発だし異界もその影響を受けやすいんだね。それに……」

 

「………それに、何?」

 

「ううん、何でもない!」

 

(浸点の奥底に一瞬感じた禍々しい感じ……無闇には話せないね)

 

路地裏を出て大通りを進んでいたらちょうど昼になり、すぐそこにあったバーガーショップに立ちよりテイクアウトで近くの公園で食べることになった。

 

「う〜ん、美味しい!」

 

「たまにはこういうのも悪くないね」

 

「うんうん、また違った楽しみ方だね!」

 

「基本、外では食事はとらないからな」

 

「そうだね。はむ……」

 

「………………」

 

皆がバーガーを食べる中、手を止めてリヴァンが空を見上げていた。

 

「リヴァン、どうかしたのか?」

 

「……!あ、いや……昔にも似たような事があったってな…………思いにふけっていた」

 

「ふーーん?」

 

「もしかして、リヴァン君のお友達と一緒にこんな風にごはんを?」

 

「ああ、そうだな……」

 

生返事で答え、バーガーを口にしてはぐらかしてしまう。

 

(そういえば、リヴァンの事はあんまり知らないし。リヴァン自身も話した事なかったっけ)

 

秘密や知られたくない事なんか幾らでもあると思うから、無理には聞かないけど。

 

〜〜〜〜♪

 

バーガーを食べ終え小休止している時にレゾナンスアークに通信が入ってきた。

 

《通知者不明、如何致しましょう?》

 

「誰からだろう?」

 

「俺の連絡先を知っているのは限られているし……多分ラース査察官辺りだろう、繋いでくれ」

 

《イエス》

 

ディスプレイが展開されると、予想通りラース査察官だった。

 

『やあレンヤ君、いきなりの通信を許してくれ』

 

「に、兄さん⁉︎」

 

「いえ、驚いただけです。それでご用件は?」

 

『うむ、それは君達A班に実習課題を追加したいんだ』

 

「え?」

 

「追加、ですか。それは一体どういう……?」

 

『クラナガン南東にある中型道路に事件が発生した。可及的速やかに解決したいために連絡したわけだ』

 

「それは学生の領分を出ています。なぜ私達に?」

 

『うーん、ちょっとした事情があってね。無理にとは言わないが……どうするかな?』

 

うわー、返答絶対分かっているのに聞いてくるよこの人は。

 

「……分かりました、お引き受けします」

 

『そうか、話しは通しておくよ。君達の活躍を期待しているよ』

 

ラース査察官は笑みを浮かべながら通信を切った。

 

「はあ……」

 

「ごめん皆、兄さんが迷惑をかけて……」

 

「ううん、大丈夫だよ!」

 

「それに、事件も放ってはおけないしね」

 

「ま、やるだけやってやるか」

 

「それじゃあ行ってみよ〜!」

 

公園を出て、すぐそこにあった中型道路に向かった。騒ぎと人が集まっていたのですぐに見つかり、人混みを分けて進むと目の前の建物をシールドを構えた管理局が包囲していた。建物はシャッターがかかっていて尋常ならざる雰囲気が漂っていた。俺は責任者を探し出して事情を聞いてみた。

 

「失礼します!レルム魔導学院、VII組の者です!」

 

「来たか、話はラース査察官から聞いている。協力を感謝する」

 

「それで一体何があったんですか?私達が呼ばれる理由となると……」

 

「もちろん異界絡みだ。オーバーロードって知っているか?」

 

そう質問されると全員アリシアを見る。ちょうど昨日そんな魔法を使っていたな。

 

「私のオーバーロードは思考速度、反射神経、動体視力を飛躍的に上げる魔法だよ。今言っている物とは別物!」

 

「ごめんごめん」

 

「コホン、リンカーコア強化剤……ですね?」

 

気を取り直してフェイトが説明する。

 

「ああ、以前流行ったHOUNDの発展改良型だ。使用すれば爆発的に魔力量の増大する。さらに瞬間最大出力、制御能力、変換効率も上がる。こんな重宝な物はない……副作用がなければな」

 

オーバーロードはHOUNDと違い副作用もあり後遺症も残りやすいのが欠点だ。

 

「でも、法律で使用は禁止されています」

 

「それにこんな場所で売り付けるなんて……儲けなんか出るんですか?」

 

「どんな場所でも、そこに魔法文化があれば少なからず売れるからな。数は10、報告によれば魔導師はいない」

 

「………いるな」

 

「え⁉︎」

 

リヴァンが鋭い目でシャッターの奥を睨み付けながら言った。

 

「確かに……いるね」

 

「やはり隠れていたか」

 

「いや、むしろ挑発している」

 

「何で、そんなことを?」

 

「よほどの自信家か、あるいは……」

 

それからしばらく膠着が続いた。相手が出るのを待っているのだろう。

 

「……来る!」

 

「……!」

 

ドカアアアアアアンンッ‼︎

 

リヴァンが叫ぶと同時に建物が爆発した。

 

「ふっ!」

 

「リヴァン!」

 

リヴァンがデバイスを起動して、吹き荒れる爆煙に突っ込み、左の剣で煙を斬り裂いた。

 

「ッ!」

 

「ヒャハハハ!いい目をしてるさ!」

 

そこには深緑のコートでフードをかぶり、刀を肩に担いでいる男がいた。男は飛び上がると刀をリヴァンに振り下ろした。

 

「お前は……!」

 

「アハハハハハ!」

 

弾き返すと男はその勢いで飛び上がり、街灯を蹴り建物の屋根に乗った。

 

「逃がすか!」

 

「リヴァン、待っーー」

 

「総員突入!」

 

アリシアが呼び止めようとした時、隊長が建物の突入を命じた。残りを拘束するためだろう。

 

「ここは分かれるぞ!なのはは俺と一緒にリヴァンと男を追う。残りはここを任せた!」

 

「「「「了解!」」」」

 

デバイスを起動して身体能力を強化し、なのはをお姫様抱っこしてリヴァンを追うため飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああっ!」

 

リヴァンは男を追い、屋根を駆けていた。リヴァンは足を強化して一瞬で男の背後をとり、剣を振り下ろした。だが男は消えるように飛び上がった。

 

「危ないとこだったさぁ」

 

男はまた消えると、今度はリヴァンの目の前に現れ刀を振った。

 

「くっ!」

 

「さすが、読まれる」

 

男の攻撃を弾きながら後退していき、上空へ大きく後に飛ぶと男は追いかけて来て鍔迫り合いになる。

 

弦殺師(あやとりし)、この程度かさぁ」

 

「ッ!」

 

弾いて着地し、距離を置く。

 

「本気、でやってる訳ないよなぁ。元が付くとはいえお前 がこんなもんで済むはずがないさぁ」

 

「………お前はーー」

 

「ーーリヴァン!」

 

その時、レンヤとなのはが追い付いてきた。そして男はフードに手を掛け、おもむろに顔をさらけ出した。同年齢くらいで焦げ茶色の髪、そして左目付近に刺青が入っていた。

 

「ッ……!」

 

「俺っちの名前は、カリブラ・ヘインダール・アストラさぁ」

 

「その刺青………ルーフェンの魔導師一団、ヘインダール教導傭兵団!」

 

「3代目さぁ。同業者のエースオブエースさん」

 

「なのは、知っているのか?」

 

「教導官なら1度は耳にする名前だよ。ルーフェンの名を背負う誇り高い傭兵集団、まさかオーバーロードを売り歩いているなんて思わなかったけど……」

 

「はっ!あんなヤツらはどうでもいいのさぁ。ここに来る為に利用させてもらっただけで、手伝う気もないし」

 

「利用?なら何が目的だ、カリブラ」

 

「どうもこうも傭兵の依頼さぁ、リヴァン」

 

お互いの名を苦もなく呼ぶ2人。どうやら知り合いのようだ。

 

「いい加減戻って来てくれないさぁ?ウチの副団長はお前以外務まらないさぁ」

 

「断る。さっさとその役職を消すことを薦める」

 

「ま、確かにな。だが………何だこれは。こんな剄も使ってない糸で何を斬るつもりさぁ」

 

カリブラは刀を振るうと目の前に張られた鋼糸が落ちる。

 

「こんなたわんだ糸で何をするつもり、だ!」

 

「お前ら、手を出すなよ!」

 

カリブラがリヴァンに斬り掛かり、それを飛んで避け立ち位置が入れ替わった。

 

「本気でこないなら、こっちもそのつもりでやるだけさ!」

 

カリブラは刀を振るごとに斬撃を飛ばし、屋根に傷跡を付け、破片が飛び散る。

 

「どうした!もっとやる気を見せてもらわないと、つまんないさ!それともデバイスを仕舞って腕まで鈍っちまったか?」

 

「何だと……!」

 

鍔迫り合いをしながら煽ってくるカリブラ。リヴァンも怒りを露わにする。

 

それから何度も斬り合い、実力は拮抗していた。そしてカリブラの一撃が流しきれず、リヴァンの剣が大きく逸れた時。カリブラその機を逃さず目を見開かせると、次の一閃で剣を根元から折った。

 

「ああ……!」

 

「はっはあーー‼︎」

 

「くうっ!」

 

リヴァンは怒りを見せるが、すぐに徒手格闘に変えた。キレのある拳を振るうも受け止められるが、すぐさま蹴りを入れて屋根から落とした。リヴァンはカリブラに向かって魔力弾を放った。カリブラは落下地点にあったガラスハウスをつき破り、追うように魔力弾も入っていき、ガラスハウスが爆発した。

 

「ちょ、リヴァン君!やり過ぎだよ!」

 

「………………」

 

「聞く耳持たずか」

 

リヴァンはレンヤ達を無視して地面に降り、続くようにレンヤ達も降りた。炎と煙が充満する中、カリブラがゆっくりと立ち上がる。ふらふらしておりかなりのダメージが入ったようだ。リヴァンが前に出ようとしたら突然カリブラの前に弓矢を持った女が現れた。

 

「仲間か!」

 

女は矢を放ち、リヴァンが障壁で受け止め爆発した。煙が晴れたらカリブラも女もいなくなっいた。

 

「リヴァン、お前は……」

 

「それよりも戻るぞ、カリブラに置いてかれた連中をどうにかする」

 

リヴァンはまた屋根に乗って事件現場に向かった。

 

「リヴァン君……」

 

その時、薄紫色の花びらが飛んできた。ツァリの端子だ。

 

『レンヤ、そっちはどうなったの?』

 

「犯人には逃げられた。俺達もすぐそっちに向かう」

 

レンヤはなのはを抱えて屋根に飛び上がり、リヴァンを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件現場に戻って来た頃には事態は収束しおり、立てこもっていた密売人は残らず逮捕した。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 

「いえそんな、1人逃してしまいましたし」

 

「それをチャラにできる程の成果だ、あんまり気負うな。俺達はもう行く、ラース査察官に礼を言っておいてくれ」

 

男性はパトカーに乗り、護送車と一緒に去って行った。

 

「お疲れ様、アリシアちゃん、フェイトちゃん、ツァリ君」

 

「なのはもお疲れ様、怪我とかはしてなかった」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「フェイト達は密売者の確保に?」

 

「魔導師もいなかったから楽にできたよ」

 

情報を整理する中、俺はリヴァンに近寄る。

 

「リヴァーー」

 

「分かっている………ここじゃ何だ、支部に行くぞ」

 

踵を返してリヴァンは支部の方向に進んだ。

 

「何かあったの?」

 

「それを今から説明する、今はついて行こう」

 

「……?」

 

リヴァンの後を追い、俺達も支部に向かった。

 

軽くフェイト達に事情を説明しながら支部に着いき、2階のテーブルに座り、用意したお茶を飲み一息つく。

 

「それでリヴァン、あのカリブラとは……へインダールと面識があったのか?」

 

「ヘインダール?ヘインダールって確か……」

 

「ユエの出身世界、ルーフェンの傭兵一団だったかな?」

 

「もしかして……」

 

全員の視線がリヴァンに向けられる。

 

「お前らには嘘を言っていた、俺はここの出身じゃない。ルーフェンの辺境……今は滅んだ村の出身だ」

 

「……!」

 

「え」

 

「俺は子どもの頃、村が盗賊に襲われた所を前ヘインダール団長に助けられた。その事件での生存者は俺だけ……盗賊は1人残らず逮捕されたがな」

 

「そんな、そんなことって……」

 

「俺はその後才を買われ、流されるままヘインダール教導傭兵団に入った。カリブラとはそれ以来の関係だ」

 

「…………………」

 

皆、いきなりの告白に心が着いていけてないようだ。

 

「鋼糸や剣もその時に教わった。いつからか前線に立つようになって、いつの間にか弦殺師(あやとりし)なんて異名も付くようになった」

 

「…………それで」

 

「ん?」

 

「それで、どうして彼らと袂を分かつ事になったの?」

 

なのはの質問にリヴァンは頭をかき、ため息をつきながら話し出した。

 

「俺は一時期、ある次元世界で日曜学校に行っていた時だ」

 

「日曜学校?」

 

「日曜日に教会で勉強を教わる事だ」

 

「ヘインダールには俺より下の子どもも何人もいた。行った先の次元世界の日曜学校で勉強を教わるのが常だったんだ。俺はいつも通りに勉強をしていた、そして帰り道……俺は近くにあった森に入ったんだ。鋼糸の練習をしようと思ってな。森の奥で木に鋼糸を張り、駆け回った……が、一瞬の余所見で鋼糸が腕を掠めちまってな、落ちて木にぶつかっちまって動けないでいた」

 

リヴァンは左の二の腕をさすりながら苦笑いした。

 

「傷口から血を流れる痛みに耐える中、そこにあいつがやって来たんだ」

 

「あいつ?」

 

「あいつは同じ日曜学校の生徒でな、森に山菜を摘んでいた所を通りかかったらしい。そんで助けてもらったわけだ。それ以来、あいつとはよく遊んでいた。あいつは魔導師だったが俺と同じでそこまで魔力量は無かったが、あいつは少ない魔力で飛ぶ練習をしていたんだ」

 

「それは……ちょっと危険だね」

 

なのはの言い分もわかる。ただ飛ぶだけの飛行魔法事態はそんなに難しい魔法じゃない、比較的初歩の魔法だ。だが飛行魔法は基本、高々度高速飛行が重視される。これには空間把握能力、各種安全装置、必要な魔力の安定維持など、様々な能力が必要となる。魔力が少ないのに飛ぶ事はあまり勧められない行為だ。

 

「そうだろ。俺も何度も止めようとしたんだが聞いちゃくれなくてな。あいつはただ……飛ぶのが好きだったみたいでな。いつか雲の上に行きたいなんて事も言っていた。俺は夢を追いかけられるあいつを応援した……だが、そんなあいつをよく思わない連中が現れたんだ」

 

リヴァンの手に持つコップに力が加わり、コップがきしむ。

 

「そうか……それがリヴァンが魔力量で比べられるのを嫌う理由か」

 

「……!」

 

「あ……」

 

「そ、それって……」

 

「……事の発端は突然だった。あいつは同じ日曜学校に通う奴らに誘われて飛行魔法の練習をしていた。あいつは奴らの1人を掴んでいつも以上の高度を飛んでいたんだ。もちろん俺は止めようと叫んだが、あいつは高く飛べる高揚感でまるで聞いちゃくれなかった。俺が心配したのは高く飛ぶ事じゃなくて奴らの思惑だったんだ。奴らは俺達以上の魔力量を持っていて常日頃、魔力量の少ない奴を見下していたんだ。そして……事件が起こった。あいつを掴んでいた奴が手を離したんだ。あいつは突然の出来事に驚いて飛行魔法も使わず落ちていった。俺はとっさに鋼糸で網を張って受け止めた、あいつはショックで気絶しただけで怪我はなかった」

 

「なんで……そんなことに?」

 

「気に入らなかったんだよ、魔力が少ない癖に空を飛ぶ事が……奴らはニヤニヤしながら降りてきた、俺は何故こんなことをしたのか問い詰めた。だが奴らはあいつが自分から手を離したと笑いながらしらばくれた。俺は怒り、奴らに飛びかかった。結果は俺の圧勝……だったが、一見すれば俺が最初に襲い掛かった風に周りが見えてな。俺は罰を受けて、あいつの事はうやむやになっちまった……」

 

激しく後悔するように大きなため息を付くリヴァン。

 

「それであいつはどうなったの?」

 

「外傷はなかったが、精神的に参ってな。2度と飛ぶ事はなかった。そして逃げるように別の次元世界に渡って……それ以降会っていない」

 

「酷い……」

 

「俺が14の時のことだ。こんな理不尽があっていいのか、そんな怒りを胸に秘めながらヘインダールにい続け……何時しか弦殺師(あやとりし)とか副団長なんて呼ばれるようになった。何時しかヘインダールを出る事を考えながら傭兵稼業を続け、次元世界を渡ったある日……俺はテオに出会ったんだ」

 

「え?」

 

「はい?」

 

いきなりのテオ教官が出てきて一同、唖然とする。

 

「テオはいきなり俺達の前に現れたんだ。そして……俺に手を差し伸べてくれた。真意はわからないがどうやらその時は次元世界を旅してたそうでな。ヘインダールの中で浮いていた俺を見つけ出して強引に俺を連れ出し………いや、攫っていったんだ」

 

「何してんのあの人⁉︎」

 

「今では感謝している、俺を攫ってくれて。そして今で使っていたデバイスを仕舞い、剄を封じ、テオに勧めるままレルムに入った………後は知っての通りだ」

 

リヴァンは自分の過去を話し、どこか楽になった気もするが。過去が……ヘインダールが今も自分を欲している事に責任感を感じているようだ。

 

「俺は今でも魔力が高くて傲慢な奴は嫌いだが……レンヤ達は認めている。シェルティスは違うが……」

 

「え、そうなの?」

 

「結局人なんだ。魔力量が少なかろうが悪い奴もいるし……例え高くてもレンヤ達のような奴もいる。俺はただ嫌悪したい敵が欲しかっただけで、八つ当たりしたかっただけなんだ……ふう、しまったな。最初の方、話す必要なかったのに」

 

「そんなことないよ」

 

「ありがとう、話してくれて」

 

「はは、分かっているならシェルティスとも仲良くすればいいのに」

 

「ふ、ふざけんな!誰があんな奴と……!」

 

「ふふ」

 

「よかったね」

 

「ああ、そうだな」

 

ヘインダールの動向や目的は分からないままだったが、リヴァンの一端を知れて良かったと思う。

 

どうにか暗い雰囲気を脱した所で、本日の依頼が全部終わったこともありそのままレポートを書く事にした時……

 

〜〜〜〜♪

 

今度は携帯端末に着信が入ってきた。

 

「おっと……」

 

「もしかしてまた兄さんが?」

 

「いや、噂をすればだ」

 

端末の画面にはテオ教官の名前が映っていた。

 

「はい、魔導学院VII組、神崎 蓮也です」

 

『よお、頑張っているか?』

 

「珍しいですね。実習中に連絡してくるなんて、何かありましたか?」

 

『ああ、お前達全員に行ってもらいたい場所がある。実習課題が片付いたらでいいから地上本部正面に向かって欲しい』

 

「地上本部に?一体何故?」

 

『事情は後で説明する。夕方5時過ぎに行ってくれ、B班にも同様に伝えてある。査察官殿にも許可はもらっているから遠慮なく行ってこい』

 

「ちょ、ちょっと教官ーー」

 

ブツン……

 

「くっ……」

 

「な、何だったの?」

 

「またテオが無茶振りをしてたみたいだが……」

 

「それで、テオ教官はなんて?」

 

「ああ……よく分かないけど」

 

通話の内容を皆に伝えた。

 

「地上本部に?」

 

「なんでまた……」

 

「相変わらず何考えているか分からない人だね〜」

 

「でもキリもいいし、今から行ってみよう」

 

それから街を散策し、到着予定前に地上本部に向かった。

 

「さて、来てみたものの……」

 

「一体何をするんだろう?」

 

「定刻までまだある。気長に待とうぜ」

 

「そういえばリヴァン君、デバイスの修理をしないの?」

 

「ああ、そのことか。そろそろ仕舞っていた物を引っ張り出そうと思ってな」

 

リヴァンは懐ろから何かを取り出し見せてくれた。琥珀色の勾玉の形をしたデバイスだった。

 

「もしかして、それが?」

 

「以前使っていたデバイスだ。名前はフェイルノート」

 

「へえ、矢入らず弓、不流(ながれず)魔弓(まきゅう)の異名を持つデバイス、ね」

 

「リヴァンってもしかして……」

 

「ああ、本来は弓を使う。レンヤとなのはが見た女に弓を教えたのも俺だし」

 

「なるほどね」

 

「でもリヴァンはすごいね。剣に鋼糸、弓まで使えるなんて」

 

「器用貧乏と思ってもいいぞ」

 

「謙遜しないで。カリブラって人にも渡り合えたんだよ、充分誇ってもいいと思う」

 

「そうか……」

 

「ーーあら、もういたのね」

 

ちょうどそこへB班がやってきた。

 

「やっほー、レンヤ君」

 

「はやてちゃん!」

 

「そっちも来たか」

 

「皆、お疲れ様」

 

「こちらも早く来たのですが……」

 

「こっちはちょうどいい所で課題を終わらせたからね」

 

「そっちも終わったのか?」

 

「当然だ。クラナガンに馴染みはないけど、充分なハンデだろうね」

 

「ん?………あ、ああ、そうだな」

 

シェルティスの言った事に理解が遅くなったリヴァン。実際はイーブンなのだ。

 

「んー、仲良くするのは難しいそうだね」

 

「でも、喧嘩するほど仲のいいんだと思うよ」

 

そんな何気ないフェイトとアリシアの会話に、アリサ達は機敏に反応した。

 

「あなた達……」

 

「……もしかして?」

 

「仲直りしたん?」

 

「はは……さすが女子は鋭いな」

 

「あはは……うん。皆には迷惑をかけちゃったね」

 

「でも、もう大丈夫」

 

「そう……良かったわね」

 

「ふふ……やっと肩の荷が下りた気分だよ」

 

「実習が終わったら誰かの部屋で話とう気分やな」

 

「いいね!」

 

「うん。ちょっと、恥ずかしいけど」

 

一瞬でここまで発展するのはさすが女の子としか言いようがない。

 

カーーン…カーーン…カーーン………

 

ちょうどその時、5時を告げる鐘が鳴った。

 

「ーーお待たせしました」

 

地上本部から出て来たのはオーリス三佐だった。

 

「オーリス三佐?」

 

「何故あなたが?」

 

「此度お呼びした方へお連れします。どうぞこちらへ」

 

地上本部に入って行くオーリス三佐に慌てて付いて行き、エレベーターで最上階の展望台フロアに到着した。どうやら貸し切られているようで人が全然いなかった。展望台の真ん中に長方形のテーブルがあり、その正面に……

 

「来ましたね」

 

温和な気風を放っている老女……ミゼット・クローベルが座っていた。

 

「ミ、ミゼット・クローベル……」

 

「うわぁ、実際に会うと全く違うよ」

 

「ふむ、あの方が……」

 

異界対策課のメンバーとはやて以外は画面越しにしか見た事なかったそうで、初めて会うミゼットさんに緊張していた。

 

「もしかしてミゼットさんがこの場の席を?」

 

「ええ、レジー坊やには話しを通してあるわ。初めまして私はミゼット・クローベル。レルム魔導学院の理事長よ。よろしくお願いする……VII組の諸君」

 

「レ、レジー坊や……」

 

ミゼットさんの発言に驚きながらも席に座り、軽い夕食を出された後改めて先の発言を聞いてみた。

 

「ミゼットさん、先程の魔導学院の理事長とは?」

 

「知っての通り、レルム魔導学院は覇王家が管理されるものでしたが……現在は廃れてしまい、理事は定期周期で管理局の上層部で回される事になりました。私は来年の春に理事の座を降りる予定ですが、その前に幾つかの悪足あがきをさせてもらいました。その1つが……魔道学院に新たな風を起こす事です」

 

新たな風……それこそがⅦ組。魔力量というこのミッドチルダに根付く者たちの価値観を超え、未来に新たな風を吹かせる為に。特別実習という名目で各地に向かわせているのも、今のミッドチルダの姿をⅦ組の面々に見せつけ、対立を知らしめ、未来の事を考えさせるためでもある。しかしそれよりも前に、現実には様々な壁が存在するという事もまた、俺達に知ってもらいたかったという意図もあったのだ。

 

「VII組の発起人は私ですが既にその運用から外れています。それでも一度、あなた達に会って今の話しだけは伝えようと思っていました」

 

「そうですか……話していただきありがとうございます。俺達の事も、配慮しくれたみたいですし」

 

「異界対策課の活動は目を見張る成果ですが、いささか酷使している点も多かったのです。せめてもの手助けで、来年に来るVII組の後輩を含め、ここにいる数名が異界対策課に入るとは思いません……が、このVII組で得たものは必ずあなた達に、このミッドチルダに平和を与えると信じています」

 

「そ、そんな、期待されても……」

 

「感謝します、ミゼットさん」

 

「身に余る光栄です」

 

「ですが……お話を聞く限り、私達が期待されているのはそれだけでは無さそうですね?」

 

「え……」

 

アリシアが惚ける中、フェイトが最もな質問をする。

 

「魔道学院の常任理事の3名……ですね」

 

「僕の父、グランダム・フィルスにラース・リループ査察官。そして聖王教会の教会騎士団団長、ソフィー・ソーシェリーですか」

 

「あ……」

 

「確かに、その3名は……」

 

「どう考えてもミゼットさんとは別の狙いがありそうやな」

 

「ふふ、その通りです。先ほども言いましたが既にVII組の運用は私から離れ、彼ら3名に委ねられている。このうち、知っての通り、グランダム君とラース君はお互い対立する場にある。ソフィーさんも中立の立場にいますが、その思惑は私にも分かりません。そして……あなた達の特別実習の行き先を決めているのは彼らなの」

 

思い返してみれば一体誰が特別実習の行き先を決めていたのか考えた事もなかった。

 

「そうだったんですか……」

 

「……何か思惑や駆け引きがありそうだね」

 

「ええ、VII組設立にあたって譲れない条件として彼らから定時されたものでね。正直、ためらいはしまいましたがそれでも私達はあなた達に賭けてみました。この世界が抱える様々な壁を超えられる光となると思って」

 

自分達に期待を迫られているに対して、ミゼットさん本人の感情を聞いて気持ちを改められる気分になる。

 

「フフ……だがそれも私達の勝手の思惑です。あなた達はあなた達であくまで学生としていてもらいたいです」

 

「そうですか……」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「あ、先ほど私達とミゼットさんは言いましたが……」

 

「他にもミゼットさんに賛同される関係者がおるんですか?」

 

「ええ、ヴェント学院長です。彼とは同級生でしてね。VII組を設立するアイデアにも賛同してくれたのよ」

 

「確かに学院長には色々とご配慮していただいてますね」

 

「3人の理事達は異なり、学院運営に口を出せる立場にありませんが理事会での舵取りもしてくれます。何より責任者として最高のスタッフを揃えてもらいましたからね」

 

「最高のスタッフ、ですか?」

 

最高かどうかは分からないが恐らく……

 

「もしかして……テオ教官の事ですか?」

 

「ふふ、彼だけではないのですがね。ただ学院長が彼を引き抜いたのは非常に大きかったですね。ミッドチルダでも指折りの実力者ですし、何より特別実習の指導に打って付けの人材ですからね」

 

「え」

 

「ミッドチルダでも指折りの実力者?」

 

「特別実習の指導に打って付けの人材?」

 

「ふふ、エース達なら一度は耳にしたんじゃない?テオ……本名、テリオス・ネストリウス・オーヴァ。青嵐(オラージュ)なんて呼ばれているわよ」

 

そこで俺達、管理局組がハッとする。青嵐(オラージュ)……聞いた事がある。

 

「まさか、テオ教官が……?」

 

「一昔前までフリーの魔導師として次元世界を渡り歩き、人々を気まぐれに救い嵐のように去って行った人……そんな高い実力と実績の持ち主……青嵐(せいらん)のオーヴァ。それが、あなた達の担任教官よ」

 

自分達の担任の素姓。それを明らかとなった上で、俺達はさらにミゼットさんの話に耳を傾けるのだった。

 

 


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