魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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Vivid Strike!のPVを見てみました。偶然にも幼少期のレンヤとフーカが似たような境遇で結構驚きました。あそこまで荒んでなかたっけど。

て言うか一人称が儂って……


76話

 

 

ツァリの実家を後にした俺達は、アスフィさんが教えてくれた場所に向かって移動していた。そこには真新しい建物があり、メモの住所と照らし合わせ、この建物が自分達の宿泊所であることを確かめる。

 

「え〜っと……うん、やっぱりメモの住所はここで間違いないみたいだよ」

 

「……………………」

 

「レン君?どうかしたの?」

 

「……!いや、予感が的中したと思って、な」

 

「……?」

 

「あ、そっか。それならB班も同じだね」

 

「ここが何の施設かわかったのか?」

 

「ここは異界対策課の支部だ。確かにそんな話が前に来ていたな。この支部は今後増えてくるであろう人員の配置場所として建てられたんだが、増えるのはまだ先だから依頼を受けている途中に寄ってここで書類作業をする予定だ。本部に戻るより効率もいいし」

 

「へえ、でもそれってもっと大変になるんじゃ……」

 

「……ホント、人員が増えるのはいつになるんだろうな」

 

「そ、そう……」

 

「と、とにかく中に入ろうよ!」

 

「そうだな、早く実習も開始したいし」

 

ラース査察官から渡されたカードキーを使い、異界対策課、東方支部の扉を開いて中に入る。中は定期的に掃除などを行なっていて綺麗に片付けられていた。そして相変わらず、身の丈の合わない設備が揃っている。

 

「意外と綺麗に片付いているな」

 

「作られたのは最近だしな」

 

「それにしてもすごい設備だね。すご過ぎて使うのためらっちゃうよ」

 

「いつもこう言うの断っているのに、お偉いさんは揃って用意するんだもん。媚びを売っているのが見え見えなんだから」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「宿泊場所は2階に仮眠室があったはずだ。一旦荷物を置いてから、依頼を確認しよう」

 

「うん、分かったよ」

 

2階に荷物を置いた後、依頼を確認し。フェイトとアリシアが未だにギクシャクしながら依頼を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼の内容は基本的に落し物を届けることや夏至祭に向けての手伝いなどをした。一通り終わらせた後、グリード討伐の詳細な情報を聞くため中央ストリートの先にある地上本部に向かっていた。

 

「ここが時空管理局地上本部かあ。実際に中に入るのは初めてだよ」

 

「ラースさんと一緒に来たことはないの?」

 

「兄さんとは本局に行ったよ。兄さんは本局勤めだったから」

 

「へえ〜」

 

本局勤め………3人の常任理事は聖王教会、地上、本局に分かれていてバラバラだ。誰もが何らかの思惑があって、多忙の中理事をしているのだろう。

 

「ーーあれ。レンヤ君?」

 

正面からすずか達、B班がやって来た。

 

「皆さん、実習の方は順調ですか?」

 

「それよりもどうしてここに⁉︎」

 

「それはコッチに台詞だよ!」

 

「ふふ、アリシアちゃん、シェルティス君、ここは中央ストリートのある地点。2つの班の実習地が重なる地点だからだよ」

 

「………あ、そうか」

 

すずかの説明にリヴァンが納得する。

 

「そっちもグリード関連か?」

 

「ええ、それとレンヤ達も異界対策課に顔を出しときなさい。ルーテシアが喜ぶわ」

 

「了解、そうするよ」

 

「そうだ!この後一緒にお昼ご飯はどう?」

 

「いいんじゃないかな、実習中に会う事もなかったし」

 

「お互いに情報交換もしたい所だしな」

 

「そ、そうやなぁ〜……」

 

「はやて⁉︎一体何があった⁉︎」

 

他に比べてなぜかやつれているはやてがいた。

 

「あはは……ちょいとお話されただけやって……」

 

「それははやての自業自得だよ………私だって……」

 

「フェイト、何か言ったか?」

 

「な、何でもないよ!それじゃあまた後でね!」

 

「お、おい……」

 

フェイトに手を引かれてエレベーターに向かった。それから依頼人から詳細な情報を聞いた後に異界対策課に顔を出した。そこにはルーテシアと球の状態のガリュー、ラーグとソエル、アギトがいた。

 

「皆、元気にしているか?」

 

「あ、レンヤ!」

 

「よおレンヤ。なのは達とは会ったのか?」

 

「うん、下で今さっき会ったよ」

 

「あはは、皆元気そうでよかったよ」

 

「おうよ!あたしは元気が取り柄だかんな!」

 

(コクン)

 

アギトがガリューを持ち上げながら元気さを体で現す。

 

「レンヤさん、この人達がVII組の?」

 

「ああ、紹介するよ。菫色の髪のが念威操者のツァリ・リループ」

 

「よろしくね」

 

「んでコッチの銀髪がーー」

 

「リヴァン・サーヴォレイドだ」

 

「はい!ツァリさんにリヴァンさんですね。私はルーテシア・アルピーノです!こっちが私の使い魔のガリューです!」

 

(コクン)

 

「改めて、あたしはアギト・バニングスだ。古代ベルカの融合機だ」

 

「さて、自己紹介が済んだ所で………どうしよっか?」

 

「適当に見て回っていいぞ。機密は奥の方にあるし」

 

「さらりと怖い事言わないでよ」

 

ツァリとリヴァンが物珍しそうに見て回るなか、俺とアリシアはルーテシア達の手伝いをし。なのはとフェイトは少し見て回った後に手伝ってくれた。アリサ達を待たせているのできりのいい所で終わらせ、アリサ達と合流して中央ストリートにあるレストランで食事をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは達と合流して中央ストリートにあるレストランで昼食を食べた。お互い情報や実習の出来事を話しながら楽しんでいたが、終始フェイトとアリシアは必要最低限しか話さなかった。

 

「それじゃあ、私達は行くわ」

 

「皆も気を付けてね」

 

「うん、アリサちゃん達も」

 

「そちらは後どれくらいですか?」

 

「後はグリードだけだよ。そっちも頑張ってね」

 

「あんがとうな。せやけど……」

 

はやての視線が俺の後ろにいるフェイトとアリシアに向けられた。どちらも顔を合わせようとはせず、背を向けていた。

 

「……状況は変わっていないね」

 

「ま、まあこっちでなんとかするよ!」

 

「大変だと思うけど、無理はしないでね」

 

「それではまた、お互いの実習の成功を」

 

「……うん、そっちも気を付けて」

 

「……またね」

 

アリサ達はバスに乗って行った。

 

「さて、俺達も行くか」

 

「うん!」

 

「場所はどこだっけ?」

 

「すぐそこのクラナガン中央ターミナルだ。B班は別の依頼があったらしいから俺らに回ってきたようだな」

 

「とりあえず、まずは行ってみよう」

 

「アリサ達に負けないように、僕達も頑張ろうね!」

 

意気込みを新たにし、クラナガン中央ターミナルに向かった。昼過ぎな事もあって早朝より人がごった返していた。まずはここの責任者に話を通してから地下鉄に発生したと思われるゲートに向かった。

 

「ここだな」

 

「都合よく隅にあってよかったな」

 

「ゲートは基本、人通りの多い場所に発生した事はないからね」

 

「確かに目立つ場所ではないね」

 

「うん、そうだね………」

 

アリシアが心ここあらずのように、何か考え込むようにしており、下を見ていた。

 

(この地脈の流れは……)

 

「アリシア、どうかしたか?」

 

「え⁉︎う、ううん……なんでもないよ!」

 

「気分が悪いならここで待っている?」

 

「大丈夫、大丈夫!ほら行こう!」

 

誤魔化すようにアリシアは先にゲートに飛び込んでいった。

 

「あ、待て!」

 

「アリシアちゃん⁉︎」

 

「姉さん……!」

 

「僕達も!」

 

「ああ!」

 

追いかけるように俺達はゲートを潜り抜けた。久方振りの異界は廃棄した鉱山のような異界だった。ある程度動き回れる広さがあり所々に天井を支える木のアーチがあった。

 

「ふむふむ。人の手が加わらないと物があるとは。まっこと異界は不思議ぜよ」

 

「変な喋り方して誤魔化されると思ったか」

 

「痛っ!」

 

アリシアにチョップをかまして先に行った事を反省させ。全員デバイスを起動し、ツァリとリヴァン以外バリアジャケットを纏い準備を整える。

 

「皆、気を引き締めて行こう」

 

「なのはもね」

 

「この異界はそこまで危険じゃないがな」

 

「んーー……徘徊するグリードの気配からして脅威度C+って所だね。油断しなければ大丈夫だよ」

 

「なら余裕だろう」

 

「リヴァン、油断は禁物だよ」

 

(ただ、地脈の影響は受けそうだけどね)

 

「行くぞ、目標は最深部のエルダーグリード!」

 

「了解、レンヤ!」

 

異界を駆け出し、迫るグリードを倒していく。最近あのグリムグリードを相手にしているから少し物足りなさを感じながら迷宮を進んで行く。

 

カチッ

 

中間地点にさしかかるとリヴァンが何かを踏んだ音がした。それと同時に来た道から何かが近付いてくる。

 

「ん?」

 

「リヴァン、何か踏んだ?」

 

「確かに踏んだが……」

 

「それ絶対トラップ」

 

「ええっ⁉︎」

 

すると道の隙間を塞ぐ程の大きな丸い岩が転がってきた。

 

「お約束⁉︎」

 

「逃げよう!」

 

全力で走り出し、岩から逃げる。途中グリードがいたがスルーして、岩に潰されて塵になった。あれを受けたらシャレにならならない。

 

「壊したり押し返したりできないのかよ⁉︎」

 

「異界の壁や罠は異界そのもの……壊すには異界を壊す程の威力がないと」

 

「そんなことしたら俺達までお陀仏ってわけだ」

 

「それだけはイヤ!」

 

その後脇道に逸れて岩を避けて、ホッとしながらも気を引き締めて進んだ。

 

最奥部に到着すると、赤い渦が発生し。そこから角や所々にドリルがあるサイが現れた。

 

「出たぁ⁉︎」

 

「エルダーグリード、ドリルライノ!」

 

「装甲がかなり硬そうだな」

 

「俺の刃も通るか難しいな………ここはフェイトの電撃を主体として戦うぞ、アリシアは撹乱してフェイトのサポートを!」

 

「う、うん!」

 

「りょ、了解!」

 

今できる最善の指示を出す。決して2人の仲を戻すためではない。戦いで私情はあんまり持ち込まない方がいいし、2人もそれくらいは弁えている。

 

「バルディッシュ!」

 

《プラズマランサー》

 

フェイトの周りにスフィアが展開して、そこから槍の形をした魔力弾が撃ち出された。着弾と同時に電撃が炸裂してダメージを与えるが、ドリルライノは怯まずドリルを回転させて突進してきた。

 

「皆避けて!」

 

《フォトンバレット、バーストマイン》

 

アリシアが二丁拳銃でドリルライノの目を狙い、その隙に突進を避ける。そして設置していた炸裂魔力弾に突っ込み、魔力弾が爆発する。

 

「ツァリ!何でもいいから情報を!」

 

『そんなこと言ったって関節に継ぎ目もないし、まさしく走る鉄の塊だよ!』

 

ツァリが後方で目を閉じて必死の顔をしながら薄紫色の花びらを散らしている。よくよく考えたらこの班に物理的で攻撃力が高い魔法を使う人が少なかった。

 

「ふっ!」

 

リヴァンが鋼糸で切り裂こうとしても弾かれ、巻き付けて止めようとしても力づくで千切られる。

 

「こうも相性が悪いのか⁉︎」

 

「なら私が!」

 

《ロッドモード》

 

「やああああっ!」

 

移動しながら足を重点的に狙い棍を振るう。フェイトや俺も援護するが、次第になのはに目を付け始めた。ドリルライノの全身にあるドリルが回転を始め、一斉になのはめがけて発生した。俺はなのはの前に出て刀を構える。

 

「笠要らず!」

 

円を描くように振り抜き、ドリルに触れずに剣圧で後ろに逸らした。

 

「あ、ありがとうレン君」

 

「礼はいい、まだ来るぞ」

 

ドリルライノは新たにドリルを出すと、今度は無茶苦茶に全方向に撃ってきた。

 

「くっ、レストレーション02!」

 

「き、キリがないよ〜」

 

「とにかく耐えろ!」

 

俺とアリシアとリヴァンでドリルを撃ち落とすが、際限なく撃ち続けられていた。

 

「………!」

 

「……⁉︎待ってフェイト!」

 

フェイトが弾幕の合間をぬってドリルライノに接近する。

 

《ザンバーフォーム》

 

「はああああっ!」

 

狭い空間内でなのか、ザンバーフォームの刀身の伸展が幾分控えめだったが、それでもドリルライノ目掛け振り下ろされた。

 

ガッキィンッ!

 

「まだまだ!」

 

斬るというより叩き潰す感じだ。地面に押し込ませているがドリルライノはまだ余力を残していた。さっきと同じようにドリルを発射したが、今度はワイヤーが取り付けられておりフェイトを拘束した。

 

「フェイトちゃん!」

 

「こんな物……!」

 

フェイトが拘束を外そうとしたら思いっきり振り回され、地面に叩き付けようとした。

 

「きゃああああっ!」

 

「フェイト!」

 

《ダガーブレード》

 

アリシアが片方の拳銃に魔力刃を展開して、ワイヤーに向かって投げた。ワイヤーを切り裂き、アリシアは落ちてくるフェイトを受け止めた。

 

「くうっ……」

 

「姉さん。……!姉さん危ない!」

 

「え……」

 

ドンッ!

 

「かはっ!」

 

アリシアの背中にドリルライノの横振りを受けて2人は壁際まで飛ばされた。

 

「アリシア!」

 

『アリシアの意識消失を確認、大きな外傷はなし。フェイトも脳震盪により戦闘の続行不可能!』

 

「ちっ!」

 

リヴァンが鋼糸で2人を回収する。持ち上げられた2人をドリルライノが目で追う隙にツァリの花びらが大量にドリルライノに向かい、それに隠れて俺となのはが接近する。

 

『ブルームウィンド!』

 

花びらがドリルライノに張り付き始め、もがくも瞬く間に花びらに埋もれた。銃から刀に展開し、なのはと並び立つ。

 

「なのは、行くぞ!」

 

「うん、任せて!」

 

「そこだ!」

 

「はああああっ!」

 

俺が一閃した後なのはが連続で突きを放ち、後方に下がりなのはの周りに二鏡面送人(にきょうめんおくりびと)で4人になった自身が囲み刀を構え……

 

「「奥義、太極無双撃!」」

 

4分身の斬撃が縦横無尽に放たれ、棍が地面を叩き割り衝撃が噴き上がり攻撃する。

 

俺となのはの連携技がドリルライノに炸裂する。この技はなのはの棍の特訓に付き合った時に考え付いたのだが、ここ最近ようやく形になっただけでまだまだ穴だらけの欠陥技だが。威力はそれなりあるしグリード1体相手になら問題はない。だがやっぱり実力者相手に2度は使えないし、むしろ初見で崩される事もありえる。要改善が必要だな。

 

無防備に食らったドリルライノは光を放ちながら消えていった。

 

「やったね、レン君!」

 

「お疲れ、なのは」

 

パンッ!

 

手を上げてハイタッチをする。それからすぐに異界の収束が始まり、目の前が光に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、出た……か?」

 

「そうみたいだ……ね?」

 

現実世界に戻るとそこは地下鉄ではなく、どこかの公園の一角だった。

 

「え⁉︎何でこんな場所に!」

 

「ツァリ、ちゃんと授業で習っただろう。地脈の影響を受けたんだ」

 

「あ、そっか。でも実際に起きるとびっくりしちゃったよ。ここはどうやらリスト公園みたいだね」

 

「そんなことより………リヴァン。2人の容体は?」

 

「フェイトは時期に目を覚ますだろう。アリシアは診てもらわないとどうとも言えん」

 

「う……」

 

ちょうどその時、フェイトが目を覚ました。

 

「フェイトちゃん!」

 

「ここは……」

 

「異界からは出た。しばらく安静にしているといい」

 

「あ、僕は依頼の報告をしておくよ」

 

「ああ、よろしくな」

 

「………!レンヤ、姉さんは……!」

 

「アリシアはフェイトを庇って気絶しているだけだ。目立った外傷はない、心配するな」

 

「そう、よかった……」

 

アリシアの無事を確認してホッと一安心するが、すぐに自分の行動を思い出したのか俯いてしまう。

 

「………………」

 

「……フェイト、自覚しているなら何も言わないが………このままじゃダメだという事は、わかっているな?」

 

「うん、わかっているよ。私と姉さんの考えている事は同じだって事も……」

 

「ならいいさ」

 

「う……ん」

 

そこでアリシアが目を覚ました。

 

「アリシアちゃん!」

 

「ここは……。なるほど、地脈の影響を……」

 

「理解が早くて助かる。痛い所はないか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「でも、念のために治療を受けてね」

 

「ありがとうなのは、でも本当に大丈夫だから」

 

「あ、フェイト、アリシア、目が覚めたんだね!」

 

そこに報告を終えたツァリが戻ってきた。

 

「そろそろ日も暮れるし、ちょうど依頼も全部終わったから。アリシアの治療が終わったらウチに行かない?」

 

「そろだね、それがいいよ」

 

「俺は構わんぞ」

 

「フェイトとアリシアもいいな?」

 

「うん」

 

「私の事は別にいいのに……」

 

アリシアに地上本部の医療施設で受けさせ、後遺症もなく問題なく治療を終えて。それからツァリの家に向かった。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

テーブルの上にはご馳走がこれでもかと置いてあった。

 

「お帰りなさい、今晩の夕食は腕によりを掛けて作ったから遠慮せずにどうぞ」

 

「ありがとうございます、アスフィさん」

 

「うわ〜!美味しそう!」

 

「じゃあ早速ーー」

 

「まずは手を洗うのが先だろう」

 

それからアスフィさんに学園生活の事を聞かれながら食事をした。俺達の事も度々聞かれたが大半はツァリの事を質問され、その度にツァリが止めに入ったりして夕食を楽しんだ。食べ終わった後ツァリに自身の部屋に招待されて、ツァリの部屋を訪れた。

 

「へえ〜」

 

「綺麗に片付いているじゃないか」

 

ツァリの部屋はどこも整理整頓されており床も埃が落ちてなかった。特出目立った物はないが、壁に掛けられたバイオリンがこん部屋で1番目立っていた。

 

「母さんが定期的に掃除しくれているんだよ。と言っても、僕の部屋は結構侘びしいから掃除も楽なんだろうけど」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「ちょ、ちょっと大人の男性って感じがするよ……!」

 

「フェイト、それフォローしてないぞ」

 

「え?」

 

「ふ〜ん……あ!」

 

部屋を物色していたアリシアが机に置いてあった写真立てを覗き込んだ。

 

「ツァリ、この写真は?」

 

「それは中等部の時に集合写真だよ。皆、管理局に入るか進学しちゃったんだけどね……」

 

「ツァリも進学希望だったんでしょう?レルムで見た顔はいないし……何でレルムにしたの?」

 

「…………………」

 

アリシアの質問にツァリは少し俯き、少し自嘲したように笑う。

 

「あはは、皆には気付かれたと思うけど。僕、魔導学院を受ける前は友達と同じ高等科を希望していたんだよね」

 

「あ………ごめん……」

 

「いいよ、別に気にしてないし。僕は本来、魔導師はおろか管理局に入るつもりはなかったんだよね。ただ友達や家族と気ままな生活をしたかった……自分にできることを探したりもした。でも……」

 

ツァリはウルレガリアを起動させると部屋の中に花びらを散らす。

 

「兄さんがそれを許してはくれなかった。幼い頃から魔導師としての……念威操者としての訓練を受けてきたけど、いつからかまるで自分の将来が決められていることに気付いて、嫌気が差したんだ」

 

「…………………」

 

「贅沢だとは思っているよ。それに兄さんの言い分も理解できる、僕の力を自分のためじゃなくてこのミッドチルダに使おうとしている事も。魔導師以外の道を探してバイオリンに手を出したのも、ある意味意趣返しだしね。それでも結局、僕は兄さんの決めた通りになっちゃったんだけどね」

 

自分の将来を決められ、望んでもいない学校へ進学させられそうになる。それは当時のツァリからすればあまりにも酷なことだったのだろう。少しだけ哀しそうな表情を見せながら続きを口にしていく。

 

「………こんな才能がある事も恨んだりもしたし、兄さんも恨んだ。でもレルム魔導学院は魔法以外にも力を入れていることもあって、卒業生の半数は魔導師以外の道を選択しているって知って……悪足掻きのようにレルムに入ったんだ」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

ツァリもツァリで苦労してきたようだ。おそらくここに至るまでに大きな葛藤などもあったのだろう、その果てに選んだ選択肢で今があるなら、それを受け入れるしかないのが人というものではあるが。

 

「えへへ……皆と比べたら、ちょっと情けない理由でしょ?結局、僕は何も成せていない……本来念威操者は膨大な情報を収集を処理するために脳が強靭にできていて、一般人や通常の魔導師と比べ記憶力が優れているらしいんだけど、それも生かせずテストの結果がアレで……でも実際のところ、友達と一緒の高等科に通えなかった事については未練たらたらで……はあ、贅沢過ぎる悩みで情けないよ」

 

「ツァリ……」

 

話を聞き、少しだけ考える素振りを見せるフェイト。どのような思惑であれ、ラース査察官がツァリの事を考えていた事には違いない。それも、ただ自分の為に利用するなどという邪な考えでは無いことはツァリが言っていた通りだし、兄なりに弟の事を考えての行動なのだろう。

 

「なあ、ツァリ。もしかして後悔してたりするのか?魔導学院に来たことを」

 

「え?……それに関しては後悔するわけないじゃない」

 

「えっ」

 

「へ?」

 

思いがけない答えにアリシアとリヴァンが唖然とする。

 

「毎日、忙しいけど充実してるし、放課後には部活でバイオリンの演奏も出来る。特別実習なんていう変わったカリキュラムもあるから色々、視野も広げられそうだしね。寧ろ、漠然と高等科に進学するよりも今は良かったと思ってるくらいさ。卒業後、魔導師の道を目指すにしても別の道を目指すにしても……今度こそ、僕は僕自身の意思で進むべき道を決められると思うから」

 

強い瞳で応えるツァリ。嘘偽りないその言葉には、今まで魔導学院で培ってきた経験の全てが導き出した確固となった自分の意思を示していた。

 

「そこまで考えていたんだね……」

 

「……強いね、ツァリは」

 

「あはは……買いかぶりすぎだよ。今でも高等科で頑張ってる友達の事を見ると羨ましく感じちゃうし……でも、それでも魔導学院に入った事を後悔する事だけは絶対に有り得ないと思うんだ。何よりも君達と……Ⅶ組の皆と会えたからね」

 

「お、おう……」

 

感動的なセリフの筈だろう。確かに、素晴らしい言葉であることには間違いないし、ツァリの本心から出てきた言葉なのだろう。しかし、小説等に出てくるかのようなくさいセリフをこうも躊躇い無く口にするとは流石に予想の右斜め上過ぎた。

 

「ツァリって……ひょっとして大物?」

 

「は、恥ずかしい台詞だよ……さすがに」

 

「え、え?そんなに恥ずかしいかな?」

 

「本人は無自覚……」

 

「やれやれ、そう言うのはレンヤだけで充分だ」

 

「俺はこんな事言わん」

 

髪の毛を軽く掻きながら疑問を浮かべるツァリ。どうやら、自覚せずにやっていたようであり、もしかしたら天然な所もあったりするのかもしれない。

 

「ふふ……さすがに恥ずかしいね」

 

「……でも、それでこそツァリなんだろうな」

 

「あはは、レンヤにそう言ってもらえると嬉しいかな?」

 

「どっちもどっちなの……」

 

「ふふ」

 

その後、ツァリはそのまま実家に泊まる事となった為、俺達4人は宿泊所となっている異界対策課・東方支部に戻る事となる。アスフィさんにも一礼をした後、東方支部へ続く道を歩いていく。

 

「ふう……もう9時過ぎだったか」

 

「すっかりお邪魔しちゃったね」

 

「そうだな。夕食ばかりか、明日の朝食にも誘ってもらったし。感謝しなきゃな」

 

「うん、後からでもお礼をした方がいいよね」

 

明日の課題はこの建物の郵便受けに朝一番に届けてくれる事になっていたので、今は気にしなくても良いだろう。あのラース査察官が担当しているのだから流石に不備などが起こっているという事もないと思う。

 

「早めにレポート書き上げて休むとするか……2人もそれでいいよな……?」

 

ふと、後ろにいるフェイトとアリシアに視線を向けたら、2人が神妙な顔持ちでじっと立ち尽くしている姿が目に入る。

 

「どうかしたの、2人共?」

 

「何か気になる事でもあったのか?」

 

「え、ううん……」

 

「……そうじゃないけど」

 

2人の静かな声には、決意が込められていた。それは、今まで出来なかった事が今なら出来るかもしれないという確信の元に生まれた覚悟。このままの状況を打開する為に踏み込む一歩。それをアリシアが切り出した。

 

「……ツァリの話を聞いて、やっと決心したよ」

 

そう言うとアリシアはフェイト向き直り、ある言葉を口にする。そして、その言葉は或いは今まさにフェイトもまた提案しようとしていた事だったのかもしれない。

 

「ーーフェイト。私と勝負して」

 

「へ?」

 

「……!」

 

「ア、アリシアちゃん⁉︎」

 

「……うん、分かったよ。今日中がいいよね?」

 

「フェイトちゃんまで……」

 

「そうしない限り今夜は眠れないだろうからね」

 

「ちょ、ちょっと待て!いきなり勝負ってなんだ⁉︎」

 

「そのままの意味だよ」

 

「私とフェイトが魔法を使って一騎打ちするだけ」

 

「ああ、そうか…………って、ダメだろそれ」

 

リヴァンが2人の行動を止めに入る。当然の反応だが、俺は……

 

「さすがに夜でも街中での勝負は迷惑だ。夕方に行ったリスト公園でどうだ?」

 

「うん、いいよ」

 

「異界から出た辺りなら人気がなくていいと思うよ」

 

「レン君まで……」

 

「はあ、しょうがない。乗ってやるか」

 

決まったら即行動する2人、居ても立っても居られないのだろう。リスト公園に着くとさすがに静かまっていて昼とは別の雰囲気がある。異界から出た場所はリスト公園の端にある東屋、そこに向かった。

 

「うん……周囲に人気はないね」

 

「地脈点もあるし、いい条件だね」

 

2人は距離を取って立つ。これから始まる戦い、その前にアリシアは己の胸の内に秘めていた言葉を打ち明ける。

 

「フェイト、単刀直入に言うよ。この勝負、私が勝ったらフェイトの本心を答えて欲しい」

 

「…………………」

 

「最初は、フェイトが避けてる事に疑問を感じてた。そんなことする理由も分からなかった。でも、フェイトも私と同じ気持ちなら……納得しているよ」

 

「……うん、私も……同じだよ」

 

「同じ気持ちなのに譲り合わない、分かち合わない………なんで、どうして、そう思うけど逆の立場なら私もそうする」

 

「ッ…………」

 

「けど……それは勘違いだった」

 

「え」

 

アリシアは自分の胸に手を当て、目を閉じる。今までの出来事それらを心の中で思い出し、自分の結論を導き出した。

 

「ツァリの話を聞いて、前にレンヤに言われた事を思い出してね。改めて、私は自分の心に問いかけてみた。どうしたいか、どうありたいか。そうすると……1つ、気付いた事があったんだ。私もフェイトも、案外頑固だってね」

 

「あ…………」

 

「私がフェイトを大切だと思うと同時に、フェイトも私のことを大切だと思っている。だからこそ巻き込みたくなかった、心配されたくなかったんでしょう?」

 

「…………………」

 

(なるほど……とっくに答えは出ていたんだな)

 

(そうみたいだね……)

 

(お互いを思うこそだから、か……)

 

アリシアの言葉を聞き、フェイトもまた自分がアリシアに対して抱いていた感情を口にしていく。お互いに相手に対して思っていた事を口にすることもまた、この勝負には必要な事だろうから。

 

「私も同じ……姉さんはいつも明るいから、私とは違うから、こんな暗い事は私がやろうって意地を張っていた」

 

「……そう……」

 

「でも、どうして?」

 

だとしても、最後の一つ。フェイトには疑問があった。いや、その疑問に対する答えは、何となく彼女自身も分かっている筈だ。それでも、その答えを確かめない訳にはいかなかった。

 

「私と姉さんの考えている事は同じ。それを知ることがなのに姉さんにとって何の意味があるの?」

 

「ふふ……決まっているでしょう。私があなたを………フェイトのことが大好きだからだよ」

 

「……!ね、姉さん……⁉︎」

 

「当たり前でしょう。家族を……妹を好きじゃない姉なんていないよ。でも、だからこそ知りたいの。手を取り合いたいの、妹を守る為に」

 

「…………………」

 

素直で、真っ直ぐで、アリシアらしい答えだ。

 

(な、何というか……)

 

(ふふ、アリシアちゃんらしいね)

 

(アリシアが本当の意味でフェイトの前に立つ、か)

 

「……やっぱり姉さんは凄いな……うん、分かったよ。でも、私もそう簡単には渡せない」

 

フェイトは懐からバルディッシュの待機状態を取り出す。

 

「それでいい?」

 

「うん、いいよ……」

 

アリシアもまたフォーチュンドロップの待機状態を取り出す。

 

「これがテスタロッサ家の………最初で最後の姉妹喧嘩だよ」

 

「ふふ、そうだね。でも………先ずは相応しい舞台を用意しなくちゃね」

 

次の瞬間、アリシアから膨大な魔力が放出され……一気に結界が張られた。そして………俺達は昼の時の庭園に降り立った。

 

「私達の始まりの地、これ以上相応しい舞台はないよ」

 

「そうだね。夢より、心地よくて……暖たたかい。始めようか」

 

「お前ら!色々ツッコミたいが、お前ら充分気が合っているだろうが⁉︎」

 

「アリシアちゃんも結界張るなら先に言ってよ!」

 

「はは……」

 

なのはの言い分はどこかズレているが、俺は2人の間に立つ。

 

「立会いは任せてくれ。危険だと判断したら止めるから全力でやり合うといい」

 

「ありがとう、レンヤ」

 

「うん!」

 

2人はデバイスを掲げ……

 

「バルディッシュ!」

 

《イエス、サー》

 

「フォーチュンドロップ!」

 

《ロジャー》

 

「「セーット!アーップ!」」

 

デバイスを起動させ、バリアジャケットを纏いお互い武器を構える。

 

「はああああっ……!」

 

「ふぅぅっ……」

 

フェイトからは金色の、アリシアからは黄緑色の魔力光が溢れ出す。

 

「ーー始め!」

 

合図と同時にフェイトはバルディッシュをハーケンフォームに変えて横薙ぎに振るう。アリシアもそれを予見していたのか冷静に対処する。ハーケンフォームの魔力刃に左の拳銃で刃に滑らせるように魔力弾を撃ち込んで速度を落とさせ、右の拳銃に展開した魔力刃で受け止める。そして空いた左の拳銃をフェイト向ける。

 

「ッ!」

 

「ショットバレット!」

 

フェイトはすぐに後退したが、アリシアの放った散弾型の魔力弾は数発フェイトを捉えた。

 

「うっ……まだまだ!」

 

《プラズマランサー》

 

「させない!」

 

スフィアを展開し魔力弾を撃つ。それをアリシアは魔力弾を目にも止まらぬ速さで撃ち抜く。アリシアの撃った魔力弾は以前俺がやった質量兵器の銃弾の真似の上位版で、通常の魔力弾を圧縮して開放することで実弾と遜色ない速度で撃てるものだ。もっとも1発作るだけでもかなりの魔力制御能力が必要だが、狙いが付けばまさに一撃必殺の魔力弾となる。寸分たがわずフェイトの魔力弾を撃つ落としているアリシアの努力が窺い知れる。

 

「なら……」

 

《ソニックムーブ》

 

瞬間、フェイトはアリシアの背後を取り魔力弾を撃つが……アリシアは慌てる素振りも見せず一瞬で展開した魔力刃で斬り裂いた。やはりアリシアはフェイトの戦法や魔法を知り尽くしている分、アリシアが優勢だ。アリシアそのまま追撃を仕掛けた時、フェイトの魔力が迸る。

 

《ゲットセット》

 

「ソニック!」

 

《ソニックドライブ》

 

「うわっ⁉︎」

 

急激な魔力の放出で、アリシアは飛ばされるがすぐに立て直す。

 

《ライオットザンバー》

 

バルディッシュの一部がスライドし、リボルバーのカートリッジがロードされる。

 

「ーーやっぱり姉さんはすごいや。いつの間にか前にいたんだね、姉さんは姉だから努力したんじゃない……アリシア・テスタロッサだから。でも、だからこそ……私はーー」

 

そこに立っていたのはバリアジャケットの装甲を極限まで薄くしたフェイトだった。両手には双剣があり柄がワイヤーで繋がれていた。

 

「私は……負けたくない!」

 

フェイトのオーバードライブ……真・ソニックフォーム。小さい頃にもあったからもしやとは思っていたが………やっぱり露出度が高くてあんまり直視できない。この状況で不謹慎だとは思うが……フェイト、もっと恥じらいを持て。

 

「うんうん、いいねいいね〜!私も乗って来たよ〜!フォーチュンドロップ!」

 

《レディー》

 

「チューニング!!」

 

《スタートアップ》

 

対抗するようにアリシアも魔力を解放する。一見すればどこも変わっていないが、両手に指抜きのグローブ、足にはブーツだが表面にうっすらと金属光沢がある。武器は背中と腰に小太刀が合計2本あり両手の小型小銃は大型に変わっている。

 

アリシアのオーバードライブ……ハーモニースタイル。アリシアの戦い方を最大限に生かす形態。

 

「勝つのは私だよ!」

 

「行くよ……姉さん!」

 

《ブリッツアクション》

 

「いいよ……フェイト!」

 

《オーバーロード》

 

「「はああああああっ!」」

 

消えては現れ、消えて現れを繰り返し、その度に双剣でかなりの剣速で攻撃するフェイト。その怒涛の攻撃を流れる風が如く防ぎ、受け流すアリシア。徐々に攻防が激しくなっていきとうとうフェイトは線に変わり、その中でアリシアは2丁拳銃と2刀小太刀を巧みに操り金色の嵐の中を舞い踊る。

 

「はあっ!」

 

「ぐうっ……」

 

フェイトの一閃がアリシアを捉え、弾き飛ばされる。

 

「いつつ、やるねフェイト」

 

「姉さんこそ」

 

「なら私も、全力で……行くよ、フォーチュンドロップ!」

 

《ロジャー》

 

「うん。やるよ……バルディッシュ!」

 

《イエス、サー》

 

フェイトは双剣の魔力を込め、アリシアは2丁拳銃の銃口に魔力刃を展開させて浮かせて両手の小太刀と合わせて合計4刀に魔力を込める。そして2人は駆け出し、交差する瞬間……

 

「ーーそこまで!」

 

「うわっ⁉︎」

 

俺の張り上げたに集中していたなのはが驚いた。

 

内力系活剄・戦声(いくさごえ)

 

空気を震動させる剄のこもった大声を放つ威嚇術だ。

 

それによって2人は我を取り戻し、お互いに纏っていた魔力が霧散するように消えていく。そして、この攻防の間に今日の依頼やグリードとの戦闘などで溜まっていた疲労がこの戦闘の終了と同時にお互いに降りかかってきたのだろうか、フェイトとアリシアも疲れを顔に見せながらデバイスを地面に置き、共に地面に倒れ込む。

 

「はあっ……はあっ……」

 

「……はぁ、はあっ……」

 

主に精神的な疲労が大きいようだ。お互いの手の内は分かりきっていた勝負だ、出し抜くには新しい手札を出すかさらに上に行くかで………この勝負の勝敗は分からなかっただろう。

 

「レ、レン君……これって、どっちが……?」

 

「立会いを引き受けたのに申し訳ないんだが……引き分け、としか言えないな」

 

「ああ、フェイトの方が速く届いたがアリシアも見えて対処していたようだし……」

 

(……!あの一瞬の攻防を目視したのか、通常の肉眼で……?)

 

「あはは……しょうがないか……本音は悔しいけど、取っておいておくかな……レンヤとも白黒つけたいし」

 

「って、なんで俺まで⁉︎」

 

「あはは、アリシアちゃんたら」

 

「………私の、負け」

 

「え……?」

 

突然、フェイトが自分の敗北を宣言した。その声色はどこか悔しいそうにも聞こえた。

 

「姉さんの片方の魔力刃が私の双剣に入りそうじゃなかった。あのまま行ったら胴に入ってた、だから……私の負け……」

 

「そう………分かった、勝利を受け取るよ」

 

「…………あ、レン君、リヴァン君、行こう」

 

「ん?ああ、そうだな。俺達は席を外す」

 

「私は別にいいよ、皆にも知って欲しい………姉さん、いいよね?」

 

「フェイトがいいならそれで構わないよ」

 

「うん……」

 

ゆっくりと起き上がり、自分の相棒のバルディッシュに目を向ける。そして、次第に言葉を漏らし始める

 

「皆はもう知っていると思うけど、私はプロジェクトF.A.T.Eによって生み出されたアリシア・テスタロッサのクローン……それを否定するつもりはないし受け入れているよ。だけど、その過程の罪は……許されることじゃない。管理局に入ってから私は贖罪の為に働いてきた、陰で何を言われようが耐えてきた。でもちゃんと楽しい事もあったよ、レンヤやなのは、はやて、すずか、アリサ、ラーグにソエル、守護騎士達に教えてもらった、もちろん姉さんにも。だから、だからこそ私……自分自身で決着をつけたかった!」

 

俯きながら声を荒げるフェイト。フェイトの事は分かっていたつもりだが……実際何にも分かっていなかった自分が恥ずかしい。

 

「けど、姉さんも私と同じ罪を背負っているって分かって………結局ただの自己満足だと思っちゃったんだ。前にラーグから固有結界の原理は聞いたんだ、自分の心象を具現化するんだって。姉さんの心象が時の庭園………それってつまり姉さんも私と同じだと分かったんだ。苦しんでいると思ってただ逃げるように前だけ見続けていたんだ、そう思っちゃったら……自分がバカバカしくなっちゃって、あんな接し方になっちゃったんだ。やつあたりしちやってごめんね」

 

「アリシアちゃん……」

 

「…………………」

 

今まで胸の内に溜めてきた物を吐き出すように喋るフェイト。

 

「なら、これからは一緒だね」

 

「え……?」

 

「私もフェイトも同じ業を背負ってきた。なら今から一緒だね、もちろんレンヤも」

 

「ああ、そういう約束だからな」

 

「私も!私も協力するからね!」

 

「レンヤ、なのは……ありがとう……!」

 

目に涙を浮かべながら感謝の言葉を言う。今のフェイトの顔はどこかスッキリした感じがする。

 

「さて、これにて一件落着だと思うけど……どうかな、フェイト?」

 

「あ…………うん、いいよ」

 

フェイトはアリシアの手を掴み立ち上がると、こちらを向き武器を構えた。

 

「ちょ、まさか……」

 

なのはと視線を合わせ……頷き。デバイスを起動してバリアジャケットを纏う。

 

「……なるほど。この前の実技テストのリベンジってところか」

 

「うん、尋常にいざ勝負!」

 

「かなり消耗しているから物足りないかもしれないけどね」

 

「ふふ、それでも2人の刃が届きそうだけど……手加減しないよ!」

 

「今の雰囲気からなんでそうなるんだ⁉︎」

 

騒ぐリヴァンを余所にフェイトとアリシアが飛び出してきた。

 

「フェイト、速攻!」

 

「うん!」

 

先の勝負でフェイトは真・ソニックフォームのままで目にも止まらぬ速さで俺達を囲む。

 

「これは、簡単に抜けられないな」

 

「そうだね、でも攻撃してこないよ。一体何を……」

 

パンッ!

 

「きゃっ!」

 

「なのは!」

 

炸裂音が響くとなのはがいきなりよろけた。視線だけ見てみると、肩に銃痕があった。アリシアに撃たれた?フェイトが疾走する中に?事前に作戦を言ってたわけないし念話でも時間が足りない。仲直りするだけでここまでの連携ができるなんて、お互いを信頼してなければできない事だ。

 

「っと……防戦一方か」

 

飛んでくる高速の魔力弾を斬りながら愚痴る。開始早々に苦戦を強いられるとは、一気に化けて出たな。

 

「でも、そう簡単には行かせない!」

 

《デュオストーム》

 

アリシア目掛け魔力斬撃と魔力弾を放つ。だが斬撃はフェイトによってかき消され、魔力弾はアリシアに落とされる。

 

「なら私がーー」

 

なのはが砲撃で突破しようとした瞬間、金色の嵐は止み。すぐにアリシアの方を見ると2人が背中合わせで魔力を練っていた。

 

「来れ、雷鳴ーー」

 

「素は形なき刹那の牙ーー」

 

「「フラッシュケージ!」」

 

2人の上下に魔法陣が展開され、その両方に雷と魔力弾が放たれた。瞬間、俺達の上下に同じ魔法陣が現れ、雷と魔力弾が襲ってきた。

 

「ぐううっ……」

 

「きゃああっ!」

 

雷と魔力弾の猛攻に防御魔法を破られ、バリアジャケットはボロボロになってしまった。

 

「……やったね……」

 

「……うん……」

 

フェイトとアリシアは拳を軽く合わせて勝利を喜びあう。

 

「あははっ……」

 

「ふふっ……」

 

「おーい、手も足も出なかったお2人さん。生きてるかー」

 

「ハアハア……生きているし……ふ、2人共……もう少し……」

 

「はは……何と申しましょうか……極端過ぎるだろ」

 

「大丈夫?」

 

アリシアが回復魔法を掛けながら、ニヤニヤした顔で聞いてくる。

 

「こんの……!はあ、速く帰ろう。レポートもまだだし休みたい」

 

「同感〜……」

 

「ごめんね、レンヤ、なのは、私のワガママに付き合ってもらって」

 

「いいってことよ」

 

「それじゃあ、結界を解除するよ〜」

 

アリシアが上空に手をかざし、ゆっくりと時の庭園は消えて行き……

 

「よお、お前らだったか」

 

「「「「へ?」」」」

 

「あらら」

 

目の前にティーダさんがいて、複数の魔導師に周りを囲まれていた。

 

「結界が張ってあると通報を受けて来てみれば突破できない結界があって、しばらくしたらお前達が……いったい何事だ?」

 

「い、いえその……これにはマントルぶち抜くほどの勢いと深い訳があってですね……」

 

「その……お騒がせするつもりはなかったんです!」

 

「よくある一時の高校生の迷いですよ」

 

「うーん、魔力補給を地脈に任せてたから隠蔽が疎かになっちゃった」

 

「郊外でやるべきだったね」

 

フェイトアリシアはまるで他人事みたいに別の問題を指摘していた。

 

「お前らの所為だろう!もっと責任感を持て!」

 

「今の2人は止められないの……」

 

「……何だろう、この状況」

 

「まあともかく……署までご同行願おうか」

 

そして今日、俺達は人生初めて管理局に連行されたのであった………

 

 


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