魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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75話

 

3日後ーー

 

予告通りに実技テストを受けるためにVII組一同はドームに集まっていた。

 

「さて、楽しい実技テストの時間だ。今回はVII組のメンバーで2対2での模擬戦だ。先鋒は、そうだな………レンヤ、お前だ」

 

「はい」

 

「それじゃあメンバーを1名選べ」

 

「了解です」

 

この中で連携を取れない相手はいない。なので最近接近戦が上手くなってきているなのはを指名した。

 

「よろしくね、レン君」

 

「ああ、お互い頑張ろうな」

 

「よろしい。対戦相手はフェイトとアリシア、お前が務めろ」

 

「はい……!」

 

「わかりました」

 

指名されたことに驚いたのか、それとも相方に驚いたのか、2人共一瞬視線が乱れた。

 

『うーん……ちょっと露骨すぎるような』

 

『だけど、戦術的に2人は相性がいい』

 

『戦闘力では五分五分だな』

 

『お互いの癖や戦法を知り尽くしていますが……』

 

『これは勝敗がわからなくなってきたなぁ』

 

2人はお互いを意識しながら前に出た。

 

「それでは双方、構え」

 

テオ教官の指示で4人がデバイスを起動してバリアジャケットを纏い、武器を構える。

 

「ーー始め!」

 

「レイジングハート!」

 

《イエスマスター、ロッドモード》

 

開始と同時にレイジングハートの形態を変えて、棍の形にし両端が丸くなっており振り抜き易くなっている。

 

「いやああっ!」

 

「ッ……!」

 

横薙ぎに降られた棍を受け止めるフェイト、思った以上に重い一撃に顔を歪める。

 

「フェイト!」

 

アリシアがなのはの足元に魔力弾を撃ちフェイトから離れさせた。なのはが離れて入れ替わるように飛び出し、抜刀してフェイトを弾き飛ばす。

 

「くっ……バルディッシュ!」

 

《プラズマスマッシャー》

 

追撃させまいと魔力弾を撃ち、炸裂させて雷を発生させて追撃を防いだ。

 

「捻糸棍!そこ!」

 

棍に魔力を込めて。薙ぐと同時に発射して巨大な魔力弾をアリシアに放った。

 

《フロウアウェイ》

 

「うわぁ、強烈〜!」

 

丸い障壁を展開して、魔力弾が直撃したら魔力弾に回転がかかり上にそれて別の方向に飛ばされ消えていった。その間になのははアリシアに接近する。

 

「まだまだ!」

 

《ダガーブレード》

 

「やあっ!」

 

アリシアはなのはの攻撃をまともに受けようとはせず、銃口に魔力刃を展開して受け流すか避けている。

 

「せいっ!」

 

「ッ!やあっ!」

 

フェイトは刀による斬撃をザンバーフォームの大剣で防ぐ。本来なら刀に大剣は速度的に相性が悪いが、フェイトは刀身をできるだけ小さくしたり、持ち前のスピードで対処している。

 

「レゾナンスアーク!」

 

《カルテットモード》

 

両手に直剣を持ち、手数でフェイトの速度に対応する。

 

「やっぱり、そう簡単にはレンヤは倒させてもらえないね!」

 

「当然だ!」

 

幾度も斬り結びながらなのはとアリシアの位置を把握する。

 

「そこ!」

 

「……甘いぞ!」

 

意識がそれた事に気付いたのか、攻めて来た。

 

「ーー満月!」

 

1回転して刀を走らせて剣筋に蒼い魔力光を残して、円が全体に広がる。フェイトは難なく避けるが、いつもなら気付くはずのトラップに気付いていない。

 

「今だ!」

 

《ディスタンションスペース》

 

「ッ……⁉︎」

 

あらかじめ設置していた空間歪曲魔法。空間を捻じ曲げる事で方向感覚を狂わることができる。フェイトは飛んで体勢を整えることもできず地面に落ちる。

 

「ぐっ……!」

 

「フェイト!」

 

「スキあり!」

 

アリシアの気がフェイトにそれた瞬間、なのはに間合いを詰められ……

 

「せいせいせい!百烈撃、とりゃあっ!」

 

「きゃあっ!」

 

「姉さ……、きゃあ⁉︎」

 

一瞬で何度も突きを入れて、最後に大振りの一撃を入れて大きく吹き飛ばした。飛ばした方向にフェイトがいて、アリシアは勢いよくフェイトにぶつかった。

 

《ハープンスピア》

 

「………ふう、危なかった」

 

「やったね、レン君!」

 

蒼い魔力光の杭で2人を拘束して、完全に沈黙したのを確認すると一息吐く。

 

「そこまで!勝者ーーレンヤチーム!」

 

そこでテオ教官の宣言によって勝敗が決した。

 

「お前達もなかなかやるようになったな」

 

「ありがとうございます」

 

「ええと、はい」

 

「フェイトとアリシアは……言わなくても判っているか」

 

「……………………はい」

 

「……………(コクン)」

 

お互いを責めることはないが2人共連携ができていない事に落ち込んでいる。次の対戦をするため、武器をしまいすぐに場所を空けた。

 

「それじゃあ、次に行くぞ。同じく2対2の模擬戦で組み合わせはーー」

 

「レンヤ、お疲れ様。あの2人もそろそろ、何とかしてあげたいよね」

 

テオ教官が次の対戦カードを言う中、ツァリが労いの言葉を言われ、そしてツァリも2人のことを心配してたようだ。

 

「ああ、お互いに嫌っているわけじゃないし。あとはきっかけだけなんだが……」

 

「うーん……そうだね」

 

どうにかしようと話している間にも実技テストは進み、全員が終わった所でテオ教官が手を叩き話しをする。

 

「ーー実技テストは以上!次に今週末に行ってもらう実習地を発表する」

 

「来たね」

 

「ふう、今月は……」

 

実習地の場所と班分けが書かれた紙を受け取り、内容に目を通した。

 

 

【7月特別実習】

 

A班:レンヤ、フェイト、アリシア、なのは、ツァリ、リヴァン

(実習地:首都クラナガン)

 

B班:はやて、すずか、アリサ、ユエ、シェルティス

(実習地:首都クラナガン)

 

 

「これって……」

 

「どっちの班もクラナガンが実習先なんですね」

 

「ふむ、2つの班で手分けするという事でしょうか?」

 

「まあ、ものすごく大きな街だから当然ね」

 

「4月と5月の実習先も厳密にはクラナガンの中やしなぁ」

 

「でも……」

 

「「………………………」」

 

なのはがチラリとフェイトとアリシアを見るが、2人共嫌がっている素振りもないからフォローに困る。

 

「コホン、班構成は………まあ、ええんやけど。まさかクラナガンが実習先になるとはなぁ……」

 

「僕のホームグラウンドでもあるんだ。確かリヴァンもそうだったよね?」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

「でもそっか……夏至祭の時にクラナガンにいられるんだ」

 

ツァリはどこか嬉しそうに顔を緩ませる。だが、俺は班分けにちょっとした疑問があった。

 

「ーーテオ教官」

 

「何だい、レンヤ君?」

 

「君付けはやめてください。実習先と班分けには別に不満はないんですが……。先々月の班分けといい、なんかダシに使われてませんか?」

 

「そういえば……」

 

「先月の班分けからレンヤだけ移るパターンだね」

 

「……〜〜〜♪〜〜〜……」

 

テオ教官は誤魔化すように頭に手を組んで、明後日の方向見ながら口笛を吹いた。全員が呆れ顔になるが、俺は問答無用に問い詰める。

 

「ーー口笛吹いて誤魔化さないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月24日ーー

 

俺、ツァリ、リヴァンは先に寮の一階に待ち合わせ時間前に集まっていた。フェイトとアリシアの関係修復についての相談をするためだ。

 

「さてと、一足先に集まったのはいいけど……。正直、何かしてあげられるアイディアが思い浮かばないよね……」

 

「ああ、俺達と違って彼女達はお互い弁えている。先月の実習にしたって良い結果とは言えなかったが、トラブルは無かったからな」

 

「なんとかしてやりたいけど……。これは自分から切り出さないと難しいな。フェイトとアリシアはお互いが大切な家族であるから……大切だからこそ戸惑っているんだ」

 

「うん、そんな感じはするね。嫌っているわけじゃないけどお互い譲り合わないというか……」

 

「……複雑な家庭だとは聞いていたが。そこが関係しているのか?」

 

「それは俺から答えるわけにはいかない。とてもじゃないけど軽々しく言える内容じゃない」

 

「す、済まない……」

 

「ーーお待たせ」

 

ちょうどそこにフェイトが降りてきた。

 

「おはよう、フェイト」

 

「コホン、待ち合わせ時間よりずいぶんと早いじゃないか?」

 

「ーー心配しないで。荒事を起こしつもりはないし、実習にも迷惑をかけない。姉さんとは喧嘩しているわけじゃない」

 

俺達が先に集まってた理由を気付いて聞かないのがある意味フェイトらしいかな。

 

「そう言う事」

 

「おはよう、皆」

 

アリシアとなのはが降りてきた。話しが聞こえていたようで、続けるように同意する。

 

「実習の邪魔はしないから安心して」

 

「そうか……」

 

「うーん、その辺りについては全然心配してないけど……」

 

「……ともかく駅に向かおう。B班も先に出たはずだ」

 

「うん、行こうか」

 

寮を出て駅に向かった。駅に入ると既にB班がいた。

 

「あ、来たわね」

 

「おはよう、皆」

 

「もう出発できますか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「それじゃあ、さっそく端末に入金しておくか」

 

「すぐ近くだしお金はあんまりかからなそうだね」

 

慣れた手付きで入金を済ませて、B班と一緒にホームに入った。先月と同じように連絡橋を渡った時にレールウェイが来るアナウンスが流れた。

 

「さっそく来たね」

 

「タイミングが良かったね」

 

「うーん、何度もクラナガンには行っているけど実習となると結構新鮮に思うわね」

 

「そうだね、形が違うだけでこうも変わるんだね」

 

「やることはいつもと一緒だ。そう気を張ることもないぞ」

 

「レンヤ達にはあんまりクラナガンの説明は必要ないかな?」

 

「できればお願いします。知識だけでは判らない部分もありますし」

 

「そうやなぁ、改めて知りたいから説明は必要や」

 

その後来たレールウェイに乗り込み。レールウェイはクラナガンに向かって走り出した。ボックス席に座って、さっそく地元民のツァリがクラナガンについての説明を始めた。

 

「それじゃあ簡単に説明するよ。基本区画は中央区画とその周囲の東西南北の5地域に大別されていて、されらに区画内で幾つもの街区に分けられているんだ。今回は中央区画が実習地になるね。人口はクラナガンだけだと80万人を軽く超えるくらいだよ」

 

「80万……想像も付きませんね」

 

「このミッドチルダでの最大規模の都市だしね」

 

「近隣諸国のベルカでも30万人……」

 

「それに中央区画に限った話しや。他の4つ合わせたら飛んでもない人数になるで」

 

「ま、それでもミッドは大きいから人口密度は低いし少し郊外に行ったら辺境も多いんだ」

 

「でも、人が多い場所での実習は始めてだから緊張しちゃうな……」

 

「…………………………」

 

………なぜここで空気がおかしくなるんだ。本当にいがみ合っていないか疑問に思うぞ。

 

「そ、そういえば課題をまとめてくれる人や宿泊先も聞いていないね。もしかして、ツァリ君かリヴァン君の実家に泊まるのかな?」

 

「あはは……僕の家はそんなに大きくないし。リヴァンもそんな感じなの?」

 

「いや………それはないな。俺の両親は今別の次元世界で働いていてな、実家には誰もいないはずだ」

 

「テオ教官曰く、駅に着いたら案内人が待っているらしいがな。その案内人が教えてくれるだろう」

 

「そうなんだ……」

 

「全く、毎度のことながら説明不足にも程があるわね」

 

「いつも通りと言っていいのかようわからへんな」

 

今回のレールウェイは快速に乗ったので、30分程でクラナガンの中央ターミナルに到着した。案内人を探すために辺りを見渡すが、テオ教官の言う案内人がい無かった。

 

「ーー時間通りだな」

 

「え……」

 

聞き覚えの声がして前を見ると、オレンジ色の髪をした男性……ティーダさんがいた。

 

「ええっ⁉︎」

 

「あなたは……」

 

「ティーダさん、お久しぶりですね!」

 

「ああ、久しぶりだな。お前達が学院に入って以降めっきり会っていなかったからな。4ヶ月ぶりだろうか」

 

「レンヤ、この方はいったい……」

 

「確か、航空隊の……」

 

「異界対策課と3エース達以外は初めてだな。首都航空隊所属、ティーダ・ランスター1等空尉だ」

 

「ど、どうも」

 

ティーダさんは異界対策課を抜けて以来数々の事件を解決していったが1等空尉以降上がっていない。ティーダさん曰く、今の席が丁度いいんだそうだ。

 

「あれ、もしかして。ティーダさんが今回の特別実習の課題などを……?」

 

「いや、あくまで今日は場所を提供するだけだ。正式な方は………ちょうどいい、来たようだな」

 

その正体を知っているのか、ティーダは振り向くことなくその人物の到着を待つ。そして現れたのは、一人の男性。

 

「ーーやあ、丁度よかったね」

 

「え⁉︎この声は……」

 

ツァリはこの声の人に知っているような反応をする。そこにはメガネをかけた、長い菫色の髪をした男性がこちらに向かって歩いてきていた。男性の後方には秘書らしき女性がいる。

 

「に、兄さん⁉︎」

 

「え……」

 

「この人が⁉︎」

 

「ツァリの兄君ですか」

 

「時空管理局本局所属の一等査察官、ラース・リループ……」

 

「おや、私の事を知っていたのかい?あんまりニュースや記事に乗った覚えがないのだがね」

 

「以前父に聞いた覚えがありましたので。とても優秀な査察官だが……奥が見えない程の腹黒だと」

 

「おやおや、それは失敬。どうも性分なものでね。さて、初対面の方もいるし自己紹介をしておこうか。と言っても、先に彼に言われてしまったんだがね」

 

「す、すみません……」

 

「はは、構わないさ。ラース・リループ査察官だ。よろしくお願いするよ。魔導学院VII組の諸君」

 

その後、ティーダさんの案内を受けて航空部隊が所有しているのブリーフィングルームに案内された。そこで席に座った俺達は改めて今回の実習の内容をラース査察官から聞く事となる。

 

「ーーすまないね、本当なら本局に来てもらう所だったけど。この後別次元世界にある部隊の査察がいきなり入ってしまってね。急遽、ランスター君にこの場を貸してもらったんだ。時間もないし、早速A班とB班の本日の依頼と宿泊場所をーー」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

慌てて声を上げるツァリ。ツァリとしては何の経緯があって自分の兄がこのような事をしているのかがどうにも判らないらしい。席から立ち上がり、ラース査察官に問いただす。

 

「おや、ツァリ。久しぶりに愛しい兄と会ったとはいえ、時と場所は考えてほしいね」

 

「兄さん……、今すぐ本題を言って下さい……!」

 

ツァリは羞恥……というより怒りで震えている。ラース査察官が腹黒なのは確からしい。

 

「コホン、どういった経緯でラース査察官が……?」

 

「はは、すまない。説明してなかったね。実は私もレルム魔導学院の常任理事の一人なのだよ」

 

突然の告白に、俺達は驚愕する。

 

「ええっ⁉︎」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「父さんと同じ……」

 

「シェルティス君のお父さんに続いて……」

 

「……流石に偶然というには苦しすぎる気がするな」

 

「そうやなぁ」

 

「はは、別に我々にしても示し合わせたわけではないが。寧ろ学院からの打診に最初は戸惑わされた方でね」

 

「学院からの打診……?」

 

「やはりⅦ組設立に何かの思惑があるという事ですか?」

 

「いや、それについては私から言うべきではないだろう」

 

思惑がある。いや、あって当然だろう。最も、ラース査察官本人がそれを語るような事では無いのだろうが。

 

「いずれにせよ、3名いる常任理事の1人が私というわけだ。その立場から、実習課題の掲示と宿泊場所の提供をするだけの話さ。そういえば、先月レンヤ君のA班はベルカに行ったはずだが、聞いていないのかな?」

 

「……?もしかして、最後の常任理事ですか?」

 

「聖王教会教会騎士団、第一部隊隊長のソフィー・ソーシェリー。彼女もレルム魔導学院の常任理事の1人だ」

 

「え、えええっ⁉︎」

 

「ま、彼女の性格からして自ら話す事はないと思っていたがね」

 

「そ、そうだね……」

 

「あはは……」

 

心当たりがあるのかアリシアとすずかが納得する。

 

「ともかく、そういうことか」

 

「ーー了解しました。早速お聞かせください」

 

「ああ、時間も無いので手短に説明させてもらおう。特別実習の期間は今日を含めた3日間、最終日が夏至祭の初日に掛かるという日程となっている。その間、A班とB班にはそれぞれ東と西に分かれて実習活動を行なってもらうつもりだ」

 

「東と西……」

 

「ミッドチルダの巨大さを配慮してのことですね」

 

確かに二手の分かれるには妥当な配分だろう。それぞれ担当する街区が異なるということは、逆にこのミッドチルダの首都クラナガンの広さを象徴しているようにすら思える。

 

「知っての通りこのミッドチルダは途方もなく広い。ある程度絞り込まないと動きようがないが、ね」

 

そこで俺を見ないで下さい。確かに異界対策課の活動当初はメチャクチャ走りまわりましたよ。

 

「そこでA班には中央ストリートから東側のエリアに。B班には西側のエリアを中心に活動してもらうことになる」

 

「中央ストリート……」

 

「ミッドを貫く目抜き通りだね」

 

「うん、ここから北に真っ直ぐ続いているんだよ」

 

「かなり大雑把だがそこで分けさせてもらった。それでは各班、受け取りたまえ」

 

確かに大雑把な面は否めないが、分けるには妥当なラインだろう。実習活動場所を指定し、ラース査察官は後ろの女性に目配りし、女性が俺とアリサにそれぞれ封筒を手渡す。

 

「どうぞ」

 

「どうも」

 

「ありがとうございます」

 

女性に依頼が入った封筒と一緒にカードキーとミッドチルダの住所が書かれた紙も手渡された。

 

「こちらの封筒はいつもと同じ実習課題をまとめた物として……」

 

「こちらの住所とカードキーは……?」

 

住所を見てみるとシェルニ通り4-22-41と書かれた紙を見る。B班は同じくミッドチルダの住所が書かれておりマイア通り3-17-16と書かれている。

 

「シェルニ通り……僕の実家がある地区だね。」

 

「え、そうなの?」

 

「この住所にはちょっと見覚えがないけど……」

 

「マイア通りは西の大通りね」

 

「ああ、それなりに賑やかな通りだ」

 

俺は場所は知っているが住所までは判らないので。住所が判らないとはいえツァリに案内させた方が意外と早そうだな。

 

(ん?確か、この住所は………気のせいか)

 

「……兄さん、もしかして?」

 

「それは滞在中の君達の宿泊場所とそのカードキーだ。A班B班、それぞれ用意しているからまずはその住所を探し当ててみたまえ。私からのささやかな課題ということだ」

 

既に特別実習は始まっているという事だろう。と、そこで女性がラース査察官に耳打ちをする。

 

「おっと、そうこうするうちに時間が来てしまったな……」

 

既に時間が残っていない事に気付き、立ち上がる。

 

「に、兄さん?」

 

「先の通り時間がなくてね。悪いけど、今日の所は失礼するよ。それでは実習、頑張ってくれたまえ」

 

「ちょ……!」

 

そう言い残し、ラース査察官はブリーフィングルームから出て行った。

 

「はあ……」

 

「えっと、何というか……」

 

「思ってた以上に黒いわね」

 

「底がかなり深そうだね。泥が溜まっていたりして?」

 

「……本当のことだけど言わないで……」

 

「その……すまん」

 

「えっと、ユニークなお兄さんだね」

 

「フェイト、それフォローになってない」

 

「飄々としとる割には隙を見せへんし……かなりの食わせ者やなぁ」

 

「査察官って言っていたけど、それなりの権力もあるらしいね」

 

「うん。こんな場所を借りられるくらいだし」

 

すずかとなのはがそこを指摘すると、扉の前に立っていたティーダさんが笑顔で答える。

 

「それは……」

 

「ーーラース査察官は中身アレだが腕は確かだ。ウチにも日頃から世話になってもらっているのさ。今回はちょっとした恩返しで協力させてもらったんだ」

 

それは真実かもしれないが、一体何のお世話になったのかは言わなかった。

 

「むむ……」

 

「落ち着けはやて。ティーダさん、場所を提供してありがとうございます。実習を始めたいので、俺達はこれでーー」

 

「ああ、お疲れ様。駅前まで送ろう」

 

ブリーフィングルームから出て駅の出口まで向かい。外に出るとユエがかなり驚いた顔になる。

 

「これは……」

 

街の広さに驚いたのか、それとも人の多さに驚いたのか、はたまた両方か。ユエは初めてここを見た様だ。

 

「ここは相変わらずだな」

 

「ここにいる人達全員だけでも全体の人口の1割もいかないから結構驚きだよね」

 

「でも、これを見るとクラナガンに来たって気になるわ」

 

「そういえば、なにで移動するの?」

 

「ミッドでの主な交通手段はバスだよ。運賃も安いし気軽に使えるんだよね」

 

「それと正面に見えるのが時空管理局地上本部だよ。異界対策課もあそこにあるんだよ」

 

「レンヤ達はあそこで働いているんだね。大変じゃないのか?」

 

「うーん、考えたことないかなぁ。執務官の仕事も大変だけどやり甲斐があるから」

 

「慣れやな、それは。まあ、最近はレンヤ君に車で送り迎えしてもらっておるんやけど……」

 

「レールウェイで帰るより安上がりだからな」

 

「ーーま、そうだな。俺はこれで失礼する。3日間の特別実習、頑張ってこいよ」

 

「ええ!」

 

「まっかせて!」

 

「お見送り、ありがとうございます、ティーダさん」

 

ティーダさんは頷くと、駅に戻って行った。

 

「レンヤ達はティーダ一尉と知り合いだったのか?」

 

「一時期異界対策課にいたのよ。それ以来の縁よ」

 

「初めて会った時は優男だったけどね」

 

「そうなんですか?確かに優しい方ですが、どこか荒々しい感じがしました」

 

「うん、かなりしっかりしていると思ったし」

 

「テオ教官と正反対だね」

 

「ああ!確かに」

 

妙に納得してしまった。

 

「よし……それじゃあ移動するか」

 

「まずはバスに乗って宿泊場所の確認だね」

 

「3日間、お互い頑張ろうな」

 

「そちらこそ、怪我のないように」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん。気を付けてね」

 

「うん、そっちもね」

 

「アリサ達も気を付けて、お互いの実習の成功を」

 

「またね!」

 

「ーーレンヤ君」

 

「ん?」

 

はやてが耳元に近付いて来た。

 

「ホンマ、無理せんといてな。あんな思いは2度とごめんや」

 

「……!わかった、絶対に無事に帰って来る」

 

「ん、よろしい!」

 

チュッ!

 

「え?」

 

「あ」

 

「「「「「ああああああああっ⁉︎」」」」」

 

「ふふ〜、乙女のおまじないや。よう効くで!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってはやてちゃん!」

 

「は〜や〜て〜!」

 

「あ、先に行かないで!」

 

「ふふ、愛されていますねレンヤは。それではまた」

 

はやてを追いかけてアリサ達は行ってしまった。

 

「「「…………………」」」

 

なのは達の無言の視線が痛いです。

 

「全く、羨ましけしからんぞ」

 

「あはは、レンヤはモテモテだね」

 

「俺には遊ばれたように見えるんだが……」

 

「本当に?」

 

「レンヤ、デレデレしている」

 

「してないって」

 

「本当は嬉しかったんでしょう⁉︎」

 

「アリシア、落ち着けって」

 

「「「フンッ!」」」

 

なのは達は怒って先にバス停に向かった。

 

「コホン、俺達も行くとしよう」

 

「……幸先不安だ」

 

おまじないじゃなくて呪いを掛けられた気分だ。なのは達を追いつき、ツァリの案内の元。バスに乗った。

 

「うーん、首都と地方都市の差の技術力の差が凄くないか?」

 

「相変わらずのとんでもない規模だからね」

 

「はは。確かに外から来た人は戸惑うかな?まぁ、ミッドチルダ市民にとったら当たり前の光景なんだけど……リヴァンがそれを不思議がるの?」

 

「え、あ、そうだな。あはは……」

 

時々リヴァンがまるでここに住んでいなかったような事を言うのだが………気のせいか?

 

「そういえばツァリ、宿泊所があるシェルニ通りっていうのはどういった街区なんだ?」

 

「えっと……まぁ割と落ち着いた通りだね。強いて言うなら……うーん、僕の実家があるってぐらい?」

 

「そういやそんな事も言ってたな……っと、そうだ。折角だし、ツァリも家族に顔を出してきた方がいいんじゃないか?」

 

「え?」

 

「そうだね。きっとその方がツァリの家族も喜ぶだろし」

 

「家族、か………」

 

何か思う所があるのかアリシアが考え込む。ともかく会える機会があるなら、会っておくべきだろう。それに家族との再会はツァリも望んでいる筈だろうし。

 

「でも、これは実習中だよ?そんな勝手な……」

 

「私はそれが自然だとは思うよ。会える時に会わないと」

 

「ツァリの家、ちょっと見てみたいかも」

 

「……まぁ、確かに到着場所から近くだとは思うんだけど……父さんと兄さんはともかく、母さんは帰ってるかなぁ?」

 

「ツァリ君のお父さんも管理局員なの?」

 

「ううん、父さんは非魔導師でデバイスの部品製造に携わるっているよ。兄さんもいつも忙しいし家には大体母さんだけかな?」

 

「そうなんだ、大変そうだね」

 

「それなら、ならなおさら顔見せた方がいいだろ?」

 

「……うん、そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

その後シェルニ通りに到着して、ツァリの案内で宿泊所を探す前にツァリの実家へ向かう事となる。家の前に来ると、久しぶりの再開故に少し後ろめたさを感じているのか少し緊張しているようだ。

 

「……はあ、久しぶりだからちょっと緊張しちゃうなあ」

 

「はは、その気持ちわかるぞ」

 

「レン君が無断で家を出た時だね」

 

「なら、早く覚悟を決めてね」

 

「わ、わかっているってば。それじゃあ入ろうか」

 

ツァリは扉を恐る恐る開き家の中へと入っていく。

 

「うわ〜、久しぶり……」

 

久しぶりの我が家。実家の雰囲気を感じ取り、思わず顔が綻ぶツァリ。

 

「ここがツァリの家か……」

 

「思ったより……普通?」

 

「アリシアちゃん、失礼だよ」

 

家具などが並び、落ち着いた雰囲気を見せるその空間に全員が魅入っていると、上の階からのんびりとした声が聞こえてくる。

 

「あら、お客さんかしら?はいはい、ただいま~……」

 

ゆっくりと降りて来たのは鳶色の髪に緑を基調とした衣服を着用した女性。人当たりのいい優しい笑顔を見せながら、女性は客人を出迎える様に口を開く。

 

「ふふ、お待たせしまし……えっーー」

 

(この女性は……)

 

(ツァリによく似ている)

 

その女性は目の前にいる人物を見て、固まる。その視線の先にいたのはツァリ。まさか彼がここにいるとは思わなかった。そう言わんばかりに驚いた表情を見せ思考が固まっていた。

 

「え、えっと……ただいま、母さん」

 

「…………ツァリ?」

 

少し恥ずかしそうに女性を母と呼ぶツァリ。そしてツァリに向かって母は勢いよく跳び付き、愛おしそうに抱き付く。

 

「ツァリ!」

 

「わわっ……!?」

 

「わあ……!」

 

「まあまあ、本当にツァリだわ!まさかこんなに早く会える日が来るなんて……!ああっ、女神様!心から感謝します……!」

 

「ちょ、ちょっと母さん!皆が見てるってば〜!」

 

どうも他の人が見えていないようだ。それほどまでに大事な息子に意識を集中させているということだろう。これ以上の溺愛ぶりを見せる母の様子は流石のツァリも恥ずかしいのだろう、慌ててこの抱擁を止める様に進言する。

 

(はは……随分仲がいいんだな)

 

(……確かに。見ているこっちが羨ましいくらいにだ……本当に、な)

 

(……?リヴァン?)

 

その後、漸く俺達の姿に気付いた彼女はソファに座るように進言し、紅茶を出す。そして自分達の事を自己紹介する。ツァリは恥ずかしい姿を見られたと思っているのか、顔を赤くしている。

 

「ーーツァリの母の、アスフィ・リループです。皆さんには、この子がとてもよくしてもらっているそうで……お会いできてとっても嬉しいわ」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「よく気の回るツァリには何かと助けられています」

 

「ああ、そうだな……」

 

「……リヴァン、もしかして照れている?」

 

「う、うるさいぞアリシア!そんなんじゃ……!」

 

「まあまあ、アスフィさんは美人だし」

 

その後俺達も自己紹介をしていく。その名前を聞き、優しい声でアスフィさんは名前を確認していく。

 

「ふふ、レンヤ君にフェイトさん、リヴァン君にアリシアちゃんになのはさんね。手紙に書いていた通り、いいお友達に恵まれたみたい」

 

「あはは、うん。そういえば母さん、今日はピアノ教室の方はいいの?」

 

「ええ、今日は丁度お休みよ。子ども達も来ていないからタイミングがよかったわね」

 

「へえ、ご自宅でピアノを教えているんですね」

 

「そういえばツァリも吹奏楽部に入っていたな」

 

「もしかして、ご家族揃って音楽を?」

 

母がピアノ、そして息子は吹奏楽部であることを見るに、音楽一家だったりするのだろうか。

 

「えっと……あはは、それほどでもないんだけどね。父さんはともかく、兄さんは見るからに縁のなさそうな人だし」

 

「ふふ、そうね。たまには家族でのんびり演奏会に行きたいけど……。ラースは滅多に帰ってこられないから」

 

「ああ、確かに」

 

ラース査察官の顔を思い出しても第一印象がアレだったんで笑っている顔しか出てこない人だしな。

 

「ま、まあ兄さんの事はいいよ……!あんまり干渉されたくないし……」

 

(…………………)

 

(……やっぱり、何かラース査察官とあるみたいだな)

 

「え、ええっと……変な空気にしちゃったかな?ごめん、あんまり気にしないで」

 

「……ツァリ君がそう言うなら無理には聞かないよ」

 

「ありがとう。あ、そうだ……母さん、この辺りにホテルとかはなかったっけ?手配してもらった場所を探しているんだけど」

 

ふと、ここである事を思い出す。アスフィさんならもしかしたら自分達の宿泊所となっている場所を知っているかもしれない。

 

「ええっ……⁉︎家に泊まっていかないの⁉︎」

 

驚愕の声を上げるアスフィさん。だが、それも当然の事だろう。俺達は休暇等でここに戻ってきているわけではないのだから。あくまでここにいるのは、学院の実習の一環によるものでしかない。

 

「う、うん……一応学院の実習だから。それに、ウチじゃ流石にベッドが足りないでしょ」

 

無論、宿泊場所を提供してくれるのはありがたい。ありがたいがアスフィさんの場合は私情が入り過ぎているのではないか。

 

「で、でも……久しぶりに帰ったのに……くすん、きっとツァリもお母さん離れの年頃なのね。複雑だけど、見守るのがお母さんの役目よね……」

 

(な、なんてオーバーな……)

 

「か、母さんってば……」

 

(どちらかというとお母さんの方がべったりのような……)

 

「でも変ね?この辺りにホテルなんてなかったと思うけど」

 

「え……」

 

「ないんですか?」

 

「もしかして、ラース査察官が住所を間違えたとか?」

 

「秘書の方もいたし、それはないと思うよ」

 

「来る途中もホテル等は見かけなっかったけど……」

 

「ううん、よく分からないけど……その、よかったら住所を教えてもらえるかしら?」

 

「わかりました。これなんですが……」

 

宿泊先の住所の書かれたメモをアスフィさんに渡す。それを見たアスフィさんはある事に気付く。

 

「あっ、この住所は……。最近、改装工事があったところよ」

 

「てことは、今はもう……」

 

「ええ、もう工事は終わっているわ。3階建てのマンション風の家なんだけど、工事が終わって以降誰も使っていないしたまに点検のための従業員が出入りしているのよ」

 

「それで場所は?」

 

「すぐそこよ、家を出て左に通りを沿って歩いたらすぐ着くはずよ。でも、本当ならもっとゆっくりして欲しかったけど……今回は仕方ないわね。でも、もしよかったら滞在中の食事くらいは家で用意させてもらえない?」

 

「あ、いいかもしれないね!皆は、どうかな?」

 

「俺は構わない」

 

「そうだな、折角だし……」

 

「はい、お邪魔させてもらいます」

 

「私も賛成だよ」

 

「私も大丈夫です」

 

「ふふ、よかった。それじゃあ今日の夕食は腕によりをかけて作らせてもらうわね。皆、しっかり頑張ってうんとお腹を減らしてきてね」

 

「ふふ、夏至祭以外にも楽しみが増えたね」

 

「はは……確かに。それじゃあ早速行ってみよう」

 

「うん、分かったよ」

 

席を立ち上がり、アスフィさんに最後に挨拶をしてツァリの案内の下で宿泊場所に向かった。

 

 


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