魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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74話

 

 

ベルカの特別実習を終えて帰って来たはやて達だが、そこにレンヤとアリサは居らず。なのは達B班も事情を聞いて衝撃を隠せず悲しんだが、学生であるがゆえに簡単には会えに行けなかった。3日後にアリサが帰って来て、なのは達は抱き合いながら無事を喜んだ。アリサによるとレンヤは後最低でも4日間の入院と退院後の魔法の使用禁止となるそうだ。

 

それから4日後、レンヤが退院してルキュウの寮に向かうと。全員が玄関にいて、なのはとはやてとアリシアが飛びかかり倒れてしまった事もあったが。VII組全員がレンヤが無事だったことに安堵していた。レンヤは学院に復帰したが魔法訓練は受けられず、当分は安静との事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月中旬ーー

 

ルキュウの街は夏に入り、魔導学院では学生服が夏服に切り替わっていた。こういう所は地球と同じで少し安心したりもした。しかし俺は約一週間以上の勉強の遅れがあってしまい。俺だけ学院のハードなスケジュールに慣れ遅れてしまった。アリサは余裕そうだったが。まだひどく暑くならない日々が続き、この時季ならではの授業も始まっていた。

 

「さて、ウォーミングアップはこれで充分だろ」

 

場所は武練館にある屋内プール。VII組全員が学院指定用の水着を着てテオ教官が行う授業を受けていた。テオ教官の授業は全部訓練だから、知識的な授業はこれが初めてだと思う。

 

「魔導学院におけるこの授業はあくまで軍事水練……。溺れないこと、溺れた人間の救助、蘇生法を学んでもらう。人口呼吸もそうだが……まずはなのはが溺れてそれをーー」

 

「ーーって私が溺れる前提ですか……⁉︎」

 

「そりゃそうだろう、お前泳げないんだし」

 

「うっ……」

 

「ま、せめて静かに浮くくらいは出来るようになっとけ。それと、誰に人口呼吸をしてもらいたいんだ?」

 

「テ、テオ教官っ……!」

 

「あはは……」

 

「くくくく、冗談だ。やり方はキッチリ教える、いざという時は躊躇するなよ。異性だろうが同性だろうがな」

 

さすがに命に関わることなので、真剣な表情で言う。

 

「む……」

 

「当然です」

 

「何と言っても人命に関わることですし」

 

「そのあたり講義が終わったら一度タイムを計るぞ。誰かに手伝ってもらいたいんだが……。ここは水泳部のアリシアにお願いするか」

 

「わかりました」

 

それから飛び込みする前提でタイムが図られた。地球の高校でも飛び込みってあんましないよね、初めてやると不格好になるし。軽く泳いでから横で他の人の泳ぎを見る。

 

「へえ、ユエも結構速いんだね?」

 

「確か、地元の湖で泳いでたらしいからな」

 

「すずかも運動神経いいからさすがに速いわね………それ以上に羨ましいって言うか……」

 

「羨ましい……?」

 

「な、何でもないわよ!ていうか、女の子の水着姿をジロジロ見るんじゃないわよっ!」

 

腕で体を隠しながら、赤面するアリサ。その行動で逆に胸が強調される。

 

「今更恥ずかしがることか?」

 

学校の授業からプールの時に水着の感想言わせるくせに。

 

「あはは、皆スタイルよくて目のやり場に困っちゃうよね。僕以外の男子も……レンヤとか引き締まっているしなぁ」

 

「まあ、昔から父さん直伝の無駄の無い鍛え方をしているからかな?」

 

「赤筋と白筋を平等に鍛えているんだっけ?まあ、結構好みよ///」

 

「え、何て……」

 

「何でもないわよ!ツァリは………うーん。変に鍛えない方がいいわよ?」

 

「えーっ?」

 

確かに筋肉ムッキムキのツァリは………バランスが悪すぎるな。

 

「そういえば、レンヤとアリサは傷の具合はどう?」

 

「大丈夫よ、私はとっくに完治しているわ」

 

「実技テストまでには完治して、魔法の使用も許されるはずだ。体の傷は問題ないし」

 

「リンカーコアに攻撃を受けたんでしょう?本当に大丈夫なの?」

 

「だから大丈夫だって。でも、とっても変な感じだったんだよな。胸を貫いたのに傷が無いなんて」

 

「ーーそういうものだよ、レン君」

 

「うわっ⁉︎」

 

すぐ側をなのはが仰向けで泳いで………流れて来た。なのはは泳げないのでせめて溺れた時に浮かれるように練習している。

 

「リンカーコアから魔力を抜かれる感覚は実際に受けた人じゃないと分からないよ」

 

「あー、確かに」

 

「うーん、分かりたくないような……」

 

ちょうどその時、リヴァン、シェルティス、すずか、はやて、ユエ、フェイトがタイムを計り終えて来たようだ。

 

「まさか同じタイムとは……お前とは何かの縁があるのか?」

 

「僕は別に張り合っているつもりはないし、今のも軽く流しただけだ」

 

「当然だ、俺も全力を出したわけじゃないからな」

 

「あはは……」

 

「やれやれやな」

 

「ふむ、少しばかり泳ぎ足りないですかね」

 

「次は全力で行こうかな?」

 

アリシア以外のタイムを計り終えて、テオ教官がアリシアのタイムを計ろうとした。

 

「アリシアが泳ぐみたいよ」

 

「飛び込む台に立つアリシアちゃん、絵になるわ〜」

 

「さすが水泳部だね」

 

「うん、すごくサマになっているよ」

 

「位置に付いてーー」

 

テオ教官が合図し、アリシアが構えて……

 

「始め!」

 

綺麗なフォームで飛び込み、淀みないクロールでとても速かった。

 

「うわあっ……!」

 

「速い……!」

 

「すごいスピードだ」

 

「やるね」

 

あっという間に反対側に辿り着いた。

 

「ふう……」

 

「お見事です」

 

「……………………」

 

「私もあれだけ……は無理やな」

 

「20秒02ーーさすがにやるな。さて、俺も鈍らない程度に泳ぐとするか。それぞれ任意の相手と組んで勝負するぞ!」

 

テオ教官はまたノリでそんなことを言った。

 

「また、いきなりですね」

 

「はあ……まあ、意図はわからなくもありませんけど……」

 

「まあまあなのはちゃん、こういうのも悪うないで」

 

「うーん、勝負かぁ……」

 

「どうやら勝敗を付けられそうだね?」

 

「いいぜ、かかって来い!」

 

「ならすずか、決着を付けるわよ!」

 

「ええええっ⁉︎」

 

早くも皆が対戦相手を見つける。

 

「俺はそうだな……せっかくだからアリシアに付き合ってもらおうか?」

 

「教官………セクハラです」

 

「何でだよ⁉︎」

 

「冗談です、せっかくですがお断りします」

 

アリシアはフェイトに近付く。俺はアリシアの意図に気付く。

 

「フェイト、お願い出来る?」

 

「姉さん?」

 

「あ……」

 

「フェイトちゃん、アリシアちゃん……」

 

「面白そうだな。そんじゃあ、一組決定だ。俺はそうだな………レンヤ、付き合え」

 

「ええっ……⁉︎」

 

どういう原理でコッチに来たのかは不明だが、相手に不足はなかった。

 

さっそく競争が始まり、次々とプールに飛び込み泳いで行く。

 

「はあはあ……」

 

「さっきより本気なのにまた同着とは……!」

 

「あはは、さすがアリサちゃん」

 

「くっ……すずかの胸がなかったら負けてた。2度悔しい……!」

 

「さ、さすがに疲れたの……」

 

「でもダイエットに効果ありそうやな」

 

その次に俺、テオ教官、ツァリ、ユエで同時に勝負することにした。

 

「ユエ、お手柔らかにね」

 

「ええ、こちらこそ」

 

「さあて、行くとしますか」

 

「よろしくお願いします」

 

「位置についてーー始め!」

 

アリシアの合図で一斉にプールに飛び込んだ。人間いくらやめているテオ教官に勝つ為に、今持てる全力で泳いだ。反対側に手を付き、すぐに横を見ると僅差で何とかテオ教官に勝つことが出来た。

 

「……はあはあ……や、やった……!」

 

「はあはあ………まさか負けるとはな」

 

「フフ……さすがレンヤですね」

 

「……はあはあ……前衛3人と競うのは無理だよ……!」

 

プールから上がる、反対側にいるフェイトとアリシアを見る。どちらも無言で話そうとしない。

 

「え、えっと……2人共、準備ええか?」

 

「うん、問題ないよ」

 

「すぐに始めて」

 

2人が飛び込み台に立つ。お互い対抗心や勝敗のこだわりはないが、どこか噛み合っていないように見える。

 

「位置についてーー始め!」

 

アリサの合図でプールに飛び込みんだ。体格はほぼ同じで、水泳部のアリシアが有利だと思われたが。フェイトもアリシアに劣らぬ速さで並んでいる。

 

「2人共、速い……!」

 

「す、凄い」

 

「おお……」

 

そしてフェイトとアリシアは、ほぼ同時に壁に手を付いた。

 

「うわああ〜っ……!」

 

「今の……どっちが勝ったの⁉︎」

 

「ほとんど同着に見えたけど……」

 

「僅かにアリシアが先でした」

 

「ああ、経験の差だろう」

 

「白熱した勝負やったなぁ……」

 

「なかなかの名勝負だった。出来れば俺も混ざりたかったぜ」

 

「「「「セクハラです」」」」

 

「いや、だから何でだよ⁉︎」

 

声を揃えてテオ教官を貶すなのは達、ノリがいいのか悪いのかよくわからない。

 

「はあはあ………やっぱり姉さんは凄いや」

 

「ふう……フェイトこそ」

 

アリシアはそこで目を閉じて、フェイトに質問した。

 

「フェイト、最近ーー」

 

「先に行っているね」

 

「あ」

 

アリシアが質問する前にフェイトが逃げるように行ってしまった。

 

「…………………」

 

2人の溝は、望まなくして大きく裂けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ本格的に暑くなりそうだな」

 

今日の授業を終えて、今はテオ教官がHRをしている。

 

「夏といえば酒!明日は自由行動日だし、首都で朝から夜まで飲みに行くとしようか」

 

「まあ、別に構いませんけど……」

 

相変わらずと言っていいのか、もはやツッコむ気もなかった。

 

「1人寂しく飲むんですか?」

 

「……まあ、それは置いといて。来週の水曜は実技テストだ、慣れてきたと思うが授業は怠るなよ」

 

「はい、判りました」

 

「ということは来週末に特別実習があるわけね」

 

「そんなに日は経っていないと気がするがな」

 

「「………………」」

 

やはり自覚があるのか、フェイトとアリシアは先月と変わらずだった。

 

「そうなると今年は夏至祭に行けないなぁ」

 

「夏至祭というと……」

 

「6月にミッドチルダ各地で開かれるお祭りだな」

 

「毎年恒例の行事だね」

 

「私達も毎年参加しとってたなぁ。そういえば何で7月やのうて6月なんや?」

 

「あー、俺も前から疑問に持っていたんだ。実際、何でなんだ?」

 

「あなたは一応、教官ですよね?」

 

シェルティス呆れながらため息を付いた。

 

「たしかベルカがミッドチルダに来たのが由来だったと思います……」

 

「ミッドチルダが歓迎の意を表して、それで1カ月遅れで夏至祭が開かれると言われていますね」

 

「へ〜、なるほど」

 

アリシアとすずかの解説にテオ教官がようやく納得する。

 

「そういやラウム教官がそんなこと言ってたっけ……。長くなりそうだから途中で失礼したからな」

 

「気持ちは判らなくもないですが……」

 

「あの先生、歴史講義になるとものすごく話し長くなるからね」

 

「ちょっと、参るくらいに……」

 

「それはともかく、夏バテには気をつけろよ。ま、優秀な管理人が美味い料理を作ってくれるから心配いらないと思うがな。そんじゃあ、HRは以上。リヴァン、挨拶を」

 

「はい。起立ーー礼」

 

テオ教官が教室を出て、しばらく男女別れて雑談をしていたが。フェイトだけ会話に参加してなかった。しばらくしてフェイトは席を立ち、静かに教室を出て行った。

 

「あ、フェイトちゃん……」

 

「…………………」

 

「私、追いかけてみるね」

 

「なら、私も行こか?」

 

「ええ、お願いね」

 

すずかとはやてはフェイトを追いかけて行った。

 

「アリシア、まだ原因はわからないの?」

 

「うん……お母さんとアルフに相談してもわからなくて……」

 

「本当にどうしちゃったんだろう、フェイトちゃん……」

 

その雰囲気に、俺達も意識がそちらに向いてしまった

 

「……相変らずか」

 

「水泳勝負の後でもわかりませんでしたね」

 

「先月の実習も今ひとつだったらしいね」

 

「ああ……結局最後まであんな感じだった。……なあレンヤ。お前で何とかできないか?」

 

「そうだなぁ、喧嘩している訳でもないし……。てか何で俺なんだ?」

 

「レンヤが一番適任ですから」

 

「かなりのお人好しだからね。それに知らない仲でもないでしょう?」

 

「それは、そうだけど……」

 

思い悩んでいると、俯いているツァリが目に入る。

 

「……?ツァリ、どうかしたか?」

 

「……‼︎えっ⁉︎あ、あー……うん。僕もレンヤが適任だと思うよ。リヴァンとシェルティスの仲直りにも一役買ったみたいだし」

 

「な、冗談じゃないわ!」

 

「仲直りなど断じてしてない、訂正をしろ」

 

「あはは、息ピッタリだし」

 

それからツァリが吹奏楽部に行くと言い、他の皆もそれにつられるように部活に行くことになり、教室を出て行った。俺も部活をする為に部室……ではなく学内の池で釣りをした。あ、ザリガニ擬き。

 

適当に釣った後、部長に一言入れて下校した。正門を出ると今まで気にしてなかった蝉の声に気付いた。

 

(蝉か……こっちにもいるんだな。もうミッドチルダの夏が来たか)

 

「ーー帰りですか。レンヤ君」

 

ふと後ろから俺を呼ぶ声が聞こえて、振り返ってみると。同じく帰りなのかモコ教官がいた。

 

「モコ教官……。はい、教官も今お帰りで?」

 

「ええ、明日は異界の調査でして。今日は早めに学校の仕事を切り上げさせてもらいました」

 

「そういえば、明日はすずかが護衛に着いての調査でしたね。比較的安全な異界を選んだと思いますが、身の安全を第一に考えて下さい」

 

「ふふ、ありがとうございます。でも大丈夫です、こう見えて私って結構強いんですよ」

 

腕を上げてガッツポーズをするがまるで迫力がない。だが仮にも魔導学院の教官だし、事実強いのだろう。

 

「……そういえば、先月の実習は大変でしたね」

 

「ベルカでのことですね?」

 

「ええ、レポートは見させてもらいましたが……傷の方はもう大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫です。前例もありますし、何より腕の良い医者もいましたし」

 

「シャマルさんね。管理局でも屈指の治癒魔導師だからね」

 

「はい。それであの少女について何か情報は?」

 

「まだなにも。しかし、巨大な大鳥に乗った少女……。大鳥は少女の使い魔だとしても、少女が使用したアタッチメントは……」

 

「ガントレット。使い魔強化支援システム……爆丸」

 

「少女の背後を考えると不可能ではないです。それにルーテシアちゃんは隠さずバンバン使っていますし、模倣もできる」

 

「………………」

 

「そう落ち込まないで下さい。誰もあなたを責めている訳ではありません。あなたの行動でベルカの人々が救われたのも事実、むしろ誇ってもいいのですよ?」

 

「いえ、一時とはいえ油断してたのは自分ですから」

 

「そうですか。ふう……こういった生徒のフォローは担任がするべきなのですが、彼に任せるのもまた酷というものですか」

 

「彼……テオ教官のことですか?」

 

「ええ、優秀なのは認めますがもう少し自重して欲しいものです。管理局とは無縁とはいえ、魔導学院の教官に着任したからには弁えてもらいたいです……」

 

モコ教官はやや疲れ顏で愚痴を言う。テオ教官の学院の教官を務める前の話しらしいが……

 

「あの、テオ教官って前は何をしていたんですか?」

 

「え、知らなかったの?テオ教官は以前ーー」

 

「おおっと、そこまで」

 

「「!」」

 

いつの間にかモコ教官の横に立っており、人指し指をモコ教官の唇に当ててそれ以上言わせなかった。こんなに近くにいて気付かなかったなんて……やっぱ幾分人間やめているよ、この人。

 

「テオ教官⁉︎」

 

「ッ……!」

 

モコ教官は飛び退きテオ教官から離れる。顔は羞恥で赤くなっていた。

 

「いきなり現れるなんて失礼ですよ」

 

「そりゃあ済まなかった。あんま無用に暴露されたくないんでね」

 

「………分からなくもありません。ですが他に止める方法はあったはずですが?」

 

「女性のお喋りな口を止める方法は知らないものでしてね」

 

「む……」

 

この2人はどういう訳か仲が悪い……というかソリが合わないのだ。基本テオ教官が煽ってモコ教官が突っ掛かる具合だが。

 

「おや〜?テオ教官に、モコ教官?」

 

そこへどこか飄々とした声が聞こえてきた。すると校舎からラウム教官がやって来た。

 

「やべ」

 

「あ」

 

「ラウム教官……」

 

「おお、レンヤ君も一緒でしたか〜。何だか楽しそうですね〜?私もご一緒してもいいでしょうか?」

 

「い、いえ……」

 

「あはは、ちょっと挨拶しただけでして……。ほらレンヤ。ボケっとしてないでさっさと寮に帰るぞっ」

 

「え、ええっと……?」

 

いきなりの2人の変化についていけず困惑する。2人はどこかラウム教官を恐れているような感じだ。

 

「そうだ、ここであったのも何かの縁でしょう〜。これから街の居酒屋で親睦を深めるとしましょうか〜?お2人共結構イケますよね〜?」

 

「い、いえ私は……!」

 

「きょ、今日は他に用事がありまして!」

 

「まあまあ、遠慮しないで〜。そうだ〜、せっかくだからレンヤ君もご一緒しませんか〜?アルコールはダメですけど、それ以外なら奢ってあげますよ〜?」

 

「い、いえ……教官達の親睦を深めるのを邪魔したくありませんし……。俺はこれで失礼します。ファリンさんに教官の分はいらないと言っておきますから」

 

「あ、ちょ……!」

 

背を向けて出来るだけ早足でこの場から逃………去って行った。

 

「こんの薄情者め〜‼︎」

 

「あら残念、それじゃあ私達も行きましょうか〜……」

 

「いえ、私は本当に明日は大事な日でして……」

 

ラウム教官は実は結構押しに来ることを、俺は知ったのであった。これがもし歴史関係だったなら………教官達が恐れる理由がわかった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月の生徒会からの依頼はアリシアに任せて、俺は最終検査の為に本局にいるシャマルの元にいる。

 

「うーん……。うん、経過良好ね。これなら来週の実技テストに参加を許可できるわ」

 

「ありがとうございます、シャマル」

 

検査を終えて上を着ながら、シャマルにお礼を言う。

 

「いいわよお礼なんて。それよりもはやてちゃんの事を聞いてもいい?毎日画面越しでも会っているけど、レンヤ君の意見も聞いておきたいの」

 

「俺やなのは達はもちろんのこと、クラスの男子達共仲はいいですよ。まあ、はやての性格で仲がこじれることはないですけどね」

 

「そう、それはよかったわ」

 

「はい。後は部活の……」

 

言いかけて思い出した。はやての入っている部活……文芸部の部長は……その、腐っているとかで愚痴を言っていたな。部員もその部長とはやてだけらしいし。

 

「部活がどうかしたの?」

 

「えっと……。部活での活動をそろそろ無限書庫に移したいと愚痴ってましたよ。学院の図書館の本を読む終えそうだと言って」

 

「まあ、はやてちゃんらしいわ」

 

「全くですね。あはは〜………はあ」

 

なんとか誤魔化せた。

 

「レンヤ君はこれから異界対策課に行くの?」

 

「はい、その後襲撃者の詳細な情報をお偉いさん方に提出しないと行けませんし。相変らず忙しい毎日ですよ」

 

「本当に大変そうね……そうだ!もしよかったら仕事終わった後に私達の家に来ない?ちょっとした息抜きに」

 

「家?そういえばコッチに新居を構えていましたっけ?確かクラナガンから郊外の南側、静かで海が見える高台にでしたっけ?」

 

「ええ、1カ月前に地球から引っ越して来たんだけど今月まで結構慌ただしかったからね。それにはやてちゃんも含めて他の皆も早めに帰って来る予定だから。久しぶりに一家揃っての休日になるの」

 

「それなら俺が来ていいんですか?せっかくの家族水入らずの休日に」

 

「知らない仲でもないし、皆も喜ぶわよ」

 

「ううん……。なら、お言葉に甘えて」

 

「ええ、お茶を用意して待っているわ」

 

……できればリンスに淹れて欲しいです。

 

それから異界対策課に向かい、入るとルーテシアが妙に燃えているのが目に入った。

 

「うおおおおっ!待っていなさいよ、レンヤさんの仇は私とガリューがーー」

 

「勝手に殺すな」

 

「ふきゃんっ⁉︎」

 

暴走している馬鹿者にチョップを入れて黙らせた。

 

「それで何だ?まさか仇を取ると言っておきながらそいつに対抗心を燃やしていたとか?」

 

「まさしくその通りだよ」

 

すずかが配膳室からお茶を持ってきながら出てきた。

 

「初めて同じ物を手にした相手がいて戦ってみたいんだよ」

 

「随分と不謹慎だなぁ。相手は犯罪者だぞ」

 

「うっ……、それだけじゃないんだからね!バトルギアの実用も先を越されたし……!」

 

「バトルギアって鳥に付いたあれか?」

 

「うん、その使い魔の生態組織で作った鎧を身に纏うような物だよ。使い魔を強化するだけじゃなくてゲートカード上以外でも行動可能にするの」

 

「そうか。まあ、情報漏洩でもなんでもコッチは抜かされたということか」

 

「ううう〜!悔しいよ〜!こうなったら昨日完成したガリューのバトルギアで……!」

 

「やめろ馬鹿者」

 

「あう⁉︎」

 

再び脳天にチョップして黙らせた。

 

「とりあえず仕事するか。あらかた書類をさばいたらちょっくら地上に行くから、後のことはよろしくな」

 

「病み上がりなんだから無理しないでね」

 

「わかっている。ルーテシアも早く巡回に行ってこいよ」

 

「は〜い」

 

それから仕事に没頭して、なんとか昼前までに終わらせることができ。すずかに一言入れてから異界対策課を出て、地上本部で報告兼会議もスムーズに進んだ、それでも夕方前だが。少しやすんでからシャマルに連絡を入れた後、ミッドチルダでのはやての家に向かった。

 

「あれ?ここって……」

 

向かう途中の浜辺の道に見覚えがあった。ここは確か未来でアリシアと来た浜辺だ。ザフィーラが家の近くで教えているとは思わなかったけど、そういえばミウラは今何歳だろうか?えーと………5歳位かな?会うのは7年後か。

 

そんな風に頭を使っていると、いつの間にか到着した。地球の方も大きかったが、こっちもかなり大きめの家だな。ただバリアフリーが少ないだけだ。インターホンを押したらすぐに扉が開いて、子供サイズのリィンが出てきた。

 

「レンヤさん、お久しぶりですぅ!」

 

「久しぶり、リィン。元気してたか?」

 

「リィンは風邪とは無縁何です!」

 

リィンが胸を張って誇らしげに言う。その後家に案内されて、皆がいるリビングに入った。

 

「レンヤ君、いらっしゃい」

 

「誘ってくれてありがとう、シャマル」

 

「ようレンヤ、久しぶりだなぁ」

 

ヴィータがラフな格好でアイスを食べていた。

 

「久しぶり、ヴィータ。相変らず見た目と言動が合っていないな」

 

「ほっとけ」

 

「よく来た、お前達の活躍は聞き及んでいるぞ」

 

「リンス。あんま持ち上げられると困るんだが」

 

「それだけ有名になったということだ。我ら夜天の騎士も今は昔なのだ」

 

「あんまり自分達を卑下にするなザフィーラ」

 

「ふ、そうだな」

 

「はやてとシグナムはまだなのか?」

 

「一緒に帰って来るそうだ。それまで待っていよう、茶は用意した。好きにくつろいでくれ」

 

リンスがお茶を入れたことに一安心して、リィンからお茶が入ったコップを受け取った。しばらくして、はやてとシグナムが帰って来た。

 

「ただいま〜。皆、元気しとったか?」

 

「おかえり、はやて!」

 

「遅かったけど、何かあったの?」

 

「少し道が混んでいたのだ」

 

「はやてちゃん!」

 

「おお⁉︎リィン、あんま飛び込んでーー」

 

そこではやては言い止めてしまった。視線は俺を見ている。

 

「あ、はやて。お邪魔してる」

 

「レ、レレ、レンヤ君⁉︎何でここに⁉︎」

 

「私が呼んだのよ。せっかくだからレンヤ君も一緒にどう?って」

 

「やっぱりお邪魔だったか?家族水入らずだし……」

 

「え!いや、そんなことあらへん!ゆっくりしてきい!」

 

「お、おう」

 

「……ああでも、私変じゃなあらへんよな?臭くないんよな、今からでもシャワーに……」

 

「はいはい、はやてちゃん。変じゃない無いから大丈夫よ」

 

「え、そうなん?」

 

シャマルがどこかに行っていたはやてを呼び戻して。それから夕食を食べることになり、久しぶりにはやての手料理を食べた。食後はゆったり雑談してたりして、はやて達と思い思いに過ごした。でも明日も学院があるので日が落ちた後、家を出ることにした。

 

「リンス、リィン、皆の食事をよろしく頼んだで」

 

「お任せください」

 

「頑張るですぅ!」

 

「アタシらもシャマルが手ぇ出さないように見張っているから安心しろ」

 

「そこは手伝わせてわもらえないの⁉︎」

 

「それが一番安全だからな」

 

「あはは……」

 

「ううっ、皆酷い……」

 

「主はやて、道中お気を付けて」

 

「それじゃあな、皆」

 

シグナム達と別れ家を出て、浜辺沿いに歩いていた時……

 

「ん?」

 

「レンヤ君、どないしたん?」

 

「いや、すぐそばの浅瀬にうっすらとだけど結界が貼ってあるんだ」

 

「結界?シャマルでも気付かへん結界を一体誰が……」

 

浜辺に入って近寄ってみるてようやくハッキリと存在が検知できた。

 

「かなり強硬にできとるなぁ、壊すのは無理やで」

 

「なら通り抜けるか」

 

「え?」

 

はやての手を掴み、もう片方の手で結界に手を当てて結界と同調する。するとゆっくり手が結界の中に入って行く。

 

「レ、レンヤ君⁉︎」

 

「大丈夫だ、行くぞ」

 

「ッ………!」

 

結界の中に入いり、光が収まってきて目を開いたら……

 

「え、ええええええっ⁉︎」

 

結界の中はまるで別の世界だった。もう陽が沈んだはずなのに真上には陽があり、目の前には山中にあると思われる遺跡のような建物があった。緑溢れる場所で、どこか懐かしいような温かな感じがする。

 

「結界内の風景を変えておる、これってまさか……」

 

「ああ……。時の庭園、アリシアの固有結界だ」

 

「なら、早くアリシアちゃんを探さへんとな」

 

アリシアを探しに付近を捜索すると、あっさり見つかった。大きい建物の横にある丘の上の大きな木の下。その下に体育座りで顔を伏せて座っていた。

 

「アリシア」

 

「ッ……⁉︎レンヤ、はやて……驚かせないでよ」

 

アリシアは驚いて顔を上げて俺達だと認識するとまた伏せてしまった。

 

「いくら手練れが近付かないと気付かないからって、緊急時以外の結界の使用は褒められたもんじゃ無いぞ」

 

「……知ってる」

 

「アリシアちゃん、ほんまどないしたんや?」

 

はやても心配して問いかけてみるがアリシアは無反応だった。お手上げだとはやては肩を落とし、辺りを見渡してみるとどこか前に来た時の庭園と類似していたのに気付く。

 

「ここは時の庭園か?前のと全く違うけど」

 

「もしかして飛び立つ前の時の庭園かもしれへんなぁ。周りもそこはかとなくアルトセイムに似とるし」

 

「………………」

 

話題を振ってみてもアリシアは変わらずだった。頭を掻いて悩み、直球で聞いてみた。

 

「時の庭園がフェイトとの確執の原因と思ったのか?」

 

「ッ……!」

 

「ちょっ、レンヤ君⁉︎」

 

「いや、時の庭園はきっかけに過ぎない。フェイトはアリシアの心象が時の庭園であることに………。アリシアにも罪の意識があることに気付いたんだと思う」

 

「え⁉︎もしかして、それが?」

 

「ああ、お互いが罪の罪悪感に苦しみ続けているんだろう。推測だがな」

 

「…………うん、そうかな」

 

アリシアがようやく口を開き、顔を上げて木を見上げた。

 

「フェイトのために頑張って来たけど……。こんな結界作る時点で自分でも自覚しない内に引き摺っていたんだね。はあ〜、お姉ちゃん失格だなぁ……」

 

目を閉じて、後悔するようにつぶやく。そんなアリシアの心境を現すように空に雲がかかりだした。

 

「アリシアちゃん……」

 

「はあ〜……すーーー……」

 

落ち込んでいると思いきやいきなり息を吸い始め……

 

「あーーーーーーーっ!やめやめ!」

 

吹っ切れるよう………とういうよりやけっぱちになって叫んだ。

 

「こんな所で落ち込んでも仕方ないし何より、私じゃない!帰るよ、レンヤ、はやて!」

 

「「………………ぷ、あはははははは!」」

 

アリシアは飛び上がるように立ち上がり、ズカズカと進んで行く。俺とはやては顔を見合わせて……気にしていたことがバカらしくなり笑いあった。

 

「はは……やっぱりアリシアちゃんやな」

 

「あはは、そうだな」

 

「2人共何やっているの!早くしないと結界消して海に落とすよ!」

 

怒るアリシアに駆け寄るのであった。

 

 


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