魔法少女リリカルなのは 軌跡を探して   作:にこにこみ

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73話

 

 

教会に戻った俺達はまずはやてを治療室に連れて行った後、ソフィーさんに今回の実習と先程の事件についての報告をした。

 

「ふむ………。分かった、この後私も現地に向かう。 その結果次第で明日、お前達に任せるかもしれない。万全の状態で備えておけ」

 

「了解です」

 

「分かったわ」

 

「それではまたな、今日は大人しくしてろよ」

 

「は、は〜い……」

 

昨日の事を根に持っているのか、鋭い眼光で注意を促しきた。頼れる人だけどやっぱり怖いな。ソフィーさんを見送った後、はやてと合流して夕食を食べようと食堂に向かったのだが……

 

「何の騒ぎなんや?」

 

「うーん、何かの行事はなかったと思うけど……」

 

食堂の方向がかなり騒がしいのだ。一応、教会の食堂なので騎士や修道士がいて、彼らが騒ぐことなんて思えない。とりあえず食堂に入ってみる。すると全員かが一斉にこちらを向いて、笑顔で近付いて来た。

 

「来ましたね。さあさあこちらへどうぞ!」

 

「ちょ、ちょっと!何の騒ぎなんだ⁉︎」

 

「それはもちろん宴会ですよ。陛下をおもてなししないなんてベルカの騎士の恥ですよ」

 

「今回は実習の名目で来てると連絡したはずだ!今の俺はただの一学生であってだなーー」

 

「まあまあ、細かいことは気にしないで下さい。もう開いてしまいましたし、ただのパーティーだと思って下さい」

 

「いやだからーー」

 

「いいじゃない、ここは乗っておきましょう」

 

「せっかくやから楽しまなきゃ損やで」

 

「ただ飯食べられると思えばいいと思うよ」

 

「さ、さすがにそれは失礼じゃないかな……」

 

アリサ、はやて、シェルティス、すずかが連れられて行ってしまった。

 

「ふふ、慕われているのですね、レンヤは」

 

「ふう、全く。そうかもしれないな」

 

「お二人共!突っ立っていないで来てください!」

 

カリムに引っ張られてテーブルに座らされて飲み物を持たされる。そこで何故か静かになっているのに疑問に思うと、全員が俺を見ていて。何かを待っている感じの目で見られていた。つまりはあれか?最初の乾杯をやれと?

 

「コホン。えっと、乾杯?」

 

『乾杯‼︎』

 

遠慮がちにコップを上げて言うと、全員待ってましたが如く大声で叫んで騒ぎ出した。さすがに酒はないがそれでも全員かなり食べたり飲んだりした。無礼講よろしく……というよりいつものノリで騎士団の皆と騒ぎあった。しばらく経った後に熱気を冷ますためにこっそり出て行き、噴水前で一息つく。

 

「ふう………」

 

久しぶりのパーティーみたいなものだから思いのほか気疲れしてしまった。ふと、空を見上げると……7年前に見た空だった。あれから月日は流れていったが今見ているのは何も変わっていない。こんな平穏が大切で、何時までも続くのなら……

 

「ッ…………」

 

考ええていた事を頭を振って払い、噴水に顔を突っ込み頭を冷やす。顔を上げて水面に映った自分の顔は………金髪で紅と翠の瞳をしていた。

 

「はあ………」

 

「また悩みごと?」

 

後ろに振り向くとすずかがいた。俺がいないことに気付いて探しに来たのかもしれない。

 

「悩み……って程でもないかな。ただ、迷っているだけだから」

 

「もう、いつもそうやって1人で背負い込もうとして。矛盾している上に心配するんだからね」

 

「ごめんごめん」

 

謝りながら空を見上げ、乱れた心を落ち着かせて元に姿に戻った。

 

「今出来ることを精一杯やるしかないな」

 

「うん!皆が心配していると思うから、戻ろう」

 

すずかに手を引かれて立たされて、食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで奴の足足取りは掴めたのか?」

 

深夜過ぎ、ソフィーは森の入り口で調査員と巨大生物の捜索を今もなお続けていた。

 

「どうもいま現在の森の状態が不安定でして、サーチャーを飛ばしても送られる映像がノイズだらけです」

 

「ふむ………明日の実習に組み入れるのは控えた方がいいかもしれない。現状維持を優先しつつ騎士団で一旦調査に向かうべきだな」

 

巨大生物の情報が得られない以上、レンヤ達に任せることは出来ないと判断した。ソフィーは森を睨みつけて、何かを感じ取ろうとする。

 

(この感じ、グリードか。最悪私が出張る羽目になるそうだ)

 

「ソフィーさん、どうかしましたか?」

 

「ん?いや、何でもない。ただ感じがグリードの気がしただけだ」

 

「なら、異界対策課に任せましょう。私は奥にも警報用サーチャーを設置して行きますので」

 

「同行します」

 

調査員はそう言い残し、騎士と一緒に森に入って行った。ソフィーは端末を取り出し資料に目を通した。

 

「後一年か………。夕闇め、面倒な事をしたものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今日は自分で起床して朝食を食べた後。カリムがソフィーさんから預かっていた封筒を貰い、封筒を開けて内容を見た。

 

「………巨大生物関連の依頼はないようだけど、まだ調査中なのか?」

 

「はい………森の中の状況があまり芳しくなく、騎士団長は詳しくお調べになられてから依頼として皆さんに協力させていただきますが。間に合わない、またはグリード以外の可能性も捨て切れません」

 

「まあ、妥当な判断だな」

 

「ソフィーさんは今も森に?」

 

「今しがた数名の騎士と共に、結果待ちという訳です」

 

「なら私達はコッチからやね」

 

はやてが封筒を軽く叩きながら意識を切り替えさせる。

 

「私達は、私達にしか出来ない事を優先しよう」

 

「ええ、気持ちを切り替えて行きましょう」

 

「それでは失礼します」

 

「はい、実習の成功を心から願っています」

 

カリムと別れて、少し気にもなるが予定通り実習を開始した。グリードの討伐系はなく、比較的採取やお手伝いの依頼をこなしていく。そして最後の依頼がある孤児院に向かった。孤児院に入ると子ども達が一斉にこちらを向き、笑顔で駆け寄って来た。

 

「レンヤさんだ!」

 

「久しぶり!」

 

「皆ダメだよ!ちゃんと陛下って言わなきゃ!」

 

数名飛び込んできて、優しく受け止める。

 

「久しぶりだな皆。元気にしてたか?」

 

「元気にしてたよ!」

 

「アリサ姉ちゃん!剣を教えてくれよ!」

 

「もっと大きくなったら考えてあげるわ」

 

「すずかさん、これどうかな?」

 

「ふふ、とても素敵よ」

 

「すずかさん、一緒に遊ぼう!」

 

「ごめんね、今日はお仕事で来ているからまた今度ね」

 

俺達4人が子ども達に囲まれている光景を、3人は静かに見ていた。

 

「話しに聞いとったけど、レンヤ君達って子どもに好かれるんやなぁ」

 

「皆さんは元々お優しいですから、当然かもしれません」

 

「偶然なのか仕組まれたのかは知らないけど、ソフィーさんにはお礼を言わないとね」

 

その時、施設から1人の二十代のシスターが出てきた。

 

「シスターオーパ。お久しぶりです」

 

「はい、陛下もお元気そうでなによりです。今日は実習でいらっしゃったんですね、どうぞ中に」

 

子ども達を離して、孤児院の応接室に向かった。

 

「ここは聖王教会の系列の施設なのか?」

 

「ああ、元々あったのを俺が資金援助し、管理を任されている」

 

「と言っても、1人でやろうとしようとしたのを止めたんだけどね。資金援助も私、すずか、アリシア、そしてレンヤで4分割しているし」

 

結局アリサに説得されたんだけど。俺はただ、昔の自分のような子を作りたくないだけ。ま、皆とてもいい子だから杞憂だったけどな。

 

「それでも素晴らしい、やはりレンヤは王の器があるようですね」

 

「そんなんじゃないさ。ただ貯まっていく使い道のないお金を出して、子ども達の幸せを願っているだけだ」

 

「ふふ、本当に自分に優しく、素直になればいいのに」

 

「相も変わらずやなぁ、レンヤ君は。もはや病気の領域やな」

 

「ああ、言えてる!」

 

「皆さん、着きましたよ。どうぞ中へ」

 

「すみません、お騒がせしてしまって」

 

「いいえ、陛下が変わってくれて一安心しました」

 

シスターオーパの言葉に疑問に思う。

 

「以前の陛下なら無理にでも1人でやろうとしていましたので。子ども達もそれに気が付いて遠慮がちでしたし」

 

そう言えばアリサ達に頼る前は結構、根を詰めていたからな。子どもはそう言うのには機敏だからな。

 

それから、シスターオーパからの依頼は………昼までの孤児院のお手伝い。他の依頼を優先した理由である。それぞれ役割分担をして実習に当たった。元から慣れている異界対策課の3人は慣れているもんだが、残りの3人……特にはやてはからかわれやすく、よく子ども達を追いかけていた。ユエは小さな子どもの指導もしており問題はなく、シェルティスも最初はたどたどしかったが今は慣れて自然体でいる。

 

正午まで孤児院で実習を行い、お昼に誘われたがさすがに遠慮して。午後の依頼を受け取るために教会に戻ることにした。

 

「はあ、疲れた〜」

 

「はやてちゃんは子どもから遊ばれやすいからね」

 

「どこはかとなく親近感を覚えるのでしょう」

 

「たぬきなのが子ども達には丸分かりなのかもな」

 

「たぬき言うな!」

 

それから聖王教会に着くと、どこか騎士とシスター達が慌ただしくしていた。

 

「騒がしいわね」

 

「何かあったのかな?」

 

「ちょっと聞いてみるよ」

 

シェルティスが状況を聞くために近くの騎士に話しを聞きに行った。シェルティスは騎士に話しかけ、すぐに戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「昨日の巨大生物が発見されたんだけど、どうやら2体いたらしいんだ」

 

「2体⁉︎それ以外に情報は?」

 

「2体とも同種でグリードらしい」

 

「なら俺達の出番だ、場所は森でいいんだな?」

 

「多分、詳しい情報はないけど」

 

「ソフィーさん達が心配です。早く行きましょう」

 

グリードの有無を確認と騎士団の確認のために森に向かった。森の入り口に着いたが騎士団はいなく、地面に無数の足跡が森に入って行っていた。

 

「どうやら奥のようね」

 

「危険な状況かもしれない。すぐに行こう」

 

「了解した」

 

俺達は薄暗い森に入って行った。足跡を辿り進んで行くと、開けた場所に出たが……

 

「木が……枯れている?」

 

「いや違う。燃やされたように焦げている」

 

「でも火が使われた痕跡はないわよ」

 

「大きさも不自然やな。砲撃のように直線やのうて楕円形……」

 

「騎士団も見当たらない、一体どこへ」

 

「ここで戦闘があった事は間違いなさそうだけど」

 

木の焦げ以外の痕跡が見当たらない。ここで何が起こったんだ?騎士団に中にこんな事を出来る人はいないしする人もいない。それならグリードの仕業になるのだが、証言通りなら2体同種……つまり10メートルの巨体のグリードが付近にいるはずなのだが、姿形もないし足跡もない。

 

「通信状態も安定しなくて連絡もつかないよ」

 

「付近を捜索しよう、何かあったら魔力弾を上空に撃って炸裂させること」

 

「うん、分かったよ」

 

「グリードがいたら手を出すんじゃないわよ」

 

「そこまで命知らずやあらへん」

 

「それでは後ほど」

 

皆と別れて焼けた場所付近の捜索を開始した。しかし近くには何もなく、奥に進んで行くと川に出た。

 

「少し進み過ぎたな、引き返して……」

 

「陛……下……」

 

引き返えそうとしたら、誰かの声が聞こえ。気配を探ってみると上流の方向に男性騎士が倒れていた。すぐに近寄り安否を確認する、見たところ筋肉が硬直しているから強力な電気を受けた見たいだ。

 

「しっかりしろ、何があった?」

 

「うっ………くあ………」

 

全身を麻痺しており、呼んだだけでも精一杯だったみたいだ。魔力弾を上空に撃ち炸裂させ、しばらくすると全員が集まって来た。すずかが騎士のデバイスに記録が残っていないか確認するも、強力な電流でデバイスが破損しており見ることができなかった。

 

「一旦この人を教会に運ぼう。それにソフィーさんと入れ違いになったのかもしれないし」

 

「そうやな、森の入り口も他にあるやろうし。確認の為に戻ってみよか」

 

「警戒を怠らずに行こう」

 

俺とユエで騎士を抱えて、警戒を他の4人に任せて出口に向かった。途中、何もなく。森を出たらすぐに聖王教会に走った。正面に着くと、数名の人達が負傷しており治療を受けていた。俺は騎士をそばの壁に寄りかからせて近くのシスターに手当をお願いし、ちょうど通りかかった部隊長に話しを聞くことにした。

 

「すみません、状況を教えてくれませんか?」

 

「へ、陛下⁉︎了解しました!」

 

部隊長の話しによると、ソフィーさん率いる第一部隊と第二によるグリードの探索及び討伐が決行された。そしてあの木が焼けた地点でいきなり巨大グリード2体に挟み討ちにされ、両手から放たれた電流で再起不能に。大半が感電による麻痺で動けず、数名が逃れるも結局麻痺。ソフィーさん達隊長達は全身麻痺までは防いだものの硬直まで防げず、2人係で命からがら教会に転移したようだ。

 

「それで2体のグリードの行方は?」

 

「分かりません、現在ソフィー団長が捜索をしておりますが。ソフィー団長も怪我をしていますので……」

 

「………分かったわ、ここから先は私達でなんとかします。あなたは負傷者の手当と捜索の打ち切り通達して下さい」

 

「し、しかし……!」

 

「今動けるのは私達だけです。2体のグリードは必ず別れてが討伐してみせます」

 

全員で顔を見合わせ頷き、教会を飛び出した。入り口前で止まり、情報を整理する。

 

「まず、問題はグリードの攻撃方法、次の襲撃地点、グリードの目的だ」

 

「攻撃方法はあの電撃やな、どうやっているかはサッパリやけど」

 

「おそらく目的もないと思うよ、今まで通り………」

 

「となると問題は次の襲撃地点ね」

 

アリサはディスプレイを展開して、ベルカ周辺の地図とグリードの襲撃地点を表示した。

 

「あの森は東側に山脈が連なっていて東に行けない場所よ。最初の襲撃は南の地点で、次が森の中」

 

「森の中はおそらく違うでしょう。やって来たから襲った風に見えます」

 

「となると、グリードが次に向かうのは南以外だが……」

 

範囲が広すぎてこれ以上絞り込みが難しい。

 

「あ、これは……」

 

「どうかしたか?」

 

シェルティスが何かに気付いた。

 

「最初の襲撃地点は住宅が結構森と近いよね。多分だけど、人を襲うのが目的なら次は……」

 

「ッ……!」

 

シェルティスの仮説が正しいなら。次に向かうのは森に近く、人が多い場所、それは1つだけ………北西にある、あの孤児院だ。

 

「でも、まさか……」

 

「可能性がないわけじゃないよ、行ってみる価値はあると思うよ」

 

「そうやな、問題はいきなり現れたっちゅうことや」

 

「巨体を隠せるということは………光学迷彩や認識阻害をしているかもしれない」

 

「もたもたしている暇はないわ。仮設が正しいなら孤児院が危ないわよ」

 

「悩むより移動が先だ!」

 

俺達は孤児院に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤児院に着くと、何も変わり映えなく。子ども達が元気に遊んでいた。

 

「杞憂………だったのかな?」

 

「例えハズレでも、来た意味はあったわよ」

 

「うん、孤児院の無事が確認出来たんだから」

 

シスターオーパに子ども達の避難をお願いして、森に入り口に来てみた。

 

「捜索を開始しようにも、広過ぎるし時間もない」

 

「そもそも見えないことには……」

 

「とりあえず私達はここから調査してみるわ。レンヤ達は孤児院の避難誘導をお願い」

 

「了解だ、気をつけろよ」

 

レンヤ達、男3人は孤児院に向かって行った。それから数分森を調べたが、何も分からなかった。

 

「ふう、一旦戻ろうか」

 

「ええ、そうね」

 

「これは難敵やなぁ」

 

森に背を向けて、孤児院に向かおうとした時……

 

ズン、ズン……

 

「「「!」」」

 

いきなり右から巨大なグリードが現れた。

 

「なあああっ⁉︎」

 

「そんな⁉︎反応がまるでなかったのに!」

 

「とにかく、手間が省けたわ!」

 

3人はデバイスを起動し、バリアジャケットを纏った。

 

「フレイムアイズ、レンヤ達を!」

 

《了解しました》

 

「……!アリサちゃん、はやてちゃん、後ろにも!」

 

「挟まれてもうた!」

 

アリサ達を挟み、グリードは両手を前に出し。指先が電気を帯び始めた。

 

「これ、ちょいマジヤバかいな?」

 

「いいから走るわよ!」

 

「早く間から逃げないと!」

 

間から逃げようと走るアリサ達。

 

「きゃっ!」

 

「はやてちゃん⁉︎」

 

はやてが足を取られ、転んでしまった。そうしている間にもグリードの電撃が激しくなっている。

 

「はよう行き!私は大丈夫やから」

 

「でも……」

 

「いいからーー」

 

アリサがはやての首根っこを掴み……

 

「行きなさい!」

 

「きゃああああっ⁉︎」

 

投げ飛ばした。

 

「えっと………ナイス馬鹿力!」

 

「魔法で筋力上げているのよ!いいから早く……」

 

バリッ……

 

アリサが言い終わる前に2体のグリードの間に電撃が流れ、アリサの髪が逆立つ。

 

「アリサちゃーー」

 

ガアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

雷が落ちるが如く、轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサから連絡を貰ったレンヤ達は、すぐに現場に向かう途中……

 

ガアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

「ッ………!」

 

「うわっ⁉︎」

 

突然鳴り響いた轟音に身をすくめた。

 

「これは………!」

 

「急ごう、アリサ達が心配だ」

 

デバイスを起動し、バリアジャケットを纏いながら走ると。2体の巨大グリードがおり、2体の間の地面が焦げていた。

 

「あれが今回の騒動の原因!」

 

「……!アリサーー‼︎」

 

グリードから少し離れた所にアリサが倒れていた。

 

「アリサ!アリサ!」

 

「うっ……レ……ン………ヤ?」

 

症状は他の騎士達と同じ麻痺だが。バリアジャケットが焦げており、所々肌が見えていた。かなりの高圧の電撃を受けたようだ。二撃目はとてもじゃないが防ぎきれない。

 

「レンヤ君!」

 

「助けてえな!」

 

すずかとはやての声がする方向を見ると、2体のグリードの間にいて岩で体を拘束されていた。

 

「一旦何がどうなったんだよ!」

 

「それはーー」

 

すずかが言おうとしたら、1体のグリードが電撃を飛ばしてきた。アリサを抱え、安全な距離まで下がった。

 

「やっぱり電撃が攻撃方法みたいだね」

 

「しかし、まさかグリードが人質を取るなんて。かなり不自然ですね」

 

「ああ、だがどうすれば……」

 

《レ……ン…ヤ……様…》

 

「フレイムアイズか、かなり損傷を受けているな。大丈夫か?」

 

《問題……は……あり…ま……せん》

 

ノイズや所々途切れながらも、情報をレゾナンスアークに送られた。

 

「ありがとう、フレイムアイズ」

 

感謝の言葉を言い、送られてきた情報を見る。アリサが電撃を受けた後、グリードが巨大に見合わぬ速さで動き2人を捕まえて拘束し、今の状況になったようだ。

 

《2体のグリードの体からAMFを検出。共鳴で2体の間にも発生しています》

 

《手の打ちようがありませんね。背後からは狙えず、人質もいる。お手上げ一歩手前ですよ》

 

「無闇に近づいたり攻撃したらすずか達が危険です」

 

「どうすれば……」

 

初めての危機に、動揺で頭の中が混乱する。

 

《あの電撃も厄介ですよ。お互いに放電と充電を行っていますから電気のロスが少なく、短い時間でも強力な電撃を打てますし》

 

《ただ、その関係上。あの指先だけがAMFを纏っていません、突破口があるとすればそこです》

 

「簡単に言ってくれる、電撃を放つ以外は拳を握っていて指先が狙いにくいと言うのに……」

 

「作戦としては電撃をどうするか、2体のグリードにどう攻撃し2人を救出するかと言うことだね」

 

「どれも難易度が高い危険な作戦です、慎重にいきませんと……」

 

「…………よし。シェルティスが結晶を数本作ってそれを避雷針として、電撃を放った瞬間俺が2体のグリードの指先を斬る。斬ったのを確認した後ユエが2人の救出、その後戦闘開始だ。一応、2体のグリードの識別名称はツチオニにしておく」

 

今出来る最大限の作戦を2人に伝え、頷いた。

 

「うん、それで行こう」

 

「意義はありません」

 

すぐに持ち場につき、シェルティスは2体の間にゆっくりと近づいて、レンヤは反対側でギアを回し構えていて、ユエはシェルティスの後ろで待機している。

 

2体のツチオニがシェルティスに気がつくと、両手を前に出して指先に電撃が発生する。

 

「うっ………」

 

「信じてるで、レンヤ君」

 

間にいるすずかとはやての恐怖は計り知れないが、それでも2人はレンヤ達を信じた。

 

「剣晶九十三・迫竜爪!」

 

ツチオニの間から合計3つの巨大な結晶が爪のように飛びだし、避雷針の役割をする。次の瞬間……

 

ガアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

「「きゃああああっ!」」

 

電撃が迸り、電撃のほとんどが結晶に流れていく。しかし電撃があまりにも強力で結晶がだんだんと崩れていく。

 

「うっく………もう、保たない……」

 

「充分だ!」

 

レンヤが抜刀の構えを取りながら接近し……

 

「鏡面………送人!」

 

一瞬でレンヤが2人になり、全く同じ動きをして。まるで鏡から出てきたように刀を左手で握る。

 

「「雷噛(らいか)!」」

 

稲妻が疾るが如く剣筋を直角に曲げながら指を1本ずつ斬り落とした。電撃が止んだことを確認して、ユエがすずかとはやてに接近する。

 

「ふううう………はあっ!」

 

ユエの拳が岩を捉え粉々にした。2人には衝撃は伝わっておらず、ユエは2人を抱えて離脱する。

 

「ふう、ギリギリだったな」

 

「皆、助けてくれてほんまおおきに!」

 

「礼は後でいいです。まだやる事は残っています」

 

「うん、早く終わらせよう。アリサちゃんも心配だし」

 

「レンヤの攻撃でAMFは消えた。思う存分戦える!」

 

2体のツチオニと向き直り、レンヤが激励を言う。

 

「魔導学院VII組A班、これより2体の巨大グリード……ツチオニを撃破する!」

 

「「「「おおっ!」」」」

 

グアアアアアアアッ‼︎

 

2体のツチオニが咆哮を合図に飛び出した。すずか、ユエが1体を相手にして、足止めと混戦を防ぐようにし。レンヤ、はやて、シェルティスがもう1体を倒す。

 

「はあああっ!」

 

「行くよ、スノーホワイト!」

 

《はい、すずか様。ファースト、セカンドギア……ドライブ》

 

ユエが千人衝を行い、攻撃と撹乱をして。すずかが足を重点的に狙い動きを制限した。

 

もう1体のツチオニがレンヤに向かって、拳を振り下ろして来た。

 

「速攻で決めるぞ、レゾナンスアーク!」

 

《イエス、マイマジェスティー。サードギア………ドライブ》

 

ギャッリイィィィィッ‼︎

 

ギアを最大出力で回し、刀を抜刀してツチオニに一気に接近して拳を避け。突きの構えを取り……

 

槍雨(そうう)!」

 

ツチオニの足を狙い、雨如く無数の突きを放ち。体勢を崩させる。

 

「デカイけど、何とかしてみようか」

 

《巨大生物相手なんて、どこのゲームですか?》

 

レンヤに続くように走り出して……

 

「剣晶十二・翠晶剣」

 

デバイスの双剣ではなく、翠の結晶で作った双剣でツチオニを斬り。手を離し翠晶剣をツチオニにくっ付ける。

 

「まだまだ!」

 

作っては斬る、作っては斬るを繰り返してツチオニの体中を結晶の剣で埋め尽くした。ツチオニも抵抗しようと暴れるが、結晶が邪魔をして思うように動けなかった。

 

《拘束を確認、いつでも行けます》

 

「翠緑の結晶よ!」

 

シェルティスがツチオニに刺さっている結晶に向かって魔力を放出すると、結晶が大きくなり始めさらにツチオニを拘束する。

 

「ここいらで特訓の成果をみせるで!」

 

はやてが杖を掲げ、ツチオニの上に白銀の魔力光を漂わせる。

 

「集え、審判の一撃、蔓延る罪過に終焉を……」

 

魔力が集まり始め………巨大な槍が形成された。

 

「果てよ語れ………ロンゴミニアド!」

 

一斉に槍が降り注ぎ、槍がツチオニに直撃した瞬間、槍の先端から砲撃が放たれて地面を裂き、大地を揺らす。

 

ツチオニは吼えながら倒れるも、まだ消滅には至らなかった。

 

「よし、ここで一気に……」

 

「……!待て!」

 

止めをさそうとした時、もう1体のツチオニが妨害してきた。

 

「くっ……」

 

「ごめん、皆!」

 

「済まない、抜けられてしまった」

 

すずかとユエが申し訳なさそうな顔で謝る。

 

「大丈夫だ。むしろ手間が省けた」

 

「そうやな、ここは一気に私とレンヤ君の広域魔法でーー」

 

「待って、何かおかしい!」

 

倒れるているツチオニにもう1体のツチオニが近づき、倒れるているツチオニが光出した。

 

「な、何⁉︎」

 

「まさか、取り込もうとしているのですか⁉︎」

 

そのまま光の玉となり、もう1体のツチオニが喰らった。ツチオニが一瞬振動すると、外装が光沢を出していき、指が生えてきた。

 

「パワーアップって所やな」

 

「今度は簡単に刃が通らなそうだ」

 

「でも、倒さなければなりません」

 

「ああ、アリサの分をキッチリ返さないとな!」

 

「うん!」

 

『勝手な事を言うんじゃないわよ』

 

アリサに念話でツッコミを入れられたが、気を取り直してツチオニと向き合う。

 

「はあああっ!」

 

ユエが剄を纏ってフェイトにも劣らないスピードで突撃してツチオニに攻撃する。

 

活剄衝剄混合変化・雷迅

 

デバイスと身体に剄を循環させ、空気との摩擦で剄が周囲に電光を放つ速度で突撃と攻撃を行う技。

 

ツチオニもそのままやられる訳もなく、指先から電撃を周囲に放電する。ユエは難なく避ける。電撃の連射は2体いて成立するので次に放つまで時間がかかるはず。

 

「やはり硬いか」

 

「なら私達が。行くよ、スノーホワイト!」

 

《メテオレイン》

 

すずかがスノーホワイトを足で器用に操り柄を蹴り上げて上空に飛ばし、それを追いかけて回転しながら滞空しているスノーホワイトの柄にオーバーヘッド気味に思いっきりツチオニに向かって蹴り飛ばした。1つの巨大な流星になった紫の槍は真っ直ぐツチオニに向かい、煌めくと無数の槍の星々に変わりツチオニに降り注いだ。

 

しかしこれでもツチオニに装甲は貫けず、がむしゃらに両腕を振り回し始めた。あの巨大が暴れるだけで地面は割れ、大地が揺れる。

 

「これは骨が折れるね」

 

《どうするんですか、シェルティス?》

 

「普通にやってもあの装甲は貫けないし……」

 

シェルティスが剣を振り上げて、空中に空を覆うほどの結晶を生成する。

 

「質量で勝負だ!剣晶一七〇〇・大天漣尖鑓刃(だいてんれんせんけんじん)!」

 

結晶が集まり大きな鏃のような翠の結晶の塊をツチオニにぶつけた。倒れるまでは行かなかったが体の所々にヒビが入っていた。

 

「これでもまだ倒れないのか!」

 

《相当にタフですね、ツチオニ2体分ですから当然と言えば当然です》

 

「こりゃ本腰入れないと………な!」

 

聖王の魔力を解放して、ツチオニに頭上に飛び上がり刀を振り下ろした。

 

ガキンッ!

 

「なっ……⁉︎」

 

ツチオニは顔を上げて噛み付いて刀を受け止められた。

 

「この……!」

 

左手に銃を展開して顔面に魔力弾を撃ち込むが離そうとしなかった。そのまま両腕で俺を掴もうとした瞬間……

 

ドオオオンッ!

「おわっ⁉︎」

 

ツチオニの腹に燃える赤い魔力弾が撃ち込まれた。撃たれた方向を見ると、アリサがキャノンフォルムのフレイムアイズを構えていた。

 

『全く、何やっているのよ』

 

『アリサ⁉︎動けるのか⁉︎』

 

『まだ痺れるけどね、援護射撃くらいは出来るわよ』

 

「でも、あんまり動かんといてな!」

 

はやてがツチオニの後頭部をアガートラムで殴り、ようやく離れられた。

 

「このまま行くでー!アガートラムは2つの顔持つ魔法や!」

 

はやては杖に纏っていた槌状の魔力を鋭い剣状に変えた。

 

「銀の隕石から銀の流星へ………アガートラム!」

 

ツチオニの胴にゆっくり、確実に振り抜き、斬った部分から光がほとばしる。

 

「今だ!バーストモード………イグニッション!」

 

《フルドライブ》

 

レンヤは聖王状態でのフルドライブは初めてだが、時間は掛けられないので出し惜しみはしなかった。

 

想剣(そうけん)水蓮(すいれん)!」

 

斬撃をツチオニに撃ち込むたびに身体中に波紋が流れ広がり破裂し、上空に上げようと斬り上げ……

 

「はあああああっ‼︎」

 

バシュンッ!

 

響かない小さな音だが、魔力運用を利用してツチオニ打ち上げ、レンヤは納刀して飛び上がる。

 

想剣(そうけん)月虹(げっこう)!」

 

交差する瞬間抜刀し、三日月の軌跡を描きツチオニを斬り裂いた。空中で止まり、静かに刀を鞘に納める。

 

「鍔鳴る音は、鎮めの歌声……」

 

(チン)ッ!

 

大きく鍔鳴りを響かせ、ツチオニは光を放ちながら消えていった。

 

「ふう……」

 

《お疲れ様でした。マイマジェスティー》

 

「今日ほど気疲れしたのは久しぶりだな」

 

呼吸を整えて、ようやく一息つく。地上ではアリサが全員に囲まれていた、無茶したからだろう。

 

『レンヤ君、怪我はしてない?』

 

『問題ない。ただ聖王の魔力とフルドライブを併用したからな、ちょっとした気疲れだけだ』

 

『そう、気を付けて降りてきてね』

 

『大丈夫だ。もう終わったーーー』

 

ドスッ!

 

「かはっ⁉︎」

 

『え……』

 

いきなり何かがレンヤの胸を貫いていた。ゆっくり下を見ると何かの爪のようなものがあり、爪の先端に虹色に光る球……リンカーコアがあった。

 

(これって………俺の………)

 

「……ドクターのオーダーです。悪く思わないで下さい」

 

後ろから声がして振り返ると、水色の髪をしたエリオと同じ位の少女が緑色の巨大な鳥の背に乗っていた。

 

「……アビリティー発動」

 

《Ability Card、Set》

 

「……マインドイーター」

 

ピイイイィィ……

 

「ぐ、あああ、あああっ……」

 

レンヤのリンカーコアから光が奪われ、緑鳥が魔力を羽根に吸収している。

 

「う、あ………」

 

《マジェスティー!》

 

魔力を吸い尽くされて、レンヤは気を失い力無く落ちていく。緑鳥の翼はレンヤの魔力光のように虹色に光っている。

 

「レンヤ君!」

 

落ちていくレンヤを飛んできたすずかとはやてが受け止める。

 

「レンヤ君、レンヤ君!」

 

「あんた……レンヤ君に何するんや!」

 

「………………」

 

はやての問いかけに何も答えず、左腕に付いている装置……ガントレットを操作した。

 

《Ready、Sonic Gear》

 

ガントレットの画面から緑色の光が放射され、緑色の小さなパーツが出現し、パーツが組み合わさり円柱型のパーツが作られた。

 

「……バトルギア、セットアップ」

 

少女がそれを掴み緑鳥に向かって投げ、バトルギアが巨大化して緑鳥の背にばつ印型の装置の先端に円がある機械が取り付けられた。

 

「な、なんや⁉︎」

 

「それにあれは……!」

 

驚く2人を他所に少女は淡々とカードをガントレットに入れた。

 

「……バトルギアアビリティー発動、ソニックギア・サイクロトン」

 

緑鳥に取り付けられた4つの円が展開され無数の魔力レーザーが雨の如く降り注いぎ、すずか達の視界を塞いだ。

 

「きゃああああっ!」

 

「く………」

 

レーザーが止んだ頃には、少女も緑鳥の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「う、逃げられちゃった……」

 

「ッ〜〜〜!逃げられたらしかたあらへん、今はレンヤ君の方が優先や!」

 

『すずか、はやて、何があったんだ!』

 

『説明は後、すぐに聖王教会に戻るよ!』

 

2人はレンヤを担ぎ、ユエがアリサを担ぐとすぐさま聖王教会に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖王医療院に運ばれたレンヤとアリサはすぐに治療を受けて、今は2人共眠っている状態だ。アリサは事後経過を見ないとわからず、レンヤはリンカーコアの損傷しており、しばらく入院となった。

 

「レンヤ君の症状は昔のなのはちゃんとフェイトちゃんと同じや、すぐに助けられなかった自分が悔しいいんよ……」

 

「それははやてだけだじゃないよ。もし僕にも飛行魔法の適性があったらと思うと……」

 

「……いえ、例え飛べずともできる事があったはずです。それをただ眺めているなんて……」

 

「皆……」

 

3人共、自責の念で心が苦しんでいた。

 

「済まない、私達騎士団が不甲斐ないばかりにレンヤに傷を負わせてしまった」

 

「はやての気持ちはよくわかります。私も……」

 

ソフィーとカリムも同じ気持ちだった。ソフィーは騎士団がツチオニに襲われて教会に戻った後、すぐにまた森に入っていたようだ。

 

「それで、あの女の子は何者か分かったんか?」

 

「いえ、あれから進展がないわ。情報が少なすぎることもそうですし」

 

「ま、十中八九スカリエッティだと思うがな」

 

「確かに、あのツチオニもスカリエッティの改造グリードだったし」

 

「だけど狙いはレンヤの聖王の魔力でしょう。そう都合よくレンヤが使う訳ない」

 

「アリサの戦闘不能、委員長とはやての捕獲、グリードの強化でレンヤにも余裕がなかったのでしょう」

 

犯人のスカリエッティに怒りなどの様々な感情が行き交う中、ソフィーが手を叩いて場を静めた。

 

「考えてもしょうがない、お前達はもう休め。カリム、教会まで案内しろ」

 

「……はい」

 

「お前達は明日ルキュウに戻ってもらう、事情はこちらで説明しておくからレンヤとアリサを気にするな、私が責任を持って護衛する」

 

「はい……よろしくお願いします」

 

「ご配慮、感謝します……」

 

はやて達は教会に戻り一夜を過ごし、後日。テオ教官がベルカに訪れソフィーから事情を聞き。レンヤはまだ目を覚まさず、アリサは目覚めたがまだ動けなかった。テオ教官に連れられはやて達はレールウェイに乗るが表情は暗く。VII組が開始されて初めての特別実習の失敗となってしまった。

 

 


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